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砂浜の死闘と、仁良井 叶伊(
ja0618)は表現した。これと言えば何を想像するであろうか。
誰かが言った。
それはドッヂボールであると。
「ドッヂボールなんてひさしぶりだな。まぁ、やるからには負けないわよ! ……勝ったらなにかもらえるのかな?」
六道 鈴音(
ja4192)は砂浜に設営されたコートを眺めながら、波打ち際を歩く。
視界の端では、「開始時とタイム時も大切です」と、仁良井がスポーツドリンクと冷たいタオルを置いた隣で専用のシューズを履いて準備体操をしている。
「無理に砂浜でやらなくても良かったのでは……?」
雫(
ja1894)の言う通りでもあろう。
「暑いですねー。……これだけ暑いのに砂浜でドッヂボール……。何故、波打ち際じゃないんだろう? 足首あたりまで水に浸かれれば気持ちが良かったのに」
東條 雅也(
jb9625)が呟くように、今日は暑い。流石は真夏と言った所であろう。
そんな環境で、灼熱の砂浜に足を突っ込むような事を考えた好き者は一体誰であろうか。それは探したところでどうにもならないと思うが。
「勝利目指して頑張っていきましょう♪」
突発的な負傷者の救護の準備をしているのは木嶋香里(
jb7748)で、その隣ではイツキ(
jc0383)が、
「で、ドッヂボールとはどういったモノなんだ?」
と言ったので説明を聞く。
「成る程。ボールのぶつけ合いか。って、危険じゃないか! こんな遊びがあったとは……なんて危険なんだ! 妹には絶対にさせられないな。 嗚呼、妹可愛いよ。可愛いよ。って、違う違う!集中せねば! 」
頬をひと叩き。
何はともあれ、砂浜の死闘が始ろうとしていた。
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組み分けは以下の通り。
白組、仁良井・雫・六道。赤組、木嶋・東條・イツキ。
ここからさらに白組の外野は仁良井が、赤組の外野はイツキが担当する。
全員配置についた所で試合開始。
「よーし、さぁ、かかってこい!!」
オーラを抑えて光纏する六道。しかし、
「あつっあつっ、砂があついっ」
真夏の砂浜に裸足で立っているのであるから仕方がない。
(武器や道具の使用もアリなの? それじゃ大き目の盾のうしろにずっと隠れていれば平気なんじゃないの? )
そうも考えていたが、実際にしなくて正解である。この暑さでは盾だってホットプレートと化してしまう。
その時、六道の体が固まる。動けないのだ。相手が発した幻影によって。直後、ボールが飛んでくる。
幻術をかけたのも、投げのも雫。全身をバネにして相手を吹き飛ばすつもりで全力で放った一球は、真夏の砂浜に風を起こした。
だが、六道に当たることはなかった。
「やはり遠距離攻撃は苦手ですね……」
コントロールを間違えたと言わんばかりに六道を見据える。
殺気。
怯んではいけない。
「砂浜の女王とは、私のことよっ!」
そしてはったり。だけではない。
外野から来たボールを受け取る。
相手の近くに、当てないようにして六道家に伝わる大地を操る魔術――六道地槍撃を仕込む。砂浜から槍を突き出して逃げ道を塞いだ上で、攻撃。
「逃げ道は塞いだわ! 覚悟っ!!」
不意打ちによる行動の制限から止める暇もない攻撃で、一人撃破。
その拍子に弾かれたボールは白組の内野へと向かい、投げられるがそれを木嶋がキャッチ。その拍子に、翡翠色のビキニの腰に巻かれた青いパレオの裾がはためく。
息を吐く暇もなく、ボールを投げる。白組コートではない。味方の外野にだ。
木嶋の基本的なプレイスタイルは、内野で相手ボールの奪取を優先し、外野パスから攻撃に繋げる流れを作る事だ。であるからして、相手の投げたボールを布槍を絡めて奪ったり、シールドを活用して出した盾でボールを真上に方向転換させてキャッチ。
外野から協力なボールが飛んでくる。そんな時は防壁陣を使用してサポート。
自身の体力・生命力消費時はボール追加前に隙を見て「剣魂」で回復しておくのも忘れない。何せ炎天下の砂浜なのだ。平時に動く時の倍は体力を消耗してしまう。慎重に行かなければならない。
「ボールにぶつからなければ良いのだろう。 ボールが来たら、避けるぞ」
ルールを知ったばかりのイツキは先ほどからこの調子で、かなり慎重な姿勢で構えている。
「外野は当たっても大丈夫ですよ」
「そうなのか。というか、むしろ受け取らないといけない訳だな」
東條に教えられて初めて外野の役割を完全に理解したイツキは、明後日の方向から不意に飛んできたボールを見事にキャッチ。
「では、受け取ったボールは、一旦内野に返す方向でいこう」
外野からの素早い攻撃もいいが、先ずは慣れないといけない。
そんなイツキのボールを受け取ったのは他でもない、東條である。
「でも、ボールぶつけるのは多分、イツキさんの方が上手いですよ?」
東條はどちらかというと回避の方が得意なのだ。当てる事に関して言えばイツキの方が上である。
ともあれ、膝のあたりを狙う。何となくそこを狙えばボールを取りにくい上、砂に足を取られて転びやすそうな気がするのだ。
当てる事はイツキ程ではないとは言えそれでも見事なもので、軽々と一人撃破。
流れたボールは外野の仁良井に渡った。
仁良井は基本的には両手効きを生かしたフリーダムな攻撃が得意だ。それを生かす持ち球も多彩で、鋭いスナップでの速攻で軸足狙いのジャイロ系のブレ球、対空時間の長いジャンプで移動しながら左右にスイッチしての渾身の投げ下ろし、切り札として両足でキャッチしてから浴びせ蹴り当て……と挙げたらきりがない。
そこで、緩急・高低を付けながらのパス回しをしつつ相手の動きを良く見て体勢が崩れたり視線が離れたら速攻というスタンスを取る。ただ、これはフェイントがあるので騙し合いになる。
外野時は体勢を気にしなくていいのでタイミングを計りつつガンガン振り降ろして行く。
そうしている内に易々と一人撃破。ここで内野へと戻る。
内野では雫が感知を使用して自分に向かってくるボールを把握 していた。そして、弾の威力が強い場合は、足元の地面を攻撃して砂を巻き上げて弾の軌道を上に逸らして威力を殺ぎ、複数のボールが向かってきた際は、翔閃を使用して放った相手に向かう様に武器を利用して撃ち返す。
手際が良かった。
ボールの軌道上には六道。まずは隙を見てあらかじめかけておいた風の力によって少しだけ軌道を逸らし、キャッチするつもりであったが――ボールが早い。当然威力も強い筈だ。そんな時は、瞬間移動。
「コレ……、反則じゃないよね!?」
違反事項には載っていないので反則ではない筈だ――と思いながら安全圏でボールを取り、再び瞬間移動。
「どこみてるのよ、コッチよ」
人の影に隠れてボールをやりすごす者というのもドッチボールには存在している。姑息と言えば姑息であるが、昔からよく使われている古典的な方法でもある。
そういった者に対しての行動だ。ボールを投げる直前に瞬間移動して投げる位置を変え、フイを衝く。
対する雫は、試合が白熱するに連れて、感覚が相手に当てる事から当てて撃沈させるに変化。この変化に伴い発言も段々と過激になって行く。
「くっ……まだ、息がありますか――殺り損ねました」
ボールを放つ際も、
「死になさい!」
見事に百八十度変化していた。
この強力なボールを迎え撃つ東條は、立地の悪さに心の中でボヤく。何せ今の彼はコーナーに追い詰められていたからだ。
仕方がない。
跳躍。ボールが砂浜にバウンドする。それを転がっていかないように足で押さえた。
まだボールが二つでないので助かったが、もしこれが二つであるなら、二個目のボールにも注意すべきであった。
どちらにせよ、スキルを使いまくって避けるということになるのだが。苦笑。
外野にいるイツキはドッヂボールに慣れてきた頃合であった。
そこで方針を転換。外野に来たボールを素早く敵に。 狙いは低めで、足元を狙っていく要領である。受け取りにくい場所であるから、当たりやすいだろう。 スマッシュを使って、勢いを殺さずに行く。あとは投げるフリとかのフェイントで、少しだけ敵を欺こう。
そして何人か撃破した時、いよいよ内野に戻る。
常に動き回り、ボールは回避の方向で――
「って、顔を狙うな!顔はダメだ。ボディにしろ! 然し何故、こう、顔面に当たるのだ……!」
先ほどから何故かイツキは顔にばかりボールが飛んでくるのは何故であろうか。
顔面はセーフなルールであるので、ルールの上では大丈夫なのだが。そういう問題でもないようだ。
取り合えず顔面に当たったボールは、跳ね返りで敵内野へ入らないようには注意しておかなければならない。あとは、連携を上手くとっていく。
外野から戻ってきた、と言えば 仁良井も同じである。
内野時は狙われるのはまず間違いないので高い機動力を活用しつつ追い詰められない様に先を見ながら回避。取れたらまずは外野に戻すが、この時に向こうが外野に向いたらパスする振りから速攻を仕掛ける。
とにかく、相手のスタミナとスキルの使用回数を削り、そこから相手のミスを最大限に生かす事が――姑息だが勝機を掴む術である。
現に仁良井のこの動きにより体力気力共に削られた相手が何人か撃破されている。
「――見た目に反してずるいですね」
「……そんな事言わないでください」
行動から仁良井の考えを読み取ったであろう雫が一つ。そう言われれば結構落ち込んでしまう。
開始二十分が経とうとした時、誰かがタイムを申し入れた。
休憩時間に入る。
木嶋が救護役として忙しなく動き回る中、各自冷たいものを飲むなどして休憩を満喫する。
「大丈夫ですか? この暑さです、棄権も仕方がありません」
タイムを申し込んだ生徒は顔色が悪そうであった。それを見越して、安全の為にも棄権を薦める雫。これは自分も危なければ棄権もやむなしという考えからだ。
東條は周りの人間に提案する。
「もし良かったら二個目のボールでビーチバレーをしませんか? 折角ビーチでするんですし、ボールも普通のボールとビーチボールでは色々と違うので面白いかなーと」
それもそうだな、と頷く声。
――後半戦も、何やら面白い死闘が繰り広げられそうである。
【了】