●誘う刃
「う――おぉぉぉぉぉお!」
翼を展開したまま、滑空。全体重を乗せたラグナ・グラウシード(
ja3538)の体当たりが、子供たちに手を挙げたディアボロ‥‥ウォータークラッシャーの腰に直撃。そのまま押し倒す。
「大丈夫だ、私たちがいる‥‥守ってみせる、必ず!」
水底を転がるようにして体勢を整え、膝立ち、低姿勢のままのまま、何時でも子供たちを庇えるよう盾を構える。
「今です、ユウさん!」
「ええ‥‥男の子の方は、引き受けます」
白と黒の翼が空中で交差し、エリーゼ・エインフェリア(
jb3364)が男の子を、ユウ(
jb5639)が女の子を、それぞれ空中へと引き上げる。
それを襲撃と誤解し、反応してかどうかは知らないが、ウォータースナイパーたちの銃口が、彼女たちに向けられる。
「貴様らの相手はこちらだ」
挑発のオーラをその身に纏い、足に風の加護を纏う。空中を『駆ける』フィオナ・ボールドウィン(
ja2611)が、堂々と前進を始める。
「後は任せたぞ!」
入れ替わりに、曲げた足で地を蹴り。ラグナが空中に浮かび上がり、追随するようにユウとエリーゼと共に、戦場から離脱しようとする。
「ああ、時間稼ぎは請け負おう。だが‥‥いけるようなら倒してしまっても構わんな?」
自信ありげな笑み浮かべ、堂々とした風格でフィオナが腕を組む。
「さて、しばし付き合ってもらうぞ。一体ぐらいは潰したいところだが‥‥」
●混戦
フィオナに追随するように、水上を駆け抜ける高虎 寧(
ja0416)。まるでそこが陸上であるかのように、機敏に左右へと回避行動を取りながら、敵前衛‥‥盾を構えたウォーターナイトへと接近していく。
「直接盾に当てにくるとでも思った?」
直前で、槍を突き出すと見せかけたそれはフェイント。水底に向かって槍を突き刺し、そのまま棒高跳びのようにナイトの背後へと飛び越え、そのまま槍を突き出す。
ガキン。水の大盾に、その一突きが阻まれる。
阻んだのは、もう一人の水の騎士。背中合わせになるようにして、味方を守ったのである。
何かの術式を展開するかのように、動き始めるウィザード。
その後ろから、水の鉄槌を持ったディアボロが跳躍するように飛び出し、そのまま鉄槌で水面を猛撃する!
水面を割り、鉄槌の一撃が波を引き起こし、水面に立っていた寧のバランスを崩すと共に水の中へと飲み込む。フィオナは急速に高度を上げることで水没を免れたが、移動した直後のその瞬間、彼女を三本の銃口が狙っていた。
「ぐっ‥‥統制が取れているな‥‥!」
高精度を誇るその水弾たちが、空中上昇のため急激には回避行動が取れない彼女を貫く。基本防御力の高さもあり、致命的なダメージではないが‥‥
「ぬう‥‥!」
黒き闇の帳を展開し、脱出する三名への攻撃を遮断しようとしていたケイオス・フィーニクス(
jb2664)が、この状況を鑑みて前進する。
だが、スキルを交換しなければならない事もあり。彼の攻撃開始は1T遅れる事となる。
「こっちだ!」
空中から降下する月詠 神削(
ja5265)。『全力跳躍』を移動に利用した彼は、見事に早急に敵陣の中へと着地する。
だが、この方法にはリスクも存在する。着地した直後は、行動ができないのだ。
「面倒くさいガードよね」
今度こそ、寧の突きが、盾のガードが薄弱な下半身を狙い、ナイトの内一体の太ももに突き刺さる。
だが、そこへ再度、クラッシャーの鉄槌が水面をを叩く。押し寄せる波は彼女を飲み込むと共に、先ほど傷つけたナイトの傷をも、水で補うようにして、癒していく。
水は同時に、神削をも飲み込む。確かに跳躍によって『移動速度』の問題は解決した物の、着地した後の動きにくさは、どうにもならないのだ。
「待ってて、いまいくわよ!」
ざぶざぶと、水を搔き分けながら前進するこの‥‥男でいいのだろうか。
自他共に認めるオカマ、御堂 龍太(
jb0849)が、そのドレスを水で濡らしながら、前進する。
読み上げた書物から放たれる毒蛇。それはナイトの一人に噛み付き、その体を毒で蝕む。
「ちっ‥‥面倒な‥‥!」
横に滑空し、クラッシャーの影に入る事によって水弾に対する遮蔽としようとしたフィオナ。だが、スナイパーから放出された水の奔流は容赦なく、クラッシャーごと彼女を貫く。
――彼らの体は『水』。故に、同じディアボロが放たれた『水』の攻撃であれば、その一部を体に融合させ、失われた体力を取り戻す事が出来るのだ。
遠慮する事はない、と言わんばかりに、水はクラッシャーごとフィオナの体を貫く。
三体目のスナイパーは、ナイト二体が既に攻撃を受けている現状を鑑みてか、ナイトに変化する。
前進するケイオスが、暗くなる空を見上げる。
「‥‥幼子達は、無事安全な場所へと辿り着いただろうか‥‥」
雨が、降りそうな、天気だった。
●隠れるための一手
一方、救出班。
「大丈夫‥‥?絶対落としはしませんから、がんばってください!」
自身にしがみ付く少女を、しっかりとその手に抱きしめ。
足先が水を掠めるくらいの低空を飛び、エリーゼは岸辺へと向かう。
「‥‥少し揺れますが、しっかりつかまってくださいね」
ユウもまた、後ろを見ずに、全力で岸へと飛行する。
その後ろに、頼れる盾があり。
仲間たちが、自分たちを逃がすため、全力を尽くしているのを、知っているから。
「‥‥油断はできんが‥‥!」
盾を構えるまま、空中で後退するように、ラグナは飛行する。
ケイオスが展開した闇の壁の効果もあり。そもそもこちらは狙えないのか、攻撃が飛んでくる様子はない。だが、それでも油断は禁物だ。
「!!」
飛来する水の本流を、白い翼を展開してユウと少年を守りながら、ラグナはその盾で受け止める。
「大丈夫ですか?」
「‥‥こう見えても頑丈なんだ、心配は無用だ」
彼らは知る由は無かったが、今回のディアボロたちは、別段、この兄妹に恨みがある訳でもない。
ただ、目の前に敵である「人」がいたから。ただそれだけのために、手を伸ばしたのだ。
故に、同じ敵であり、攻撃してくるがために更なる脅威となった「撃退士」が現れた以上。救出班に飛んでくるのは「偶然射線上に居た」ための物、流れ弾のみになっていたのである。
そして漸く、救出班は、岸に辿り着く。
「それでは、後は任せました。‥‥私は皆さんの方を援護してきます!」
抱えた少女をユウに渡し、白の翼を広げて戦場へと戻っていくエリーゼ。
「この付近に、雨をしのげる場所はないか?」
少年に、ラグナは問う。
――指し示されたのは、付近にあった、とある洞窟。少年によれば、いつも遊んでいる時に雨が降った場合は、ここに隠れていたのだそうだ。
「ここで、隠れてください」
少年と少女を、そこに下ろす。
「えっ‥‥」
不安げな瞳が、彼女を見つめる。
「‥‥必ず‥‥迎えにきます」
自分の携帯を、子供たちに渡すユウ。
ポン、と少年の肩をラグナが叩く。
「君は兄なのだろう、なら‥‥妹をしっかりとここで守っていてくれ」
少年が頷いたのを見て、ラグナは微笑みを浮かべる。
「よし。直ぐに戻ってくるからな!」
●Heated Battle
「さぁ、来るがいい我が同胞の傀儡よ‥‥! 汝等が操る水が上か、我の劫火が上か‥‥その身をもって知らしめてくれよう!」
手を挙げたケイオスの頭上で、巨大な火球がいくつも作り出される。連続で放たれるそれは、ウィザードとディアボロたちの前衛全てを飲み込んだかのように見えた。ウィザードをナイトの一体が庇った物の、それは庇ったナイトのダメージの累積を意味していた。
「庇うと言うのなら‥‥こうだ!」
その機を見逃さず、すかさず腰を引き、力を溜める。
突き出された神削の拳は、猛烈な衝撃力を以って、大きくそのナイトを後退させる。
最早盾役としての役目は果たせないと思ったのか。吹き飛ばされたナイトは、形態変化を始める。だが、それこそが神削の得たかった『結果』。
「防御が薄くなる形態に変化したこの瞬間が‥‥チャンス!」
純白のアウルを、構えた拳に流し込む。水を割る程の踏み込みを以って、神削が前に出る。
そのまま、その右腕を‥‥大きく突き出す!
ガン。
鈍い音、そして手ごたえ。
目の前に立っていたのは、スナイパーに変化したディアボロを庇った、もう一体のナイト。
――確かにナイトは鈍重故、元の陣形に戻ろうとすれば時間は掛かるだろう。
だが、他のナイトを含めた「全員」が、合流のため移動すれば、その時間は大きく短縮できる。
無論、これは全員の意思が統一されなければ行われない事だが‥‥「指揮官」が居る現状。寧ろ孤立を嫌う「指揮官」――ウィザードの意思から見れば、これこそが当然の行動なのだ。
入れ替わるようにして、他のスナイパーがもう一体、ナイトへと変化する。
「あなたも毒をくらいなさーい!」
再度、龍太が毒蛇の形をした術を飛ばす。それを受け止めたのは、先ほど既に毒を受けたナイト。
バッドステータスをいくら重複で喰らおうとも、その効果が倍増する訳ではない‥‥その為に、敢えて1体が全てを受け止めるつもりだったのだろう。
「こう言う時は奇門遁甲、使いたいけど‥‥」
ちょっと距離が遠いのよね、とため息をつく。
水に適応した能力を持たない彼に取って、これだけの距離を詰めるのは‥‥苦行であった。
「ならばその役割、我に任せてもらおう!」
高度を下げたケイオスが、その全身から闇を放ち、あたりを包み込もうとする。
だが、盾を構えたナイトが、またもやそれを全てその身に吸い込む。
次の瞬間。終にフィオナのタウントの影響を振り払ったのか、彼に向かってクラッシャーが跳躍し、鉄槌が彼を水中へと叩き込む。
ぽつ、ぽつ。
最初期にウィザードによって行われた、降雨の祈り。その効果が今出始めたのか、雨がその場へと降り始める。
「お待たせでーす!」
それと同時に、先に川岸でUターンしたエリーゼが、戦場へと帰還する。到着と共に放った裁きの光が、容赦なく戦場へと降り注ぎ、味方を防御したナイトたちを傷つけていく。
反撃。二発の狙撃弾がの一発が彼女の肩を掠め、もう一発が、足を打ち抜く。
「この高さでも狙い打たれるとは‥‥流石『狙撃』ですね」
慎重に、ギリギリの高度から攻撃を放ったはずだった。だが、攻撃を放って即離脱は、事前にその高度にて待機していなければ出来ない芸当。そして、その場に待機していたのならば、そこを狙われて狙撃されるのだ。
「硬っいなぁ‥‥」
横へ飛び込んだ寧の、回転するような薙ぎ払いが、背後からナイトの一体を打ち据えるが、僅かにその体が揺らいだだけで、直ぐに体勢を立て直してきた。
「いたっ」
針に刺されたような痛みに、思わず頬をぬぐう。流れる血が一筋。攻撃は全て、回避していたはず‥‥!?
「雨っ!?」
降り注ぐ水滴の、その全て。水を武器とする魔術師によって、それは鋭い針と化し、撃退士たちの全員に降り注ぐと共に、微量ながらディアボロたちの傷を癒していたのだ。
「時間を掛けると不利になる‥‥!」
敵が全体攻撃と全体回復を有しているような、この状況。回復がない撃退士たちは、時間を掛ければ掛けるほど不利になっていく。
神削は、再度白い光をその拳に注ぎ込み、拳槌で振り下ろすようににナイトの1体へと叩き込む。ケイオスとエリーゼによって削られていたナイトを水底へと叩き込む。
すぐさまにスナイパーたちの銃口が彼に向けられるが‥‥
「余所見をするな!」
再度フィオナが挑発のオーラを纏う。
――放たれたのは、狙撃弾ではなく、奔流。
フィオナ、神削、そしてクラッシャーの全てを貫いた直後、クラッシャーの振るう鉄槌が起こす波が、他のナイトと神削を飲み込む。
フィオナは上空へと逃れていたが、雨の針が、少しずつ彼女の体力をも蝕んでいく。
「代わろう、フィオナ!」
自信に満ちた、声が伝わる。ラグナが戻ってきたのである。
フィオナと入れ替わるように挑発のオーラを纏い、放たれた狙撃弾をラグナはその身に受け止める。
――撃退士たちは、ナイトを最優先撃退目標としていた。だが、ナイトは複数居る。そのどれを目標とするのか、定まっていないが故に、ターゲットが分散していた。
そして、ディアボロ側も‥‥ナイトが一定以上のダメージを受ければ他の者がナイトに変化し、ナイトがその者の役割を代行すると言う、ローテーションのような陣を組んでいたが故に‥‥撃破は、著しく緩慢となっていたのである。
だが、エリーゼとケイオスの範囲攻撃により、ダメージの累積していた水のディアボロたちは、終に誰が攻撃を受けてもダメ、と言う状況に至っていた。
「さて、先の戦いで掴んだものを、真実ものに出来ているか試すとしよう」
思い浮かべるは、魔の『王』との交戦。その力を応用し、フィオナはこの技を編み出した。
魔力を重力に転換し、大剣へと上乗せする。振るわれた重たく、粉砕するようなその一撃は、ナイトを粉々に粉砕し、ただの水へと変える。
「子供に手を出すクソ冥魔は、問答無用で殺すことにしてるんだ。‥‥慈悲なんて、あると思わない事だ」
三度、神削のその拳に光が注ぎ込まれる。拳が僅かに巨大化したようにすら見える、その光は‥‥ナイトを、再度水中へと叩き込む。
「さぁ、蒸発しろ!」
ケイオスの投げた火球が、次々とディアボロを焼き、粉砕していく。
だが、そこで、異変は起こった。
「‥‥なっ!?」
降雨によって高まったはずの水位が、下がっている。無論、水がなくなった訳ではない。
「何だと‥‥!?」
巨大な、水の壁が。彼らを襲う。
――海に関連する災害の最もたる物。津波。それがこのように浅い川内で起こるはずは無かったのだが‥‥其れを成し遂げたのが、ウィザードの力なのだろう。
高度を上げ、これを回避しようとしたフィオナは、しかし高度が足りない。
撃退士たちは波の中へ、飲み込まれる。
静まる水面。振り向いたウィザードが、その場を離れようとしたその刹那!
「‥‥掴んだぞ。完璧にな」
笑みを浮かべ、水底から手を伸ばしたフィオナ。そのまま、空中へと重力を載せた一撃が、ウィザードを打ち上げる!
「貫いて!」
エリーゼの投げた光の槍が、ウィザードを貫き。
「‥‥もらいました」
すれ違いざまに薙がれたユウの槍が。ウィザードを粉砕したのである。
●お迎え
「さて、子供たちを迎えに行こうか」
ラグナが、濡れた装備をヒヒイロガネへと収納する。
苦戦はした物の‥‥撃退士たちは、勝利したのである。