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マスター:川崎コータロー
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/07/13


みんなの思い出



オープニング


 海の上。クルーザーの帆が穏やかな風を受け、ゆったりと海上を行く。
「ほう、これが海か……こんなに間近では初めて見る……」
 海面に、興味深そうな自分の顔が映る。
 内陸国育ちの十は、どちらかと言うと馴染みがあるのは海より湖であった。本国に居た頃はバカンスで湖畔の別荘によく行ったものだ。
 それに、久遠ヶ原に来ても海の方へ行くことはなかった。編入早々無理難題をふっかけられて行くタイミングを逃してしまったのが主な理由である。
 よって、十がここまで海と接近しているのは初めての事となる。船首の手すりに足をかけ、先ほどからずっと海面を見ている。よほどバランス感覚に自信があるらしい。
「落ちるぞ。泳げるのか」
「およ……」
 一瞬だけ硬直。後に咳払いと眼鏡を上げなおす音。
「およげるない」
「どっちだ。泳げないなら無理をするな」
 そう言う須藤もろくすっぽうに泳げないのだが、内陸国育ちの十と比べると幾分か泳げる自信はある。けのびは得意だ。
「――ったく」
 須藤は船を操縦できるという事で十に引っ張られてきたが、そういえば何故こんな辺鄙な沖合いまで来たのかはわかっていなかった。
「で、何だってこんな場所に来たんだよ」
「あのデータを元に上官に命じられたからだが、とりあえずこの海域を調査してみない分には何も始まらんだろう。レーダーが何か拾うかも知れん」
「要するにお前もわかってないのか……」
 溜息を吐く。
 瞬間。
 船が揺れた。物凄い縦揺れである。何かが勢い良く船底にぶつかったか。鮫や鯨か? ――いや、それにしては海面に影の端すら見えない。
「! 何だ」
 辺りを見回していると、ある異変に気づく。
「ちょ、ちょっと待て」
 絶妙なバランスを保って船首の手摺の上に立っていた十。物凄い縦揺れでバランスを崩すのは当たり前であった。
「あ! ――おい!」
 手をばたつかせてバランスを何とか取ろうとするも、須藤が駆けて手を伸ばそうとするも――間に合わなかった。
 何かが盛大に水面に叩き付けられる音と、水飛沫。
「おい! 大丈夫か!」
 須藤は真っ青な顔で、手摺から身を乗り出して水面を覗き込む。
 水面が穏やかになっても、十のあの輝かんばかりの金髪が浮かんでこない。
「……」
 いや、浮かんできたものがある。十がいつも掛けている銀縁眼鏡、ただ一つ。
「……」
 息の泡が水面に上がってくる様子も見られない。
「……」
 自分がやったのではない。
「……」
 自分は無実だ。潔白である。
「悪くない」
 決して監視の十が目障りだからと海の上でサクっと始末した訳ではない。本当だ。信じてほしい。
「俺は悪くない」
 これは全て不幸な事故である。
 ――どうする?
 自分は悪くないと言えど、真っ先に疑われるのは自分である。
 ――どうする?
 頭を必死で働かせる。
 そうだ、こういう時こそ彼らである。会う度に憎まれ口をちくちくとつついてくる奴らだが、最近は何だか憎めなくなった彼らだ。
 報酬?
 そんなものは知らんが、十の口座から支払えば額などゼロが一桁増えようがなんだろうが問題あるまい。
 心配なのは自分の身――あと十である。せめて死体くらい発見して自分の無実を証明せねば。


 海の底は、少女にとって窮屈すぎた。
 永遠の安寧が許される平和な平和な海の底。
 大人達は言う『外の世界なんて危険ばかりだ』と。
 大人達は言う『外の世界と関わりを持ってはいけない』と。
 それでも、少女は外の世界に興味を持った。
 燦々と照りつける太陽、どこまでも続く空と陸地、溢れる人と物と音。
 水がまとわりつかない世界。自由な世界。
 こんなにも憧れている筈なのに、海面から顔を出す事は叶わない。こんなにも、こんなにも憧れている筈なのに。
 相棒と海面近くを泳ぎまわる日々。どこか退屈な事には変わりはないが、それでもどこか気は楽になった。
 しきたりから逃れられる時間。何かが変わるかも知れないという他力本願な期待や、大人達が禁じている事のすれすれをしているという感覚が、年頃なりに面白かったのかも知れない。
 しかし、今回は違った。
 頭が痛い。物凄い勢いで頭をぶつけた。
「いったぁ……何これ……ヴィンス、大丈夫?」
 相棒も頭を打ったらしく、目を回している。自分よりも派手にやらかした分、しばらく動けそうにない。
 前後不覚、いや頭上不覚だった。何だこの大きな浮遊物体は。……まぁ、幸いにもまだ時間はある。相棒の回復までゆったりと漂うとしようか――
「――何これ」
 陸から人が、落ちてきた。一人の青年だ。
 見たことのない色彩。見たことのない鮮やかさ。
 これが――陸の存在。
「人……? ねえ見て、陸の人だわ、ヴィンス!」
 未だ目を回す相棒の首根っこをばしばし叩いた後、泳ぎ寄る。
「大変、息をしていないわ。……でも大丈夫」
 少女から発せられる薄水色の光が、青年を包む。
「ねえ、聞こえる?」
「君、は……ここ、は……」
 ゆっくりと開かれた青年の目は、どんな海の底でも見ない青。
 ――ますます面白くなってきた。
「私、マデレーネ! こっちは相棒のヴィンス」
 少女は青年がまだ事態を掴めていない事も露知らず、嬉々として話す。その身に迫る、危機も知らずに。
「ここは――海の中よ!」


リプレイ本文


 海も須藤ルスランの顔も青かった。
「つなっしー……何やってンだか」
 現場海域に到着して停まった船の上で、ヤナギ・エリューナク(ja0006)は苦笑した。
 『船底に何かがぶつかり、船頭の手摺に立っていた十はその衝撃で海に落ちた。俺は助けようとしたが間に合わなかった』との須藤の証言を信じるのであれば、割と非があるのは十の方である。
「っつか、ルスラン。ホントは故意じゃねーの? そのキョドってる感じがすっげー怪しい」
「はあ?」
「ほら、お前サンにとっちゃさ、目の上のたんこぶだろ? 疑われるよーなコトでいっぱいだもンな〜」
「ルスランさん……とうとう、やってしまったのですね。何時かはすると思ってました。ええ。やる時はやれる良い子ですからね……」
 爆笑するエリューナクの隣、セレス・ダリエ(ja0189)がこくこくと頷く。
「いつか殺るとは思っていたが、とうとう殺ってしまったか……言い訳は牢屋の中で聞こう。安心しろ、裁判ではしばらく出てこれないように証言してやる。そして犯人の逮捕に貢献した俺に感謝状と金一封をもたらすがいい。元マフィアの幹部ならそれなりの額になるだろう」
「お前らさぁ……」
 特に牙撃鉄鳴(jb5667)については割と本気で言っている様子なので洒落にならない。
「……冗談だって! ちゃんとつなっしーは見付けてみせるさ。ルスランの無実と共に、な」
「え、違う? 潔白? ……分かってますよ。ええ。分かっていますとも。まあ、取り合えず十さんの為に、合掌しておきましょう」
「ワインでも海に撒いて供養でもしとくか……」
 海面に向かって合掌するダリエと、行きしなにコンビニで適当に買ったワインをおもむろに取り出すエリューナク。最早死んだ前提である。
「まあ、確かに不運な事故ね……須藤くんは悪くないわ、ええ」
 まぁ一応は、と言った風に瑠璃堂 藍(ja0632)が頷く。
「普通に考えたら、いくら撃退士と言えど溺れれば生きていられない……はずなんだけど。久遠ヶ原の生徒って考えると、なぜか生きてそうな気がするのさねぇ」
 九十九(ja1149)は心中を隠しもせず呟く。
「つなつなが消えた海域にディアボロ出現か。無関係ではなさそうね……よーし、私が潜って様子をみてくるわ。ついでにディアボロをやっつけてくる」
「長く沈んだままなら少し心配だね。待って晶ちゃん、アタシも行こう」
 従姉妹同士である神埼 晶(ja8085)と地領院 恋(ja8071)は既に水着に着替えており、
「潜る人はロープを括りつけていった方がいいと思うわ。命綱にもなるし、何かあればロープを引っ張って合図もできるし、ね」
 瑠璃堂は船側のロープの先に鈴をつけて音が鳴るように細工を施す。
「合図は海面に向かって銃を撃つ、とかでも良いと思うけれど……どれにしても合図の仕方と意味は決めておきましょう」
「確かにそうした方がいいね」
 地領院が瑠璃堂と話している時、神埼はある事に気付く。
「ちょっと須藤。この船にはシュノーケルとか酸素ボンベとかないわけ!?」
「泳ぐ前提じゃねえんだよ俺らは!」
「そりゃつなつなも沈む訳だわ……」
 逆切れに呆れつつも身体にロープを結ぶ。
「まぁ、いいわ。それじゃ行ってくるわね」
 地領院と神埼が海に潜ってゆく。威勢のいい水の音が、静かな海の上で穏やかに響いた。

 かくして十(の死体)の捜索は開始される。

 海中は、地領院の周辺が星の輝きによって美しく煌いている。そんな中を神埼と共に二人で生命探知を行う。
(浮き上がれない理由があるなら、ディアボロに捕まっている可能性も高いか……だとすると、複数の反応が重なる場所は怪しいな)
 海中で一人にならないようにタイミング合わせながら一分ごとに息継ぎをしつつ、地領院は考える。
 反応を受け取った時。それが、鈴を鳴らす時だ。
 口から零れた吐息が、泡となって海中を漂いながら上がってゆく。
 そして弾けた先の海面には、一隻の船。そこに残ったメンバーは交互に鈴付きのロープを見張りつつ、ディアボロの出現などを警戒していた。
「生きてないだろうなぁ……」
 死体を捜しにかかっている時点で死ぬ前提だが、変な意味で久遠ヶ原の生徒だと言うだけで生きてそうな気がする。
 彼も船に残っているのだが、そもそも山育ちなので余り泳ぐ概念が薄い九十九は泳ぐ事は得意ではない。
(しかし――)
 テレスコープアイで周囲をぐるりと見回してわかる事があった。天気はいいし眺めもいい。依頼中で無ければ、思うがままに楽器を弾いてたい程だ。
「……と言うか、操舵はルスランさんが?」
 舵を取る須藤を怪訝そうに見るダリエ。
「文句あるのか」
「いえ、信頼できないなんて言って無いですよ。無いですとも」
「何だその目は」
「真面目な話、操舵出来るのですか?」
「できるからここに居るんだろうが」
 須藤が元いた犯罪組織の本拠地は廃墟の無人島である。本州との行き来を自在にするために操船の技術は自然と体得して行った。ダリエの疑いの目は晴れていないようだが、免許を持っていないせいだろうか。
「では、頼りにしていますので、戦闘の方は任せて下さい。十さん? 助けますよ。助けますとも」
「……ッと悪ィ。足が滑った!」
「ぶっ!」
 突如救助浮き輪と共に海に放り出される須藤。とは言っても浮き輪があるので沈みはしなかった。
「ふざけてるのか」
 浮き輪にしがみつく須藤を引き上げながら爆笑するエリューナク。
「悪ィ悪ィ」
「……と言うか、ルスランさんは何故泳げないのですか? 犬かきならできるでしょう。その筈です」
「お前はいつまでそのネタを引きずるんだ……」
 セレスも十を反面教師としようと、命綱――とまでは行かないが、ロープと自身を繋いで手摺に巻き付けている。落下防止と、落下してもロープ伝いに船上へ戻れる様にするためだ。
「全く……」
 久々の学園の外だと言うのに、お目付け役が勝手に海に沈んで無実の罪をふっかけられるわ、いじられるわで須藤は散々である。しかしここで諸々の気持ちをきゅっと抑えて無にならなければ須藤に明日はない。
 十ではなくこいつらを海に叩き落せたらどれだけ良いのだろうか――そう考えながら、未だ何も兆候を見せない海をぼんやりと見た。

 海中の二人が、海のさらに奥深くで多数の反応を察知する。
 これは――
 顔を見合わせ、考えるより先に、神埼がロープを引っ張った。

 鈴が鳴る。
 海中に潜る二人が危険を察知した証だ。
 反射的に構える一同。
「別に十のように落としても構わんのだぞ須藤。遠慮なく海の底に叩き落とす大義名分ができる。――今更やる度胸もないだろうがな」
「何だと」
 顔を顰めた須藤の横、ダリエは魔導書を開く。
「もうそろそろ冗談はこれ位にして真面目にいきます」
 次々と構える面々。
「来ます!」
 武器を構えた後藤知也(jb6379)が叫ぶ。
 次の瞬間、巨大な水の柱が一同の前に立った。
 人の背を優に超える巨大なハリセンボン型ディアボロと、赤い目を持つ巨大な黒の魚型ディアボロ。――否、その鰭、その鱗の一つ一つに至るまでが、黒い小魚のディアボロで出来ている。小魚の群れが巨大な魚を演じている。
「あははは! あれがディアボロかァ、面白え! 水の中だろうが関係ねえ、叩き潰してやるよォッ!」
 星の輝きを生かしながら目を眩ませて隙を作り、海面に引き付けるように泳ぎ回る地領院。攻撃は神埼や船を守るように立ち回るほどの冷静な判断と的確な動きに反し、その顔は狂気の笑み、笑み、笑み。
 神埼はリボルバーの間合いに入り、ハリセンボン型ディアボロに間髪を入れず攻撃する。
 ハリセンボン型ディアボロが飛ばしてくる針を撃ち落す――時に見えた。
 奇妙に膨らむ腹部。そこに、人の影。
 暗い海の中であってもなお微かに輝きを放つ金。もしや、あれは――
(アレはもしかしてつなつな!?)
 神埼の驚きにいや、と地領院は首を横に振り、ハンドサインを送る。
(――二人いる!?)
 生命探知は、二人分の反応を示していた。
(ちっ、どうやらまずはアレをなんとかしねぇとか)
 舌打ちをしつつ地領院はアウルを練って錬成した種子をハリセンボン型ディアボロに投擲。するとみるみるうちに成長してできた長い蔓が棘だらけの体にまとわりつく。これで少しは腹を破壊しやすくなるだろうか。
 牙撃が援護射撃をしてくれている中、神埼は伝える。
「ディアボロのお腹の中に人がいるみたい。つなつなかも」
 真っ先に反応しはのは須藤であった。
「ほら! 俺殺してない! 俺殺してなかった! しかも生きてた! 俺悪くない!」
「はいはい。落ち着いて。ちゃんと舵取りなさいよ」
 無罪が確定してぎゃんぎゃん騒ぐ須藤の横、牙撃が舌打ち。
「何だ、生きていたのか。イワノビッチの隣りに埋葬してやろうと思ったのに」
 折角の金一封だったのに勿体無い。
 さらに溜息を吐くが、生きていたのであれば仕方は無い。
 驚いたのは船上から攻撃しつつ、ディアボロの影と攻撃予備動作を観察していたエリューナクであった。
「……って、腹ン中につなっしー?! こりゃ、早く助けねェと……!」
 消化などされたら、それこそたまったものではない。
 驚きつつも、ひとまず海面上に着地するエリューナク。敵の大体の所作はわかった。水上歩行で海上に躍り出ても攻撃予備動作は頭の中。回避も容易な筈。
「……行くゼ」
 ニンジャヒーローで視線を奪った撃ちに、瑠璃堂の不可視の棒手裏剣が潮風を切り、淡黄色の糸が海上で微かに煌く。
 ――とは言っても、瑠璃堂は戦闘に積極的に参加はしない。海中の味方に気を配る余裕を残せるようにする為だ。
 合図を見逃さないように。息継ぎのために海面に上がってきた味方が奇襲されないように。そして早く腹の中から十を助ける為に。
「全く、手間のかかる」
 牙撃が撃ち込んだ侵食弾頭を打ち込む。脆くなったハリセンボンの腹部を、神埼がスターショットで打ち込んでさらに薄くした瞬間にナイフで切り裂いて十を解放する。
「助かった。ありがとう」
「つなつな、大丈夫みたいね。あと――その子も」
 生命探知の反応通り、二人いた。
 多少の傷はあるものの、平然としている黒軍服の十。十に寄り添っている、薄水色の長髪を持つ、白いワンピースの少女。
「女の子もいたのね……二人とも無事みたいで良かったわ。……それにしても、お腹の中にいたなんて……消化されちゃう前に助けられて良かった」
 さて、すれば気になるのはこの少女の存在である。ひとまず敵ではないだろう。
 船に引き上げ、船にあったタオルに包ませてから瑠璃堂は問う。
「私の名前は瑠璃堂藍、貴方のお名前は?」
「え、ええと、助けてくれてありがとう。私はマデレーネ……あの、十のお知り合い?」
「まぁ、そんな所かしら。……でもあなたは何故十先輩と一緒にいたの?」
「その……」
「人間ではなさそうだけれど……天魔?」
「う、うん。そんな感じ……なのかな」
 少女の受け答えはしどろもどろであった。人見知りが激しいことから来るものではない。何かを隠している感じだ。
「で。つなっしーこと、人魚王子サマ。どう言うことなのか、説明出来っか?」
「そうだな。なんで2人共泳げねぇのにこんな深いとこ潜ったんだ?」
 さらにエリューナクと牙撃が追求しようとした時、船が大きく揺れる。海の中を泳ぐディアボロ達が船底に体当たりをしているのだ。
 船上と水中では、やはり船上の方が分が悪い。
「あ、あの!」
 揺れる船内で、マデレーネは叫ぶ。一同の視線を集めた後、マデレーネから発せられる薄水色の光がそれぞれを包み込んだ。
「これは――」
「これで海でも動けるようになるの」
 一瞬、理解ができなかった。しかし、十は「信じてくれ」と言って続けた。
「このマデレーネの言う通りだ。この術のお陰で泳げない僕でも水中であれと戦えたし、不思議なことに息もできた」
 万が一、十が嘘を言っているとしたら?
 万が一、何かの罠だとしたら?
(……いいえ、悪い感じはしないのだから、そこまで気にしなくてもいいかしら)
 今はディアボロ退治に集中しよう。
 瑠璃堂はサバイバルナイフを手に持ち、海に飛び込む。
 強烈な水の衝撃と、限りない浮遊感。
 水の泡に苛まれながらゆっくりと目を開けると、そこは海だった。海の中だった。
 視界は明瞭。呼吸は正常。
 水の重さを感じない以外は、地上と同じ。
 実に奇妙。実に奇妙。しかし、これで――戦える。
「あれは潰していいな? 潰していいよな! よっしゃ潰れろ!」
 破壊された腹部にエリューナクが風遁を食らわせまくっている横、地領院は笑う。
 続いてダリエが異界の呼び手で動きを止めた巨大魚ディアボロに九十九がピアスジャベリンでまとめてぶっ飛ばしにかかり、船に噛みつこうとハリセンボン型ディアボロが飛び上がってきたところで牙撃が口内にブーストショットを撃ち込む。
「小魚の群れ、か。しかし何で一尾だけ赤いンだ?」
「いやに目立ちますね……」
 エリューナクとダリエは顔を見合わせる。弱点なのか、それとも起爆剤なのか。押してみるまで分からない。
「よし。それなら俺は押すね」
 ダリエの放ったライトニングが迸る横で矢を番いつつ、様子を見る。
(こういうの以前教科書で読んだ。スイなんとか……ミーって言うんだっけ)
 もう少し思い出してみる。
「アレは……目がリーダーだったよね!」
「了解した」
 頷いた牙撃がレールガンの圧倒的なアウルの塊で、赤い魚もろとも巨大魚ディアボロの頭を吹き飛ばす。
「ぶち込むゼ!」
 司令塔を失ったのであろう巨大魚ディアボロは、ただの小魚の集まりへと姿を変える。散らばろうとする直前、エリューナクの雷遁が、ダリエのファイアーブレイクが、神埼のバレットストームが、小魚達を襲う。
「逃がしゃァしねぇよおおお!!」
 斧が再び、炎を纏う。全てを焼き尽くす劫火は海中でなお煌々と燃え、衝撃と共に起こされたアウルの陣が浮かび上がって敵を焼き尽くす。
 止め。
 残り火が幻想的に海の中で消えてゆき――収束した。


 静かになった海の上。再びマデレーネと名乗る少女に問う。
「お前は人間ではなさそうだが、天魔なのか?」
 牙撃の質問にマデレーネは気まずそうに頷く。
「この近くに住んでいるのかしら。泳げるっていう事は日頃から泳いでいるの?」
「え、ええと……」
 しどろもどろになりながら瑠璃堂の質問を聞いた後、覚悟を決めたように続ける。
「この海で育った……天使と悪魔のハーフなの」
 マデレーネは、なおも迷っていた。
 自分は掟を破った。だがしかし――破らなければ、破り続けなければ、自分達は終わってしまう。
「あなたたちに頼みたい事があるの」
 伏せる彼女の瞳の色は深海の色。
「お願い……私の街を助けて」
 青い青い海の下、秘密は密かに息衝いている。

【続く】


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ヘヴンリー・デイドリーム・瑠璃堂 藍(ja0632)
 女子力(物理)・地領院 恋(ja8071)
 STRAIGHT BULLET・神埼 晶(ja8085)
重体: −
面白かった!:4人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
撃退士・
セレス・ダリエ(ja0189)

大学部4年120組 女 ダアト
ヘヴンリー・デイドリーム・
瑠璃堂 藍(ja0632)

大学部5年27組 女 ナイトウォーカー
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
女子力(物理)・
地領院 恋(ja8071)

卒業 女 アストラルヴァンガード
STRAIGHT BULLET・
神埼 晶(ja8085)

卒業 女 インフィルトレイター
総てを焼き尽くす、黒・
牙撃鉄鳴(jb5667)

卒業 男 インフィルトレイター
魂に喰らいつく・
後藤知也(jb6379)

大学部8年207組 男 アストラルヴァンガード