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マスター:錦西
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/07


みんなの思い出



オープニング

 割り切りが大事。それが彼の口癖だった。
「人間、誰にだって役割がある。その役割をこなすのは、簡単なようで案外難しい」
 今日も口酸っぱく同じ言葉を繰り返すのは菅野崇昭三等陸曹だ。
 年齢は20代半ばの精悍な顔つきの好青年で、野球少年が大人になったような雰囲気を持っている。
 彼の視線の先、身長の高い彼から斜め下に向いた位置には、
 彼と同じ自衛隊の迷彩服を着た少女が立っていた。
 菅野の緩い説教の矛先は、今日も彼女に向かっている。
 土橋百香、久遠ヶ原学園高等部2年。
 どちらかと言えば可愛いと評される小さめの顔つきで、
 締まってるとは言い難い柔らかそうな筋肉と肌。
 お仕着せの迷彩服は自衛隊が正式に支給した物であるのに、
 着用者のおかげでコスプレにしか見えない。
 幸いな事に今は夕暮れを過ぎている。
 暗い中で更にヘルメットを被れば、背の低い兵隊ぐらいには見えるだろう。
「わかってるのか?」
「はい…」
 菅野がこうして話を続けている理由は一つ。
 土橋が編成の用途に馴染まないからだ。
 菅野の率いる分隊は菅野含めて10名。
 撃退士は菅野と土橋のみで、他は一般人だ。
 天魔との戦いにおける一般人の隊員の役割は、
 一つに目であり、一つに囮であり、一つに盾であった。
 銃弾の効かない天魔に一般人の出来る事は少ない。
 だが撃退士に代わりに攻撃を受けることは出来る。
 阻霊符の効果の範囲内であれば、煙幕や閃光など各種手榴弾による支援や、緊急時の治療も可能だ。
 残り9名が命を張ることで、貴重な撃退士は力を最大限に引き出せる。
 そういう役割分担だというのに彼女と来たら…
「わかったらいつもの癖で走りだすな」
「はい…」
 俯いた土橋はいつも以上に神妙だった。
 菅野分隊の所属する新木小隊の今回の任務は、
 連絡のあったサーバントの捜索になる。
 サーバントの数は1。種類は最近現れ始めた偵察用と思しきヤタガラス型。
 事例から考え護衛が居る可能性もある。
 大型のサーバントという可能性はないが、不意打ちを受けて怪我をしてもつまらない。
 探すまでは仲間の仕事。それが彼らの言い分であった。
「………」
 隊列に戻る菅野の背中を土橋は視線だけで追っていく。
 手の中の阻霊符を握り締め、土橋はこっそりとため息を吐いた、
 彼女の役割はこれだけだ。戦闘も避けて良いと明言されている。
 だが土橋の思いとしては、彼らのような割り切りはしたくなかった。
 誰であれ傷つくのはみたくない。
 顔見知りになり、仕事以外でも談笑するようになった彼らにはなおさら。
 そして分隊長の菅野には余計に。
 このあたりの感情を隠しているつもりでばれているのも、
 土橋の年相応らしいところだった。
「…おい、今そこに何か見えなかったか?」
 菅野はふと立ち止まり、路地の先を指す。
 部下達も一斉にその方向を見るが、街路灯に照らされた路地には何も見えなかった。
 怪訝な顔でお互いの表情を読む。
「見に行こう。井上、木村、新橋、中津、一緒に来い。他はこの場で待機。君は此処にいろ」
 菅野は有無を言わさぬ口調で土橋に言い含めると
 4人の部下を連れて路地の先へ向かった。
 こういう時の菅野は何かの確信を持っている。
 自然と分隊の雰囲気が引き締まった。
 菅野含む5人は街路灯の光の中へ入り、その先の闇へと足を踏み入れていく。
 全員が夜の暗闇の中に消えて数秒後、土橋は金属のこすれるような不穏な音を聞いた。
 何かが倒れる音と、水が跳ねるような音。
「きさっ…」
 菅野の怒声が一瞬聞こえ、何もなかったように掻き消える。
 残った5人が身構えて数秒の間。仲間の誰とも違う足音が路地に反響した。
 土橋の聞き慣れた自衛官達の歩き方ではない。
 革靴でわざと音がたつように歩いているかのような不自然な音。
 足音の主は菅野達が入った道を引き返してくるかのように現れた。
 痩身を黒い外套で包んだ男。視線の険しさだけが印象に残る。
 その右手には抜き身の日本刀、そして左手には…。
 切り離された菅野の頭を掴んでいた。
「逃げろ!」
 隊員の誰かが叫んだ!
 それには勝てない。本能でそれを理解していた。
 煙幕と音と閃光が撒かれ、辺りは騒然とする。
「そこのお前だったか」
 男は逃げる者達には注意を払うこともなく、土橋を正面に捉えていた。
 1人が土橋の手を引いて逃げようとしたが、
 土橋はその場を動こうとしない。
「菅野さん………」
「安心しろ。俺は時間をかけるような下衆ではない」
 首になった菅野と目があった。
 驚きの表情で固まったままのそれから目が離せない。
「よくも…」
 土橋は拳銃をゆっくりと引き抜いた。恐怖よりも先走る感情が勝った。
 どうせ逃げても追いつかれる。ならば…。
「よくも…!!」
 引き金を引いた確実な手ごたえを感じつつ、
 土橋の意識はそこで途絶えた。
 


 10分後、駆けつけた別の分隊により、
 菅野分隊の隊員と随伴した撃退士の死亡が確認された。



 サーバント出現の通報を受けて出動し、偵察分隊を8つ向かわせて1時間。
 3つの分隊が皆殺しにされた。
 市役所に仮設された指揮所には沈痛な雰囲気が漂っていた。
「第4分隊の目撃情報によれば、敵は人間の男性。日本刀を所持していたそうです」
「エインフェリア…? いや、この強さは違うな」
「はい。ここまでの情報でも最低で準シュトラッサー級。
 容姿からも判断しますと、以前から報告にあったシュトラッサーの六万秀人の可能性大です」
 馴染みの陸曹の言葉に新木二等陸尉は顔をゆがめる。
 元より不機嫌なへの字口で凝り固まっているが、今は更に眉間の皺が深い。
 刀の鬼、シュトラッサーの六万秀人。
 大規模戦闘に一度も姿を現したことがないこのシュトラッサーは、
 目撃情報と交戦記録が主戦場と離れた小さな戦場に度々姿を現していた。
 六万の戦い方は典型的なゲリラ戦だ。
 本来なら大きな成果を出す戦術ではないが、
 少数の精鋭のみで事態に当たることの多い撃退士には、その小さな損害は無視できなかった。
 かと行って戦力を厚くするわけにはいかない。それでは主戦場を危うくする。
 結果、嵐が通り過ぎるの待つかのように、息を潜めるしか対処方法がなかった。
 無作為な暴威に見えて、六万の戦い方はこの場において合理的で最適化されている。
「だが運が良い」
 新木は振り返って、居並ぶ撃退士に視線を移した。
 人数は8名。彼らの滞在は誰にとってもイレギュラーだ。
 仕事の帰りに相乗りを頼まれ、快くタクシー代わりを引き受けた。
 その後、夜は遅いからと宿泊施設を提供した。
 彼らの協力の申し出がなければ、戦力を申請している間に取り逃がしただろう。
「六万がどんな手合いか、情報が足りず皆目見当がつかない。
 そんな状況で君達に託すのは気が引けるが、どうか頼む。
 あの化け物を討ち取ってはくれないか。最大限支援はする」
 新木は自分たちよりも若い学生が多い撃退士に、深く頭を下げた。
「君達の同期の仇のついでで良い、私の部下の仇もどうかよろしくお願いする」
 それであいつが膝を折り、地に伏すのならば、その程度の儀礼は安いものだ。


リプレイ本文


 時刻は20時を少し回った頃合だ。
 夜が早い季節ではあたりは既に暗闇に覆われており、
 街頭や家々の門灯が照らす場所がぽつりぽつりと浮き上がっている。
 体勢を立て直した撃退士と自衛隊は再び鬼の潜む領域へと足を踏み入れた。
 恐怖が無いといえば誰にとっても嘘になるだろう。
 だがそれぞれの使命感により、その感情を口に出す者は皆無だった。
「ん……なんだか嫌な感じ」
 若菜 白兎(ja2109)は意識して息を吐き出す。
 白く曇る息を目で追って、再び周囲を見回した。
 人の気配がないゆえの静けさが、今は無性に恐ろしく感じる。
 自分達はまだ自衛の手段もある。だが周囲の自衛隊はそうはいかない。
 作戦の為とはいえ今は阻霊符の使用も控えてもらっている。
 よくも黙って従ってもらえるものだ。
(もうこれ以上暴れさせない……犠牲を出したくない)
 決意を新たにする。仲間達も皆同様の思いのようだった。
「ゲリラ戦、か。何時襲撃してくるか分からず。まともに戦わぬ相手とは厄介だな」
 呟いたのはインレ(jb3056)。定時の連絡を終え、地図を見て行くべき道を指し示す。
 奇襲を警戒し、曲がり角を慎重に越えていく。
 迅速に終わらせたいが、そう思うのは向こうも同じ。
 目的が合致する以上、勝負は一瞬になるだろう。
「確か日本には辻斬りという行為があったな。その類か」
 フィオナ・ボールドウィン(ja2611)も釣られて口を開く。
 今の彼女は他の者と同じく自衛隊装備に身を包み、印象的な金の紙も帽子に納めていた。
 彼女の言うとおり状況は似通っている。街並みを隠れ蓑に人を切るという行為は正にそれそのものだ。
「古い話です。今は残っていないでしょう」
 ミズカ・カゲツ(jb5543)が記憶を遡りながら答える。
 刀に精通しているため、武術の使い手達が今どのような社会的地位にあるのかは良く知っていた。
 だからこそ違和感も感じている。
 天使はどこからこのシュトラッサーを見出したのか。
 ミズカやインレは出発前に死体を検分したが、事前情報以上のことはわからなかった。
 つまりは刀一本。刀の切れ味が異様に良い以外に特別なことはない。
 こんな時代のどこに、化け物たる要素を持つ武術の達人が隠れていたのか。
「時代錯誤の相手ならなおさら、敗れるわけには行きません。
 これ以上犠牲を増やさないためにも、わたくし達が守るのですわ」
 シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)は勇ましく言葉を使う。
 それは形を変えた怒りであり、同時に内心に潜む恐怖のある裏返しだった。
 自衛隊の人々や、同期を殺された感情が渦巻いている。
 感情は冷静な行動を失わせるが、それを咎める者は居ない。
 ただ、怒りは長くは続かない。緊張もだ。
 焦れたアステリア・ヴェルトール(jb3216)はインレの肩を叩く。
「このままでは私が偵察に行きましょうか?」
 アステリアは翼を広げて見せる。
 遮蔽物の多い街中であれば上空からの監視は有効だ。
 しかしラグナ・グラウシード(ja3538)はそれを手で制した。
「いや、止めておこう。敵に見つかってしまうことのほうが怖い」
 現在の状況ではメリットをデメリットが上回る。そう多くの者は判断した。
 確かに空中からの偵察は効率はよいが被発見率も高い。
 もしも発見できなかった場合は相手に先手を取られることになる。
 何よりこちらの位置だけでなく編成に関する情報まで与えてしまう。
 大人数で向かう手もあるが、誘い込むことを主軸に据えた方針にはそぐわない。
 相手も同じ条件である以上、与える情報は極力抑えたい。
 エリーゼ・エインフェリア(jb3364)はその点も鑑み、
 暗視スコープを使い、地上から見える範囲だが屋根の上も捜索していた。
 街灯や門灯の影響で遠くの暗闇を見渡すことはできないが無いよりは良い。
 時折センサーで連動した門灯が家の前の道路を照らす。
 その度に目が痛い思いをしたが我慢するしかない。
 一行はインレの指示で周囲を防御力の高いメンバーで固めつつ、
 真ん中には防御能力の低い者達を囲う陣形をとった。
 奇襲さえ防ぐことが出来れば一矢報いることはできる。
 足並みは静かに緩やかに、そして着実に街並みの中心に向かっていた。
 


 撃退士達は周囲で一番高い建造物の前に出た。
 11Fのマンション。この周辺にしては高級なイメージで、
 庭から建物内部に至るまで清掃が行き届いている。
 マンションの電灯は避難の後も変わらず点いたままだ。
 室内の電灯は流石に消されているが、敷地内を見渡すには支障はない。
「トーチでも必要かと思ったが、これなら問題ないな」
 当たりを見回したフィオナはペンライトをしまいこむ。
 フィオナは決戦の地はここだろうと予感していた。
 どの道、ペンライト程度の光束では周囲を照らすことはできない。
 手を塞がないことのほうが重要だ。
 一方エリーゼは暗視スコープを外す。
 照明を消して回らないのであれば、ここから暗闇を見渡すことはできない。
「居ませんね…」
 シェリアが残念そうに呟く。
 最初の予想ではここで伏せ、仕掛けてくるものと考えていた。
 自衛隊の衣装で擬装している以上、向こうにとってはチャンスのはずだ。
 ヤタガラスも見つかっていない。敵が現れるとすればここ以外になさそうなものだが。
「マンションの中でしょうか?」
「少なくとも周囲には居ないようだ。若菜殿、手はず通りに」
「……わかったの」
 ラグナに促され、若菜は右手をかかげ、掌にアウルを集中させる。
 生命探知のスキルは半径16m以内にいる生命の存在を明らかにする。
 マンションの屋上に居るのでなければ、これで六万の動きもわかるはずだ。
 だが何事も上手くは行かない。
「……ダメ。多すぎる」
 5cm以上の対象は、下水のネズミや電柱に止まる鳩、サイズの大きいものならゴキブリも含まれる。
 部屋に置き去りにされたペットもだ。屋根や壁向こうにも幾つも反応はあるが、確証は得られなかった。
 これら全てに注意を払うことは到底不可能だ。
 人間の潜める場所に居る個体に限っても相当数になる。
「屋根の…上…と、壁の向こうは南側に反応があったの」
 それが猫なのか犬なのか、それさえわからない。
 だが注意しないよりは良いだろう。
「では私がそちらを警戒しておきますね」
 屋根の上が気がかりだったエリーゼが最初に名乗りをあげる。
 これからマンションを捜索するのだ。バックアタックをされてはかなわない。
 一行はマンションの入り口に視線を集める。
 流血の予感。しかしその震えの正体は、彼らの予想とは別の場所から降ってきた。



 明かりは深い闇を照らすことはできなかった。
 エリーゼがその音に気づいたのは屋根の上に注意を向けていたからだが、
 地上からという条件では散漫になりがちで、反応することが出来なかった。
 何かが投擲され風を切る音。陣形の中央に落ちてきたのは、自衛隊支給の煙幕手榴弾だった。
「!?」
 地面に落ちる前に爆発したそれはマンションの庭一帯を白い煙で多いつくす。
 エリーゼが警告を発するよりも早く、軽快な跳躍の音が屋根の上から聞こえた。
 黒い外套を着込んだ凶手は屋根で助走し、軽々と空中を舞う。
 濃い白煙の中でぼんやりと、エリーゼにはそれだけが見えた。
 六万は撃退士達の陣形の中央へと飛び込み、着地と同時に若菜へと刀を振り降ろす。
「!!」
 声を上げる暇もあればこそ。
 落下の速度で振り下ろした第一撃。刀を返して横薙ぎに更に一撃。
 ダメ押しとばかりに腹部へと強烈な蹴りが打ち込む。
 若菜は血を吐きながら吹き飛ばされ、受身も取れぬまま地面を転がる。
 その攻撃にぎりぎり反応できたのはやはりエリーゼだけだった。
「! 敵襲です!」
 襲撃と同時に具現化させた深淵の槍「トリュシーラ」を、六万の背中目掛けて投げつける。
 六万は予測していたかのような滑らかな動作で右側に体を逸らして回避。
 黒い外套を翻し、六万はエリーゼとの間合いを一瞬で詰める。
 達人にはこの程度の距離、無いも同然。
 すり抜けざまの抜刀でエリーゼを一太刀で切り伏せた。
「よくもエリーゼさんを!」
 シェリアもマジックスクリューを使おうとするが、一歩間に合わない。
 六万は予備動作に入ったシェリアの顔を掴み上げ、体勢を崩してから刀を左の脇腹へと差し込んだ。
「貴様っ!!」
 最後尾に居たフィオナが双剣を抜き放ち、六万に飛び掛る。
 六万は掴んでいたシェリアを盾のように掲げ、走るフィオナに向けた。
 盾同様に持ち上げられたシェリアを見て、フィオナは攻撃を躊躇してしまう。
 必要なら巻き込んでしまうことにも躊躇いはないが、
 この相手もそうとわかった上で目くらましのように投げ捨てるだろう。
 一瞬、場に静寂。一歩進み出たラグナが憤懣を湛えた眼で睨みつける。
「我が名はディバインナイト、ラグナ・ラクス・エル・グラウシード!
 貴殿も剣士と見た、その剣が飢えているのか? ならば、私が相手になってやろう!」
 ラグナはツヴァイハンダーの切っ先を突きつける。
 彼の身体からは黄金の光が渦を巻いて吹き出していた。
 使徒の視線は揺らがないが、周囲に目配りする回数は減っている。
 インレ、フィオナ、ミズカが個々に距離を詰め包囲を狭めた。
 アステリアは空に飛び上がりつつ煙幕を抜ける。
 六万は変わらずシェリアを盾にしたまま、周囲を睨み動かない。
「どうした、怖気づいたか? 使徒殿!」
 その声に合わせ、六万はシェリアをラグナにぶつけるように投げ捨てた。
 切りかかるフィオナ、インレの攻撃をバックステップでかわしつつ、
 縮地で追撃してきたミズカの一撃を鍔迫り合いで受け止める。
「では、一手ご教授願いましょう 」
 ミズカが六万とぶつけ合い、視線が交錯する。
 六万は鍔迫り合いを外し袈裟懸けの斬撃。
 ミズカは辛うじてその一撃を食い止めた。
 同じ武器、同じ武術であれば構えから次の攻撃を予測可能だ。
 しかしそれは翻せば敵も同様の条件であり、対抗策も持ち合わせているということ。
 そして悪い事に例え同じ技量であっても、身体能力に天地の開きがある。
 一撃を受ける事ができたのはそれ自体が罠だったからだ。
 刀を弾き胴の守りを外すと、六万は流れるような切っ先でミズカの胴を横薙ぎに切り裂いた。
 倒れるミズカ。六万の視線は既に次の獲物を探している。
 アステリアはこの攻撃の隙間を狙いすましスナイパーライフルで一撃を加えた。
 しかし乱戦で狙いがつけられず、放った銃弾は外れてしまう。
 距離は取りたいがそうすると乱戦の中に狙いをつけられなくなる。
 本来空を飛べない相手にこの戦法は圧倒的優位になる。
 俯瞰の情報さえあれば飛べない相手を包囲するのは容易だ。
 だが、探索と同じく動きが見えてしまうのも同様だ。
「そこか…」
 六万は左手で刀を保持したまま、コートの裏から短剣を抜き放つ。
 投擲された短剣はアステリアの左胸に深く刺さった。
 本来なら牽制用途程度の武器のはずだが、
 アステリアが冥魔の属性に寄りすぎて居た為に致命傷となる。
 高度を取ったのが仇となった。例え庇護の翼でもその位置は守りきれない。
 何らかの遠距離武装は持っているとは予測されていたが、使い手は達人の域。
 何の準備も無しに防げるようなものではなかった。
 肺腑から溢れる血を吐きながら、アステリアは地面へと落ちていく。
 六万が利き手から武器を手放した隙を狙い、右側面からインレがエクスプロードで薙ぎ払った。
 左側面からはラグナ、後背からはフィオナが同時に襲う。
 包囲攻撃は既に密度を失っている。
 六万がこれをかわして抜け出すのは容易だった。
 次に狙われたのはインレだ。
 変わらぬ速度で刀を振る。
 横一文字の薙ぎ払い。しかしインレは倒れない。
「老人はいたわってほしいものだ」
 六万は距離を離し、インレの追撃を避ける。
 六万は打倒は無理と悟り、狙いを足へと向けた。
 殺せないなら動けないようにすれば良い。
 両太ももを斬り裂いて足を潰すとフィオナに向かう。
 人数が減ってしまえば勝ち目は無いが、フィオナは余裕の表情を崩さない。
「よくも侮ってくれたな」
 フィオナは辛うじてパリィで一撃を防いだものの、
 速度を増した2撃目以降をかわしきることができない。
 フィオナが膝を屈したのを確認すると、六万はラグナに向かう。
「貴様で終わりだ」 
 舞うように刃をあてがい、戦闘力を奪う。
 刃は翻りラグナの体を切り裂いた、かのように見えた。
「……耐えたか」
 ラグナは攻撃に耐え切った。
 六万の斬撃は鋭いが、正面からスキルを適切に使えば受け止めきれない事はない。
 彼が奇襲に拘るのはこの軽さゆえだろう。
 足を止めてしまえば死に近づくのは、撃退士も使徒も代わらないのだ。 
「ラグナ、だったか。貴様の名は覚えておこう」
 刃は再び、弧を描く。
 一度は耐えたラグナだが、いつまでもというわけにはいかない。
 注意を引いていた為、不意打ちに使うつもりのフルメタルインパクトも期を逸した。
 ラグナが覚悟を決めた時、別の分隊がぎりぎりで救援に辿り着いた。
「撃てーっ!」
 号令と共に突撃銃が一斉に火を噴いた。
 銃弾の雨はシュトラッサーに傷を与えはしない。
 だが目くらましの効果はある。
「!?」
 一発の銃弾が六万の頬を掠め、小さく血の筋を作った。
 同じ装備で統一した隊員の中にデザインを揃えたV兵器を持つ撃退士がいる。
「ちっ」
 六万は跳躍するように間合いをつめると周囲に居た隊員を数人切り伏せると、
 再び自らを隠すために闇の中へと消えていった。
「大丈夫ですか?」
 駆け寄ってきた自衛隊員達が撃退士を抱え上げる。
 ラグナは満身創痍。他の者は血を流し動くことができない。
 急ぎ応急手当が施されたが、本格的な治療が必要になるだろう。
 もはやシュトラッサーに一矢報いるどころではない。
「引きましょう。また襲ってくる」
 分隊長の言葉にラグナは歯噛みする。
 目の前で何人も死んだ。守るはずが守られている。
 悔しさに、視界がにじんでいた。


 その後、20名以上の死者を出しながら一同は撤退する。
 大通りで車に乗って場を後にして、ようやく追撃の恐怖を振り払った。


依頼結果

依頼成功度:大失敗
MVP: KILL ALL RIAJU・ラグナ・グラウシード(ja3538)
重体: 祈りの煌めき・若菜 白兎(ja2109)
   <シュトラッサーの奇襲を受けた為>という理由により『重体』となる
 『天』盟約の王・フィオナ・ボールドウィン(ja2611)
   <シュトラッサーの猛攻を受けた為>という理由により『重体』となる
 断魂に潰えぬ心・インレ(jb3056)
   <シュトラッサーの猛攻を受けた為>という理由により『重体』となる
 撃退士・アステリア・ヴェルトール(jb3216)
   <シュトラッサーの猛攻を受けた為>という理由により『重体』となる
 水華のともだち・エリーゼ・エインフェリア(jb3364)
   <シュトラッサーの奇襲を受けた為>という理由により『重体』となる
 絆は距離を超えて・シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)
   <シュトラッサーの奇襲を受けた為>という理由により『重体』となる
 銀狐の絆【瑞】・ミズカ・カゲツ(jb5543)
   <シュトラッサーの猛攻を受けた為>という理由により『重体』となる
面白かった!:2人

祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
断魂に潰えぬ心・
インレ(jb3056)

大学部1年6組 男 阿修羅
撃退士・
アステリア・ヴェルトール(jb3216)

大学部3年264組 女 ナイトウォーカー
水華のともだち・
エリーゼ・エインフェリア(jb3364)

大学部3年256組 女 ダアト
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
銀狐の絆【瑞】・
ミズカ・カゲツ(jb5543)

大学部3年304組 女 阿修羅