●Open Fire
「迷惑な戦車もあったものです。‥‥戦争と破壊の道具である戦車に、いいも悪いもありませんが」
自分の方に向けて猛進してくる戦車に向かって、牧野 穂鳥(
ja2029)が言い放つ。
状況確認を行っているのか、戦車は一旦、彼女から20m程離れた所で停止する。
――ディアボロが、自分が包囲されているのに気づくのに、時間は掛からなかった。
「どーん、とね!」
後ろに回りこんだファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)が、それに向かって巨大な火球を投げつけたからである。
火球は空中で分裂し、無数の炎弾と化しその場に降り注ぐ。命中した炎弾が、ディアボロ『アクセルタンク』の外装甲を熱し、灼熱化させる。
返礼とばかりに、砲塔から砲弾が打ち出される。円を描くようにして動いていたファティナに、その砲弾が直撃する事は無かったが――
「くぅっ!?」
撒き散らされる強酸に、装備が腐食される。範囲をカバーする数々の砲撃は、移動による回避を困難にしていたのだ。
「ティナさん!」
友人のピンチに、すかさず牧野 穂鳥(
ja2029)もまた、攻撃を開始する。彼女が使用するは、花を模した術式。炎の籠が戦車の周囲を覆い、内部へと多数の炎弾を雨霰と投じる。
そして、その弾幕に乗じ、空中から三つの影が降下する。
●Follow the Runner
「【進撃の】ディアボロ戦車と戦うなう( ´∀`)【戦車】」
某ソーシャルサイトへの書き込み‥‥‥完了。
「テーレッテレー♪(・∀・)うまい!」
それと同時に、空いた片手でごくごくとカフェオレを飲み干す。缶はその場に投げ捨て‥‥ずに、仕舞う。後で使わなければならないのだ。
――全ての準備を完了させたルーガ・スレイアー(
jb2600)が、そのまま空中で両手を振り上げる。
背中の翼を広げて反動に耐える準備をし、手に黒いエナジーを溜め‥‥一直線に、解き放つ!
砲塔と車輪を同時に貫くべく放たれたその衝撃波は、しかし砲塔のみに直撃する。何故ならば――アクセルタンクが走り出していたからだ。
「意外と‥‥すばしっこいで、ありますね!」
同様に薙ぎ払いを空振りした綾川 沙都梨(
ja7877)が、戦車の走り去った方を見る。
この戦車は、決して遅くは無い。それはキャタピラではなく車輪で走行しているお陰であり。ディアボロ故に内部乗員の快適性を無視できる故のオーバースピードでもある。
ルーガの封砲が同時に車両と砲塔を貫くには、彼女の位置が戦車のほぼ真上に位置している必要がある。故に‥‥急に車両が移動すれば、狙いがズレ上にある砲塔のみに当たってしまうのだ。
「‥‥牧野、そちらへ向かったぞ」
ケイオス・フィーニクス(
jb2664)が、注意を促すと共に、手に持つ書を広げ多数のカードを放つ。それは車両の後部に突き刺さるが、突進の勢いが緩む気配は無い。
車両の魔術抵抗を下げるべく施術していた穂鳥は横っ飛びに回避を試みるが‥‥元より物理的な能力が低いため、激突の直撃を受けてしまい地を転がる。
「ちょっと、危険運転だよ!!」
逆側に跳ぶ事で何とか突進を回避した藤咲千尋(
ja8564)が弓を構え、車輪に向かって狙撃すると共に、朝比奈 空(
jb2026)がライトヒールを穂鳥に施し、多少その体力を取り戻させる。
車輪に当たる矢は、しかしキンッと金属音を立て、弾かれてしまう。仮にもこの車輪は突進の際使用される『武器』なのだ。そう簡単には破壊できないという事なのだろう。
「追いついたぞ!」
燃え盛る翼を広げ、急速で接近する香具山 燎 (
ja9673)の、その手に持つ刃が光を纏う。
突進の勢いそのままに急上昇、切り上げで砲身を切りつけ、穂鳥への追撃を止めさせる。だが、砲身がぐにゃりと、まるでU字を描くように曲がり‥‥今度は彼女に向かって、砲弾が放たれる!
「ぐっ!?」
咄嗟に盾を構えるが‥‥至近距離から放たれたのは、徹甲弾。それもその筈。他の全ての弾は、この近距離では戦車自体をも巻き込みかねない。全てを『貫通し、爆破する』ためのその弾丸は。盾を貫き、燎に直撃する。
「スクラップの片付けも、私達のお仕事ですからね」
後退し、距離を離しながら術式を構築する穂鳥。再度、炎の蔦で編まれた籠が、鋼鉄の戦車を取り囲む。と同時に‥‥
「これも追加ですよー」
空の召喚した無数の流星が、上空から降り注ぐ。だが‥‥炎の籠から放たれた火種が戦車のみを狙っていたのに対し、流星は無差別に戦車と‥‥それに至近距離まで接近していた燎を打ち据えていた。
「ああ、申し訳ございません。大丈夫ですか?」
慌ててライトヒールを燎に掛ける空。
「大丈夫だ。頑丈なのが取り柄だからな‥‥っと!?」
幸いにも、防御に優れる燎は盾で受けたお陰もあり、流星程度では大したダメージにはなっていない。
だが、この一瞬の隙に、戦車は再度突進を始めている。
「くっ‥‥!」
咄嗟に障壁で防ごうとするが、スキルの切り替えが間に合わない。重い体当たりを受け、穂鳥は地に倒れこむ。
そして、それを遠慮なく狙う、砲口。
「止めて‥‥やるの!」
弓を構え、放たれた砲弾に向かって射る千尋。狙うは‥‥空中で爆破させる事。
だが、特別なスキルもなしに、砲弾の信管に当てるのは至難の技。矢は彼女の技量もあって、普通なら空中では当てられない筈の砲弾の後部を奇跡的にも直撃し、僅かにその軌道をずらした物の‥‥穂鳥の右後方に着弾したそれは破片を撒き散らし。彼女と穂鳥、そして空の三人を巻き込んだのであった。
これによって、穂鳥はついに、膝をつく事になる。
●Reach the Runner
「やっと追いつきました‥‥!」
最初に攻撃する際、射程ギリギリから行った事もあり。反対側――穂鳥の方へ向かったアクセルタンクにファティナが追いつくのには、幾ばくかの時間を要した。
敵を射程に捉えると同時に、雷の剣が放たれ、車体に突き刺さる。繰り返し攻撃を受けた車体は既にやや損傷が目立つ状態となっており、今までの攻撃が決して無駄ではなかった事を示している。
「対戦車戦の基本は、機動力を奪う事でありますっ!」
地を蹴り、ワイヤーをホルダーから抜き放つ。同様に追いついた沙都梨が大きくそのワイヤーを横に薙ぎ払い、続けざまに強烈な膝蹴りを車体の横に叩き込む。
衝撃は大きく車体を揺らし、その暴走を停止させる。
「今がチャンスであります!」
彼女の合図と共に、撃退士たちが一斉攻撃を行う。
「ルーガちゃんのドーンと行ってみよーう!」
ルーガの封砲が、砲塔を貫通し、車体にもダメージを与える。と共に、ケイオスの発射した黒いカードが車体に突き刺さる。攻撃が止むこの機に空は自身の体力をライトヒールで回復させる。
「人の子が創りしカラクリを模したのか‥‥我が同胞もなかなか興味深い事を考えているようだな‥‥」
考察しながらも、夜目が利くのをフルに生かし、ケイオスは戦車を観察し続ける。
「‥‥アイゼンブルク、綾川、狙われているぞ」
砲塔が横に回転してファティナを狙うのを、ケイオスが見て警告を飛ばす。
「任せるといい」
抜刀の勢いそのままに、燎の剣が砲身に叩き付けられる。僅かに狙いが横にズレ‥‥放たれた砲弾は、千尋と空の付近で爆発。爆炎が彼女たちを包む。
「あっつー!」
火炎の中から転がり出て、そのまま地を転がって纏う炎を消す千尋。だが、味方の回復のためある程度接近せねばならず、度重なる攻撃に巻き込まれていた空は、終にその場に倒れる。
「むう‥‥侮れない相手でありますね!」
炎の中を突破し、再度ワイヤーを構え。車両の動きを止め続けるべく突進した沙都梨。しかし、僅かながら、戦車の方の回復が早い。振るわれたワイヤーは空気を引き裂き、戦車は一直線にファティナに向かって突進する。
「そう来るのは‥‥予測済みですっ!」
先ほどの穂鳥への攻撃から、このように遠い者に対しては突進を仕掛けてくるのは予測済み。故に、既に対策の手段もあり。ファティナは、編み出しておいた術式を、一気にその場に解き放つ。
――地より、無数の幻影の腕が伸び、絡みつく。それは車輪の回転を止め、慣性による車両の『滑り』をさえ、停止させる。『異界の呼び手』と呼ばれるその技術は、見事に車両の突進を、彼女に接触する前に停止させる。
「でかしたであります!」
再度ワイヤーを振り上げる沙都梨。この異界よりの手は、飽くまでも相手の移動を停止させる物。故に完全に行動不能にさせるまでは、もう一手必要だ。
しかし、その一手が届く前に、彼女の心配は現実となる。
●Thunder Burst
爆発でも起こったと錯覚させるような、轟音。
だが、そこで実際に何かが爆発した訳ではない。この音は‥‥電圧差が一定以上に達した際に、電撃が空気中を通り抜けるに際して発生する物。即ち‥‥俗に言う『雷』である。
「ぐぅぅぅっ!?」
「きゃあっ!?」
事前の情報から、放電が来るのを想定していた者は多い。だが、想定していなかったのは‥‥その衝撃によって押し出されると言う部分。
「ティナさん!?」
千尋の叫びは届かず。雷撃の爆発により、ファティナと沙都梨が空中に投げ出され、そのまま高速道路の下へと落下していく。
「『ちょっぴりハイセンスなう』なこの服でも、押し戻されるのは避けられないのね」
空中を一回転して、何とか翼を広げて滑るのを止めるルーガ。着ているゴムカッパは電撃自体の威力を多少和らげてはいるが、衝撃自体は緩和できてはいない。
「中々に強烈だった。耐えられないほどではないがな」
同様に、燎もまた、空中で踏みとどまる。ルーガと同様に直撃を受けた彼女だったが、距離が近い分、ダメージもまた大きい。
「怯むな、今の内に行動不能にしてやりたまえ!」
術式を再起動させるケイオス。足止めが可能なファティナと沙都梨が共に戦場から投げ出された以上、異界の呼び手が効いている内に車両部を破壊せねば不利になる。只でさえ現状で戦闘可能な撃退士は4人しか残っていないのだ。
「今ならっ!」
猛攻の末、ルーガの一撃に続いて放たれた千尋の矢が、ついに完全に車両部を完全に貫通する。プスプスと煙を上げ、車両は動かなくなる。
「っ‥‥まだだ、来るぞ!」
「大丈夫大丈夫‥‥!?」
砲弾。ルーガを狙ったそれを、彼女は盾を構えて防御しようとする。しかし、同様に空中にいたケイオスと燎がどちらも彼女からは離れていたが故に、発射されたのは単体目標である徹甲弾。盾を貫き‥‥それは爆発する。
「いい攻撃だ。だが、隙が大きすぎる」
大上段から振り下ろされた燎の刃が、砲塔の中央を捉える。そのまま横に振りぬくようにしてもう一撃。深く、跡が砲塔に刻まれる。
「そろそろ、終わりにしちゃわないとね!」
振るわれた両手から、放たれる直線の衝撃波。それは先ほど燎が刻んだ跡から入り込み‥‥内部で、爆発する。
終に火花を上げ、砲塔もまた、停止したのだった。
●Overall Solution
アクセルタンクの撃破が確認された、その後も。撃退士たちが警戒を解く気配はない。
――ここで、『本体』を逃がしてしまっては全くの無駄足だ。故に、警戒度は寧ろ高まっている。
千尋は弓を構え、いつでもマーキングを撃ち本体を追跡する用意をしている。
ルーガは先ほど飲んだ缶を紐に結びつけ、金属を利用すると言うディアボロの特性を、更に利用すべく罠を作っている。
――だが、ケイオスの講じた手によって、一気に全ての問題は解決する事になる。
戦車に降り立った彼は、そのまま周囲に、練りこんだ冷気を放つ。
「どうした?出てこなければ、このまま凍死するぞ?」
挑発的な彼の物言いは、果たして眠ったディアボロには届いたのだろうか。最も、出てきた所で、再度眠ってしまい撃退士たちの袋叩きに会ったのは恐らく間違いあるまい。
――そう考えれば、このまま眠りの中で凍死するのが、このディアボロにとっては‥‥幸せだったのかもしれない。
●Result
暫くして、やや遠回りした物の、落とされたファティナと沙都梨が帰ってくる。
「厄介な敵でありました‥‥この手で壊せなかったのが残念であります」
「その内また出てくるかもしれないよ?」
少し残念そうにする沙都梨に、からかうようにして千尋が呟く。
「こんな敵は、もう出ないのが一番なのですけどね」
そこ、今フラグが立ったとか言わない。