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カラオケボックス『人力ジュークボックス』。
「ふぇ!? カラオケ大会!?」
カラオケの練習をしにきたヴァルヌス・ノーチェ(
jc0590)は驚愕した。いつの間にかカラオケ大会にエントリーしていたからだ。
「うう、人前で歌うなんて……でもいい機会なのかな」
店員に言われた部屋へ向かう道中、うな垂れながらも悪魔の――ロボットの姿になる。そう彼はロボ界のアイドル、ロボドルを目指しているのだ!
「ボクはアイドルになるんだ! 恥ずかしがってなんていられない!」
そう意気込み、大会会場となる部屋の扉を開けた。
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早速始まっていた。まずはエントリーナンバー一番、雪ノ下・正太郎(
ja0343)。
自身が変身するヒーロー、我龍転成リュウセイガーの知名度を上げる為に参加した彼は、名前と顔を売る営業活動もヒーローの仕事だと考えていた。
ポーズを取って青龍を模したヒーロースーツを全身に身に纏った、ヒーロー・我龍転成リュウセイガーに変身。そして歌う。
最初のエントリーとだけあり、特撮ソング調のアツい曲は大いに盛り上がった。
程よくウォーミングアップが出来た所で次、黒百合(
ja0422)の番である。
照明がじんわりとフェードアウト。そして鬱屈とさせるピアノのイントロ。全身を覆うコートを纏いながら、狂気をふつふつと感じさせる雰囲気のまま凶器系ソングを歌う。
そして見せ場の一つであるコーラスに入った瞬間、照明が落ち、冷房が全開になり室温を下げにかかり、黒百合のコートが裾から燃え始めてゆく。それでも歌い続ける黒百合をよそに、
「照明が!」「なんだこれ、急に寒くなりやがった!」「おい、燃えてやがるぞ!」「やべぇ、布の焦げる匂いだこれ!」「紙、紙よけろ!」「というかこの曲精神的に来るものあんな!」
最早五感に語りかけてくる演出に阿鼻叫喚な観客であるが、この演出は店の承諾を得ているし炎が燃え移る事もない。
歌い終えると部屋の状況が元に戻る。その中でドス黒い不適な笑みを浮かべて観客を眺めて一礼。焼け焦げた衣装の裾を揺らしながらの去り際、ライトヒールを客席に向けて放った。
騒動から一転、次に現れたのは黒いタキシードにシルクハット、マントという出で立ちのエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)。校歌を無難に歌いつつ、手品のパフォーマンス。
何も持ってないはずの手から次々とトランプを生み出し、一枚のトランプ(ハートのエース)をマントで隠し、そのたびに巨大化。マントでぎりぎり隠せないくらいの大きさになったら、更にトランプをマントでかくして、ハートのエースの絵柄を竜に変化。
ここでトランプの後ろにヒリュウ召喚、トランプを破って登場。ヒリュウが逃げ回り、ステージの上で追いかけ回す演技。その途中でいったん幕の裏に移動し、幻影・影分身を使用して分身と入れ替わる。ヒリュウを捕まえたら、体をマントで隠させ、分身、召喚獣を解除して消えさせる。
滑らかな手品の数々に、客席は拍手と歓声を送った。
盛り上げ役の佐藤 としお(
ja2489)が校歌を熱唱している。歌に自信はないとの事であるが、その熱唱ぶりは客席をも巻き込んでいる。そんな中、袖で二人は話す。
「上位ランカー狙い…ではあるが、まぁ、カラオケやもん。皆で楽しゅう歌ったもん勝ちやろ?」
「はい、先輩!」
ステージに駆け出す。。
「「でゅえっと!」」
直後、マイクの調子を確かめるようにハイタッチしたのは亀山 淳紅(
ja2261)と日比谷ひだまり(
jb5892)のペア。
早速ミュージックスタート。
明るくて楽しいポップスがルーム中に広がる。響くのは亀山の部屋の隅から空にだって走り出す歌声と日比谷の愛らしいユニゾン。真剣に楽しく歌いつつダンスは足をリズムに合わせ鳴らし、日比谷のタンバリンが彼女の振り付けと同時にしゃらしゃらと鳴る。
途中、亀山がケセランを、日比谷がヒリュウを召還してダンスは盛り上がってゆく。アウルで形成した花を咲かせ、ケセランと共によたよた踊る日比谷を見ながら亀山は可愛さこそ正義と再確認しながらも、メロディの盛り上がりも感じる。
「さぁさぁ皆さんご一緒に♪!」
サビのリピートが多く、初見でも歌いやすいこの曲。ぴっかぴかの笑顔の亀山に釣られ、ルーム中が合唱する。
『さんしゃいん 陽だまりの中 揺れるリズムに合わせ 1 2 3♪
寂しい夜が歌う前に 君の元へ走っていくわ Let me be with you♪』
二人の楽しいという気持ちは、客席にも十分伝わっていた。
次のエントリーは雨宮アカリ(
ja4010)とリリィ・マーティン(
ja5014)の二人だ。
グループ名はずばり。
「どうもぉー。CQB47よぉ♪」
「名前だけでも覚えて帰ってくれ!」
舞台袖から小走りで中央のマイクの前へ移動し、雨宮が軽快に自己紹介。
「最近だんだんと秋らしい気候になってきたわねぇ」
「そろそろ衣替えをせねばなるまい」
「あら、リリィがファッションに気を使ってるなんて意外ね」
「何を言う。夏物で秋を過ごすのは目立ち過ぎるぞ。植生が変わるからな。お前も少しは気を使え」
「植生……? 嫌な予感しかしないわぁ」
「いいか、夏物と秋物では根本的に違うのだ。詳しく説明してやろう。私がショップの店員をやるからお前は客をやれ」
「了解よぉ……って! ちょっと待ちなさいよぉ! これって漫才じゃないのよぉ!」
盛大なノリ突っ込みが冴え渡る。
「なんだ今更。私が日本のテレビで見たものを忠実に再現している。このまま続ければ優勝すら狙えるはずだ」
「狙えないわよっ! 可能性の欠片も無いわよ!」
「徹夜して作ったネタだぞ。ウケないわけがない」
実際ウケているのだが。
「そもそも貴女アイドルって知ってるのぉ?」
「日本では漫才をするグループだろう。欧米では歌とダンスだが」
「日本でも歌とダンスよっ!」
「欧米か!」
「ちょ、なんで知ってるのよそれを! なんなのよその偏った日本文化の知識は……欧米でいいのよ欧米で」
二人のやりとりの文節ごとに笑いが入ってゆく。
「では私がメインボーカルをやるから、お前はハモリをやれ」
「了解よぉ。って、なんかノリがまだ抜けきってないわねぇ……」
歌へ入る。英語の曲をネイティブで歌うマーティンと、ハモリに入る雨宮。
「ふっ……カラオケか。――俺に任せておけーっ! 」
意気込んでステージに上がったのは若杉 英斗(
ja4230)。
「それでは聴いてください。『時代よ、俺に微笑みかけろっ!』 ミュージックスタート!」
リモコンをぽちっと押すと、スピーカーからギターの利いたアップテンポな曲が流れ出す。
『時代よ、俺に微笑みかけろ!
自由の学園、久遠ヶ原
守りたい笑顔、君の未来を
倒せ天魔、大地を割いて!
唸れアウル、敵を討て!
時代よ、俺に微笑みかけろ!
だけど女神は俺にツンツン
時代よ、俺に微笑みかけろ!
いつか女神は俺にデレデレ』
客席の手拍子と共に熱唱しきった若杉であった。
「練習中なので上手い下手はあしからずっすよ」
そう言ってステージに上がったのは天羽 伊都(
jb2199)。
自身のチョイスである軽快なブラスバンドの曲を気持ちよく歌い、客席に戻って次を待ちながらスナックをかじる。
次にステージに登ってきたのは、黒スーツに中折れ帽子、そこに黒いサングラスと黒い革靴という装いので静馬 源一(
jb2368)あった。
スポットライトに照らされながら、じゃかじゃかと鳴らしたのはアコースティックギター……と見せかけたウクレレである。
「自分こそ、久遠ヶ原学園のハードボイルドなので御座る! お聴き願おう『?、変(こい)のバラッド』!」
しかし彼の雰囲気から滲み出るのはハーフボイルドである。
先程までは盛り上げ役に勤めていた砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)。しかし、次が自分の番と知ると。
「――と、出番か」
一瞬にして妖艶な表情に変わる。
ステージに立つと、自ら紡いだ曲が流れ出す。名は『Howling』。呼吸を一拍、歌いだす。
『愛に餓え 夢に餓え
眠らぬ闇の底彷徨う
還る場所など知らぬ waifs and strays
正解に正論 秩序に規則
綺麗事ならお断り
誰が決める境界線 black or white
魂(ココロ)に素直で何が悪い?
偽善より余程 pure
今欲しいモノ求め
見えぬ未来(あした)に吠えろ!』
黒のスーツでびっしりと決めたロックに、場が魅了される。
『負け犬の遠吠え上等
[ミナイフリ]より 牙を剥くだけマシだろ
隠した牙 研ぎ澄ませ今
魂(ココロ)の叫び 天を貫け――
WOW WOW WOW… 吠えろ!』
最後の煽りに、客席が歓声で反応する。その中で、決めポーズ。
「あれは、アイドル!? ここは、かなりの激戦区のようですね……」
その完成度の高さに、思わずそう零してしまう者もいた。
「にゃーお、パフォーマンスが大事なら、僕はこれで行かせてもらうよ! 」
ここぞという時の一張羅を身に纏い、ステージに降り立つ九鬼 龍磨(
jb8028)。
「歌はね、んーとね、僕が行き詰まりかけてた時にずっと聞いてた曲を、ひとつ。 その時の気持ちを思い返して、踊りと一緒に披露するね」
軽快なジャズ調のピアノに乗せられる歌詞は健康的なまでの、鬱。無機質で切ない曲調の中、九鬼は少し固く見える笑顔と、マリオネットにも似た動きの踊りで歌を披露。
サビでは、真剣な顔でくるくると回って、観客に手を伸ばす。
「お、おい。あいつ、大丈夫か……?」
やがて客席から湧き上がる心配の声。九鬼自体はとても元気である。そんなに真に迫っていたのか。
三位を狙う、という変わった人物がいた。名は芹沢 秘密(
jb9071)。
アイドルユニット花唄撫子の一員である彼女としては、曲は当然自分達のものを使う訳で。しかしギャンブル要素が足りない、との事で三位狙いなのだ。
しかしエントリーが最後の方で助かった。これで、狙うべき得点が掴めた。
いざ。『春色花唄』。
『ホップステップで大ジャンプ 桜の花弁 華麗にキャッチ
振り向いて 満面の笑み浮かべて きらいだよときみに告げる
四月の嘘は やさしくて せつなくて
握った手のひらは まだ開かなくて
花唄え撫子 春は乙女の季節
花開け撫子 夢は乙女の鼓動
春色花唄 世界中 包み込もう』
(歌なんて入学まで歌ったことがなかったから……緊張するな……)
咲魔 聡一(
jb9491)は外部に委託した曲のイントロを聞きながら緊張するも、歌い始める。
『綺麗になんて生きられないから
ありのままの命を燃やしてく』
ここで、スクール
『過ぎ去った愛しい時間を
今はまだ抱き締めて歩こう
いつかは何も恐れずに
戦う僕になれるから 』
よく舞台に立つだけあって声量と滑舌は鍛えられているし、音程も練習したので外さないが緊張が声に表れている。それもその筈。動画サイトで勉強し、激しめな動きを音に合わせ繋ぎ、何度も練習して体に覚え込ませたからだ。
「カラオケなんて久しぶり!今日は楽しむわよー! 」
一川 七海(
jb9532)は張り切り、持参した音源を流す。チャッキチャキの演歌であるが、暗い。物凄く暗い。
「一川七海、『時吹雪』……歌いまーす!」
しかし本人のノリは至って軽いノリである。落ち着いた歌い方だが、サビで技を使用し暗闇の中すすり泣きのような嘆きに近い声で歌い上げる。
「溜め息一つ〜時を進ませ〜呪えと煽る時吹雪ぃ〜……!」
こぶしやビブラートを駆使するが、最後は泣き続け滅茶苦茶のくっちゃくちゃ。雰囲気があると言えばとてもすごくある。
歌が終わってもすすり泣き続け、終わった後は端っこでアンニュイに麦茶を飲む一川であった。抜かりは無い。
「任務ではないとはいえ、手は抜けません。初のカラオケ故、全力で歌いきる事を目的に参加します」
そう意気込んでカラオケ店の機材にどんな曲が収録されているか確認するのはルチア・ミラーリア(
jc0579)である。彼女は三毛猫に煮干しを与えながら他者の歌を聴き、機材の画面を見て驚愕した。
「なんと! 『にゃんこ侍』のテーマが収録されています!」
にゃんこ侍とは。以前放送されていた浪人と猫の交流を描いたコメディ人情時代劇である。ミラーリアはこのドラマの大ファンなのだ。
主人公の浪人のコスプレをして三毛猫を抱いたミラーリアがテーマソングを力強く歌つた。
ノーチェの番である。
意を決してマイクを握った彼女が選らんだのは、アップダウンのあるポップス。
技術は低いが、そこは高めの声域と幅広い声質でカバー。上手さよりもいかに楽しく歌うかを重視する。重要なのは心であるから。また、ロボットダンスとダンスを組み合わせ、緩急をつけた独特の踊りを披露。
フィニッシュは排気口から光纏の光を放出。舞台演出の必要は無しのエコ演出であった。
最後にステージに上がったのは袋井 雅人(
jb1469)とその恋人である月乃宮 恋音(
jb1221)であった。
二人の格好は最後に相応しいと言えばいいのか、とにかく凄かった。袋井は金色昇竜褌一丁であるし、月乃宮に至ってははちきれんばかりのバニーガール姿である。
「それでは皆さん、最後はお馴染みのこの曲『瞬間エナジー』で締めましょう!」
袋井はギター、月乃宮はキーボード。二人のぴったりと息の合った演奏で、あの聞き慣れたメロディを紡ぎだした。
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この間、特別審査員である店長および店員達による審査が行われる。どの者も熱の篭ったパフォーマンスであった。審査は難航を極める。
そして、発表。
「ええっとぉ……それではぁ、順位の発表となりますぅ……」
月乃宮が審査員の耳打ちで驚く。
「え、えっとぅ、審査員であるお店の方々の評価により……上位ランカーの皆様は全員一位タイとなりましたぁ。そ、それではぁ……発表ですぅ……」
そして、大画面に上位ランカーの名が発表された。