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マスター:川崎コータロー
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:10人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/12


みんなの思い出



オープニング

 梅雨もそろそろ明け、夏をぐんと感じるようになった今。
 『柊ブリリアントリゾート』は連日、準備にひっきりなしであった。巨大レジャープール施設を何よりの売りにしているこのリゾートランドは、必然的に夏こそ書き入れ時となる。
 着実に準備が整ってゆくのを、スタイルが良く、一目で姉御肌だとわかるリゾートの支配人・如月沙耶(キサラギ・サヤ)は満足そうに眺める。
「いいね、いい出来だ……」
 しかし、何かが足りない。
「こう……パンチの効いたものをやりたいねぇ」
 実は今年は、柊ブリリアントリゾートプールの記念すべきリニューアルオープンの年なのだ。メディアの注目も集めたいし、近場の子供たちも呼んで盛大にプール開きのセレモニーを行いたい。
「パンチの効いた――盛大な――」
 リニューアルのお陰でまっさらなプール施設の中を、あてもなくふらふらと歩く。パンツスーツのポケットからは、適当に突っ込んだ靴下タイプのストッキングの裾がゆらゆらと揺れている。
 ウォータースライダー、回遊プール、子供用プールに、大きさも形もさまざまなプール。
 その時、造波プールに差し掛かった。自慢の幅40メートル×奥行き50メートル、最大水深は150センチメートルの巨大プールだ。機械の試運転をしているのか、波打ち際では人口の波が心地よい水音を立てている。
「……そうだ」
 稲妻が頭にぶち当たる。
 夏。海。海賊。荒れくれ者。義賊。海軍。誇り高き軍人。良きライバル。今日も剣を交えつつ、互いの実力を認め合う――
「甲本!」
「はっ、はひぃ! ただいま〜〜〜〜!!」
 高く響くほど威勢良く両手を二回叩くと、たちまちの内に人影が彼女の傍らに飛び込んでくる。気弱そうな童顔で眼鏡の女性は――秘書の甲本岬(コウモト・ミサキ)だ。
「いい考えを思いついた。急いで骨のある奴数人連れてきな」
 にっ、と歯を見せて不敵に笑う如月に、甲本は真っ青な顔で頷くしかなかった。
(し、支配人……また何か凄い事をやるつもりだ……)
 だが、詳細を聞かねば始まらない。
「支配人! そっ、その……いい考えとは?」
「さあてね、何から話そうか。……いいかい」
 そうして如月は、「いい考え」の全容を話し始めた。


リプレイ本文


 柊ブリリアントリゾートのプール施設の中の造波プールではセットが組まれ、お呼ばれされた近隣の子供達がと記者が見守る中、プール開きのセレモニーの幕が開けた。
「ハーッハッハ!」
 直後客席後方から現れたのは、ワイルドな海賊服に身を包んだゼロ=シュバイツァー(jb7501)である。彼が黒いマントをはためかせて客席内を歩く度、子供達が歓声を上げる。
「今日は人が大勢いるなぁ! 俺らは自由を愛する海賊団! 団員は随時募集中や! こん中に海賊になりたい奴はおるか?」
『はーい!』
 次々に手を上げてゆく子供達に、シュバイツァーは水風船を渡してゆく。
 これぞ戦略。煽り言葉を入れつつ、観客を海賊の見方にするのだ。
「これから海軍と一戦交えるかもしれん、そん時に力を貸して欲しい。砲撃戦の時はその手に持った玉思いっきりぶつけてくれ! あ、間違っても俺らの方に投げんといてくれよ♪ ――あ、せやせや忘れてた。ここ最近海軍の女魔王って言われてる奴らが幅利かせてんねん。何かあったら手伝ってな♪」
 すると、下手側から汽笛の音が響く。
「お、船が来たみたいやな! あれが俺らの海賊船や! おーい!」
 するとロックなメロディと共に船首に海賊の一団が現れる。
「やあやあ、紳士淑女にチビッ子諸君! 俺がキャプテン・ソウだ!」
 眼鏡を外して眼帯を装着し、学ランに似た形のロングコートを着て、咲魔 聡一(jb9491)は客席を一望する。
「皆、海賊は好きかー!?」
「「すきー!」」
「ハッハッハ!そうかそうか!応援ありがとうなー!」
『アイシテルゼー!』
 左肩に停まっているオウム、実はパペットだ。左手がフックで肩にオウムが留まっている、と見せかけて、本当の左手はオウムの中という器用な仕組みだ。
 すると、上手側からも汽笛の音。
「今日も来やがったな。海軍の奴らだ!」
 ファンファーレと共に、上手の船の船首から海軍が現れる。そのトップを張るのが、海賊全盛期時代の海軍提督服にセーラー服の要素も入れた、白を基調とする衣装を身に纏う月乃宮 恋音(jb1221)――こと『ルナ』だ。
「海賊、また現れましたね」
 彼女は提督帽をくいと上げ、抑えた口調で海賊船に告げる。
「今日こそ捕まえます。覚悟しなさい」
「そうはさせるか! 野郎共、砲撃戦の準備だ!」
「砲撃用意」
 そして提督の彼女は腕を組んだまま動かず、静かに告げる。
「砲撃開始!」
 第一の見せ場、砲撃戦が始まる。
「今や! 投げまくれ〜!」
 シュバイツァーの合図も加わり、客席からもタイミングは様々に水風船が飛んで来る。
「わわっ、うわっ!」
 可愛い水兵さん、といった風な花菱 彪臥(ja4610)は、飛んで来る水風船を樽の蓋や板切れで防ぎながら、見張り台に上って弾道を確認。弾はどこかに当たって派手に飛沫を上げながら『爆発』する。
「いや、それでも!」
 自由な義賊に興味はあるが、それでも今の自分は誇り高き海賊なのだ。花菱一等兵、今ここで立ち向かわずして何をしよう。
 レイピアを取り出し、飛んで来る砲弾を次々と撃破してゆく。
「ジャンジャン弾詰めるで!」
 海賊船も負けてはいない。黒神 未来(jb9907)は弾を次々と装填し、片っ端から撃つ。爆発の飛沫は客席まで降りかかり、子供達がきゃあきゃあと歓声を上げる。
 プールの上ではかなり派手な砲撃戦が展開されてゆき、客席からの水風船爆撃が収まった頃、船同士を繋ぐ渡し板が登場した。白兵戦の始まりだ。


「あの優しかった姉さまたちが、何故、海賊なんかに〜!」
 普段着ないミニスカートの白い水兵服に身を包んだ深森 木葉(jb1711)ことリーフは、懸命に海賊船へ向かってゆく。渡し板から乗り込もうとした瞬間、飛んできた砲弾こと水風船が顔面にクリーンヒット。演技ではない、素だ。額を押さえてうずくまる。
「あううぅぅぅ……」
 客席から「頑張れー!」と応援を貰った所で気を取り直し、海賊船へ向かう。
「ふふ、今日こそは決着を付けて差し上げましてよ!」
(下は見ない下は見ない〜)
 海賊のコートにミニスカートの可愛らしいドレスローブを着たシェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)は、眼下で波打つ水面を見ないように務めながら海賊帽を指先で上げる。
「あら……遊んであげる、が正しいのではないですか?」
 ロンドと揃いの海賊衣装を着た天ヶ瀬 紗雪(ja7147)は、柄にもなく不敵に笑う。膝丈のスカートを風にはためかせながら深森を待ち構える彼女も、努めて下を見ていない。
 最終確認も兼ねたゲネプロで、こんな事があった。
『さ、さゆ姉様……わたくし泳げないので、もし落ちたら助けてくださいね?』
 実はロンド、カナヅチなのだ。真っ青な顔で天ヶ瀬に請う。
『はぃ、もちろん♪お助けするのですよ。しかし、私は泳げますが高いところが怖いです』
 きりっと新事実であった。
『おぉー、大丈夫なのですよ?この位の高さ……も、問題なしなのです! 』
 某有名映画よろしく両手を広げながら船の縁に立つ天ヶ瀬の体の軸はどこかぶれていて危なげだ。
 ――つまりは直接頼りになるお互いがお互いという訳なのだが、「観客の皆さんにも楽しんで貰って、私たちも楽しませて貰っちゃいましょう♪」という天ヶ瀬の言葉通り、その辺りは撃退士のプロ根性で補完だ。
「やってきましたわね。さあ、姉様?」
「ええ、シェリちゃん。素敵な舞台が整った、さあ……!」
「「カリブ海に咲く華の輪舞をとくとご覧あれ」」
 光の花が散り、三者は相対する。
「リーフちゃん、ご機嫌よう……♪散らすには惜しい華ですが……敵味方となっては仕方ない……」
 構えた両手剣の刃にカトラスの刃を交える天ヶ瀬。
「そんなぁ……えい! えいっ!」
 身体に合わない大きな剣をブンブン振って懸命に攻撃するが、剣に振り回されて攻撃は当たらない。そんな彼女を二人は、常に一対一になるように心がける。
 一人が相手をし、リーフの攻撃に隙ができたら交代。もう一人が同じように攻撃をあしらい、寸止めで曲刀を突きつけ、ラッパ銃の銃口を突きつける。実にリズムのいい、拮抗した攻防戦であった。
 攻撃を一度わざと弾かせたロンドは、そのまま険しい顔で客席に向く。
「さ、さすが強いですね……皆さん、どうかわたくし達に応援を!」
 すぐさま子供達は「海賊がんばれー!」「おねえちゃんがんばってー!」と叫んでくれる。
「ありがとうございます! さあ、そろそろ決着と行きましょうか!」
「うわあ!」
 やる気を出した海賊の二人により、コテンパンにされるリーフ。動けなくなったところを天ヶ瀬の手によって海軍の軍船に放り込まれる。
「次こそは勝ちますわ。手加減無しで」
 そんなロンドの言葉と共に軍船に放り込まれたリーフは祈るように胸元で手を組む。
「姉さま方、今度こそ捕まえるのです……。だから、他の海軍に捕まっちゃダメなのですよ……。次に相まみえるまで、どうかお元気で……」
 海賊になるとうとも、大好きな姉達には変わりはないのだから。

 黒神は隙を見てマストに登る。ターザンの要領で海軍船に渡ろうという腹積もりであったのだ。そこである人物を見つける。
「あ! アイツはクレールやないか!」
 積年のライバルという設定のクレール・ボージェ(jb2756)だ。子供達が持つパンフレットには『海軍だけど自由奔放で偉そうな武官』との表記が。
「ここで会ったが百年目、今日こそ決着付けようやないか!」
 バンダナを上げ、海賊衣装の襟元を正して海軍船にいるボージェを指差す。へそ出しでリボンを絡めた可愛らしい海軍衣装を身に纏う彼女は、目立っている黒神を追って自身もマストへ登る。
「うふふ、この海で自由にして良いのは私だけよ! 海賊は大人しく捕まってなさい!」
 マストを伝いながら一度剣を交える両者。やるからには本気だ。
 鍔迫り合いをした後大きく後退すると、愛用のハルバードを片手にロープを掴んで宙へと踊りだすボージェ。それと同時に黒神も模擬刀のカットラスを手に持って宙にてボージェと相対。
 そこでボージェは翼が見えないように闇の翼を使って早さや方向を調節し、ロープでクルクルと観客席の上空を回りながら黒神と打ち合う。意思疎通でタイミングもバッチリだ。
 上空で派手な空中チャンバラを見せる二人に子供達は歓声を上げる。盛り上がった所でマストに戻った二人は、もう一度対決。
 カットラスとハルバードによる激戦。その最中、ボージェは黒神の武器をプールに跳ね飛ばし、勝ち誇ったように不敵に笑う。
「……うわ! 剣を弾き落とされてもうた!」
「あらあら、その程度の腕では自由は勝ち取れないわよ、海賊さんっ」
「なんやて〜!」
 わざと作った隙に、フランケンシュタイナーで黒神が飛び込み、共にプールへと落ちる。
「これでうちの勝ちや!……うわっ! 何でうちまで落ちてんねーーーーん! 」
 水面に激突する数瞬前、ボージェはスマッシュを打ち込んで派手に水飛沫を上げた。

「それじゃ、そろそろ正々堂々真正面から」
 平海兵としてただ大砲を撃つだけであった数多 広星(jb2054)は、模造刀を持って桟橋に出る。
「はっはっは! ついに来た、待っとったでー!」
 現れたのはシュバイツァーである。翼を広げ、意気揚々と早速大鎌を構えて縦横無尽に駆け回る。
「ぐっ……!」
 コミカルは封印してのガチバトル。数多は何故か水風船の軌道上に自身を突っ込み続ける。何か策があるのか、飛んでくる水風船を極限まで衝撃を吸収してシュバイツァーに跳ね返したり、たまに打ち損じたように見せかけて高く上に打ち上げていく 。
「何や何や。小細工かけて追いかけっこしてもしゃーないでぇ!」
 相手は飛んでいるのだ。陸上にいるだけしかない数多は不利でしかない。
 何を考えたのか、そこで一気にUターン。
 しめた、とシュバイツァーは思った。瞬間、数多の姿は消える。
「どこに――!」
 大量の水風船が飛来する。
「正々堂々正面から不意を打ってあげましょう」
 背後で耳打ち。
 同時に、シュバイツァーに多数の水風船が飛来する。
 これが数多の『狙い』。
「こンの――」
 しかしそれでも怯みもしなかったのは流石というべきか。数瞬もしないうちに体制を立て直し、数多へと鎌を振りかぶる。
 刃がその首をもたげようとした時――数多は両手を挙げて水面へと落ちてゆく。
「……何や。つまらんなぁ」
「自分、平海兵ですから」
 大きな水飛沫を上げ、たゆたう水の中へと数多は落ちていった。

「提督! 最後は俺らで白黒つけようぜ!」
 最後に戦うのはやはりこの二人――キャプテン・ソウと、提督・ルナ。
 渡し板の上で互いに剣を交え、じっと見つめあう。
 先に仕掛けたのはソウであった。
 ファルシオンに似た剣を振るい、まず一撃。しかし、華麗に受け止め、流される。
「へえ、また強くなってんじゃん! 嬉しいなあ!」
 攻撃的な動きであるが、その実足運びは慎重であった。何故ならソウは左手がオウムの操作で塞がっているのだから。
 瞬間移動を使い、ソウの背後に回りこむルナ。
 ソウの突き。しかし流され、下から回り込むように反撃。ソウが紙一重で避けると、一度距離を取る。
 こうして静と動を使い分け、手に汗握る攻防戦を展開する。
「海賊なんかに負けるわけには行かないわ! さあ! みんな! 声を上げて応援するわよ!」
 そんな中でボージェは客席に出て応援を煽る。
「海軍がんばれー!」
「海賊もがんばれー!」
 子供達の無邪気な歓声が、流れる険しげなBGMに押し勝つ。
 刃が幾度も交わった時、ソウの剣が海賊船に吹き飛ぶ。
「さあ、観念しなさい」
「あちゃー、これ俺の負けかな?」
 喉元に切っ先を突きつけられても尚、不敵に笑う。
「誰が捕まるって?」
 落とした剣を拾うと見せかけ、本物のファルシオンを取り出し、渡し板を叩き斬った。
「目的は果たした、皆ずらかろうぜ! またな、提督並びに海兵たち!」
『アバヨー!』
 落ちてゆく渡し板から軍船に飛び移った提督に手を振るソウ。
「なんでやねん。まだやれるやろ? しゃーないなぁ……おい魔王! 次は相手してもらうからな〜☆」
 その横から飛び出したシュバイツァーが最後に手を振り、海賊は船へと姿を消してゆく。
「――撤収」
 その姿を静かに見た後、ルナは船に戻った海兵達に告げる。海兵達は、凛々しく敬礼を決めた。


「ねえねえ、キャプテン。どう、似合ってる?」
「おっ、似合ってるじゃん! 中々カッコいいぜ!」
 子供が着ているのは、咲魔の衣装と同じもの。もちろん、咲魔だけでなく、他のキャストの衣装やマスコットだって販売されている。
 これは咲魔が提案したものだ。型紙も彼が起こし、皆に手伝って仕上げた。大盛況なようで、衣装に着替えた子供達がキャストと写真を撮っている。
 ショー終了後のこの時間は、キャスト達が考案した企画が催されているのだ。
 碇の形をしたクッキーをかじって満面の笑みの子供もいれば、手作りのパンフレットにサインを求める子供もいる。
 そんな中ロンドは一瞬の隙を突き、天ヶ瀬の顔に自身の顔を寄せてカメラを構える。
「そして最後は二人で思い出作り♪ はい、チーズ☆ 」


 いよいよお待ち兼ね。プールがキャストのみの貸切となった。
「まずは……バタ足の練習から!」
 指定水着にゴーグルを装着した咲魔が、比較的浅めのプールに飛び込む。
「シェリアお姉ちゃん、紗雪ちゃん、一緒に泳ぎましょう〜」
 透けない白襦袢を着て浮き輪でぷかぷかしている深森の横、
「私は今、何故泳げない方がカナヅチなのか目撃しています」
 薄桃色のサマードレスの水着を着た天ヶ瀬は、カナヅチの意味を痛感する。
「こ、こうですか……ぶくぶく」
 ワンピース水着を着用したロンドが、天ヶ瀬に手を持ってもらってバタ足の練習をしているのだが、これが不思議な事に首尾よく沈んでいっている。
「あれ、俺……泳げたっけ?」
 と直前に思いつつ、何も思い出せないので構わずプールに飛び込んで泳ぐ花菱。
「さ、お仕事も終わったし大人の時間と行きましょか? ご褒美くださいな♪」
「いいだろう」
 今回の仕掛け人こと女社長の如月をナンパに誘うシュバイツァー。反応は上々だ。
 そんな彼らを、逆さまになった視界で使い捨てカメラで撮る数多。浮き輪に乗って色んなプールをずっとぷかぷかしている。
「……酔いそう」
 ぼそりと呟いた時、「数多クンもおいでやー!」と自慢のDカップを見せ付けるような黒ビキニを着た黒神に呼ばれる。
「でもまぁ、たまには皆でワイワイやるのも楽しいかな」
 遠くを見ながら、プールに上がる。写真は今度、皆に配ろう。
 パラソルの下、胸元がかなり危うい桃色のビキニを着た月宮がゆったりとしている後ろ、海賊衣装のまま併設のレストランで沢山の美食を堪能しているボージェは頬を綻ばせた。
「うふふ、幸せだわ」
 穏やかな時間は、暫し続く。

【了】


依頼結果