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マスター:霧原沙雪
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/05/05


みんなの思い出



オープニング

●踊るペットボトルの謎
 はっきりとはわからない。けれど、気が付くとどこかで噂になっている。誰だってそんな学園都市伝説的な話を聞いた事が有るはずだ。真剣に取り合えば嘲笑されるかもしれない。端から論破する気満々でもムキになってと呆れられる。しかし……今、ここにそんな学園の目を省みずに立ち上がる阿呆がいた。
「バカは禁句や! あのけったくそ悪い言葉を聞くと繊細な関西人の心が折れるからな!」
 来栖 玲(jz0060)は童顔には似合わないニヤリとした笑いを浮かべた。

☆第1の噂
 皆が帰った部室の中に飲みかけのペットボトルがあると……踊る!

☆第2の噂
 500ml入りのペットボトルは踊らないが2L入りは踊る!

☆第3の噂
 飲みかけたのがJKなら踊る。野郎が口をつけると呪われる!

☆第4の噂
 自販機で買ったものは踊らない。コンビニやスーパーのレジでピッとバーコードを読まれて買うと踊る!

☆第5の噂
 午後6時45分に踊る!

女子高生A子さん証言
「そうよ。コンビニで買ったペットボトルは新商品のお茶だったわ。ほら、私って新し物好きじゃない? で、飲みかけで部室に忘れちゃったのよ。あんまり美味しくなかったしね。そしたら翌日、動いてたのよ! テーブルの端から端へよ!」

女子高生B子さん証言
「ママが朝、渡してくれたのよ。近所のスーパーで買ったのを凍らせてたの。お昼に飲んだけど半分凍ってたから部室に置きっぱにしちゃって。翌日? そうそう、ロッカーからバケツの中に移動してた。変だよね、やっぱ」

女子高生C子さんの証言
「……うざい。消えろ!」

「だいたいこんなとこやったなぁ。まぁ、リサーチ時間が少なかったから、まだまだ別の噂があるかもしれへんけど、我ながらごっつえぇ仕事したんと違うか! って感じや」
 他に褒める者もいないからか玲は自画自賛してみせる。
「そこでや! こんな面白ろいネタやけど、新聞部に売るにしても、楽しく手柄を吹聴するにしてもちょっと弱い。そこで『不思議リサーチ探偵社』の出番や」
 玲はその場にいた者達を順番にビシッと指さしてゆく(大変失礼でマナー違反なので良い子は真似をしてはいけません)。

「初仕事! 題して踊るペットボトルの呪いや!」
 玲はこれ以上ない程のどや顔をした。


リプレイ本文

●顔合わせ
「おぉ、玲はんはほんまもんの関西人なんやろか!? やっぱエセとは全然ちゃってキレが違うわぁ……」
 赤座 大将(jb5295)は血色の透ける紅い瞳を見開き、嬉しそうに来栖 玲(jz0060)に言う。
「なんや、人をパチモンみたいに……ってエセもホンマモンもあらへん。関西人の心を持ってたらみ〜んな関西人や!」
「そうか! そう言うてくれるんか!」
「当たり前や!」
 なんとなく意気投合する大将と玲をよそに、他の者達はさっそく本題に入っている。
「あたしは菜都、よろしくね。何があるかわからないし、連絡先を交換しとこうか?」
 マニッシュな私服姿の久慈羅 菜都(ja8631)が携帯端末を取り出す。
「俺の個人情報は国家機密並みのトップシークレットさ、この依頼の参加者以外には内緒だぜ?」
 黒い髪に黒い瞳、健康的に発達した筋肉に覆われた浅黒い肌。かつて天界に在った過去を持つ男、命図 泣留男(jb4611)は屈託無く笑って連絡先を皆に伝える。勿論、それは相互にであり、泣留男ことメンナクも皆の連絡先を取得する。

「……ちょっといいか?」
 前を歩く玲に烏田仁(ja4104)は声を掛けた。念のために確認しておくべき事柄があったからだ。
「ん?」
 無防備な様子で玲は聞き返す。
「3番目の証言をした人なんだが、どうして話をしてくれなかったんだ?」
 まさか全く無関係な人に聞き込みをしたとは思いたくない。仁の密かな危惧をよそに玲は首を横に振った。
「理由はさっぱりや。噂を辿るとその人にぶち当たるっちゅーのに、だんまりや! それでもってしつこうしたら、いきなりぶち切れで終いやで!」
 玲は自然と早口になり、如何に通称C子が理不尽であったかを力説する。玲の話だけでは彼女の行動が妥当なものか、それとも過敏すぎるのか適切に判断するには情報が少ない。
「玲、悪いが俺からもう一度話を聞きたい」
 女性と話をするのは得意ではないのだが、仕方がないと仁は腹をくくった。

「さて、どうしよっか、歩ちゃん」
 磁器の茶器や菓子器を片づけながら雨宮 祈羅(ja7600)が言った。薫り高い紅茶とコーヒー、そして祈羅が厳選したココア味と抹茶風味の焼き菓子はすっかりなくなっている。つい先ほどまでここ――音桐探偵事務所で作戦会議が開かれていたからだ。
「うーん、まぁこの手の話はほとんどがガセだからなぁ。真面目にやる価値があるかどうか悩むところだけど、請けた以上は頑張るかぁ」
 幾分ゆっくりとした、聞きようによってはやる気がないと感じられる口調で話す雨宮 歩(ja3810)は普段から使っているデスクに背を預け椅子に座ったままだ。物憂げに見えるのは、意識の半分以上がどうやって行動すべきか考えているからなのだろう。
「先ずは話を聞きに行くか。姉さんも行くだろう?」
「もっちろん!」
 手早く洗い物をした祈羅はニコッと笑って頷いた。

●地取り捜査
「聞いた? ペットボトルの話」
「聞いたよ。踊るんでしょ?」
「そうそう。かなりキレキレのダンスらしいじゃん!」
 面白がっている様子で話す女子の集団に走り寄る黒い影!
「すみません、新聞部です。最近の踊るペットボトルについて取材しているんですが、何かご存知ありませんか?」
「え?」
 一瞬身構えた女子達から緊張が解ける。近寄ってきた人物が意外に小柄で声にも威圧感がなかったからだし、危害を加えるつもりがないとわかったからだろう。
「うーん、最近よく話題になるんだよね」
「そうそう。あれ、小学部じゃ噂になってない?」
「聞いてないです」
 黒夜(jb0668)は高等部の女子達に丁寧語で答える。
「そういえば、中等部の子も知らないって言ってたよ」
「みんな本気にはしてないみたいだよ」
 他にめぼしい情報もなく、黒夜は抑揚の乏しい丁寧な口調で礼を言う。
「ウチに出来そうなのは……あとは実験を記録に残すことぐらいだな」
 腕章を外しながら黒夜は言った。

 またしても逃げられた。これで……多分10組目だ。
「三人だけだと、単なる偶然じゃないかって思ってしまうわけよ。だから、ほかの人たちにも聞いてみようかなぁって」
 事前にそう言っていた祈羅の言葉は間違っていない。ただ、運用に若干の問題があるのだと歩は思う。
「待ってぇ、うち、こわくなーい!」
 僅かな隙をついてまたしても聞き込みを行った祈羅だが、逃げ出そうとする高等部女子を無数の手で引き留める。
「姉さん、それは流石にやりすぎだって」
 これ以上放置出来ず、歩は半泣きの女子を助け少しだけキツイ目で祈羅を制止し詫びを言う。
「無茶して悪かったねぇ。ボクらはただ話を聞きたかっただけでね。協力、してくれないかな?」
「あ、歩ちゃん!! うちっていうものがありながらぁああ!!!」
 祈羅と歩の聞き込みはなかなかはかどらない。

「すんまへん、ちとええかな? ペットボトルが踊るっちゅう話聞いたことあらへん?」
 大将は高等部女子をターゲットに聞き込みを続ける。
「知ってるよ」
「ねー最近、よく聞く話だよ」
「新七不思議って言うんだよね」
 幾人目かに不思議な噂が好きなグループに当たった大将は心の中でガッツポーズを取り、意外と引きが強い方なのだと確信する。
「詳しく教えてくれたら助かるんやけどなぁ」
「うーん、そういえば、自販機で3日ぐらいお茶が売り切れだったよね。噂が始まったのってその時じゃない?」
「言われてみればそうかも。買いに行くの面倒とか言ってたよね」
「なるほどなぁ。やっぱ女子は目の付け所が違ごうてるは」
 精一杯世辞を交えながら、大将は女子達から情報を聞き出そうとする。

 学内の掲示板にさりげなく、しかし大胆に張り紙をしていた鈴代 征治(ja1305)の背後で控えめな声がした。
「あの〜……」
 振り返ると知らない顔の少女だ。私服姿だが、たぶん征治より年下の中等部所属だろう。
「鈴代、先輩は、これ……調べているんですか?」
 少女は征治が手にしている張り紙をそっと指さす。そこには書いてある征治のフルネームを見て名を呼んだのだろう。
「ちょっとした成り行きでなんですけどね。もしあなたが何か知っているんだったら教えてくれませんか? もちろん、ご迷惑になるような事には絶対にしません」
 小さくうなずいてから征治はゆっくりとごく丁寧な口調で言う。
「はい……あの、ここじゃ……」
 少女はもじもじと語尾を濁す。確かに誰もが見やすい位置にある掲示板の前である。言い出しにくい事を伝えるには不向きの場所だ。
「わかりました」
 歩き出しながら、どこなら人目につかないかなぁと考える。だが、少女の話はそれほどの機密性を必要とはしていなかったらしい。
「あの、あの、あの噂、お姉ちゃんのせいかもしれないんです!」
「どういう事なんですか?」
「ごめんなさい!」
 少女はそれだけ言うと脱兎の如く走り出し、昇降口から明るい外へと逃げ出してしまった。
「……名前も知らない女の子の、お姉さん」
 征治ははぁと溜息をついた。

●考察
 玲から得られたのはわずかな情報だった。噂が出回り始めた頃、初期に噂を知っていた者達の中からその時だけ遅くまで残っていた者を絞り込む。
「そして高等部女子という要素を加味すると……玲の言うC子はあんたになる」
 仁の指摘に目の前の人物はイヤイヤするように首を振る。女子と二人っきりと話をするのは今もやはり得意とは言えない。けれど、解決するのには彼女の正直な告白がどうしても必要なのだ。
「頼む!」
 仁の最終奥義が炸裂するのか!?

●実験
「えっと、ここが噂のペットボトルがあったところだよね」
 あえて高等部女子の制服を着た菜都は物珍しそうに室内を見回した。普段は使っていない準備室のさらに予備の様な部屋らしく、6、7人で座れる大きな机と椅子があり、回りには使われていない本や束ねた紙類が積まれている。
「なんでペットボトルが踊るっつーのに発展したんだか……移動した、だけでいいだろ……」
 聞き込みの時とは雰囲気ががらりと変わり、黒夜は回りに人を寄せ付けない狷介な雰囲気を醸し出す。この場にはいるが、実験に参加するつもりはないようで部屋の隅に丸椅子を引き寄せうずくまるように座っている。

「みんなも使うだろうと思って人数分を買ってきた」
 メンナクは美しい筋肉を誇示するかのように、両腕にペットボトルでぱんぱんになったレジ袋をさげ、ダンベルの様に上下に動かしている。
「僕も持ってきたよ」
 征治は色々なメーカーのお茶系飲料を並べていくが、メンナクの袋からは黒色の液体が入ったものばかりが入っている。そのほとんどはコーク系だ。
「なんでコーラばっかりなの? え、全部炭酸……じゃなくてウーロン茶もあるね」
 ごくごく素朴な疑問を投げかける菜都にメンナクは自信満々といった風に胸を反らせる。
「何故かって? ふっ、愚問だな……俺というブラックノワールな男が選ぶのは、液体でも黒に決まってるだろう?」
 言葉通り、大小様々な容量のペットボトルはその中身全てが真っ黒だ。
「……まぁいいけど。じゃこれとこれ、飲んだら片方にだけガムテープで固定するね」
 菜都は甘味の入った普通のコーラを2本メンナクの袋から取り出した。飲み物とはいえ、カロリーを有するものは立派な『補給物資』だ。摂取すればいずれ血糖となって全身を巡り糧となる。
「ならば俺も同じものを飲む。対象がなければ実験として成立せぬだろうかなら」
 メンナクはやはり胸を反らし腰に手をあてて中身の半分程度を一気に飲んだ。なんとはなしに風呂上がりの銭湯で見かけるようで、彼の人間界での学習の軌跡が伺える光景だ。
「じゃここからは……監視タイムだなぁ」
「廊下の反対側から、かな?」
 どこか気怠げに歩が言い、祈羅がビデオカメラを手に戸口へと1歩踏み出した……その時だった。

●結語
「待ってくれ!」
 部屋に入ってきたのは仁だった。手には白い角形の封筒を持っている。
「烏田?」
 一番出入り口に近い場所に座っていた黒夜がいぶかしげな顔で走ってきたらしい仁を見る。黒い幽鬼の様な様子に一瞬目を見開いた仁であったが、すぐに大将に声を掛けられ視線を向ける。
「なんや、仁。自分、こんな時にラブレターか? 自慢か?」
「違う!」
 大将の軽快なツッコミにやや喰い気味に反論する。
「真相ってやつだ」
 仁はラブレターでもおかしくない封筒から便箋を取り出しペットボトルだらけの机上に置く。
『ごめんなさい。実は私が友達のジュースを勝手に飲んじゃったんです。軽いノリで許してくれるかと思って謝ろうとしたら、超怒ってて。でも、すぐに七不思議かもとか言われちゃって言い出せなくなっちゃって。もうこんな事、二度としません。だから許してください。匿名希望C子』

「学年や名前を特定しているんですよね。それは言わない約束なんですか?」
 征治の問いに仁は頷く。その条件でこの告白をしたためたのだろう。
「ではせめて理由を教えて下さい。それも秘密なんですか?」
 再びの征治の問い。
「あー! 自販機の売り切れ!」
 大将の記憶に聞き込みで得た証言が浮かびあがる。
「まさかこんなオチだったとはね。まぁ、もっと危険な理由じゃなくてよかったってところか?」
「そうだよね、歩ちゃん。あ、そうだ。次はうちも歩ちゃんも参加してる部活の謎を調査しようよ。なぜか入る人が続々と恋人ができるわけなんだよ! うちと歩ちゃんもそうだったし……」
 祈羅は幸せそうな満面の笑みを浮かべ、歩の腕に両手を絡ませる。
 なんとなく静かな空気が場を占める。
「え? え? これじゃあ新しい謎に入らないんだったら、ごめんね」
「いいんだ、姉さん」
 歩は祈羅に抱きつかれているのとは逆の手を彼女の頭にポンポンと乗せる。
「もう終わり? なら……帰る」
 真っ先に黒夜が部屋を出ようとする。
「えっと……飲みかけのペットボトルはあたしが貰っちゃっていいかな? もうここに置いて実験しなくてもいいよね?」
 菜都の言葉は一応疑問形となっているが、YESであろうことはほぼ間違えないのでその手は早くもガムテープ剥がしの作業へと移行している。
「ほら、メンナクさんも手伝ってよね」
 見ようによってはシュンとなっている風にも見えるメンナクに菜都は撤収を促すが、戻ってきたのは別の話だった。
「ではペットボトルのダンスは見られないのか? 俺のダンスでペットボトルに真のダンスとは何かを教える事も?」
「……無理!」
 黒夜は簡潔に言い放ち戸を閉めた。救いを求めるかのように向けられるメンナクの視線に菜戸は苦笑する。
「無理……かな」
「おおぉ! なんて事だ!」
 黒髪をかきむしり嘆き悲しむメンナク。
「僕は納得した。みんなももう遅いし早く片づけて帰ろうか。ほら、メンナクさんも持ってきたペットボトルをしまって」
 言葉通り、先ほどとは変わって少しスッキリとした様子の征治は机の上を片づけ始める。全員が部屋を出た後でぽつりと大将が言った。
「報告書にはなんて書こ?」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
クライムファイター・
烏田仁(ja4104)

大学部3年278組 男 インフィルトレイター
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
君のために・
久慈羅 菜都(ja8631)

大学部2年48組 女 ルインズブレイド
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
ソウルこそが道標・
命図 泣留男(jb4611)

大学部3年68組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
赤座 大将(jb5295)

大学部4年181組 男 陰陽師