●The Dark Soldier
黒いオーラを纏い、その戦士は林の中を闊歩する。
その手には、鈍く輝く長刀。それに着いた血は、先ほど乾いたばかり。故に、また新たなる血‥‥新たなる闘争を欲する。
その前に立ちはだかるは十人の戦士たち。
(「当たり前の事だけど、負けたら死ぬ‥‥んだよね‥‥。 ハハ、今さら身体が震えてきちゃった。情けないなぁ」)
ディアボロ「ナインソウルズ」。その発している、異様とも言えるプレッシャーに、弱音が一瞬並木坂・マオ(
ja0317)の脳裏を過ぎる。それを見抜いたのか、それともはたまた偶然か。
「大丈夫。‥‥私たち、死なないよ」
橘椎名(
ja4148)の励ましに、マオの震えが、止まる。
「へへっ。実を言えば、怖いのは確かあったけど‥‥それよりも。ちょっとだけ楽しみなんだ。自分よりずっと強い相手と闘えるんだから」
「無駄話をしている暇はない。構えろ‥‥来るぞ」
眼鏡を外し、キッとナインソウルズを睨み付けた獅童 絃也 (
ja0694)の言葉に、二人とも改めて構えを取り直す。
それを確認し、ナインソウルズは自身の得物‥‥その異様に長い薙刀を、斜め右上に先を向けるようして、構えなおした。
風が、落葉を舞い上げる。
それが、両サイドの視界を覆ったその一瞬。
血戦が、始まった。
●薙刀戦〜For my Friends〜
「先手、取らせてもらうよ!」
正面から、ナインソウルズに飛び掛ったのは八東儀ほのか(
ja0415)。
事前に決められていた通り、この形態に於いては彼女がメインとなって正面から戦闘し、他の全員がその間に周囲から集中攻撃を行うという作戦だった。
だが、彼女の刃がナインソウルズに届くその前に。リーチの差か、それとも反応速度の差か。既に先に、長大な薙刀が振るわれていた。ここまでは予想通り。後は受け流して――
「っくっ、重っ‥‥!?」
大太刀に掛けられたあまりの力と、それに伴った風圧に、体勢が流される。
回避すれば、追撃の珠が飛んで来る。それを読んであえて受けたのは正解だったが、予想外があったとすれば、風圧との二重攻撃を受けた事か。
この風圧は同時に、後衛を含む全ての撃退士たちを襲った。
「ぐぁっ‥‥!」
回避を選択したマオは、2発目の珠の直撃を腹部に受けてしまい、後ろへ吹き飛ばされる。
「大丈夫か!?」
久遠 仁刀(
ja2464)が、ファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)の前で壁となり、風圧を強引に受け止めた。が、その分、仁刀自身へのダメージは、やや重い。
「ほのちゃん!」
親友であるほのかが押されているのを、ソフィア 白百合(
ja0379)が黙ってみている筈も無く。
スクロールから生み出された光弾が、連続でナインソウルズの胸に直撃。押し戻す。
「ありがと!ユリちゃん!!」
そのまま大太刀で薙刀を弾き上げ、横に一回転。胴を薙ぐようにして大太刀が振るわれる!
これはギリギリで柄でガードされ、このガードを押し切る程の腕力はほのかには無かったが‥‥
「油断大敵、ですね」
風圧の巻き上げた落葉を利用し、ナインソウルズの背後に回りこんだ牧野 穂鳥(
ja2029)。
その周りには、既に大輪の鳳仙花が咲き‥‥果実が出来ていた。彼女独特の技、「芳染矢」である。
パチりと指を鳴らすと、果実が破裂し、針状の種がナインソウルズ目掛けて射出される。 それはナインソウルズの背後に、確かに突き刺さる!
「‥‥‥!」
揺らいだその体に、二本の苦無が更に突き刺さる。
「うーん、効き具合は同じくらいかな?」
一本を物理、一本に魔力を込めて投げた緋伝 瀬兎(
ja0009)が、僅かに苦笑い。
だが‥‥武器を狙って佐野 和輝(
ja0878)が銃を構えた瞬間、魂の珠の一つが入り込み、光が輝き、すぐさま形態の変化が始まる。
「っ!」
すぐさま挑発で薙刀形態に戻そうとするほのか。だが、攻撃を行った直後で体勢を立て直せず、挑発が間に合わない。
幸いにも、出てきたのは大盾。盾を構えて防御体勢を取り、ゆっくりと傷が癒えていくナインソウルズ。
「そうはさせないよ! 薙刀で勝負しなさい!」
体勢を建て直し、声を張り上げるほのかに応じるようにして、改めて一つの魂の珠が入り込み‥‥ナインソウルズは、薙刀を構え直す。
そして大きく円を描くようにして、薙刀を振り回し‥‥全方向に風圧を放つ!
「「「くっ‥‥!」」」
回避できず、攻撃を武器で受けるしかないという事実は、思いの他、撃退士たちを消耗させていた。仁刀が壁となっていたファティナ、ほのかに庇われたソフィアの消耗は殆どなかった物の、他は全員、多少なりとも消耗を迫られていた。
土煙と落葉の舞う中。 斜め後ろに居たために衝撃が軽く済んだ絃也はそれに紛れ、接近する!
「一応は人型か。なればこの武を持ってあたるのみ!」
強く、落葉を舞い上げるほどの力を込めた震脚の踏み込み。そこから、鉤爪をつけた右腕が猛烈な勢いで突き出され、ナインソウルズの背後に突き刺さる!
衝撃に吹っ飛ばされるこのディアボロ。地面に落下すると共に、魂の珠がその体から出現し、砕け散る。
と同時に、次の珠が、その身に取り込まれる!
●鎖戦〜Trick the Trickster〜
‥‥珠が吸い込まれて、出現したのは、全身に砲口を装着した姿のディアボロ。
だが、それが全身の砲門を開く前に。 瀬兎が腰に手を当て、びしっとディアボロを指差す!
「次は鎖鞭で来なさい、あたし達が相手になるわ!」
それに応じるように、再度形態を変化させ、両手首から鎖を出したような形態となるディアボロ。
「その鎖で俺を狩れるか‥‥試して見せろ」
絃也がスクロールを使い、連続で光弾を放ち、一瞬だけディアボロの視界を遮断する。
「今よ! 緋伝流忍術【陽】の術‥‥鏡写陽炎っ!」
鏡写しのように、瀬兎の姿が割れ‥‥二つとなる。左右逆になった物の、前から見ればその姿は全く同じだ。
「ふふっ、さぁ、来い!」
構える瀬兎に、ナインソウルズは両手のチェーンを同時に放つ。
片方は見事に瀬兎本体を捕らえる事となり、もう片方は分身を貫き、その後ろにあった木に直撃、巻き付く。
「‥‥?」
ナインソウルズは、直ぐに異常を気づく。それもそのはず。現状、分身側に放った鎖は、分身を「貫いている」ように見えるのだ。それでいて血も出ず痛みも感じないように見えるようならば、異常を感じるのも、至極当然の事だろう。
だが、気づく気づかないに関わらず、作られたこの一行動分の隙は、撃退士たちが先制で集中攻撃を仕掛けるのには十分であった。
「フンッ!」
肘撃から、力を背に集中し‥‥「破山」と呼ばれるスキルを用いて背中に力を集中、鉄山靠を仕掛ける絃也。だが然し、攻撃を危険視し、鎖を手首部から切り離し自由となったナインソウルズには回避されてしまう。
だが然し、回避したその先へと、仁刀が大太刀ごと体当たりを仕掛け、回避空間を狭める。
そこへ、ソフィアの放った光弾が飛来し、爆発する!
体勢を崩したナインソウルズの首を狙うようにして、腰から抜き放った打刀を上から振り下ろす椎名。
片腕のチェーンで薙ぎ払うようにそれを弾くと、ナインソウルズは横に転がり、挑発した瀬兎と、追撃しようと接近した絃也にチェーンを再度放つ!
珠のエネルギーで強化されたチェーンは二人に向かって飛来し、元より捕縛され身動きが取れなかった瀬兎に再度叩き付けられ、絡み取るが‥‥絃也は右腕でそれを受け、ワザと鎖を巻き突かせる事で完全に縛られる事を回避した。
「さぁ、こっちに来い」
全力で手のチェーンを引っ張るが、素早く手首の部分からチェーンが切り離され、体勢を崩す事にはならなかった。
この攻防の隙に、「剣魂」で自身のダメージを回復し、体勢を立て直した仁刀が、再度大きく太刀をぶん回し、袈裟斬りを仕掛ける。これ自体は鎖による薙ぎ払いで弾かれてしまうが、本命を仕掛けたのは体勢を低くし、下段に潜りこんだマオ。
「いっくよー!」
体を回転させ、「ソバット」を放つ。踵が見事にナインソウルズをよろめかせ、後退させる。反撃として放たれた鎖が狙うは瀬兎と‥‥仁刀。二人とも完全に回避できず、鎖で叩かれ絡め取られてしまう。
「さて‥‥化け物相手に、どこまで通用するか」
狙い済まされた弾丸。和輝が放ったそれは、見事ナインソウルズの膝関節に当たる部分に、吸い込まれるようにして命中。 がくんと右足から崩れ落ちるナインソウルズに、更に大太刀を引きずりながらほのかが突進する!
「ユリちゃん、頼んだよ!」
「おっけ、ほのちゃん!」
そのまま攻撃すると見せかけほのかがジャンプ。直後、その下をソフィアの光弾が通り抜け、直撃する。
光弾の弾幕に紛れ接近する椎名が、スマッシュを込めた横薙ぎで逆の足にも刃を食いこませる。
ここで、再度魂の珠一つが本体に接近し、形態変更の兆候が起こる。
スクロールを広げ光弾を放ち、魂の珠を撃つ事でそれを阻止しようとする絃也だが、元より魔法はそれ程得意ではない上に、腕を縛られている。光弾は大きく目標を外れる事になる。
「仕方ない‥‥おい。他の形態に変化しようとするな」
絃也の挑発に、ナインソウルズは再度鎖鞭の形態に戻る。
このチャンスを狙っていたほのかは‥‥自身の切り札とも言える、技を放つ!
「天真正伝香取神道流・表之太刀‥‥神集之太刀っ!」
空中から、不規則な軌道を描いて着地。肩から体当たりするようにして懐に入り‥‥薙ぎ払う!
大きな傷をつけられたナインソウルズは、そのまま倒れこんだ。
●鎌戦〜The Long Run〜
「来い、その鎌でな!」
形態変化をも許さず、仁刀が挑発を仕掛ける。
その言葉通りに、鎌を持ち、巨大なマントを羽織った形態に変化したナインソウルズは、その鎌を担ぐようにして構える。
準備動作が全くない状態から、まるで地を滑るようにして突進するナインソウルズ。よく見れば、その足には、残り3つの珠がまとわりつき回転し、ホバーのような気流を発生させていた。
至近距離間合いに入り込み、迎撃しようとした仁刀は、然し鎖に依然纏わりつかれている状態。回避できずに、一撃を受けてしまう。
「流石に速いですね」
氷の破片を連射する「クリスタルダスト」を放つファティナ。高命中を誇るこの技は、ナインソウルズの素早い動きを以ってしても完全に回避できず何発か当たってしまう。だが、苦無投擲で応戦している瀬兎、スクロールの魔術を放った絃也の二人は、依然と鎖に動きを制限されているため攻撃の効果が薄い。
事実上、三人が攻撃能力を奪われている現状。残った3つの珠で命中回避を挙げているナインソウルズに対して、撃退士たちは決定打を与える事が困難だった。
「‥‥っ!」
二度目の「芳染矢」を放つ穂鳥。雨のように放たれたその種は、然し高速で移動していたナインソウルズのマントを掠めるだけで終わる。回避したその先で椎名が一直線に刀を突き出し、腹部を狙うが、鎌の柄で逸らされてしまう。
そのまま、再度鎌で仁刀を斬りつけるナインソウルズ。生命力を吸収し、ファティナが初手で与えたダメージをある程度回復する。
「何度も‥‥やらせるかぁ!」
気合で鎖を引きちぎり、束縛を脱出する仁刀。三度斬りかかろうとし鎌の柄の部分を受け止め、そのまま「剣魂」を使い生命力を回復する。
‥‥足を止めると不利なのはディアボロも承知の上だったようだ。抑え込まれる前に、全力で魂の珠を回転させ推進力を生み出し、後退する。
だが、後退すると言う事は、包囲陣を展開していた撃退士たちの、後方に張り付いた者たちに近づくと言う事に他ならない。
「死角が見えてなかったみたいだな」
和輝の弾丸がその背後に突き刺さったのとほぼ同時に、表情が全く読めない‥‥「変わっていない」椎名が腰の部分に刀を差し込む!
「やっと捉えた。‥‥ここで、負けるつもりはない」
それを確認したナインソウルズは、鎌を大きく振り回し、椎名を薙ぎ払う――そう、既に挑発の効果は、解けていたのだ。ダメージも軽くはない物の、それよりも回復されてしまった影響の方が大きい。だが、ここで離してしまっては、また逃げられて消耗戦となる。
「今の内に集中砲火だ!」
仁刀が猛然と前進し、今度こそ武器ごとナインソウルズ押さえ込む事に成功する。ここがチャンスとばかりに、撃退士たち全員の攻撃が、一斉にこのディアボロに殺到、炸裂する。
「さっきのお返し、させてもらうよ!」
マオの猛烈な蹴りがディアボロの腹部にめり込んだのと同時に――
「錬撃も飽いた、では本来の武を持って相対させてもらう‥‥手向けとしてこの技を食らって逝け!」
自らを縛っていた鎖を跳ね除け、全力を込めた絃也の拳打が、ディアボロの背後から体に深くめり込む。
だが、捨て身の一撃を放ったその代償は、大きかった。
ディアボロの最後の一撃は、彼の肩口に深くめり込み‥‥彼はディアボロと共に、崩れ落ちた。
●砲戦〜Collapse〜
即座に変化したナインソウルズが取った形態は、砲撃。
図らずとも撃退士たちの望んだ形態となった訳だが、それでもマオは念のため、挑発をする。
「飛び道具なんて卑怯‥‥だけど、敢えて相手をしてやる!」
その瞬間、三発の砲撃が撃退士たちを襲った。
狙われたのはマオ、ソフィア、穂鳥。
マオは味方から離れ、横に飛ぶ事で回避するが、地面への着弾の爆風に当てられ、更に横に飛ばされる。
穂鳥は木を利用してダメージを軽減するが、爆発の威力は木を折り、余波は彼女を吹き飛ばす。
「‥‥全く、恐ろしい威力ですね」
そしてソフィアは‥‥
「ほのちゃん!?」
「大丈‥夫‥‥。ユリちゃんだけは‥‥絶対に‥‥!」
薙刀の際にも直撃は無かったとは言え、何発か攻撃を受けたほのかの体力は、限界に近づいていた。それでも執念で、手放しそうになる大太刀の革紐を自分の手に巻き付け、それを支えとし、意地で立っていた。
だが、意地だけでは、動かない体を動かせても‥‥攻撃は出来ない。
容赦なく、ナインソウルズは、三つの砲の一つを彼女に向ける。
「私に‥‥付き合ってもらう」
椎名が挑発を仕掛けると共に、
「敵はこっちだ」
和輝の放った銃弾が、砲身を弾き上げる。と同時に、ファティナの放った光弾が背後から直撃。ナインソウルズの体を前のめりにさせる。
「よくも、ほのちゃんを‥‥!!」
怒りに燃えるソフィアは光弾を連続で放ち、次々と爆発させる。
巻き起こった落葉に紛れ、マオと椎名がそれぞれ前方と右側から接近する。
「即席とはいえ、ある程度は合わせられる。行け!」
和輝が銃弾で弾幕を展開し各砲口に当て、一時的に狙いを逸らす事で援護する。
接近したマオは隙を見て攻撃しようとした物の、砲口が改めて自分に向けられたのを感知。急遽回避に移る!
爆発音。
狙われたのは、マオ、和輝、そして椎名。
和輝は砲弾に弾丸を当ててそらそうとする物の、目に見えない程度の高速で飛来する弾丸に当てるのは困難極まりない事であり‥‥また、運よく当たったとしても、速度が同じである以上、重量の軽い銃弾が重い砲弾に弾かれるのが当然であった。 結果として、彼は直撃、爆発をまともに受けてしまい、木に叩き付けられる事となる。
椎名は回避ではなく受ける事を選び、こちらも吹き飛ばされる者の、ダメージは軽めで済んでいた。
回避に集中していたマオは、それでも爆風で吹き飛ばされて気を失う。回避はそれ程高くなかったのに加え、今までの戦闘でのダメージが蓄積しすぎていたのだろう。
別の木の裏から、針の弾丸が放たれる。
最後の「芳染矢」を撃ち出した穂鳥は、木から木へ移動し、再度後ろに回りこむ方針に切り替えたようだ。挑発目標であったマオをロストしたディアボロは、他の者に照準をつけるが‥‥
「させない! はぁぁっ!」
残りの「鏡写陽炎」を全て囮として放出する瀬兎。砲の狙いは期待通り彼女たちと椎名に定められ、放たれた。
巻き上がる砂埃。だが、その中から苦無が飛来し、ナインソウルズに突き刺さる!
「命が一つだからこそ、あたし達は精一杯生きて、精一杯足掻くのよ。‥‥あんたには死ぬまで理解出来ないかも知れないけどね。」
瀬兎は圧倒的な「速さ」を以ってして、回避に成功していたのだ。
これによって作られた隙に、仁刀が大太刀を横に構え、接近する。
「勝つための『道』を作ってもらったんだ。 あいつらのためにも、絶対に勝つ!」
敢えて一手を消費してまで、付け替えたスキルは「スピンブレイド」。曲線的な軌跡を描くその太刀は、ナインソウルズの脇腹に吸い込まれるようにして突き刺さった。
「人間相手に通用する手でも、ディアボロじゃ通用しない事があるんだね。成る程、一つ勉強になったよ」
復帰した和輝が、涼しい顔をしたまま銃弾をディアボロの頭部に打ち込み、ソフィアとファティナによる光弾の弾幕に紛れ椎名も接近し、その片腕を一直線に切り裂く。
今度の砲撃が狙ったのは、椎名、仁刀、そして‥‥ほのか。
回避が出来ないと悟った仁刀は――
「最後まで、付き合って貰うぜ!」
敢えて全力で刀を捻りながら押し込む!
爆発音。
ナインソウルズが崩れ落ちたのを見届け‥‥仁刀とほのかが、その場に倒れこんだ。
●盾戦〜The Exhaustion〜
この時点で、撃退士たちの内、既に絃也、マオ、仁刀、ほのかが戦闘不能となっていた。
(「ほのちゃん‥‥もうちょっとだけ、我慢してね」)
ソフィアは、親友であるほのかの安否が気に掛かり、今でも彼女を救出したい状況だった。
だが、既に人数を欠いた現状で、更に自分が抜ければ、他の味方の安否すら危うくなる。
そう考えたソフィアは、心配を胸の奥に仕舞い、キッとナインソウルズを睨み付けた。
前衛を欠いた物の、無事攻撃しないタイプである盾を引きずり出す事に成功した。
だが、それでも、不明タイプの魂を警戒して、撃退士たちは挑発を行う事としていた。
「我が名はファティナ・フォン・アイゼンブルク!
今亡き先達の無念を晴らす為、我が家の名と誇りに懸け貴様に決闘を申し込む!
貴様の盾の護りが我が魔導の力より上か、いざ尋常に‥‥勝負!」
剣を掲げ、ナインソウルズを指して堂々と挑発するファティナ。じりじりと盾を構えながら接近するナインソウルズに、まだ体力に余裕が残っている者‥‥ファティナとソフィアが、攻撃を開始。
放たれた光弾は、盾の横からナインソウルズに直撃したかに見えたが‥‥まるで盾に吸い込まれるようにして盾の前で停止し、一瞬の後、逆にファティナとソフィアに飛来する!
「うっ‥‥!? まさか、そのまま返して来るなんて」
ファティナは武器で跳ね返された攻撃を受け、ダメージを軽減させる。 高い魔法防御を持っていたのが幸いし、大してダメージは加算されていない。
ソフィアには、より高い魔法防御を持っていた穂鳥が壁となり、攻撃を受けた。
「自分より強い相手に対しそう思うのはおこがましいのかもしれないけれど‥‥それでも私は、ソフィアさんを守りたいんです」
この隙を突き、残りの全員が一斉に体勢を崩したナインソウルズに集中砲火を浴びせる。
(「まるで要塞だな」)
隙を狙った和輝は、然しナインソウルズの全身を見ても、それらしき物を見つける事はできなかった。放たれた何発かの弾丸は、ナインソウルズの体の表面に少し食い込むだけで、痛打には至っていない。
頭部狙いでジャンプし、体重を乗せて落下しながら苦無でその頭部を突き刺した瀬兎は、然しカキンと言う鈍い音と共に、手が痺れるような感覚に襲われる。
「硬っぁ‥‥! 防御特化の形態と言うのも、伊達じゃないみたいだね」
盾のナインソウルズは、物理攻撃には確かに強かったが、どうやら魔法攻撃の耐性はそれ程でも無かったらしい。 これに気づいた撃退士たちは、瀬兎と椎名が先制攻撃を仕掛け防御形態を解除させてから、魔法を扱う三人が集中砲火を浴びせる、と言う手段を取る。
「うっ‥‥」
カウンターの盾で殴られ、椎名が後退する。
先ほど砲を相手していた際に挑発を行ったため、彼女もかなりダメージが累積していたのだ。
行動不能ターンに撃破できるよう、生命力を調整している余裕は、撃退士たちには無かった。
総力で撃破しなければ、カウンターを受けている前衛はどんどん消耗する事になる。
撃退士たちは、総力で盾のナインソウルズを撃破しに掛かる。ファティナの放った最後の「クリスタルダスト」の氷片に紛れ、和輝の「ストライクショット」が、終に盾を貫き、ディアボロ本体に直撃する。
盾の魂珠が、ディアボロから出現‥‥そして砕け散った。
●魔剣戦〜Sword in the air〜
最後の魂の珠がディアボロに入り込むと共に、空中に一本の剣が出現する。
一本だけポツンとそこにある姿は、見方によっては滑稽に見えなくもない。それもそのはず。この形態は本来、全ての魂の珠を共に剣に変化させ、一斉に周囲を薙ぎ払う物だったからだ。
だが、空中に浮かぶそのたった一本の剣は、そんな油断も軽視も拭い去るほど、禍々しかった。
「これが最後‥‥待ってて、ほのちゃん!」
先手必勝とばかりに、「エナジーアロー」を発射するソフィア。ファティナと穂鳥の放った光弾が直撃し、和輝の「ストライクショット」が貫通するようにして命中する。
(「回避しようともしていない‥‥?」)
一抹の不安が和輝の脳裏を過ぎる次の瞬間。まるで生き物のように、剣が飛来し、彼の意識を刈り取った。
大範囲を薙ぎ払った空飛ぶ剣が通過した後。立っていたのは、これまでのダメージが少なめであったソフィアとファティナのみ。だが、回避せずにまともに攻撃を受けたせいで、ナインソウルズのダメージも、決して軽くはない。
(「穂鳥さんまで倒された‥‥」)
二人とも、心配している友人が居る。一刻も早く、このディアボロを撃破したいと思っている。
お互い顔を見合わせ‥‥彼女たちは、決断した。
猛然と、ディアボロ接近する二人。剣が遠隔操作できる以上、後方での退避は余り意味を成さない。ならば寧ろ接近し、攻撃手段を持たない本体の近くに居た方がいい。
ナインソウルズもその意図に気づいたのか、剣を呼び戻そうとする。
至近距離から光弾の連射が放たれたのと、剣が二人を薙ぎ払ったのはほぼ同時。
‥‥爆風の後。
ソフィア、ファティナが、ゆっくりとその場に倒れる。
ナインソウルズの剣が、再度が空中で一回転し、薙ぎ払おうと動くが‥‥本体が崩れ落ちるのと同時に、剣もまた落下し、地に突き刺さる。
―――そのまま、静寂が訪れた。
●The Draw
次にファティナが目を覚ましたのは、久遠ヶ原学園の保健室。
「あら、目覚めたのね。良かったわ」
「先生‥‥私たち‥‥」
「皆、無事よ。 倒れる前にディアボロはちゃんと倒せたみたい。尤も、その死体は天魔に回収されちゃったみたいだけどね。 あなたたちは‥‥捜索チームに発見されなかったら、どうなってたかは知らないけど」
少しだけ冗談めいて言う保険医。これも心配が解けた裏返しなのか。
隣を見れば、友人たちが眠っている。
相打ちに近い形とは言え、誰一人として失わずに、凶悪極まりないディアボロを討伐できたのは、彼ら、彼女らの努力の賜物だ。
今は、休もう。
再び、ファティナは目を閉じた。