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マスター:喜多朱里
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/24


みんなの思い出



オープニング

●気難しい新入生
 夕暮れ時、久遠ヶ原学園の学生寮に大きなバッグを引きずる少女の姿があった。
 彼女の名前は須野原 茜(すのはら あかね)。外部の中学を卒業後、今年度より新しく高等部に通うことになる。それに備えて、学園の学生寮へ入寮することになった。
「自業自得ですが、流石に重いです」
 バッグにはたくさんのオカルトグッズが付けられていた。十字架や骸骨のキーホルダー、パワーストーンなどごちゃまぜである。バッグの中には漫画がぎっしり詰められており、日常生活に使うものは最低限にしか入っていなかった。
 茜は割り当てられた部屋を見付けて、ドアノブに手を掛ける。
「あっ、新しく入寮する人だよね?」
 そこで声を掛けられて、ゆっくりと振り返った。
「…………」
「あ、あれ? 聞こえなかった? ええと、では改めまして! お隣さんだから、これからよろしくね!」
「………………よろしくです」
 ボソリと返しただけで部屋に入る。廊下から戸惑う声が聞こえてくるが無視した。
「相手をしてる暇はないです」
 バッグを床に置くと、すぐに仕事道具であるノートパソコンとペンタブレットを取り出した。
「さあ、締め切りは目の前です。気合入れるですよー!」
 茜は机に着くと、全力でペンを走らせた。新生活へのワクワクなんてものはとっくに捨てている。
 慣れない場所ではあったが、逆にその新鮮さがペンを加速させた。
「ふぉぉぉぉ、締め切りがひゃぁぁぁ、迫ってくるですぅぅぅぅっ! 今なら一コマ十秒で描けるですよぉぉぉっ! ふぉぉぉぉ、私の早描きは世界一ぃぃぃぃぃぃっ!」
 ハイテンションで自分の世界へ突入していく。
 ノックの音が、そんな彼女を現実世界へ引き戻した。
「誰ですか、私の邪魔をするのは……」
 露骨に表情を歪めながら扉を開けた。
 扉の先に立っていたのは、挨拶をしてくれた隣人だった。
「まだ来たばかりで、学園の周りってよく分からないよね? だから案内しようと思って! 今から時間あるかな? それともまた後での方がいいかな?」
「うるさいです」
 冷たい一言に、隣人の笑顔が凍りついた。
「えっ?」
「うるさい、と言ったんです」
「ええっ!?」
 茜は耳を押さえて、眉をしかめた。
「キンキン喚くなですよ。こっちは寝不足の頭痛に苦しみながら死闘を繰り広げているんです。隣の部屋みたいですけど、私の邪魔しないてくださいね? 特に今は締め切り前で大変なんですから。分かりました? 分かりましたね? それはじゃあ失礼するです」
 ガチャン、と勢い良く扉を閉めた。
「…………」
 閉めてから扉に背中を預けて頭を抱えた。
「あぅぅ、私ってばまたやっちゃったぁ……ほんと、締め切り前だと余裕がなくなるです。すぐ出てって謝った方が……ああ、でもまた毒舌なんか飛び出したら……。こうなったら、仕事に逃げるです!」
 自分の不器用な性格を自覚していても、向き合うことはまだできそうになかった。

●悩める在学生
 隣人――金井 早希(かない さき)は新入生から拒絶を受けて、扉の前で立ち尽くしていた。
「え、ええええ、わ、私、何かやらかしちゃった!?」
 元々難儀な性格をしているが、そこへ寝不足と締め切り前が重なってしまい、茜の機嫌は最悪だったのだ。早希の対応は特に問題ではなかった。
「ど、どうにか仲直りできないかなぁ」
 隣の部屋はずっと空き部屋で、ようやく現れたお隣さんだ。何かと接する機会も多くなると思うので、このまま気不味い関係を放置したくない。
「とりあえず、明日また声を掛けてみよう」
 その日の夜中、茜の部屋から壁越しに奇声が聞こえてきた。
「足りない、足りないぃぃぃぃ! 萌えが、エロスが、まだまだまだぁぁぁぁっ! ショタ同士の絡みにテンションふぅぅぅぅっ!」
「薔薇よ咲けっ! 今咲け、すぐ咲け、咲き乱れろっ!」
「心が折れるまで、私は描くのをやめないっ!」
 などなど意味不明で狂気が宿っていた。
 色々と心配になったが、そんな不安を押し込めて真面目に仲直りの方法を考える。
「そういえば……」
 茜の部屋を覗いた時に、目に入った物のことを思い出した。バッグに付けられたオカルトグッズ。バッグの中から溢れ出ていた漫画本。丸められたアニメキャラのポスター。アナログ用の画材。
「ああいうのをプレゼントすれば喜んでくれるかな? 後はケーキでも作ってパーティを開くのもいいかもしれないなぁ」
 歓迎会を開くのなら盛大な方がいいだろう。
 明日になったら協力してくれる人を探そう、と決めるのだった。


リプレイ本文

●情報収集
 憧れの女性が居た。そんな彼女がBL小説を書いていて涙を呑んだ記憶がある。
 そんなトラウマを抱える戸蔵 悠市(jb5251)にとって、茜の難儀な性格は他人事に思えなかった。
「私にも多少……いや、大いに覚えがある」
 悠市は朝早くから図書館に居た。
「図書館には来てないみたいですね」
 戸蔵と共に図書館へやってきた早希は、残念そうに肩を落とす。
「まーあんまり気負ってもしょうがねぇし、ま、気楽にな?」
 もう一人の同行者である点喰 縁(ja7176)は、未だに茜のことで責任を感じている早希に、笑い掛けて肩を叩いた。
「でも……」
「そんな顔じゃあ歓迎もできねぇぞ」
「すみません! シャキッとします」
「図書館では静かに」
 戸蔵の言葉に、早希はまた大声で謝罪しそうになったが、慌てて口を押さえようとして――別の理由で叫んだ。
「居ました!」
 早希の視線の先、腕一杯に本を抱える茜の姿があった。
 躊躇う早希の代わりに、戸蔵は素早く行動に移る。
「すまない、きみは高等部の須野原茜だったかな?」
 突然声を掛けられたせいか、茜は警戒の色を見せる。
「……あなたは?」
「私は戸蔵悠市。オカルト関係の本が好きだと聞いてね、お勧めを紹介しようと思ったんだ」
 そう言って手紙を差し出した。
「口で説明するのは少し苦手でね」
 更に警戒心を滲ませる茜だったが、手紙を受け取ってくれた。
 足早に去っていく茜の背を見送って、緑は遠い目になる。
 幼馴染の趣味を手伝った記憶が蘇る。今回はまさか手伝うことにはなるまい、と考えて、少しだけ不安になり、
「あはは……」
 と笑うことしかできなかった。

 秋桜(jb4208)は自室に引き込もっていた。いや、たぶんきっと情報収集をしていた。
「分からないならググるだろ常考」
 カーテンを締め切った部屋で、ディスプレイの青白い光に真紅の瞳が不気味に輝く。
「ちょ、おま、ここで即売会とか誰得、いや私得ですけどねー」
 冗談半分で検索を掛けてみたところ、同人誌の即売会が久遠ヶ原島内の公民館で近々開かれるようだ。
「んー近日中には特にでかいイベントはなさげだぉ。態々地方に出張る理由とかない希ガス」
 この即売会を目標に締め切りと慌てている可能性が高いだろう。
「ふひひ、ヒッキーなのに活躍してサーセン」
 今回の依頼の協力者へ、テレビ電話を掛ける。
「歌音氏、耳寄りの情報を手に入れたから報告するぉ」

「準備オーケー」
 歌音 テンペスト(jb5186)は、新入生歓迎会参加者募集と書かれたビラ数枚と、BLとGLの同人誌を抱え込んでいた。
(金井センパイと須野原さんでは、どっちがネコちゃんかな)
 そんな風に腐敵な妄想を膨らませながら、茜の部屋へと向かう。部屋の前へ辿り着くと、扉に寄り掛かって耳を澄ませた。
「三徹してからが本番ですよ!」
 中から聞こえる叫びに躊躇いを覚えたが、覚悟を決めてノックをする。
「こんな時に誰です?」
 不機嫌な声と共に、茜は扉の間から顔を出した。
 歌音は茜の鋭い視線に微笑み返す。
「新入生歓迎会があるんだけど、都合の良い日を教えてぴょん」
 語尾に対して、なんと言っていいのか分からない複雑な表情を浮かべた。その隙を突いて、歌音は扉を締められないように体を割り込ませる。
 移動の際にドアノブへ本を引っ掛けて、床に落とした。その拍子にビラも落ちたが、ドアの陰に落ちてしまい二人共気付かなかった。
 茜は拾うのを手伝おうとしゃがみ込む。そして、BL本を手に取って固まった。
「本は大切にするです。特にBL本には愛をもって接するですよ!」
「ごめんなさい! えっと、こういうの好きなの?」
「女子たるもの薔薇を愛せずしてなんとするですか! 寧ろ私は薔薇を咲かせるです!」
「もしかして描いてるってこと? 読んでみたいな!」
「今は即売会に出す作品を描いていて時間がないです」
「残念だなぁ。……そうだ! 歓迎会の日程、それが済んだ後に調整してもらうね」
 茜はビラを受け取って、複雑な表情になった。
「参加、考えておくです」
 扉が閉まり、再び奇声が聞こえ出す。
 最悪の場合は迎えに行って連れ去る……連れ出してしまおうと思った。

●会場準備
 情報収集の結果、茜の予定を知ることができた一同は準備に動き出す。
 月乃宮 恋音(jb1221)は持ち前の事務能力によって、女子寮への男性陣の出入り許可と共に、談話室と調理場の使用許可を取り付けた。
 準備を進めている内に、気付けば歓迎会当日は間近に迫っていた。
 当日に必要な物は悠市がまとめて発注する予定だったが、秋桜が「ネット最安値で用意してやるぉ」と言い出したので任せることになった。
「頼み忘れはないように頼むで」
 高谷氷月(ja7917)がテレビ電話越しに念を押すと、
『密林なら前日で間に合うだろ、常考。注文漏れがあったらお仕置きですか? ふひひ、我々の業界ではご褒――』
 よく分からないが、それ以上聞く必要もないと判断して通話を切った。
「気を取り直して準備を進めましょうか」
 ファリス・フルフラット(ja7831)は手を打って呼び掛ける。今回の依頼に思うところはあるが、これも先輩の仕事であると割り切っていた。
「全員でパーティー用に机と椅子を並び替えて、それから飾り付けをやりましょうか」
「俺はその間に料理の仕込みでもやってるとするか」
 柊 太陽(ja0782)は会場準備を任せて厨房へ向かった。
「さぁて、折角だから4月にちなんで色々と作っちまうかねっと」
 緑は並べた机にテーブルクロスを引いていく。
「会場に使えるたって、特例だからな。汚れを残さないように気をつけねぇと」
 食器は紙皿や紙コップで使い捨てのものを用意した。
 氷月はモールや折り紙を繋げた飾りで、窓枠やテーブルを彩っていく。
「こんなもんやろ。細かいところは当日でええか?」
 恋音は満足そうに頷いて、
「後は当日……来てくれるといいですねぇ」
 飾り付けを終えた談話室を眺めて、ぽつりと言葉を漏らす。
 氷月は肩をひょいと竦めた。
「そればっかりは、どうしようもないやろ。来てくれることを祈るしかないで」

 ――そして、いよいよ当日を迎える。
 招待した時間は目前に迫り、最後の準備に取り掛かった。
 調理場では太陽が料理の仕上げを行なっていた。
「やっぱり食べやすいように大きさは一口大にしておくかな」
 宣言通り4月らしいメニューがテーブルに並べられていた。
 三色団子、桜のカステラ、桜餅、甘酒どら焼き。歌音が「これは毒見、だから無罪!」と妙な言い訳をしながら手を伸ばして、氷月と恋音に両脇を掴まれて連行されていく。
「……つまみ食いはダメですよぉ」
「もうちょい我慢できへんのか」
 静かになった調理場で、太陽は料理に集中する。
「飲み物まで手は回らないな……確か買い物リストにあったか。それで我慢しよう。後は、和菓子もあるから好みに合わせて茶葉を用意しておくかな」
 太陽はあれこれ悩みながらも、心の底から料理を楽しんでいた。
 歌音を置いて戻ってきた氷月は料理の手伝いを再開する。危なっかしい手付きで、握った包丁がプルプル震えていた。
「むぅ……」
 眉間にしわを寄せて、料理を一口大に切り分けていく。不揃いではあるが、それが逆に親しみやすさを宿していた。
 恋音は冷蔵庫から予め用意していたケーキを取り出してくる。板チョコの表面にデコペンで、「入学おめでとう」とメッセージを書いて、生クリームを支えに飾り付けた。
「……綺麗にできましたぁ」
 太陽は時刻を確認して頷いた。
「そろそろ時間か。できあがったものから運んでくれ」
「手が空いているので、配膳は私がやります」
 会場準備をしていたファリスが、調理場にちょうど顔を出す。
「テーブルごとに全種類の料理が並ぶようになっているから、配置は頼んだ」
 ファリスが完成した料理を運びに行くと、緑がテーブルの飾り付けを終えるところだった。
「パーティなんだからしゃれた感じにしねぇとな」
 緑はテーブルに並べられた食器にリボンを巻く。ちょっとした工夫だが、実にパーティーらしさを演出していた。
「よもや、文化祭でのアレの経験が生きてくるとはなぁ」
 ホストクラブの厨房を担当した時の経験が、テーブルの装飾に役立っていた。
 最後に恋音がケーキをテーブルに置いて、準備が完了する。
 後は茜が来るのを待つだけとなった。

●歓迎会
 事前に渡したビラの集合時間5分前。一同は固唾を呑んで茜の訪れを待っていると、
「会場はここであってるですか?」
 扉の隙間から茜がおずおずと顔を出す。
 自発的に来る可能性は低いと考えていたため、一同は思わず目を合わせて歓声を上げた。
「ようこそ、新入生歓迎会へ、ってあたしも新入生だけどね」
 歌音が駆け寄って、躊躇う茜の手を引き、早希の前へ連れて行った。
「あっ」
 茜は早希と顔を合わせるのが気不味いのか俯いてしまった。
 その弱気な様子に、早希は面食らうのと同時に理解する。彼女もまた不安を抱える普通の人間なのだと。
「入学おめでとう。みんなあなたを歓迎するよ」
 早希は一同が選んだプレゼント――スケッチブックを差し出す。
「あ、う」
 何度も戸惑いながら茜は、スケッチブックを受け取った。
 新入生歓迎会ではない。自分のためだけに開かれた会で、これを考えてくれたのは目の前の先輩なのだと温かい拍手の中で理解した。
 それぞれに用意したプレゼントを茜へと手渡していく。
「漫画を描いているって聞いてな、資料に役立つと思うんだが」
 太陽のプレゼントは、学園のあちこちで撮った景色の写真集だった。
 隣で覗き込む緑が首を傾げて、
「学生の写真はねえのかい?」
「持ってないよ。持ってたら懲罰対象だろ」
「ほう……」
「持ってないっつの!」
 二人のやり取りに、茜の表情が少しだけ緩んだ。
 緑が用意したのはスクリーントーンなどの画材だった。
「これなら幾らあっても困らねぇと思ってな」
 続いて氷月からはカラーマーカーをバラ買いしたものをケースにまとめて手渡した。
「肌色類はよく使うやろ。だから明るめの色を多めに用意したで」
「……どちらも切らしていたんです」
 ファリスは栄養食品の詰め合わせを差し出す。
「持ってるとは思うけど、多くて困ることはないわよね? ギリギリになった時に使いなさいな」
 悠市からは頭痛薬とカフェイン錠剤が渡された。
「もし栄養ドリンクでもダメな時は、この薬に頼るといい。だが、使い過ぎには注意だ」
 恋音は箱に詰めたパウンドケーキをプレゼントにした。
「……日持ちするので、一息つく時のおやつにでもしてくださいねぇ」
 たくさんのプレゼントを受け取って、茜は危うく落としそうになる。
 更にそこへ、歌音が用意した巨大な大根が乗せられた。
「桜島大根だよ。世界一大きい大根なの」
 込められたメッセージは『桜の季節に大成して下さい』。歌音らしい突拍子もない発想だった。
 一人忘れている気もするが、全員からのプレゼントを受け取って、茜は思わず涙を零す。
「こんな、本当に申し訳ないです」
「泣いたらあかんで。折角の歓迎会や、笑顔や笑顔」
 そう言いながら眠たげな目の氷月に釣られて、茜はぎこちなく笑顔を浮かべる。
「料理はたくさん用意したから、好きに食べてくれ」
 料理をメインで担当した太陽の許可が出て、一斉に手を伸ばす。
「やはり若者の笑顔はいい。……我ながら年寄り臭いな」
 料理を味わい、友との語らいを楽しむ一同を眺めて、悠市は口元を緩める。
 歓迎会が本格的に始まり、ファリスは一向に言葉を交わせずにいる茜と早希のフォローに回っていた。
「漫画を描くのもいいけど、詰め込み過ぎるといつか潰れるわよ。撃退士としての仕事もあるんだしね」
 茜に言葉を掛けながら、早希にアイコンタクトを送る。
「お節介を焼いてくれる相手が居るからって無理は禁物よ」
 早希はファリスの意図に気付いて、慌てて会話に参加する。
「私で良ければなんでも力になるからね!」
 聞き耳を立てていた歌音が近付いて、ファリスの顔を見上げた。
「見事な姉御肌です。お姉様と呼ばせてください!」
 歌音としては冗談半分の台詞ではあったが、ファリスは過去の記憶からしかめっ面になる。同性の恋愛に理解はあるが、自分自身に当てはめることはできなかった。
「それだけはやめて」
「えぇぇ、そういうのに憧れてるんですよ! 今だけでもだめですか?」
「だめなものはだめ」
 二人のやり取りの横を抜けて、恋音はまだ早希との会話の糸口を掴めないでいる茜に声を掛けた。
「私も人とお話するのは、苦手なのですよぉ……。逃げてばかり、でしたからぁ」
 でも、と続ける。そして茜に微笑み掛けた。
「ここにいる間に、少しずつなれることができましたぁ……。金井先輩はお優しい方ですから、勇気を出して向き合ってみてください」
 長い間を開けて、茜がぎこちない笑顔を浮かべた。
「私は――」と茜が言い掛けて、談話室に押し寄せる生徒達のざわめきに掻き消された。
「歓迎会の会場ってここですよね?」
 集団の中から一人の男子生徒が、茜を誘い出すために用意したビラをひらひらと揺らす。
 どうやら学校行事としての新入生歓迎会が開かれると勘違いしてしまったようだ。
「食材は余ってるし、もういっそどんどん作るか!」
 太陽はヤケクソに叫んだ。
「こんなこともあろうかと、食材は多めに用意しました。キリッ!」
「ただの発注ミスだろ!? というか居たのか!?」
 秋桜はスティック状のチョコレート菓子をひたすらに貪りながら歩いてくる。
「今北産業」
「は……?」
「リアルはネット住民に厳しい。だが、それがいい!」
 他の新入生も加わって騒がしくなり、茜が怯えた様子を見せる。
「ごめんなさい、失礼するです」
 たくさんの人が集まる空気に耐えられなかったのか、逃げ出してしまった。
「楽しそうにしてたんやけどな。心を開くにはまだ足らんかった訳か。まあそう簡単にはいかへんか」
 氷月が肩を落として口ではそう言いつつも、まだ諦めていない。去っていく茜を追うための一歩を踏み出していた。
「お姉様、追いましょう!」
「だからそう呼ぶなと……そんなことを気にしている場合じゃないわね」
 歌音とファリスも加わり、気付けば全員で追い掛けていた。
 しかし、茜の部屋へ辿り着いた時には、既に扉は固く閉ざされていた。何度呼び掛けても返事はなく、一同はやり切れない気持ちで引き返すことになった。

 数日後、何も変えることはできなかったのか、と悩む彼らのもとへ一枚の手紙が届いた。
「なんだ、素直に伝えられるじゃないか」
 悠市は茜の成長に微笑んだ。
 手紙は茜からのものだった。短くつっけんどんな文であったが、手書きの文章には、確かに感謝の気持ちが込められていた。
 まだ直接顔を合わせてお礼を伝えることができない不器用な彼女だけれど、笑顔で言葉を交わせるようになるのは、きっと遠い未来ではない。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

余暇満喫中・
柊 太陽(ja0782)

大学部4年237組 男 阿修羅
猫の守り人・
点喰 縁(ja7176)

卒業 男 アストラルヴァンガード
戦乙女見習い・
ファリス・フルフラット(ja7831)

大学部5年184組 女 ルインズブレイド
夏日の暑は清流が雪ぐ・
高谷氷月(ja7917)

大学部5年22組 女 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
エロ動画(未遂)・
秋桜(jb4208)

大学部7年105組 女 ナイトウォーカー
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー