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マスター:錦西
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/08/29


みんなの思い出



オープニング

 久遠ヶ原学園大学部1年、ルインズブレイド専攻の曽我部忠志。
 彼を一言で表すなら、申し訳ないが「愚か」である。
 実力は無いくせにプライドは一人前。勿論協調性も皆無。
 いつかは兄のようにと奮闘するのは微笑ましいが、
 やり方を間違えるのもいつものことだった。
 結果、人生最大のピンチを迎えていた。
 周囲は既に闇に落ち、木々の生い茂った森に街の光は届かない。
 その中にあっても彼の周囲からは濃厚な冥魔の気配。
 彼が潜む山林、梵珠山の周囲には無数の冥魔がひしめき合っていた。
「くっそ……あんなの無理だよ…」
 彼は単独の偵察に出向き、集団を発見したまでは良かったものの、
 集結する冥魔の群れに囲まれ、梵珠山を降りることが出来なくなっていた。
 敵は北陸特有のディアボロのみならず、ソングレイなど名の知れた悪魔も多数確認されている。
「に…兄ちゃん…」
 絶望に思わず涙が零れる。
 ふと、彼は手元の無線機に手をやった。
 今まで自分一人でなんとかしようと、意識もしなかった道具だ。
 今使えば会話を聞かれる可能性もある。
 そもそも助けを呼ぶのは彼のプライドが……。
「………ぐすっ」
 当然のようにヘタレな彼がプライドを捨てるのは早かった。
 無線の電波は山の上から遮られることなく遠くに飛び、
 近くの撃退士がぎりぎり拾うことができた。
 雑音と戦いながらの必死のSOSを終えた彼は、
 茂みの中に隠れてじっと救助を待った。



 急遽召集された撃退士は27人。
 彼らは断片的な情報を元に梵珠山の南を走る国道7号線羽州街道の途上、
 国道101号線と交わる交差点に集結していた。
 ディアボロは梵珠山を中心に標高200m付近に円周上に布陣しており、
 得られた断片的な情報のほとんどが正確なものだと確認された。
 夜であれば観測にも手間取ったが幸いに時刻は昼。
 アウルを使わず双眼鏡で遠巻きに、あるいはヘリを使って上空から。
 事前に十分な偵察を行うことができた。
「説明は以上だ。我々はこれより曽我部忠志君を救出する」
 シベリアンハスキー似の頭を持つ悪魔の護摩木教諭は、説明の締めにそう宣言した。
 机の上に広げた地図には簡略化のために敵の配置を表すピンが何十と置かれている。
 敵の規模や布陣を聞いていた撃退士一堂は神妙な顔だが、
 1人納得いかない顔をしている者がいた。
「先生、別にあいつ1人ぐらいほっといても……」
「曽我部君、話が終わるまで少し静かにしてくれ」
「うっす」
 曽我部と呼ばれた撃退士は特に不満な顔もせず黙り込んだ。
 彼は阿修羅の曽我部真人。
 忠志より一回り年齢の違う兄は忠志と似てる要素が皆無だった。
 筋骨逞しい身体には無数の戦傷があり、歴戦のつわものと言って差し支えない風貌だ。
 勿論技量も外見に見劣りすることはない。
 担いでいる大剣、要所を護る防具にも使い古された跡がある
「彼を救助するのは善意だけではない。切実に彼の持つ情報が必要だと判断したからだ」
 ソングレイ、と曽我部忠志は言った。
 それが確かなら山を囲むディアボロは彼の本隊。
 彼の動向に関する情報は大いに価値がある。
「我々は3班に分かれる。一つは山に入って救出に向かう班だ。
 これは司馬教諭の班に任せる。これを以後A班と呼称する」
 遠巻きに話を聞いていた司馬は黙って頷いた。
 彼女の班には忍軍やインフィルトレイターなど捜索に向いた専攻の者が多数配置されている。
 護摩木は司馬のリアクションのみ確認すると、話を更に続けた。
「残りの2班はこの円陣に穴をあけ、救出班の進路と退路を確保する陽動を行う。
 指定されたポイントから東西に別れ、可能な限り敵を引きつけるのが役目だ。
 私の班をB班、曽我部君を班長とする班をC班とする」
 三つのピンがそれぞれに配置される。
 最初に聞いたとおり、敵の数は多い。
 それを見て曽我部は不敵な笑みを浮かべる。
 獰猛な熊のような雰囲気で、知らぬ者であればそれだけで威圧されるだろう。
「現地では何が起こるかわからん。
 最新の注意でもって当たるように。
 有事の際は時間が全てを決する。
 何かあれば指示を待たず、最善と信じる行動にうつるように。
 以上だ!」
 護摩木の言葉が終わると、各班速やかに行動に移った。
 時刻はようやくPMに突入する。
 嵐の前の静けさか、森に吹く風はいつもよりも涼やかに感じられた。



 ヴァニタスの桃木梓に与えられた待機命令は、
 そろそろ2日目に突入しようとしていた。
 有り体に言うと、放置されている。
 鈍感な彼女も流石に気づいた。
「ブルーは帰ってこないし…、どうする気なのかしら?」
 梓はディアボロの個体数をメモした手帳をそっと閉じた。
 彼女がこの地の冥魔と合流してからに与えられた役目は、
 部隊再編とディアボロの回収である。
 集まってくるディアボロを種別で分け、配下を使い治療を行い、
 戦闘可能な個体がある一定数に達したら本隊へと移動を命令し、
 終わればまた別の集団を受け入れた。
 このため配下のディープグリーンとパールホワイトは、
 傷ついたディアボロの再生に専念している。
 鉄の巨人、マッドブラウンは2日前から東を睨んで直立不動。
 鷲の頭と翼を持つ獣人、コバルトはディアボロの整理と指揮系統確認に携わっている。
 この間、梓に一切の仕事なし。
 つい先程、合流までの指示もコバルトに委任してしまった。
「…………暇だわ」
 不安なことはたくさんある。
 約束を守って貰える確証はあれど、移動する先でもそうとは限らない。
 1人考え事をし続けるのが良くないとわかっても、
 話す相手もいない状況では思考が悪い方向にしかループしない。
 梓が時計を見るのにも飽きてきた頃、遠くで剣撃のような音がした。
「……………?」
 戦闘の音だ。間違いない。
 時折放たれる光には魔力の波動を感じる。
「マッドブラウン、ディープグリーン。救援に向かって」
 2体の巨人は作業を中断し、地響きを立てながら森の斜面を進んでいく。
 この編成は万一の時、指揮者不在でディアボロを派遣する場合の組み合わせだ。
 マリンブルーがじかに行った編成だ。間違いは無いだろう。
 ブルーの説明は彼女にはまだ要点が掴めない。
「ブラウンがブラウンである限り、それを破壊する事能わず」とブルーが評するのは、
 如何にも強そうだがそんな便利な物だった記憶が彼女にはない。
 兎にも角にも、祈ることしかできないのが彼女の立場だ。 
 撃退士が何をするにせよ、彼女の約束は悪い方向にしか進まない。
 梓は浮遊する脳みそと目玉、と言った外見のヘルズアイを呼び寄せると、
 遠巻きに偵察するように命令を出す。
 何事もないように。祈りながら梓は切り株に腰を下ろした。


リプレイ本文

 時刻は午後二時を過ぎた頃になる
 戦いの火蓋は落とされ、静かな森林は一転戦場へと変わった。
「はーっはっはっはっはっは!!!」
 豪快な笑い声と共に先陣切って突入したのは曽我部真人。
 彼を先頭に、龍崎海(ja0565)、獅童 絃也 (ja0694)、高虎 寧(ja0416)の4名が
 ディアボロの群れを切り開いていく。
 示し合わせた訳でも指示されたわけでもないが、彼の後に続けば引いた敵を屠れる。
 期せず理想的な陣形となっていた。
 ただ予想していたとはいえ、竜崎はその脳筋ぶりに少々呆れてしまっていた。
「これほどまでとはね」
 竜崎は十字槍を構え、呼吸を整える。
 周囲には既に敵の戦力はない。
 敵を探して進む曽我部の背中が遠い。
「つきあう必要はない。退路確保が最優先。
 敵はこちらに向かってくる者だけを排除すればいい」
 気遣う絃也に手をあげて答える。
 そうだ。忘れてはいけない。この任務は陽動。
 敵の殲滅が目的ではないのだ。
 竜崎、絃也、戻ってきた高虎の3人とも傷は浅い。
「情報も大切だけれども、自分の命もね」
 高虎の言葉は、遠くなった背中にもかけられていた。
 問題は、相手がどう動いているかだ。
 周囲を見渡して敵の集団を探していると、
 山の上手側からエルリック・リバーフィルド(ja0112)と
 キイ・ローランド(jb5908)の2人が駆け下りてきた。
 途中広範囲に分散していた敵と戦う為に、分かれていたのだ。
「こっちはきれいに片付いたでござるな」
 感心したようにエルリックは周囲を見渡す。
 辺りには破壊されたスケルトンの骨の残骸が至るところに散らばっていた。
「そっちは?」
「うん、順調。終わり次第合流する」
 鴉乃宮 歌音(ja0427)、Rehni Nam(ja5283)、獅堂 武(jb0906)の3人は居残って戦闘していたが、
 動きの鈍ったスケルトンが10体も居ない。
 こちらの手を煩わせることはないだろう。
 地図を見て既に制圧した範囲を確認しあうと、チームはさらに奥へと突き進んでいった。
 敵の攻撃はおおよそ単調だった。
 攻撃されたら反撃する、見つけ次第攻撃する。この繰り返しである。
 スケルトンリーダーはその動きにある程度の同調を加えるに過ぎず、
 その動きは全体の動きとなんら変わらないものだ。
 陽動としての任務は外周からの牽制だけでも事足りた。
 やり過ぎに見えた曽我部の行動もこの手合い相手には十分すぎる成果を出し、
 敵の戦力を過大に見積もっていた分は十分に補われた。
 突破の心配もあったが、単調さゆえにその心配もなく、
 突破を警戒した幾つかの布石は不要となった。
 もはや戦闘は作業と言って差し支えない。
 何度目かの帰還を果たした高虎は、再び敵戦力を引きずって現れる。
「来ました! お願いします」
「了解だよ」
 キイは手を振って伏せた仲間に合図を送った。
 少し遅れて装備がばらばらなスケルトンの部隊が目の前に現れる。
 剣と盾を持つ個体は寄せてくるにしても、クロスボウを持つ個体やリーダーは厄介だ。
 スケルトンリーダーは撃退士を見つけると剣をもった手を掲げるが…。
「君なんだね?」
 木の上に潜んでいた鴉乃宮がクロスボウでリーダーの頭蓋骨を撃ち抜いた。
 外見上差異のないリーダーを見極めるにはこのタイミングしかない。
 撃たれたリーダーは衝撃で骨がばらばらと崩れる。
 鴉乃宮は続けざまに弓やクロスボウを持ったスケルトンを狙撃し、対空攻撃能力を削ぐ。
 リーダーの指示を失ったスケルトンは矢の方向から鴉乃宮を見つけるが、その頃には手が届かなくなっていた。
 攻撃することも出来ずにまごついている群れの側面に、エルリックと武が嵐のような勢いで突入していく。
「まずは俺からいくぜ!」
「任せたでござるよ」
 武は氷晶霊符をかざし、氷の刃をスケルトンの群れに打ち込んだ。
 足元を狙った攻撃は狙い違わずスケルトンの足を掬う。
 足を失い転倒するスケルトンを、エルリックは一対の曲刀ですれ違いざまに切り払った。
 元からダメージを受けていたスケルトンの群れは、これであっけなく全滅する。
 その後、ヘルズアイやブラッドウォーリアも何体か現れたが、
 十分に周囲を掃討していた為、大きな被害もなく撃退した。
 敵の攻撃が落ち着き周囲が片付いてくると、撃退士は次の行動に移った。
 そのまま鴉乃宮が対空監視と索敵を行い、即応能力を残す。
 良い頃合と見てキイは前列の竜崎と絃也を呼び戻した。
 2人は周囲の地形を見て意図を悟る。
「バリケードだな」
「うん、お願いするよ」
 出発後、木々の質を見て話し合い決めたことだ。
 キイは倒す木と倒す方向を手で指し示す。
 陸上のディアボロが道を使って移動している以上、この位置は十分意味があった。
「では、やるぞ」
 絃也は渾身の力で拳を木の幹に打ち込んだ。
 震脚の踏み込みの音が響き、二発三発とアウルが叩きつけられる。
 幾度目かの打撃の後、絃也は手ごたえを感じその場を飛びのいた。
 木は阿修羅の攻撃に耐え切れず、根元から音を立てて倒れこんだ。
 位置は完璧。十分な壁となるだろう。
 その木が倒れる音に気づき、慌てた様子で曽我部が引き返してきた。
 呆れが半分、怒りが半分という表情だった。
「おい待て。お前ら何やってる!?」
「何って、バリケード作ってるんだけど」
「このド素人ども! 陽動の意味がわかってんのか!?」
 その視線はそれを止めなかった人間全てに向けられていた。 
「陽動は俺達全体の目的を誤認させるのが仕事だ。
 注意さえ引ければ戦わずに逃げてもいいが、何してるかバレたらおしまいだ。
 そんな見るからに何かを守ってますってわかる事をしてどうする!」
 バリケードを提案した者ははっとして倒れた木を見た。
 この先に護るべきものがある。
 今まで敵はそれがわからず、突破など考えず目の前の自分達に食いついたが、
 敵の指揮系統に属する者が気づけば、北側から空を飛べる偵察部隊を出すだろう。
 そうなれば寡兵のA班は太刀打ちできない。
 更に何かを言おうとしたが、曽我部はふっと戦場の西側を見た。
 他の撃退士もすぐにその理由に気づく。
「…っと、説教はここまでだ。主賓のおでましだぜ」
 木々をなぎ倒し、地響きを立てながら、2体の巨人は現れる。
 前方には鋼の巨人、マッドブラウン。後方には樹人ディープグリーン。
 そこが戦場でないかのように、2体は緩慢な動きで戦場にたどり着いた。



 弱点は克服するもの。その言葉を思い知ることになる。
「一斉攻撃をしかけるよ。目標は鉄の巨人!」
 キイの指示で撃退士達は武器を持ち替えスキルを入れ替え、
 正面に立つマッドブラウンに狙いを定める。
 樹人か鉄巨人、どちらを狙うか。事前の相談では全員の意識は巨人の早期撃破で固まっていた。
 一歩一歩地鳴りを響かせながら動く巨人は、その様子すら見ていない。
 距離は40m。ここが限界の線だ。
「撃って!」
 光の矢と炎の矢、氷の刃に水の泡、そして無数の銃弾が。
 撃退士9人の一斉攻撃が正面のマッドブラウンに降り注ぐ。
 着弾と爆発。伴ったアウルの光が弾け、周囲を明るくする。
 それでもなお油断せず、力の限り撃退士達は攻撃を放ち続ける。
 しかし…。
「バリア…?」
 前列に居た武が呟く。
 巨人の正面と側面には半透明の壁が出来ていた。
 無傷だ。それぞれが思い思いに足や腕、頭と狙いを変えて撃ったが、
 その全てが光の壁によって無効化されていた。
 マッドブラウンは意に介することすらせず、歩みは欠片も遅れない。
「なら、影縛りの術で!」
 高虎は十字手裏剣にアウルを載せて投擲した。
 手裏剣は楕円軌道を描きながらマッドブラウンに迫る。
 幾つかはバリアに弾かれたが、うち一発が影に命中した。
 影は動きをとめ、マッドブラウンの動きもまた止まるが、
 その効果はほんの一瞬でしかなかった。
「止まれぇぇっ!!」
 追い打つように武は呪縛陣を発動。
 範囲の中央に鉄巨人を捉える事で魔力を一点に集中する。
 マッドブラウンの動きは鈍くなるが、これも止まるには至らない。
 続けて放った闘刃武舞も全周囲、そして上下を完全に防御するバリアに阻まれる。
 剣の舞は一本たりとも本体に到達する事なくアウルを失い霧散した。
 その僅かに出来た隙に乗じ、エルリックは壁走りで木々を登って敵の上をとった。
「覚悟するでござるよ!」
 木の幹を蹴って跳躍すると、エルリックは鉄巨人の頭めがけて頭上から月見不月を振り下ろす。
 しかし刃は巨人の頭部に届く前にこれもバリアで止められる。
 大きく弾かれたエルリックは宙返りしつつ体勢を立て直し、危なげなく地面に着地した。
 そうこうする間にも巨人は撃退士達を間合いに捉えていた。
 振り下ろされる拳に潰されぬよう、撃退士達は一斉に散らばっていく。
「この足の速ささなら、逃げるだけでも…」
 竜崎は遠距離攻撃の引き撃ちで気を引くことを思いつく。
 先ほど放ったヴァルキリージャベリンは効いていなかったが、
 いつまでもあの出力のバリアが維持できるとも思えない。
 その考えはこの時点では正しかったが、誰しもが考えるその作戦は無為に終わる。
 巨人は握り締めたままの手を竜崎に向けて開いた。
 中には大きな宝珠のような物体が埋め込まれていた。
 宝珠は大きく光を放ち始め…
「まさか…」
 直後、宝珠から薙ぎ払うように光線が放たれた。
 直撃は回避したものの、その余波で竜崎は吹き飛ばされる。
 体勢の崩れた竜崎を更なる光線の砲撃が襲った。
 他の撃退士が攻撃を続けるが、バリアに阻まれ攻撃は止まらない。
 マッドブラウンはその速度を武器の射程で、
 回避の低さを圧倒的な防御力で完全にカバーしていた。
「くそ! 強すぎる! こんな奴どうすりゃいいんだよ!」
 武が叫ぶ。さしもの曽我部も呆然としてその巨人の歩みを見ていた。
 バリアは物理と魔法両面に高い防御力があり、
 カオスレート差を最大化したヴァルキリージャベリンでも貫通できない。
 一点集中の大火力も、隙間無い連続攻撃もバリアには変化は与えられない。
 背面から不意を撃っても確実に展開され、頭上を含む全方向へ同時に展開することも可能。
 影や周囲の空間を巻き込んだ特殊な攻撃もほぼ無効化されていた。
(何かがおかしい…)
 何の代償もなしに、ディアボロがここまで強い事はありえない。
 必ずこの防御には隙があるはずだ。
 しかしデザインによって何を捨てたのかはわからない。
 不明瞭な弱点が明らかにならないうちは、この無敵の防御力とそのまま戦う他ない。
 もっと情報があれば、もっと情報を引き出すには。
 こいつが今まで戦場に出ないことと関係があるのかもしれないが、
 出てきている以上はこの戦場ではそれを克服したと見るほうが正しいのか。
「足元を狙って! 普通に歩いてるだけだから、歩みは止められる!」
 仲間が引き出した情報でキイが判断できたのはそこまでだった。
 続いて戦域に侵入した樹の巨人にはRehniと絃也、鴉乃宮が対応する。
 3人での足止めという危険な任務と思って挑んだが、
 その時の敵の動きは少々拍子抜けだった。
 この位置から挟撃してくるかと警戒したがそれもしてこない。
 戦闘開始と同時に樹人の至る所に茂る葉が緑の光を放っている程度だ。
(やっぱり回復能力をもってるんだ)
 微弱に感じるアウルの流れは鉄巨人に向かっている。
 傷を受けてない巨人に用途不明だが魔力送っているのは確実だ。
 戦闘の激化と連動していないのが気になるが、倒しておくに越したことはない。
「ここで倒すしかないな」
「勿論よ」
 Rehniと絃也は後衛に鴉乃宮を残し突撃。
 絃也は爪を使った格闘戦で、Rehniはヴァルキリージャベリンを。
 巨人は目だった抵抗もせずに、その攻撃を甘んじて受ける。
 反撃を考えていた二人はかえって戸惑った。
 しかし、何もしないわけではなかった。
 次の攻撃に移ろうとしたその時、頭上から何かが降ってくる。
 落下してきた木の実のような物体を回避した。
 攻撃ではなかったようだが…。
「!?」
 落ちた木の実はそれぞれが徐々に膨れ上がり、大きな四足獣の姿を取る。
 狼とも狐ともつかないが、凶暴な肉食獣の外見だ。
 その爪や牙の鋭さと、細胞が泡立ったままの背中が印象的な姿だった。
 最終的にはそれぞれが体長2mを越えるところまで成長する。
 生み出されたディアボロは、一斉に樹人を狙っていたRehniと絃也に襲い掛かった。
「こいつら!!」
 Rehniは一匹の攻撃を武器で受ける。
 その隙をつかれ、二匹目に太ももを爪で切り裂かれる。
 四足獣型のディアボロはそうしてる間にも次々と生み出されていく。
 Rehniを襲う三匹目はその無防備な横腹を狙うが…
「ふん!」
 合流した絃也の渾身の掌底によって吹き飛ばされた。
 Rehniに組み付いていた一体も鴉乃宮の銃撃が仕留める。
「ありがとう」
「なに、気にするな。それより…」
 吹き飛んだ獣は立ち上がらない。
 倒したような手ごたえでなかったはずだと絃也は頭をひねる。
 そうこうする間にもぶくぶくと細胞が泡立ち、ディアボロは溶けてなくなった。
「…数は多い代わりに時間制限つきみたいだね」
 鴉乃宮が見る間にも、包囲していた一部の個体が勝手に崩壊していく。
 細胞が不安定なのかもしれない。
 だが3人にはそれを詳しく検証する余裕はなかった。
 幾ら自滅しても関係なく、後から後からディアボロは生成されていく。
「これは骨だぞ」
 曽我部含む残りの6人は鉄巨人の足止めと、バリア突破の手がかりを探すのに手一杯だ。
 こちらに戦力を割く余裕はないだろう。
 ここから先は減らないディアボロとの完全な持久戦だ。
「来るぞ!」
 最前列のディアボロが、凶悪な牙をむき出しにして3人に襲い掛かった。



 結果、最前列で戦った竜崎、絃也、Rehniが重傷を負った。
 前列は崩れかけたが、鉄巨人の足を狙う意図が奏功し足止めには成功する。
 それでも部隊の全戦力かけてこれだ。
 残るメンバーも満身創痍。これ以上は戦えない。
 周囲に別のディアボロの部隊が残っていたらこうは行かなかっただろう。
 戦線を下げるべきか否か、キイが迷った末に下がろうとした頃、
 待ちに待ったA班からの通信が届いた。
「こちらA班、救助対象を保護して撤退中」
 その通信の向こうには剣撃や銃声の音が飛び交っていた。
 追撃を受けているのだ。
「こちらは気にするな。自力で逃げ切れる。撤退してくれ!」
「了解だ。聞いたな野郎ども! 引きあげだ!」
 入れ替わりに聞こえた曽我部の声に応じ、撃退士達は仲間を庇いながら山の斜面を下っていく。
 樹人の作った獣は周囲を離れられないのか追撃にはこない。
 足の遅い巨人の目を気にしつつ、撃退士達は無事に本陣へと帰り着いた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
   <敵増援の迎撃時に負傷した為>という理由により『重体』となる
 厳山のごとく・獅童 絃也 (ja0694)
   <敵増援の迎撃時に負傷した為>という理由により『重体』となる
 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
   <敵増援の迎撃時に負傷した為>という理由により『重体』となる
面白かった!:1人

銀と金の輪舞曲・
エルリック・R・橋場(ja0112)

大学部4年118組 女 鬼道忍軍
先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
厳山のごとく・
獅童 絃也 (ja0694)

大学部9年152組 男 阿修羅
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト