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マスター:剣崎宗二
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/27


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。

 ハロウィン。
 世界を魔力が覆うこの日では、色々な奇妙な現象が発生する。
 その中の一つが、『戦神の霧』。

 霧の中では、戦士たちの記憶が増幅され、具現化される。
 そして、戦を望む戦士たちは、その中で、自らが最も望んだ相手との戦いを挑む事が出来るのだ。

 敵だけではなく、戦士たち自らも、己の記憶している、友が戦った。その強敵たちの力を己の手に具現化できる。その記憶に深く刻まれている程、その力を再現する事が出来る。
 だが、全ては記憶の産物故に、この霧の中では力は互角。全ては己の想いの強さと、取るべき手段‥‥勝負はそこに掛かっている。

 勝っても負けても今夜だけ。戦の祭典は、まだ始まったばかりであった。
 ――さあ、戦いましょう。如何なる理由があろうとも。今はただ、この戦に身を任せて――


リプレイ本文

●エルレーン・バルハザード(ja0889)の場合〜H・O・M・O〜

「えへへ。こんなチャンスはめったに無いよね」
 周囲の状況を把握したのか。エルレーンが楽しそうに笑ってみせる。

 ――この様な状況が、現実的に起こるはずは無い。故に、これは夢である。
 夢ならば、どの様に『楽しんで』戦っても良い筈だ。

 風を操る『敵』を前に、少女は、悪巧みを思いついたのである。

「よしっ‥‥変身、ホモォフォーム!!」
 ボフン。

 ‥‥‥三┌(┌ ^o^)┐

 ――寧ろこの場合、悪魔の眷属であるはずの目の前のヴァニタスよりも、エルレーンが変身したその姿の方が、怪異に見えるのではなかろうか。
 四足歩行と、その表情。
 ‥‥敢えて何も言うまい。

「へぇぇ、面白い技だね!」
 ――これを『面白い』の一言で片付けてしまう、眼前のヴァニタス、風のヨーコ。
 諸君の中には、これをどうかと思う者も居るかもしれない。
 だが、忘れてはいけないのは、サブカルチャーは常に変化を続けている。
 『情報』を武器とする『湖』のヴァニタスならば兎も角、死してから強者の闘いと復讐のみに終始し、流行を追っていなかったヨーコにとっては、それ以外の評価はできないのだ。
 ――何せ、この女は携帯すら持っていないのである。

「ホモォ‥‥」
 がさごそと地を這い、エルレーンだった何かはその姿から想像できない程の速度で接近し、そのまま跳躍からの体当たりを仕掛ける。
「見かけと違って、早いね!‥‥何故かちょっとキモく感じるけど」

 ――それは恐らく、動きがあの『イニシャルG』に似ているからだろう。

「手加減は無用みたいだね!」
 空中に舞い上がり、旋風を纏った右手をヴァニタスは突き出す。放たれる3発の衝撃波。
 とっさに『エルレーンだった何か』の体からスクールジャケットが投げ出され、視界を覆い衝撃波を受け止める。

 ――けれど、この一行動だけで、携行しているスクールジャケットは底を着いた。
 旋風は三発一セット。故に、防ぎきるには、三回、スクールジャケットを身代わりにする必要があったのである。

 散る風に霧が巻き上げられ、『エルレーンだった何か』の姿が露になる。即座にそれは跳躍し、姿を見せた事で狙撃されるよりも先に、空中に居るヨーコに突撃する!
「 キチクウケェ!シンシセメェ! 」
 奇声を上げながら前方にポスター(「エルえもん」のハンドルネームで作った自作。BL物)を展開。それで視界を覆いながら、体当たり!
 一瞬のみ注意がそれに引き付けられてしまったヨーコの腹部に正面から衝突し、吹き飛ばす。
 そのまま、地面に映る『ホモォの影』が伸び、ヨーコを地に縛り付ける!

「ちょ、やばっ!?」
 影に縛られ身動きの取れないヨーコに向かって、飛び掛る怪異。
 その手から無数の薄い本が伸び、剣の形を形成する。
「ウスイホン!モエ!モエー!」
 剣を一直線に、ヨーコに向かって振り下ろす!
「キモイから‥‥寄らないでよ!」
 その剣がヨーコの頭に届く前に、推進力をフルに生かした蹴りが、『エルレーンだった何か』の胴体にめり込む。大きく距離を離され、剣は空振りする。
「っ、ちょこまか逃げてくれちゃってー!」
「ホモォ、ホモォォ!」
 続けざまに放たれる三発の衝撃波を、霧をフルに利用してジグザグにカサカサと回避しながら、『エルレーンだった何か』は再接近を試みる。
「‥‥近づかれたくないからね。これを使わせてもらうよ!」
 すぅー、と息を吸う音を、聞いた。

「セメェ!ウケェ!」
 ドン、ドンと、地面に叩きつけられながら、『エルレーンだった何か』は吹き飛ばされていく。
 吹き荒れる暴風。球状に展開された『暴風圏』は、範囲内の全ての物を飲み込む。無論、低姿勢で接近しようが、これを回避する事はできなかったのである。

「ホモクレェェェェ‥‥‥」
 なんともしまらない声を上げながら、戦闘不能になった事で変身が解除され、携行していた無数の『薄い本』は暴風で空の彼方へ巻き上げられた。

「ふー。中々にきつい戦いだったなぁ。きもかったけど、面白かったよ!」
 空に浮かぶヨーコの姿が、薄くなり消えていく。
 夢が覚める時が、来たのである。


●神喰 茜(ja0200)の場合〜幾億の剣閃と、断つための狂気〜

「‥‥ああ、なんて素敵な霧。私の願いを、叶えてくれるとはね」
 茜の眼前に見えるは、幾度と戦った、仇敵の姿。
 これ以上の言葉は要らない。ただ斬るのみ。
 目の前の敵が武器を構えたのに合わせ、研ぎ澄まされた己の大太刀を抜き放つ。

 駆け出すと共に、その髪の色が真紅から黄金へと変わる。
 地面を強く踏みしめ、加速。正面から大上段で振り下ろす!

「ふん」
 片刃でそれを地面に向かって受け流し、『敵』は同時に逆の刃を突き出す。
「何度その技を見てると思ってるの?」
 まるで予測していたように、サイドステップする茜。空を切るヴァニタス――『山』のムゲンの片刃。
 直後に、受け流しに使った方の刃が縦に振るわれ、風の刃が飛ばされる。距離を詰めていたがために、刃の軌跡が良く見え、攻撃軌道が予測できた。後ろに体を傾け、茜は刃の下から滑り込みスライディングで足を刈ろうとする。
 カン、と地面に突き刺した片刃でヴァニタスはそれを受け止め、そのまま止まった茜の胸の中央に向かって、もう片方の手に持った刃を逆手で突き刺す。横に転がるようにぎりぎりでそれを回避し、そのまま逆立ちするように跳躍。体勢を立て直して、構えなおす。

「‥‥ん‥‥おかしいかな?」
 茜も気づいたようだ。
 流石に、これだけ連続で、ムゲンが『運だけで』後手を取れると言う可能性は低い。
 ――待機しているのだ。自らの行動順を遅らせるために。

 だが、どうする?
 待機合戦を繰り広げれば、どんどんと不動の構えによってムゲンの闘気が高まっていくのみ。その反面、自分の戦鬼の闘気は、それ程長時間持続する物ではない。
 長引けば長引くほど不利になるのは明白。ならば――残る手は、攻めの一手のみ。

「へへっ、毎度ながら、強いね‥‥!」
 会話で注意を引きながら、密かに後ろに回した手で紅のワイヤーを操る。
「‥‥もらった!」
 体勢を低くして、振るわれたワイヤーが。ムゲンの足に巻きつき、引き裂く。
「ぐっ‥‥!」
 霧によって気づかなかった事が仇となった。無類の防御能力を誇る『裏刃返し』も、そもそも攻撃に気づかないのであれば意味はない。
「このまま吹き飛べっ!」
 突き出される疾風を纏う刃は、僅かにムゲンの首筋を掠める。だが、刃に付与された風は、彼を吹き飛ばすには十分――

「ふっ‥‥」
 動かない。
 何が彼をその場に縫いとめたのか――と聞かれれば、その足に絡みついたワイヤーである。
 咄嗟に刃で巻き取るようにワイヤーを短くし、ワイヤーに引かれるようにそのまま止まったのだ。返す刃は、真空を巻き起こし、ワイヤーを切断して茜に向かう!

「つう‥‥っ!」
 痛みに眉をしかめながら、敢えて風の刃を突っ切り、茜はムゲンへ肉薄する。狂気を込めた一突きは、僅かに受けに回った刃の横を滑り、ムゲンの脇腹に突き刺さる。
 風がムゲンを巻き上げ、吹き飛ばし。衝撃がその意識を刈り取る。

 カラン。
 ムゲンの持った二本の刃が地に落ちる。
 そして、その顔から表情が消える。

「っ!?」
 追撃の為に更に駆け寄った茜だが、咄嗟に殺気を感じて横にステップ。
 触れても居ない筈の、太ももが服ごと切り裂かれ、血が噴出する。構えられたのは、手刀。
「なるほど」
 不敵な笑みがその顔に浮かぶ。
「正面勝負か。望む所だよ」
 改めて刀を構えなおし、下段を薙ぎ払う。その刃を踏みつけるように、ムゲンが跳躍。そのまま背後に回りこむ。

 ザシュ。
 手刀が、茜の背中から腹部へと貫通する。
「っ!!」
 大きく薙ぎ払った刀だが、腕を貫かれるようにして手刀を突き刺され、取り落としてしまう。

「ぐ‥‥ぁぁ‥‥っ、偽物にまで‥‥負けるわけにはいかないんだよね!」
  足で、落ちる大太刀の柄を蹴り、跳ね上げる。
「例え勝てないまでも、腕一本‥‥貰っていく!」
 その美しい金色の髪を振り回し、太刀の柄に巻きつけ、遠心力を以ってムゲンの腕に叩き付ける!
「――!」
「がふっ‥‥!」
 刃は、肩に突き刺さった腕に食い込んだ。ぎゅんと腹に刺さった腕を捻られ、血を吐き出す茜。
「けど‥‥貰った!」
 頭突きを柄に当てる。その衝撃で、大太刀が肉と骨を裂き、ムゲンの片腕が地に落ちる!

「へへっ‥‥一矢報いた‥‥よ‥‥」
 そのまま、がくりと。茜は目を閉じた。


●高瀬 里桜(ja0394)〜その全力は〜

「初めまして。『王』のカイン。『ヒーロー』の高瀬里桜です!」
 自信ありげに、礼儀正しく。堂々と一礼する里桜。
「ほう。そのような出で立ちで余に抵抗するとは、どんな酔狂かと思ったが‥‥なるほど、合点が行った」
 ふわふわしているその外見に似合わぬ振る舞いに、目の前に立つ腕を組んだ少年――ヴァニタス、『天』のカインは、感心したような声を漏らす。
「ヒーローとは、勝利者のみが名乗る事を許される物。背中に守るべき者を背負うが故に、敗北が許されぬ者」
 挨拶ばかりとばかりに、カインの右手から打ち出される重力球。
「名乗ったからには、その覚悟は出来ているのだろうな!」
 周囲の重力を捻じ曲げ、色々な物を引き寄せながら。それは一直線に、里桜に向かっていく!
「くうっ‥‥!」
 『引き寄せる』特性を持つこの技は、その性能から回避が非常に困難である。元より回避を得意とはしなかった里桜は、それ故に逃げも隠れもしなかった。
 ――正面から、両の手甲についた爪を斜めに振り抜き。強引に重力球を突っ切り、カインの足元へと低姿勢で接近。
 その爪に輝く光を宿し、顔を狙って突き出す。僅かに顔を傾けたカインは、然し完全に回避する事にはいたらず。その頬に三本の爪痕が浮かぶ。
「その覚悟は、出来てるよ!」

 ――誰かに守られるだけなのは、嫌だった。
 目の前で、誰かが傷つくのを見るのは、嫌だった。
 その為に、私は自分も前線に立つことを選んだのだ。
 覚悟は、その決断をした瞬間から、出来ている。

「ならば、手加減はせん‥‥余の全力で、叩き潰す!平伏せ‥‥王の宮殿ッ!」
 その全身から、重力波が迸り、重力の檻となって周囲の全てに等しく圧し掛かる!
「うっ‥‥けど、それは予想済みだよ!」
 足元を強く踏みしめると共に、そこから光が噴き出す。
 光が魔方陣を編み、魔術を封じる力を吹き上げる。
「むう‥‥っ?」
 己の異常を感じたカインだが‥‥意外だったのは里桜も同じ。
「全く軽減されてない‥‥!?」
 身にかかる重力が解除される傾向は、ない。

 ――里桜の放った魔方陣は、新規に術式や技が使用される事を防ぐ物。だが、既に『発動されてしまった』術式を解除する効果はない。
 だが、重力を解除させる事は出来ずとも、大体の攻撃手段を封じる事には成功した。この状況も、完全に予想していなかった訳ではない。
 突き出した拳を、クローで横に弾いていなしながら、空いた手に光の魔力を集め、打ち上げる。

「何をするつもりだ?」
「まぁ、見ててね!」
 一瞬の後。空中から無数の魔力の流星が落ち、カインの周囲を纏めて爆撃する!
「小癪な‥‥!」
 流星は、カインにも重圧を与え、里桜同様、速度を低減させる。だが、カインの「王の宮殿」重力の効果には、僅かながら及ばない。不利な状況であるのは‥‥変わりない。

「っ‥‥!」
 後退し、重力の範囲から脱出しようとした里桜。然し、それが成される前に、爆煙を切り裂き、カインが飛び出す。
 回し蹴りを両腕を交差させ、何とか受け止めるが‥‥『王の宮殿』がカインを中心に展開される以上。『移動力で上回っていなければ』一対一の状況でこの陣形を脱出するのは不可能なのである。
 ――そして、『封印』の効果も、それ程長く続くわけではない。
 パキン。
 カインに纏わりついていた魔方陣が、破壊される。

「もう一度‥‥!」
 即座にトン、と足で地面を叩き、里桜が再度魔法陣を展開するが、見た目に似合わぬ身軽さでカインは跳躍。広がる魔方陣を回避しながら、里桜の真上を取る。
「王の鉄槌を受けよ‥‥!」
 その両腕を一斉に振り下ろし、局地的な重力の鉄槌が里桜に叩きつけられる
「っ‥‥ぅ!」
 何とか踏ん張るが、ただでさえ超重力の下で、更にこの一撃を受けたのだ。足が僅かに、震える。けれど‥‥
「まだ‥‥負けてはいない!」
 編み出す術式は、光の鎖。今度こそそれは完全にカインの足を絡み取り、動きを止める!
「よし‥‥!」
 その機を見逃さず、全力で重力の範囲から飛び出す。そして振り向き、再度光の魔力を空中に打ち上げる!
「逃げ切ったと思ったか!?」
 降り注ぐ流星が体に叩きつけられる中。尚もヴァニタスのその両腕が振り下ろされる。
 どんっと叩きつけられる重圧に、膝を着きそうになるが‥‥
「背負う者があるヒーローは、負けるわけには、いかないんです!」
 全力で地を蹴り、駆け出していく。
 杖を振り上げ、横からフルスイング!

 ドン。
 僅かに、届かない。
 最後の一撃に近接攻撃を選んだのだが‥‥それはつまり、一度脱出した重力の宮殿の中に再度侵入するという事だ。
 そして杖の一撃が届く前に‥‥重力球が、腹に叩き込まれていた。

 ――ああ、何が‥‥失われるのだろうか。


●龍崎海(ja0565)の場合〜雷電と水と〜

「この霧は‥‥なるほど、望んだ相手を複製する力を持つのかな?」
 眉間に指を当て、目の前に現れた姿を、海は睨みつける。
 元より分析、研究を好む彼の事。この状況をも、『分析』しているのである。

「――なら、最大限に、普段はできない戦法を『試してみる』だけだ」
 ポーチに入れた道具に手を伸ばす。必要な物は、全て揃っている様だ。
「本物を倒すために‥‥十分に利用させてもらうよ」
 十字槍を構え、海は眼前に居る機械の敵‥‥ヴァニタス、『雷』の轟天斎へと飛び掛る。

「ほう‥‥こうも一直線に掛かってくるとはのう」
 電撃を帯びたその腕を伸ばし、轟天斎はそのまま槍を掴み取ろうとする。
「掛かったね」
 槍を回し、地面に突き立て急制動。そのままギリギリで伸ばされた腕の間合い外で止まり、ポーチからミネラルウォーターのボトルを取り出し、伸ばされた腕へと叩きつける!
 パン。ボトルが弾け、中身がこぼれて轟天斎の腕を濡らす。
 だが、それは一時的に、撒き散らされた水で轟天斎の腕と海が『接続される』と言う事であり、それを伝い猛烈な電撃が海を襲う!
「ぐぅぅぅっ!」
 何とか耐え切る。しかし、電撃によって、一時的に体は麻痺している。
 チカチカ光る視界を何とか瞬きして取り戻し、轟天斎の様子を見るが‥‥特に変化は、ない。

「防水加工程度しておらねば、雷雨の日は戦えんではないか」
 轟天斎の切り札の一つ、天雷。雷雲を招来するこの技は、その仕組み上、雨を伴う可能性も存在する。
 その中で自身が戦えないのであれば、文字通り本末転倒となっていただろう。
 ‥‥寧ろ、湿度でその威力が増したと言う報告書通り。水は彼の攻撃の力を増幅させるのである。

「これはダメか。けど、まだ実験要素はあるよ」
 アウルの鎧を自らの身の周りに展開し、放たれた雷撃砲を中和させる。続けて突き出されたドリルのような腕を盾で上に逸らし、何とかして体の痺れを振り払って距離を取る。
「逃げるのかの?」
 追撃で放たれる雷撃砲はまたもやアウルの鎧に軽減され、致命的なダメージにはなっていない。
 投槍で牽制攻撃を行いながら‥‥海は次の技を待つ。

「ええい、ちょこまかと!」
 伸ばされる轟天斎の腕が変形する。その形は――幾度も見た、磁力を放つためのその形!
「ちぃっ!」
 即座に両手に持った十字槍、投槍をそれぞれクルリと回転させ、地面に向かって杭のように突き立てる。
 次の瞬間。彼の体を猛烈な引力が襲う。
 ‥‥抗えない訳ではない。ギシギシと音を立てながらも、海はギリギリでそこを動いては居ない。もっと磁力が強力になればいざ知らず、この時点での轟天斎の力なら耐えられる。
 だが、猛烈な引力に耐えると言う事は、少しずつ彼の体力が肉を引き裂かれるような引力によって削られると言う事であり、そして――

「来ないのじゃな。ならばワシの方から出向こう」
 ――轟天斎は、自ら足に掛けていた磁力を解除し、引力を利用して逆に自身をロケットのように海へ飛ばす。
「予想通りだね」
「何っ!?」
 十字槍を地面から抜き、そのまま縦に振るい――槍に纏わせた光の波動を放ち、正面から跳躍してきた轟天斎に叩きつける。
 衝撃の魔力を持つ光の波動は、ヴァニタスに激突し‥‥加速度によって予想以上の威力をたたき出しながら、轟天斎を吹き飛ばす。

(「転ばせてみようかとも思ったけど、機会がなかったか」)
 転倒させる狙いは、現状の手持ちの武装では接近しなければ困難。全力で吸い寄せられる事を防ぐための第一の実験と、相性が悪かったのである。
(「けど、恐らく無理だっただろうね。能力の仕組みが見えてきたし‥‥」)
 恐らくは、磁力を使用する際は足にも磁力を流し込み、アンカーとしているのだ。磁力の届く深度にもよるが、もしもそれが地球と言う巨大な『磁石』を利用した物だとしたら‥‥常軌的な手段では、この敵の足の地面を掘り返そうと、無駄であろう。

「余所見している暇があるのかのう?」
 考え込んだのが、隙となった。防御スキルを展開する間もなく、奔る雷光が彼の体を襲い、麻痺させる。
「っ!!」
 即座に盾を構い直すが――
「遅いのじゃよ」
 先ほどとは打って変わった、素早い動きで、後ろに回りこまれた。
 突き出される雷撃を纏った腕。目の前に火花が散り、視界を遮られる。
「神鳴か‥‥っ!」
 次の瞬間。ドリルが、背中から彼の胸を貫いた。

「まぁ、いいか。‥‥実験したい物は殆ど‥‥できたからね」
 げふっ、と咳き込み。血が飛び散る。
 元々、勝利のために戦っていた訳ではない。自分の想定を実験するために、海は戦っていたのだ。
 これでもいい結果だ。そう思いながら、彼は目を閉じた。


●雨野 挫斬(ja0919)の場合〜『死』闘〜

「あれ?私寝てた筈じゃ?」
 最後に覚えているのは、昨日就寝した時の状況。
 こんな何もない所で寝た覚えはないし、何より――
「ここが現実でも、一夜の夢でも‥‥目の前に愛しいアナタがいるならアタシのやる事はただ一つ」
 目の前に居たのは、愛しい(コロシタイ)彼のヴァニタス。
 幾度も刃を交え、楽しみを提供してくれたあの姿。
「さぁ!解体してあげる!」

 哄笑を上げながら、挫斬は長刀を引きずるように、ヴァニタス――「水」のたつさきさんへと急接近する。
 大振りの薙ぎ払い。しかし、ヴァニタスはそれを回避しようとせず、その身で受ける。
 引き裂かれる腕。骨が覗いたそれは、しかし、見る間に再生を始める。
「へぇー。やっぱり普通の方法じゃあダメかぁ」
 驚くほどの物でもない、とばかりに、挫斬の笑みは消えない。
「お腹は空きますけれどもね」
 声と共に、切られた部位から、獣の口が生み出され、それが挫斬の肩に伸び、噛み付く。
「アハハ!痛〜い!けど‥‥」
 噛み付かれたと言う事は、相手も至近距離で動けなくなったと言う事。最も、余り回避を行おうとはしないこのヴァニタスに、それ程の違いがあるかは疑問だが。

 ドン。偃月刀の柄が、獣の口とたつさきさんを繋ぐその根元に叩きつけられる。柄を気の衝撃が伝わり、たつさきさんの体の全体を揺らす!
「‥‥そっちはどう?体の中をかき回されて痛い?」
「痛いですわ。直ぐに消えてしまうので、楽しむこともできませんが。何なら直接、かき回しても構いませんのよ?」
 全ての防御をぶち抜くその一撃。しかし‥‥たつさきさんは、敢えてコートの前をはだけさせ、その下にある『無数の顔を持つ異形の体』を見せ付ける。
 ――このヴァニタスには、防具らしい防具はない。それでもこの異常なタフさを誇るのは――高い生命力の最大値、そしてその自己再生能力による物なのだろう。

「アハハ、ならお言葉に甘えて〜」
 ザシュッ。刃が、たつさきさんの腹部を抉る。次の瞬間、挫斬の太ももを、たつさきさんの足から生えた獣口が食いちぎる。

 ザシュ。ザシュ。ザシュ。
 お互いに、回避しようともせず、斬り、喰らい合う。
 血が飛び散る。だが、二人とも、それを気にする様子はない。
「アハハハ、これよ、こう言うのが楽しいのよ!」
 笑っているが、状況は余り挫斬にとっては良くはなかった。
 互角の実力になっているとは言え、再生能力がある分、たつさきさんの方が残る生命力は多い。この状況を打開する法は――

「もっともっと、楽しみたいよね!」
 全力全開。闘気を噴出し、更に痛みを遮断する秘法をも、使用する。
「あーら。おいしそうね。頂いても宜しいかしら?」
 即座に獣の口は喰らいつく。闘気、そして秘法が――奪い取られる。
 元より、この技を使った際は既に体力は残りギリギリ。そして、増加した闘気による一撃を叩き込まれ、獣の口によって大きく腹を抉り取られる。
 されど――
「ぐうっ‥‥!?」
 がくん、とたつさきさんの体が傾く。――仕込まれた『毒』による物だ。
「アハハハ!暴食は体に毒よ!さ、お代わりよ。遠慮せずにお食べなさい!」
 哄笑する挫斬が、再度闘気を展開する。

 ――死活、と呼ばれる秘法は、使用の際大きなリスクを孕んでいた。時間が過ぎた場合、多大な反動が使用者に帰ってくる、と言う物である。
 そして、それを怪しまずに『喰らった』たつさきさんは‥‥その反動もまた、半減したとは言え、そのままその身に受けてしまう事となったのである。

「ええ、喰らい尽くして見せますわよ?」
 切りかかる挫斬の大剣をその肩に受け、がくんとたつさきさんの体が沈む。
 だが、倒れない。
 獣の牙が挫斬の腕に食い込んでいたのだ。
 ――反動があるとは言え、死活の秘法の「絶対に倒れない」と言うアドバンテージも、二度、挫斬に喰らいついたたつさきさんはその身に得ていた。

 ガシュッ。
 腕を引き裂き、腹を貫き。
 挫斬は終に、地に伏した。
 その直後、反動の直撃を受けたたつさきさんもまた‥‥地に倒れる事となる。

「‥‥フフ、いい夢だったよ!次は現実でね!」
 どちらともなく言い放ち。かくして『死』闘は、両者の死を以って終結した。


●君田 夢野(ja0561)の場合〜虚と実と〜

 ボンッ。
 その右手に点った、炎を握り潰し。夢野が、軽く笑う。
「宿敵たる奴の力を得るとはね‥‥ハハッ、アイロニーの利いた面白い展開じゃないか」
 勝手知ったる、あのヴァニタスの力。そして相手は――
「おやおや、また面倒な力を持ってきてくれた物です」
 白いスーツの優男。油断する事なかれ。この者もまた人間ではなく、ヴァニタス――それも、八卦の指揮者と言われる「湖」のロイ。
 ――最も、夢野の心には、油断などなかったのだが。

「奴もそうだが、お前も気に入らなかったんだ‥‥ずっと高みから人の悩み苦しみ嘆く様を眺めて、さァ‥‥!」
「随分と私を知っているような口ぶりですね?」
 言葉は、さらりと受け流す。だが、続く炎はそうは行かない。
 作られた炎の道を魔力の腕二本を使い、ギリギリでガードする物の‥‥その炎は飽くまでも囮。飛び込んだ夢野の持つ斧が、強引に魔力の腕を破壊するように、叩き込まれる!
「うっ‥‥流石の、腕力ですね」
 霧の中ずさりと、後ろに滑って止まるロイ。直撃はなかった物の、衝撃は魔力の腕で防ぎきれては居ない。ダメージもそれなりに受けたのだろう。
「さて、ではこちらも布石を行うとしましょう」
 出現した姿は一つ。ロイとまったく同じ『幻影』。
 だが、待って欲しい。果たして出現したのは本当に一つか?ロイが己の姿を隠蔽し、新たに『二つ』の幻影を出現させたのではないのか?
「相変わらず面倒な能力だ。けどな――」
 身を屈める様にして、夢野は力を溜める。
「考えて分からないなら、全部焼き尽くすまでだぁぁ!」
 叫びと共に、その身から炎の輪が広がる。

 炎の輪の中、夢野は四方の炎に注目する。
(「幻影や不可視の腕が来ようとも、炎の揺らめきが真実を伝えてくれるはず‥‥」)
 ヒュッ。
 突き出された魔力の腕を、炎の揺らぎを頼りに回避する。
「なるほど。それがレーダーですか。では『上塗り』させていただきましょう」
「っ!」
 幻惑を司るヴァニタスが、呟く。
「ワンマンアーミー」
 クラウドサモニング。大量の幻象を作り出し、場を覆い隠す技。
「ワンマンアーミー‥‥? ハッ、お前の軍隊は所詮張子の兵士だよ!‥‥そう来るのはな、知っていたんだよ!」
 不敵な笑みを浮かべ、パチりと指を鳴らす夢野。
「爆音のオーケストラ、その耳に焼き付けろ!」

 シー‥‥ン
「何っ‥!?!?」
 何も、起こらない。
「能力への認識が‥‥甘かったですね」
 どこからともなく響く、ロイの声。
「我が友の時限爆薬は、『接触した生物』を媒介に致します。‥‥地に撒いたとしても、生えてくる訳もございませんが」
 ザシュ。夢野の喉元に、手刀が突き立てられる。反撃しようとも、次の瞬間、既に目標はその場にはない。
 『デュエルリング』。炎の場によるダメージを最大限に軽減するため、ロイが選んだ戦法は一撃離脱。留まる時間を最小限にしているのだ。
 ――それは同時に、彼にはこの『場』に対抗できる法はない事をも示していたのだが――読みを外した夢野にもまた、彼の連続襲撃に対抗する法は‥‥なかったのである。

 突き立てられる手刀。
 ――削り合いならば、持続ダメージであるデュエルリングのみでは‥‥僅かに、直接攻撃に劣るのだ。
「だからてめぇは‥‥気に入らないんだ」
 ドサッ。


●亀山 淳紅(ja2261)の場合〜復讐の歌〜

「あぁ‥‥酷い悪夢や」
 淳紅の目の前に浮かぶ姿は、彼が最も憎み、最も嫌う『最悪』のヴァニタス。
「始めよか‥‥こうなった以上、この場には‥ ‥復讐の二重唱が、1番よう似合う」
 普段の快活な彼からは想像できぬ、悪鬼の如く表情を浮かべ。
 その目は、その敵の炎にも劣らぬ激しさの、怒りを湛え。その手に螺旋を作り出し、投げつける。
「おっとあぶねぇ!」
 炎の鎖をぶつけ、風の螺旋を爆発させ、その場で打ち消す。
 その足に、炎を点らせ、一気に接近しようと――
「させない‥‥っ!」
 地に、血色の楽譜が浮かぶ。そこから、無数の死者の腕が這い出し、ヴァニタス――『火』のバートをその場に縛り付ける!
 即座に再度、風の螺旋を叩きつけ、バートの意識を刈り取る。ばら撒かれる反応爆弾の爆発を確認し、その爆煙を囮に‥‥爆発の反動で意識を取り戻したバートの顔に、目隠しの布を巻きつける!

 ジュッ。
「‥‥んな小細工、効くと思ったか?」
 普通のディアボロやヴァニタスならば、あるいはこの手は有効だったかもしれない。少なくとも、顔を拭う一瞬の隙は稼げたはずである。だが、今淳紅が相手としているのは『火』の八卦。水でさえ一瞬で気化させる高熱を持つその身の前では、魔具ではない布もまた、一瞬で燃え尽きてしまうのである。
「やってくれたなぁ!!!」
 炎のリングが展開されると共に、布を被せるために伸ばした腕を掴まれた。そこまでは予想通り。全てのエネルギーを頭の前面に集め、ぶつけると同時に、爆発させる!
「ぐっ‥‥やろう‥‥!?」
「前のお返しや‥‥まだまだ、こんなもんやないで!」
 腕から、バートの纏う熱が流れ込む。肉を焼き、血を沸騰させるそれに、だが声一つ上げない。
「――っ!」
 掴まれた腕から、炎の種を仕込まれたかは、分からない。無理やりその腕を振るい、バートに叩きつけるようにして、禁呪を発動しようと――
「おせぇぇ!」
 腹部に当てられたバートの足に火が点ったのを見たのは、禁呪の発動の直前。だが停止は間に合わず、炎の道を作り緊急脱出したバートへ与えられたダメージは、自身への反動よりも軽い。

「がっ‥‥は‥‥!?」
 禁呪の二連使用によって‥‥バートに与えられたダメージも、決して軽くはない。だが、淳紅自身も禁呪の反動に加え、デュエルリングの持続ダメージとバートの拳打を受けている。
 ――状況は、有利とは言えない。
 禁呪を、切り札の一手にセットしようとした瞬間。自らの腰に、炎の鎖が巻き付いているのに、淳紅は気づく。
 即座に足に力を入れ、体勢を崩されないように耐えるが――引っ張られたのは、淳紅ではなくバート自身。
「オラァァァ!」
 引き寄せる加速度を乗せた拳が、淳紅の頬を殴りつける。既に削られていた体力が、一気に危険域に突入する。
「望む所や‥‥!」
 伸ばされた手が、バートの喉元を掴み上げる。
「ほんまは‥‥自分らはあんたに、生きたまま罪を償わせなあかんのや」
「でもできへん‥‥物理的に今の技術や不可能や」
 その手に点るは、悲しみと言う炎。目の前の者に殺された数々の者たちの為の、怒り。
「‥‥なにより、火が消えてくれへん‥‥あんたを殺したいって焼ける心が!」
「へっ‥‥知ったこっちゃねぇ‥‥一緒に逝きたいのなら、逝ってやるよ!」
 逃げようともせず、バートはベアハッグで淳紅に抱きつく。
 お互いに流し込まれる――アウルと、炎の種。
 目が眩む様な爆発と共に、二人が光に包まれる。

「ああ‥‥せや‥‥」
 なんとか、唇だけを動かす。
「好きな歌‥‥ききたかったんや」
 それだけ言って。淳紅は目を閉じた。
 最後に見たのは‥‥動かぬ屍と化した、宿敵の姿。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 高松紘輝の監視者(終身)・雨野 挫斬(ja0919)
 歌謡い・亀山 淳紅(ja2261)
重体: −
面白かった!:11人

血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
『三界』討伐紫・
高瀬 里桜(ja0394)

大学部4年1組 女 アストラルヴァンガード
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
高松紘輝の監視者(終身)・
雨野 挫斬(ja0919)

卒業 女 阿修羅
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
撃退士・
音羽 聖歌(jb5486)

大学部2年277組 男 ディバインナイト