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マスター:小鳥遊美空
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/27


みんなの思い出



オープニング

●氷炎輪舞
「出し惜しみはしねぇ、全力だッ! 永劫の氷塊に抱かれて眠れぇッ!」
「永きに渡る深き業、溜まり溢れた欲の脂はさぞや燃えるじゃろうて! 今こそ全てを灰燼へと帰し、此の地平に新たな焔を灯すのじゃ!」
 氷と炎が爆ぜ、鬩ぎ合う。
 高らかに響く凍結と灼熱の二重奏。
 絶対零度を纏う悪魔騎士アルトゥールと、煉獄の炎を纏うはぐれ悪魔エレオノーレ(jz0046)。
 神戸ゲート最深部コア前にて、現在、因縁浅からぬ二柱の悪魔が決着をつけんと争っていた。
「あたしを忘れて貰っちゃ困るってね! うおりゃあああッ!」
 幾度目かの氷と炎が交錯しようとしたその時、気配を殺し機会を窺っていた森野 百合(jz0128)は好機とばかりに側面からの奇襲を仕掛ける。
 無尽光によって編み出された土の壁が、アルトゥールを覆うように降り注ぐが、
「しゃらくせぇ! こんなもんで俺様を止められるものかよォ!」
 難なく避けるアルトゥール。
「残念、本命はこっちじゃないわ! エルちゃん!」
「応とも! 篤と味わうが良い。これが、エルの……エル達の絆の炎じゃ!」
 エルの掌に炎が集う。
 この戦いに従事し、命を賭した者達の、小さな想いの一欠片を掬い、束ね。
 明日を夢見て微睡む神戸の街を、希望の灯で照らせと滾り、燃え上がる……!
「チィッ! 目くらましだったか! アンネリィィィゼッ!」
 不浄を滅する煉獄の炎が、今、其の力を発揮せんとし――、
「……Ja(了解)、マスターの意のままに」
 戦場を貫く一条の火矢によって阻まれた。
 新たな敵の増援。
 エルと百合がそちらに目をやれば、
「……なん、じゃと。ら……ん……?」
「……ねえ、さん」
 其処には、アルトゥールのヴァニタスであるアンネリーゼの姿があった。
「よくやった、アンネリーゼ!」
 態勢を整えたアルトゥールの反攻。
 虚を突かれたエル達に躱す術はない。
「ぐぅっ!? な、何故、蘭が……」
「そんな事、今はどうだっていい! 戦いに集中して、エルちゃん!」
 ラインの乙女戦線に於いて其の名を轟かせしアンネリーゼの事は、無論エル達も知っていた。
 だが、其の容姿までは知り得ていなかった。
 もしも、この一連の作戦の何処かで、エル達が彼女と遭っていたなら。
 もしも、彼女と対峙した撃退士達が何らかの資料を残し、エル達に報告していたら。
 もしも、今回の作戦の事前に出した偵察隊の救助に成功し、其の報告を受けていたなら。
 また違った未来を見せていたのかもしれない。
「む、無理じゃ……、エルは戦えぬのじゃ……。エルには……また蘭を殺す事など、出来る訳がないのじゃ!」
 エルの絶叫、しかし、戦いは無情に進んでいく。
「……滅せよ」
 アンネリーゼの掌に炎が集う。
 想いを焼き、嘆きを食み、希望を砕く破滅の灯。
 淡き幻想を、脆弱な力を、虚飾された真実を燃やし滅せと唸り、吼える……!
「危ない、エルちゃん……!」
 動けないエル、庇う様に立ちはだかる百合、炎禍の中心であるアンネリーゼ、全てを巻き込み、煉獄の炎は浄化の産声を上げ、爆ぜた。

●命、燃やして
 誓ったのじゃ、蘭と。
 天使も悪魔も人間も、関係ない。
 皆が笑い合って、共存していける世界を作る、と。
 何時の日か、其の約束を果たしてみせる、と。
 じゃから、エルは……。
 
 あれは……、撃退士として初めての依頼に赴いた時、じゃな。
 そういえば、此の地じゃった。
 学園に来たばかりの新入生達とエル。
 彼女達も不安じゃったろうが、エルも不安じゃった。
 それから……、そう、ぶんかまつ、じゃ。
 初めての露店、初めての闇鍋、初めての校内放送、初めてのキャンプファイヤー。
 何もかもがハジメテだらけで、エルは皆にいろいろ迷惑かけたのじゃ。
 そういえば、エルの料理を食べて倒れた者が出たのも、あの後……ばれんなんちゃら、じゃったか。
 じゃが、料理の師匠になってくれる、と申し出てくれた優しい子がおったのじゃ。
 こんなエルでも、姉のような存在だと慕ってくれた者、妹のような存在だと可愛がってくれた者、かけがえのない友だと手をくみ交わした者。
 そんな、得がたい者達が、此の学園にはたくさんおったのじゃ。
 エルは、悪魔じゃと言うのに、の……。
 蘭と夢見た可能性が、現実味を帯びて現れてきたかのような心持ちじゃった。
 そう……、皆、エルが大好きな者達なのじゃ。
 幾つもの戦場を共に駆け抜け、共に戦い、共に傷つき、共に遊び、共に数え切れない程の思い出を作り……多くの絆を結んできた、の。
 部活で騒いだり、こすぷれさせられたり、喫茶店で働いたり……。
 思い返せば、楽しい日々ばかりが浮かんでは消えてゆくのじゃ……。

「さぁ、こいつを死なせたくなかったら、とっとと武器を捨てて退け。それとも、お前達にとっては、はぐれ悪魔の一体や二体、どうでもいいってか? それなら其れで構わねぇ、屠り合うだけだ」
 エルが次に意識を取り戻した時には、既にアルトゥールに捕らえられ、地べたへと組み敷かれている所だった。
 横目で見やれば、百合もまた、アンネリーゼに首筋を掴まれ、撃退士達に向かって盾にするように突き出されている。
 エル達は敗北し、捕らえられたのだ。
 アルトゥールは捕らえたエル達の命を対価に、撃退士達に退けと交渉している。
 撃退士達は下手に動けず、膠着状態を保っていた。
「(……情けないのじゃ。エルは、仲間達を窮地に陥れてしまったのじゃな……)」
 このままでは神戸の解放どころか、仲間達の命すら危うい。
 其れだけは何としても避けたかった。
 故に、執るべき道は一つしかあり得ない。
「……もっと、生きていたかった、かの」
 エルは死を覚悟した。
 一人一人、言葉を交わした者達の顔が浮かぶ。
 本当は死にたくない。
 其れでも、彼らが辛い目に遭う事を思えば、ずっとましだから。
 その手に、再び炎が宿る。
 大切な笑顔を、其の先の未来を、幾つもの願いと祈りを護り、繋ぐ為に。
「……ばいばい、大好きじゃよ」
 ――もう、迷わない。

 アンネリーゼは意識のない百合の首元を掴むと、撃退士達の前に突きだし、慎重に様子を窺う。
 百合の持っていた武器は取り上げ、其の背にはナイフを突きつけている。
 だからこその油断。
 目覚めた百合は、左足を三度揺らした。
 スカートの内側に留められていたヒヒイロカネの一つが足下へと落ち、其れを思いっきり蹴り上げる。
「止まってたって答えなんて出る訳がない! どんなものであっても、恐れず進まなきゃダメなんだ! じゃなきゃ……あたしらがやってきた事はなんだ、なんなんだっ!」
 撃退士達が敗北すれば、ゲートによって囚われ続けている万を越える人々の未来は閉ざされる。
 神戸を救う為に命を賭け、そして散って逝った者達の命も、想いも無駄になる。
 意味のなかったものとして、全てが終わってしまう。
「っ……、何を、する気?」
 アンネリーゼの持つナイフに力が篭もり、切っ先が僅かに背に刺さる。
 しかし、覚悟を決めた女にそんな脅しは意味がない。
 百合は顕現した刀を逆手に持ち、自らの心の臓へと狙いを定める。
 全ての因果を断ち切る為に。
「迷うな、進め! そして、英雄と成れぇぇぇぇええっ!」


リプレイ本文


「そうか、君のような子供達が彼の死地へ、か……」
 男は溜息を吐くと、天を仰いだ。
 血を連想させるような、緋色の空が広がっている。
 其れは、屈辱的な従属の証と言えた。
 男の後ろを、コートを翻しながら青柳 翼(ja4246)がついて行く。
 そっと垣間見た表情は、暗い。
 救えなかった命、掬えなかった想い、今、此処に至った現実の苛烈さ。
 それらが鎖となって翼を縛る。
 だが、どのような絶望に浸ろうとも、翼の瞳にはまだ光が宿っている。
「(アリスちゃん、クローディア……、僕は僕に出来る事を全うするよ……)」
 残された自分に何が出来るのか、何が成せるのか。
 其れは解らない。
 それでも、足掻ける力がある内はどんなに不格好でも抗い続けたい。
 でなければ、彼女達の為した全てが意味を無くしてしまう、そう思えるから。
 報いる為にも、翼は立ち止まる訳にはいかなかった。
「子供達にばかり痛みを強いる世界、か。本来、君達が背負っている役割は、私たち大人が担ってやらねばならん所だ。無理難題ばかりを子供に押しつけるしかない私達大人の無力さが、歯痒くてな……」
 翼の求めに応じ、救助隊の一部から人員を選抜しながら、男――救助隊の部隊長は苦しい心境を独白する。
 死すべき戦いに赴くのは、老いた者からでいい、と。
 しかし、翼は微笑った。
「救いたい、そう想って行動するのに、大人も子供もない。僕はそう思いますね。貴方達が戦ってくれるから、僕達も戦える。無理難題は、皆で手を取り合って解いていけばいいんですよ」
 想いを貫く事、意志を示す事、それは誰にでも認められた権利なのだ、と。
 現状を享受しない、甘えない、諦めない。
 真っ直ぐな子供の瞳が、諦め顔の男には眩しかった。
「そう……だな。君に、私の部隊を託す。……どうか、神戸を頼む」
「……確かに、お預かりしました。互いに、健闘を」
 翼は部隊を預かると、死地へと向かった仲間を追って駆け出していく。
 絶望の中を彷徨う者達に、希望の灯を届ける為に。
「もう、誰も死なせやしないさ……」

 其れは、共に過ごした時間の密度が為せる業か。
 こういう時、エレオノーレ(jz0046)や森野 百合(jz0128)ならどうするか。
 其れが、手に取るように解ってしまった。
 だからこそ、身体が先に動いた。
 気がつけば、前へとファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)は駆け出していた。
 否、ファティナだけではない。
 橋場 アトリアーナ(ja1403)、アイリス・L・橋場(ja1078)の義姉妹もまた、長女の後を追っていた。
 全ては義理の末妹として可愛がっていたエルを救い出す為に。
 だが、彼女達よりも後に発ち、先に出る者があった。
 韋駄天の如き疾さを誇る脚を持つ黒百合(ja0422)である。
「(真っ直ぐだけじゃどうしようも無い事もあるわよォ)」
 心の赴くままに突き進む少女達を応援するように、黒百合はフォローに入る。
 その速さ、通常の撃退士の三倍強。
 鍛え抜かれた機敏さは、戦場を支配する。
 中央、人質を取るアルトゥールの直ぐ真横をすり抜け、一目散にコアへと。
「誰かそいつを止めろ!」
 振り返った悪魔騎士の叫びは見当外れ。
 嘲笑うかのように折り返すと、百合を人質に取るアンネリーゼへと迫り、迅雷の一撃を以て其の背を貫いた。
 アンネリーゼが呻きを漏らすが、人質から手は離さない。
 黒百合はそのまま踵を返すと、悪魔の背後へと立った。
「こんにちわ、私の顔を覚えているかしらねェ……じゃ、早速ゥ……その首ちょうだいィ♪」
「チッ、化け物かよ!?」
 背後からの強襲に警戒し、悪魔が振り返った。
 其れは、まさしく黒百合の思い描いた通りのシナリオだ。
「(チャンスは作ったァ、後は貴女達次第よォ……行きなさいィ!)」
 黒百合の意図する所を汲み、ファティナが迫る。
「義妹を返して貰います!」
「くっ、ファティナ、来るでないのじゃ! エルは、エルは……っ!」
 手に収束しつつある炎をエルが爆発させれば、黒百合や義姉妹達まで巻き込んでしまう。
 故に、ここまで接近されてしまっては、エルには撃てない。
 ファティナはそうなる事を解っていて、後衛の身でありながらも自ら危険な最前線へと走ったのだ。
「諦めないで!! 貴女の命を巡って命を散らした人達の事を忘れたの!?」
 エルへと語りかけながら、ファティナのスタンエッジが、黒百合の言葉に振り返ったが為に背を見せる事となった悪魔騎士へと襲いかかる。
「てめぇら、さっきから置かれた立場が解ってんのか!?」
 突き刺さった、そう思われた魔法は、しかし本体を捉えていない。
 エルの上で、人型を象った氷像が壊れ、散った。
 悪魔はエルの真横に着地すると、剣を握り、振り下ろす。
 最早エルに人質としての価値はない、そう判断して。
 だが、
「……させない! 姉妹、皆で帰る。絶対に、誰も欠けさせたりしない……!」
 アトリアーナの白拳 雪花が其れを阻んだ。
「生かしてよかった、そう思われる未来を創るって言ったでしょう!! ……あの人達に何も返さないまま死ぬなんて……私は絶対許さない!」
 その隙をつき、ファティナがエルを抱きしめ、飛び退く。
 胸に抱いた温もりが、愛おしい。
 絶望に負けたくない、未来を諦めたくない、大切な絆を失いたくない。
 だから、掬い上げる。
 しかし、悪魔はそれらを許さない。
 逃げようとするファティナを追う様に、凶刃を振りかざす。
「うわあ嗚呼嗚呼あアアぁあッ!!!」
 振り下ろされた刃を、アイリスの双剣による烈風突が弾き、エル達の退路を堅守した。
 ゆっくりと頭を振り、アイリスは立つ。
 自らの立てた誓い故に、苦しみ、苦しみ、苦しみ抜いた。
 より多くの者が助かるのであれば、少数を見捨てても構わない、と。
 そう信じ、為してきた。
 少数を殺し、より多くを救い。
 でなければ、自分が殺してきた者、見捨ててきた者が報われない。
 絶対に貫かねばならないと決めた修羅の道であった。
 だが、エルの、百合の言葉が胸に響いた。
 想いが、誓約と矛盾する。
 自らの気持ちに嘘をついてまで、貫き通すこの理想に、果たしてどれ程の価値があるというのだろうか。
 エルと、義姉妹達と築き上げて来たモノとは、なんだったのだろうか。
 そうして、少女は答えを出す。
「馬鹿ですか。大切に決まってるでしょう」
 確りと二本の足で大地に立ち、アトリアーナと共に強大な敵と対峙した。

 久遠 仁刀(ja2464)は黒百合の作った隙を最大限に活かすべく、アンネリーゼへと肉薄する。
 狙いは百合を救出する事。
 しかし、其れを悟られる訳にはいかない。
 故に、仁刀は駆け抜けながら刀の鯉口を切る。
 本気の殺意をヴァニタスへと向け、追撃の刃を解き放つ。
「……人質に価値無し、か」
 アンネリーゼは咄嗟に百合を盾にし、己が身を護った。
 それこそが、仁刀の真の狙いとも知らずに。
 手加減を用いて百合の身体をヴァニタスから弾き飛ばす事。
 仁刀の目論見は成功したと言っていい。
「(エレオノーレを残して、逝くんじゃないぞ……!)」
 だが、誤算があった。
 百合の背に、深々とナイフが刺さっていたのだ。
 食い込んだ刃が、百合の背骨に当たり、それ以上奥へと押し出させない。
 手加減をした一撃では、ナイフの刃で背骨を断ち斬らせた上で弾くレベルまでは至れない。
 刀を振り抜いた時、全ての明暗が決した。
 百合は、仁刀を見下ろしながら、囁いた。
「……あの娘に伝えてよ。『あたしら』の妹の事、頼むってさ」
 その視線の先には、義姉妹によって救われようとしているエルの姿。
 最後に笑みを浮かべながら、百合は手にした刀を振り下ろした。
「……一緒に逝こう、姉さん。あたしが、ついてく、からさ……」
 穏やかな表情で絶命する百合。
 その背後では、盾にしたが為に密着していたアンネリーゼに、深々と刃が突き刺さっていた。
 完全なる不意打ちによる、致命的な裂傷。
 ヴァニタスは刀を引き抜くと、よろよろと後退した。
 百合の救助が失敗したのならば、躊躇する必要は何処にも無い。
 せめて、百合の作ったチャンスを逃さず、ヴァニタスを討つ。
 それだけが、今、この場で出来る百合への供養とも言えた。
「……ただただ殲滅あるのみ。英雄を戦場に誘う戦乙女の様に……、戦場をアジテートする」
 ソーニャ(jb2649)はライフルに持ち変えると、アンネリーゼに向けて銃弾の雨を降らせた。
 百合の死を悼む事はない。
 仲間の屍を踏み越え、自らの屍すら、仲間の為の礎とする。
 そう考えるソーニャにとって、死は喪失にはなり得ない。
 倒れた者の望みを誰かが背負い、続く者となる。
 そうして受け継がれていく事によって、一つのものとなる。
 だからこそ、ヴァニタスを逃す訳にはいかなかった。


 剣を、槍を、盾を、鋼と鋼を打ち鳴らし、高らかに奏でるは戦場の賛歌。
「目の前の無くなりそうな命も、今助けてる命も、全て助けられる可能性があるなら全力で挑むしかないでしょ。さぁ、全員で帰るわよ! 全員突撃ー!」
 雪室 チルル(ja0220)は剣を掲げ、先陣を切った。
 チルルに続けと、仲間達も後を追う。
 目標は最奥に鎮座するゲートコア。
 悪魔騎士は表情には出さないものの、焦りを感じていた。
 そもそも圧倒的に優位な状況下の中、何故、悪魔側は人質を取り、後退を促したのか?
 全ては万が一を危惧しての事であった。
 コアは直せない。
 存外に脆い其れを数で襲撃されれば、破壊されかねない。
 そうなってしまえば、神戸ゲートは終焉を迎える。
 如何に悪魔側が個の能力で圧倒していようとも、想定外と言うものはある。
 自身が経験したからこそ、アルトゥールは撃退士という存在を侮ってはいない。
「コア前を固めろ! 絶対に通すな!」
 背後に控えた狂戦士の隊列の一部を、コアの護衛に回す指示を飛ばす。
 そうした上で、自身は風の魔力を纏うと、一気にエルとの間合いを詰めていく。
「……くっ、エルも戦わねば!」
「その身体で何をするって言うんですか! 大丈夫ですから、今は任せてください。ね?」
 応戦しようとするエルを、ファティナは背中に庇うようにそっと押し出すと、優しく微笑んだ。
 後退していくエルを、神月 熾弦(ja0358)と虎落 九朗(jb0008)が確りと抱き、受け止めた。
 熾弦が、ファティナに頷き返す。
「さぁ、先ずは怪我を癒やしましょう。今は、信じてあげてください。貴女の義姉達を」
「そうさ! だから、そう簡単にてめぇの命を捨ててんじゃねーよ。チップにすんのと捨てるのはちげーんだよ!」
 癒やし手二人係りで、深い傷を負ったエルの身体を癒やしていく。
「為すべき事は変わらん……、誰一人死ぬ事なく任を果たす。それだけだ」
「ああ……、だから、俺の目の前では、もう誰も死なせない!」
 中津 謳華(ja4212)と若杉 英斗(ja4230)はエル達の前に立つと、其の背に覆い隠す。
 間に合わなかった百合の救助。
 百合の最後の願いは何であろうか?
 そう考えた時、エルの顔が浮かんだ。
 そうして今、英斗の目の前に立ち、悪魔と対峙する少女達の願いもまた、エルの生存。
 ならば其の想いに応え、盾となって護りぬくのが英斗の撃退士としての矜持でもある。
 だが、其の手は小さく、余りにも掬えるモノは少ない。
 完全なものなど存在しないように、彼の守備範囲にも穴はある。
「そんなにそいつが恋しいなら、先にあっちで待ってろ雑魚がァッ!」
 悪魔騎士怒りの斬撃は、ファティナを一太刀で葬った。
 凍てついた氷の剣がざっくりと斬られたファティナの傷口から血を啜り、主の傷を癒やしていく。
 ぱたり、と糸の切れた人形のように、少女は地へと倒れ伏した。
 謳華の手も、英斗の盾もあと一歩届かなかった。
「さっきからちょこまかちょこまかしやがって……、てめぇら全員、嬲り殺しだッ!」
 ファティナの身体を踏みつけ、絶対零度の狩人が吼えた。

 むにゅ。
 鳳 静矢(ja3856)の背中に衝撃が走った。
「(……ふむ、これは……見せられないな)」
 静矢の脳内に、一瞬、妻の顔が浮かんだ。
 そして現在、彼の背後では、其の豊満な胸をぐにぐにと静矢の背中に押しつけて歪ませつつ、必死に抱えて飛翔しようとする一柱のはぐれ悪魔――秋桜(jb4208)の姿があった。
「……やっぱ、重いじゃん! って、なんだぉ、顔になんかついてんの?」
 横目で見やる静矢の視線に気づいた秋桜の一言。
 しかし、静矢は視線を逸らすと、
「……いや、別に。しかし、悪いね、無理を頼んで」
 当たり障りの無い解答をして、敢えての言及を避けた。
 お互いの為である。
「別に今更だし。悪魔の根性、見せてやん……よぉおぉおいしょっと!」
 秋桜は気にした風もなく、気合の叫びを上げると、自分よりも大きな静矢を抱え上げ、飛行する事に成功した。
 静矢の狙いはコアに対する空中からの奇襲である。
 コア前には豚が待機し、近づく者を寄せ付けない威圧感を放っている。
 と、するならば、動きの鈍そうな豚が対処不可能と見える空からの攻撃は非常に有効な手段と言えるだろう。
 其れに着目したのは静矢達だけではない。
 ハッド(jb3000)、ナナシ(jb3008)の二柱のはぐれ悪魔もまた、空襲の利点に目をつけ、空へと経路を求める。
 ナナシは飛翔しながら、眼下に広がる光景を見た。
「(……友を助けたいと思う心を非難なんてできないわ)」
 人質としてとられた二名の命と、コアを破壊する事で助けられる数万の市民の命。
 天秤にかけるのであれば、後者が勝るのは必定。
 だとすれば、この戦い自体が陽動という役割であったとしても、必然的に総力を以てコア破壊、指揮官たる悪魔の討滅が最優先課題となってくる。
 感情でブレて、大義を見失う事を責めるべきか否か。
 ナナシは、作戦の主目的達成に向けて身を投じつつも、救助などと言う主旨と照らし合わせてみれば冷静とは言い難い行動に打って出た仲間を、責めはしなかった。
「私も、友の助けに応じてここに来たのだから……)」
 敵将と死闘を繰り広げる親友・黒百合の姿を追い、自身の為すべき仕事の成就を誓う。
 他方、同じくコア破壊を主目的とし、地から攻める黒須 洸太(ja2475)は目を背けた。
「見ないようにした方がいい」
 理解はしても、納得はしない。
 だが、止める理由も強制する理由も無い。
 武器を手にし、戦うと決め、戦場に立った時点で命というものは軽くなる。
 常に纏わり付く自他含む喪失という概念。
 覚悟無き者には容赦無くその牙を剥く。
 護るべきは何なのか。
「(目の前の命を見捨ててでも、より多くの命を、ボクは救う。……もう、同じ様な存在を作らせたりなんてしない)」
 感情を割り切った洸太は、その答えを体現すべく駆けた。

 作戦成功の為にはラヴィーエル達の部隊を足止めする必要がある。
 そう判断した撃退士達は、たったの5名で6倍もの敵戦力の防波堤にならんとした。
 しかし、量産された雑魚とは言え、数という暴力となった荒波は、撃退士達を飲み込み、逃げ場を断っていく。
 地の利、戦力の総数、場の状況、全てが悪魔側に有利である。
 本来、こういった状況下に於いては自軍戦力を集中させ、どこか一点、一番防御の手薄な箇所をつき、包囲をかいくぐるのが定石となる。
 だが、撃退士が執った手法は各方面に対し、少ない戦力を更に割き、少しでもバランスを取る、といったものだ。
 前方、後方、空と三面に広げられた戦域は局所的に勝てる場面もあるだろうが、結局はそれぞれに各個撃破される確率が高くなる。
 特に戦力的に手薄な後方、堕天使対応に当たる5名は、一番真っ先に崩れる可能性が高く、危険であると言える。
 それもこれも、全ては想いを届けさせる為に。
 陽波 透次(ja0280)はエル達の救助に当たる者達を背で見送りながら、不退転の構えを見せる。
 誰にだって、大切だと想う誰か、が居るだろう。
 無論、透次にも居る。
 大切な者を護る為ならば、例え世界を捨てる事になったとしても、後悔なんてしない。
 其れが否定されるような世界にはしたくない。
 故に、透次は危難の中に身を捧げるのだ。
 夜姫(jb2550)もまた、そんな一人である。
 神戸ゲート攻略戦の前に行われた偵察隊救助戦での失敗と、其れによって死んでいった者達。
 自身の命よりも他者の生命を優先する夜姫だからこそ、其の失態は心に引っかかっていた。
 悔やんでも、悩んでも、過去は覆らず、事態が好転する事もない。
 せめて、今、自身に出来る全力で、死した者達が最後に願ったであろうこの街の解放を成す。
 それが、夜姫にとっての贖罪であり、手向けである。
 とは言え、数が数。
 既に数体、夜姫達を突破し、救助班へと向かっていった。
 追おうにも、制空権を堕天使が握っており、容易に抜け出せない。
 空を睨みながら、水無月 神奈(ja0914)は護りを固める。
「(……まだ、攻める時ではないな)」
 雑魚を捌きながら、虎視眈々と機を窺っている。
 機嶋 結(ja0725)もまた、雑魚を斬りつつ、来ぬ待ち人に焦れる。
 この場に姿を見せないはずがない。
 そう結が考えているのが、不倶戴天の敵として狙う悪魔、ギネヴィアである。
 それは、雫(ja1894)にとってもそうだ。
 クローディアとアリス。
 複雑な想いはあれど、彼女達の散り様が頭から離れない。
 ギネヴィアを討たねば、胸のもやもやが取れないのだ。
「……私の八つ当たりに付き合って貰います」
 雫の地すり残月の一撃が、豪快に雑魚を斬り飛ばしていった。 


 這い寄る変態達は、コア破壊を自分達の最優先任務として捉え、特攻を敢行する。
 ディアボロの群れをかいくぐり、息のあった連携攻撃をコアへと叩き込む。
 そうして、見事コア本体に傷をつける事に成功し、その脆さを露呈させた。
 が、それまで。
 悪魔騎士の厳命によってコアの守備についた狂戦士の部隊の一部と豚によって強襲され、五名は呆気なく命を落とす。
 援護は間に合わなかった。
 だが、彼らの命を賭けた特攻も無駄ではない。
 コアの脆弱性を示すと共に、悪魔側の防衛ラインを大きく後退させる事に貢献した。
 防衛ラインの後退は、即ち撃退士側前線ラインの前進でもある。
「今である! 突っ込むのじゃー!」
 ハッドは豚を包み隠すように、コア前に闇を撒いた。
 地上を行くチルルは、封砲で立ち塞がる敵を薙ぎ払いながら、強引に道を切り開く。
 開かれた道を使って、縮地でブーストをかけた桐生 直哉(ja3043)が豚へと迫った。
「ちょっと退いてろ……!」
 直哉の薙ぎ払いによる鋭い一撃が豚のどてっ腹に深々と食い込む、が、
「小細工を労しても、所詮は下等生物。より上位の存在へと至ったこの私に刃向かう愚かさを悔いながら死になさい!」
 豚は動じる事なく、其の巨躯に見合わぬ素早さでのし掛かってきた。
 いくら闇中で互いが見えぬとは言え、空から周囲を圧し潰さんばかりの肉の壁が降ってきては、避けようがない。
 重い衝撃が直哉を襲う。
 いつもよりも身体の動きが鈍く感じるのは、コアの所為だろうか。
 しかし、豚が直哉に注意を向けた事で地上の部隊は突破しやすくなった。
 チルルは全力跳躍で飛び越えると、コアの真横をキープし、洸太は尚も迫り来る狂戦士を牽制しつつ、経路を維持する。
「数ばかり多い烏合風情が穢らわしい手で其れに触れるな!」
 泡を食ったのは豚である。
 主たる悪魔の厳命は絶対であり、背けば死が待っている。
 万が一失態を晒せば、折角手に入れた力も、命も失ってしまう。
 何としても護らねばならない正念場と言えた。
 豚は立ち上がると、コアを破壊しようとする撃退士を排除しようとし、
「させんさ!」
 空より舞い降りたる一羽の鳥によって貫かれ、阻まれた。
 豚を焦がした紫の鳳は飛翔を続け、そのままコアを炎翼で撫で燃やす。
「私は悔い、誓ったんだ。あの二人の為にも必ず神戸を解放すると! この歩は何人たりとも止めさせはしない!」
 秋桜に抱えられながら移動し、コアを射程圏内に収めた静矢の紫鳳翔だ。
 次いで、炎の剣が天から地に向けて穿たれる。
 ナナシの煌めく剣の炎は、狙いを外さず、豚の顔面の半分を焼き貫き、そのままコアへと至った。
「顔が、顔がッ! おのれッ、おのれッ!」
 物理的な攻撃には耐性があっても、魔法的なものとなると事情が変わるらしい。
 豚は顔を押さえ蹲り、痛みと屈辱から堪える。
 原因はとても単純だ。
 人であった時から、多くの同胞を金という力で支配し、自らを特別な存在なのだと信じて疑わなかった。
 富と名誉を手に入れた男は、やがて人智を越えしモノ、天魔の眷属としての生命と能力を求めた。
 そうして今、とるにたらないものとして捨てた過去が、自身を脅かす障壁となって立ち塞がっている。
 これほど滑稽に思える事はなかった。
 其の中心が自分であるなどと言う事実を、豚はどうしても容認できない。
 怨みがましい視線を、暗闇の中から撃退士へと送る。
 抱くのは明確なる殺意である。
 負傷し苦しむ豚を見て好機ととったレイラ(ja0365)は、縮地を以て一気にコアとの距離を詰めた。
「(……今、戦わずして何時、戦うというのです)」
 扇を広げ、死の舞踏を踊る。
 鮮やかに、艶やかに。
 美しくも禍々しい荒死による四連撃は撃退士による集中攻撃を受けたコアを、遂に打ち砕いた。


「ここはわたしの始まりにして終着点。その先なんて、無くていい。……だから、そこを退いて」
 水枷ユウ(ja0591)の凍吹迅風が戦場を貫く。
 撃退士の使用する魔法がもたらす効果は、これまでの戦いから報告を受け、悪魔側もある程度は識っていた。
 故に、その危険性を軽視せず、虎の子である氷棺夢葬の二つ目を使用し、避けきる。
 その結果、意識を失ったファティナから退くこととなった。
 素早くエルが回収していく。
 しかし、安堵は出来ない。
 悪魔をその場に釘付けにする必要がある。
 アトリアーナは仁刀に目配せした。
 百合を助けられなかった事に意気消沈した仁刀だが、止まる訳にはいかない事は弁えている。
 元より、其れは仁刀が望んでいた事だ。
 是非もない、と頷くと悪魔騎士へと駆ける。
 対して、アトリアーナはヴァニタスへと迫った。
 負った傷を浄炎で癒やしながら主の元へと近寄ってきていたヴァニタスは、撃退士の接近に気がつくと、其の手に炎を収束させていく。
 だが、
「させないの!」
 アトリアーナの白拳 雪花の速さが僅かに勝り、ヴァニタスの意識を刈り取った。
 その機を逃す事なく、ソーニャは急所に向けて銃弾を撃ち込んでいく。
「アンネ!」
 自身のヴァニタスの危機に気がついた悪魔騎士が援護に入ろうとするが、
「よそ見とは余裕だな。……以前の借り、返させて貰うぞ」
 横合い、悪魔から見て右下から、小さな身体を活かした仁刀が間合いに入っていた。
「てめぇ、生きてやがったのか!?」
 アルトゥールの古傷がちくりと痛んだ。
 かつて、この地で悪魔騎士に傷をつけ、侮りを捨てる要因となった撃退士の男――仁刀。
 煌めく旭光の光は、アルトゥールが以前受けたものと全く変わらぬ輝きを見せる。
「もう食らうかよ!」
 打ち上げるように振り抜かれた其れを、悪魔騎士は最後の氷棺夢葬を以て避けた。
 切り札を切らされた形となる。
 それ程に、アルトゥールは仁刀という戦士に対してある種の敬意を表していた。
 だからこその、全力の返礼。
「今度こそ迷わず逝けや、撃退士ッ!」
 悪魔騎士の氷葬剣斬がCR変動直後の仁刀を切り裂いた。
 ただの一撃。
 其れが既に致命傷。
「俺は、まだ……倒れる訳には、いかないッ!」
 遠のいていく意識を、根性を以て呼び覚まし、仁刀は堪える。
 が、待っていたのは悪魔の二の太刀。
「いいから退けと言ってるッ!」
 再びの氷葬剣斬は、最早根性ではどうにもならない程の損傷を仁刀に与え、無理矢理意識を奪い去った。
 血の海に仁刀は沈みいく。
 このまま悪魔をヴァニタスと合流させ、態勢を建て直させては、百合の自刃が全く意味をなさなくなってしまう。
 アイリスは悪魔騎士の進路を阻みつつ、刃を交え注意を引いた。
 黒と白の双剣と、冷気を纏った大剣が交錯し、火花を散らす。
「負けない……!」
「でしゃばるなよ、雑魚がッ!」
 悪魔と鍔迫り合いするアイリスを援護すべく、英斗は側面から奇襲を仕掛けた。
「引っ込め、悪魔!」
 英斗の強烈なアーマーチャージが悪魔を後方へと退かせる。
 撃退士達と悪魔、ヴァニタスの間に、僅かな間合いが出来た。
「……ヒデト、良い仕事した。ちょっと、逝ってくる」
 ユウは、其の好機を逃さなかった。
 哀切を綴り響く雪の旋律が、高らかに響く。
 手にした小さな剣から溢れるのは、白く染まった想いの残滓。
 過ぎ去った彼の日、奪い去ったこの刃で。
 少女の痛みを、叫びを、嘆きを、想いを、魂を、奏で謳う。
「……あなたの証を、綴り響く……『ユキ』の旋律。行こう、ユキ」 
 ユウは、白刃を悪魔騎士へと突き刺した。
 溢れ出す魔力の渦は、全てを白銀へと飲み込み、荒れ狂う吹雪の如し。
 破滅の禁呪『送雪』は、ユウと悪魔を中心に、迫ってきていた狂戦士数体を巻き込み、爆ぜた。

 ユウの自爆直後、コアは砕けた。
 撃退士達を縛っていた枷が外れる。
「うわー、やーらーれーたー」
 しかし、周りの状況など何処吹く風と言わんばかりに、ユウはわざとらしい声を上げ、力尽きた振りをして倒れた。
 その周囲には、氷壁を顕現させ耐えた悪魔騎士と、消し飛んだ狂戦士の欠片。
 シュールさを感じながらも、エルはずるずるとユウを引っ張り後退する。
 下がったエルとユウを、熾弦と九郎の回復魔法が癒やした。
「ユウさんも無茶をしますね」
 重体の身故に、同じく力尽きた振りをして倒れた熾弦の言葉。
「……シヅル?」
 ユウは何か言いたげに声を掛ける。
 沈黙が訪れた。
「まぁまぁ、生きて帰ってきたから上等って奴だぜ」
 九郎が間を取りなすが、依然、戦況は予断を許さない。
 後方より来たるディボロの群れは謳華が一人で最終防衛ラインとなり、なんとか防いでいる。
 其の足下には既にいくつかの骸が転がっているが、いつ抜かれて挟撃されてもおかしくはない。
 コアを破壊できたとは言え、敵の悪魔は健在で、撃退士側は既に戦闘不能者数名を含み、皆、負傷している。
 危ういバランスの上に成り立っている均衡、と言えた。
 少しでも自軍に傾けるには、早期に高脅威目標を駆逐する必要がある。
 悪魔を足止めできている今、動けないヴァニタスをなんとしても落とさねばならない。
 ソーニャが黙々と銃弾を撃ち続け、黒百合の二連撃が急所を貫く。
 そうして、アトリアーナの一撃が、アンネリーゼの心臓を穿った。
 瞳を見開き、ゆっくりとヴァニタスが頽れていく。
 アトリアーナに、己が身を預け。
「……長い、夢を見てた、気がする。……お友達、いっぱい、だね。ちゃんと、変われた……ね、エル、ちゃん」
 アンネリーゼは絶命した。
 安らかな死に顔であった。


 数で劣る後方隊が、即座に殲滅されなかったのには理由がある。
 一つは、堕天使が撃退士を包囲するのに必要最低限な戦力だけを残し、他を残らず悪魔騎士の部隊に合流させに行かせた事。
 そしてもう一つが、やっちーの不参戦である。
 やっちーはどうしても撃退士――、取り分け、銀色の髪、金色の瞳、阿修羅の光纏を恐れた。
 初戦の要塞攻防戦で、やっちーはこの特徴を持つ撃退士に敗れ、危うく死ぬかもしれな所だったのだ。
 植え付けられた恐怖は、短時間で克服できるものではなく、その時の傷も癒えてはいない。
 しかし、撃退士達は依然劣勢であり、防戦を強いられている。
 せめて動けぬやっちーを狙おうと透次が影手裏剣を擲つが、堕天使が巧みにやっちーを移動させ庇う為、思うようにはいかない。
 透次は移動すら満足のいく状態ではなく、追撃は厳しいと言わざるを得なかった。
 そればかりか、やっちーをつけ狙う不届き者を滅さんと、堕天使の執拗な攻撃を招く結果となる。
 回避行動を取る為の足場がない透次は、空蝉だけが頼みの綱だ。
 雑魚からの袋叩きに堕天使の猛攻と、限界は見えていた。
 だが、吉報が届く。
 コアが破壊されたのだ。
 瞬間、神奈は攻勢に転じた。
 全力跳躍を以て、雑魚を飛び越え、一気にやっちーとの間合いを詰める。
「其の首、貰うぞ」
 金と緋のオッドアイが獲物を捉え、離さない。
「ひっ」
 抜き打たれた極光は、下段から切り上げるような逆風の太刀。
 やっちーを捉えたはずだった其の斬撃は、次の瞬間、別のモノを斬っていた。
「博士!」
「痛い、であるな。……やっちー、強く、生きるである。真実の愛は……、思いの外、近いもの故」
 やっちーを庇う為に無理矢理割り込んだ堕天使は、其の背に致命傷を負う。
 連戦による消耗、そして本来の能力を取り戻した撃退士による対極のCRを纏った攻撃での急所への一撃。
 死に至るには充分なものであった。
 事切れた堕天使を抱き、やっちーは怒りの咆哮を上げる。
「お前だけはッ! 絶対に許さないDEATH!」
 極光直後の神奈に、戦斧による痛烈な振り下ろしが見舞われた。
 一撃目は耐える、だが、
「死刑! 死刑! 死刑ッ!」
 断頭台に上った処刑人の如きやっちーの怨嗟篭もる攻勢の前に、耐えきる術はなかった。
 また一人、血の海へと沈む。
「ぶち殺すDEATH!」
 それでもやっちーは止まらない。
 神奈の頭を胴体から切り離すべく、トドメの戦斧を振り上げる。
「ぶち殺されるのはァ……、あなたよォ♪」
 それよりも疾く黒百合の三枚刃の大鎌が、やっちーの首を斬り落としていた。
 元より消耗が激しく無理を押してきた身だ。
 黒百合の攻撃を受けきる事が出来ず死亡した。
 規格外の速度を誇る黒百合だからこそ救助が間に合った、と言える間一髪のタイミングだった。

「撃退士なのに、どうして助けてくれないの! おうちに帰して! パパとママに遭わせて!」
 少女の意識をそのままにディアボロとされたアルラウネ・クィーンが、コアを破壊したレイラとチルルを、其の鞭で責め立てる。
 全てが悪魔の命令であると仮定するならば、其れは悪魔の生かして帰すつもりは無い、という絶対の意志の表れと言えた。
 本来ならば、コアを破壊された時点でゲートは用済み。
 放棄して、戦線離脱してもおかしくない状況。
 それでも尚、アルトゥールがこの場に止まり、戦う理由はなんであろうか。
 プライドと、弔いだ。
 アルトゥールが目指す未来は平和である。
 しかし、其の手段はあくまでも力による支配。
 個が個である限り、折衝による交渉などと言うものはあやふやな物であり、互いの利害次第で裏切り合い、争い合う事になる。
 だとするならば、強者が一方的に蹂躙し、二度と争いの起こり得ない支配を敷くべし。
 其れが悪魔騎士の抱く理想であった。
 故に、彼の悪魔は孤独である。
 心の底から信頼出来る部下など、いなかった。
 そして実際に、裏切られもした。
 だからこそ、アンネリーゼという存在は、アルトゥールにとって得がたいモノであったのだ。
 神戸ゲートを支配下に置いたという実績、轟かせし武名の栄誉、唯一心を置く事が出来た部下。
 それら全てを奪った撃退士を、赦せるはずなどなかった。
 狂戦士の隊列が、荒死の反動で動けないレイラへと殺到する。
 次々と少女の腹を貫き、地を血で染める。
「このっ、離れなさいよ、蛇女!」
 チルルがレイラを援護しつつ、分断状態になっている仲間と合流しようと試みる。
 が、立ちはだかるは余りにも大きな豚。
 地上部隊はこれを撃破しない限り、合流など出来そうもない。
「我輩はバアル・ハッドゥ・イル・バルカ3世。王である!」
 だが、其れはあくまでも地上の話。
 空を行くハッドは名乗りを上げると舞い降り、狂戦士へと氷の夜想曲を撃ち放った。
 其れを見て、静矢も女王の近くへと降下する。
「アルラウネ変異体、とは僅かに違う、か。……だが、懐かしいな」
 紫のオーラを刀身に走らせ、女王へと斬りかかる。
 あの時は、背を預けられる男が居た。
 単身の今、討てるかどうか。
「……やれるさ、やらねばならない。私はもう、繰り返す訳にはいかないんだ!」
 静矢が女王を討ちに降下した後、秋桜は再び上昇し、潜行した。
「(私は石だ! その辺に転がってる石だ! 石ころなんだ!)」
 引きこもりとしてのスキルを遺憾なく発揮し、目立たず騒がず、唯、生き残る事のみを最優先とするNEETとして覚醒する。
 対して直哉と洸太、ナナシは豚の撃破を最優先とし、死闘を繰り広げていた。
「しつこいと言ってるでしょうが、下等生物!」
 幾度目かの圧し潰し。
 直哉の限界が訪れるが、起死回生を使ってどうにか耐える。
「護り抜けって言った俺が簡単に倒れるわけにはいかねぇだろ……!」
 骨折り、血を吐き、それでも立ち上がるのは、友人の沈んだ顔を見たくないという優しい執念。
 血に濡れた拳を握りしめ、立ち向かっていく。
 コア前は徐々に乱戦の様相を呈していた。
 洸太は秋桜の姿を探す。
 そうして、上空で潜行する引きこもりモードな彼女の姿を見つけた時、安堵した。
 直哉の動きをフォローするように、洸太は豚の側面へ移動し、攻撃を続ける。
 とは言え、彼らの攻撃は豚にとってそう対したダメージにはならなかった。
 厚い肉の壁がそれらを防ぎ、致命傷を避ける。
 豚にとって、この場での最大限の脅威は、
「邪魔よ、豚!」
 炎の剣を繰り、容赦なく身を焼ききってくるナナシである。
 空にあり、すばしっこく、攻撃も当てづらい。
 天敵といっても過言ではない相性の悪さであった。


 絶望は何時も突然にやってくる。
 堕天使とヴァニタスを討ち、後方はどうにか安定に向かったか、と思われた矢先の援軍。
 無論、想定はしていた。
 だが、実際にやってきたのは最悪のタイミングである。
「さっきは良くもやってくれましたわね?」
 ギネヴィアの到来。
 直後、空蝉の尽きていた透次が犠牲となった。
 薔薇に血を吸われ、倒れ伏す。
「ギネヴィアッ!」
 結は激昂し、叫んだ。
 今まで積み重ねられた数々の屈辱、そして先刻、大切な者にされた冒涜の証。
 結の嫌う全てが、ギネヴィアに濃縮されていた。
 剣を取り、雑魚を無理矢理振り切り、悪魔へと迫る、が、
「あらあら、暑苦しいですわね」
 寸前で其の動きを止めるべく、薔薇の蔓が襲いかかった。
 蔓が結を捕らえようとした瞬間、
「えっ」
 夜姫が結の背を押し、庇う。
 結の背後では夜姫が代わりに捕らえられ、血を吸われつつあった。
「どうして……?」
 偵察隊の救助失敗の時もそうだった。
 今回だってそうだ。
 結が天魔を憎む心を知っているはずの夜姫。
 面識も、精々同じ戦場に数える程度、立ったのみの間柄だ。
 だと言うのに、このはぐれ悪魔はまたしても結を助けた。
 夜姫は、進めと告げる。
「誰かを助けるのに、理由なんて要りますか? ……行きなさい、伝えたいものがあるのでしょ?」
 真紅の瞳が、じっと結を見つめている。
「……ありがとう、感謝、します」
 結は、振り返らずに駆けた。
 其の背後で散る花の音を聞きながら。
「貴女は……、貴女だけは許さない、ギネヴィアッ! 貴女のくだらぬ生に……終焉を!」
 其の手に輝く無垢なる光が、悪魔を貫いた。

「生きて帰れると思うなよ」
 ぐさり、とユウの背を剣が貫いた。
 そのまま血を啜り、主の傷を癒やしていく。
 ユウは喪失の痛みを感じながら、ゆっくりと意識を堕としていった。
「離れろ、悪魔!」
 英斗がユウを救助しようとアーマーチャージするが、僅かに後方に退かせた程度。
「……特に、てめぇはな!」
 むしろ其の勢いを利用し、悪魔騎士はアトリアーナの背に立った。
 そうして、憤怒の剣で貫き、血を啜り、命を削る。
「まだ……、倒れる訳にはいかないの……!」
 不撓不屈でどうにか持ちこたえたが、このままでは保たないのは明らかと言える。
「諦めの悪い男はァ、嫌われるわよォ」
 別の戦線に移動したものと思わせた黒百合が、再度悪魔騎士の背後から奇襲し、兜割りを仕掛けるが、
「てめぇ如きの攻撃じゃ当たらねぇんだよォ!」
 初動から悪魔陣営をかき回した黒百合は既に警戒されて折り、あえなく回避される。
 剣を振り上げる悪魔を押し止めるべくアイリスが駆けつけ、切り結び合う。
 その間に、熾弦と九郎が近寄り、仲間の傷を癒やした。
 だが、それこそが悪魔の目論見でもあった。
「いいぜ、纏めて逝っちまえよ、烏合共ッ!」
 全魔力を乗せた渾身の氷葬剣牙が、撃退士達を飲み込む。
「遠慮すんな、お代わりも喰ってけやッ!」
 更に、追撃の氷葬剣牙。
 吹き荒れる嵐が去った時には、熾弦、九郎の意識はなく、血溜まりへと沈んでいた。
 英斗はエルを庇う為に、二人分のダメージを二度に渡って耐える事となり、その消耗は軽くない。
 黒百合、アトリアーナ、アイリス、ソーニャの四人もそれ以上の戦闘は厳しいように見えた。
 唯一、英斗によって護られたエルだけが無傷だった。
 

「裏切りの罪、其の命で贖いなさい」
 レイラの荒死が再び吼えた。
 豚の身体に、幾つもの暴虐の痕を刻みつけていく。
「ばか、な……、私、は……人を……越え……」
 巨体がゆっくりと頽れ、遂に豚は動かなくなった。
 同時に、レイラ、そして直哉の限界もやってくる。
 直後、女王の鞭に強かに打たれ、悲鳴を上げていた身体は堪えきれず、強制的に意識を堕としていった。
 幼い少女の悲嘆の叫びが木霊する。
「こんな事したくない、違うの! 私、私の意志じゃないの!」
「もうよい、解っておるのじゃ。全て忘れて、優しい微睡みの中、逝くのじゃよ」
 ハッドのノクターンが、
「これで終わらせるわ。せめて……心安らかに眠りなさい」
 ナナシの炎の剣が、少女達に終焉をもたらす。
 幼い思考は、終わりを理解できない。
「……どうし、て。私、悪い子だから……? 死に、たくない……よぉ……」
 意識が途絶えるその時まで、少女達の嘆きは紡がれ、吐き続けられた。

「死んで詫びろ」
 悪魔に斬られたアトリアーナが倒れ伏す。
「……アルトゥール! お前は、お前だけは!」
 大切な義姉達を傷つけられたアイリスの精神は極限に達していた。
 傷ついた身体を引き摺り、剣を掲げ、獣のような咆哮を上げ悪魔へと立ち向かう。
 黒百合も諦めてはいない。
 幾度となく刃を翳す。
 少女達の危急に、謳華も雑魚対応を一時捨て置き、駆けつける。
 されど、其の身体には幾つもの傷がついていた。
 たった一人で多数を相手していたのだ、無理もない。
 だが、
「この身は全て剛の盾。やすやすと抜けると思うな……!」
 戦意だけは誰にも負けてはいない。
「失せろ、雑魚共」
 しかし、絶望オーケストラの指揮者は再びタクトを握る。
 空に顕現する無数の氷剣群。
 駆け抜ける撃退士達に、無情の雨を降らせた。
「かはっ!?」
 アイリスの瞳を、身体を、剣の雨が貫き、血溜まりへと沈める。
 続く悪魔の二の太刀は、冷気を纏った直線上の全てを薙ぎ払う絶対零度の剣。
 風が駆け抜けた後には、白を緋に染めた黒百合と、英斗が倒れていた。
 だが、謳華は未だ立っている。
「どうした雑兵……俺はまだ此処にいるぞ?」
 其れが、彼の発した最後の言葉となった。
 立ったまま、血を全身から吹き出し、意識を落としていた。
 救助班は、エルとソーニャを残し、壊滅したのだった。

「悪い娘ね。でも、嫌いじゃないですわ。わたくしが憎い?」
 結の攻撃はギネヴィアを貫いた。
 だが、同時に結もまた、其の腹をギネヴィアに貫かれていた。
 くちゅり、くちゅり、と結の体内でギネヴィアの手が蠢く。
「どこまでも追ってきなさい。そうしたら、わたくしのコレクションにして、死ぬまで愛でてあげますわよ。愛玩人形さん?」
 ぬちゃり、と引き抜かれた手は、鮮やかな緋。
 恍惚の表情で血を舐め取るギネヴィア。
 結は屈辱に塗れたまま、倒れていった。
「逆恨みだと分かっています……でも、お前だけは生かして置かない!」
 雫の憤激。
 ギネヴィアの行動が、言動が、許せない。
 後のことは考えない。
 今、此処に在る存在が憎くて仕方ない。
 全力の荒死を以て悪魔を斬りつける。
 数度の斬撃。
 感触はあった。
 だが、手数が足りない。
「そういうの、好みではないと言ったばかりですわよ」
 リミットを外した反動で身体が言う事を聞かない雫から血を啜っていく。
 それを、雫は不撓不屈を以てどうにか耐えた。
「あら、まだ意識があるなんて、対したものですわね? でも、好みじゃないですわ。ラミアの餌にでもおなりなさい」
 少女の身体を魔の群れが覆っていく。
「ギネヴィア! 待ちなさい、私は、まだ……! あああっ!」
 其の光景を愉快そうに見た後、ギネヴィアはアルトゥールとの合流を目指した。


 エルは義姉妹達を引き摺って避難させると、その手に愛用のリボンを握らせた。
 下ろした銀の髪が、静かに揺れる。
「君達の気持ち、エルは嬉しかったのじゃ。じゃから、その恩返しをさせてほしい」
 このまま行けば、全員が殺されかねない。
 故に、覚悟を決める。
「いつか……、エルと蘭が夢見た皆が笑って共存できる世界。そんな世界が来るなら……エルは、本望じゃ」
 立ち上がり、瞳を開ける。
 其の色は、両眼共に真紅。
「ありがとう、姉様達。エルは、幸せじゃった。……もう、独りじゃない」
 其の手に煉獄の炎を束ね、エルは死地へと駆けた。

「各員手筈通りに。第一射撃てぇー!」
 翼の率いる部隊が、コア前の戦闘に参戦した。
 範囲攻撃が群れなす雑魚を駆逐していく。
「作戦を移行です! 各員お願いします」
 其れは一方的な駆除だった。
 敵の抵抗すら許さず、踏みつぶすように押し進んでいく。
「新手か!?」
 アルトゥールは此処に来ての援軍で撤退を考えはじめた。
 自身の傷も浅くはないし、消耗もしている。
 これ以上は危険だと判断できる。
「逃がしはせぬのじゃ。……ここで、朽ちるのじゃよ!」
 だが、エルが其れを許さない。
 灼熱の炎は悪魔騎士の不意をつき、至近距離で爆ぜた。

 最後の狂戦士を討ち、コア方面は戦況が落ち着いた。
 直後、後方での爆発。
 エルが自爆した所だった。
「自分が死んで何でも解決すると思ったら大間違いよ! この白髪年増」
 チルルが救援に飛び出す。
 其の後を追い、余力ある仲間達も駆けていった。

「詰めが甘いんじゃないかしら?」
 エルの心臓を、ギネヴィアの剣が貫いた。
 即死であった。
「ギネヴィアか、見ての通りだ。……下がるぞ」
 エルの自爆で失った体力を消耗する為に、悪魔騎士はソーニャに剣を突き刺し、血を啜った。
 ソーニャの命が吸われ、朽ちていく。
 仲間の救援は間に合わなかった。
「待ちなさい、逃がさないわ!」
 死して逝った仲間の命を無駄にはしない。
 その為には、此処で確実に討つ。
 ナナシが、洸太が、ハッドが、消耗した悪魔騎士に対して波状攻撃を仕掛けるが、今一歩、届かない。
 悪魔に、攻撃は効いている。
 既に満身創痍で、立っているのもやっと、という態だ。
 それでも、手数が足りない。
 戦力が分散しすぎた事が原因だ。
 薙ぎ払うように、氷剣の雨が地を穿つ。
 少数で当たればどうなるか、解っていた結果だ。
 ギネヴィアがアルトゥールの傷を癒やそうと近づいていく。
 其れを止める者は誰もいない、間に合わない。
「(……あれ? 今、行けば倒せるんじゃね?)」
 ただ一人、秋桜を除いて。
 誰にも見咎められる事なく、延々とかくれんぼに徹した秋桜は、誰からもノーマークであった。
 翼を広げ、NEETから脱却する。
 地へと降り立ち、ただ、一撃。
「うおりゃー!」
「……あん?」
 呆気ない幕切れ。
 秋桜の攻撃が、悪魔騎士へのトドメとなった。
「……ぷっ、なんですの、それ? なっさけなぁい。良い笑いものですわね」
 其の様を見たギネヴィアは、拘束魔法と魅了の魔眼を使って翼の部隊を突破。
 何処かへと去ったいった。

 ゲートから帰還した撃退士を出迎えたのは、しんしんと降る雪だった。
 死闘を戦い抜いた英雄達の火照った身体を癒やすように、優しく静かに舞い降りる。
 神戸の解放を祝福するかのような、冬の精霊。
 ユウの頬に、ふわりとつもる。
 誰かの背に負われたまま、ユウはゆっくりと瞳を開けると、そっと呟いた。
「ばいばい、ユキ。ここでお別れだよ」
 そうして、再びの微睡みへと落ちていく。
 様々な想いが交錯し、様々な願いが散って消えた。
 祈りを継ぐのは誰が為か。
 穢れ無き白はただ覆い隠すのみである。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 202号室のお嬢様・レイラ(ja0365)
 赫華Noir・黒百合(ja0422)
 郷の守り人・水無月 神奈(ja0914)
 無傷のドラゴンスレイヤー・橋場・R・アトリアーナ(ja1403)
 ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
 『力』を持つ者・青柳 翼(ja4246)
 エロ動画(未遂)・秋桜(jb4208)
重体: 未来へ・陽波 透次(ja0280)
   <消耗した所を悪魔に襲われた>という理由により『重体』となる
 撃退士・神月 熾弦(ja0358)
   <アルトゥールの手にかかった>という理由により『重体』となる
 赫華Noir・黒百合(ja0422)
   <凍てつく風に身を刻まれた>という理由により『重体』となる
 Silver fairy・ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)
   <アルトゥールの怒りを買った>という理由により『重体』となる
 ちょっと太陽倒してくる・水枷ユウ(ja0591)
   <アルトゥールの怒りを買った>という理由により『重体』となる
 秋霜烈日・機嶋 結(ja0725)
   <ギネヴィアに愛でられた>という理由により『重体』となる
 郷の守り人・水無月 神奈(ja0914)
   <やっちーの恨みを買った>という理由により『重体』となる
 踏みしめ征くは修羅の道・橋場 アイリス(ja1078)
   <氷剣の雨に身を貫かれた>という理由により『重体』となる
 無傷のドラゴンスレイヤー・橋場・R・アトリアーナ(ja1403)
   <アルトゥールの怒りを買った>という理由により『重体』となる
 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
   <アルトゥールの猛攻に耐えきれず>という理由により『重体』となる
 久遠の黒き火焔天・中津 謳華(ja4212)
   <凍てつく風に身を刻まれた>という理由により『重体』となる
 ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
   <エレオノーレを死守する為>という理由により『重体』となる
 撃退士・虎落 九朗(jb0008)
   <凍てつく風に身を刻まれた>という理由により『重体』となる
 撃退士・夜姫(jb2550)
   <ギネヴィアの攻撃から仲間を庇った為>という理由により『重体』となる
 カリスマ猫・ソーニャ(jb2649)
   <アルトゥールに襲われた為>という理由により『重体』となる
 我が輩は王である・ハッド(jb3000)
   <氷剣の雨に身を貫かれた>という理由により『重体』となる
面白かった!:42人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
郷の守り人・
水無月 神奈(ja0914)

大学部6年4組 女 ルインズブレイド
踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
踏み外した境界・
黒須 洸太(ja2475)

大学部8年171組 男 ディバインナイト
未来へ願う・
桐生 直哉(ja3043)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
『力』を持つ者・
青柳 翼(ja4246)

大学部5年3組 男 鬼道忍軍
撃退士・
虎落 九朗(jb0008)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
夜姫(jb2550)

卒業 女 阿修羅
カリスマ猫・
ソーニャ(jb2649)

大学部3年129組 女 インフィルトレイター
我が輩は王である・
ハッド(jb3000)

大学部3年23組 男 ナイトウォーカー
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
エロ動画(未遂)・
秋桜(jb4208)

大学部7年105組 女 ナイトウォーカー