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マスター:剣崎宗二
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/28


みんなの思い出



オープニング

●共同作戦

「ふむ。‥‥半々、か」
「何を読んでるっすか、兄貴」
 報告書のような物を読む天使――エクセリオの後ろから、彼の妹、リネリアが、彼の背中に飛びつきながらその文書を覗く。

「何と言うことはない。単に例のブツの収集状況の報告書だ」
「むむ、状況はどうっすか?」
 きょとんと首をかしげ、問いかけるリネリアに、エクセリオが苦笑いする。
「悪くはない。しかし、良くもない。‥‥足りるかどうかの可能性は半々と言った所か」
 立ち上がり、彼の戦闘着であるロングコートを羽織る。
「わ、珍しい。出かけるんすか?」
「‥‥ああ。前回の襲撃でも、俺は後方で黙っていたからな。‥‥そろそろ働かねば、参謀の肩書きが泣く」
「それなら私もついていくっす!」

「何?」
 規則正しいリズムを刻んでいたエクセリオの足音が、止まる。
「お前が出る程の事ではない。俺だけで十分、出来る任務だ。それとも何か?兄の策略謀術が、信じられないのか?」
「そういうわけじゃないっすけど‥‥やっぱり、参謀の兄貴が前に出るのは心配っすよ」
 冷たいエクセリオの目を、やさしく見上げるリネリア。
「兄貴は元々直接戦闘向きじゃないっす。手勢は多ければ多いほどいいっすよ。オーレリアさんの騎士たちは、一度帰ったんじゃないっすか?」
「むう‥‥」
 そこまで言われては、断れない。何よりも、リネリアの自身を心配する気持ちも分かる。
 ――渋々、エクセリオは、彼女の同行を承認する。

 だが、リネリアがエクセリオを心配しているのと同じように。エクセリオもまたリネリアを心配する。
 故に、彼は、とある者に援護を頼む事となる。


●アサルト・カウンターアサルト

「すまんな。前の出撃で疲れているだろうに、無理を言ってしまって」
「いえ、お誘いいただけるとは、光栄です。参謀殿の手腕、じっくり観察させてもらいました」
 崖上から、ハントレイがエクセリオの方を見つめる。
 純粋な敬意と、餓えに満ちた瞳だった。学べる部分があれば全て学び取り、それを己の力に変えようとする、力への渇望。
「……俺ではまだ、こうはいかない」
 悔しげに呟くのは、エクセリオにすら『勝とう』と考えるが故か。

 取られた手段は、前回と同じ。辺縁地区に於いて、わざと小規模なサーヴァントによる襲撃を発生させ、そこに来た撃退士たちを襲撃する事によりヒヒイロカネを奪うと言う物だ。三天使と、その配下による一斉襲撃に、準備しておらず、敵の情報も欠けていた撃退士たちが迎い撃つのは、余りに困難だった。

「あ、兄貴、見つけたっすよー」
 リネリアが、ヒヒイロカネを一つ拾い上げた瞬間。
 慌ててリネリアが伸ばした手も間に合わず、中央に発生した爆発によって、崖が更に崩れ――エクセリオは崖下へと落とされてしまう。
「兄貴!」
「エクセリオさん!」
「ハントレイ、リネリアを頼む‥‥!」
 前回のエクセリオの襲撃以来。襲撃を識別する方法がないとは言え、何か異常を感知すれば直ぐに出撃できるよう、久遠ヶ原学園はバックアップチームを備えていた。
 その撃退士の姿を見て、エクセリオは最後に、ハントレイにそれだけ叫んだ。


●Side・謀略の徒

「ぐ‥‥!」
 崖下へと転落したエクセリオが起き上がる。
 周りを見渡せば、そこにあったのは土石と‥‥サーバント。
 飛行できる者と、一緒に落下した地上タイプのサーバントが僅か。飛行型は恐らくリネリアが、単独では戦闘できない兄を心配して降下を命じたのだろう。
「まったく‥‥」
 だが、エクセリオは寧ろリネリアの方が心配だった。

 エクセリオは自身の能力と、策略に自信を持っていた。
 例え、付近から撃退士が接近してきていると、飛行サーバントからの報告があっても。自分の力を以ってすれば、最悪脱出するのは問題ない。そう信じていたのである。

 だが、愛する妹は別だ。

 妹の能力は寧ろ、サーバントの生産、訓練に向く物である。純粋な戦士ではない。
 そして何よりも‥‥兄として、たった一人の妹への脅威は、見過ごせない物なのである。
「まだ‥‥無事か」
 こういう事態に備え、妹にはレディエイトダガーを身につけさせてある。故に状況の把握は可能。
 だが‥‥そのダガーは、妹の方へも撃退士たちが到着していた事を示していた。
「‥‥仕方あるまい。‥‥さっさと退け、向かわないとな」
 周囲にダガーがばら撒かれる。『陣』が展開される。
 身内の危機は、この天使から『余裕』と『容赦』を奪い去っていた。
 だが、冷静さを失っていない。寧ろ、最速の救助を行うため‥‥彼の思考は更に、冷酷、合理的となっていた。
「お前たちの主を救うためだ。全力で‥‥命を使っても、目の前の敵を駆逐し‥‥突破せよ!」
 その身の負傷をも省みず。サーバントたちが、一斉に。まるで『了解した』とでも言うかのように、咆哮を上げた。


●サイドデータ
 今回の敵は並大抵の者ではない。故に、出発前に、彼に臨む撃退士たちには、敵のデータが渡されていた。


「百計千詐」エクセリオ(登場依頼:【封水】不測風雲、【四国】Information Warfare):
天使。騎士団『参謀』。
能力が極端にまで防御回避に偏っている為に攻撃力はほぼ皆無ですが、指揮能力と凶悪な特殊技によってそれを補っている天使です。
今回は妹であるリネリアがやや気がかりですが、一刻も早く彼女を救出するため、最大の冷静さを以って指揮をしております。

【D-テクト】
何らかしらの道具、スキル効果の範囲内に居る際、その使用者の位置を正確に認識できます。

【R-ダガー】
『マーキング』に近い効果を持つスキル。不可視、痛みを伴わないダガーを目標に打ち込み、その目標の位置や、その『2m以内で発生した全ての情報(視覚、嗅覚、聴覚等を全て含む)』を10分間得られる。(ただし、それが味方等、相手が望んで受け入れている場合ならば、永続効果となる)
 尚、初期状態ではサーバントの内半数強に付与されております。

他に半径30m内に効果を及ぼす『陣』を使用できます。
これらは同時併用が不可能で、発動、切り替えに1ターン消耗します。(切り替えている間は陣の効果が消えます)

【人狩りの概率論】
範囲内の敵対する『人間』キャラクターは、全ての判定に於いてダイスを振る際、80%で出目が1となります。但しこの結果によってファンブルすることはありません。

【悪魔祓いの統一論】
詳細不明。敵対する悪魔種族に影響を及ぼすと推測されております。

【神僕たちの強制論】
詳細不明。敵対する天使種族に影響を及ぼすと推測されております。

尚、ハーフのキャラクターは各陣の影響を「半分」受けます。(【人狩りの概率論】の場合、1になる確率が40%です)



キャリオンフライヤー×2:
空を翔る小型翼竜型サーバント。小柄ですがそのパワーは中々の物。
飛行能力は「闇の翼」同等です。

【ウィングキャリアー】
味方を掴み上げ、飛行させます。
目標キャラクターは飛行を得て、このキャラクターはその間他の行動はできません。

【バスターウィング】
強靭な羽ばたきと突進で敵を吹き飛ばします。直線範囲射程3命中時ノックバック3スクエア。



ヘッドラプトル×3:
強靭な頭蓋を持つ恐竜型サーバント。機動力と攻撃力に優れ、高い跳躍力をも持つ。

【ヘッドクラッシュ】
「兜割り」相当。強烈な頭突きで目標をスタンさせます。

【ガンレイド】
「回避射撃」相当。口に含み、固めた小粒の岩弾を飛ばし味方への攻撃を逸らします。


リプレイ本文

●初手の攻防

(「好機と言うしかないわ。‥‥そう、好機と‥‥!」)
 表面の僅かに浮かぶ微笑の裏腹。暮居 凪(ja0503)は、狂喜していた。
 目の前には、自身に捕虜としての屈辱を与えた仇敵。しかも、今回は自分たちの方が『奇襲』を仕掛けた状況となる。

「凪姐、油断は禁物」
「あやつはそう与し安い敵ではない。そうだろう、第三席」
 新旧二人の主。君田 夢野(ja0561)とフィオナ・ボールドウィン(ja2611)の声に、彼女は心を引き締める。
「そうね‥‥みんな、作戦通りに」
 凪の言葉を合図に、撃退士たちが散開し、それぞれの行動に移る。

 後退し、陣の範囲外に出たエルレーン・バルハザード(ja0889)。
 ‥‥かと思えば、次の瞬間。

 ――┌(┌ ^o^)┐

 その姿は、奇妙な生き物に変化していたのである。
「シリアス?そんな、私に役立たないモノは投げ捨てた!」
 その宣言もどうなのだろうか‥‥
 だが、ギャグのような行動とは裏腹に、構えられた大型ライフルは、十分に陣の外から敵を狙える代物だ。
「皆、気をつけてね、崩れるよ! ――とんでけ!私のかぁいい┌(┌ ^o^)┐ちゃんたちーっ!」
 エルレーンだった何かから放たれたオーラが、無数の┌(┌ ^o^)┐に変化し、付近の岩を突き崩す。射程は彼女の狙撃銃程長くは無い故に、主戦場のかなり後ろの物となったが‥‥

(「絶対に勝って‥‥皆で無事に帰るんだから」)
 心に強き決意を秘め、若菜 白兎(ja2109)のその目の前に星と白馬の紋章から無数の水矢が射出される。
 天使と人のハーフである彼女。それ故にエクセリオの陣の干渉も弱く、水の矢は空を飛ぶ飛竜に突き刺さる。
 
「はやいはおそい、おそいははやい‥‥BPMゼロの斬撃、躱せるか!」
 夢野のその剣先が僅かに揺らいだかと思えば、目に見えぬ一閃がラプトルの一体の顔面に斜めに傷をつける。
 硬い頭蓋が無ければ、今の一撃はラプトルの頭部を両断し、撃破していただろう。

 激闘を横目に、凪はエクセリオに向けて接近する。
 サーバントたちの妨害も考えていたが、その様子はない。全てのサーバントたちが、自分たちを攻撃している撃退士たちの迎撃に専念している。
 好都合だと思う一方、凪には僅かな不安もあった。
 ――余りに上手く行き過ぎている。自分たちは誘い込まれているのではないか、と。


●参謀の考慮

 一方、エクセリオもまた、悩んでいた。
 撃退士たちの内、多くの者が阻霊符を使用した事を、彼のD−テクトは探知していた。
 これによって、彼が最初に用意していた三枚のプランの内、二枚は潰された事となる。残り1枚を運用するには‥‥状況がやや悪いか。
 だが、それで手が尽きるようでは、彼は騎士団参謀とは言えまい。
「集中攻撃――ターゲットセット。飛竜から順次、妨害者を排除しながら撃破せよ」

 飛竜たちが一斉に咆哮をあげ、飛び掛ったその先は――夢野。
 最もサーバントに大きなダメージを与えたのは、彼だからである。
 飛び掛る飛竜の体当たりが、夢野に直撃するその直前。マクシミオ・アレクサンダー(ja2145)が、彼の前に立ちはだかる。
「攻め手になれねェ、なら。これぐらいやらねェと‥お前らに、申し訳が立たねえよ」
 ガン。風圧と体当たりの衝撃が、彼に直撃する。
「ぐお‥‥!」
 ダメージもさることながら、味方を庇護の翼で庇う事によって受けてしまった、二倍の吹き飛ばし効果が大きく響く。マクシミオは大きく夢野から引き離されてしまう。
 襲い掛かるもう一体の飛竜。その爪が夢野に届く直前。

「弱点は見切った‥‥今までのお返し、させてもらう!」
 髪が、まるで大量に増殖し、伸びるが如く幻影。
 月詠 神削(ja5265)のその髪が飛竜を縛りつけ、その場に縫いつけ。その突進を止める。
 だが、続いて飛び掛る三体のラプトルまでは止められない。
「っ、今――!」
 白兎によって、掛けられるライトヒール。それが飛竜にから受けた夢野の傷を癒した直後、三発の頭突きがその夢野に直撃し、彼から行動能力を奪う。

 ――連携の緊密さ。それがこの状況で有利不利を分けた要素であった。
 キャリオンフライヤーの機動力による位置取りと、バスターウィングによる吹き飛ばしで、マクシミオの防御は上手く効果を成せていない。
 フィオナ、凪、そして戸蔵 悠市 (jb5251)の三名は、『次』の一手に気を取られていたのか、サーバントたちへの攻撃のターゲットを集中させられてはいない。
 神削はバッドステータスによる攻撃者の牽制に、白兎は回復にそれぞれ手を取られている。
 何れも行動の合間に攻撃を差し込んで居るものの、スタンを連続で受けて動けない夢野を除けば――実質攻撃役は、エルレーンのみと言えただろう。
 
「ラプトル擬人化ウケもいいなぁ‥‥」
 ――何やら物騒な言葉が聞こえたが気にしないで置こう。
 陣の範囲外からの、三度目の狙撃。前二度はラプトルたちの吐き出す岩弾に弾かれたものの、三度めのこれは、ついにキャリオンフライヤーの一体に突き刺さる。
 それによって、攻撃のリズムが崩れた。

「へへ、ついに止めたぜェ‥‥!」
 四度目にして最後の庇護の翼を展開し、マクシミオがラプトルの猛攻から夢野を庇う。
 そして、その機を逃さず、頭を横に振り、意識を取り戻した夢野の剣先が、再度、揺らぐ!
「ってぇ、よくもやってくれたな――交響撃団戦術要綱その三‥‥は、ぶっちゃけ何も考えてないが、とりあえずテメェはぶった切るッ!」
 度重なる頭突きのダメージにも関わらず、狙いは相変わらず精密で。
 余りの速度に不可視となった剣閃は、今度こそラプトルを引き裂いた。


●その身は駒の一つなり

 ラプトルが倒れた瞬間。散発的に攻撃をしながら、様子見をし、準備をしていた三人――フィオナ、凪、そして悠市が、動いた。
「行け!」
 悠市が召喚したスレイプニルが地を駆け、エクセリオに向かい突進する。
 だが、それがエクセリオから、僅か10mの距離に届いた瞬間。突如天馬は、その場で回転し、停止する。
「無理を通すためのサポートが必要というなら…やるしかあるまい」
 彼の掲げた手は、『本命』への合図。
「後は‥‥真打に任せることとしよう。――今が好機!」
「援護に感謝するぞ戸蔵!」
 スレイプニルにより、視線から遮られた死角。R−ダガーの効果も、サーバントたちが離れた前線で交戦している状態では意味を成さない。風精の加護によって僅かに地から浮き上がったフィオナが。空を駆け抜けるように、布を纏ったその右手を振り上げる。
 咄嗟に身を翻し、その拳打を回避しようとするエクセリオ。しかし――
「今こそその借り、返すわ」
 漆黒の杖を持った凪の光纏が、数式状に分解され、フィオナに纏わり付く。
 その数式は、フィオナに悪魔の力を与え、天の力を持つエクセリオを追跡するかの如く、その腕は彼のロングコートを捉える!
「我が円卓三席になした狼藉‥‥贖ってもらうぞ!」
 足払いからの、全力での一本背負い。地に叩き付けられたエクセリオに馬乗りとなり、重力の力を込めた鉄拳を、振り下ろす!

 ――ガン。
「ぬっ!?」
 その手応え、鉄柱を打つが如く。
 いや、今の一撃。例え本当に鉄柱だったとしても、ひしゃげさせられていただろう。
 にも拘らず、眼前の天使は、僅かに体を曲げただけで、表情を歪める事はなかったのだ。

「――何故にお前たちが接近する際、我が配下たちは救援する素振りも見せなかったのか?」
 ――そもそも、事前の聞き込みで、既に情報は得られていたはずだ。
 この天使は『能力が極端にまで防御回避に偏っている為に攻撃力はほぼ皆無』。逆に言えば、その天使としての力の全てを『防御と回避』に注ぎ込んでいるのだ。
 考えて欲しい。今までに交戦した騎士団の攻撃能力を。若しも彼らが――そう、その破壊力を、全て『防御と回避』に注ぎ込んだら、どうなっていただろうか?

「くっ‥‥」
 振り下ろされる凪の杖。それをエクセリオは敢えてその身に受け、そして掴む。
「例え貴様が本当に鋼鉄で出来ていたとしても、我は円卓の主として、それを打ち砕いて見せよう!」
 振り下ろされる鉄拳。それを受けるエクセリオ。ダメージがない訳ではなかろうが、予測していたよりもずっと悪い。
「俺自身もまた、盤上の駒が一つ。――参謀の意地、見せてくれよう」
 それを聞いた戸蔵が考える。果たして、『捉えられた』のはどちらなのか、と。
「私までここで固められる訳には行かない‥‥行けっ‥‥!」
 スレイプニルに命じる。味方を援護に行け、と。
 だが、既に前線の戦況は、変わりつつあった。


●限界ライン

「流石は円卓の主だぜ。あの度胸は真似できねェな」
 単騎特攻に向かうフィオナに、マクシミオが感嘆の声を漏らす。
 その時。
「対ハントレイ班のレグルスです!」
 通信機から、声が伝わる。
「狙撃班があなたたちを狙っています! ‥‥そこから見える高い岩や崖を教えてください!」
「もしもし、ぷりてぃーかわいーえるれーんちゃんだよっ。んー、崖は、3箇所あるけど‥‥どれも上の状況は分からないかなっ」
 戦況を見ながら、エルレーンは通信機に語る。
「了解です……ありがとうございます!」
「どういたしましてー☆」
 通信機をピッ、と切る。

「きゃあっ!?」
 盾の上から、何とか夢野を狙ったラプトルの頭突きを食い止めた白兎。
 ――が、回復手である彼女がスタンを受けるという事は、それ即ち回復の断絶を意味する。
 カウンターに構えた槍は、深々とラプトルの足に突き刺さっていた物の、己の役割は果たしたとでも言うかのように、それは後退する。

 ――上方から降り注ぐ、巨大な矢。
「ちぃっ!やらせるかァ!」
 もう一人の防御の要――マクシミオは、エルレーンから伝えられ情報を元に、直ぐにその矢の狙いを探知し。夢野を守るべく走る。
 が、その前に立ちはだかる飛竜。羽ばたきにより、押し戻される。
「邪魔すんじゃねェ!」
 振るわれる白銀の槍。然し、もう一体のラプトルが吐き出す岩弾に弾かれる。
「君田ッ、避けろ!」
「っ‥‥!」
 マクシミオの叫びに反応し、大剣を掲げ振り向く夢野。然し、白兎の『神の兵士』があるとは言え、蓄積されすぎていたダメージと。未だ止まぬエクセリオの陣の効果が。その矢を、彼の身に引き寄せた。
 僅かに剣先が矢の先をずらし。だが完全には逸らせず。
 矢は彼の腹部を貫き、地に縫いつけた。


●泥沼の戦争

「そんな――!」
 夢野に近寄る白兎。幸い、かなり危険な所まで行ったものの、やはり長距離狙撃と言う事で、急所は貫通されておらず命の危険はないようだ。
 だが、ほっと一息つく暇もない。容赦ないサーバントたちの攻撃が、次の目標へ襲い掛かる。

「――!」
 魔力を帯びた神削の妖艶な微笑みが、彼に飛び掛る飛竜の動きを止める。
 精神に干渉するその魔力が、サーバントの動きを混乱させ。飛竜の攻撃をラプトルの一体に向ける。
 すぐさまラプトルが反撃。クロスカウンターのような頭突きで飛竜の動きを止めると、残りのラプトルと共に、神削へと襲来する。
「通しは――しねぇ!」
 シールドごとタックルを仕掛け。マクシミオが自身に攻撃の目標を集めようと奮闘する。
 然し、この時点ではラプトルたちは彼を相手にするつもりは毛頭無く、仰け反ったラプトルはそのまま尾を地に叩きつけ、跳躍力を以ってして、彼の頭上を超え、神削に襲い掛かる。

 ――防衛役が、自身にターゲットを集めるには、敵に十分な「脅威」を与えなければならない。
 何か敵に『自身を攻撃しなければならない理由』を与える必要があるのだ。
「この、このぉ――ッ!」
 エルレーンも、また、『距離が遠い』と言う理由で、攻撃を受けていない。
 最も、それこそが『自身が自由に攻撃できるようにする』と言う彼女の狙いかも知れんが。

「‥‥まだまだ!」
 地の防御力だけで言えば、神削のそれはマクシミオをも上回る。スキルが防御寄りではない差は出るが、それでもそう簡単には倒れない。
 魔力の篭った微笑を、再度、飛竜の一体に向ける。
「!?」
 今度は先ほどのような効果はない。
 この技は、確かに『人狩りの概率論』の影響は受けない。だが、それでも『抵抗される』可能性は存在する。
 連続で頭突きが直撃する。スタンの効果もあり、これ以上喰らい続けるのは危険だ。
「今、回復させます‥‥!」
 ライトヒールは既に尽きている。スキルを切り替えた白兎が、辺り一帯に癒しの風を放つ。
 それは、混戦状態になっていた一帯の全ての者を回復させる。

 ――そう。サーバントたちを含んだ『全ての者』を。

 最大火力である君田が倒れた今。両方同量の回復を得られた場合、どちらが有利になるかは明白であった。
 次々と放たれる頭突きに、身の危険を感じ。包囲の外へ出ようとする神削。
 それを援護するかのように、悠市のスレイプニルが駆け抜け、ラプトルたちを蹴散らす。
 その隙に跳躍し、空中に舞い上がった神削。しかしその先には、先ほど与えた幻惑から回復した飛竜が――


●心の乱れ

 神削を倒した。次に狙われた白兎が撃破されるのもまた、時間の問題だろう。
 状況は、自軍に有利。このままであれば、自身の生命力が尽きる前に、戻ってきたサーバントたちが自身を攻撃する二名を撃破するだろう。

 ――フィオナの鉄拳と、凪の杖撃をその身に受けながら、エクセリオはサーバントたちの目を通し、状況を観察していた。
 が、その時、彼に衝撃が走る。
「リネリア――!」
 妹に渡したダガーが、彼女の負傷をエクセリオに知らせる。
 僅かな動揺が、彼のガードに隙を生じさせ、今まで防いでいた喉元への一打を許してしまう。
「がっ――」
 声が出ない。このままでは指揮を行う事が不可能となる。
 だが、その状況を察したのか、ラプトル二体と飛竜の一体が、彼の元へと急行する!

「ぬ――主を助けるか!」
 咄嗟に振り向くフィオナ。だが、陣の影響下では防御は間に合わず、彼女と凪は共に頭突きを喰らってしまう。
 援護に回る悠市は、スレイプニルに行動をさせたが故に、僅かに動作が遅れる!

 ――サーバントたちが吼える。まるで早く行け、とでも言うかのように。
「すまん、お前たち――!」
 翼を広げ、崖とは逆の方向へと舞い上がるエクセリオ。
 高い崖を越える事はそう簡単ではなくとも、逆側へ遁走するならば造作もない。
「行かせない――」
 狙撃で、その翼を消去しようとする悠市。それを庇うようにして、飛竜が射線上に入り――

 結果として、エクセリオの援護を失ったサーバントたちが、手が開いた撃退士たちに撃破されるのに、そう時間は掛からなかった。
 だが、損害は大きく。そして――
(「捕らえられなかったわね」)
 凪は、小さく唇を噛む。

 ――真に、屈辱の借りを返すには。また次の機会になりそうだ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 釣りキチ・月詠 神削(ja5265)
重体: Blue Sphere Ballad・君田 夢野(ja0561)
   <サーヴァントの一斉攻撃を受け>という理由により『重体』となる
 祈りの煌めき・若菜 白兎(ja2109)
   <サーヴァントの一斉攻撃を受け>という理由により『重体』となる
 釣りキチ・月詠 神削(ja5265)
   <陣内に蹴り返されその後集中攻撃>という理由により『重体』となる
面白かった!:4人

Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
澪に映す憧憬の夜明け・
マクシミオ・アレクサンダー(ja2145)

卒業 男 ディバインナイト
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー