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マスター:帯刀キナサ
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/10/11


みんなの思い出



オープニング

 二〇一二年、秋。
 ザインエル不在の可能性が高いと睨んだ久遠ヶ原学園執行部は京都奪還を狙う動員令を発し、再び撃退士達の集団が京都の地へと降り立った。
 その数八〇〇超。先の戦いでも拠点を置いた宇治川に本陣を張った。
 初回の京での大規模戦では撃退士の動員数は前線だけでも一六〇〇名を超えており、規模としてはその半分以下であったが、先の大規模作戦での激突や以降も継続された救出作戦により、京を守る天界側の戦力も減じていた。
「私達は先の戦いの頃よりもずっと強くなっています。既に京の天界軍は勝てぬ相手ではありません」
 八〇〇を超える撃退士達と共に宇治川に入った神楽坂茜は北方の京を睨んでそう言った。
 他方。
「ゲキタイシが京の南に終結を開始しただと? ザインエル様さえいなければ勝てるとでも思ったか、舐められたものだな……」
 ザインエルの代理として京ゲートの守りを任された大天使ダレス・エルサメクは怒りに顔を歪めて吐き捨てた。
 しかし、実際の所、京にザインエルなく、ギメル・ツァダイなく、レギュリアなく、ムスカラテッロなく、前田走矢なく、劉玄盛なく、ナターシャなく、中倉洋介なく、かつてのザインエル軍で京に残っている将は米倉創平のみ。
(敵はこちらを舐めてはいないな……彼我の実力差は詰まってきている)
 ザインエルよりダレスをよく補佐するようにと命じられ京に残された米倉創平は、彼我の戦力を分析しこれは「もしや」はあるぞと判断していた。
「ダレス様、侮りは危険かと……かつての京の戦で我々が苦戦したのは、それこそが原因です」
 強者故の驕り。
 それ故に、ギメル・ツァダイは敗れ、六星枝将は打ち破られ、六つ枝門を失い、ムスカラテッロは戦死の憂き目さえ見る事になった。
「既に京市民の大部分は中心部に建造された四つの大収容所に収容されています。大収容所を守る為の八つの小要塞も完成しています」
 中心部より外れれば、大収容所に納めきれなかった京市民がまだいくらか残ってはおり、ただでさえ数が減っている所へさらに減るのは痛いが、最悪これが失われてもまだなんとかなる。
「我々にとって守るに有利な八要塞にサーバントを集中させて配置し、大収容所を守り抜きましょう。八〇〇程度なら、頭数ならまだ我々の方が倍おります。現在の戦力比なら我々が守りに徹しさえすれば、敵は我々を打ち破る事など出来はしません。補給はゲートを使えば良く、籠るに問題ありませんから、守りを固めつつ時を稼ぎ、ザインエル様の帰還を待ちましょう」
 この戦略なら九割九分九厘、負けはない、米倉はそう思った。
 負けさえしなければ米倉達の勝ちだ。ザインエルという強力無比な援軍が約束されているのだから。
「……一戦もせずにひたすら内部に籠る? 敵に倍する数のサーバントを保持しているのに? 本気で言っているのか?」
「はい」
 米倉創平は本気だった。
 しかし、
「話にならないッ! 原住民相手にそんな馬鹿な真似が出来るかッ!! そんな話を友軍や冥魔どもに聞かれたら、ザインエル軍は良い笑い者にされてしまう!」
 ダレスは激怒した。
 そんな真似をしたら代将のダレスは無論、ザインエル軍の勇名とて地に堕ちるだろう。ザインエルも大いにダレスに失望するに違いない。ダレスはそう思った。
「このダレス・エルサメクがザインエル様の代理としてこの地を預かったのだぞ。無様な真似など許さん! 原住民どもなど一撃で粉砕してくれる! 出陣だッ!!」
 以前ギメル・ツァダイも似たような事を言っていたな、と米倉は視線を遠くしかけたが、しかし、ダレスの言う事にも一理あると思いなおす。
 頭数では倍以上いるのだ。正面からぶつかっても勝算が低い訳では決して無い。
「……承知いたしました」
 要は、勝ちさえすれば良いのだ、勝ちさえ……
 どうやって勝つかが、問題ではあるが。
 米倉創平は頭を悩ませるのだった。


 大天使ダレス・エルサメクは宇治川の陣に八〇〇を超える撃退士達が終結しているとの報を聞き、これを自ら撃滅せんと、総司令官自ら一五〇〇のサーバントを引き連れ京より出撃した。
 木乃伊の武者が骸骨の兵士達を引き連れ、整然と京の道を南下してゆく。巨獣ケルベロスが咆哮をあげ黒の大烏が焔を纏って空に舞った。
 この動きに対し、撃退士側は後詰として、また本陣の守りとして一〇〇あまり宇治川に残し、残りの七〇〇超を率いて迎撃すべく出撃した。
 両軍が睨み合ったのは、京市街より南、宇治川より北、かつての戦いで建物は薙ぎ倒され、荒野と化している地点である。
 ダレスはサーバント達を横陣状に広げて展開し、撃退士側もそれに抗するべく横に翼を広げた。
 会戦である。
 京の奪還が成るか、それとも天界側が京を支配し続けるのか、その最初にして最大の分水嶺となる戦いが今、始まろうとしていた……



 北からサーバントの群れが迫り来る。
「…作戦の確認、するか?」
 緊張の面持ちで戦列に並んでいる撃退士達を見やり廿楽 冬樹(jz0120)は緊張を解そうと声をかける。
 京には天使ザインエルは居ない可能性が高いと目されていた。その配下であるシュトラッサー、米倉創平は判らないが……。
 もしも本当にザインエルが居ないのなら好機である。故に京都を奪還する為に大量の動員をかけて攻め込む、という話だ。
 敵も簡単には京都を譲ってくれることはないだろう。
 現に今こうしてサーバントの大部隊が北から迫り来ている。奪還する為にはまず迎撃に来た眼前の天界軍を打ち破り、勝利することが第一歩となる。全隊がここで負けてしまえばそれまでだ。京都の奪還は遠くなる。
「だが、敵の数は多いが、この広い戦場で戦っているのは俺達だけじゃない。他の隊も各々の作戦に参加している」
 心強いな、と冬樹は続けた。
「…敵に、見覚えがある」
 彼方より迫るサーバント群の一画を指して冬樹は言った。
 そこには青い龍が居た。
 以前、京に現れた青龍にそっくりだった。
「…以前現れたものよりは一回りほど小さいがな。恐らく、似せて作っただけで同一の個体ではないのだろう。外見と同じように能力も似通っていれば、手の内が読めるから楽なんだが…」
 しかしその能力には未だ不明な部分は多い。他の敵にしてもそうだ。
 蛇型のサーバントが二種類。
 それと鼠型のサーバントが一種類。
 どこか神話に出てくる妖怪を思い出す姿は誰の趣味なのだろうか。
「京都を奪還する為の第一歩になるだろう。…全力を、尽くそうか」
 冬樹はそう言葉を締めて、頷いた。
 
 作戦開始時間は、もうすぐ。


リプレイ本文

○戦場、京都
 巨大な力の激突により荒野と化した地。周囲に一般人の姿は見えない。
 そこに居るのは、撃退士達と―天使陣営だけだ。
 時刻は作戦前。
 並んで配置した撃退士達はあらかじめ申請しておいたハンドオフマイクの調整と共に作戦の確認をしていた。
 御堂・玲獅(ja0388)の発言に肯定し頷く麻生 遊夜(ja1838)。
 三つ班を作りそれぞれ行動を取る、というものだ。
 緊張も高まる中、若杉 英斗(ja4230)は目視出来る程に大きい姿を持つ、彼の敵を見る。
 青く光る内側は木で出来ている、龍の姿を。

「報告書で読んだことがあるな…あれが青龍か」

 その言葉に以前青龍と対峙した廿楽 冬樹(jz0120)は頷いた。
 姿は殆ど変わらずそこにあるのは幾ばかりか小さくも見える。
 あくまで、幾ばかりか、だが。
「オリジナルほどじゃないにしろ、油断は禁物だね」
 グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)も以前の報告書を読んでいたらしい。
 英斗と冬樹を見ては頷きあう。
「五行思想の金属性が弱点だった、とかいう奴だな」
 仲間に知らせるように英斗は言った。
 五行思想の金属性。金剋木――金は木を傷つける、というものだ。
 以前の青龍戦では剣、刃…そんなものが弱点だった。
 弱点を知っているか、そうではないかで気持ちは変わるもの。剣を握る手にも力を入れる。
 マリー・ベルリオーズ(ja6276)はこの中では戦歴が浅い。
 しかし今、ここに居るマリーはどこか雰囲気が違っていた。まるで戦闘に慣れた男の様に。
 仲間は違和感を感じ聞いてはみるものの、マリーは苦笑を浮かべた。その苦笑もどこか横柄に見える。
 曰く、多重人格なのだと。
 今、表に出ているのはマリーではなく【リュドヴィック】という男なのだ。

「すまないね。多重人格の定義について語るのはまた今度にしよう」

 多重人格の定義も理解も少ない仲間たちにとっては首を傾げるしかない―が、マリーがそう言うのなら今回はそれに従おう。頷いた。
 彼女がマリーでも、【リュドヴィック】でも、今回の作戦には何ら影響は出ないだろう、という判断だ。
「こういう喋り方の変人と捉えてもらって構わない」
 マリーはそう笑った。

 蘇芳 更紗(ja8374)にはマリーの気持ちはなんとなく理解出来た。
 見た目は少女、だが更紗は自分を男だと思っていた。
 男の中の男、だと。そう教育されていた。
 マリーもきっとそんな一人なのだろう、と勝手に判断をしている。

「今回はよろしくお願いしますです」
 御手洗 紘人(ja2549)は緊張に拳を握って、仲間達に挨拶をした。頷くもの、同じく挨拶をするもの各々返答を返す。
(総力戦…でしょうか…。兎に角、皆さんの足手まといにならないようにするのです )
 幸い知り合いが居る。紘人にとってはそれがありがたかった。
 紘人の知り合いの一人、権現堂 幸桜(ja3264)はどこか少女然とした格好をしていた。
 女性より女性らしい様相に凛々しく表情を引き締める。

 鈴代 征治(ja1305)は以前の依頼で受けた傷の確認をする。
 無事、癒えている様だ。手をぐ、ぱーと動かして小さく息を吐く。

 遊夜は冬樹に呼びかける。
「…作戦か?」
 ふ、と笑った遊夜は冬樹に耳打ちする。不思議そうに首を傾げた冬樹に【例】の案に乗ったらしい征治は頷いた。
 
 連絡が入る。
 他の班にも今、連絡が入ったのだろう、辺りのざわめきも増す。
 氷鮫(ja5249)は玲獅を見、微笑んだ。
「行こうか」
 玲獅は頷き続く。
 ――いざ、戦いへ。

○焔走りて
 周りから聞こえる戦闘の音はすさまじかった。
 剣と剣が交わる音、何かを殴る音。破壊する音―。
 それぞれがそれぞれの場所から響いている。
 辛うじてイヤホンから聞こえる仲間達の声が道標だった。

 目視出来ていた青龍の前には2種の蛇型のサーバントと鼠型のサーバントが居た。
 蛇型の一方は青白い肌を持っていた。もう一方は翼が生えている。
 鼠型のサーバントは、赤く燃えていた。熱くはないのだろう。平静な様子で鼠はそこに居た。
 青龍、ミズチ、化蛇、火鼠。
 どこかの神話を彷彿とさせる姿に撃退士達は誰の趣味なのだろうか、と考える。
 以前、青龍を作っていたのはシュトラッサー、米倉創平だったが――。

 キシャア!!
 文字には出来ないが鳴き声を上げた青龍は撃退士達に目を向けた。
 無駄なことを考えている暇は、あまり無いらしい。
 作戦通りに、3つの班に分かれた撃退士達は走り出した。

「京都奪還の為に僕は戦います! 一閃組、近衛隊長 権現堂幸桜、いざ参ります! 」
 幸桜もそう名乗りを上げて弓を構え走り出す。

 阻霊符を発動させたのは英斗だ。
 遊夜は声を上げた。
 中央、後方より前に居る征治、冬樹に注意をするように声をかければ遊夜は拳銃を構えた。
 右手と左手、両の手に持った拳銃から弾丸が放たれる。
 それは黒い霧を纏いながら火鼠の一匹に当たった。
「貫け、電気石の矢よ――」
 グラルスは魔法書を片手に詠唱を唱える。
 前には曲刀、シルフィードを構える玲獅と弓を構えるマリーが居た。
 当たらぬように調整をしながらも詠唱を唱え終わるとグラルスは魔法書を火鼠に向ける。
「トルマリン・アロー!」
 魔法書から放たれた結晶は雷の力を纏いながらも火鼠にぶつかって弾けた。

 青龍は一度、鳴く。
 そして動き出す――。まるで大樹が動くような音を鳴らしながら青龍は火鼠達の後ろへ付いた。
 火鼠達の炎に青龍もやられたくはないのだろう。
 青龍は前方に居た二人―征治と冬樹に尻尾を叩き付けた。
「っ――!!」
 征治は一瞬遠のく意識を持ち直しては剣を構えなおす。
 盾を構えていた冬樹は息をつめて、耐えた。

 玲獅は構えた裁きのロザリオ―十字架からは無数の光の矢を生み出す。
 光の矢は火鼠を穿ち消えていく。あまりダメージは無いように見えた。
 一体ずつ確実に倒すために剣を振るうのは征治だ。
 ずしゃ、そんな音がして火鼠は一匹、纏う炎を消して地面に伏す。
 敵討ち…思考は持っていないだろう。だが征治を狙う火鼠達は居た。
 炎を燃やし、走って突っ込んでくる火鼠はまるで暴走車のようだ。
 避けきれずシールドで身を守るがその熱は僅かに征治を焦がす。
 冬樹も盾にシールドをかけ火鼠からの攻撃を受け流した。
 玲獅は聖なる刻印を自分に宿し、ランタンシールドを構え火鼠を向かえた。
 ランタンシールドにぶつかる火鼠達。
 大剣で火鼠の攻撃を受け止めたのはマリーだ。
 しかし一方からの攻撃は防げても多方面からの攻撃は防ぎきれない。
 右方面から走ってきた火鼠を避けれずに膝を地面に付いた。
 英斗の盾が白銀に輝き火鼠からの攻撃を防いだ。

「そんな攻撃じゃ、俺は貫けないぜ!」

 にっ、と英斗は笑う。その隣に更紗は居た。
 更紗は火鼠からの攻撃に身を翻し避けようとするが避けきれずに火鼠の炎を受ける。
 傷は浅く、小さな火傷の傷を残した。

 紘人はアウルを研ぎ澄ます―。龍笛の音は辺りの喧騒に紛れ消えていくがその力は消えなかった。

「その距離…既に射程内なのです!」

 風を纏いながらも紘人は攻撃をした。周りを荒しながらも火鼠を2体巻き込んでいく。
 狐の面の下で紘人は微かに微笑んだ。
 スネークバイトを手に装備し火鼠に攻撃を仕掛けたのは紘人を守るように立っていた英斗だった。
 仲間達の盾になるべく動き、部隊を守る。英斗の今回の目的はそれだった。
 火鼠はその攻撃に悲鳴を上げながらもぎりぎり持ちこたえたらしい。炎は弱くなっているがそれでも火鼠はそこに居た。
 幸桜の構えた弓がきりきりと音を立てる。傷ついた火鼠に追い討ちをかけるべく、矢を放った。
 振り落ちた矢は火鼠の炎を通り抜け身を削る。キィ、と鳴いて火鼠は倒れる。
 
 じりじりと体を走る熱にマリーは息をつく。
 大剣―ブラストクレイモアを構えては火鼠に振り下ろした。アウルを纏った攻撃は効果的だった。
 更紗は冷刀マグロを構え――火鼠を殴った。ジャストミートだったようである。
 冷刀マグロは斬れはしないが鈍器としては何かと使える。
 何かがつぶれた音がした。言わずもがな、火鼠だったが。
「…ぐろいな」
 冷刀マグロの下、火が消えた潰れた何かを見つめ冬樹は呟いた。

 空飛ぶ蛇―化蛇が動き出した。
 口をぱっかりと開き―光線を吐き出す化蛇。
 更紗は避けようとするが、間に合わずにシールドを張った。
 もう一方、玲獅とマリーを襲った光線は傷ついていたマリーを包み込んだ。
「…御堂ちゃん」
 マイクを通して氷鮫は玲獅に報告をする。マイクを使うのは周りの音が激しすぎて自分の声が届かないだろう、と判断した為である。
 ミズチからの攻撃をカイトシールドで防御した英斗は更紗を見る。
 更紗はミズチからの攻撃をひらりと避けて一つ、息をつく。英斗の視線に気付くと大丈夫、と言外に混めて微笑んだ。

「マリーさん!」
 
 玲獅はマリーに襲い掛かっていたミズチの攻撃をランタンシールドで防御する。
 手のひらにアウルの光を纏わせて征治に癒しの光を向けたのは冬樹だ。
「…ありがとうございます」
「あぁ」
 気合を入れなおし、征治は剣を構えた。

 遊夜の銃弾の雨は止まない。

「邪魔なンだよ、退いてろや! 」

 声を上げながらも遊夜の拳銃の銃口に赤黒い光が集まる。
 それを放っては確実に、火鼠の息の根を止めていく―。
 グラルスはもう一度魔法の光を集束させる。魔法書から生み出された結晶は雷の力を纏い、火鼠を襲った。
 火鼠の間を潜り抜け同列まで進み出た青龍は征治に尻尾を向けた。尻尾は征治を巻き取るように動く。
 巻き付かれ、締め上げられると征治はぐっ、と息をつめた。暴れると剣が刺さったらしく軽く緩む。その隙に抜け出すと少し、距離を取った。
 玲獅はマリーに近づいてアウルの光を向ける。マリーは目を見開くと、大きく息を吐いた。
「感謝、する」
 マリーの言葉に玲獅は微笑んだ。マリーを縛っていた魅了も解けたらしい。
 征治は目の前に迫る青龍を見上げた。しかし今攻撃すべきなのは青龍ではなく、火鼠だ。
 己を奮わせ、剣を振るう先、火鼠に攻撃をする。火鼠は一刀両断され地面に落ちる。
 半分に数を減らした火鼠達は変わらず、撃退士達に突進を仕掛けた。
 英斗の守備は堅く―、カイトシールドは火鼠の攻撃を防いだ。
 
「当たらない、ね」

 更紗は軽く立ち回れば火鼠の攻撃を交わす。
 ランタンシールドを片手に防御をしながら玲獅はマイクに話しかける。

「…どうやら物理も魔法も…どちらも効いているみたいですね」

 周りの攻防を見、玲獅はそう判断した。
 再び風を纏い攻撃をするのは征治だ。先ほど攻撃をした2体にもう一度攻撃を仕掛ける。
 焔が消える。征治の目の前には青い龍しか居なくなった。
 英斗のスネークバイトが火鼠を蹴散らす。後ろから弓でサポートを入れるのは幸桜だ。
 確実に、着実に火鼠の息の根を消していく。
 マリーは傷ついた体を押しながらも大剣から弓に武器を切り替える。
 素早くそれを放って火鼠を射止めた。
 唸りを上げる冷刀マグロ。更紗は気合の声を上げながら冷刀マグロを振り下ろして火鼠をつぶした。文字通り。

 化蛇は地面に落ちている火鼠の残骸を気にせずに前に躍り出る。
 英斗に向かって飛んでくる化蛇。大きく開いた口の中にある牙は鋭い。
 化蛇が目の前に来たタイミングを見計らうと英斗は横に避ける。化蛇はそのまま英斗の横を通り過ぎ、地面にぶつかる前に空に飛び上がった。
 玲獅の肩を掠った化蛇の羽は牙と同じく、鋭く固い。
 マリーはもう攻撃は受けるものか、と光線を避ける。
 そんなマリーにライトヒールの手を向かわせるのは氷鮫だ。
 体中に付いた傷はゆっくりと、治癒していく。

 ミズチ達は地面を這い前に出ると攻撃を仕掛けてくる。
 火鼠達の残骸をずるずる引きずりその牙を向けた。
 英斗のガードの隙間を縫い牙を割り込ませ噛み付く一体を引き離すように英斗は腕を振るった。
 地面に叩き落されたミズチは平気そうな雰囲気だった。
 更紗の横を冷たい液体が通り過ぎる。
 どうやらミズチが当て損なったらしい。液体が、ミズチの口から出るのを見てしまった更紗は思わず顔を顰めた。
「…唾液とか、汚いな」
 絶対当たらないようにしよう。更紗はそう決意した。

 ミズチの牙はマリーに向いた。当たらぬよう身を翻すが牙はマリーの足首を掠る。
 痛い。だが耐えられぬ程ではない。未だ戦いが続いてる今、膝を折るわけにはいかない。マリーは再び弓を構えた。


○青き龍を目前に。
 青龍を目前にしたのは遊夜、征治、冬樹の3人だった。
 他の2班はまだ化蛇、ミズチ達と戦っているのが見える。
 仲間達が来るまでは、青龍をここに足止めしなければいけない。

 3人は視線を合わせ頷いた。

「時間稼ぎと言っても、倒してしまって構わないんだろう?」

 言葉を合わせ3人は言う。表情は凛々しく、しかし笑みを浮かべて。
 剣を、銃を、盾を構えて3人は青龍を見上げていた。

 最初に言っておく。その言葉は死亡フラグだ。


○蛇と蛇
 グラルスの放った結晶は火鼠―最後の一匹を蹴散らした。
 迎える化蛇、ミズチ達に向けて前進する両翼の班。
 玲獅は再び自身に聖なる刻印をつけた。

 紘人は手の平に炎を出現させるとミズチに向かって放つ。
 ミズチは耳障りな叫び声を上げながら避けようとするが避けきれず、火に巻かれた。
 英斗はスネークバイトでミズチに攻撃を仕掛ける。

「俺のこの手が…以下略!」

 手に光の力を纏わせてそのままミズチを殴る英斗。寄声のような叫びを上げることもなく、ミズチは力なく地面に頭を落とした。
 幸桜は残りのミズチに向けて矢を放つ。
 反対側に位置する班に居るマリーはミズチに弓を向けた。
 斜め前に居る玲獅に気をかけながら矢はミズチに向かって吸い込まれていく――。
 その矢はミズチを掠め地面に落ちた。
 更紗の冷刀マグロが幸桜の矢に縫いとめられたミズチを潰した。
 ついで、とばかりに更紗は叩き潰した後に磨り潰した。

 化蛇は更紗に向かって光線を放つ。大きく開いた口から出てきた光線に更紗は避けようと身体を動かすが避けきれずに直撃を受ける。
「っ…!!」
「蘇芳さん !大丈夫!?」
 慌てて駆け寄る英斗の視線に映るのは虚ろな瞳の更紗だった。
 光線を受けた玲獅。聖なる刻印を受けた身には魅了の力は聞きにくい。玲獅は化蛇に視線をぶつけた。
 マリーは化蛇の牙を避けて仲間達の現状を確認した。
「あの蛇の攻撃には気をつけろ」
 マイクに向けて声を発した。
 氷鮫は次の攻撃へと繋げるために弓を構え、ミズチに向かって放つ。
 裁きのロザリオを構えながら玲獅はミズチの攻撃を避けた。
 服だけを切り裂く牙に玲獅は苦笑する。
(この服はもう使えませんね…)
 仕方無いのだろうけれども名残惜しく、そっと破れた服の部分を撫でた。

「弾けろ、柘榴の炎よ――」
 グラルスの詠唱が戦場を駆け抜けた。片手に浮かぶ炎を纏った真紅の結晶を化蛇に向かって放つ 
「ガーネット・フレアボム!」
 結晶は弾けては化蛇を焦がしていく。
 続けて玲獅は裁きのロザリオを構えて光の矢を生み出し化蛇を攻撃していく。
 無数の光の矢に射抜かれた化蛇は地面に伏した。

 大きな火球を生み出し化蛇に攻撃を仕掛けるのは紘人だ。大きく地面も焦がしていく。
 英斗は化蛇に向かってスネークバイトを装備した手を振り上げる。
 ざくっと切り裂く音とギシャア!という化物らしい叫びを上げ化蛇は倒れた。
 片翼を担っていた英斗、更紗、幸桜、紘人は目の前から消えたサーバント達にため息を吐いた。
 次いで視線は中央、青龍へと向かう。
 3人が戦っているその場所へ4人は走り出した。

「…あちらは終ったようだね」
 マリーは息をついて弓を構える。早くこの場も終らせて援護に向かわなければ。
 化蛇へ放った矢はその脳天を射抜く。
 化蛇は反撃するかのように身をくねらせマリーに牙を向けるが追い討ちで放たれた氷鮫の矢を受けて伏した。
 傍ら、玲獅へと凍えるような唾液を放ったミズチだったがあっさりと玲獅はすり抜ける。
 体液、ましてや唾液だ。気持ち悪いにも程があった。例え聖なる刻印で被害は少なくとも受けたくはない。
「これで、終わり、かな」
 後方から放たれたのはグラルスの火の結晶だ。
 凍えたミズチの身体を灰になるまで燃やし付くし、火は消えていく。
 4人は、他の仲間達が戦っている青龍へと、視線を向けた――


○青龍戦
 がちん、と青龍の尻尾と冬樹の盾が交わり離れていく。
 青龍の姿はや以前の依頼と同じ、否、やはり小さく見えた。
 所詮複製…贋作なのだろう。
 しかし戦力はあまり変わらない気がする。冬樹は息をついた。

「硬かろうが柔かろうがどうでもいい、枯れ落ちろ」

 後方から飛んでくる銃弾―敵の装甲を破る為に腐敗のアウルを混めたその弾丸を遊夜は放つ。
 それに合わせ征治は剣にエネルギーを貯め、振り抜く。剣からは黒い光の衝撃波が生み出され青龍を凪ぐ。
 ギャアア、と叫びを上げながらも青龍はぐるりと尻尾で辺りをなぎ払う。
 撃退士達も、周りのものも、だ。――と言ってもこの辺りには廃れたものしか、もうないのだが。
 冬樹は盾を構え攻撃に備えていたが、数歩弾き飛ばされて膝を地面に落とした。
 征治はその尻尾を何とか避けきると辺りを見る。
 声が、聞こえたからだ。
 征治達の向かい側、青龍の背がある方向から――。

「お待たせしました!」

 紘人はにこり微笑んで、符を構えた。紘人達4人。次いで―
 玲獅達4人も駆け寄ってくる。
 青龍を囲んで作るのは両翼包囲。逃げらぬように、効果的に攻撃を加えれるように。
 11人の撃退士は再び各々の武器を構えて青龍を見た。

 先ほどまで青龍を守っていた火鼠も、化蛇も、ミズチももう居ない。
 攻撃をするべき敵は1体だけ。分かり安すぎる構図だ。
 
 先ほど放った攻撃のせいで動けずに居る青龍に向けて攻撃を放ったのは――

「黒玉の渦よ、すべてを呑み込め…!ジェット・ヴォーテクス!」

 詠唱を終えたグラルスからは巻き起こるのは漆黒の風。青龍を巻き込み、飲み込んでいく。
 ぐぐ、と青龍は身体を動かそうとするが意識が朧なのかぴくりとしか反応は無い。
 裁きのロザリオを構えた玲獅は光の矢を無数に放つ。矢は青龍にぶつかると消えていった。
 紘人が投げた符は青龍に向かっていく。

「来れ、常闇の捕縛者よ!」

 叫んだ言葉に反応して符より放たれたのは夥しい数の影。それらは青龍へ絡みつき動かぬ身体をさらに動かぬようにさせた。

「こいつも金属が効果的なのかな!?」

 そう問いかけながらも青龍を攻撃するのは英斗だ。英斗のスネークバイトは青龍を切り裂いていく。
 やはり、そうだ。五行思想の金属性が弱点なのだ。笑う、英斗。
 幸桜は後方から弓で援護射撃を行う。

「兵士がその場を戦い抜けば戦術に影響を及ぼすこともできる」
 マリーは静かにそう言った。大剣を構えて駆け出す―
「要するに、目の前のことをやり抜けば『世界は変わる』ということだ」
 そして青龍に向けて―振り下ろした。
「何事もね」
 マリーは、薄く微笑んで青龍から離れる。攻撃を受けた青龍は意識を戻したらしい。撃退士達を睨んでいた。

「そんな枝ではこの攻撃は防げまい、叩き潰せ」

 変わらず冷刀マグロを構え、振り下ろし青龍を潰さんとしているのは更紗だ。
 流石に大きい為簡単には叩き潰せないが、凹んだのが見えた。
 氷鮫の手には大きな弓があった。構えては青龍へと放つ―。
 矢は黒い影で縛り付けられた青龍へと向かった。
 己に向けてヒールを放つのは冬樹だ。先ほどの攻撃で減らされた体力を補う。
 遊夜は先ほど放った攻撃の中心点―腐敗の中心点をマイク越しに皆に伝えた。
 そして己も、そこへ向けて銃弾を放つ―!
 グラルスの放った火の結晶が青龍の身を削り燃やしていく。

 青龍は狂ったように蠢き黒い影の縛りを振りほどくと跳躍した。
 そして再び大地に降り立つために落ちてくる。目標地点は―玲獅、マリー達の真上だ。
 玲獅がシールドを使い皆の盾になろうと動く。マリーも玲獅の後ろに居た。
 青龍の死角―側面を狙い、征治は剣を振り下ろす。
 紘人は炎の槍を手に生み出し―青龍へと放った。
 苦しそうに声を上げる青龍へとスネークバイトを振り下ろした英斗は声を上げた。

「権現堂君!」

 名前を呼ばれた彼は弓から大剣に持ち替えて青龍へと向かう。

「撃退士は…、個々の力は小さいです…でも、皆で力を合わせれば…どんな戦いも勝てるんです!」

 幸桜は大剣を振り上げて青龍へと攻撃を加える。

「これで終わりです!」

 言葉と同時に、青龍の身体は、真っ二つに割れた。
 青く光っていた身体は時期に消滅し、見えるのは―斬られた場所から覗く年輪のみ。



○来たれ、一陽来復
 氷鮫は傷ついた仲間達を救急箱を片手に手当てをしていた。
「ここに来る前は医者を目指してたからね。血を見るのも傷に触るのも慣れてるから、大丈夫」
 言っては痛々しい傷跡も処置をしていく、氷鮫。
「…ありがとう、ございます」
 玲獅は手当てをした腕を見、微笑んだ。
「君が無事ならそれでいいよ」
 それを見て氷鮫も微笑を浮かべる。

 撃退士達は他の戦場へと視線を向ける。
 未だ戦闘の音が響く戦場もあった。
 そして聞こえなくなった場所も。
 この場所からはどうなったかは分からない。
 今はただ、他の仲間の無事を、祈るだけだった――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
夜闇の眷属・
麻生 遊夜(ja1838)

大学部6年5組 男 インフィルトレイター
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
愛を配るエンジェル・
権現堂 幸桜(ja3264)

大学部4年180組 男 アストラルヴァンガード
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
撃退士・
氷鮫(ja5249)

大学部9年41組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
アレクシア・ベルリオーズ(ja6276)

大学部5年256組 女 バハムートテイマー
屍人を憎悪する者・
蘇芳 更紗(ja8374)

大学部7年163組 女 ディバインナイト