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マスター:川崎コータロー
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/05


みんなの思い出



オープニング


 学園で迎える二度目の秋が来た。
 されど実りの季節に喜んでいる暇は軍人の春夏冬にはない。定時報告を行っていると、ふと上官が話題を変えてきた。
『ある悪魔を捕まえてきて貰いたい』
「はあ」
 上官の命令はいつも唐突である。しかし春夏冬にとってはいつもの事であり、次の言葉を待つ。
「で、誰でしょう。うちの軍には小鳥遊とアデレイドくらいしか悪魔が居ませんよ」
『我が軍の者ではない』
 端末に一枚の画像が送られてくる。開くと、深い緑の髪を短く切った悪魔の写真が現れた。どこかで隠し撮ったようで画質は荒いが、それでもどんよりとした瞳と体中にまとわりついた拘束具が目に付いた。
『バロック――と言うらしい』
「らしい?」
『我々もこの悪魔に関する確かな情報は掴めていないが、どうやら、日本にある悪魔のゲートにいるらしい』
 また不確定極まりない――深い溜息を吐きながら、春夏冬は続ける。
「なら小鳥遊の方が適任でしょう」
 とある事件で右目を失った彼は、日常生活こそ支障なく送れはすれど戦闘にはまだ少し心配があった。ディアボロが跳梁跋扈するゲート周辺に行く事は避けたい。
『いや、小鳥遊には酷すぎる。先の任務の傷、彼女はまだ癒え切っていないのだ。ここは春夏冬、お前に頼みたい』
「つまり――そういう事、ですか」
 あの事件には続きがある。自身の右目と、小鳥遊の姉を奪った事件には。
『そういう事だ。ただ、このゲートが曲者でな――いや、ここで説明するのは控えよう。追って詳細を送る。頼まれてくれるか』
「断る術もないんですよ、こっちは……全く、給料が良くなければここまでやってませんよ本当」
『お前達にはいつも苦労ばかりをかけてしまっているな。この前も、そのさらに前も……』
「やめてください。こういう生き方を決めたのは俺達なんですから」
 随分と涼しくなった風が吹く。思い出すのは去年の事。
(……いや、やめておこう)
 湧き上がる過去を何とか抑え、上官から必要最低限の言葉を受け取ってゆく。
『無論、隻眼になってまだ日も浅いお前を単身で行かせる訳ではない。こちらで人員を用意しよう。報酬も弾む分、いい人員が来てくれるように手配する』
「了解しました……っと」
 通信が切れる。春夏冬には単独行動を取ると厄介ごとに巻き込まれるジンクスがあるせいだろう。中々に嘆かわしいが、今回は自身の状況が状況なぶん、派遣されてくる人員の実力如何によるとは言え安心はできた。
 通信が切れる。それから次の風が吹かない内に、上官から任務の詳細が送られてきた。
 ファイルを開き、内容をざっと見てゆく。
 真っ先に目に付いた単語は。
「監獄型、ゲート……」
 また厄介そうなものを――深い溜息を吐くと共に、先ほど見たあのバロックとかいう悪魔の姿が蘇る。拘束具だらけの体、そして澱んだ目。
「一筋縄じゃいかなさそうだ」
 夜の風が吹く。嫌に涼しい風は、秋の到来を告げると共に、春夏冬の心に一陣の不安を呼び寄せた。


 雷雲が唸っている。低く空気を震わせる雷の音は、まさしく獣のそれであった。
 人外の存在が闊歩する幽居の街。中心には、大きな空洞が開けられている。逆円錐型に掘り進められたそれはまるで地獄谷。
 実際、ここは地獄であった。円錐の大穴から伸びた横穴からは人の呻き声。牢には多くの罪人が捕らえられ、一生をかけても償いきれない罪をその身で償わされている。
 ここは絶対の監獄。
 地獄の沙汰も金次第――という言葉も嘘に成り果てる、絶望の監獄。
 苦悶の海の、さらに下。
 空ろな新緑の目が、地獄を無気力に映し出していた。


リプレイ本文


 黒雲立ち込める空。低く唸る雷が、時折癇癪を起したかのように地面に落ちてくる。
 その中を一団で、適度に散開して駆け抜ける者達がいた。
「っと、近くに落ちたみたいだね。くわばら、くわばら」
 周囲が強く光った事で反射的に身構えるが、自身にはダメージがない。その事にアサニエル(jb5431)は胸を撫で下ろす。
 姿勢を低くしつつ、ゲートの結界へと向かう。その最中、エルム(ja6475)が春夏冬に話しかける。
「初めまして、春夏冬さん。今回はよろしくお願いしますね」
「ああ、初めまして……だな。君の事は友人からいくつか聞いているよ」
「私もその友達から聞いたんですけど、春夏冬さんは『捕らわれのお姫様』体質なんですってね。くれぐれもヨロシクと頼まれました。また敵に捕まったりしないようにしっかりと護衛しますね」
「こんなゴツい姫がいたら世も末だよ」
 深い溜息を吐くものの、横からディザイア・シーカー(jb5989)が笑いながら入ってきた。行き先が行き先なのだ、愚痴なり軽口なりを叩いて雰囲気を軽くしておきたい。
「なに、何度でも助けてやるさ。某桃色姫様の如くな! ま、俺たちに任せときな」
「勘弁してくれ……」
 顔を覆う春夏冬。しかしまぁ、前科という名のスコアが豊富であるのだから仕方がない。
 場の空気が和らいだのも束の間、再び閃光が迸る。
「結構な頻度で落ちやがる、面倒なこった」
 雷が落ちた場所を見て見ると、微かに煙が上がっている。自然現象を再現した本物のようだ。
(潜入なら夜に紛れんとな……と思ったとは言え、中々手厳しいものがある)
 黒ゴムでできた合羽を羽織ってはいるものの、気休め程度だし、散見する民家や小屋は既に廃墟だ。まだ会敵していない今、身を守り隠すには絶好の存在である。しかし幾度となく落下する雷と、これから起こるであろう戦闘に耐えられるかが疑わしい。
「ゲート内部への侵入なんて、あたしみたいな新入りが参加して大丈夫だったかなって今更ながら思いますが」
 銃を構え直しながら、ラナ(jc1778)は春夏冬に問う。
「まぁ気にせずやってくれ。我が軍は実力重視だからね」
「はい。高い報酬を貰えるらしいですし、頑張らないわけにはいきませんよね」
 軽くガッツを組んだラナの反対側、百目鬼 揺籠(jb8361)が話しかける。
「気を取り直して、どうぞ宜しくお願いしまさ。『学生』じゃねぇ、もっと当然に戦場に身を置いてきた匂いを感じる。まぁつまり、多少のことは大丈夫でしょう。一番信用できるタイプに見えまさ」
「ありがとう。あんたこそ、平穏を装ってはいるが剣呑としているな。信用してるよ」
 互いに眼光を感じ取り、一瞬だけ口角を上げる。
「そんな体で仕事熱心ねぇ……まだ、終わってないってことかしら?」
 闇の翼で飛行している麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)が高度を落として春夏冬に話しかける。彼女が『仕事』の内容を知っているからこそ察したのか、春夏冬は観念したかのように呟いた。
「残業代が出るから残業代でも稼ぐのさ」
「隻眼の男ってのも渋くてええ感じやけど……ほんまに大丈夫なん?」
「安心半分、不安半分って所だ。やはり右側はまだ心許ない」
 事実、右側への反応は遅かった。その上右側から音や気配を察すると、顔ないし体ごとそちらに傾けている。
「一つ聞きたいの」
 この一件、声をかけられた時から蓮城 真緋呂(jb6120)は何か思惑を感じ取っていた。
「悪魔の『殲滅』ではなく『確保』が目的なのよね。重要参考人って事だけど、何のか春夏冬さん聞いてる?」
「上官曰く『ある事件』の――今は言えないが、いずれ言うよ」
 どんな思惑は理由がありにしろ全力は尽すが、あの時の事もある。気にせずにはいられないのだ。
「それで、他の誰でもなく、万全とは言えない貴方がゲートへ出向く理由……教えて」
「消去法さ。十は学園をあけていて頼めない。そうすると小鳥遊か俺だが――小鳥遊はまだあの時の傷が癒えていない。理由はどうにしろ、あいつは実の姉を殺した。元気に振る舞ってはいても、夢に魘されているのが現実だ」
 妹分を案じる目は真剣であった。いや、案じているだけではない。
「春夏冬さん。……悪魔ってもしかして『力を与えた者』なの?」
「……それもいずれ分かるさ」
 事実上の肯定であった。
「にしても悪魔の確保ねぇ……ついでに片付けたらいかんのかしら。何のために確保するのかしらんけど、その方が後腐れないと思うのだけれど」
 溜息を吐きながら依頼内容の不可解さに疑問を呈す卜部 紫亞(ja0256)。
「現場職の俺に上の意向はいまいちわからんよ。ただ――俺としてはいただけないが、君の個人的な片付けは用が終わってからでもいいんじゃないのか?」
「それもそうかも知れないわね……面倒だけど」
 雷雲が卜部の溜息を掻き消す。と同時に蓮城が足を止めた。
「雷鳴は足音消してくれるから助かるけど――敵の足音も聞え難いという、ね」
 刀を構え、敵を見据える。
「あらあら、病院の次は囚人? ほんと多趣味な悪魔さんねぇ」
「囚人……監獄型ゲートだけに、か」
 オルフェウスの言う通りだと蓮城は思った。腐りきって表皮がズルズルになったゾンビがボロの囚人服を着て大挙してこちらに向かってきているのであまり接触したくはない。
 それに、ここは外周とは言え敵本拠地の一部だ。敵の数も相当のものと予想する。
「低い姿勢を取れば落雷は防げそうだけど……」
 光に反応して転がった蓮城は、体制を立て直すと共に模範囚の群をコメットで薙ぎ払う。
「ここが地獄の一丁目ってぇとこですかぃ」
 咆哮。直後に紫炎を纏った旋風脚。――大技、その名も百々キック。
 鮮やかな紫で模範囚を引き付け、ある所へと誘導する。
「さて、と、それじゃゴミをお掃除しようかしらね」
 片っ端から光弾を撃って出迎える卜部。光弾の雨を潜り抜ける模範囚はアーススピアーの鋭利な穂先が貫き、その隙に瞬間移動で離脱する。
 距離を取り、全体を見回した上で密集地を見つけた彼女は、再びアーススピアーを放った。数は多いがその分大味でわかりやすい。狙いを定めるまでもなかった。
 集めた敵を焼き尽くすように、二方向から炎が滾る。
「数が多くてもこの程度の質じゃたかが知れてるわね」
 近場に見つけた倉庫跡の屋根の上に瞬間移動し、残った模範囚を掃討しにかかる。
「さすが模範囚、団体行動が上手くできてるよ……まぁ、役には立たなかったけど」
 固まって現れた模範囚を、卜部とアサニエルがファイアーアブレイクで対処する。
 数体に接近された所をアサニエルは数歩跳んで後退し、射撃戦に突入する。ばらけられるのは少し厄介だが、接近戦は避けたい。
「まとめて薙ぎ払います。無影刃・阿修羅斬!!」
 ファイアーブレイクでなお残った敵をエルムが一気に減らしてゆく。愛刀・天狼牙突の切っ先が鈍く光った。敵はまだ複数いる。息を一度だけ短く吸って吐き、囲まれないように速やかに場所を変えてゆく。
「範囲がないのが悔やまれるな……」
 零れ落ちる露を払うように、散開した模範囚を倒しにかかるディザイア。模範囚の一体をそのまま殴り飛ばし、アサニエルの振り被って投げた火球の中にぶち込んだ。
 直後、落雷。
「……と、上手く行ったか」
 廃墟の影に隠れて様子を伺っていたディザイアが少し満足げに頷く。視線の先には民家の屋根に突き刺さる一本の鉄の棒。ディザイアが透過を利用して設置したものだ。あれが避雷針となったのだ。
「――やったか」
 その様を確認した春夏冬は、目の前の模範囚を見据えた。
(片目の戦闘って、やっぱキツいな」
 健在の左目にも負担がかかる。雷の光で潰された視界の回復が遅い。
 よって、春夏冬は知覚できなかった。目の前の敵に精一杯であったから。
「春夏冬ちゃん!」
「?!」
 右の死角を補うように、ラナが春夏冬に飛びつかんとしていた模範囚の頭を撃ち抜く。当の春夏冬はオルフェウスの叫び声でようやく気がついた。
「助かる!」
 近くに塀を発見した春夏冬は、体勢を立て直そうとオルフェウスの援護を受けながら駆ける。その殿を務めるかのように、ラナが最も春夏冬から近い順に撃ってゆく。
「新兵でも、味方の死角のカバーくらいはできますよ」
 数はあるが数回弾丸が当たるだけで倒せるので、ストライクショットはここぞの時だけでいいだろう。
 模範囚の大振りな攻撃を避け、体勢を整えるついでに一発撃ち込む。
「……怖くて逃げ出したくなるようなこともあるでしょうけれど。それでも強がって、最後まで戦い続けなくちゃ、来た意味がありませんから」
 とは言えあくまでも優先は味方の援護、自身のダメージが射撃に支障のない限り、春夏冬といった味方の危険度低減に注力する。
「的の数が多くて、嬉しい限りですね」
 ラナの言う通りではあるのだが、違和感がある。
 その違和感の正体は、すぐにやってきた。
 ――あの一団は、まさか。
「……何か来るわ、気をつけて!」
 咄嗟に放ったオルフェウスの矢を弾き返した存在が一つ。その背後に多量の模範囚の群れが一つ。
「面白そうな奴がいるじゃん」
「軍服に武器。貴方が指揮官かしら?」
「うん」
 少年は笑う。目は切り揃えた前髪で隠れていて見る事はできなかったが、大きな口の角度が上がり、風船ガムを膨らませた。
「看守・暴食のグリムカッツェ……ちょうど腹が減ってた所なんだ。昼飯に丁度いい」
 一撃。砲の巨大な弾丸が奔る。挨拶代わりなのか避けやすかったが、通り道となった軌道に敷かれた地面は抉れていた。
 ――危険だ。
「へえ、へえ。グリ……如何にも舌噛みそうな名前でさぁ」
「人の名前くらいちゃんと言えよ!」
「人じゃない気がしますがねぇ……」
 グリムカッツェの名をまともに発音する事をやめた百目鬼が、早速接近戦を仕掛ける。こちらの意図はわかっているらしい。距離を取られても一気に距離を詰め返す。とにかくバズーカーを撃たれてはならない。大きな一撃はそれだけで厄介だ。
「それに、ガムを食うか喋るかどっちかにしなせぇ」
 百目鬼は、グリムカッツェがずっと噛んでいるガムの存在も気になった。警戒が必要か。
「よぅ、すまんが俺と遊んでくれや」
 ディザイアが振り下ろした斧が地面にめり込み、裂ける。
(バズーカ持ち……接近戦も出来るようだが撃たれるよりはマシだろう)
 括り付けられた剣でも斬撃をシールドで受け止め、背後の蓮城らに繋ぐ。
「やれやれ、元気なお子様だな」
「これでも腹が減って減って仕方がないんだけどね――人を一人くらい食べたい気分でさ!」
 挑発に乗ったのか、グリムカッツェはガムを膨らます。膨張したガムは猛烈なスピードで浮遊し、右から春夏冬に迫る。
 反応が遅れた。
 声を発する間もなく、薄橙の膜に捕らえられた春夏冬。瞬間的に割って入った百目鬼が百目夢で幻覚を見せている隙にその膜を即座に引きずってその場を離れる。
「想像してた通りでしたねぇ」
 ガムの存在を警戒していて助かった。後方に引きずった所でガムの膜を蓮城が切り裂く。
「――助かった」
「やっぱり心配だわ。完全に慣れきってないじゃない」
 深い溜息を吐きながら春夏冬の様子を見やる。平常のまま隻眼で戦う事は始めてのようで、思っている以上に戦闘のし辛い体になっている事を痛感しているようだ。
 ガムを破壊されたグリムカッツェは蓮城の斬撃を悉くかわしながら笑う。
「美味いものは――好きだよ!」
 鍔迫り合い。大砲に刺さる幾つもの把手を巧みに持ち替え、砲の先に括り付けられた剣で蓮城の刀を受け止めた。巨大な砲を軽々取り回せるだけの膂力と器用さと機敏さこそがグリムカッツェ最大の武器か。
「人間は食べたっておいしくないわよ」
 一度僅かに距離を取り、着地の瞬間コレダーでその把手を持つ手を殴りにかかるも――押し返される。だが、やられたままではない。カウンター代わりに太陽の柱を叩き込んだ。
「ッ、この!」
 グリムカッツェの口元でガムが膨張を始めるが、百目鬼が咄嗟に古銭を投げつけてそれを妨害する。
「いってぇ、何するんだ」
「生憎と、こんなところで油売ってる暇ありませんのでねぇ」
 顔を抑えて数歩たたらを踏むグリムカッツェの懐に飛び込むエルム。放つは翡翠。腹の上の一直線を狙う。
「くそっ!」
 避ける。が、それは想定済み。
 我流・燕返し。
 返す刀が、猛威を振るう。
「もらった!」
 一撃。そして続けざまに衝撃が走る。
「さて、それじゃ後は残ったゴミも片付けましょうか」
 瞬間移動卜部が死角からワンダーショックを放ったのだ。
「この――!」
 いくら取り回しが早くても、砲撃までタイムラグがない訳ではないのだ。
 黒い稲妻が疾る。
「黙って食材になればいいものを!」
 直後、光が爆発した。爆風は圧縮され一直線となり、周囲のものを食い尽くす。
「掠ってもこれか……!」
 建物の軒下、卜部は上着を翳して防御体制で何とか耐えきれた。しかし建物は壁から壁、さらには塀にまでぽっかりと喰われている。
「……厄介ね」
 咄嗟に霊気万象を展開したお陰で何とか防げた。ただ、完全に攻撃を防ぐぶん使える回数はより限られている。連発されたらたまったものではない。
 体力的な消耗はどちらも同じ。
 こうなれば、勝負に出るしかない。
 シーカーと蓮城が同時に右腕に雷を纏い、同時に腹に叩き込む。
「さようならだ……楽しかったか?」
「こんな所で止まっていられないの。退屈な役目はおしまい……解放されなさい」
 太陽の柱が天地を貫き、炭になりかけたグリムカッツェを一斉に仕留める。ある者は刀、ある者は飛び道具、ある者はその拳――、
「ああ、腹……減ったな……」
 暴食のディアボロの空腹は満たされず、ただその未練だけが立ち消えてゆく。
「さて……どうにか橋頭堡は確保といった所かしら」
 雷雲の唸りが聞こえる。監獄は、もうすぐそこにあった。


 眼下に広がる地獄谷。
「初めて聞くけど……これが、監獄型ゲート……?!」
 通常のゲートと何か違うのか。エルムは身構えながら、谷底に視線を落とす。
「特殊なタイプのゲートっぽいですし――敵について特徴や共通点がないかの観察と、内部調査のための情報収集はしたいですね」
 ラナは考える。果たして内部はどうなっているのか。また、模範囚や看守が跳梁跋扈しているのか。それが気になる所でもある。
 空が不穏なのも納得できる程の瘴気。肺をやられてしまう――そんな錯覚すらさせた。
「さてと、監獄破りといくかね。地獄の沙汰なんざ、あたしら次第でちょちょいのちょいだよ」
 アサニエルが腕の筋肉を伸ばす。ここがようやくのスタートラインだ。
 底は見えない。抜けた先にあるのは、何なのか。
 地の底から響く亡者共の呻き声が、雷雲の唸りに掻き消され――また雷が、落ちた。

【続く】


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 原罪の魔女・卜部 紫亞(ja0256)
 穿剣・エルム(ja6475)
 護黒連翼・ディザイア・シーカー(jb5989)
重体: −
面白かった!:4人

原罪の魔女・
卜部 紫亞(ja0256)

卒業 女 ダアト
穿剣・
エルム(ja6475)

卒業 女 阿修羅
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
甘く、甘く、愛と共に・
麗奈=Z=オルフェウス(jc1389)

卒業 女 ダアト
撃退士・
ラナ(jc1778)

高等部2年20組 女 インフィルトレイター