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マスター:錦西
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/04


みんなの思い出



オープニング

 対人戦の想定は不吉な想定ではあるが、
 天魔との戦いに明け暮れる中でも対人戦に一定の意味はあった。
 兵隊であるディアボロには知性のない野生動物同様の個体も多く存在するが、
 中には深い知性を持つ者も多い。
 これらの相手を理解し、打ち破る術を見出す過程を学ぶには、
 人間相手に模擬戦をするのは手っ取り早い方法でもある。
 肉体派の教師達の指導する模擬戦の授業は幾つも開講されていたが、
 中でも彼女、イングリッド・ウォルターズの担当する講座は少々異色だった。
 イギリスで生まれ、育ち、学んだ彼女の使う剣は、
 日本の武術に慣れた生徒には異世界の技術にも見える。
 未知の敵と戦う彼らにはこの新鮮さが受けた。
 より実戦に近い感覚を学べるというのは、何より必要なことだったろう。
「今日まで槍、斧、短剣、弓、銃と戦って貰ってきた。
 間合いの広さが如何に戦いを優位にするか、体感できた頃だと思う。
 奇襲攻撃、先手必勝、一撃必殺。となれば理想的だがあくまで理想。
 実現は容易くない。そんな時でも武器の間合いだけは絶対だ」
 男性のような口調だが、声の質や外見は女性として美しいと言って差し支えない。
 輝くような金の長髪、澄んだ青い瞳、美しい稜線を描く顔立ち。
 体つきは華奢なように見えるが細すぎない。
 立ち居振る舞いは戦いの中に身を置くものとは思えないほど気品があり、
 作法を知るものほど場を共にする毎に魅了される。
 彼女の授業が人気なのは、授業の質以外にもこれが理由になっている。
「さて、以上を踏まえた上で最終日となる今日の授業はこのバックラーを使う。
 盾は防御のためのものだが、武術においては攻撃の為のものだ。
 間合いの中に飛び込む一瞬を掴むためにこそ盾はある」
 そういうとイングリッドは脇に置いていた小盾を胸元まで抱えあげる。
 直径30cm程度の円形の盾は、それだけでは少々心もとなくも見えた。
 この大きさでは足はがらあきだ。
 しかし侮るべからず。生徒達はここ数回の授業でそれが身に沁みている。
「バックラーの起源は古くバイキング達の時代まで遡る。
 見ての通り足を護ったり、矢から身を隠すには小さい。
 だがこのサイズゆえに持ち運びに便利であり、取り回しが容易で、視界を塞がない。
 安価に手に入るのも一つの魅力だな。
 当時は剣と組み合わせるのが一般的だった」
 イングリッドはもう片方の手で剣を取る。
 ここからがこの授業の本筋、実技の実演だ。
「さて、自分の技には合わないと言う者も居るだろうが、
 今日は是非とも盾の恐ろしさは実感して帰って欲しい。
 希望者には使い方を教えるが…まずは私が手本を見せよう。
 最初は…南、相手をしてもらおうか」
「はい」
 高等部2年の南賢太郎は素直に立ち上がり、描かれた円の中心に向かう。
 得物は素槍を選択。腰の高さに槍を構える。
 対するイングリッドは左手で突き出すように盾を構え、右手の剣は肩に担ぐように持つ。
 相対して南は驚いた。相手の動きが見えない、間合いが遠い。
 すり抜けて一撃を見舞うには突きの一辺倒では不利だ。
 空気が静まりかえり、緊張が走る。
 戦闘開始まで秒読み、というところでイングリッドはすっと盾をおろした。
「…大事なことを忘れていた」
 剣を横に。顔は遠巻きに座ったままの生徒に向ける。
「今日で最後の授業だ。1人ずつ聞いておきたいことがある。
 南、君が撃退士として戦いを選ぶ理由はなんだ?」
「へ…?」
 予想だにしない問いに南は頭が真っ白になる。
 青臭い答えしか出てこず答えに窮していると、イングリッドは優しく笑みを作った。
「なぜこんな事を聞くか。戦いを決する要素は多いが、
 全ての手管を尽くして最後の最後に頼るのは自分の心だからだ」
 それは、今日までの授業で彼女が見せたことの無い顔だった。
 歴史も道具も武技も、徹底したコンバットプルーフ重視でしか教授せず、
 感情の介在を許さないのが彼女の授業の特徴だ。
 それが一転の精神論である。
「なるべく全員の答えは聞いておきたいが、答えにくいのなら答えなくても良い。
 言葉に出来るなら、誓いだと思って教えて欲しい。
 もしも今答えが見えないのなら、よくよく自分を見つめなおしてみると良い。
 戦う理由があるからこそ、人は戦う事ができる。そして生き延びることができる」
 それはどこまで言っても詮無い精神論にも聞こえた。
 だというのにイングリッドの表情は真剣そのものだ。
 戸惑い隣の友人と話し合う者、斜に構え問いを笑う者、その横顔に答えを見出した者…。
 生徒の反応はさまざまだった。
「さあ、君の答えを聞かせてくれ」
 イングリッドは向き直ると、南の答えを待つ。
 南はだいぶ迷ったが、変わらない自分の答えを告白した。


リプレイ本文

 技術は道具と共にあった。
 例えば日本の剣術家がブロードソードを握ったと仮定する。
 彼は素人と比べれば良い太刀筋でその剣を振るうだろう。
 だがその剣のために培われた剣術を使う者とでは大きな差が出てくる。
 フィオナ・ボールドウィン(ja2611)は優秀な生徒の1人に過ぎない。
 だがこの授業の中に限れば、彼女は圧倒的な強さを見せ付けていた。
「グラディウスとバックラーなど、剣技の基本中の基本。この結果も当然のことだ」
 上級生から下級生、ベテランから新人まで軒並み排しながらも、当然の一言で済ませてしまう。
 恨みを買わなければ良いけども。そんな心配もどこ吹く風。
「次の挑戦は居ないのか?」といわんばかりに周囲を睥睨する。
「ボールドウィンが居ると授業が楽で助かる。しかし簡単すぎて退屈ではないか?」
「まさかな。物事は万事、基礎にこそ意味がある。
 なにより、戦の前の余興として楽しめるのが良い」
 フィオナの視線は講師であるイングリッドをとらえる。
「余興の続きをしても良いのだぞ?」そう言わんばかりに。
 イングリッドはその視線には答えず、足元のクリップボードを取り上げた。
「さて、ボールドウィン。丁度良い頃合だ。答えを聞いても構わないかな?」
「…ふむ、良かろう。…この戦、形態こそ戦だがその本質は裁きであり罰だ。
 領地を侵す賊を我らが裁く。そこに問答の余地はない」
「難しくてわかんないよ」
 話を区切ったのは野崎 杏里(ja0065)だった。
 手には次の試合で使う槍を持っている。
「裁くって言っても、天魔のほうが強いよね。そこはどうするのさ?」
「愚問だ。我がそれ以上に強くなれば良いだけだ。
 無論、資質や種族の差で限界はあろう。だが、そのためのここであろう」
 そして自身はそれを体現する。言葉にはその自信が溢れていた。
 杏里は呆れたような顔でため息を吐き出す。
「そういう野崎はどうなのだ?」
「ボク? ボクは戦うのが楽しいから。
 強い奴と遣り合ってる時が一番充実してる、満たされてる。
 ボクは今生きてるって実感できるんだ。だから戦うのさ」
 野崎は講師の問いにあっけらかんと答える。
 これはこれで、講師が面白おかしそうに苦笑していた。
 フィオナは前に出た杏里に向き直る。雑談の後だが、既に戦闘態勢だ。
「それで、次の相手は貴様か」
「そうだよ。ディバインナイトの盾の使い方ってのも見てみたいし、
 それに、あんたのやり合うのは面白そうだ」
「良いだろう。ならば来い」
 フィオナの宣言と共に両者構える。
 講師が始まりの合図を出すまでもなく、杏里は一気呵成にフィオナ目掛けて飛び込んでいた。
 リーチを生かして突きを繰り出しつつ、サイドステップで横方向に相手を振り回す。
「ほう?」
 フィオナは下がりつつ盾と剣でいなす。
 両者間合いをつめることはできず、距離の分だけ杏里が優勢だった。
「折角の模擬戦だ。出し惜しみは礼に反するな」
 フィオナは不敵に笑うと、剣を横に振るう。
 円卓の武威が展開され、彼女の頭上に幾つもの剣が実体化する。
 それは20を越えてもなお増え続けた。
「ちょ…!?」
「受けきってみせよ。さすれば、貴様の勝ちが見える」
 言葉と共に剣は射出され降り注ぐ。
 槍を横にして払おうとするが避けきれる数ではない。
 轟音と着弾。砂埃で杏里の姿が見えなくなる。
 勝負あったなと誰もが思った瞬間。
「舐めんじゃねえ!!」
 砂煙の中から杏里が飛び出していた。
 防ぎきる事はできなかったが、死活で耐えていたのだ。
 闘気解放の影響で目を赤く光らせる杏里は、その勢いのまま鬼神一閃で素槍を振りぬく。
「こいつでどうだッ!」
 炎をまとった渾身の突きがフィオナに迫る。
 フィオナは慌てず剣で左に払いつつ右にかわした。
 手から盾を捨て、その手は槍の柄を掴もうと伸びる。
(まずっ!)
 杏里は咄嗟に捕まれないように槍を引く。
 剣は槍から離れるが…。
「甘いな」
 フィオナはさらに滑るように前へ。
 左へ払っていた剣を半回転させ、杏里の目の前に突きつけた。
「その生き汚さは褒めてやろう。我にこの剣を使わせたのだからな」
 杏里も流石にこの位置では負けを認めざるをえなかった。
「次は負けねー! 吠え面かかせてやっからな!」
 一声吼えると杏里はずかずかと周囲の生徒の輪に戻っていく。
 フィオナは無敗のまま。当然と言う顔で敗者を見送った。




 システィーナ・デュクレイア(jb4976)は講師との模擬戦を希望した。
 フィオナと杏里が下がると、小盾とマグナムバーストを持ち、
 決闘場と化した砂地の中央に進み出る。
「デュクレイアは…常々聞いている通りかな?」
「そうですね。私は戦いが好きなんです」
 杏里と違い、システィーナの言葉は大事なものを語る優しい口調だった。
 その内容との違和感は大きいが、言葉は非常に真摯に響く。
「鍛え上げた肉体と磨き上げた技を最大限に駆使し、己が命を燃やしながら相手に自分という存在を叩き込んでいく」
「それに相手が全力で応えてくれた時の喜びと死の恐怖から来る緊張感が堪らないのです。
 それと、お互いが全力で戦い全てを出し尽くせば、例え相手が天魔であろうと分かり合うことが出来ると私は信じています」
「ははは。ぶれないな、デュクレイアは」
「先生、私は…!」
「本気なのだろう? わかっている。
 その真っ直ぐさ。正直羨ましいぞ」
 講師の言葉にふと疑問が沸く。
 そうであって良いのは若者の特権ではない。
 感情のことでこの講師が所感を述べるのは不思議にも見えた。
「では後腐れなく本気で行こう」
 システィーナの思考を打ち切り、空気が張り詰める。
 言葉の通りイングリッドは本気だ。
 合図と同時に仕掛けたのはシスティーナだった。
 構えた盾をフリスビーの要領で投げつける。
 迫る盾をイングリッドは盾で打ち払って回避。
 その隙にシスティーナは次の行動に移っていた。
 姿勢を低くし、拳を後ろに構え、
 盾の無い左手は前にかざして、文字通り盾とする。
 腕を捨てての渾身の一撃。
 イングリッドは模造刀で腕を切りつけるも、システィーナの勢いは止まらない。
 間合いに入ったシスティーナはイングリッドの腹部めがけて拳を振りぬく。
「はぁっ!!」
 鬼神一閃。炎を纏う拳が迫る。
 しかし拳はイングリッドに届くことはなかった。
 イングリッドは拳に盾を添え、押し包むように拳を左へ逸らした。
「えっ?」
 盾は未だに拳に添えられたまま。
 と思った次の瞬間には盾が外れ、剣がぴたりとシスティーナの顔の正面に向けられていた。
「少々変則的だがバインドの応用だ。武器で固めている分捕らえやすかったぞ」
 余裕の表情を崩さないイングリッド。
 システィーナは険しい表情を緩め、拳を引いて半歩下がった。
「先生は私の動き、読んでいたのですか?」
「まさか。毎年物を投げる生徒は後を絶たないが、一々予測は出来ないさ」
 苦笑と共に講師は笑う。投げられた盾に驚いたのは本当らしい。
「歴史とは馬鹿にしたものではなくてな。
 君の考える戦術を昔の人も考えていた。それを教える教本もある。
 曰く『危険だがやらないよりマシ』だそうだ。
 私は君がその武器を取ったのを見て、その教本を思い出した。それだけだ」
 システィーナは納得が行ったのか、ため息と共に肩を落とす。
「良い踏み込みだった。私が動きの大きいツヴァイハンダーを使っていたのなら、
 今の一撃はかわせなかっただろう」
 普段からその類は口にしない講師の言葉だ。
 それはお世辞ではなく事実。
 次こそは。再戦の勝利を誓いつつ、システィーナは対戦相手の講師に一礼した。


 暮居 凪(ja0503)と詠代 涼介(jb5343)の試合は、
 少々乱暴な流れになりつつあった。
 大盾で身を守りつつ銃撃に徹する詠代に対し、
 大盾で身を守りつつ突撃を敢行する暮居。
 涼介はこの突撃を押さえ込む事ができず、
 流れをつかまれたまま状況が推移していた。
 ただ、最初に考えていたよりも状況は良かった。
(大盾に代えて正解だったな…)
 戦闘開始前のアドバイスで大盾を選んだが、小盾ならば最初の一撃で沈んでいただろう。
 小盾は守りに徹するには小さすぎ、武器で補う必要がある。
 だが彼の武器は銃。そんな器用な真似はできない。
 大盾で視界は狭いが、かわせない攻撃が見えないのは特に問題ない。
(挑発が過ぎたかなあ…)
 涼介は苛烈になりつつある攻撃に少し前の自分を省みる。
 それというのも、講師との問答に原因があった。
 対する凪も小盾を大盾に変えていた。
 ランスの突きは早いが間合いが遠い以上、銃弾のほうが早い。
 ランスでは小回りを効かせた防御に向かないため、足を狙われたら突撃の前に決着がついただろう。
 この状況に持ち込めているのは大盾が間合いに入るまでの一瞬を稼いでくれたからだ。
 盾が防いでくれるという安心感が攻撃の力を増し、戦いの余裕を生んでくれる。
 凪には相手の顔を見る余裕もあった。
(不安になるぐらいなら言わなければいいのに)
 凪はちらちらと視線を向けてくる涼介を見て、だいたいの事情を把握した。
 事の起こりは試合の直前、問答の時に起こった。
「手の届く範囲の人を護りたい、といったところでしょうか」
 本当の理由を答えるにはあまりにも個人的過ぎて、凪は結局模範解答的な答えを返した。
 講師がそれを真に受けたかどうかは不明だが、
 誰もそれ以上は深くは聞かなかった。
 続く涼介はそれに対して…。
「戦いが好きだから、ですかね。
 あるいはお金儲けのため、先生や皆のような魅力的な女性とお近づきになるため、かも」
 と、答えていた。文面上は極々個人的で欲望まみれ。
 反応を見るように周りを見たことも思えば、真実ではなかったのだろう。
 本音を誤魔化したかったのか、あるいはこれも作戦か。
「!?」
 物思いは秒の間、涼介の次の手が彼女の思考を打ち切る
 背面に緊急召喚されたヒリュウが凪を襲った。
「このっ!」
 凪は思い切って横にとび、1人と1匹を視界に捉える。
 横移動しながらヒリュウと涼介が同時に相手取らないように移動して…。
 ランスを構える凪がヒリュウに仕掛けようとした瞬間、召喚は突如解除された。
「何!?」
 塞がっていた射線が通り、凪に銃撃が放たれる。
 しかし狙いが正確でないために銃弾は大盾に弾かれてしまった。
「やべっ…」
 言うが早いか、凪のランスは涼介の目の前に迫っていた。
「勝負あったな」
 講師の言葉で2人は武器を納める。
 近代・中世と違った武装の両者の戦いは、僅差で凪に軍配が上がった。
「暮居はいう事無しだ。後は本番で使いどころさえ間違えなければ良い。
 詠代も不意打ちの作戦は良かったぞ。次は散弾銃でやると良い。
 そこまでされたら私も防げないからな。
 後は…自分で仕留めることに拘らずもっとヒリュウも使ってやれ。
 完全な連携が取れる竜達は、それだけでも大きな武器になる」
「…了解です」
 思うところもあったのか、涼介は素直に頷く。
 イングリッドは少しそっぽ向いたままの彼の横顔をしばし眺めていた。
「……なんですか?」
「戦う理由、もう一度聞かせてくれないか?」
 ばれていた、というよりは喋りがどこか嘘の気配があったのだろう。
 涼介は観念して武器を置いた。
「俺を助けてくれた人のためです。
 例えばだけど、もし俺が普通の生活を普通に終えたら、その人の行動は特に注目されないまま終わる。
 もし俺が自殺でもしたり、凶悪犯罪者になったりしたら?
 逆に俺が誰かを助けることができたら?
 ってね…」
 間違いでないと証明するには、自分もかくあらねばならない。
 そして彼の出した答えが、撃退士の道だった。
「良い覚悟だ。これからの人生全て、一切気が抜けないぞ」
「そうですね」
 気が無い返事だがそれは彼の性格上仕方ない。
 そっぽ向く涼介を見て、講師は嬉しそうに微笑んでいた。



 リディア・バックフィード(jb7300)は他の生徒に比べ、身体は頑健でなく武術の嗜みも無い。
 他の生徒に任せるには力量差があるため、相手は講師が務めることとなった。
 魔法書と大盾を持ったリディアに対し、講師は大盾と騎士剣を選ぶ。
 手加減はしたが、戦闘は一方的だった。
 最初の一撃こそリディアからだったが、大盾に防がれて一気に間合いを詰められてしまう。
 その後は嵐のようなラッシュで一向に隙がない。
(速すぎる…!)
 耐えて反撃の機会を考える腹づもりだったがそれを許さない。
 剣の攻勢だけならまだしも、盾を使った格闘も仕掛けられては打つ手がなかった。
 考えが袋小路に陥った頃、不意に嵐は止む。
「バックフィールド、戦うのは知識を集める為と言っていたな。
 君がその知性を頼りに戦うのなら、考える時間を作ることに全てをかけるべきだ」
 よくわからなかった。耐える以外に時間を作る方法があるのだろうか。
「ならばバックフィールドはどう戦うべきか。…野崎、答えてみろ」
「…んーと、先手打って殴ったら良いんだよね?」
 若干考えるのを放棄していたが、咄嗟の答えとしては満点だった。
「正解だ。デュクレイアのしたように合図と同時に攻めるべきだ。
 しかしバックフィールドの手持ちは魔法書のみ。
 これをどう使って攻めるか? 普通にやれば盾に阻まれる。
 詠代、答えてみろ」
「俺ですか? ……足元と地面狙うぐらいしか思い当たらないです」
「それだけでも良い。戦闘の最中ではすぐに妙案など浮かばないからな」
 フィオナは用意していた答えがあっていたのかしたり顔だ。
 当てても意味はないなと改めて思い、イングリッドは苦笑してしまう。
「以上の通りだ。焦りや不安や緊張の中では良い考えも生まれない。
 仕切りなおすから、参考に動いてみるんだ」
 再びの開始の合図に合わせ、リディアは光の槍を連続で投射する
 今度は精度よりも数を重視した。
 足元に着弾した槍は砂埃を上げ、講師の足は止める。
「そうだ。だがそれだけでは突入を許してしまうぞ」
 イングリッドはその槍を受け、あるいはかわす。
 その場をほとんど動いていないのも関わらず、身体には一発も触れていなかった。
(これが、後衛の接近戦。盾の戦闘…)
 状況は固まっていたが先程の悲壮なイメージが嘘のようだった。
 防戦を打ち破る必要がないため、使える手段も嘘のように広がっている
 軽くなった思考を整え、リディアは次の一手を放つ。
「…おっと」
 軌道を変えた一撃が講師の脇を掠める。
 リディアにはその一撃が限界だったが、講師は「良し」とした。
「良い時間だな。…皆の戦う理由は問わない。理由があるのなら死ぬな。
 私の願いはそれだけだ。では、授業はここまでとする」
 ある者は勝利の感触を胸に、ある者は首筋を通り過ぎた死神の気配を胸に。
 明日の戦場へと返って行く。
 今感じた一瞬の感覚が、いつか未来を切り開く剣となるだろう。 



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 傷だらけの戦乙女・野崎 杏里(ja0065)
 『天』盟約の王・フィオナ・ボールドウィン(ja2611)
重体: −
面白かった!:5人

傷だらけの戦乙女・
野崎 杏里(ja0065)

大学部3年211組 女 阿修羅
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
お姉ちゃんの様な・
システィーナ・デュクレイア(jb4976)

大学部8年196組 女 阿修羅
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー
金の誇り、鉄の矜持・
リディア・バックフィード(jb7300)

大学部3年233組 女 ダアト