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マスター:久保カズヤ
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/05/12


みんなの思い出



オープニング

 口から紫煙を吐き、目をつむる。
 入生田 晴臣(いりゅうだ はるおみ)は、顎に生えたその短い無精ひげをゾリゾリと撫でながらもう一度煙草を吸う。
「ふぅー………とりあえず今日の仕事はこれで終いか」
 気温も随分温かくなった。眩しく思える太陽も丁度うっすら雲にかかって、全ての環境が丁度良い。仕事終わりに、そしてこんないい天気で吸う煙草は身に染みる。撃退士として戦う身でありながら、身体機能を低下させるようなタバコを吸うという事は、あまり褒められることではないがどうにも止められない。
 私生活ではあまり吸わないようにしているが、この仕事終わりだけはどうしても止められなかった。

 彼が腰かけているのは、今日討伐した標的、人面樹型のサーバントの死体の上。
 晴臣、もうそろそろ三十路に入ろうかといった民間の撃退士である。その腕は確かなもので、自分の地元である小さな町をたった一人で天魔から守って来た。一人暮らしの、独り身生活。仕事柄少し町から外れた地に住んでいるため、あまり人と関わることは無い。近くにある店のお爺さんくらいだろうか、良く話す相手というのは。
「しかし、最近出現率高くないか?こんな辺鄙な街に何があるっていうんだよ、ったく」
 吸殻を自身のポケット灰皿に放り、グッと背伸びをする。さて帰ろうか、そう思った瞬間だった。

「………」

 もう一度、愛用武器のズッシリとした重機関銃を片手で持ち上げる。その体長は自身の腰以上もあるほど大きく、それを人が片手で持っている様は幾ばくか不自然だった。
 肌を撫でる風に、微かにアウルの感覚が混ざっている気がする。
「こっちか」
 地面を大きく蹴り、出来るだけ足音を立てない様に木々の幹に足をかけていく。
 間違いない。天魔がこの先に居る。
 この先には確か、少し開けた原っぱがあったはずだ。生い茂っている木の幹の上に乗り、息をひそめて様子を遠目で眺めてみた。

「………どういうことだ?」
 彼の視線の先には、小さな少女が一人。ボロボロの白いワンピース一枚を着用して、大きな石に腰かけ何かを食べていた。その背中には確かに真白の翼が生えている。間違いない、天使だ。
 天使は任意の年齢で老いを止めることが出来る為、あまり外見はあてにならない。あれがもしも敵対してくるような存在ならば、とてもじゃないが自分一人で対抗するのは無理であろう。
 しかし引っかかるのは彼女の姿だ。
 服は所々破け、体は痣や傷が多数刻まれている。遠目で良くは見えないが、その表情は衰弱しきっているように見える。
(何を食べているんだ?………あれは、ヨーグルトか?)
 仕事柄、情を易々とかけていけないというのは分かっている。しかし、このまま見過ごすのも、寝つきが悪くなりそうでどうも嫌だった。


 大きく飛び上がり原っぱの上に着地した。標的との距離は4m程度。銃口も相手の額に合わせて腰だめに構えている。
「何をしている」
「………?」
 近くに寄ってみて分かったが、彼女の体は予想以上に傷ついていて、元々整った顔立ちであったであろうその顔は、疲労によってか非常に衰弱していた。
 そんな小さな天使が、片手にヨーグルトのカップを持って、スプーンの持ち合わせがないのかズルズルとそのカップを啜っている。
 少なくとも敵意は微塵も感じられない。晴臣は二歩、彼女に近寄った。
「………ねぇ、おじさん。天使達とヨーグルトって似ていると思わない?」
「は?」
 衰弱した体に染み渡るのか、美味しそうにヨーグルトを口に含む少女が晴臣に向かってそう問いかける。
 唐突な問いかけに晴臣は間抜けな声を上げてしまう。
「本人達は自分達の行いが正しいと、正義だと信じて疑わずに、自らの事を真っ白で穢れない存在だと言っているけど、傍から見れば権力抗争やらなんやらでぐっちゃぐちゃ。発酵食品のヨーグルトみたいに一人一人が腐っているの。美味しくて体に良い分だけ、私は天使よりヨーグルトが好きだけどね」
「………何のことだ?」
「いや、何だか私、もう、疲れちゃった、えへへ」
 無理して笑う彼女の目からはとめどなく涙が零れ落ちていた。
 そして不意に天使少女の顔から意識が抜けて、その場にばたりと崩れ落ちる。ヨーグルトはまだ半分以上残っていた。
「お、おい!」
 思わず晴臣は駆けだして少女の体をすくい上げた。息はしているが、体の傷から見て体力が非常に衰弱しているのが分かる。それほどまでに彼女の体重は異常に軽かった。


───ガサガサガサガサッ!!


「………おいおい、マジかよ」
 茂みから飛び出してきたのは、純白の布で体を覆い、顔にはピエロの仮面をつけ、浮遊しながら両手に大鎌を構えているサーバントだ。体長は2m程度であろうか。そのサーバントが2体飛び出してきたのだ。
 いきなり目の前に現れたかと思いきや、その大鎌を晴臣へ、いや、晴臣の抱える天使少女へと振るう。
 両手がふさがり武器を持つことが出来ない晴臣は大きく後方へ飛びその一撃を躱した。
「ここは、逃げた方が良いかっ」
 阻霊符を投げつけサーバント二体に乱雑に張り付けた後、晴臣は少女を抱えたまま、より木々の鬱蒼とした方へと逃げ出す。敵より小回りが利く分、このルートからの方が逆に逃げやすかった。自分が離れることで阻霊符の効力が切れてしまう、だからその間に敵を巻いてしまわなければならない。

「くっそ、わざわざ厄介事を抱え込んでしまった………」

 逃げ切る事には自信があったが、晴臣の顔は冴えない。
 きっとこれから巻き起こる厄介事を、事前に感じ取っていたせいかもしれない。しかし、その真意は誰にもわからなかった。もちろん晴臣でさえ、だ。


リプレイ本文


 時刻は、まだ日の赤く染まっていない夕時。
 病院独特の薬が混ざり合っているかのような臭い。入生田はボリボリと頭を掻きながら、今回の依頼に参加してくれた撃退士達に軽く頭を下げる。
「せっかくここまで来てくれたのに悪い、あの天使は今、極度の精神的疲労でまだ意識が戻ってないんだ。身体の方にもまだいくつもの傷がある、命に別状はないらしいがな。何かしらの後遺症が残らなければ良いといったところだ」
「………そうですか、私達一同その子の回復を心から願っています。それと、彼女が目を覚ましたらで良いのでこれを」
 シエル・ウェスト(jb6351)は仲間たちと一緒に選んで持って来たヨーグルトの詰め合わせを入生田に手渡した。
「厄介事を押し付けちまった挙句に、ここまでしてもらって、いや、申し訳ないな。ははっ」
「この飲むヨーグルトは私から入生田さんへです。お疲れの様ですし、お体を大事にして下さい」
「ほんと、頭が上がらないね。助かるよ」
 へらっと笑う入生田の顔はどことなくぎこちなく、彼に疲れが溜まっていることが目に見えて分かる。

「さて、と。俺はご覧の通り、あの天使から離れるわけにはいかないから君達に依頼を出した。地形は予め渡してある地図の通り、詳細は依頼に書いている。敵は恐らく二体、十分に気を付けて事に当たってほしい」





「とりあえず、ここまでは敵の気配は無し。じゃあ、手筈道りに二班に分かれての行動をしよう」
 開けた長草の生い茂る原っぱ。ところどころに入生田のものであろう阻霊符が落ちていた。
 その原っぱの中央に位置する大きめの石の上にリョウ(ja0563)は渡されていた地図を開く。
 今回、敵サーバント二体の討伐の依頼を受けたのは7人の撃退士達。まずはその敵を見つける為に、彼らは役割を分担し動く事を予め考えていた。
 索敵及び誘導を行う班と、この開けた地で敵を待ち構え奇襲を行う班。この二つに分かれて討伐を行う。
 索敵班には、リョウ、麻生 遊夜(ja1838)、シエルの三人。そして待ち伏せ班には、新井司(ja6034)、来崎 麻夜(jb0905)、木嶋 藍(jb8679)、黒羽 風香(jc1325)の四人だ。

「えっと、じゃあ麻生。今すぐにでも索敵に行くから、変装をお願いできるか?」
「了解………って、ちょっと待ってくれ」
 早速変化の術を使おうとする麻生の背中に、いつの間にかひしと抱き付き頬をすり寄せる少女が一人。来埼は猫のように目を細めていた。
「なっ、場所を考えろよっ!?」
「先輩が変装する前に甘えておこうと思って!あ、あとはいこれ」
 彼女から手渡されたのは、小さな女の子用の白いワンピース。少し使い古されたように汚れている。
「天使の女の子に変装したら服を変えなきゃいけないでしょ?」
「いや、流石に女装は………」
「でも来埼さんのその服を着た方がより変装度が高くなると思うよ?」
 新井の一言に来埼はニヤニヤと笑いだし、麻生は顔を赤くしながら「ぐぬぬ」と唸る。

 結局、麻生はその服を着る羽目になった。





 シエルとリョウは木々や藪の中で息をひそめながら、変装中の麻生の後を追う。
 情報からだと敵サーバントはこの天使の少女を狙っているはずだ。だったら間違いなく麻生を狙って敵が現れる。
 敵が現れ次第、シエルとリョウの二人が麻生をサポートし原っぱまでの誘導を行う。

「………?」
『どうした、シエル』
 頬を撫でるそよ風。シエルの耳がピクリと動いた。
 無線機越しに感じたその違和感にリョウが反応する。
「微かに、ですが、風にアウルが含まれているような空気を感じました。近くに敵がいるのかもしれません」
『聞こえたか麻生?』
『………あぁ、たぶんあれの事だろうな』
 今度は違う、明らかな敵の気配。麻生の見つめる先、一体どんな原理で動いているのか、ただの白マントが二枚猛スピードで浮遊しながらこちらへ向かってきていた。
 リョウが茂みから咄嗟に飛び出し、麻生の前で盾を構える。瞬時に防御陣が展開され、マントは麻生のもとにたどりつく前に弾き飛ばされた。
「これは?」
 あまりにも手応えの無い感覚。
 種も仕掛けもない白マントはヒラヒラと地に落ちた。

「───後ろッ!!」

 張り裂けるかのようなシエルの一声。振り向いた麻生の首元には二本の大鎌が左右から迫っていた。
 大鎌を振るうのは、肩から上までしか存在しない、道化師の仮面をつけたサーバント二体。
「クッ!」
 射程の長い槍を下から上に振るい、シエルはギリギリその大鎌を二本上空に打ち上げる。兜割りの要領で弾いたから良かったものの、そうでなければきっと押しに負けていたであろう。三人の額に冷や汗が滲んだ。
 再びスルスルと白マントが動き、距離の空いた二体のサーバントに被さる。肩から下を覆うマント、これでは体があるように錯覚してもおかしくは無い。
「どうやら待ち伏せを喰らったのはこっちだったという事か。麻生、一足先に原っぱまで駆けてくれっ!こっちが全力で援護する!」
「頼んだっ」
 サッと動き出す変装中の麻生。
 敵の視界は確実にその天使少女を優先的に捉え、その後を追う様に動き出す。
 しかしそんな敵の動きを邪魔するように、リョウとシエルが一撃離脱の牽制を繰り返した。原っぱまでの距離はさほど遠くは無い。




(来るか………)
 近づいてくる敵の気配。新井は原っぱ全体を見下ろせる木の上で、拳をギュッと握りしめる。
 不意に原っぱへ逃げるように駆けこんでくるのは麻生が変装している小さな少女天使。そしてその後を追う様に現れたのは二体のサーバントと、繰り返し牽制を行うシエルとリョウ。
『今だっ!』
 リョウの合図とともに誘導班の三人は瞬時に三方向へと散り、敵サーバント二体はまんまと原っぱの中心で置き去りになる。
 その瞬間、予定通りに来崎と黒羽の銃身が火を吹き、敵は思わずその場で大鎌を横に構えて防御態勢になった。本体は肩から上までなので、大鎌の刃だけでどうやらある程度の防御が出来るようだ。

 敵の意識は完全に攻撃をしてくる来崎と黒羽の方へ向いている。
 今なら完全に敵の背後からの攻撃が出来た。新井はその拳に雷を纏い、高い木から飛び降りる。また同じく、違う木から飛び出してきた木嶋もその手に銃身を構えていた。
 完全に背後を取る。新井はその片腕を振り上げ、木嶋はトリガーに指を掛けた。

───グルリッ

「えっ?」
 普通ならあり得ない、サーバントの首だけが背後に振り向く。無機質な笑顔が彫り込まれている道化師の仮面。新井と木嶋の二人の背中にゾクリとした悪寒が走った。
 ひとりでに白マントが動き、サーバント二体と来崎、黒羽の射線上を妨げる。
 振り向き様の一撃。遠心力の加わった大鎌を辛うじて二人は防御し、勢いよく弾き飛ばされる。木の幹にぶつかり、肺の中の空気が全て押し出された。
「援護をお願いしますっ!!」
 黒羽の一言でその二人を庇うように、再びリョウとシエルが敵の前に立ちはばかり、天使の姿のままの麻生を中心とした弾幕がサーバントを無理矢理上空へと押しやった。
 特に外傷はないが、体の中に走った衝撃のせいで、どうやらすぐさま新井と木嶋は立ち上がれそうにないようだ。
「くっそ、トリッキーな動きをしやがるな」

 上空でひらひらと浮遊するサーバントはこちらを見下ろして嘲笑っているかのよう。麻生は舌打ちを一つ鳴らした。





 ここまでの戦いで分かったことがいくつかある。
 まず、敵はその胴体に身につけている白いマントを自在に操り、なおかつ修復も行えるらしい。特にそのマントで攻撃を行ってくるわけでも無いが、このマントのせいで上手く遠距離攻撃を行うことが出来なかったり、近接攻撃を行う際に極めて邪魔になったりと、とにかく煩わしい動きを行うのだ。

 しかしそのマントさえ注意すれば、数で有利に立っている撃退士の方が勢力的に優位に立つことが出来る。
 確かに敵の一撃一撃は脅威。長草のせいで動きづらい撃退士達に比べて、三次元的に自由に動き回ることの出来る敵。だがそれを含めた上でも、数的優位の優勢さは変わらない。
 敵の注意も麻生一人に優先的に注がれており、行動も予測することは難しくはない。

 そして、逆に分かっていないこともある。それは敵の不自然なまでの視野の広さ、死角という死角がほとんど無いような動きをすることだ。

「くっ、またか!すまない新井」
「大丈夫だ」
 敵の一撃が重い為、何度もリョウとシエルが死角から敵を狙った攻撃を繰り返しているのだが、ことごとくそれに反応される始末。新井が二人のサポートに回って防御を受け持っているので未だ大事には至っていないが、このままでは決め手を欠いたまま状況は変わらない。
 むしろ一撃が強い分、こちらが不利に陥ってしまう可能性も多分にある。
「しかし、新井さん、リョウさん。遠距離組の攻撃で敵の体力が削れているのもまた事実です。ここは片方の敵に攻撃を絞ってみませんか?」
「そうだな、もしかしたら敵の視界が俺達の考えているよりも広いのかもしれないし、死角ばかりを狙った攻撃より、数的優位で攻めた方が有利に立てるかもしれない」
「わかった。それなら私はもう一方の牽制に努めるとするよ。その点そっちのサポートには回れない、どうか気をつけて」

 一方の敵の牽制を行うのは新井、来崎の二人。
 そして、麻生に注意を向けながら集中的な攻撃を行うのは、近接にリョウとシエル。遠距離からは木嶋と黒羽だ。

「離れて下さいっ」
 黒羽の合図で麻生は敵の攻撃を回避して距離を空け、敵の二体を引き離す為にリョウとシエルの二人が大鎌へ同時に攻撃を放つ。
 思い切り弾き飛ばされた敵、そこへ木嶋と黒羽の銃弾が間髪入れずに降り注ぐ。
「………流石にそんなうまくいかないわな」
 麻生は焦りを顔に滲ませそう呟く。敵は二人の銃弾をその鎌で一つ残らず防ぎきっていたのだ。
「また来ますっ」
「いや、ここで決める!」
 木嶋の言葉道り、馬鹿の一つ覚えかの如く麻生へ猛進する敵サーバント。先ほどから大事を取って回避を行ってきていたが、麻生はその場から動かない。
 麻生の、少女天使の髪が異様に伸び始め、こちらへ向かってくる敵の腕や首元を絡めとる。ギリギリと歯を食いしばる麻生と、何とか鎌を動かそうとするサーバント。この状況は長く持ちそうにない、しかしまたとないチャンスであることは間違いなかった。

「背後とったよ!」
 敵の真後ろから、敵の後頭部を狙ったクイックショットを木嶋が放つ。
 しかし、この完全な死角からの攻撃すらも敵は辛うじて首を動かすことで避けて見せる。
「視界は広くても、こっちに注意は向いてないだろ?」
 不意に下方向から聞こえるリョウの声。
 完全に気配を消していたリョウとシエルの二人が長草から飛び出して、真下から二人の槍が敵を串刺しにしようかという勢いで迫る。

 だがしかし

「嘘っ!?」
 麻生の拘束を力技で振り切り、サーバントは二人の槍を大鎌で弾き飛ばした。
 ただ視界が広いというだけではこの状況を説明できない。
「くっそ!」
 拘束を即座に解き、麻生はシエルに大鎌を振るっている敵の顔を黒い霧で覆う。加えて黒羽が銃を放ち攻撃の軌道をずらして、大鎌は間一髪でシエルではなく地面に突き刺さった。
 しかしそれでも、視界を塞がれているにもかかわらず、今度は横薙ぎにリョウとシエルの首を寸分狂うことなく狙ってくるサーバント。
 ただ今度は敵が次の攻撃動作に移るまでの時間があったので、二人はなんとかその場から離れることが出来た。

「───そういうこと、ね」

 誰に聞こえるでもない呟き。
 戦闘状況を唯一見渡せる場所に偶然位置していた木嶋が微笑んだ。





「───これなら、確実に敵を倒すことが出来ると思うの」
「なるほど、それなら今までの一連の流れを説明できるな。打つ手が限られ、体力もきつくなってきたところだ。この手に賭けてみよう」
 木嶋の説明を受けるのは麻生。敵サーバントは仲間が懸命に牽制を行っている。

 彼女がこの状況から読み取った仮説。
 それは「敵の二体は視覚情報を共有し合っている」とのこと。
 これならば、敵が離れず行動を行っているという理由も、敵が死角を持たない理由も、視界を塞がれても攻撃を行える理由も説明がつく。
 自分の動きを三人称視点で把握することが出来るのだ。さながらゲームでもしているかのように。


「でも、タネが分かればなんてことは無い」
 麻生が不敵に微笑み、木嶋の指示が飛ぶ。
「リョウさん、敵の注意をタウントで引いて下さい!来崎さんと新井さんは防がれても良いので攻撃の手を緩めないで!」
 木嶋の指示通りに仲間が動く。
 一方の敵は麻生ではなくリョウの方へと視線を向けて、もう一方は鎌を構えたまま防御に徹している。
 その瞬間、防御に徹していた敵の背後から麻生は黒い霧を被せた。
「やっぱり、両方の注意を削いでいる状態だから、俺の『目隠し』に気づかなかったな。よし、そろそろ終わりにしよう。あっちの方をやってくれ!」
「了解、おとーさん♪」
 信頼する麻生の指示に、即座に反応した来崎。
 彼女の体は、真白のサーバントとは対称的に黒いアウルを纏い始め、猫のようにそのアウルで耳と尻尾が形成される。
 一瞬だ。
 リョウの方へと注意が向いている敵の背後を取り、来崎の銃口から黒いアウルを纏った銃弾が放たれた。





「これで、終わりのようですね………」
 黒羽の言葉通り、原っぱでは複数の銃痕と傷を抱えた二体のサーバントが地に伏していた。もうピクリとも動く気配は無い。
「なんだか体というより、頭の疲れるような相手でした」
 シエルの呟きに賛同するかのように、全員が小さく溜め息を吐いた。

───ゾクッ

 変装を解いて、服を着替えていた最中の麻生の手が止まる。
「おいおい、マジかよ………」
 木々からゆらりと出現したのは、先ほどのサーバントの上位互換かと思われるような風貌をした一体のサーバント。
 頭には全方位に向いている複数の道化師の仮面をつけて、手には一回り大きな大鎌を構えていた。相変わらず煩わしげにゆらゆらと白いマントが揺れている。
「今回の敵は、どうやらサーバント単体ではなく、その背後にいる黒幕的な存在かと………」
「冷静に分析してる場合じゃないよ黒羽さん!」
 顔色を悪くしながら分析を行う黒羽の肩を掴み、泣きつくかのように声を上げる木嶋。
 リョウとシエルは眉間に深くしわを寄せて武器を構える。

 しかし、サーバントの様子がおかしい。

 彼らに攻撃を仕掛けるまでもなく、サーバントはただただその場に佇む様に動かない。
 首が力なくだらんと下がり、大鎌が地に落ちる。そしてそのまま長草の中に倒れた。


「───お嬢様を、知りませんか?」


 その倒れたサーバントの背後から現れたのは、細いレイピアを片手に携えた一人の若い男性の天使であった。


<続く>


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 夜闇の眷属・麻生 遊夜(ja1838)
重体: −
面白かった!:7人

約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
撃退士・
新井司(ja6034)

大学部4年282組 女 アカシックレコーダー:タイプA
夜闇の眷属・
来崎 麻夜(jb0905)

大学部2年42組 女 ナイトウォーカー
久遠ヶ原から愛をこめて・
シエル・ウェスト(jb6351)

卒業 女 ナイトウォーカー
青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・
御子神 藍(jb8679)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター
少女を助けし白き意思・
黒羽 風香(jc1325)

大学部2年166組 女 インフィルトレイター