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マスター:帯刀キナサ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/06/29


みんなの思い出



オープニング


 時計の指し示す時間は1時半。
 空は真っ暗。浮かぶ半月は真夜中であることを示していた。
 スーツを着た一人の女性が真っ暗な街並みを歩いていた。
「あ〜、酔った……。もう先輩ったら呑ませるんだったら送ってくれればいいのにぃ」
 不満を漏らしながら帰路を歩いているようだ。

「にゃあ」

 不意に聞こえた猫の声に女性は立ち止まる。
「猫?こんな場所に居るんだぁ〜 どこだろう?」
 酔って紅潮した頬を緩ませながら周りを見回す女性。
 近くの電信柱の傍にあった猫の影に女性は近づいた。

「猫ちゃ〜ん。おいでおいで……ってあら?」

 女性は気付いた。
 その猫が異様に大きいことに。
 否、大きくなっていってるのだ。
 女性が猫を見ている、今この瞬間も。

「え、え〜?」

 女性は慌てて後ずさりをした。
 酔った頭でもこれはおかしい、と気付いたのだ。

「にぁああああああ〜」

 猫の鳴き声とは思えぬ低い美声に女性は一瞬きゅん、としたが慌てて首を横に振る。
 女性より大きい猫の、大きい手が彼女を襲った。



「猫型のディアボロの大きさは2m位と聞いている。」
 依頼斡旋所のスタッフの一人。背の高い男性が書類を差し出す。
「大きいだけで脅威ではあるが…素早さはそれ程無いらしい。後は…」
 男性はスチャ、と眼鏡をかけなおした。
「……毛並みが、とてもいいらしい。」
 それは特筆すべきことなのだろうか、と突っ込むべきなのだろうか。
 気にする様子も無く男性は言葉を続けた。
「……こほん。既に犠牲者は出ている。心してかかりたまえ」


リプレイ本文

●捜索開始!
 時刻は既に真夜中。この時刻に出現するという報告を撃退士達は聞いていた。
 姿は猫型、しかし実態は悪魔の下僕…ディアボロである。
「デカイ……猫だと!? …もふりたい」
 報告を聞いて大城・博志(ja0179)はそう思った。
 たとえディアボロであろうともその姿は猫を模している。
 動物好きの博志にとってはその情報は捨てられるものではなかった。
 楊 玲花(ja0249)は横目で博志の様子を見ては小さくため息をついた。
 玲花は猫と犬、どちらが好きと問われば犬である。
 (形こそは大きいとは言え、すごく毛並みが良くもふもふしているとか、美声とか猫好きの人の弱点を突いてくるとは、嫌らしい敵です。これは被害が拡大しないうちに退治しないといけませんね)
 特に、隣に居る猫好きにとっては効果覿面であろうことは確かだ。
「それじゃ、探しに行きましょ?」
「おう」
 博志はハンズフリーのイヤホンマイクを携帯電話に繋げては歩き出した。

「こっちには居ないみたい。礼野さんの方はどう?」
 初めての依頼に気合を入れ、注意深く物陰を見るのは上月 椿(ja0791)。
「こちらにも居ない。他の場所か……?」
 さっさと探さなくてはまた犠牲者が出てきてしまうかもしれない。
 礼野 智美(ja3600)はハンズフリーにした携帯電話を片手に捜索している。
 (毛並みが良い?美声? ディアボロにそんな感情不要だろうが)
 あくまでそれは自分の倒すべき敵である。愛でるなんて論外だ。本物や縫い包みじゃないのだから。
 椿は智美の様子を横目に見ながら捜索を続ける。物陰、高いところ。猫だからどんなところに潜んでいるか解らない。
 「どこかなぁ……」
 
「それだけ大きいと、虎って感じじゃないのかな」
 六道 鈴音(ja4192)が口を開いて誰に言うでもなく問うた。だが報告書には猫型と書いてある。
 うーん、と首を傾げながら耳をすませる。この付近に居るのならきっと猫の鳴き声がするはずだ。
 向坂 玲治(ja6214)はポケットの中身を確認した。マタタビの粉とハンズフリーのイヤホンマイクがささった携帯電話だ。携帯電話は音が鳴らぬようにマナーモードに設定している。
 捜索をしながらも、襲撃があればすぐに彼女を庇えるように玲治は鈴音の近くに居た。
 逃げられないようにそっと、そっと音を殺して静かに――。
 
「猫……いいな。大きな猫」
 針生 廻黎(ja6771)はマイペースに呟いた。猫好きの廻黎にとっては報告書に書いてあったことが凄く魅力的に見えた。
 でも敵であることは認識している。
「悪い猫は、倒さなきゃ……ね。もふもふ……は、強敵。でも、負けない。頑張る」
 廻黎のほわほわした様子を見ていた牧野 穂鳥(ja2029)は少しだけ幸せだった。小さくて、可愛い子は大好きだ。
「大きくて美声の猫…。もったいない。すごくもったいないですね…」
 穂鳥も廻黎と同じく猫好きだった。もふもふしたい。
 自分達の気配を消して、捜索する場所は事件現場付近。他の皆も違う方角だがこの付近を捜しているはずだ。
 
 突然、穂鳥が持っていた携帯電話が震えだす。マナーモードにしているため、バイブ機能が起動している。
 廻黎と穂鳥は頷き、通話ボタンを押す。
【こちら、六道鈴音です。猫型のディアボロ、発見しました!】
 イヤホン越しに聞こえる声に了解、と告げて二人は走り出した。

●その猫危険につき
 時間は少し前に巻き戻る。
 鈴音は事件現場付近に猫を見つけた。普通サイズの、三毛猫だった。
「あれは……どうでしょう?」
「さぁ…?…でかいって言うからすぐに見つかると思ってたんだが、全然姿が見えねぇな…ん?」
 近くに居た玲治は首を傾げながらも違和感に気付いた。
 俺達に近づいてきてる…いや、あれは。
「にゃあああああああああ〜」
 周りに響く猫の鳴き声。鈴音が赤面するくらいの美声だった。
 猫の大きな眼光はこちらを見ていた。そう、大きくなっていたのだ。玲治達が見ている前で。
「……前言撤回。あれだな。六道は皆に連絡してくれ。…俺はあいつを引きつける!」

 
 猫はのろのろと玲治達の方へ歩いてきている。
「こちら、六道鈴音です。猫型のディアボロ、発見しました!」
 後ろは連絡を入れている鈴音だ。邪魔させるわけにはいかない。
 道端で拾った猫じゃらしを手に玲治はアウルを発動させた。
 漂うオーラに猫は不快そうに「にゃあ!!」と大きく鳴いた後に玲治へ向かって走ってきた。
 先ほどの歩きとはスピードは違う。
 …違うが、やはり早いとは言えないスピードで。
「まぁ確かに毛並みはいいんだが、このサイズはちょっとなぁ……」
 おかげで、観察は出来た。

「居た!」
 猫を目視した智美は逃げられぬよう、阻霊符を展開させる。
 同じく駆けつけた椿も薄紫色の矢を放つ。

「うにゃ!」

「えぇ!?」
 矢は、猫が前足を払うように動かせば割れるような音がして消えた。
「…もふりたい」
 うずうずと手を動かしながら博志は猫を包囲するように後ろに回った。
「後にしてくださいね!」
 玲花は黒い三つ編みヘアーを靡かせながら博志の近くに立った。いつでも動けるように、苦無を片手に持って構える。
 到着して、目を輝かせているのは廻黎だ。
「うにゃー!!」
 猫の美声を聞けば廻黎はパペットを動かした。
「…にゃあ」
 パペットのくちパクと同時に、鳴く。
 穂鳥は廻黎の隣に立つ。彼女の援護を出来るように。
「…可愛いですね」
 猫型のディアボロはどこまでもその仕草は猫だった。
 8人の撃退士が周りを取り囲んでも我関せず、とでも言うように顔を洗う。

●俺達モフり隊
「にゃあああああああ〜!!」
 その場に響く、猫の美声に撃退士達は耳栓を着ける。
 この声をずっと聞いていたら魅了されるかもしれない。それ程までに美声だった。
 猫は大きな右前足を猫じゃらしを持っている玲治に向かって振り下ろした。
 振り下ろされる前足はもとは遅いが体重と重力が加算され――
「早っ…!」
 危機一髪、後ろへ避ければ猫じゃらしを振る。
「ほれほれ、こっちだこっち」
 猫の視線は玲治だけに向いていた。
「三味線にしてやるわ、この化け猫!」
 鈴音は召炎霊符を振りかざす。幾重にも書かれた文字が光って炎を生み出した。
「ケシズミにしてやるわ、六道呪炎煉獄!」
 生み出された炎は一つの塊になり、猫を襲う。
「にゃあ!!」
 じゅ、と毛皮が微かに燃える音がした。
 猫は熱そうにしっぽを振る。地面にぶつかればびたんびたんと音が成る。
 智美が刀を構える。集中するようにすぅ、と息を吐けば走り出した。
 刀に込めるのは自分のアウル力。
 一閃――、猫を横に薙ぐ。

「私もいくよ!」

 薄紫の矢を番えて、放つ!
 矢は猫の前足を貫き、地面に縫い付けた。

「にゃ、うにゃー!」

 痛そうな悲鳴も美声だ。ただし撃退士達は耳栓をずっと、つけているのだが。
 博志は目をつぶり集中する。よし、と気合を入れて。
 魔法書と片手に走り出す。危ない、という皆の声も聞こえていた。
 だが博志にはやらなければいけないことがあった。
 両腕を猫の身体に回して全身で―!
 
 もふっ
 もふもふっ

 その触り心地は今まで触ってきたどの猫よりも―柔らかで心地よかった。
 もふってもふってもふって…!
「…もうそろそろいいでしょう?」
 呆れて声をかけたのは誰だったろうか。
 止められたのなら仕方がない。
 魔法書を持ち直し、炎を作り出す。
 距離はゼロ。炎を、猫に向かって撃ち出した。
 当たると同時に身を翻しては猫から離れる。
 怒った猫は毛を逆立たせて撃退士達を睨む。
 
 猫の視線から外れた死角から苦無で攻撃を仕掛けるのは玲花だ。
 「にゃ!」
 切り裂かれた毛が空中にひらひらと舞う。猫の視界に入る前に後ろへ下がればもう一度苦無を構えなおした。
 猫は誰が攻撃したのか理解出来てない様子で8人を見回していた。
 廻黎は装着した鉤爪でそのわき腹に攻撃を仕掛ける。一閃攻撃した後に―
 そのわき腹を撫でる。 

 もふっ

 想像以上の柔らかさが手を掠めれば後ろへ下がった。
 猫が廻黎にその前足でパンチを繰り出せばひょい、と横へ避ける。猫の爪に引っかかれば少しだけ髪の毛が散らばる。
 穂鳥が手のひらを突き出せば手中に雷が広がる。雷は猫の鼻に向けて撃ち出された。
「ふにゃー!!」
 かなり痛かったのだろうか。猫は身を伏せては涙目で穂鳥を見る。
「ごめんなさいね」
「効くかどうかは分からんが……酔っ払えよ!」
 玲治はポケットから取り出したマタタビの粉を猫に振り掛けた。
「うにゃあ…」
 とろんとした猫の瞳、顔についたマタタビの粉を前足で拭いとるとぺろぺろと舐めている。
「…効いたみたいだな」
 猫が攻撃してくる様子はない。
 その隙に鈴音が炎の塊を放つ。もちろん一同も攻撃させる気はなかった。
 「これで、どうだ!」
 神速の刃、智美の刀が静かに猫に一閃を決める。
 
「とどめー!」

 椿は智美の刀に導かれるように、その切り口へ薄紫色の矢を放つ。

「うにゃあああああっ…!」

 猫の美声は静かな夜に響き渡り、消えていく。
「終った…のかな?」
 動かなくなった猫を見れば椿は首を傾げる。
「あぁ」 
 智美の言葉に椿はホッと息を吐いた。

●猫の怪フィナーレ
 動かなくなった猫を見下ろせば武器を下ろして。 
 撃退士達はアウル発動を解除すれば耳栓を外す。
 穂鳥はすっかり静かになった猫を見てはそっともふる。
 動かなくなったとはいえやはり触り心地は良かった。
 博志や、廻黎も再び猫を飽きるまでもふる。
「……帰りましょうか」
 戦いも終えほっと胸を撫で下ろしながら玲花は言った。
「さて、ラーメンでも食べて帰ろうかなぁ」
 鈴音が呟けば私もお腹が空いた、と同調する他のメンバー。
「じゃあ行こうか!」
 そしてゲートが開いていないか、確認しながらラーメン屋に向かう8人の後姿。
 8人の後姿は街灯で光り、輝いていた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

たぎるエロス・
大城・博志(ja0179)

大学部2年112組 男 ダアト
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
にゃんバスター・
上月 椿(ja0791)

大学部2年58組 女 ダアト
喪色の沙羅双樹・
牧野 穂鳥(ja2029)

大学部4年145組 女 ダアト
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
にゃんバスター・
針生 廻黎(ja6771)

大学部1年291組 女 阿修羅