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マスター:帯刀キナサ
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:15人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/06/27


みんなの思い出



オープニング

●彩花
 色鮮やかな萼が道端を埋め尽くしている。
 少女はイケメンの彼氏とその道を歩いていた……。
 「きれいだよ……かなみ……」
 「きゃー!貴方もかっこいいわ!」
 少女の名前を呼ぶイケメンの彼氏。
 興奮した少女は思わず叫んだ。

 「と言う夢を見たのさ!」
 「夢かよ!!」
 「ついでに彼氏は居ない!」
 「しかも妄想かよ!!」

 そんな撃退士達の突っ込みをスルーして少女は続けた。
 「学園に来る途中にさ、紫陽花が綺麗に咲く道を見つけたんだよ。それがすっごく…綺麗でさ。目 を奪われちゃって」
 少女はそれはそれは楽しそうに笑って言う。瞳は恋をする乙女のようだ。
 「こんな夢見たのも、きっと紫陽花を見に行けっていうお告げなんだよ」
 誰からのお告げだよ、という突っ込みもさらにスルーした。
 「だから一緒に紫陽花見に行かない?……あ、私の彼氏になりたいって言う人は大歓迎。ただしイ ケメンに限る!」
 親指を出してサムズアップ。
 「あ、そこの道の近くに駄菓子屋さんがあるのね。そこに立ち寄ってもいいかな」
 駄菓子屋さんは50代くらいのナイスミドルなおじさんが店番をしているらしい。
 店構えは、少し年季が入った日本家屋を改造している。
 品数は豊富で懐かしいあーんなお菓子やこーんなお菓子が売ってるかもしれない。
 「……駄菓子を食べながら紫陽花を見て彼氏と語らう……夢だよね……」
 恋人と語らう、というのは少女の妄想ではあるが紫陽花をのんびり見て語らうのもいいかもしれない。

 「あ、当日は雨が降る予定だから傘は持って来ておいてね!」

 少女―久遠ヶ原学園高等部1年、佐藤かなみはピンクのハートの傘を持って微笑んだ。


リプレイ本文


 ぽろりぽろり雨の音響かせて。
 色とりどりの傘と、紫陽花の道を行く。

「あっめあっめふーれふーれ♪」
 黄色いアヒルさんの形をしたフードのレインコートを着て紫陽花路を歩くのはぴっこ(ja0236)だ。
 傍でぐっ、と拳を握って決意表明をするのは大谷 知夏(ja0041)。カエルの気ぐるみを着ては楽しそうに笑う。
「知夏は、全力で駄菓子目当てで来たっすよ! ふっふっふー♪駄菓子なら沢山食べても、安上がりっすから、沢山堪能するっすよ!」

 下ろしたての空色の傘を咲かせては雪成 藤花(ja0292)は微笑む。
「たまにはこんなゆっくりした時間を過ごすのもいいな」
「そうだな。たまには花を見て歩くのも、悪くないか…」
 藤花に同意するように頷くのは佐倉 哲平(ja0650)だ。哲平は同行する3人の少し後ろを歩く。
「こうして皆で揃ってお出かけって、初めてじゃないですか?」
 しのぶ(ja4367)に言葉を返したのは滅炎 雷(ja4615)。
「そう言えばそうだね!良い機会だしもっと仲良くなれると良いよね!」
 部活「トレーニングルーム花吹雪」の4人はそれぞれ、微笑みながら…紫陽花路を歩いていた。

「紫陽花をゆっくり見て回るのも、久しぶりですね♪」
 金色の髪を揺らし、歩くのソフィア 白百合(ja0379)。
「それにしても雨具はやはり必需か‥‥微妙な処よね」
 高虎 寧(ja0416)は水溜りを避けながら歩く。雨の日は寝場所を気にしないといけないから微妙に緊張してしまうのだった。
 妹に鞄と引き換えに渡された雨グッズの数々。過保護なまでの行動に苦笑してしまう。嫌なわけではないのだけれど。漆黒の髪を三つ編みにしてヘアゴムで纏められていた。
「そんなに心配しなくても…ちゃんと暗くなる前に帰りますわ」 
「随分と久し振りになるわね…紫陽花をじっくりと観賞するのは」
 紫陽花を前に見たのはいつだったろうか。月臣 朔羅(ja0820)はたまにはこういうのも悪くない、と紫陽花を見る。
 透明なビニール傘を差して松原 ニドル(ja1259)は色とりどりの紫陽花を見る。
「なんつーんだろ……風流を感じる、みたいな?」
 桜花 凛音(ja5414)は思う。撃退士となった現在の方が平凡な日常を楽しめているのではないか、と。
 複雑な気持ちになっては小さく息をつく。今はただ、この綺麗な紫陽花を眺めるだけ。
「綺麗、ですね……」
 ほわり、微笑んだ。
「雨の日って気分が沈みやすいですから、いい気分転換になりますね」
 持ち手が刀の柄になっているデザインの傘を差しながら、森部エイミー(ja6516)はゆっくりと紫陽花を見る。
「きれいな紫陽花ですね……いつまでも見ていたい気持ちになります……」
 苧環 志津乃(ja7469)は着物の上から和装レインコートを着ていた。濡れないように、もちろん傘を差して。
「紫陽花か…、確か土壌の成分で色が変わるんだっけ? それともガクの老化だったっけ。 まあ、きれいだから何でもいいけど
 銅月 千重(ja7829)は周りで紫陽花路を楽しんでいる皆を見ながら一人、言葉を紡ぐ。
「毒性があって経口摂取すると中毒になるとも聞くね 気をつけたらいいよ?」
 続いて言われた言葉に今回の案内役、佐藤かなみはひっ、と声を上げながらも。

「も、もー!怖いこと言わないでよね!っと…あそこが駄菓子屋だよー」
 
 指差した先にはとある日本家屋。駄菓子屋、と看板が立っていた。


「いらっしゃい、嬢ちゃん。お、今日は友達連れか?」
 50代のナイスミドルな店主はかなみの姿を見ればにっ、と笑う。
「はい!いっぱい来てくれましたよー」

「むぅ、量を優先するか、種類を優先するか悩むっすね!」
 知夏は真っ先に駄菓子屋に入ると棚に並ぶお菓子を見ては真剣に考えていた。
「クーヂがあるのよね〜」
 きゃっきゃはしゃぎながらスーパーボールのクジをするのはぴっこだ。
 透明なボールの中に金色の星が入っているスーパーボールが当たれば店長はお、と声を上げて。
「大当たりだなぁ、坊主。良かったな」
「おおあたり?すごーいのー!」
「私も運試ししてみますね……」
 ぴっこの様子を微笑ましげに見たエイミーはきなこ棒を購入。
 食べた後の棒に書かれていた文字は【はずれ】だった。
 寧がそれを横目にお菓子を選ぶ。お小遣いの中で買える程度のそれを袋に入れて貰えば駄菓子屋の傍にあるベンチに座った。
 屋根があり雨は被らないちょうど良い場所だった。一人、もぐもぐとお菓子を食べる。持ってきた緑茶を飲みながら。
「? お店…ですか?」
 きょとんとしながら店内が水で濡れないように気をつけながら棚に並ぶ駄菓子の数々を眺める礼野 静(ja0418)。
 ひも付き飴を見ながらもどうすればいいか解らない。
 イチゴを模したような形、赤い色。紐が取り付けられた小さなそのつぶつぶの中に何個か…4倍ほど大きい飴のつぶがあった。
 それを見た朔羅はくす、と微笑みを浮かべて。
「店長さん。ひも付き飴引いてもいいかしら?」
「おう、10円だ。」
 店長は10円玉を受け取れば飴の入っている袋を押さえた。
 朔羅は紐を選んでは引っ張る。出てきた飴は小さな飴のつぶ。
「あら、外れね。」
 静はその様子を見て店長に話しかけた―。
「俺、甘めのモンが好きかなー」
 ニドルの手の中には既にゼリーとかべっこうあめ…甘めの駄菓子が入っていた。
 少々狭くなった店内を抜け出したニドルは烏龍茶を片手にゼリーを食べる。
 千重も駄菓子屋で購入したラムネを片手に紫陽花観察をしていた。
 ニドルに気付いた千重はその駄菓子に目を瞬かせて。
「いっぱい買ったんだね?」
「安いしね。…一個いる?」
 飴玉を一つ受け取る千重はありがと、と笑った。

 藤花は駄菓子屋さんに入る雷としのぶに買い物を頼んだ。
「舌が黄色くなるくらいのオレンジジュースを、お願いします。」
(駄菓子っていったらこういう、「一見不健康そうなもの」ですよね?)
 藤花は微笑んだ。雷に哲平は4人分の駄菓子代を渡す。
「……滅炎、お前に任せる。余った分はお前らで好きに使え…。…しのぶに買わせるなよ。あいつのセンス、おかしいから…」
「……では私たちは買い物に行ってくるので、どうぞごゆっくりとっ!!」
 しのぶは藤花と哲平に軽く手を振れば雷を連れて駄菓子屋の中へ。
「ジュース頼まれてたよね…それじゃあ、後は…きなこ棒カレー味と定番のお汁粉サイダーと…」
「しのぶ姉、それ、ずいぶん変わったものだけど本当に買うの?」
 雷が柔らかにな口調でそう言うがしのぶは笑って。
「いや、まじ美味しいからっ!!うん、絶対気に入ると思うよっ!!」
 何の根拠があるのだろうか。苦笑を浮かべるが雷は止めはしない。

 二人が駄菓子屋の中に入れば藤花と哲平は二人きり、だった。
 慣れないシチュエーションに戸惑いつつも藤花は話しかける。
「雨、よく降ってますね」
 止みそうもない雨と空を見上げる哲平。
「梅雨だからな……」
 不意に、無言になる。
「…夏も近いか。蒸し暑い季節になるな…」
「でも夏になったら、きっと暑いんだろうな」
 そんなありふりた、日常的な会話。それでも藤花は幸せを感じた。

「最後に紫陽花を見たのはいつでしょう……」
 ソフィアは紫陽花を見ながら考える。
「……あれ……?」
(たしか行ったことがあるのに…、どうして…。) 
 思い出せずにいれば視界に駄菓子屋が移る。
 他の皆は楽しそうに駄菓子を食べていた。
 心惹かれて駄菓子屋に立ち寄れば見覚えのある駄菓子を見つける。
「あ!これは……!」
 小さなボトルに入った一口サイズのヨーグルトサワー。それを購入しては小さな匙で一すくい。
「うん、この味だよね!本当に懐かしい…」
 懐かしい味。これを食べて思い出す。
 ソフィアは幼馴染と一緒に幼い頃に紫陽花鑑賞に行ったことがあることを。
 セピア色に色づいた記憶は、ソフィアの大事な大事な思い出。


 凛音は駄菓子屋で買った飴を口の中で転がす。広がる甘い味に目を細めながら、見るのは赤紫色の―初恋を寄せている、先輩の瞳の色に似た紫陽花のがく。
 雨に降られていた彼に傘を差し出した自分。そんなこと普段はしないのに。
 雫に濡れていた彼の悲しそうに揺れるその瞳と…穏やかな微笑みの表情。
 凛音はその瞬間に彼に心を奪われたのだった。
 親友に背中を押され焼いたチョコレートケーキも、彼は子供扱いをして味見しかしてくれなかった。
 子供扱いされたくはないのに。
 傘の柄をきゅ、っと握る。
 紫陽花の花言葉は辛抱強い愛情、ひたむきな愛情。
 …想い続けていたら、いつか届くのだろうか? ぴん、と水に濡れた紫陽花の葉を凛音は弾いた。
 デジタルカメラのシャッター音が静かに響く。
 静は濡れないようにデジタルカメラを持ちながら紫陽花を撮っていた。
 先ほど買ったひも付き飴を食べながら。
 その近くでエイミーも携帯電話のカメラを紫陽花に向ける。
 ぴろりん、と軽快なシャッター音が鳴った。
 静はその音に気付くと歩み寄り。
 「素敵な写真、撮れましたか?」
 「いっぱい撮れましたよ。見ます?」
 「はい!」
 携帯電話とデジタルカメラを見せ合いながら、二人は微笑んだ。

 志津乃は金平糖を一粒、口の中に入れた。小さな星のような欠片は甘い味がする。
 皆の様子を見れば、和やかに過ごしていた。
 こんな時間が続けばいいのにと思う。
 戦闘を好まない志津乃は小さく息をついた。
「…どうした?」
 それに気付いた千重は志津乃に話しかける。
 紫陽花の傍に立つ志津乃はその服装と髪型に相まって、良く似合っていた。
「…いえ、その…」
 志津乃は話しかけられたことに戸惑いながらも微笑んだ。
「…紫陽花も、皆さんも、素敵な笑顔ですね…」
「…あんたの笑顔も綺麗だよ」
 きょとん、とした顔に千重は面白そうに笑った。
「だーかーらー、イケメンっていうのはね!」
 かなみはぴっと人差し指を立ててニドルに言う。その表情は鬼気迫るもので。
「さ、さいですか……」
 ニドルは滝のように汗をかきながらもそう返した。
「そういえば……駄菓子屋のおじさんもイケメンの範疇なんかね?」
「あの店長はナイスミドル!目の保養!若い頃に会えたらよかったのにー!」
 かなみの言葉にニドルは後ずさりをするしかなかった。
 朔羅はベンチに座りながら先ほど買った駄菓子を食べる。使った額は幼少の頃、駄菓子屋に行くときにもらったお金と同じくらい。
「幼少の頃は、こうして腰掛けて…駄菓子を食べながらのんびりと景色を眺めていたものよ。幼馴染の子と一緒に…ね」
 隣に居て話を聞いていたのは、意識を夢の中に潜らせている寧だった。 
 寧は色とりどり、鮮やかな紫陽花の色にその緊張を溶かしていた。…そして、そのまま夢の中に。
 その様子を見た朔羅はくすくす微笑んで時計を見る。
 時刻は17時半過ぎ。
「さて、私はそろそろ帰ろうかしら。さっき話した幼馴染の子が、帰りを待ってくれているもの」
「あれ、そうなの?」
 かなみは少し寂しげな顔をしながらも手を振った。
「縁があれば、またどこかで会いましょう。――では、お先に失礼するわね」
 朔羅は手を振り返し…皆を見回せば帰路についた。


「でーんでーん むーし むーし おいちーかしーらの?」
 ぴっこは紫陽花の葉の上のカタツムリを見つけると目を輝かせる。
 そのカタツムリを誰か料理しないか、と周りを見回した。
 エスカルゴを知っているため、ぴっこはカタツムリも食べれるのではないか、と思っていた。
 もちろんそんなことを言い出す人も居ない。
 ぷぅ、と頬を膨らませれば走り出す。家にそろそろ帰る時間だ。
「ひゃう!」
 転んでぴちゃ、と水溜りに顔を突っ込んだ。
「う、う〜…!うわああああん!!」
 ころんころん転がるスーパーボール数個。
「わわ、大丈夫っすか?」
 慌てて駆け寄った知夏にも答えずぴっこは泣いていた。
「これ、使ってください。」
 静はそっとぴっこの雨と涙に濡れた顔をハンドタオルで拭いた
「ひっく…うぅ…」
「泣き止むっすよ!…ほら、これあげるっすから!」
 知夏は飴玉をぴっこの口の中に放り込んだ。
「…おいちい…」
「当たり前っすよ。えっへん!」
 胸を張る知夏と泣き止むぴっこ。
「あー…派手に濡れたな。まだタオルある?」
 千重が静に聞くと静がハンドタルを取り出した。
 千重は暑くてレインコートを脱いだがぴっこにとってはこの雨は冷たいだろう。
 タオルで拭いても完全には乾かない。
「うーん…じゃあそろそろ時間だし、帰ろうか?」
 かなみは少し考えた後にそう提案した。
 もうすぐ時刻は18時を迎えようとしていた。

 それぞれの雨の日。
 それぞれの紫陽花の思い出。
 美味しい駄菓子を食べたことも
 思い出した記憶も。
 
 すべて尊き日。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

癒しのウサたん・
大谷 知夏(ja0041)

大学部1年68組 女 アストラルヴァンガード
一太郎のそこそこチーム・
ぴっこ(ja0236)

中等部1年4組 男 ダアト
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
主演女優賞受賞者・
ソフィア 白百合(ja0379)

大学部4年224組 女 ダアト
先駆けるモノ・
高虎 寧(ja0416)

大学部4年72組 女 鬼道忍軍
祈りの胡蝶蘭・
礼野 静(ja0418)

大学部4年6組 女 アストラルヴァンガード
一握の祈り・
佐倉 哲平(ja0650)

大学部5年215組 男 ルインズブレイド
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
撃退士・
松原 ニドル(ja1259)

大学部4年323組 男 インフィルトレイター
全力全壊・
しのぶ(ja4367)

大学部4年258組 女 阿修羅
泥んこ☆ばれりぃな・
滅炎 雷(ja4615)

大学部4年7組 男 ダアト
一緒にいればどこでも楽園・
桜花 凛音(ja5414)

高等部3年31組 女 ダアト
『封都』参加撃退士・
森部エイミー(ja6516)

大学部2年129組 女 ダアト
完全にの幸せな日本語教師・
苧環 志津乃(ja7469)

大学部6年175組 女 アストラルヴァンガード
海に揺れる月を穿つ・
銅月 千重(ja7829)

大学部9年185組 女 アストラルヴァンガード