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マスター:剣崎宗二
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:12人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/12/09


みんなの思い出



オープニング

「わ、本当に捕獲してきたんっすね。兄貴、さすがっすよ〜っ!」
「わっとと。‥‥リネリア、もういい年なのだから、そう抱きつく物ではない」
 濃紫の髪の少女天使――リネリアに抱き付かれたエクセリオ。
 相変わらずのポーカーフェイスではあるが、その声からは、満更ではないと言う感も聞き取れる。
 ――例えこの程度でも、彼が本当の感情を露にするのは――親族であるリネリアの前だからだろう。

(「捕獲‥‥?」)
 一人の天使が、彼らの会話に何かを感じたかのように。
 咄嗟に、壁の影に隠れる。

「お前や、ハントレイ‥‥バルシークのおっさんまでが敗北したのだ。よーく研究せねばなるまい」
 そっと、リネリアの頭を撫でるエクセリオ。誰も見ていない、そう彼が思った今だけは、その顔は『兄』としての物。
「あの捕縛した、『撃退士』と言う者はな‥‥」

「っ‥‥」
 咄嗟に声が出そうになったのを、両手で口を押さえる事で止める。
 壁の裏に隠れた天使――イールは、静かに、その場を離れる。


●幕間〜義を通すため〜

「あの人間を、解放してください」
 騎士団長オグンの前で、イールは深く、頭を下げていた。
 その隣では、彼女の上官たるアルリエルも立っている。

「‥‥アルリエルよ」
「はっ」
「お前はどう思う?」
「‥‥はい。我らは、誇り高き騎士。恩義は返さなければなりません。――騎士の持つ剣とは、信念と誇りを貫くものであると思いますので」

「‥‥‥」
 二人に背を向け、オグンは暫し、空を見上げる。

「エクセリオは納得しまいだろうな」
「はい。ですが、それでも‥‥です」
「‥‥いいだろう。但し、出来るだけ波風は立てぬように、な」
「「ありがとうございます」」
 深く一礼して、アルリエルとイールは、その場を立ち去る。

「義理と勝利、のう‥‥‥」


●突破

「‥‥全く、厳重に閉じ込めてくれちゃった物ね」
 光一つ差し込まない牢の中で、暮居 凪(ja0503)はため息を零す。

 ――天使たちも忙しいのか。捕縛してから丸1日、彼女に対して何か動きを起こす様子はない。ただ、閉じ込めているだけの様だ。
 だが、それでも、ヒヒイロカネを奪われた今、脱出はままならない。武装なしで、この檻を破壊するだけの力は、彼女にはなかった。

 コロン。
 牢の隙間から、何かが投げ込まれる。

「!?」
 それは、間違いなく、自らの武具であるヒヒイロカネ。
 頭を上げ見上げると、牢の外には、一人の天使が立っていた。

「さっさと装備をつけて出なさい」
 がちゃりと、扉の鍵が開けられる。
「あなたは‥‥? どういうつもりなの?」
「詳しく説明している暇はないわ」
 言葉と共に、凪の体から何かを抜き取る仕草。直後、その手には、ダガーが現れていた。
「R-ダガー‥‥逃走防止に、こんな物まで私に打ち込んでいたとはね」
「これでエクセリオの追跡はある程度誤魔化せるはずよ。このまま実験台にされたくないなら、早く――」

「‥‥何をしてるんですかねぇ」
 気の抜けたような声がその場に響き渡り、空気が凍る。
 後ろを振り向けば、そこに立っていたのは、神主の意匠の入った鎧を着た男。

「ったく、命に従ってパトロールしてりゃ、こんな事になってるとはね‥‥」
 その剣を、天に向けて掲げる。
「‥‥っ!」
 咄嗟に天使が、抜き取ったダガーを投げつける。
「うわっ!?」
 右肩を貫かれ、男は壁に叩きつけられる。

「貰ったわ!」
「待って――」
 ヒヒイロカネから、愛用の杖を具現化。そのまま、男が反応できる前に、天使の制止を振り切り、神速の振り抜きが、彼の胴を捉える!

「ぐぁぁぁ!」
 壁に叩きつけられる男。だが、追撃しようとした凪を、天使――イールは強引に引っ張り、そのまま壁を破壊し外へと脱出する。

「このまま、奪われた、あの子のヒヒイロカネも――」
 見上げた凪を見返すイールの目は、然し冷たく。
「‥‥勘違いしないで」
「え?」
「私は騎士団を裏切る訳じゃない。あなたを助ける事で、人に受けた恩義を返すだけ」

 大きく開かれた白き翼が、牢獄から離れていく。

「それに、確かにエクセリオが取ってきた物は全てあそこにある。けど、騒ぎを聞きつければ、直ぐに警備を固める筈。守りに徹したあの男がどれほど厄介か、知らないわけでもないでしょう」
「‥‥‥」

 二人はゆっくりと、人間たちの勢力範囲へと向かっていく。

(「騎士団も、一枚岩とはいえないのかもね」)


●追手

「しっかりしろ御門!」
「へへ、旦那、どじっちまった‥‥捕虜は‥‥イールが‥‥連れ出して‥‥いきました、ぜ」
「救護班!御門を運んでいけ!」
 騒ぎを聞きつけた天使たちが、負傷したシュトラッサー――御門 夕矢を運んでいく。

(「レディエート・ダガーも抜かれた‥‥大体の方角は目撃証言から分かるが――」)
「兄貴‥‥大丈夫っすか‥‥」
 眼鏡を押さえて、微動だにしないエクセリオをびくびくと子犬のように見上げ。リネリアは恐る恐る、問いかける。

「‥‥リネリア。動かせるサーバントは何がある?」
「え、えーっとっすね、機動力が高いのは殆ど『例のアレ』のために調整中っすから、すぐにとなると防衛用の――」
「直ぐにありったけのを全員、奪取物の防衛に回せ。ここが人に知れるのも時間の問題だ。機を見てあれを移転させねばならん。その時間を稼ぐだけでいい」
「り、了解っす!」


 ばたばたと走っていくリネリアと入れ違いに、壮年の男が現れる。
「面倒な事になったようだな、エクセリオ」
「‥‥まるで、こうなる事を知っていたかの口ぶりですね、オグン様」
「ああ。イールの行動は私が許可したからな。恩義を精算するために――」
「その恩義は、配下の命と、戦略的なアドバンテージと‥‥その全てよりも重い物なのですか」

 口調こそ、変わらずに平坦。だが、普段冷静な彼が、団長の言葉を遮ったと言う事は――
「‥‥失礼いたしました」
「いや、いい。我らの眷属が負傷するのは、私も予想していなかった事だ。私にも責はある」
 顎に手を当てるオグン。

「‥‥既にイールの義理は果たされた。今一度、追撃し、捕縛しても問題はないだろう。‥‥私の顔を立てて、イールへの咎めは‥‥な」
「‥‥了解しました」

 団長に背を向け、歩き出すエクセリオ。
(「俺の力は追撃に向かん。さてどうするか‥‥」)

「エクセリオ様」
 軍服の男が、その隣に現れる。
「私に行かせて下さい」
「‥‥大丈夫なのか?」
「アームスロットは一部調整中ですが、撃退士一人程度ならば」
「一人だと思うな。‥‥アサシンたちを連れて行け」
「はっ」

 カツン。その場で立ち止まる。
「己の命を最優先とせよ。最悪取り戻されても構わんが、御門があのような事になった上にお前に何かあれば、俺はオーレリア様に申し訳が立たんのでな」



 ――しばらく後。学園には、差出人不明の情報が届く。
 情報は座標と、そこに「奪取された撃退士」が居る、とのみ書かれていた。
 罠の可能性をも学園は考慮したが、調査しないわけには行かない。
 危険な事になる可能性が高い、と付け加えられた依頼に志願した撃退士たちは、その場所へと向かって行ったのである。


リプレイ本文

●接近

「このタイミングで奪取された撃退士‥‥間違いない、暮居だ」
 学園に確認は取った。この直近の期間、『天使陣営に捕縛された』撃退士は他に居ない。
(「けど‥‥何が目的だ?誘い込みか?交渉のテーブルか?」)
 前回、敵の天使の策略により暮居 凪が攫われた一件。その参加者でもあった郷田 英雄(ja0378)が、全ての可能性に思慮を巡らせる。

「この先に何があろうと‥‥今度も助け出して見せるだけだ」
 月詠 神削(ja5265)が、決意を口にすれば、
「囚われの美少女を救出、ね。まさしくイケメンに相応しい舞台だぜ」
 赤坂白秋(ja7030)が軽口を叩く。

 口にする言葉は様々であれど、その心は一つ。
 それを代表するかのように、君田 夢野(ja0561)が、己の友でもある仲間たちに号令する。
「交響撃団ファンタジア団長、君田夢野の名に於いて命ずる――――天の剣、撃団の盾、我が無二の戦友‥‥暮居凪を全てを尽くして救い出せ!」
 応!の声と共に掲げられた赤き腕章は、彼自身の物をも含めて四つ。
 鳳 快晴(jb0745)、ガート・シュトラウス(jb2508)、鷹群六路(jb5391)の物。

 かくして、二つの軍は‥‥同時に中央に居る凪に、接近を開始する。


●救出・奇襲

「一気に‥‥抜ける!」
 超人的な速度を以って、神削は一気に森を駆け抜け、凪に接近する。さすがに木の妨害もあり、直線距離を抜ける‥‥とは行かなかったが、凪もまたゆっくりながら味方の方へ移動している。合流に支障はない。
「さあ、掴まって――」
「ダメよ」
 予想外の、冷たい声。
「ここで私を担ぎ上げたら、貴方の動きまで遅くなるわ。‥‥共倒れよりは、私一人で――」
 だが、神削は動きを止めない。重体で腕力が低下しているのを良い事に、強引に凪を担ぎ上げる。
「それでも仲間を見捨てられるほど、俺は冷たくはなれない。‥‥それに、策はある」
 その言葉が終わる前に、上方からネットが彼らに降り注ぎ、一斉に絡め取る!

「‥‥ここまでは予想通り、か」
 呟きを漏らし、ジェイが前進する。
 エクセリオの言の通り、撃退士たちは凪を助けにやってきた。ならば先ずすべき事は、天使側にとっても『凪の確保』である。
 前回エクセリオは、強襲からの脱出によって餌とした撃退士が奪還されるのを見ている。参謀である彼が、その対策をジェイに伝えていない訳はなかったのだ。
 枝を伝い、彼らの頭上へと渡っていたアサシンの一人が、姿を現す。
 移動力では僅かに神削に劣っていた物の、ネットの射程と、木の上を渡るが故に木に移動を妨害されない事が、それを補っていたのだ。

「上方ネットの根元に1。他3体は三角形に散らばって回っている」
 淡々と、索敵結果を牙撃鉄鳴(jb5667)が告げる。
「嫌らしい配置をしているな。巻き込み難いだろうが‥‥とりあえずそこに範囲攻撃を投下してみろ」

「了解‥‥っ!?」
 指示に従い、その場に目を向け、魔力を込め始めた快晴。だが、ついつい隣の騎士が光らせた盾に目を奪われてしまう。
 無数の影の刃は騎士の付近を舞い、その鎧と体を切り刻むが――防御に特化した重騎士を一撃で切り崩す事は、聊か無理があった。

「ちい‥‥っ!交響撃団戦術要綱その二、進むべき道は剣で切り拓くっ!」
 舌打ちしながら、何とか注目効果に抵抗した夢野が、剣を振り下ろすと共にその背を拳で叩く。
 伝わる振動が無数の音の刃と化し、一直線にアサシンに向かって進む!

「―――!?」
 直線上、後方に居たアサシンは、その身に音の刃を受け、地に墜落する。
 だが、凪と神削を捕縛していた一体は‥‥彼らの至近距離後方に身を潜め、範囲攻撃に『攻撃されない』彼らを盾にする事で、音の刃をやり過ごしたのであった。

「はい、大当たりです。申し訳ありませんが、彼女は返して頂きますね」
 安心したのもつかの間、そのアサシンの体を、弾丸が貫く。
 黒の砲体に、白の意匠。巨大な火器を構えた、石田 神楽(ja4485)の精密な一撃は、あの距離に於いても精密に一点を狙う事を可能としていたのだ。
 そして、一旦アサシンがよろけ、捕縛した彼らから距離を置いてしまえば、人数で上回る撃退士たちにそれを撃破できぬ道理はない。
「はっ! 流石は音に聞こえたイシダ・サーティーンだぜ!」
 次々と両手のトリガーを引き、弾丸を吐き出しアサシンの体を抉っていく白秋。
「これで‥‥どうだろうかな」
 その弾幕に集中力を奪われた隙を突き、付近の木の上から、ショットガンの弾丸が降り注ぐ。鉄鳴による奇襲の一撃がアサシンに降り注ぎ、蜂の巣とする。
 ――使用者が倒れた事で、魔術で編まれたネットが、消滅する。

「しっかり掴まってろ!」
 拘束が解かれた瞬間、神削が足に力を込める。
 そうはさせまいと、別のアサシンが放ったネットが、凪を抱えあげた彼を狙う。
「この距離ならば‥‥こういう芸当も可能だ!!」
 リンド=エル・ベルンフォーヘン(jb4728)が大きく口を開ける。その手に魔具は無く‥‥いや、既にその身に一時的に宿ったか。ドラゴンブレス。竜の吐息が如く光が、怒りの咆哮と共に口から吐き出され――ネットを消滅させると共に、その主であるアサシンをも焼く!
 急いで後退し、一撃で撃沈される事をアサシンは避けたが‥‥それは即ち、脱出のチャンスが訪れたと言う事。

「さぁ‥‥今のうちに後退しろ!」


●牽制・逆牽制

「さて‥‥きみには、ちょっと俺に付き合ってもらうよん」
 黒髪の悪魔、六路が‥‥シュトラッサー・ジェイと相対する。接触するまでに幾度か狼の咆哮を受け、その身に傷はある物の‥‥その戦意は衰える事はなく。
「ほう。一人で俺を止められると‥‥嘗められたものだ」
「嘗めてるかどうかは‥‥やってみなきゃわかんない、ってねェ!」
 体を前に傾け、肩に担ぐように偃月刀を構える。
 初手を取れたのは、恐らく覚悟の差からだろう。
(「当たったらやべェし回避も悠々とはいかねェな‥‥打って出るしかねェっしょ! 」)
 一気に距離を詰め、縦にまっすぐ、振り下ろし、頭への直撃を狙う!

「ふん。見え透いた攻撃だな」
 僅かに横にステップし、ジェイはその一撃を回避する。チェーンソーを激しく回転させ、轟音と共に、横に六路を切り裂こうと――
「がはっ‥‥!?」
 その後頭部に、リボルバーのクリップによる一撃が叩き込まれ、意識を刈り取る。
「よかったー。大成功じゃん!」
 ジェイの後ろから姿を現したのは、ガート。六路に気を取られたジェイを、遁甲の術で強襲したのだ。彼もまた、隠蔽が成功する前に幾度か狼の咆哮を受けているが――この奇襲を成功させたのは、大金星と言えよう。
「けど、まだ油断は禁物じゃん?」
「うん、このままできるだけ長い間、足止めしなきゃいけないからねェ」
 周囲を見回す。事前に与えられた命令か、はたまた自分たちの『指揮官』に圧倒的な自信があるからなのか。ジェイを増援するような動きは、サーバントたちには見受けられない。
 お互い、目を見合わせ。
 チェーンに装備を交換したガートの気配が再度薄れていく。遁甲の術で隠蔽したのだろうか。
 そして、相変わらず偃月刀を担ぎ、六路はジェイの目の前に立った。

「――見事だ。こうも付け込まれたのは、久しぶりだ」
 彼らの予想よりずっと短い時間で、ジェイは意識を取り戻す。
「もうちょっと寝ていて欲しいんだけどねェ」
 その敵の懐へと体当たりする六路。そのまま頭に向かってもう一度兜割りを仕掛けようとするが‥‥彼自身の武器もまた、その長さ故に超至近距離戦には向かない。ブレード部分が頭部に直撃する寸前、刀の柄をジェイに掴まれて止められてしまう。

「――だが、同じ手で来るのならば、対策できん事はない‥‥!」
 掴んだまま、腕力に任せ後ろに引きずるように六路を刀ごと振り回し、後ろから飛び掛ったガートにぶつける。
「ちょっ、やばいじゃん!?」
 ガートが見たのは、片手を異界に入れ、何かを取り出そうとするジェイの姿。
 強引にチェーンを振り回し、拘束し妨害すべく投げつけるが――あまりにも無理すぎる体勢だったが故に、クローはジェイの頬を掠め、三本爪の傷跡を残すに留まる。

「アームスロット・ナンバー1」
 異界から取り出したるは、アームスロットシリーズの原点たる武装。
 元は軍では無く警察が使用すべきである、シリーズ唯一の非殺害型武装。

「スタンテイザー‥‥!」
 射出されたダートが、ガートと六路に突き刺さる。
「「ぐぁぁぁ!?」」
 流れる猛烈な電撃が、二人の自由を奪い、動けなくする。
 その隙にジェイは、周囲の状況を観察する。その目が見たのは、今正に神削によって助け出されようとしている、凪の姿。

「纏めて‥‥なぎ払う!」
 仲間を瀕死に追い込まれた彼が、みすみすその敵を逃そうと考えるはずもない。
「アームスロット・ナンバー3」
 走りながらも武器を取替え、ガトリングガンを取り出し‥‥辺り一体を銃弾の嵐でなぎ払う!

「くっそ‥‥こりゃきついぜ。後で役得でも貰わないと割りにあわねぇ」
 強引に庇護の翼を展開し、ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)が神削の抱き上げた凪を守る。
 盾があっても尚、防ぎきれなかった弾丸が彼の足、肩等を打ち抜いている。
 そして、そこを狙って、アサシンの刃が彼を襲う!
「うぐっ‥‥!」
 盾で受け流そうとするが、あれだけの鉛玉の嵐を受けた直後だ。直ぐには体が動かず、その背中に、アサシンの刃が突き刺さる!
「痛いんだよ‥‥!」
 逆手に持った、炎の大剣が、直後背中のアサシンに突き刺さる。直前にリンドのブレスを受けていた事もあり‥‥アサシンは、その場で崩れ落ちる。
 だが、体力が残っていないのは――ロドルフォもまた、同じだったのである。
「‥‥せめて、あいつらの御大の天使に一矢報いたかったんだが‥‥まあ、凪ちゃんの命に比べりゃどーでもいいことだ。皆‥‥後は任せたぜ」
 倒れる彼を、回収するだけの余力を持った者は現在のフィールド上には居ない。
 それだけの激戦が、繰り広げられていたのである。


●狙撃者への襲撃

「集中を崩される、と言うのも、あまり良い感覚ではありませんね」
 神楽の、如何なる強敵を前にしても尚崩れない微笑みに、僅かながら焦りと言う名の陰りが見える。
「ああ、どうしてもあちらを狙ってしまうな」
 鉄鳴も、僅かに唇を噛む。表情に乏しい彼の事。これでも苛立っている方なのかも知れない。

 狙撃班‥‥神楽、鉄鳴、白秋の三人は、何れも相応の距離を置いて騎士の挑発の影響を軽減していたとは言え、完全にその影響を回避するには至っていない。
 それに加えて‥‥騎士自体が、前方に出、彼らに影響を加えようと進んできているのならば――話は別だったのである。
 これ以上後退すればアサシンに攻撃が届かなくなるばかりか、救出中の味方への援護射撃すら届かなくなる。如何とするべきか――

(「先に騎士を撃破しましょう」)
 神楽が選択したのは、騎士への優先攻撃。
 今まで挑発に抵抗できた際の攻撃はアサシンに向けていたが、それを全て、騎士に向けるのである。

「ちょ、そっちかよ!?」
 だが、これは僅かに狙撃班に混乱を齎す事になる。
 ターゲット設定を石田に追随するように設定し、だがアサシンの優先撃破を狙う白秋は、急なターゲット変換に構えがついていけず、ショットを外してしまう。
「‥‥最初の任務に従うのみ」
 鉄鳴は、依然と可能な限りアサシンへと、索敵を生かして火力を集中させる事を選択する。
 結果、狙撃班の攻撃対象は、挑発の効果もあり、凡そ6割が騎士、4割がアサシンに向けられる‥‥分散状態に陥ったのである。

「アォォォォン!」
 咆哮。それが敵の到来を、後衛に示していた。
 撃退士たちの大半がアサシンの撃破に集中したり、騎士に目を引かれている隙を突き。ほぼノータッチだった『ハウリングウルフ』が、狙撃班に殺到していたのだ。

「襲わせる訳には行かない‥‥守り通して、見せるんだ!」
 狼たちが後衛に届く前に。快晴が、その前に立ちはだかる。
 その両手に冷気を湛え‥‥打ち合わせるように、ぶつける!
 四散する冷気が、狼たちを眠りに誘う。が、一体だけ、跳躍し、冷気の届かぬ高度まで上がった狼がいた。
「お前らなんかに仲間をわたすもんかっ‥‥ころすころすころすッ!」
 打ち出される矢が無数の蝶となる。
「くらえっ!HOMOKURE☆あたっく!」
 群れが狼を襲い、混乱させ、その意識を奪う。弓を構えたのは、エルレーン・バルハザード(ja0889)。

「三体とも行動不能だよ!攻撃は避けて!」
 睡眠、朦朧。どれも攻撃されれば解除される類の物だ。故に、エルレーンは仲間たちにその状況を伝える。

 ――だが、味方が攻撃しないと言う事は、『敵が』攻撃しないと言う事ではない。

「アームスロット・ナンバー3」
 凪を狙い、ロドルフォが防いだ鉛玉の嵐は、狙撃班とエルレーンをも襲っていた。

「うるせえんだよ畜生……! 近所迷惑考えろ!」
 木に隠れ弾丸をやり過ごしながら、残った回避射撃で神楽、エルレーン、鉄鳴から攻撃を逸らした白秋。
「がら空きだ。やり直して来い」
 そして、弾丸の雨が終わると共に、その元に向かって三連射。
 二発は腹部へ直撃し、血を噴出させるが‥‥残り一発はわき腹を掠め服を裂いたのみ。


 弾丸の雨は他の者を等しく傷つけていた。そして何よりも‥‥無差別に地上をなぎ払ったが故に、行動不能になっていた狼たちも叩き起こしたのである。
 起きた狼たちは、己の主によって酷く傷ついてはいたが‥‥それでも最後の力を振り絞り、咆哮を放つ!
「ぐっ‥‥ああぁ!」
 狙われたのは、快晴。元から防御に不安があった彼が、掃射の後の連続咆哮に耐えられる可能性は‥‥無かったのである。


●安全圏へ

 一方。ロドルフォに守られ、弾丸の嵐をやり過ごした神削。即座に足に全力を入れ、後方へ向かって跳躍する!
 それを狙って、上からアサシンがネットを浴びせ掛けるが‥‥
「させんよ、邪魔はな!」
 楽器の如く大剣を打ち鳴らす夢野の作り出した音の刃によって、ネットが迎撃され、
「咆哮なら、こちらの方が本家だ‥‥」
 リンドの竜の吐息にてアサシン自体が吹き飛ばされる。
「早くしろ!今のうちだ」
 慎重に狙いを付け、英雄の拳銃が落下するアサシンを打ち抜くと共に、神削は彼の隣に着地する。

「牙撃!アサシンの状況は!?」
「残り一体‥‥遠くに居るから、直ぐには来ないだろう」
 鉄鳴に、敵の状況を確認してから、慎重に凪を受け取る英雄。

「それじゃあ、俺は前線に戻る」
「ああ、後は俺の仕事だ」
 敵の方へと進む神削を見送り、英雄が戦場に背を向ける。

「私の事は良いから‥‥この情報だけを‥‥急いで学園に持ち帰って」
「あぁ?ったく、唯でさえ重いんだから、要らん暴れ方するな」
「重っ――!?」
「まぁ、命の重さ、ってヤツだろうな。安心しろ。んな慌てなくても、情報もお前も、学園に連れ帰るさ」
 全速で、縮地の法を使い。英雄は、戦場から離れていく。


●暴れ回る者

「追わせはせん‥‥!」
 木を伝い、追跡を試みた最後のアサシンを、リンドが正面から大剣を以って受け止め、そして腕力に任せ突き飛ばす。
「‥‥これが最後の一体‥‥倒せれば相当に楽になるはずだ」
 加速された鉄鳴のショットガンの散弾がそこへと降り注ぎ、地面に向かいそのアサシンを叩き落す。
 そこを、更に夢野の大剣が、その首を刎ねるべく、襲い掛かる!
「絶対に全員で、学園へ帰るんだ――!」

「さっさと‥‥殺されろぉ!」
 エルレーンの矢が、影に縛られた狼の一体を貫く。
 掃射に撃退士たち同様巻き込まれていたハウリングウルフにその一撃に耐え切れるほどの体力が残っているはずも無く――そのまま、サーバントは粉砕された。

「ふう‥‥流石に、硬かったですね」
 騎士の重装甲も、その盾の僅かな隙間を狙撃、貫通できる神楽の銃撃の前では効果が薄い。
 相応の時間は掛かってしまった物の、何とか一体を彼は撃破する。
「しかし‥‥まだ一体残っていますか‥‥なんともはや」
 その笑顔が、既にやや苦笑い気味になっている。だが、それでもやらなければならない。皆が、無事に帰る為に――この敵を、通すわけには行かないのだ。

 全体的な戦況は、撃退士有利に進んでいた。アサシンが殲滅され、騎士一体が撃破。そしてウルフは‥‥一体が撃破され、残る二体も風前の灯である。目標まで後一歩。そう。敵の最大戦力であるシュトラッサーを押し留める事さえ出来れば。

「しつこい男は嫌われるぜ?」
「元より女性関係を気にした事はない」
 木に隠れながら、二丁拳銃の連射で弾幕を作り、ジェイの接近を止めようとする白秋。
 だが、ジェイもまた木を上手く盾として使い、時にはチェーンソーで弾丸を弾きながら、彼に接近する。
 二人の距離は、少しずつ縮まっていく。

「ふん!!」
 振るわれるチェーンソー。木を背にした白秋に、最早回避する空間は――
「やばっ―――なーんてな!」
 銃弾をチェーンソーに当て、僅かに弾いて軌道を逸らす。その僅かな空間を、転がるようにして木の後ろに回りこむ!

 ザン。
 チェーンソーが木に食い込み、轟音を上げる。
「今だ!」
 再度木の裏から出、銃をジェイの顔に向けて構え――
「ふっ‥‥掛かったのはどちらかな?」
 目撃したのは、薄ら笑いを浮かべたジェイの表情。

「チェーンソーは元は『工兵』のための装備――元々は、障害物を切り倒す為にある!!」
 言葉と共に、ジェイが全力でチェーンソーを振りぬく!
「なぁ――!?」
 倒れる大木。その影に居た白秋は、僅かに回避が遅れる。
 ――この大質量である。銃弾をぶつけても、軌道を大きく逸らすのは困難だろう。
 常人ならばこの質量に押しつぶされていれば即死であろうが、流石は撃退士の身体能力。死亡所か、行動不能の重傷にすら至ってはいない。
 だが、それでもこの重量から脱出するには、やや時間が掛かるだろう。

「貰った‥‥!」
 白秋との交戦に気を取られたジェイの頭上から、リンドがまっすぐ大剣を振り下ろす。
 元より、四国の状況を苦々しく思っていた彼である。そして、今回は仲間までさらわれている。
 その全ての鬱憤を、刃に込めるが如く。黒き気を纏った大剣が、ジェイの頭を狙う!
「理解したか、天界の徒。貴様らが食い荒らしてきたものの力の程を」
「っ‥‥!!」
 果てしなく重い一撃。カオスレートの差もあり、ジェイがギリギリでチェーンソーによりこの一撃を受け止めたのは、奇跡に近いだろう。また、受け止めたとは言え、衝撃も軽くは無い。
 ――だが、その様な不利な状況でも。受け止めてしまえば、ジェイが有利であった。
「ならば今度は貴様が理解する番だ。友を傷つけられた我等の怒りを‥‥!!」
 高速でチェーンソーの刃を回転させる。無理やり刃を上に向けて振りぬき、リンドの大剣を弾き飛ばす!
 カオスレートの変動は諸刃の刃。鉄鳴の援護射撃ですら、完全に刃を逸らすには至らず。回転する刃が、リンドの胸部にめり込み、抉る!

「がぁぁぁぁ!?」
 弾け飛ぶ血肉と鱗。若しも刃がこのまま心臓まで達したのならば、それこそ命に関わるだろう。
「離れろぉぉ!」
 奇妙な生物の残像を伴った矢が飛来し、ジェイの肩に突き刺さる。エルレーンの放った物だ。
 その衝撃はジェイを僅かに後退させ、リンドから離れさせる。
「次から次へと‥‥!」
 左右に動き次々に放たれる矢を回避し、木々を切り倒しながら、ジェイがエルレーンに接近する。後退し、距離を維持しようとする彼女だが、倒れる木に行き先を阻まれ――終には、片足を挟まれてしまう!
「このまま切り刻んでやろう‥‥」
 振り下ろされたチェーンソーを三節棍で受け止めたのは、前線に復帰した神削であった。


●エスケープ

「っ‥‥!」
 神速の一撃が、チェーンソーを捉え、弾き飛ばす。
 武器を手放したジェイは、すぐさま異空間からガトリングを引きずり出す。
「その武器を使う時、防御ががら空きになるのは知っている!」
 降り注ぐ無数の棍撃が、ジェイの全身を襲う。
「ああ、知っているさ。貴様が『前回』も使った手だからな!」
 強引に大きく武器を振り上げ、純粋な大きさによる『面積』で攻撃を一瞬弾く。
「だが、重さによる取り回しの悪さには――こう言う側面もある!」
 強引に、砲身がバットのように振り回される。視界外からのその一撃は、『攻撃は最大の防御』が如く、猛攻を以ってジェイの動きを制限するに意識を傾けていた神削の側頭部を、完全に捉えていた。
「っ‥‥ぐっ!?」
 意識が一瞬、混濁する。完全に気を失う事は避けた物の、目視からの判断では、先の一撃で大きく距離を離されたようだ。
「やはり、見よう見真似ではあの小僧どもみたいには行かんか。一撃で完全に意識を刈り取れんとはな」
(「学習した‥‥だって!?」)

 状況は、ほぼ五分五分の状態に戻っていた。
 撃退士側では神楽、そしてウルフにトドメを刺した鉄鳴、夢野が騎士に猛攻を仕掛けてはいる物の、撃破にはもう多少時間が掛かる。ここで若しもジェイを牽制している神削が倒れれば――状況を一気に逆転される可能性すらあるのだ。

 だが、その瞬間。待ちわびていた連絡が、届く。
「無事、凪は学園の回収チームの所に到着したぜ」
 英雄からの連絡であった。

「撤収しろ、皆!」
 何とか木の下から這い出した白秋、エルレーンが、それぞれ戦闘不能者を担ぎ上げる。
「逃がすか!」
 ジェイがガトリングを向けた瞬間、それを一発の弾丸が直撃し、彼は武器を取り落とす。
「決着をつけたいのはやまやまですが、優先すべき事がありますのでね。これにて、失礼させていただきましょう」
 にやりと、笑顔で一礼する。
 かくして、最も消耗が少なかった神楽を殿に、撃退士たちは撤退したのである。
 損耗が軽いわけではない。しかし、それでも、彼らは目標を達成したのであった。

「はっはー、見事な潜入調査だったな!」
「何とか、誰一人欠けずに、帰って来れたね!」
「ああ、後は情報が得られれば完璧なんだが――」
「今それを言うのは野暮ってもんだぜ。とりあえずはお祝いだ」
「行こう、凪ねぇ。「ただいま」という君の言葉を皆が待ち望んでいる、だから―――― 」


●幕間〜次なる陰謀〜

 既に日も落ちた山間、生還した凪の情報によって改められた古い工事現場の一角。
 ごく最近までゲートがあった痕跡はあったものの、ゲートそのものは発見できなかった。
 おそらくは、情報を元に攻め込まれる事を警戒しゲートごと壊したのだろうというのが、調査結果としてまとめられた。

 その、ゲートを後にした天使――エクセリオは広い廊下を歩いていた。
 その後ろを、彼の友人の部下であるジェイが付き従っている。
 会話は無い。
 無言のまましばらく歩いた小さな部屋に入りき、戸が閉じてからジェイはようやく口を開いた。

「申し訳ございません、エクセリオ様。奪還はなりませんでした」
「いい。‥‥元々、敵の増援があった場合、お前に与えた兵力では対応できない可能性は想定していた。しかも、その数が俺の予想以上ならば尚更である。‥‥余程仲間意識が強いらしいな。我らも人の事は言えんが」

 殊勝なジェイの言葉に、苦笑交じりに答えた。
 そう、元より成功よりジェイ自身の安全を優先したのは自分であったのだから。

「御門の容態は、如何ですか?」
「命に危険は無い。暫くは戦えんだろうがな」
「ゲートも、勝手に潰して大丈夫でしたか? 確か開発局の移動用に使っていたものですが」
「捕虜以上の戦果をくれてやったのだから、文句はないだろう」

 押し黙るジェイに、エクセリオはゆっくりと向き直る。
「私としても収穫が無かった訳でもない。少なくとも、もう少しだけ‥‥情報が得られたのだから」
 何かを抜き取るような仕草。その手に出現したのは、一本のダガー。
「相手の意識を刈り取る技‥‥魔界の技術の応用で、ダメージを増幅させる技‥‥そして、攻撃を当てて、向かってくる攻撃を逸らす、か」
「研究するおつもりなのですか?」
「ああ。‥‥最も、『作戦』に間に合うかは未知数だがな」
 コツ、コツ、コツ。
 部屋の片端から、反対側まで、歩く。そして振り向き、口を開く。

「『作戦』の最終調整をすると、団長に伝えてくれ。間に合わなくとも、調整の余地はあるだろうからな」
「はっ」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 影斬り・ガート・シュトラウス(jb2508)
 誇りの龍魔・リンド=エル・ベルンフォーヘン(jb4728)
 惑う星に導きの翼を・ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)
重体: 紡ぎゆく奏の絆 ・水無瀬 快晴(jb0745)
   <咆哮を集中的に受け>という理由により『重体』となる
 影斬り・ガート・シュトラウス(jb2508)
   <スタン中に掃射に巻き込まれ>という理由により『重体』となる
 誇りの龍魔・リンド=エル・ベルンフォーヘン(jb4728)
   <武器を弾かれた状態でジェイに斬られ>という理由により『重体』となる
 撃退士・鷹群六路(jb5391)
   <スタン中に掃射に巻き込まれ>という理由により『重体』となる
 惑う星に導きの翼を・ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)
   <味方を庇い>という理由により『重体』となる
面白かった!:14人

死神を愛した男・
郷田 英雄(ja0378)

大学部8年131組 男 阿修羅
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
紡ぎゆく奏の絆 ・
水無瀬 快晴(jb0745)

卒業 男 ナイトウォーカー
影斬り・
ガート・シュトラウス(jb2508)

卒業 男 鬼道忍軍
誇りの龍魔・
リンド=エル・ベルンフォーヘン(jb4728)

大学部5年292組 男 ルインズブレイド
撃退士・
鷹群六路(jb5391)

大学部3年80組 男 鬼道忍軍
惑う星に導きの翼を・
ロドルフォ・リウッツィ(jb5648)

大学部6年34組 男 ディバインナイト
総てを焼き尽くす、黒・
牙撃鉄鳴(jb5667)

卒業 男 インフィルトレイター