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悪が唸る時、正義は顕現する。
巨大な猫が暴れ回る中、八人の魔法少女(男含む)が現れた。
「魔法少女部の部長として頑張らないとなんだよ♪」
猫野・宮子(
ja0024)は魔法少女部の部長として……否、純粋に好きなので参加者の中でも随一のノリの良さである。いやむしろいっその事魔法少女なら任せて欲しい勢いなのだ。
猫耳尻尾、肉球グローブ、肉球ブーツ装備。そして校章の入った猫ステッキがミラクルドリームエディター(割に字数を食うので以降「MDE」)である。
「猫さんの力を借りて、マジカル♪ 変身にゃ♪」
猫のにゃ〜んという鳴き声が聞こえる。足元にはネコミミと肉球の意匠を持つマークがパステルピンクの光を放ち、徐々に上がってゆく。
光が通り過ぎてゆくごとに猫野の格好が変わってゆく。
赤いレースのあしらわれたピンクの編み上げブーツ、リボンの飾りが特徴のハイウェストスカート、肩のあいたピンクのブラウス。何よりも目に付く大きなネコミミ。
「そこまでにゃ! 罪無き人に迷惑をかける悪い猫さんは、魔法少女マジカル♪みゃーこがお仕置きするにゃ!」
そしてピンクの爆発!
ネコミミ魔法少女、それは可愛いものと可愛いものが掛け合わさった末の暴力的なまでの可愛さの正統進化。武器は威圧感より可愛さが引き立てられたマジカル♪ネコネコナックル。ああっと抜け目はない!
「へー、これで変身できるの? ホント? じゃ、さいきょーの魔法少女になるため、いざ!」
興味深そうに雪室 チルル(
ja0220)が指輪型のMDEを覗き込むも、考えるが先にMDEを掲げた。
「システム・スノードリームウィッチ、ミラクルドリームエディター、スタンバイ!」
掛け声に反応し、MEDが光を放つ。薄青に輝く雪の結晶が降り注ぎ、結晶が体の一部に触れる度に雪室の服を変えてゆく。
雪室のカラーである青色に雪をモチーフとした各種アクセサリーが付属した魔女っ娘スーツはマント付きのレオタードで、機動性も抜群。
シンプルイズベスト。これが「戦う魔法少女」。
最後にザ・魔女っ娘と言わんばかりの大きな三角帽子が頭に載る。
「氷結晶の力で元気いっぱい! スノードリームウィッチ、チルル参上!」
剣の代わりに魔法少女な感じの箒兼杖を装備しているが、剣として普通に使える。振ると雪の結晶がキラキラと尾を引いて綺麗である。あと殴られると凄く痛い。
「魔法少女……男でも問題無いのかな……」
陽波 透次(
ja0280)は厳しい食費に耐えかねた末、報酬の多さに釣られて参加しただけである。様々な不安はある。だが案ずるより生むが易し。何事もやってみなければ始まらないし、報酬も手に入らない。
「変身!」
携帯電話型のMDEの画面も「変身」と出て、赤と黒の光の粒子を帯びた風が彼を包み込む。一陣の心地よい風が彼の服を攫い、そして新たなる装いを齎す。
足を包むのは赤のリボンの編み上げニーハイブーツ。黒を基調としたフリフリドレスはなんとヘソ出し。腰にあるのは特徴的な大きな赤いリボンで、パフスリーヴが愛らしい。
変身前とあまり差異のない髪を黒のマリアヴェールが覆い隠し、可愛さと神秘さを持ち合わせたお姉さん系魔法少女の完成である。男だが。
「陽だまりの使者、えんじぇる☆ひなみん! 人々を困らせる悪い子は、お仕置きよ☆」
キラッ☆からのウィンク! 存外ノリノリである。
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ!ボクを呼ぶ声がする! そう、ボク参上! ……あ、これは何時もの口上であって変身セリフとは無関係。いいね?」
イリス・レイバルド(
jb0442)はイヤリングに取り付けたMDEをぶちっと景気良くむしり取り、天に掲げながら高らかに宣言する。
「アクセスッ!」
天地に雷鳴が響き、その雷が作り出す影が竜巻となってレイバルドを包み込んだ。
西洋の鎧とプロテクターを足して二で割ったハイブリットアーマー的アレソレが、合体ロボットよろしくバシンバシンと装着されてゆく。独自路線を突っ走るデザイン。ドレス自体はシンプルだが、艶の黒が輝く甲冑が、どこか姫騎士を彷彿とさせる。
最後にMDEを胸元の装着部分に挿入したら皆と統一の久遠が原の紋章がピカッと光ってシャケナベイベー。
「大空に舞いし漆黒の騎士、邪悪を滅する疾風の来訪者! 光纏!魔法少女スカイブレイザー!」
ばっちりと決めポーズ。
魔法少女である。物理で殴っても魔法少女なのだ。
「ひ、久しぶりの依頼で、どうしてこうなるんですか……」
呆然とする久遠寺 渚(
jb0685)は、色々突っ込みたい気持ちをきゅっと心に詰め込んで、MDEである魔法のバトンをくるくると回した。
「じゅげーむじゅげーむごこうのすりきれ なぎーでいびすぶろいらちきん」
桜吹雪が舞い上がり、少女である久遠寺を包み込む卵となる。卵は光り輝き、その中で久遠寺の装いは変わってゆく。そして卵の殻が割れた時、久遠寺は魔法少女として新たな誕生を迎えた。
淡い色合いの振袖と短い袴が特徴的な、和の魔法少女。歩くたびに芥子色のブーツがコツコツと心地のいい音を立てる。
動く度に袖が揺れる。緩やかな風を受けて、はんなりとした香のにおいすら立ち込めてきた。
「こ、これ以上、好きには! させませんっ!」
バトンをくるりと回し、敵に告げる。魔法少女らしくなって余計可愛らしかった。
「この学園は無駄な方面に良い才能を伸ばすんだ……!」
次なる戦士は矢野 古代(
jb1679)である。
「マイドーターラブリー! セーット!」
掲げたMDEが矢野の手を離れ、ストロベリーコモモンガパワーを放つ。まばゆいピンクの光が腕組み仁王立ちの彼を覆い、弾けた所から変身が完成してゆく。
足、白いフリルソックスに赤いおでこ靴がラブリー!(ただしおじさん)
手、レースの白手袋に腕に巻きついた赤リボンがキュート!(ただしおじさん)
体、赤いロリータドレスはぱっつんぱっつんでむっちむち!(ただしおじさん!)
MDEは腕輪として収まり、それを確認した矢野はふっと笑う。
「安心してくれ、褌を締めているので非常に危険なことにはならない。――そのために今回黒染めの褌を締めてきたし腿の毛……と言うか下半身の毛は全部剃った。全部だ」
動く度に褌がちらりしないか不安でならないが口に出すまでもないだろう。
「……サイズが合ってないのでこれは不具合だな」
自身が改造を施した装備全てが赤いふりふりのぱつぱつになっているがまあいい。よくない。
(魔法少女、ですか? ……つまり、フリフリヒラヒラの衣装で戦う、と。夢があっていいと思いますよ。ええ。ただ……使う人によっては色々と辛そうですけど、製品として大丈夫なんでしょうか? 不思議空間では変身バンクのお約束は順番に変わっていく方式なのでしょうか?)
黒羽 風香(
jc1325)は、疑いつつ手中の物を見つめる。頭の部分に久遠ヶ原の校章が刻まれた懐古な趣きの鍵。黒羽の掌よりも少し大きいそれは、彼女のMDEである。悩んでいても仕方がない。意を決してMEDを掲げた。
「黄道に座す無垢なる乙女よ……汝が力を我が下に!」
花弁が嵐となって黒羽の体を覆い尽くす。
白いワンピースドレスはフリルとリボンがふんだんに使われた可憐なデザイン。足元は飾りすぎない茶色のショートブーツが包み、高潔の白薔薇の髪飾りがつく。
普段の服装と大して変わらないと感じるのは気のせいだ。
MDEはネックレスとなって首元に収まり、〆に一回転しながら、ヒヒイロカネから中空に出した弓を取ってキメ。
「そこまでです!」
折角なので敵に指を突きつけて言ってみる。実は割とノリノリである。
「恥ずかしいです。ドレス……エッチなデザインでは、ないと、良いんですけど。でもこれもお仕事です、我慢我慢です」
羞恥の克服の為にも、アルティミシア(
jc1611)もMDEを掲げる。
「トランス」
黒いレースの帳が降り、アルティミシアのシルエットだけが映る。再び見えた時、彼女は魔法少女として姿を変えていた。
ドレスは全体的に黒。というよりドレスでなく水着である。スリングショットみたいなセクスィーな何かと、腕部、腰部、脚部に軽い装甲。背部にウイング。紙装甲もここまで極めれば魔法少女と言うよりは悪の女幹部と言った方が相応しい。
「ちょ! どうしてこんな、破廉恥な。ボクみたいな。子供に、こんな衣装を、着せて、な、なんのつもりですか?」
全てはMDEの導きのままに……ようやく戦闘の火蓋は切って落とされる。
★
相手は一体、前衛は一杯。つまる所タコ殴りの形になる。
……一体だけだよね?
「まーいいやボクは前衛の一人だぜ!」
レイバルドが飛ばなければ何をする。魔法少女は飛んでいるものだし問題はない。
挑発的なアクロバット飛行で敵の注意を引きつつ、防壁陣やパリィで相手の体勢をガリガリ削る。体当たりだろうが竜巻だろうが空を飛ぶレイドバルドにさしたる脅威はない。
「悪いな、魔法少女にバリアは標準装備なんだ」
アルティミシアは中遠距離からの攻撃でガンガン畳み掛ける。近寄られたら、回避して退避。距離を取って攻撃再開。こんな服で攻撃なんて受けたら(服が)ひとたまりもないからだ。
スキルは遠慮なく撃ち尽くす。全力で殲滅する。大人の事情と見えない需要から着せられたこんなゴイスーでドイヒーな格好から、元の私服に戻りたいが為に!
ニンジャヒーローで囮となり、肉球でゴリゴリ殴ってゆく猫野。猫VS猫、そこには負けられない仁義無き戦いがある。
「にゃにゃ!? ダメージにあわせて衣装が!? この機能は必要なのにゃ!?」
ロマン的観点から言えば必要である。
一発は耐久テストとして受ける矢野。敵の一撃は思いの他強く、その被害を示すかのようにドレスが弾け飛んだ。よりによって下半身と胸である。
「耐久力的には問題ないが視覚的には非常に問題あり、か……」
意味深な方面に問題がある。黒褌と雄っぱいがナイストゥーミーチューしていた。背中やら上半身やらが犠牲になる前にどうにかせねばならない。
まぁテストもこのあたりでいいだろう。赤白の光線を放ちながら後方に下がり、味方には射術三式・軌曲で気を遣いながらアシッドショットで防御をじわじわ削ってゆく。
「キャハッ☆残像だヨ!」
陽波が設定したエフェクトは、動く度にキラキラ残像が残る高機動系魔法少女演出。終始キャピキャピ口調で魔法少女しているが、仕事なので極めて真面目だ。
彼が考える自身の取り得は、数値に表すと四桁にも届く回避力なのだ。存分に魅せない手はない。独特の威圧を放ちながら敵の視線を集め、真正面から囮となった陽波。視界に入り易い位置に張り付き、気を引いて仲間に攻撃の機会を与えやすくする。
腕の動きから軌道を予測して鉤爪を回避し、幻月符で敵の認識を下げる。
袈裟や薙ぎ払いは後ろへ、突きは横へ、高い攻撃は屈み、避けきれない攻撃は刀で逸らし、体当たりとなれば左右どちらかの抜け易い方へと避ける。尻尾による薙ぎ払いは高ければ屈み潜り、低ければバックステップによる跳躍で回避。
竜巻や鎌鼬を敵を中心に放てば、地面の塵や風の音の変化を見て離脱。直線範囲だった場合は横へ離脱し、程々に散開し密集・直線には並ばないように心がける。
無理せず回避し易い方向へ回避。陽波自身が狙われる限りは反撃を捨て回避に専念しつつ、空蝉で攻撃を受け止める。
『回避』というものを極めた者の動きがそこにあった。キラキラの残像付きで。
久遠寺は中衛で敵の牽制、前衛の回復・援護を行う。
その場、あるいは少し動けば治癒膏が前衛に届く位置に留まれば、四神結界も連用の上で前衛に届き、ある程度ダメージも減らせる。それから乾坤網、八卦水鏡に切り替え、被害を軽減してゆく。
攻撃する際は符で相手の行動を邪魔する様に牽制、薙ぎ払う時にもう片方の前足を狙う・顔を狙って狙いを付け難くさせるなどに処す。
敵は素早い。確実に束縛できる式神・縛は切札である。これを使う時だけは、最悪、攻撃を受けながらのカウンターでも確実に当てる。
束縛されて移動できず、回避が落ちている時が狙い目だ。
蟲毒で毒を入れて、式神・縛とあわせて継続ダメージで削る。
「うにゃ、大分弱ってるにゃ。そろそろ止めなのにゃ! 全員で必殺技を叩き込むにゃよ! 止めは派手ににゃね!必殺、マジカル♪スターライト(ただしマグロ)アタックにゃー!」
虹色に光り輝く冷凍マグロを構え、文字通り冴えたド派手な一撃をブチかます猫野。
そしてレイバルドは一瞬の隙も見逃さない。クリスタルクロスの煌きを武器に纏わせ、いざ。
「ジェミニブレイカー!」
技名はノリと勢いで適当につけた。
「星々の煌きよ、この手に……」
やたら壮大なBGMが聞こえてきた。コーラスが「アー」とか何とか響く中、黒羽の番う矢が光る。一番星の光にも等しいそのまばゆさは、MDEでコッテコテにデコられたものだ。
まぁこういうものは別に途中で一回撃って微妙なダメージを与えてもいい。そういうのもお約束というヤツなのだ。しかし、最後に取った方がやっぱりかっこいい。
矢を射る。
すると矢が彗星の煌きを纏って空を疾走する。スターショットは通常ここまで派手にはならないが、これもMDEの力があってこそだ。威力は通常のそれと何ら変わりはない。ただの派手なスターショットである。
雪室は真正面から箒と化した剣で敵をどつき回してしばき倒しにかかる。
必殺技的なそれっぽいモーションをしつつ、高らかに宣言。足元にエネルギーを収束し、力場を形成。
「雪でも被って反省しなさい! スノードリームブルーム・アイシクルブリッツ!」
解放。
踏み込む瞬間と敵前の二つのタイミングで、そのままの勢いで突きを行い相手を貫く二段階突撃。光に反射する雪のように白く輝く軌跡が、雪の結晶を率いて尾を引く。
「闇の深淵に、貴方を、誘いましょう。そこに光が、在るように、闇もまた、ここに在ります」
アルティミシアも息を合わせて攻撃し、全員の力が合わさって敵を倒す。様々な光に打ち抜かれ、猫は浄化されたっぽいエフェクトの中で消えてゆく。
猫野は勝利のポーズ。
「勝利にゃ! 魔法少女がいる限り、この世に悪は栄えないのにゃ♪」
正義は勝つ。
八人の魔法少女(男含む)がそれを体現した、その記念すべき瞬間でもあった。
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後日、矢野はレポートを認める。
『販売、或いは配布する際には装備の破壊に関しての同意書などを書かせるべきではないだろうか。使用感は非常に良好。後は褌をオプションに付けてくれると嬉しい。魔法少女に褌を締めると言う新時代の幕開けをここから始めたいと思うのだ――』
『誰もが魔法少女になれる』――その言葉は、確かに現実のものになっていた。魔法少女新時代の幕開けはもうすぐそこ。
次はお前が魔法少女になるんだよ。
【了】