●白濁の砂浜〜恥辱に濡れる午後〜
――どうしてこうなってしまったのだろう。
其れは、誰もが共通して思った事だろう。
死屍累々。
そう言っても過言ではない程に、悲惨な有様だった。
ある種、可視化された酒池肉林と言う概念の片鱗を再現しているとも言えなくもない。
浜辺には、SU☆KE☆KI☆YO状態で突き刺さる小野友真(
ja6901)。
何故か満足そうな表情で荒い息を吐く鴉乃宮 歌音(
ja0427)。
同じく、蕩けたような表情で横たわる見た目的に色々アウトなオルトルート・グリム(
ja8008)。
ぶつぶつと譫言の様に繰り返し何事かを呟くエルレーン・バルハザード(
ja0889)。
生気を感じさせない程に、真っ白に燃えつき虚ろな目をした御手洗 紘人(
ja2549)。
誰にともなく虚空に向かって『ごめんなさい』と囁き続け、膝を抱え込む近衛 薫(
ja0420)。
そして、母なる海へと帰っていく巨大なイカの姿。
撃退士達の服は須く溶け消え、其の身体には白くてどろどろとした液体がヨーグルトソースの如くBUKKAKEられていた。
見る者次第では、其の光景はゲイ術的とも、扇情的とも、地獄絵図的とも言えるだろう。
――どうしてこうなってしまったのだろう。
薫は霞んでいく意識の中で、精一杯記憶を辿った。
そう、全てはとあるはぐれ悪魔の一言から始まった悲劇なのだ――。
●デロいってレベルじゃねぇぞ!
あまりにも投げやり。
そう言わざるを得ない程に、はぐれ悪魔の一言は無茶苦茶だった。
事実、虚構で塗り固められていたのだから、間違いではない。
依頼内容を聞いた薫は、ただひたすら虚空を見つめ己の愚かさを呪いつつ、どこで選択肢を違えたのかを考え始める。
自分を虚飾し、他者を騙し、歩んできた因果がここに来て報いを授けに来たのだろうか?
しかし、いくら考えても結論は出ず、貞操の危機は容赦なく刻々と迫ってくる。
そうして、彼女は立ってしまったのだ。
中途半端な覚悟のまま、己の大切なモノを賭した戦場へ。
砂浜で荒ぶる巨大イカの前に、最早平常心を保つだけでも精一杯である。
一部の者に恐怖の象徴として見られている巨大イカ型サーバント『クラーリン』だが、奇妙な特性を持っていた。
曰く、何故か男を優先的に襲うのである。
本来ならば女子を襲ってムフフなイベントを起こすのが触手系の宿命的役割であり、また其れこそが青春時代にありがちな妄想の一欠片であろう。
だと言うのに、よりによって男狙いである。
全くもって誰得なのだろうか。
しかし、其れでも需要はあるのだ。
主に、ある特殊な嗜好を持つ方々に。
そんな訳で、優先的に掘られ……もとい、襲われては敵わないと、男性撃退士達は女装姿でやってきたのである。
「悪魔に代わってお仕置きだ」
長いブロンドの髪をツインテールにしてセーラー服を着た歌音は、魔法少女よろしくバッチリと女の子している。
「そもそも何であいつは男を狙うん……?」
遠い目をしながら若干途方に暮れる友真は薄い化粧に、ひらひらのスカートで恥ずかしそうにもじもじとしている。
だが、その恥じらいがイイ!
そして紘人は……、例の如くチェリーに取って代わられ、今日も不憫全開である。
しかも、当のチェリーは本人の意思とは関係なく、
『チェリー、【真夏のフィスティバル 〜ドキッ男だらけの水泳大会・ポロリもあるよ〜】だって聞いてきたんだけど……あれ何?』
等とのたまう天然っぷりを披露する。
あざとい。
そんな、戦々恐々気味の男性陣(と言っても実質友真だけだが)に対して、女性陣は落ち着いたものである。
「……人界に帰属したといってもやっぱり悪魔。性根が薄汚れているよね」
巻き添えを食わないよう、少し離れた位置に陣取りながらオルトルート。
女装した男性達を見て、可愛いなどと評価する程度には余裕である。
「ああっ……貴公子君がまたヤられたのっ! これ以上の被害は出させないのっ!」
先の戦いで散っていった戦士を思いやる等、エルレーンも我が身に降りかかるやも知れない災難に対し、無頓着であった。
今にして思えば、勝敗は既にこの時点で決していたのやもしれない。
そんな、どこかしまらない撃退士一行は、『クラーリン』を遠巻きに囲み配置につくと、囮たる男の娘達を投入し、クラーリン掃討戦を開始するのだった。
●び・ん・か・ん・チラリズム☆
「うおぉぉおお! あかん、あかん、あかん、あかん! 溶ける溶けへんの前にこの匂いが無理やー!」
餌、もとい友真が走る。
其の背後を、器用にゲソを動かして高速で移動するクラーリン。
走りながらも時折吐き出される白くてどろどろしたイカくせぇ体液、所謂イカスミが恐ろしい。
イカスミがかかった友真の服が部分的に溶け、白い肌が露出し、妙な色気を醸し出している。
嗚呼、着衣エロス!
フェティッシュの極みである。
「うん、背徳的な絵だな」
そんな友真を見て、歌音が一言。
中々に酷い友人である。
「さて、そろそろ助けてやろうか」
逃げ惑う友真を堪能した後、漸く動き出した歌音であったが、此処にきて重大な失敗に気がつく。
つまり、武器持ってき忘れた☆ である。
そんな歌音方面に、友真が逃げてくる。
その結果、どうなるかは言うまでもない。
「ひゃあん!」
セーラー服姿の幼女チックな歌音が、ぬるぬるしたゲソに捕らわれ、撃退士達に見せつけるように掲げられる。
飛び散ったイカスミが服を溶かし、所々隠されていた柔肌が露わになっている。
そうして、予想外に捕まってしまった歌音に驚き立ち止まった友真もまた捕らえられ、抱え上げられていた。
「うわぁ! 触手なんぞに好きにされて、たまるかって話やでー……!?」
涙目になり、必死でナイフを突き立て切り離そうと藻掻くが、早々刃が立つものではない。
「! ……みんな、友真君と歌音君を助けるのッ!」
仲間のいきなりのピンチに、エルレーンが奮起し、救出しようとクラーリンに迫る。
だが、彼女も此処に来て、重大な過ちに気がつく。
つまり、武器持ってき忘れた☆ である。
応戦とばかりに、クラーリンのイカスミがぶっかけられる。
非常にドロリッチな其れがエルレーンに滴り、あっと言う間もなく服を溶かしていった。
そして、露見する。
エルレーン最大の秘密が。
ブラウスが溶け、ブラが溶け、そうしてぽろりと地面に落ちたるその名は極厚パッド、重ね掛け仕様である。
元から大きくない胸を、少しでもあるように見栄をはるべく考案されたそのアイテムは、彼女の底上げチート作戦に欠かせない重要なファクターだったのだ。
其れが、バレてしまった。
どこまでも平等に平らな地平線が続くエルレーンの体線が、太陽光先生の逆行もあり妙に神々しい。
「貧乳はステータスで希少価値さ」
一番大変なのは、現在進行形で捕まってて色々とやばい歌音であろうに、優しくエルレーンに声を掛けてやる。
しかし、其れはトドメである。
「ああーっ?! ダメっ、やだぁ、見ないでえっ!」
必死に胸を隠し、頽れるエルレーン。
慌ててパッドを拾い、隠して泣きじゃくる。
そんな少女を、容赦無く捕らえるクラーリン軍曹、やりたい放題でまさぐるのであった。
「ひっく、えぐっ……や、やめてぇ……」
エルレーンの嘆きも何のその、絶好調だ。
しかもこのイカ野郎、中々に姑息である。
捕らえた撃退士達を眼前に抱え、射線を遮断。
尚且つ、同時進行で無駄にテクニシャンなゲソで嬲り続けるという高度な羞恥プレイを敢行。
撃退士達のSAN値が、見る見る下がっていった。
「あ、あぁ……鴉乃宮さん、小野さん、バルハザードさん……」
薫は既に発狂寸前である。
何はともあれ、自分の身だけは守らねば。
エルレーンの二の舞は致命的なのだから。
青くなる薫とは対照的に、オルトルートは物見遊山感覚で鑑賞中である。
実際は、仲間が盾にされているので、早々遠距離攻撃にうって出られない、という大義名分があるのだが。
「へぇ、捕まったらああなるんだね。あはは、あんなに必死になっちゃって、可愛いなぁ」
やられている方は必死なんです!
貞操の危機なんです!
助けろやがってください!
オルトルートと同じく、我らの魔法少女チェリー先生も絶好調で鑑賞中であった。
『うふふ……あはははは!! リアル妄撮男子キタコレ! でも、触手プレイ……リアルで見るとこんなのなんだ……』
チェリー、歓喜の鼻血どぱぁ、である。
しかし、因果は巡りて報いの時を刻むものなのだ。
クラーリンの矛先が、チェリーへと向く。
そうして、どっぴゅりと白い液体は吐き出された。
『まだまだね! チェリー、ちゃんとビーチパラソル用意してきたんだから☆』
阻霊符を展開させたチェリーが、傘を差してイカスミを防御する。
だけど、そんなので何とかなるほど人生あまかぁない!
傘をも溶かし、チェリーへと到達した体液は、何もかもを白く穢して浸食していった。
『酷い! これチェリーのお気に入りだったのに……』
チェリーの可愛らしい服が穴だらけになり、見るも無惨なボロボロ状態となる。
だが、其れが妙に艶めかしく、思春期の男の子にはいろいろと際どいものがあった。
『あ、でもこういうのもセクシーに見えるのかな? チラリズムってやつ?』
先生、そんな暢気な事を言っている場合ではありません!
直後、クラーリン全力の跳躍。
三人の撃退士を捕らえたまま、チェリーの背後に着地すると、鮮やかな手並みで四人目の餌を手中に収め、ご満悦のイカダンスである。
捕まっている側からすると、けっこうグロッキーなのだが。
こうして、既に三分の二の撃退士が捕らわれ、戦場は混沌を極めていた。
そして約束された時が訪れる。
そう、屈辱の掘削タイムである。
●絶望しかなかったんや
「やぁん、そこは……」
恥辱に頬を染めながら、歌音の艶を含んだ嬌声が浜辺に響く。
無駄にテクニシャンなイカゲソ先生、もはや紐状態となった服を破り捨て、縦横無尽にご乱心。
絵的にはとても見せられないことになっているが、其処は太陽光先生や、水しぶき先生、砂先生、どろりっち液先生などが良い仕事をする為、大事な部分だけは絶妙に見えない。
つまり、大自然の力は偉大である。
また、歌音も面白がって掘削されつつも、わざと声を上げて周りを挑発する。
其れが余計な混沌を呼ぶのだ。
「に、逃げなきゃ……」
薫がその光景に戦慄し、がくがくと震え出す。
しかし、腰が抜け、思うように動けない。
それでも、地を這うように必死になって離脱を図るのだった。
その間も、他の撃退士達が突貫工事されていく。
「や、やだ冗談、ちょっ……ん、いや、待っ……!?」
友真は、まだ失いたくないと出来うる限りの抵抗を試みていた。
されど、彼は絶望戦隊モウダメンジャーなのだ。
身体に染みついた絶望属性は、払拭できるような代物ではない。
そう、絶望が這い寄り囁くのだ。
友真にもっと嘆けと、悲観しろと。
にゅるり、と下着の中にゲソが侵入する。
「いあ! いあ! クラーリン!」
こんな依頼を受けた時点で、絶望しかなかった、なかったんや……。
「アッー!」
こうして、今日もまた可憐に咲いた一輪の薔薇が、その花弁を散らしていった。
世は無常である。
そうして、エルレーンとて容赦はされない。
秘密をばらされた挙げ句に色々と致命的な二重苦。
「お願い……いや……やめてぇ! それだけはいやぁ!」
さりとて、其れを聞いてくれる程、クラーリン軍曹は優しくはない。
―― チェックの結果、蔵倫により 該当部分は抹消されました 中略――
少女の願いは脆くも崩れ去った。
嗚呼、こうして彼女達は大人への階段を登っていくのである。
最後にデザート、大本命のチェリーである。
今までいろいろなモノを味わってきたクラーリン軍曹だが、チェリーのような特殊な存在はハジメテと言っても過言ではない。
故に、盛大に嬲って食べる所存であった。
にゅるにゅると海産物的スメルを発しながら、ゲソをチェリーに這わせる。
服の中を蹂躙し―― 蔵倫により 該当部分は抹消されました――へと至る。
『……これは無いわ……チェンジで☆』
しかし、チェリーの最終奥義発動。
強制人格変更により、紘人が召還されるのだった。
クラーリン鬼畜軍曹in紘人withイカゲソ。
手の施しようがない状況への投入は、まさしくイケニエとしか言いようのない実質的な死刑宣告。
「え? え? ここは? え? この格好は!? って言うかこれなんですか!! や……やだ……やめて〜!」
嗚呼、勇者紘人よ、ここに散る。
君の事は一生忘れない、多分。
「アッー!」
いい奴だった。
こうして、掘削の果てにぐったりとした撃退士達を放り出しつつ、クラーリンは次の得物を狙う。
彼方には這いながら逃げる薫の姿、近くにはずっと観戦していたオルトルートの姿。
得物を決めたクラーリンは、友真を頭から砂浜にダンクシュートさせると、オルトルートへと迫った。
友真の――蔵倫により以下略――太陽光に照らされ、まるで美術館に展示されているゲイ術作品のようであったが今は其れを気にしている時では無い。
やっと出番だとばかりに、オルトルートは札に無尽光の力を収束させると、紫色に染まった破壊の力を矢として解放した。
破滅をもたらす魔力の矢が砂浜を駆け、クラーリンを射貫く。
だが、弱い。
その一撃だけでは身体の表面を僅かに焦がす程度だ。
最早手遅れ。
エナジーアローの直撃をものともせず突進したクラーリンは、そのままオルトルートを捕らえると、新たな得物を存分に堪能し始めた。
されどオルトルート、余裕の表情である。
服が溶け、破り捨てられても何のその。
幼く未成熟な――蔵倫により略――るのだ。
しかし、流石に其の光景は色々とキケンな為、各個人の豊かな想像力にお任せしたい。(原文は既にアウトである)
そうして、遂に薫だけが残されてしまった。
這っていては、クラーリンからは如何ほども逃れる事はできない、イカだけに。
「こ、こないで! こないでください!」
イカゲソが放たれる度に、黄金の鳥を模した魔法の矢を撃ち凌ぐが、弾切れ。
最早少女に手立て無し。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」
誰にともなく呟かれた謝罪は、波間に儚く消えていった。
ばたり、と薫は地に倒れ伏した。
ほろり、と瞳から涙が溢れる。
「エレさん……恨みますからね……」
満足したのか、クラーリン軍曹が無駄にテクニシャンなゲソで、優しく薫の背を撫でた。
天魔にまで同情される始末である。
そうして、クラーリンはのそりのそりと大海原へと旅立つ。
新たな世界を求めて。
ただ、絶望に暮れるしかない撃退士達を残して。
――どうしてこうなってしまったのだろう。