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マスター:帯刀キナサ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/08/22


みんなの思い出



オープニング

●彼の地に封じられしもの
「……それにしても、暑いな」
 京の都を支配領域としたのは、春のこと。
 季節は着々と変わり、夏も盛りとなっている。
 米倉 創平(jz0092)は額に手をやり、顔をしかめた。

 『目』として使役しているサーバントが、また破壊された。
 それもまた、不快の要因の一つであった。
 人間たちは、この期に及んで諦める様子を見せない。
 隙を突き、かいくぐり、少量ずつであるが一般人たちを持ち出している。
 デスクに広げたままの地図を眺め、ひとつ、思いつく。
「この国の人間が好きそうなものではある、か」
 ――古来より伝わる神の使い。
 圧倒的な力でもって、この都を守護する存在。
 厳密である必要はないだろう、意識させる場所へ配備することで、威圧を与える役割を果たすのではなかろうか。
 全ての侵入を阻止することより、結界内の人間への感情の働きかけ・侵入者へのプレッシャーを与える方が効率的ではないか?
「入られたとして……退路を断つこともできるな」
 悪くない。そう思う。


●彼の地に向かうもの
 京都に異変有りの知らせに、緊急招集がかかる。
「これまで主に少数部隊による一撃離脱作戦により、僅かずつながら一般人を救出してきたことは諸君も知る通りかと思う。だが少々厄介な事態になった」
 教諭のジュリアン・白川(jz0089) が、地図を示した。
「京都の東西南北それぞれに、四神をモチーフにしたサーバントが確認されてね。これが今までのものより格段に強力なのだよ。その為救出活動に支障が出ている訳だ」
 先の大規模作戦では、東洋系のシュトラッサーが複数確認されている。その者の発案か。
 悪趣味なことだ、と白川が鼻を鳴らした。
「四神とはそれぞれ青竜・白虎・朱雀・玄武を表す。これらは古代中国の霊獣で――」
「センセー、作戦時間が迫ってます」
「……戻ったら特別講義だな。ともかく天界側が、人間が持つ霊獣のイメージを利用し、畏怖心を煽る目的で生み出した可能性があるということだ」
 スクリーンには四神の図が映っている。
「今回の任務は、この四方のサーバントの全撃破だ。相当の困難が予想されるが、救出活動再開の為には避けて通れないのでね。ベストを尽くして貰いたい」
 教鞭がぴしり、と画面の四神を打った。


●彼の地に佇むもの
「…木だろ」
「いや、龍ね」
 京都市の東側。とある川の付近の道路にそれは佇んでいた。
 佇む、という表現が合っているのかどうかは判らない。
 だが撃退士達の目の前にあるのは、龍の如く、蠢いている大樹だった。
「…いや、ありえねぇ」
「貴方冷静ね」
「どこが冷静に見えるんだって!!」
 明らかにあれはおかしいだろう!と撃退士の片割れは叫ぶ。
 報告で聞いたサーバントとは、あの龍だろうか。
 大樹の龍が纏う青の光。その龍の姿はまさしく青龍。
 ――四神の一端を担う、龍の姿だった。
 

「報告した彼らは命辛々逃げている」
 廿楽冬樹(jz0120)が手に持っていた資料をテーブルに置いては苦い顔をした。
 部屋に集まっていた仲間たちを見回す。
 報告によれば身体能力は高く……また、毒を持つブレスや尻尾を使い締め付けてくるという。
 空を飛ぶことは無く、だが跳躍力は相当のものだという。 
「尻尾を使った物理攻撃を得意とするらしいが……その衝撃は大きい」
 毒や麻痺。どちらかというとそちらの方が厄介だ。早く倒さなければそのリスクも高まる。
 未だこの付近には要救助者も居ることだろう。だがそれは他の部隊に任せればいい。
 言葉はまだ続く。
「しかしこれが居る限りは安全に救助活動も出来ないことは確かだ」
 冬樹自身もまだ京都の現状を見ていない。
「今回は俺も同行する。戦闘自体では役に立たないかもしれないが……サポートは任せてくれ」
 そう言って、どこか決心したように冬樹は頷いた。


リプレイ本文

○そこは京都【封都】
 以前、この京都で行われた戦いを撃退士の中で知らないものは少ないだろう。
 未だ封じられたこの地へ降り立つことを誰かは予想していただろうか。
 予想していなくても……この封都、京都に倒すべき敵が現れるならば向かうのが撃退士だ。

 空は雲っていた。夜ではないから真っ暗になることは無いが…薄暗い。
 9人は戦場へ向かうために足を進めていた。
「京都で四神と対戦することになるなんてねえ……」
 鐘田将太郎(ja0114)もまた、大戦の後にこの京都へ降り立っていた一人だった。
「うん…。四神の御姿を借りたシュトラッサーか…趣味が悪いよ」
 四神…中国古来より伝わるその4体の神。ここは日本とは言え神の名前を知っている人は少なくはないだろう。
 浅間・咲耶(ja0247)は緑の瞳を伏せては呟いた。
「いくら聖獣だろうと、邪魔なものは潰させてもらうぜ」
 向坂 玲治(ja6214)は二人の言葉に頷くようにそう言う。
「あぁ。竜であろうと何であろうと打ち破るのみだ」
 リチャード エドワーズ(ja0951)は金糸の髪を翻らせて振り返れば頷いた。
「大丈夫……もっと大っきいどらごんさんと戦った事だってあるの。皆で力をあわせれば、きっと倒せるって信じてる……」
 今回の戦いの最年少、若菜 白兎(ja2109)はたどたどしくもそう同意の言葉を紡ぐ。
 強羅 龍仁(ja8161)は廿楽 冬樹(jz0120)に光信機を渡しながら。
「……天使達も趣味が悪いな」
「ありがとう。……天使は元々、そういうモノだろう?」
 冬樹はあまり感じたことがない戦闘前の緊張感に一度身震いをした。
 もう一つ。龍仁は手持ちの火炎放射器を咲耶に渡した。
 報告から火が弱点ではないか、と想定した武器だ。
「ありがとうございます」
「さぁて、龍と魔獣どっちが強いか勝負さ!負けるつもりはねーけどな!」
 与那覇 アリサ(ja0057)は気合を拳を握って気合を入れる。

 川の近くへ降り立てば、撃退士たちは辺りを見回した。
「居ないのかなぁ」
 緋野 慎(ja8541)が呟く。
「……いや、報告ではこの辺りなんだが……」
 冬樹は首を傾げながらも足を一歩進めた。
 不意に、首を撫でる空気が変わった気がした。

○青き龍へ

 青龍の暴れた後だろう。
 周りの樹木、道路……その他建物が多少壊れている。
 傍にある川の橋も壊れかけていた。

 ざわり、ざわりと周りに生えていた木が動き出す。
 否、もうあれは木なんてものでは無かった。
 動き出した木が交わり出す。
 大きな、大きな、ナニカを作り出すように。

 それに気づいた9人は作戦通りに二手に分かれた。
 分かれる寸前に白兎はふわりと微笑む。
「お仕事終わらせたら、皆で美味しい和菓子でも食べに行きましょうなの」
 撃退士たちは、頷いた。


「すごい、龍なんて初めて見るよ」
 慎が興奮したように青龍を見上げながら呟いた。
 恐い、だけれどこの龍がどんな戦いをするか。慎はそれが楽しみだった。
 木はもう木とは呼べない姿になっていた。
 大樹、それも違う。

 そう、それこそが四体の神の一体。
 ――青龍。

 近づかずとも分かったが近づくと再認識をせざるをえない。
 青龍の巨大さと凶悪さを。

 二手に別れ、青龍に近づき始めた時だった。
 青龍がぐん、とその巨体を伸ばした。
 爛々と光るガラス玉のような瞳は撃退士達を移している。 
 間違いない。
 気付かれた――!
 それぞれに武器を構えては戦闘態勢に入る9人。


 アリサが真っ先に動き出した。手に持つのはガルムSP LV 2。
 味方を撃たないように射線に気をつけながら撃った弾は弧を描いては青龍の横を通り過ぎていく。
 しかし牽制にはなったらしい、一度青龍は身体を止めた。
 挟み撃ちをした向こう側―将太郎は味方に気を配りながらも前衛と後衛の真ん中に居た。
 トンファーを手に青龍に向かって駆け出す。
 青龍にトンファーが沈む、かと思われたがその攻撃は青龍の表面を少し削っただけだった。将太郎は後ろへ飛んで態勢を整える。
 アリサの横で慎は飛燕翔扇を投げた。
 大きな扇は風を纏って青龍へ向かう。扇は青龍の木肌を掠っては慎の手に戻ってくる。

 大きな音がした。
 大樹が―、青龍が動き出す音だった。
 巨体をゆっくりと動かしてはぐるり、と尻尾を叩きつける。
 白兎と玲治は身体に尻尾を受ける。
「きゃああ!」
「若菜!!」
 小さな身体を尻尾が襲う。白兎は地面に叩きつけられた身体を動かそうとするが身体に力が入らない。
 青龍の後ろから盾を構えて近づいたのは咲耶だ。
「こっちだよ!」
 盾とは反対の手で持っていたジャマダハルを振り上げては切り付ければ青龍が悲鳴を上げる。
「ギィッ……!」
 リチャードは好機を見極めていた。
 この青龍を倒すために考えていたことが脳内を駆け巡る。
 まず、するべきことは…この青龍の動きを止めることだ。
 剣を盾に飛び込めば青龍は抵抗するように身体を動かした。
 もちろんその動きはリチャードも傷つけていく。しかしその身体は止まらなかった。
 ツヴァイハンダーFE……リチャードの大剣は大きく青龍を傷つける。
 白兎は身体に力を込めようとするが未だに動かずに、ぎゅ、と目を瞑った。
「まずは俺が相手になってやる、かかって来いよ」
 玲治が纏うアウルに反応した青龍は首を上げる。不快そうに声を上げては玲治に視線を合わせてた。
 他の連中が視界に入りにくいようにすること。囮になることが玲治が今すべきことなのだ、と理解していた。
 青龍の背中へ援護射撃を行うのは龍仁だった。銃弾を全て身体に受けても青龍は平然とそこに佇んでいる。
「大丈夫か!?」
 冬樹は白兎の傍まで行っては盾を構えた。

 青龍は未だに玲治の方を見ている。
 アリサはニッと笑うと再び援護攻撃を行った。
 銃弾は青龍に向かって飛んでいき被弾する。
 ぱらぱらと飛び散る木のクズにニヤッと笑うのは将太郎だ。
「見た目は龍でも、中身は木だな。こういうのを「でくのぼう」ってのかね? 」
 トンファーを構えて走っては振りかぶる。青龍は短く悲鳴を上げた。
 慎の投げた忍苦無は青龍に吸い込まれるように刺さる
 青龍はぎらっとした視線を撃退士達に向ける。
 大きな身体をぐるりと回した。
 尻尾は周りにあったモノ達をなぎ払って行く―
 白兎の前で盾を構えていた冬樹を―、囮になっていた玲治を―、
 大剣を手に構えていたリチャードを―、青龍の傍で攻撃を加えていた将太郎を―、襲う。
 「う、くっ……」
 冬樹は盾を構えた手を緩めずに、膝を落とした。
 玲治は苦い顔をして痺れた体を動かそうと身震いする。
 リチャードも大剣を杖のようにして身体を折らぬように支えた。
 将太郎は何とか攻撃を耐え切って青龍に視線を向ける。
「大丈夫か!」
 龍仁が声を上げた―。
 咲耶はジャマダハルを構えては負傷した仲間達の間を駆け抜ける。
 刃は青龍を切り裂く。青龍の上げた大きな悲鳴。
(やっぱり――?)
 青龍の弱点は、コレ、なのだろうか。
「ぐっ……」
 リチャードの身体はまだ痺れを持っている。動かない。
「んっ……」
 冬樹の後ろで身体を立て直したのは白兎だった。
 身体に見合わぬ大剣を振り上げては先ほどの攻撃の反動で動かぬ青龍へと走って近づけば、剣を振り回す。
 青龍から漏れる叫びは苦痛に満ちていた。
 剣、刃…つまりは五行思想の金属性。白兎はそれが弱点なんじゃないだろうか、と考えていた。
(やっぱり、間違ってなかった―!)
 白兎はもう一度、大剣を構えた。
 玲治が再び動くようになった身体に力を込めて、青龍に叩きつける。
「どのくらい効くかは判らねぇが、焼き入れてやるよ!」
 ウォーハンマーの纏った炎は青龍を焼いていく。
「ギアアアアアアア!!!!」
 青龍は暴れるように身体を動かした。
 それでもまだ先ほどの反動で行動が難しいらしい。大きな動きは見られなかった。

○青龍伐採
 龍仁は駆け寄った先―リチャードに手を翳す。
 聖なる刻印はリチャードの身体の痺れを治癒していく。
「感謝、する」
「あぁ」
 二人は一瞬だけ視線を合わして頷いた。
  
 自然に痺れが取れた身体を起こした冬樹は手のひらにアウルの力を込めては白兎へと回復の手を伸ばした。
「平気、か?」
 微笑んだ白兎を見た冬樹はほっとした表情を向ける。

「まだまだ!行くぞー!」
 アリサは焦げた青龍へ飛び蹴りを放つ。くるり、と空中で一回転をしては地面に降り立った。
 赤の髪がひらひらと宙を舞う。
 将太郎がトンファーを構えては一撃を放った。
 痛みに惑う青龍は身体をぐん、と伸ばしては大地にひれ伏した。
「火を使うと爺ちゃんに怒られちゃうけど、そうも言ってられないよね。火遁……」
 慎は青龍へと、攻撃が当たる位置まで近づけばすぅっと息を吸う。
 そして――!
「火蛇!」
 吸った息を吐き出すように、口から火を吹き出した。
 倒れた青龍は避ける間もなく炎に巻かれていく。
「砕くよ、贋作の龍!」
 咲耶は火を纏いのた打つ青龍へと、ジャマダハルを構えて。
 それを振り下ろした。
 青龍は頭と胴体を切り離される。
 数秒、それでも動いてはいたが――
 すぐに動かなくなるのを確認した。


○それは、物語の終わり(?)
 以外にもあっけなかった戦闘の終わりに9人は息を付く。
 ふと、空を見上げた先、京都の中央方面には暗雲が立ち込めていた。
「……なんだ、あれは?」
 リチャードが確認しようと、目を細める。
「……夕立じゃないのか?」
 冬樹は首を傾げる。他の三方向の戦闘は終っただろうか。
 その確認は今この時点ではしようが無い。
 それぞれに戦いの終った充足感を感じながら息をつく。
「……かえりましょう?……和菓子、食べにいきたいです」
 白兎の言葉に撃退士達は疲れた身体を動かしながら、京都に背を向ける――。
 
 暗雲の中に、一つの稲光が光った。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 祈りの煌めき・若菜 白兎(ja2109)
重体: −
面白かった!:3人

野生の爪牙・
与那覇 アリサ(ja0057)

大学部4年277組 女 阿修羅
いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
La benedizione del mare・
浅間・咲耶(ja0247)

大学部4年303組 男 ディバインナイト
鉄壁の騎士・
リチャード エドワーズ(ja0951)

大学部6年205組 男 ディバインナイト
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍