●変態の変態による
ずらり、と同じような建物が並ぶ倉庫街の一角を、華麗に舞う黒い全身タイツのシルエットが三つ。
風にたなびくムダ毛が見苦しい事この上無い其の姿は、紛れもなく今話題の『這い寄る変態』メンバーのもので間違いなかった。
彼らはここに大量の靴下が搬入されると聞いて、其れを阻止しにきたのだ。
これも全て彼らが愛してやまない素足の為、涙ぐましいばかりの無駄な努力なのだ。
それにしてもこの三馬鹿、単純である。
いいのかい、ホイホイそんな情報に釣られてきちまって。
しかし、行かずにはいられない。
それが変態紳士たる彼らの鉄の掟なのだから。
そんな訳で、とある倉庫の前までやって来たのだ。
慎重かつ大胆に内部に潜入する。
暗い倉庫の中を数歩進んだ所で、重々しい音を立て扉が閉ざされた。
そして悟る、これが罠である事に。
「「「こ、こんな餌でこの俺たちが釣られただと!?」」」
お約束のようにハモる三馬鹿、健気である。
そんなお馬鹿を晒している内に、ガシャン、と言う音と共に、倉庫の中央に謎のスポットライトが当てられた。
光が当てられた先には、椅子に腰掛け足を組み、挑発的な視線を投げかける少女、九曜 昴(
ja0586)の姿が。
どことなく扇情的なその姿は、まさしくやらないか状態。
据え膳食わぬは何とやら、変態達は嬉々として昴を取り囲んだ。
「ここで逢ったのも、ぼきゅ達の運命」
「お近づきの印にその靴下、剥がせて頂くでござる」
「安心したまえ。我らは脱がしのプロだ」
変態達が微笑む。
しかし、昴の表情は変わらず。
脱がしたきゃ脱がせば、といった表情で見つめ返すのみである。
「「「ならばその素足、ぺろぺろさせて頂く!」」」
変態達の魔手が靴下へと伸びた、が。
「「「こ、これはマトリョーシカ!?」」」
脱がしても脱がしても後から後から出てくる靴下の入れ子履き。
それでも計5層の靴下を脱がし終え、現れ出た輝かんばかりの白い足を前に感涙に咽ぶ。
その顔面に、これでもかと言わんばかりに昴が踏みつけた。
「我々の業界ではご褒美です!」
あまりにも的確な飴と鞭具合に、嬉しさのあまり失禁しそうになる変態。
それを踏みつけ悦楽の笑みを浮かべる昴、まじ女王様である。
しかし、そんな至福の時間は長くは続かない。
「僕の言葉を聞けー! なのですっ」
殺伐とした倉庫内にロングスカート姿の清清 清(
ja3434)が現れた。
気がつけば清以外にも複数の撃退士に包囲され、逃げ場を失っている。
這い寄る変態、万事休す。
「女の子に不快な思いさせる変態行為は許せないよね〜……。っていうか、ただ全部露出させれば良いというものではない! そこにエロは無い!」
そうやってしたり顔で熱弁を振るうのは集った撃退士の中で唯一の男性、レイン・レワール(
ja5355)だ。
「ボトムとソックスの間から見える肌! 僅かに晒す神の領域と言われる、絶対領域!」
淡々と、しかし熱を帯びて語る魅惑の絶対領域への情熱、そのフェティシズム、どこまでも変態的。
「その少しだけ見える素肌に、エロティシズムが生まれるんだよ〜!」
周囲の女性陣の若干引いたような視線もなんのその。
今日もレインは元気です。
「筋金入りの変態共め! 妾が教育してやるのじゃ!」
そういって前に進み出たるは自称『榛名山の天狗姫』、八塚 小萩(
ja0676)、元気いっぱい犯罪臭たっぷりの6歳児だ。
「傷付きやすい心の者程、傍迷惑な信念や奇矯な出で立ちや言動で自分を守ろうとするものよ。汝等は傷を舐め合ってるだけじゃ! うつけ!」
ロリ美少女のありがたい説教を聞きながらも、変態共が注ぐ視線の先は、白くか細い幼女足である。
歪みねぇ変態、ここに極まり。
しかし、その変態の更に上を行く変態現る。
「我はきゃ奴等の仲間でない! 通報止めぇぇ!!」
三馬鹿と同じく全身黒いタイツを纏った内藤 狂子(
ja5644)その人である。
どんな理由があってそんな格好をしているのかまったくの不明だが、何かしら変態と通じる所もあるのだろう。
「喝ッ! 道程を外した童貞共! 脱がす楽しみを見出した心は褒めよう! が汝等の素足フェチには詫びも錆びも無き只の足! 恥じらい無きお色気シーンの如し!」
でなければこんな完全にあっちのベクトルへと突き抜けた台詞は言えまい。
「季節無視の水着カットなど寒いのみ! 素足の輝きは夏こそ映ゆる! 冬なれば黒タイツ! 女子や汝等の肌を守り暖める母性の象徴! 冬の守護神ッ!」
最早何が言いたいと問うレベルである。
「更に美しき中身を見守り想像する紳士遊戯も楽しめる! 汝等も其の魅力を知る故纏うであろう?」
長い、あまりにも長い演説は、仲間撃退士と這い寄る変態、その場にいる全ての者のドン引きの視線を以て迎えられた。
どうしてこうなった。
そして、撃退士達の懸命の説得? は三馬鹿に届く事はなかった。
小馬鹿にして笑ってやがる、説得内容が変態すぎたんだ!
「ふん、其れがどうした! 我ら『這い寄る変態』、この有り余ったムダ毛以外の何者にも縛られぬわ!」
密室に変態を閉じ込めた事を後悔させてやる、と言わんばかりに意気込む三馬鹿の前に、清がおずおずと進み出る。
「男じゃ……ボクじゃ、駄目なのですか? もしも、ボクでいいなら……その……」
顔を赤らめ、徐々にスカートの裾を持ち上げていく。
その下に秘匿されていた白く健康的な素足が露わになっていき、扇情的に視覚に訴えかけてくる。
これが男の娘と呼ばれる新人類のパワーである。
「お、男の娘だと!? ……イイ! だが、栄光の素足は我ら自身の手で掴ませて頂こう!」
効果はテキメンだ。
しかし、あくまでも自分で脱がすのがいいらしい。
我が儘である。
説得が無謀なのは誰の目にも明らかだった。
激突は避けられない、と。
その段階になって、一閃組のツッコミ職人ルーネ(
ja3012)と黒髪パッツン和風少女、氷雨 静(
ja4221)がアタッシュケースを手に躍り出た。
「私達全員を倒せたら、学園女子素足本を渡してやんよ!」
「私達を倒せたら、この中にある久遠ヶ原学園女子特選素足本を差し上げます」
そう言ってサンプルをペラペラと捲る。
そこに映し出されていたのは魅惑のゴスロリ少女ユウ(
ja0591)が、雪が舞い落ちる砂浜にて傘を持ち素足で佇むという、アイドルばりに絵になる作品。
普段は重厚なフリルとレースの要塞に秘して納められているユウの、病的なまでに白い肌が美しくも眩しく映える。
当の本人は暇そうに倉庫の隅でバナオレを飲みながら静観しているのだが。
「ぶっ殺すって依頼だから『わたし』が出てきてあげたのに……」
などと物騒な事を呟きながら。
しかし変態共の反応は上々である。
「「「ゴスロリ少女大好物です!!!」」」
だが、そのテンションは次のページで一気に下がった。
狂子の写真なのだが、何故か全身黒タイツの足の部分だけ切り抜かれ、そこだけ素足で他はタイツのままなのである。
シュール、まさにその一言である。
三馬鹿を賢者タイムに突き落とすには充分すぎる破壊力をもっていた。
「無理やりは中の本もダメになりますよ? 皆から番号聞き出してね」
やんわりと静が注意を促す。
その手には折りたたまれた番号札が握られていた。
小萩も番号札を見せびらかすように、ひらひらとさせる。
そうして強気な笑みのまま、自分のスカートを勢いよく捲り、番号札を下着の中に押し込んだ。
否、下着ではない。
それは紙オムツだよ!
「いくら変態でも6歳児の下着の中までは……ん? ぎゃあああ! こ、これは妾愛用の紙オムツ!」
流石僕たちのハギにゃん、おバカわいい。
「白地に淡い水色とピンクの水玉模様でバックプリントはクマさんの顔っ……! 今朝は奇跡的に粗相をしなかったので履き替えるのを忘れたのじゃっ!」
色々なモノがダダ漏れである。
流石僕たちのハギにゃん、カワあざとい。
「妾は誇り高き天狗の姫……、下着や裸を見られたくらいでは恥とは感じぬ……。だがっ! おむつは別じゃああ! 全部貴様らのせいじゃ!」
人、其れを逆切れと言う。
鬼気迫る形相で血の慟哭を振りかざし、ニーソを破りすて素足を露出。
竹槍の如く切りそろえた下仁田ネギを手に、三馬鹿へと疾駆する。
「ふはは! なんだかよくわからんが、元よりそのつもりよ! 素足本? 笑わせるな!」
「ぼきゅ達がそんなもので満足するとでも? でも貰えるなら頂きます!」
「ここに生の婦女子がいるでござろうに、其れを差し置いて本にうつつを抜かすなど、変態の風上にもおけないでござる!」
変態達が叫ぶ。
「「「故にっ! その生素足、我らが堪能させて頂く!」」」
こうして、一大変態決戦の火蓋が切って落とされた。
●変態の明日はどっちだ!?
「「「ジェットトリプルアタック!」」」
ギャランドゥを靡かせ、三馬鹿が疾駆する。
ネギを手に突進してきた小萩の背後を鮮やかに取ると、素早くスカートを捲り上げた。
「やーい、お前のパンツはクマさんオムツー! だが、其れがイイ! ぺろぺろ」
そして、去り際に裏ふとももを舐めていった。
「このっ、変態めっ!」
小萩が振るう変態の尻を狙ったネギの一突は、しかしへし折れる。
なんて堅い鋼鉄の尻なんだ、ネギの強度が足りなすぎたんだ。
その勢いのまま、清へと迫る。
「お、男のボクにして嬉しいならやってみろ、なのですよ!」
武器を盾に持ち替え、それに隠れながら清が叫ぶ。
しかしその台詞は火に油だ。
「ガッテンショウチノスケ!」
変態駆動であっという間にロングスカートを脱がし去った。
美味しそうなふとももとスパッツが露出する。
「変態! 変態! 変態! 変態っ!」
涙目で必死に上着でスパッツを隠しながら、魔法攻撃をする。
その攻撃の一つ一つに殺意がこもっていた。
魔法男の娘本気狩る(マジカル)清たん、爆誕の瞬間である。
しかし攻撃は当たらない。
回避値極振り変態仕様じゃないの、まぢこれ、と疑いたくなる程に。
そしてその速度を保ったまま、レインへと突貫――しようとしたが、はるか後方でヤジを投げていた。
「童貞を慰め合うな! 脱がせて喜ぶなんて低レベルではしゃぐな! 男なら女の子自身に脱がせるぐらいの気持ちでいけ!」
よほどカンチョウが怖いらしい。
変態がギロリと睨む。
「でも、生足も良いよね。日に焼けた健康的な足とか……」
流石のレイン先生、絶好調である。
レインへの攻撃を諦め、次の獲物へと突貫しようとする三馬鹿の前に、静かが進み出た。
ショートパンツとニーソックスの間にできた、純白の絶対領域を見せつけながら、頬を朱に染め、艶のある声で囁く。
「……私、脱いでも凄いんです。……いいんですよ? 脱がせても」
エロスの権化である。
普段の大人しい少女の面影が絶賛迷子。
これが、大人の階段を登ると言う事なのだろうか。
ならば、期待に応えねばなるまい、と変態が手を伸ばし――。
「そぉい!」
不意打ちに放たれた魔法弾をぎりぎりの所で回避した。
「……男の人って本当に単純」
髪をかき上げ、ぽつりと一言。
「騙したなァ!」
変態から抗議の声があがる、が。
「黙れ、女の敵」
静さん、ちょっと裏の顔が漏れてますよ。
容赦なく襲いかかる魔法弾を器用に避けながら次の獲物を探る変態の前に、ユウが立ち塞がった。
「おいで、風の刃。あの人たちを刻んであげて」
クロスファイア。
十字に撃たれる魔法弾の雨を地面に伏せ、回避する。
「こんなところで寝てると、とっても怖ーいお人形さんに殺されちゃうよぉ?」
しかし、ユウは容赦しない。
四肢の一本は切り落とす気満々で魔法弾をぶっ放す。
「そぉい!」
しかし、伊達に変態をやってはいない。
腹筋の力で地面に身体を打ち付けると、その反動で空中へと緊急浮上。
くるくると回転しながら、ユウへと疾駆。
その靴下を脱がし、露わになったふとももをぺろぺろする。
「ゴスロリ少女の生足! たまらん! ぺろぺろ」
しかし、ユウ不動。
この純粋培養少女、セクハラの概念がわかっていない模様。
求む、要教育。
しかし、火線が集中し、なかなかセクハラに集中できない。
諦めて次の獲物、狂子へと向かう、が。
「汝我に性欲を持て余せる哉!?」
緊急回避し、昴へと向かった。
どうやら大量に換えの靴下を持ってきていたらしい昴は、既に素足ではなくなっていた。
そこへスライディングしながらズサっと変態参上。
華麗な技で靴下を脱がせ、足を舐める。
「ちょっと上を……向くといいの」
眠そうな瞳に怪しげな光を宿した昴が促す。
パンツでも見せてくれるのかと素直に従った変態の顎を蹴り上げた。
「ごふっ!?」
悶える変態のこめかみにピストルを当てる。
「……変態にかける容赦は……もってないの」
殺意を込めた弾丸が撃ち込まれた、が。
「「そぉい!」」
ぎりぎりの所で仲間の変態を回収する変態、チームプレイはまるである。
そして、やや孤立気味のルーネへと迫る。
しかし、彼女とて撃退士。
やる時はやるのだ。
「変態撲滅!」
隠しもっていた棒を操り、足元を払う。
が、見事に避けられ、ニーソをもがれた。
更に、ミニスカであった為に、パンツ丸見えである。
随分と間抜けな格好となったルーネのお尻に、鼻を当て、三郎冠者ご満悦。
「この香り、うーむ、マンダムでござる」
しかし、彼は知らない。
それは死への一歩だ。
キケンシグナルは既に鳴り響いている。
しかし気がつかない。
それほどにパンツまっしぐら。
モード反転、過負荷。
少女に内包された裏モードがその姿を現す。
「女の敵は私の敵。……覚悟は出来てんだろーな?」
言うが早いか、腋毛の乳首に生えた剛毛を掴むと、力任せに引き抜いた。
「ノオオォッ!? ミーのビーチクの毛、略してチク毛ガッデェィム!?」
乳首を摘みながら、竦む腋毛。
口調まで変わるほどの衝撃だったらしい。
黒船来航とは、まさにこの事である。
そして、反撃はそれで終わりはしない。
「容赦はしねぇぞ!」
むんずと右の腋毛を掴むと、そのまま引きちぎった。
あまりの痛みに三郎冠者がKOした。
「「三郎冠者!!!」」
慌てて二人が其れを回収し、逃走を図る。
そして、経路を探る変態達の前に、あからさまにおかれたマンホールが目に映った。
あそこしかない。
二人は頷くと、マンホールへと駆ける。
そうして、蓋を持ち上げ愕然とするのだ。
罠であったと言う事実に。
「「こ、こんな罠でこの我らが!?」」
しかし、もう遅い。
気がつけば、周囲を撃退士達に取り囲まれていた。
変態達の末路はこれで決した。
「「アッー!」」
その後、彼らがどのような凄惨な制裁を受けたかは語るに忍びない。
変態の末路、其れはいつの世も悲惨なものなのだから。