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マスター:錦西
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/01/02


みんなの思い出



オープニング

 トビトの中途半端な話し合いは終わる。
 長居するほどの用事もないダルドフは真宮寺を連れ帰路につこうとしたが、
 それを呼び止めた人物が居た。意外にも六万秀人である。
 呼び止めた理由は聞いてみればなんてことはない。
 至極彼らしい理由であった。
「委細承知。すぐに用立ててサーバントに送らせよう」
 面白そうに話を聞いていたダルドフは二つ返事で引き受けた。
 少しばかりは駆け引きもあると身構えていた六万は礼をするのが遅れてしまう。
 口を開いてから次の言葉に迷う六万。
 ダルドフは怪訝な顔で六万の表情を覗き込んだ。
「どうした? まだ何かあるのか?」
「いえ…。言葉を交わしたことがありませんでしたので、断られるものと思っていました」
 六万は正直に打ち明ける。
 彼の頼みごとは確かに、他の天使であれば面倒と断りそうな内容でもあった。
 しかも今回は奇策の類を持ちかける話でもある。
 ダルドフの好みに合うかどうかは大きな懸念材料でもあった。
「兵は詭道なりと言う。戦に出る者であれば策を練るのは当然の事。
 加えて貴様の謀り事は、形は欺けど心を欺くものではない」
 それは心を知らないだけだ、と六万は心の中で反論する。
 器用でないからこそ心は欺けない。殊勝な意思があってのことではないのだ。
 そんな弱い心の機微を、目の前の豪傑は理解はしていないだろう。
「トビト殿の許可は得ているのだろう?
 ならば協力せぬ理由もない。存分にやるが良い」
 話は終わりとダルドフは身を翻す。
 行くも帰るも迷いが無い。
「貴様は寡兵での戦いをよく心得ておる。
 真宮寺とやり方は違うがそれも才能よ。誇るが良い。
 また戦場で見えようぞ」
 六万は無言で背を見送る。
 何か礼を言えばよかったのかもしれないと思ったのは、
 彼の姿が見えなくなってから。
 投げ掛けられた言葉の真摯さに向き合えずにいた。



 秋田県大仙市強首上野台、強首温泉。
 ここは秋田県内でも有名な温泉地で、
 田園風景と山林の広がる観光地でもある。
 常であれば旅行客で賑わうはずのこの地も、
 鳥海山を天使が占拠して以降、人の足は遠のくばかりであった。
 それでも放置されているだけで危険はさほどでもなかったのだが、
 ここ一ヶ月の情勢の変化によりその安寧とした状況さえ危うくなっていた。
 天界の軍が集結したのと同期して、サーバントの活動も活発化。
 時折目撃情報がある程度だった。
 それがこの2週間は毎日のようにヤタガラスが空を飛び、
 燈狼と呼ばれるも頻繁に姿を現していた。
 それでも単体であれば撃退署にも対応可能だった。
 偵察に徹する個体を追い詰めることは出来なかったが、
 戦えば十分に勝てるだけの戦力は用意している。
 その判断もまた、油断になったのかもしれない
 12月某日。地元撃退署に山林を歩き回る燈狼の目撃情報が持ち込まれる。
 敵は1体。見えない場所に潜んでいても3体程度と予測し、
 地元撃退署所属の3人の撃退士が討伐に向かった。
 珍しく逃げない燈狼と相対し、いざ戦闘となった時、それが空から現れた。
 サーバントの姿は人が描く戦乙女に酷似していた。
 天使の羽、はためくドレスと金属鎧、ヴァイキング達が愛用していた小盾と剣。
 そしてその能力も外見に違わぬ強力な物だった。
 味方は3人。3人ともベテランだが、悲しいかなアウルも装備も弱い。
 空中から槍や矢を降らせる相手に為す術はなく、
 一方的に叩きのめされた。
 地上には無傷の燈狼。撃退士達が死を覚悟した時、不意に攻撃の手が止まった。
「この地をされ、にんげんよ」
「他のにんげんにも伝えろ」
 外国の人間が日本語を使うようなたどたどしさで、
 2人の戦乙女は交互に喋った。
 2人とも人間の感覚からして美女と言って良いが表情が硬い。
 エインフェリアをもてなしたと言われる艶やかさは欠片もなかった。
 リーダーのルインズブレイドは剣を構え、仲間の前に立つ。
「メッセンジャー扱いか。舐めた真似をする」
 一般人でなく撃退士を生きて帰すのだ。
 確かに歯が立たなかったが、それでも戦ってきた矜持がある。
「…………」
 ヴァルキリー達は答えない。
 というよりは困ったような顔をしている。
 鉄面皮と言ってしまうほどではないようだ。
 感情の有無はわからないが、少なくとも困惑はするらしい。
(知性がないわけじゃなさそうだが…)
 目の前の相手を見極めようとするが、そこまでの猶予を許しはしなかった。
 再び戦乙女達は剣の切っ先を撃退士達に向ける。
「はやくしろ」
「わかった。他の人間に伝えれば良いんだな」
「そうだ」
 知性はあっても簡単なやりとりしかできないらしい
 そう作られているのか、はたまた人間の言葉を知らないのか。
 何故わざわざ生かして返すのか、その疑問は残ったが、
 彼にはそれ以上に気になっている事があった。
 視線を敵集団の中央に向ける。
 戦闘に参加しなかった燈狼に変種が居る。
 外見の特徴は尻尾が赤いぐらいだが、
 その個体は戦闘を無視して周囲の匂いを嗅いでまわっていた。
 狼は嗅覚に優れるというが、この状況で戦闘の命令を下されながらも
 無視しているというのは明らかにおかしい。
「引くぞ!」
 仲間に肩を貸し、必死の思いで来た道を戻る。
 どの道、自分達ではどうにもできない。
 急いで仲間に伝えなくてはならない。
 相手の思惑に乗る事には不安を覚えるが、
 ここで戦って死んでも次に相対する者が同じ選択を迫られるだけだろう。
 それでは無駄死にだ。
 続きを若者に託すというのは無責任かもしれないが、
 それ以外に方法がないのも自分達の現実だった。



 六万は戦闘から離れ、広葉樹の太い枝の上から、双眼鏡で一部始終を見ていた。
 命令者無しでヴァルキリーがどの程度動くか不安だったが、
 これなら命令のみ下して大丈夫かもしれない。
 大規模な戦闘が始まれば、自分もゲリラ屋のように戦うだけでは問題がある。
 今のうちに使える駒の特性は把握せねばならない。
 そして、戦闘の規模が大きくなると個人での作業は難しくなる。
 必要な仕込をするタイミングは今を置いて他にない
「ここに居る残りの撃退士の数は8」
 あの数相手なら殲滅を考えるだけの戦力はある。
 六万の視線は、逃げる撃退士が視界から消えるまで追い続けた。


リプレイ本文

 依頼としては特殊な部類になるが、学生達も手馴れたものだ。
 すぐに必要な準備を終えて集まってくる。
 揃った者から現場にほど近い撃退署のエントランスで荷物を整えた。
「使えそうなのは網ぐらい?」
 蘇芳 更紗(ja8374)は武器の手入れを終え、集まった道具を眺め回す。
 トリモチ、大きな網、動物用の檻、運搬用の台車。
 普段使わない道具だが近辺の猟友会に頼んで集まった代物だ。
 撃退士が扱うには強度に不安はあるが、贅沢は言えない。
「そうね。これが一番使えると思う。トリモチはねえ…」
 鷹代 由稀(jb1456)は用意されたトリモチの入れ物に触れる。
 機嶋 結(ja0725)が揃えたものだが、これは置いて行く事になるだろう。
 用意できたのはトラップに使用する前提の物ばかりで、
 なおかつネズミや小鳥を捕まえるためのものだ。
 狼を捕らえるには粘着力や分量が不足している。
「しかし連中、なぜこんな事をしたのかなぁ?」
 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)は口元に手をあて、聞いた話を思い返す。
 ヴァルキリーの行動の真意は、まだつかめていない。
「意味ありげな警告…。何を企んでいるやら」
「だからこそ、問いただすのでしょう」
 レグルス・グラウシード(ja8064)は用意された地図を丸め直す。
「ここは温泉場。住宅街と違って、たくさん人がいるわけじゃない。
 感情を吸い取るためじゃないなら…」
 事前に受けた説明だけでは理由は掴めない。
 だが天使や悪魔の最終的な目標と言えば一つに帰結する。
「考えすぎは良くない。まずは体を動かすべきや」
「少々浅慮と思わなくも無いですが、その意見自体には賛成です。
 まずは目の前の敵を倒しましょう。
 それで答えが出るはずです」
「それに、目的はわからなくても脅威である事に変わりはない」
 ゼロ=シュバイツァー(jb7501)の言葉に機嶋が追随する。
 リチャード エドワーズ(ja0951)も同じ意見だ
 敵はいつ去るとも知れず、脅威は事実としてそこにある。
 今この場において選択肢は無かった。



 最初の戦闘があってから既に2時間以上経っている。
 しかし敵は変わらずそこに居た。
 ヴァルキリーは木の上に居場所を移していたが、
 狼達は変わらず似たような場所を徘徊している。
 報告に有った尻尾の赤い燈狼の亜種も同じくだ。
「これは…」
「罠ですね」
 機嶋とマキナ・ベルヴェルク(ja0067)は揃って足を止める。
 何が罠かはわからないが、不自然さは消しようがない。
 運がよかったのでなく、誘導されている気配がある。
 ヴァルキリーは撃退士を見つけ迎撃の姿勢は取るものの、積極的に仕掛けてはこない。
「これはこれは。聞いたとおりの可愛らしい騎士さんですね♪」
 ジェラルドは余裕の表情でまだ構えない。
 知恵比べで武器を抜く必要はないと確信していた。
 それでもようやく弓を構え矢を引き絞り始めたヴァルキリーに、
 レグルスは杖の先を振り向けた。
「聞きたいことがある!」
 その動きでヴァルキリーの動きが止まる。予定された行動のようだ。
 会話の準備をしていた3人は頷き合う。
 まず最初は、ゼロが前に出た。
「ここから出てけっていうけど、ここってどこや?
 よく分からんからお茶でもしながら教えてくれんか?」
「おまえたちが こわくびおんせんと呼ぶ一帯からだ」
「でなければ 命をもらう」
 答えは早い。用意されていたのだろう。
 しかしゼロは肩をすくめる。
 お茶をしながら、の部分を無視されて調子が崩れた。
 続けてレグルスが問いただす。
「従うとしたら、どれぐらい猶予をくれるんですか」
 ヴァルキリーは質問に沈黙で返す。
 分かりにくかったのか、答え難いのか。
 辛うじて「今すぐにだ」と、曖昧な答えを返すのみだった。
「あなたに命令しているのは誰ですか?」
「ヴィルギニア様だ」
 聞かない名前だった。
 これ以上詳しく聞くことは無理だろうと判断し、
 レグルスはその名前を胸に刻みこんだ。
「お父さんにも挨拶しときたいからどこおるか教えてくれん?」
 続くゼロの質問にも無言。
 サーバントである以上、父と言うものは存在しないのかもしれない。
 そもそもゼロの言葉は抽象的すぎたのだ。
 変わってジェラルドが前に出る。
「この奥に、何かあるのかな?
 時間を稼ぐ必要がある…理由があるんだよね?」
 本命の質問。しかし、これも答えない。
 最初に追い払われた撃退士が見たように、
 困ったような顔をするだけだ。
「ダメみたいね。言葉を話してはいるけど、人の模造品ね」
 聞けば素直に答えるメッセンジャー、それ以上の価値はない。
 会話に意味がないと見切ると、蘇芳は大振りの斧を実体化させた。
 武器を構えた蘇芳を見てヴァルキリー達も自然と戦闘態勢に移る。
 剣撃は自然と始まっていた。



 狼の反応は早い。唸り声をあげ一斉に飛び掛ってくる。
 飛び掛ってきた1体を前に出たリチャードがタックルで弾き飛ばした。
 更に追撃をかけようとする残りの個体を大剣を薙ぎ払って牽制する。
「はぁぁぁぁっ!!」
 タウントを交えた鬼気迫る叫びが、狼達の足を止めた。
 狼は唸り声をあげながらも、リチャードの間合いに入ろうとはしない。
 包囲を狭めようとするのみだった。
 その意識の外、マキナが端の一匹目掛けて散弾銃の引き金を引く。
 頭にもろに受けた一匹が血しぶきを撒いて倒れ伏した。
「お見事です。前衛はお任せします」
「勿論だよ」
 リチャードは剣を構えなおし、側面に展開する仲間を見やった。
 マキナが右隣、機嶋はその向こう、ジェラルドは左側面だ。
 機嶋は狼の包囲を押し上げるように前に出る。
「私が突っ込んで包囲を崩します。マキナさんは援護を」
 機嶋の視線の先には尻尾の赤い亜種が他の狼に混じって唸り声を上げていた。
「わかりました」
「じゃあ、ボクはリチャードと一緒にワンちゃんの躾かな♪」
 ジェラルドは袖の裾から鋼糸を引き出す。
 機嶋とマキナが亜種へと突撃するのと合わせて、
 ジェラルドも狼の群れへ飛び込んでいった。
 一方、ヴァルキリーとの戦闘は膠着状態となっていた。
 矢を降らせる一方の援護を受け、もう片方のヴァルキリーが剣を片手に急降下する。
 本来ならレグルスも狼に向かう予定ではあったが、
 ヴァルキリーの急降下攻撃に晒されてそれは断念した。
 レグルスを狙うヴァルキリーの刃を蘇芳が両刃斧で受け流す。
「この…!」
 矢は後ろに下がって回避、弓を実体化させて矢を打ち返す。
 不自然な態勢からの迎撃は難なく回避されてしまうが、
 逃げた先へ鷹代が2挺の拳銃で銃弾を浴びせかける。
 ヴァルキリーは反撃せずに木の陰に隠れやり過ごした。
「思ったより手強いわね」
 鷹代は素早く弾倉をリロードする。
 本来は必要の無い行為だが、実銃との齟齬で調子が狂うために、
 彼女の銃はあえてそういう機構を備え付けている。
 レグルスは矢を構えながらちらりと蘇芳を見た。
 常に高い位置から切り込んでくるヴァルキリーに防戦一方だったが、
 これに回り込んだゼロがワイヤーで牽制をしかける。
 相手を絡めて動きを止めることは出来なかったが、
 これで一方的な戦いだけは避けられる。
「力ずくってのは趣味やないけど…デートしよか?」
 ヴァルキリーは間合いを取る。
 もう1人を庇いに向かいたいようだが、背を向けるほど愚かではないようだ。
「力ずくの上に2人がかりなんて、最低ね」
「それは言わんといてぇや」
 茶化してはいるが、事実1人で組するには手強い相手だ。
 ヴァルキリーは接近戦は危険と判断すると、右手の剣を光の槍に変化させる。
 戦乙女は槍にアウルをまとわせ投擲した。
 2人は間一髪回避。光の槍が2人の間に着弾する。
 素早く前に出たのは蘇芳。駆け抜けざまに、斧を後ろに振りかぶっている。
「目障りよ、消えなさい」
 両刃の斧で豪快に薙ぎ払う。
 振りぬいた斧はヴァルキリーの盾を吹き飛ばした
 直撃こそしなかったものの盾がなければ左手はなかっただろう。
 剣に持ち替えたその腕を、ゼロの鋼糸が切り裂く。
「無視はあかんで」
 武具を失ったヴァルキリーに蘇芳が追撃をかけた。
 ヴァルキリーは咄嗟に剣を実体化させ切り返す。
 蘇芳はこれをシールドを緊急活性化させて受け止め、強引に間合いに入り込む。
 デュランダルを引き抜き、剣を持つ右腕を横薙ぎに深く切り裂いた。
 ヴァルキリーはまだ動く左手に剣を呼び出すが、劣勢は明白だ。
 一方、レグルスと鷹代の戦いも一方的に進んでいた。
「僕の力よ!地獄の熱波となって、敵を責めさいなめッ!」
 レグルスが木の陰に隠れたヴァルキリー目掛けてアンタレスを放つ。
 諸共に焼かれてヴァルキリーが木の陰から逃げ出してくるが、
 その瞬間を鷹代は容赦なく狙う。
「とどめよ」
 ダークショットがヴァルキリーの腕と足を貫く。
 鮮血で白い衣装を汚しながらも、意志は挫かれていない。
 しかしこちらも勝敗は一目瞭然だった。
 矢を番えるほどの力は既にないだろう。
「おや…?」
 負けが確定した途端、あっさりと背を向けヴァルキリーは逃げ出した。
 方角は南西。敵の拠点となる山の方向だ。
 呆気ない幕引きに、蘇芳はため息を吐いた。
 叩き潰すつもりが逃げられてしまい、すこし欲求不満なのかもしれない。
「向こうも終わりそうね」
 退いていくヴァルキリーに気を配りながらも、視線は狼の群れへ。
 4人がヴァルキリーを追い払っている間に、
 狼の群れはほとんどが駆逐されていた。
 殲滅において目覚しい活躍をしたのはリチャードだ。
 彼個人はトドメを刺すことはほとんどなかったが、
 そのツヴァイハンンダーでジェラルドを狙うすべての狼を牽制し続けた。
 ツヴァイハンダーはその大柄な見かけに反して変幻自在。
 不用意に近づいた最初の一匹が無残に斬り捨てられて以降、
 狼は彼の動きを無視できなくなった。
 幾ら幻影は増やせても、手数まで増やす事はできない。
 戦場で恐ろしいのは能力以上にその数である。
 ジェラルドが間隙を縫い、狼を討伐するのは容易かった。
 マキナと機嶋も同様に亜種を残しつつ、他の個体を減らす。
「頃合ですね。マキナさん」
「はい。任せてください」
 マキナは答え、アウルを開いた右手に集中する。
 その手で掴みあげるように拳を握り締めると、
 狼の一体に黒い焔の鎖が襲い掛かった。
 突然のことに対処できず狼は地に這う。
 鎖を噛み切ろうとするが、そうそう噛み切れるような様子はない。
 見届けた機嶋はカーマインを実体化させ、更に群れの中央に踏み込んでいく。
 投げかけた鋼糸が燈狼亜種に絡みついた。
「頼みます」
 その脇を抜けるように前に出たマキナが、
 持っていた網を投げつける。
 周りの他の狼を巻きこまぬように、この位置取りができるまで待っていたのだ。
 動けない狼目掛けて、機嶋が跳ぶように近づいていく。
 実体化させた旋棍で腹部を掬い上げるように一撃。
 更に動きの止まった狼の頭部にもう一撃。
 アウルを込めたガードクラッシュを連打で受けてはひとたまりもない。
 狼は昏倒し、網の中で大人しくなった。
 亜種を前に膝をつく機嶋に残った2匹の狼が襲い掛かるが、
 片方をマキナが、片方をリチャードがいとも容易く切り捨てる。
 鎖に絡め取られた一匹は、ゼロが口笛交じりの銃撃で処理していた。
「あらあら。私は必要なかったかしら?」
 蘇芳が斧の実体化を解除し、困ったように微笑んでいた。



 撃退士達は昏倒したままの燈狼の亜種を檻の中に押し込む。
 念のために手足も縛り、網も被せてあるから、
 途中で目覚めても対処はできるだろう。
 これを最寄の撃退署に届ければ仕事は終了…。
 と、行かない気配に多くのメンバーが気づいていた。
「由稀さん、気づいてますか?」
「当たり前よ。何年戦場に居ると思ってるの」
 鷹代は慣れた動作で煙草にライターで火をつける。
 視線だけで妹分のようなマキナを見下ろす。
「どうすれば良いですか?」
「顔を向けないで。見るなら視線だけ動かしなさい」
 鷹代は機嶋やリチャードにも声をかけ、荷の準備を急がせる。
 その動きはゼロとジェラルドが遮った。
「なんも怖がることあらへんで」
 ゼロとジェラルドは、相手にもわかるようにその顔を向ける。
「いわゆる『空城の計』…かなぁ?
 意味ありげに警告をするという事は…一定の戦力をここにとどめ置き、
 しかしながら踏み込ませないだけの警戒もさせたい。そういう事かな☆」
「寡兵で耐えるやったらもうちょっと頭使わんとな」
 口々に答えと思しき推理を口にする2人。
 しかしマキナには推理のどれもが違う気がした。
 ジェラルドの言うとおりであれば、最初の警告で目的を達成している。
 戦力をこの場に残す必要はない。森の中に隠すべきだ。
 寡兵の戦のつもりなら、集合する理由が無い。
 今までどおり、機動力で撹乱すればもっと良い手が幾らでもある。
 それとも、そうしないほど相手が愚かなのか?
(とてもそうは思えない)
「まぁ、良いさ☆ ボクもそれに合わせて、報告をしておくよ☆ 知恵比べは嫌いじゃない♪」
「今回は手一杯やったからな。気づいてへんと思ってたらあかん。次は潰すで」
 六万がいるらしき方向をジェラルドと見つめ、挑発の言葉を吐き続ける。
 声は届いていないだろうがその視線の意図は伝わってしまうはずだ。
 鷹代も同じ考えらしく小さく舌打ちしていた。
 彼女も守るべき範囲であれば注意もしたが、全員となれば無理だ。
 この手合いは恐ろしい。情報は欠片たりとも与えたくない。
 自分達が気づいたことすらもだ。
 更に言えば挑発的な視線などもっての他。
 こうなれば一刻も早くここを去るしかないが…。
(……?)
 鷹代は視線を動かして驚いた。
 見えていた使徒の姿が無い。
(退いた。目的を達したということなの……?)
 結局目的は何だったのか。
 サーバントの評価試験だったのか、あるいはそれ以外の…。
 何にせよ、今しがたの戦闘が目的だったのは間違いない。
 地雷を踏んでしまった時のような嫌な感覚だけが残る。
 見えない手の不快感を振り払い、鷹代は引き上げる仲間の後を追った。



 燈狼の亜種と原種を両方揃えたことで、能力の違いは明確に調査できた。
 結果わかったのは、亜種が地脈を調査する能力があるということだった。
 探していたのはアウルの気配であり、
 これによりゲート生成に適した土地を探すのが役割だろう。
 この情報はすぐに東北の撃退署各支部に報告された。
 天使の意図が把握できなかった事は気がかりではあったが、
 敵の目的がゲート作成とわかった今、
 その不安要素は自然と端へ追いやられていった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
鉄壁の騎士・
リチャード エドワーズ(ja0951)

大学部6年205組 男 ディバインナイト
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
屍人を憎悪する者・
蘇芳 更紗(ja8374)

大学部7年163組 女 ディバインナイト
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
Rapid Annihilation・
鷹代 由稀(jb1456)

大学部8年105組 女 インフィルトレイター
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅