○
9人の撃退士の前に佇むのは木造の廃校舎。
古ぼけた木造校舎を背に佐藤かなみはそこに居た。
「いやはや、真っ暗だねぇ」
周りを取り囲むのは深緑。森、木。
地面から香る湿った土と草の匂いはここが山なのだと教えてくれる。
かなみは顎の下から懐中電灯で顔を照らしてにこりと笑った。
「…中の人とは連絡禁止だからね?」
思い出したかのように、かなみは口に出した。だって、それだと怖くないじゃん、と言うのは彼女の談。
○一組目
「あの…私達が一番最初、なんですか…?」
三代 あぬ(
ja6753)の言葉にかなみはにこっと微笑んだ。それはもう、にっこりと。
「おふこーす!頑張ってきてね、クイン君も!」
クインV・リヒテンシュタイン(
ja8087)は一度、手を振って。
かなみに手渡されたスタンプラリーのカードを手に、あぬ&クインは廃校舎へ入っていった
クインの生み出したアウルの光…トワイライトが照らすのはもう何十年も使われていない廊下だ。
入り口から入れば左には階段が見える。反対側には手洗い場だ。
その時だった。
ぴかっと、一瞬光が瞬く。二人は天井の電球がついたのかと思ったが…一瞬で消えてしまった
「…な、なんですかね?」
「なんなんでしょうね。」
再び暗くなった廊下を二人は歩く。
「べ、別に暗いのが怖いわけじゃなくてさ、ほら、足元が危ないかもしれないからね……」
「あ、幽霊といったよくわからない類は平気なので 私を盾にして下さって構いませんからね? なにかあったら私がクインさまを守りますよ」
あぬは心強い言葉を口に出して、クインに微笑んだ。
「ふふふ、きみも何かあれば僕に任せるといい。 僕は何も怖くはないからね 。……あ、何か分からないものとか、カサカサ動くものとか、急に出てくるやつとか、あとあれとかは別かな……」
「…あ、壁にゴキb…」
「ぎゃあああああああああ!!!!!」
1F女子トイレでスタンプを見つけることが出来なかった二人は再び廊下へ。2Fへと繋がる階段を上った。
ぎし、ぎし、と鳴るだけの階段を上り向かう先は2Fの理科室―。
窓の外に人影を見た気がしながらも二人は理科室への扉を開いて中に入る。
近くの棚にあったホルマリン漬けのカエルがぴょこ、と動いた。
「「!?」」
二人は思わず身体を震わせる。
そっとホルマリン漬けを見るあぬは呟いた。
「…普通は、動かないですよね?」
「…肝試しですからね。…動くかもしれませんよ。…あれとか」
クインの指差した先は…人体模型だった。
「ひぃうっ!!に、にに人形が動いっ…!!」
今はまだ、動いてはいない。
「あう、でも誰かが言ってました…怖いものは上と下で切り離してしまえば怖くないって…!」
思わず光纏しそうになるあぬを引きとめながらもクインは理科室の中を歩き回る。
一番奥のテーブルに違和感を感じた。
「こ、これは…!」
テーブルの下に、スタンプが置いてあった。
二人はカードにスタンプを押す。はなまるのマークと、アッパレの文字が書いてある。
あぬの希望により向かう先は、2Fの一番奥、図書室に立ち寄る二人組。
扉を開けた先は静かな、普通の図書室が広がっていた。
「…ここには、何もないんでしょうか…」
小さくあぬが呟いた瞬間、大きな音が、断続的に鳴り響く。
バン、バン、バン、バン、バン!
窓を叩く音はだんだんと大きくなっていき――!
「…びっくりしましたね…」
「…これも、トラップの一つ、でしょうね」
まったく、手の込んだことをする。
図書室を出た二人は怪談を上り、3Fへ向かう。
―3F音楽室
音楽室へ入った途端に聞こえる音は、メトロノームの音だった。
クインは棚に近づいてその音源…メトロノームを止めて、棚に戻した。
スタンプを探し出すと再び聞こえるのは、メトロノームの音だ。
カッ カッ カッ カッ
規則正しく聞こえる音は、先ほどクインが止めたメトロノームから鳴り響いていた。
「…僕、止めましたよね?」
「…止めましたねぇ…」
再び、メトロノームの音を止めたのはあぬだ。
三度、スタンプを探すためにクインが机の下を覗いた時だった。
カッ カッ カッ カッ
触れてはいない。
棚にあった、メトロノーム…それも一台だけでは無かった。
輪唱するようにメトロノームは鳴り響いていた。
―3F、視聴覚室。
息を吐いて、落ち着く二人は視聴覚室を見る。
テレビ、ビデオデッキ、黒板の上にはロールスクリーンが見える。
あぬが黒板に近づくとぽとん、と上から降ってくるものがあった。
「…これは…スタンプ、ですか?」
トワイライトで照らしたそれは、紛れもなく、スタンプだった。
○二組目
「…なんか、叫び声が聞こえますねぇ…」
高虎 寧(
ja0416)の言葉も気にせずに、かなみは肩をそっと押す。
「頑張ってきてね!」
廃校舎に向かう、人影は二つ、寧と…パンd下妻笹緒(
ja0544)だ。
笹緒の手に宿ったトワイライトの光源を頼りに二人は廊下を歩く。
「…うらめしや〜…」
どこのちゃちな肝試しだろうか。そんな言葉を言いながら前方から人影が歩いてきた…。
青白い顔、赤で汚れた白い着物…。
それを見るために笹緒は光を自分の顔の元へと持っていく。
「うらめs…ギャー!!!パンダー!!!」
一目散に逃げていくのは、その人影だった。
「…幽霊よりパンダの方が怖いんでしょうか」
寧は一つ、ため息をついた。
女子トイレにはバリケードや、道を阻むものは無かった。
寧は静かに息を吐いて、気配を消して歩く。
足元にあったロープにも注意をしながら。
「…?」
一番奥の扉から、何かが聞こえる。
「いちまーい…にまーい…」
何かを数える言葉だった。
「さんまーい…よんまーい…」
「…はぁ」
寧は息をついた後に置くの扉を開ける。
人の気配は無かった。
そこにあったのはラジカセだ。
「ふむ…番長更屋敷、か」
笹緒はなるほど、頷く。
「…トイレの怪談じゃないですよねぇ、これ」
一個目のスタンプは一番奥のトイレ、ラジカセの裏に置いてあった。
スタンプにははなまるのマークと、ガンバレ!の文字があった…。
笹緒の提案により次に向かう場所は保健室である。
扉を開ければ香るのは微かな薬品の香りだ。
笹緒は机の上のファイルや棚の上を眺める。昔使われていたと思われるそれはもう使えないほどには古ぼけていた。
寧は辺りを見回しているとふと、声を聞いた。
先ほどのラジカセから聞こえた機械音ではなく―紛れもなく肉声だ。
しかし聞こえたのは一瞬で。
「…何も、なさそうですね」
二人は、保健室を出た。
―2F理科室。
扉を開けると聞こえてきたのは…こぽこぽ、と水を沸騰させたかのような音。
教卓の上に出ていた緑色の液体が、音を立てていた。
そして、次の瞬間――
パァン!と破裂する。文字通り、爆発して、破裂した。
「なっ…」
爆発したと言っても爆発の威力は無く、光を周りに撒き散らしただけだった。
興味深い、と笹緒は三角フラスコを調べている。
寧がふと見た奥のテーブルの下に、スタンプが落ちていた。
「…あら?」
何も見つからなかった音楽室を出て廊下を歩いていると、思えばいつの間にか違う教室へ入っていたようだった。
…迷ったみたいだ。
笹緒がぽんぽん、と寧の肩を叩く。指で指されるままに黒板を見上げた。そこにあった文字は――
【バミューダトライアングル】
「…暇なのかしら、肝試し班って」
「…かもしれないな」
迷わない限りは目的地ではないここには人は入ってこないだろう。
二人は教室を出ようと扉を開ける。
ガタン、と後ろで机が倒れる音がした。
廊下に出て教室の表示を確認すれば―【3年1組】と書いてあった。
気を取り直して向かう場所は、視聴覚室だ。
扉を開けるとそこには古ぼけた普通の視聴覚室が広がっていた。
「…ん?」
窓に、人影が見えた。
普通に歩いているように通り過ぎた人影に首を傾げる二人。
「…ここ、3Fですよねぇ」
「…仕込みだろう」
「それもそうですか…」
黒板の傍を調べ始めた笹緒の頭に、ぽすんと落ちてきたそれは―
「…スタンプか」
器用にスタンプをカードに押した。
○三組目
三組目はホンモノに出会えるかも、と期待に胸を躍らせる艾原 小夜(
ja8944)と、
「…脅かし側で参加したことはあるけど、脅かされる側は…うん、楽しみです」
肝試し班を驚かす気満々の十笛和梨(
ja9070)だった。
廊下を歩くと右側に見える手洗い場から音が聞こえた。
懐中電灯で照らす。…水の音だ。ぽとん、ぽとん、水滴の落ちる音。
「水道止まってるはずだよねぇ」
小夜は首を傾げた。
1F女子トイレは真っ暗だった。
ふと、聞こえるのは誰かの泣く声。
「誰か、居るのかなー?」
小夜が半歩後ろに居た和梨に聞くと和梨は入り口から二番目の扉を開けた。
「…どうせ、どうせ、誰も俺には気付いてくれないんだ…しくしく…」
…白いシーツを被った男だった。どうやら肝試し班の様で。
「見なかったことにしましょうか」
バタン。無慈悲にも和梨はトイレのドアを閉めた。
小夜が隣のトイレのドアを開く。
「あ」
そこにあったのは、スタンプだった。
ドアの裏側につけてあるそれに気付き二人はスタンプを押した。
2F、理科室へ向かう廊下を歩いていた二人は窓の外に人影を見た気がした。
「誰かなぁ?」
「…さっきの肝試し班の人じゃないことは確かですね」
さっきの、トイレの。
2F理科室では何も見つけることは出来ず―
「十笛さん十笛さん、図書室入ってもイイですかー?」
小夜の提案により、二人は図書室へ足を運んだ。
本棚に敷き詰めてある本に目を輝かせた小夜はスマホを手に蔵書を写す
「…あれ?」
違和感を感じてスマホに保存された写真を確認する。しかし何も写っていない。
「見間違い、かなぁ…」
気を取り直して蔵書ラインナップを調べる小夜を見て和梨はふ、と微笑んだ。
3F、音楽室へ向かおうとしていた二人だった、が。
「…あれ?ここ…視聴覚室デスよね?」
迷って、先の目的地、視聴覚室へ着いたようだった。
「…まぁ、順番間違っても構わないでしょう。探しましょうか」
和梨は気を取り直してスタンプを探そうと周りを見回した。
【ギャー!!!!】
いきなりの叫び声に思わず二人は耳を塞ぐ。
「…スピーカー?」
「…煩いですね」
聞こえたのは一瞬のみだ。すぐに聞こえなくなって再び、捜索を始める二人。
黒板を調べていた小夜の頭にロールスクリーンが広がって、落ちてきた。
「あいたっ」
こつん、ロールスクリーンと共に落ちてきたのは―
「スタンプ、ですね」
「デスねー」
順番は逆になったものの、向かう先は音楽室。
「おぉー。ベートーベンの目が動いてマスよー!」
「動いてますねぇ。いつもより多めに動いてるんじゃないでしょうか」
ぐるぐると、ベートーベンの肖像画の目が動いてるの見上げる小夜と和梨。
少し疲れた、と小夜がピアノの椅子に座ったときだった。
足元に、ぶつかる小物。
「…あー。スタンプだ」
はなまるのマークとグッジョブの文字が書かれていた。
○四組目
最終―。
「……なるべく肝っ玉の小さい様は見せたくないな」
呟くのは向坂 玲治(
ja6214)と、
「いるのが解ってれば…別に怖くないはずっ…多分、きっと…」
氷月 はくあ(
ja0811)だ。
入り口から廊下へ入ったはくあは周囲を探るために夜目と鋭敏聴覚を発動させる。
「周囲の音も殆ど無いし…これなら潜んでる人は大体わかるよ」
その隣で辺りを見回しながらも玲治は呆れ交じりに呟いた。
「よくもまぁ、校舎を借り切ってできたものだ……」
「…何でだ」
行き着いた場所は1年3組の教室だった。
黒板に書いてある文字は「ラッシャーイ」
「…何ででしょうね…」
はくあがふと、窓に目をやればうっすらと人影が見えた。
「ひっ」
「…どうした?」
「…ひと、人影が…!」
「…肝試し班だろ」
多分。玲治は一つ頷いて教室を出た。
ついでに隣にあった職員室にてほかの教室が開いていなかった場合の為にマスターキーを借りておく。
職員室にあった電話が一斉に鳴り出したことはスルーしておこう。
気を取り直して向かう先は1F女子トイレ。
「肝試しだとわかっていても、なかなか入りにくいな……」
玲治がトイレ前で一度立ち止まり…そして入っていく。
「え、えと…あ、あの…っ、緊急事態なのでっ…!」
はくあも申し訳なさそうに、トイレへ入っていく、が
「ふぇあ!」
こけそうになるが、そこに引かれていたロープにすぐに気付きはくあは壁に手を置いた。心配そうな玲治の視線にはくあは微笑んだ。
ふと聞こえた声に玲治は首を傾げる。
「…何か、声聞こえねぇ?」
「えと、そこに…何かいます」
はくあは入り口から二つ目のドアを指差す。
躊躇もなく玲治はドアを開けた。
「どうせ…びっくりしないんだよね…そう…俺なんて…俺なんて…」
「…あー…」
玲治はドアを閉めた。
かたん、とドアを閉じた衝撃で何かが落ちてきた音がした。
「…スタンプか」
「…スタンプ、ですね」
2Fの理科室では何も見つけることが出来なかった二人はぎしぎしきしむ廊下と階段を通り過ぎて音楽室へ向かった。
「人の気配は…感じませんね」
はくあの言葉に頷いて玲治は音楽室へと入る。
鍵は開いている。マスターキーもいらないみたいだ。
ガタン!!
「ひぃ!な、なにごとですか…!」
思わず武器を出したはくあは周りを見渡す。
「…ピアノのふたが閉じたみたい、だな」
確認をした玲治が言えば、はくあ小さく頷いた
「そうですか…」
「…ん?」
ピアノの椅子の傍に転がってる物体があった。
「…スタンプ、ですか?」
「…だな」
さらに階段を上り、向かう先は視聴覚室。
通り過ぎる教室に誰かがいる気配をはくあは感じながらも中へは入ろうとしなかった。
視聴覚室もまた、鍵はかかっていない。
ぴ、とどこからか機械音が聞こえた。
視聴覚室の扉を開くと、テレビに電源が入っていた。
流れる番組は無く、ただ砂嵐が流れるだけ。
ザー… ザー―――…
頭に響く音に、気分を散らすようにスタンプを探し始めるはくあ。
しかし、スタンプは見当たらなかった――。
○終幕
「どう?楽しめたかなぁ?」
再びそこへ集まった8人にかなみはにっこり笑いながら問いかける。
手には、答案用紙が握られていた。
そして各自、カードへ押されたスタンプを確認しながら答案用紙を配っていく。
そしてこの場所へさらに集まってくるのは肝試し班の人たちだった。
人数は12人。
「あ、あの?…なんで皆出てこないの……?」
はくあは首を傾げて聞いた。
肝試し班の一人も首を傾げて。
「…いや、俺たちだけだけど」
はくあが察知した、人の気配より少なかった。
それじゃあ、あの校舎に居た人影は―?
「か、帰ろっ…早く早く!」
涙目のはくあに、戸惑う撃退士たちは、頷くのであった―。