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マスター:錦西
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/06/10


みんなの思い出



オープニング

 陳腐な言葉で良いなら、この感情を表現できるかもしれない。
 家族や町を好きと思ったことはなく、さりとて嫌うほどでもなく。
 日々の不便さを厭わしく思いながらも、四季折々姿をかえる風景は好きだった。
 都会に憧れながらも心に根付いたその色をぬぐうのが怖かった。
 何もなければきっと、私はこの町で生涯を過ごしただろう。
 過疎になりつつある町と知ってはいたけれど、出て行く理由にはならない。

 この景色はこの国のどこかにまだあるのかもしれない。
 でも、もうどこにも無いだろう。
 一面の焼け野原は既に雪の下、春に芽吹く花はきっと違う色。
 私の居場所はそこにはない。
 なぜなら……。



 那須ひとみは朝から調子が悪かった。
 初めての登校だというのに朝から問題続きで、まだ何か不備があるような気がしている。
 寝癖。洗面台の鏡を睨みつつ、濡らして寝かせつける。今日は頑固だった。
 制服。妙なところにあるベルトをキレイに納めることができず四苦八苦。
 慣れないネクタイはネットで調べた程度の私には上手く結べない。
 編み上げのロングブーツは格好良かったけど、毎日となるとうんざりするかもしれない。
 30分前に出発しよう意気込むも、結局家を出たのはぎりぎりだ。
(お財布と携帯があるからいいか)
 その諦めは屈辱的でもあったが、今日ぐらいは大目にみるしかないだろう。
 兎にも角にも時間には間に合ったのだから。
「………」
 那須は通された部屋を観察する。
 高級ではないが品の良い椅子や机が並んだ応接室は、高校生の彼女には少し目新しい。
 受付で名前を告げるとスムーズにこの部屋に通された。
 教師は朝礼が終わり次第来るそうだが、すこし長引いているらしい。
 風の届かない室内は春らしい陽気が差し込み、ほんのりと暖かい。
 待つのは構わないが、眠気に負けるかもしれない。
 那須がそんな事を考え始めた頃、コツコツとドアがノックされた。
「はい!」
 那須が返事をして間髪居れず、2人の教師が入ってくる。
 気合は吹き飛ぶ。先頭に立つ教師の顔を見た那須は固まってしまった。
 時間の停止、と人が言う現象を始めて体験したかもしれない
「遅れてしまってすまない。那須ひとみ君だね」
 話しかけてきた教師は護摩木と名乗った。高校の国語担当らしい。
 彼を見て那須が固まったのは無理もないことだった。
 美形であれば見慣れてる、とはいわないがため息ぐらいで済んだだろう。
 その教師の顔は……。
「どうかしたかね? ……もしかして、私の説明は?」
「担当に言伝したはずですが…」
 教師の顔は犬だった。
 シベリアンハスキー、という犬種が近いだろうか。
 犬らしい凛々しい顔が人間の言葉を喋っている違和感。
 那須は彼がはぐれ悪魔だと説明を受けても、しばらくまともに応対できなかった。



 はぐれ悪魔の話はすこしだけ聞いていた。
 久遠ヶ原には生徒や教師にそういった人(?)が居て、人間と同じ場所で学んでいるのだと。
 割合はそう多くは無いけども、クラスメイトに堕天使やはぐれ悪魔が居る事自体は珍しくない。
 しかしいきなり現れるとは思わなかった。
 いくら彼らに致命的な恐怖が無いとは言え、心の準備ぐらいはさせて欲しかった。
 彼にしてもその為に連絡はしていたそうだが、
 毎度のこととなると忘れてしまうこともあるのだろう。
「ここが新校舎だ。君のクラスは…」
 で、件の犬の顔の教師、護摩木小太郎教諭は学園内を端から案内してくれている。
 犬の見た目のイメージに反することなく真面目で丁寧で、
 那須が聞いてるのか聞いてないのかわからなくても嫌な顔をしない。
 もしかしたらそういう表情は作れないのかもしれないが、最初の驚きほど悪い印象ではなかった。
「それが我ら一族の矜持。当然のこと」
 と、誇るような声で言っていたが、何を誇ったのかは良くわからない。
 悪魔なりの表現なのだろうか。
 聞かれない以上は詳細を説明する気もないらしい。
 伝わっているものと思ってはいないと思うが、そこはわからなかった。 
 護摩木はキビキビした足取りで那須を先導していく。
 すれ違う生徒には朗らかな声で挨拶をかわす。
 彼の人格は未だに見えないが、真面目に教師をやっているのはよくわかった。
 歩き続けてクラブ棟のある一角までたどり着くと、
 護摩木は辺りを見回し手近な男子生徒を呼び寄せた。

「おお、丁度良い。君、そこの君だよ。もし良かったらここのクラブの説明をしてくれないか。
 私より君達のほうが詳しいだろう」
 学生達は前振りのない役目に逃げたり顔を見合わせたりしている。
 捕まった学生で気の良さそうな人が残り、慣れない手つきでグラウンドを指し示した。
 胸が疼く。
 学生寮への入寮は事前に決まったことだし、
 保険や政府の被害者救済プログラムで援助もある。
 生活にはひとまず心配しなくて良いのはわかってる。
 それでも、人の集まりが今は無性に、怖いような、近づきがたいような。
 優しい先輩や教師は居るだろう。
 きっと私のような境遇の人間だと配慮もあるのだろう。
 頼ればきっと応えてくれる。
 それに頼る気持ちになれないのは自分が原因だ。
 彼らも無為に私の過去に触れない。
 話を聞いているはずの護摩木もだ。
 ならば、私が声をあげるしかないのだけど。
 それがどうしてもできない。
「よろしくおねがいします」
 当たり障りないように頭をさげる。
 それが今の私の精一杯だった。



 彼には一目でわかった。
 彼女もまた、この学園に多い類型の一人だと。
 何を背負ったのかわからずとも、
 彼女の挙動が小さな拒絶を伴っているのは明白だった。
 その傷が容易に癒えないことも知っている。
 だから、いつもより陽気に声をあげた。
「わかりました。丁度練習試合の最中です。どうぞ入ってください」
 護摩木教諭は自分達の来歴を把握している。
 その上で話しかけてきたのなら、それは自分の役目なのだろう。


リプレイ本文

 久遠ヶ原は学園と名が付くが戦いとは切り離せない。
 死者の話題には事欠かず、特に8年前の事件などはまだ関係者にとって深い傷として残っている。
 当然、他の学園と比較にならないぐらいその話は多い。
 トイレの花子さん程度は序の口だ。
 例えば、学園の横に見える建物。
 一見なんの変哲もない建物だが地下には巨大な研究施設があり、
 天魔に対抗するための研究が行われている。
 その中には表に出せないような研究もしてて、夜あの建物の近くを通ると悲鳴みたいなものが聞こえる時があるんだ。
 人造撃退士を作るために人体実験とかしてるらしい。
 そして向こうの建物、あれの裏はゲートの影響で異世界に繋がってるらしい。
 あそこで居眠りしたやつが異世界に飛ばされる夢を見たらしいんだが、
 何故か気づくと向こうの世界で手に入れたものがポケットに入っていたとか。
 そしてあそこに見える大きな樹、あれの下で告白すると必ず成功すると言う伝説が…。
「どれこれも全然違うっ」
 ぱーんっ、と小気味よい音。
 詠代 涼介(jb5343)の妄言は、護摩木のツッコミで中断された。
 丸めたパンフレットでも良い音はするものだ。
「ダメですか? 俺なりのやり方で良いって聞いてたんですけど」
「嘘はいかんぞ。嘘は」
 しらっと惚ける詠代に護摩木は呆れ顔だった。
 ひとみはといえば、まともに反応できるわけもなく。
「俺も四月に入学したばかりで学園のことほとんど知らない。
 だからさっきの全部想像だ」
「ははは…」
 乾いた笑い。
 変にボケた、と詠代にも自覚はあったが案の定受けはイマイチだったようだ
「ま、適当言ったけどこの学園は絶対にありえないともいえないしな。
 伝説作るぐらいを目標に生活したら退屈しないぞ」
「いきなり難しいことを言うんじゃない。君も早く学園に慣れなさい」
「へーい」
 詠代は生返事を返して校舎へ向かっていく。
「いや、すまん。先に進もう」
 護摩木はなんとも表現しがたいため息をつくと、ひとみを先導する。
 そんなアクシデントもあった。



 廊下を進んでいる間に時刻は授業の合間に差し掛かる。
 授業を終えた生徒達が廊下や校庭に溢れかえる。
 2人はしばしの間、庭の端で人の波をやり過ごしていた。
「犬悪魔先生、こんにちはー!」
「護摩木先生、こんにちは」
 2人をめざとく見つけたのは吉岡 千鶴(ja0687)と白鳳院 珠琴(jb4033)の2人だった。
 元気に跳ね回ってるのが珠琴、後ろで大人しくしてるのが千鶴。
 2人とも学年は違うが同じアストラルヴァンガードの専攻だった。
 近い学年を集めて行う合同授業を受けた帰りのようで、2人ともうっすらと肌が上気している。
「こんにちは。今日は【ライトヒール】の復習だったかな?」
「【インパクト】でした。基礎課程でしたから、白鳳院さんにはつまらなかったですよね…」
「ボク? ううん、そんなことないよ。皆でやると何でも楽しいんだ」
 珠琴は嬉しそうに授業の風景を語る。
 今回は素振りを基本にした授業だったが、多くの撃退士はそれぞれ独自のアレンジを加える。
 同種と分類されたスキルでも扱いは千差万別。
 使用者の多い基本スキルだからこそ母数も多く、眺めるだけでも飽きない。
「ところで…キミは転入生?」
 黙ったままのひとみに珠琴は声をかける。
 唐突の振りにひとみは一瞬どもりながらも「はい」とだけ答えた
「ボクは高等部一年の白鳳院珠琴って言うんだよ。
 こっちの子は吉岡千鶴。よろしくね♪」
 珠琴は早速ひとみの手を握ってオーバーアクション気味に握手をかわす。
「先生、今日は案内だよね。付いて行って良い?」
「構わんが…」
「やった♪ この学校は広いから、沢山見所があるんだよ♪」
 聞くやいなや珠琴はひとみの腕をとり、先導してどんどん歩いていく。
 千鶴と護摩木は押され気味で、どちらも止めることはなかった。
「吉岡君はどうするかね?」
「私ですか?」
 千鶴は黙考するように少し目を伏せる。
 最初に2人に気づいたのは千鶴だった。
 しかし声をかけたのは珠琴に釣られてだった。
 この学園には天魔に大切なものを奪われた人が多い。
 それに比べ自分は極々平凡な人生しか送っていない。
 だから躊躇していた。知らないままに触れてはいけない傷を、土足で踏み荒らさないかと。
 それでも、最近はそれに思うところもある。
「えっと…折角ですから私も一緒に見学して廻っても、良いですか?
 復学したばっかりで私も学園の中、まだよくわかってないですし」
 その気の遣い方は逆に失礼なのだと。
 珠琴ほどでなくても、積極的に話しかけたほうがいい。
 護摩木は「そうか。では行こう」とだけ言った。
 どこまで理解した上かは、わからない。



 再び始業の鐘がなり、生徒はばらばらと散っていく。
 校舎と校舎の隙間にある庭園には、初夏の陽気を楽しむ生徒がちらほらと見える。
 AL(jb4583)が居たのはそんな庭園の中心近くだった。
「今日も頑張っているね」
「護摩木教諭…」
 花壇の土を耕していたALは立ち上って裾の土を払う。
 落ち着いた本人の挙動とは正反対に、猫の耳は忙しなく動いていた。
「今日は…どうかなさいましたか?」
 新入生に校内案内、に見えたが付いている2人の生徒を見るとよくわからない。
 護摩木は苦笑しながら那須と付いてきた2人を紹介した。
「左様でしたか。ALと申します。以後お見知り置き下さいませ」
 深くお辞儀をするALに釣られてひとみや珠琴、千鶴も頭を下げる。
 その様子を見てALは小さく微笑んだ
「この花壇、部活動か何かですか?」
「いえ、これは趣味みたいなものです。こうしてお花の世話をしていますと
 此処に来る前を思い出してとても落ち着くので御座います」
 ALの足元には積みかけのレンガが無造作に置かれていた。
 広い花壇を更に区切って、これから咲く花を植えるのだと言う。
「AL君は魔法少女部に在籍している。…だったね?」
「はい。楽しい部活動で御座いますよ」
「魔法…少女?」
 千鶴は言葉の違和感に首をかしげる。
 ひとみも遅れて気がついた。
「どうかなさいましたか?」
 どう見ても男だから少女じゃない。
 と、突っ込むところだが本人がそれで良さそうなので全員口をつぐんだ。
「修行中の身ですのでそう見えないかもしれませんね。まだまだ特訓の毎日です」
 好意的解釈に乗ることにした。
「千鶴さんやひとみさんは、部活動は何か希望はございますか?」
「え、私は特に…」
 千鶴は慌てて答える。ひとみも同様だ。
 そこまで考える余裕がない。
「やりたいこと、見つかると良いですね」
 ALの笑顔を直視できずに、ひとみは生返事をしてしまう。
 千鶴はその横顔に不安を覚えた。



 一行は教室の次いで女子寮に向かう。
 寮と一言で書いたが大人数を収容するために棟は複数に分かれている。
「テレビドラマとかで見る普通の学生寮と変わらないと思うよ。
 違う点と言えば…小等部の子から大学部の人まで同じ寮で生活してることぐらい…だね」
 共有スペースに居た月村 霞(jb1548)は二つ返事で内部の案内を引き受けてくれた。
 種族が違うとはいえ、仮にも性別:男の護摩木がうろうろするわけにはいかない。
 本来は場所だけ教えて通り過ぎる予定だったが、中まで案内できたのは幸運だった。
「あとはそうだね…入学前の経緯もあるんだろうけど、小等部の子の方が自立してる感は否めないかな」
 霞はちらりとひとみに視線を送る。
 直接踏み込む必要はなくても、どこが境界線なのか見定める必要はあった。
 経緯ゆえに自立せざるを得ない小等部の子供達と、彼女が同じ人種なのかどうか。
「あら先生、ごきげんよう。皆様お揃いで」
 霞は思考を打ち切る。
 声をかけてきたのはシスティーナ・デュクレイア(jb4976)だ。
 知り合いがいるからもあるだろうが、物珍しさもあってのことだろう。
 女子寮の一角を過ぎた一行は各サークルが雑居するサークル棟まで来ていた。
 システィーナの顔にはいたる所に出来たばかりの打撲や切り傷があった。
 授業ではなく個人的に模擬戦に興じていたのだろう。
 着替えもシャワーも済んでいるようだが、目に付きやすいものは隠せない。
「システィーナ先輩、またやってたんですか?」
「ええ。常に全力を出せるように、練習にも手は抜けません」
 その言葉自体には賛同する。
 彼女と霞は思想に違いはあれ、阿修羅の破壊力をツールと認識している。
 撃退士の仕事への真面目さという観点では見習うべき先輩だろう。
 ただし。
(相変わらず外見が詐欺だよね)
 転入生にも優雅に話しかけるシスティーナを見て、霞は内心いつもどおりの感想を抱く。
 慣れていないひとみや千鶴は少し驚いた様子だった。
「この学校には色々な人がいます。優しそうな人や怖そうな人、
 賑やかな人や無口な人だけでなく私のような戦闘狂も。
 でも皆さんいい人ばかりですから、色々な人と仲良くなってみてください」
 それは流石に言い過ぎではないかと霞は思う。
 同時に、そう思えるのも育ちの良さなのだろう。
 趣味嗜好程度で彼女の善良な根は変わらない。
「先輩、そろそろお昼ですからご飯食べにいきません?」
「良いですね。皆さんもどうですか? おいしいところ、紹介しますよ」
 システィーナは微笑む。
 怪我を差し引けば、年齢相応の魅力的な笑顔だった。



 案内された先はねこかふぇだった。
 時間がすこし遅いずれていたせいか、客足は緩い。
 店先で掃除をしていた神凪 宗(ja0435)が笑顔で出迎えてくれた。
「それで皆で校内案内ですか」
 神凪は上機嫌だった。
 喫茶店に紹介で来たというのはやはり嬉しかったらしい。
「お祝いということで一品ずつ奢りますよ。何が良いです?」
 護摩木は流石に立場もあるので断ったが、女子は楽しそうにメニューをめくりはじめる。
「だったら、クレープがお奨めですよ。ここのは特においしいって評判ですから」
「千鶴さんは甘味のことは詳しいよね」
 珠琴に痛いところをつかれうめく千鶴。
 女の子だから仕方ない
 メニューはおおよそ普通のカフェと同様だった。
 それぞれ種類は多いが軽食で済ませる程度が丁度良い雰囲気だ。
 小食な女の子も多いので、ごった返す食堂に行くより良い。
 看板猫のミルクはそんな人間の様子を眺めながら、足元をうろうろしていた。
 猫と戯れているうちに料理が運ばれる。
 食事時の話題は自然と転入生に纏わるものになった。
「どんな理由で入学したかはわからないけど…これからどうするか、って事は大事」
 当たり障りの無い会話に霞がまとめを始める。
「私達って、普通の人とは違っちゃってるからね。
 これから先、自分がどうするかってことは強く持ってる方が、
 そういう目を向けられたときでもいろいろ保てると思う」
 意味深、というほどではないが彼女の言葉は少し重かった。
「先生もそうですけど、珠琴も…」
 システィーナの言葉で珠琴に視線が集まる。
 珠琴は言葉の意味を察し、背中の羽を静かに顕現した。
「天使だったんですね」
「うん、そうだよ。でもキミと同じ生徒、それじゃダメかな?」
 ひとみには格別の恐怖心はない。ダメなんてことはどこにもない。
「ありがと〜♪」
 珠琴は満面の笑みで抱きついた。
 その喜びの裏には、異物として認識される自分に自覚があるゆえなのかもしれない。
 千鶴は僅かに俯いた。
 背負うものは人それぞれ。
 自分に背負うものがないことは、ある種の劣等感のように彼女にのしかかる。
「もう季節は過ぎてしまったが、自分の寮では3月から4月にかけて花見をしている
 寮も特色がある。一通りみて決めると良い」
 神凪は食後のコーヒーと紅茶を並べる。
 食卓に良い香りが漂うと、食事ももう終わりといった風情になった。
「居場所は作るものだが、作らずともどこかにあるものさ」
 気負うなと神凪は言外に付け足した。
「たった一度の青春です。やりたいことを目一杯やって悔いのないように過してください」
 ここは学校なのだから。
 撃退士でなくても背負う物は必ずある。
 大事なのは、今を大事にすること。
 先輩の分かりやすい言葉は、その意味で至言であった。
 


 システィーナ、霞と別れ再び一行は4人になる。
 次に向かったのは図書館だった。
 これも利便性や用途の違いから二つ以上ある。
 早速普段使う側を紹介しようと赴いたわけだが…。
「本当にごめんなさい、皆さん」
 シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)は深く頭をさげる。
 到着して早々、出会い頭の事故の後片付けをすることになっていた。
 経緯としては、男子数名がシェリアの身長を悪く言い、
 シェリアは本を大量に抱えたまま追いかけて廊下を走っていたらしい。
 結果、一行と鉢合わせし、何名かの通行人も巻き込む事態となった。
 ちなみに男子のほうは護摩木が追いかけていった。
 今頃は説教を受けているだろう
「勉強の本ばかりじゃないんですね」
 返却処理をされていく本を眺めながら、ひとみは呟いた。
 大きな図書館だが分厚い真面目な本以外にも俗っぽい本も多い。
「本はお好きですか?」
「ええ、まあ。どちらかといえば」
 シェリアは嬉しそうに微笑んだ。
「わたくし、小さい頃から本を読むのが好きなんですの。
 外の世界を知らなかったあの頃は、本だけがわたくしに
 広い世界の夢を与えてくれる唯一の楽しみでしたから…」
 憂いを帯びた表情は一瞬だけ。
 シェリアは微笑で雰囲気を拭うと、一冊の本を取り出した。
「入学したてなら、時間もあるでしょう。よかったら、これをどうぞ」
 その本には図書館の管理用のバーコードが貼り付けられていない。
 題名は掠れ文字が読めない。どうやら私物らしい。
 仏語で書かれたそれは彼女に難解だったが…。
「読み終わったら、感想を聞かせてくださいましね?」
 お詫びか、出会いの縁ゆえか。
 シェリアは自分の所属を紙に書くと、本に挟み込んだ。
 潤沢な環境が目の前にある。読めないことはない。
 ひとみはありがたくその本を借り受けることにした。



 時刻は夕暮れ。
 広い校内を回りきれたとはとてもいえないけれども、
 ひとまず今日の予定は全て終了。
 護摩木とも別れ、一人校門へと向かう。
 めまぐるしい今日の出来事を振り返りながら歩いていると
 ふと目の前に見知った顔が見えた。
 今日最初の出会った彼、詠代涼介だ。
 涼介も気づいたようで軽く会釈をかわす。
「学校、どうだった?」
 ごく自然に、心配そうに、彼は聞いてきた。
 先程とは違う直球で不器用な気遣い。
 ひとみは思わず微笑む。
「楽しそうなところですね」
 それが今日の感想だった。
 涼介は小さく笑みを浮かべ、
 手を振ってそのまま来た道へと帰っていった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
撃退士・
吉岡 千鶴(ja0687)

大学部2年301組 女 アストラルヴァンガード
乾坤一擲・
月村 霞(jb1548)

大学部6年34組 女 阿修羅
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
大切なものは見えない何か・
白鳳院 珠琴(jb4033)

大学部2年217組 女 アストラルヴァンガード
正義の魔法少女!?・
AL(jb4583)

大学部1年6組 男 ダアト
お姉ちゃんの様な・
システィーナ・デュクレイア(jb4976)

大学部8年196組 女 阿修羅
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー