●The Beginning
「ぷ〜さん、大丈夫かなぁ〜」
歩きながらも、自分の「友達」であるひよこを心配するクリーメル(
ja2297)。
「きっと大丈夫です。受け取ったあの方は食堂の職員をも兼ねてますから‥‥っ!?」
失言に気づいた御手洗 紘人(
ja2549)。だが時は遅し。
一気に泣き出しそうになるメル。
「い、いえ、きっと大丈夫ですよ!他の方もいましたし、ぷーさんに命の危険は‥‥‥」
「はいはい、ここまで。仮にも学園の職員なんですから、信用してあげましょうねー」
パンパンと手を叩き、彼女らをなだめる大上 ことり(
ja0871)。
彼らは、決してピクニックでここに来ているわけではない。失踪した調査隊の捜索のために、ここに来ているのだ。
「それで、皆さん。事前調査の結果はどーだったでしょーか?」
ことりに応じて、皆がそれぞれの調査、準備結果を述べる。
九曜 昴(
ja0586)。
「携帯はもう壊れてるみたいなの。電話しても電源が切られてると言われて、GPS機能も効かないの」
メルと紘人。
「装備は借りられたです。けど、教習は受けられなかったです‥‥時間が足りないです」
「噂については‥‥正確な物はありませんでした。何せ姿を見て帰って来た者はいないそうなので」
仁良井 叶伊(
ja0618)。
「天気は予報では良好らしいですね。けど、この森は付近の地形が複雑なせいで、天気が変わりやすいとは聞きました」
ルーネ(
ja3012)。
「連絡が途切れた場所は、森のど真ん中辺り。そこら辺を集中的に探せばいいかな?」
一通り情報交換を済ませた撃退士たちは、お互い顔を見合わせて頷くと‥‥森の中へと入っていった。
「気合‥‥入れていくのっ」
何時も眠そうな目をしていた昴も、今回は気合が入っていた。
●The Search
「うーん。なにか落っこちてたりしないかな‥‥?」
先頭を歩くことりが、岩をひっくり返したり、植物等をかき分けたりしている。腰には懐中電灯を下げている。とっさの事態に備えて、手を開けておく為だ。
「山育ちだから山中での探し物は得意なんだ」
同様に「調査」に重きを置いたルーネは、足跡等を慎重にチェックしている。だが、見える物は殆ど獣の足跡、怪しい物は含まれていない。
その一方、叶伊、メル、昴は慎重に付近の警戒を行っている。天魔が出没する噂がある以上、油断する訳には行かないのだ。メルは、念のためにと、その手には阻霊陣をも構えている。
傭兵たちが取った陣形は、中央にメルと紘人の二人を置き‥‥その周囲に他の4人が布陣すると言う物であった。中央の、阻霊陣を使用するダアト二人を守りながら探索、と言う陣形であった。
ふと、昴が、近くの草むらが、微かに揺れているのに気づく。そのハンドサインに気づいたことりがゆっくりと歩み寄り‥‥草をかき分けると。
――銀色の鎧の騎士に、右腕を向けられていた。
●Sudden Assault
「ううっ、奇襲ー!?」
草むらをかき分けた瞬間、ネットショットで捕縛されてしまったことり。
昴は素早くそちらに銃を向け、メルはしゃがみ、阻霊陣を地面に押し付ける。紘人も、メルが阻霊陣を展開したのを確認し、スクロールを広げことりの援護をしようとするが‥‥その頭上の木の上から、別の銀騎士が落下してくる!
「2段構えです!?」
メルは上を警戒していたのだが、阻霊陣を使用し、視線が上から離れた一瞬の隙を突かれた形となった。
紘人の頭部を狙って、逆手のダガーが振り下ろされる。――だが。
――それは、トンファーによって阻まれる事となる。
「動きをよく見ればなんとやら、ですね」
トンファーでダガーを受け止めた叶伊。スコップを杖代わりに使い押し切られるのを防いでいた。
奇襲の失敗を確認した銀騎士は、直ぐに逆手のネットショットを放つが‥‥警戒していた叶伊に、後ろに体を曲げて回避されてしまう。そこを、奇襲で崩された体勢を立て直した紘人がスクロールを広げ、光弾を放つ!
「食らうといいのです!」
光弾は見事に銀騎士の顔面に直撃、大きく吹き飛ばすが、それに引っ張られメルも一緒に引きずられてしまう。先ほど叶伊が回避したネットショットを、後ろに居て阻霊陣を使っていたため回避行動が取れなかったメルが受けてしまったのだ。
「なら‥‥」
メルの阻霊陣の効果が消えた穴を埋めるべく、叶伊が手に握ったスコップを通して、阻霊陣の力を発動させる。
それを狙って、3体目の銀騎士が、先ほど同様、木の上から降下する!
「ごめん、紘人さん!」
「はいです‥‥っ!?!?」
自分の名前が呼ばれた事で振り向いた紘人。目の前には、はためくスカート。
次の瞬間、ルーネは紘人の肩を踏み、ジャンプしていた。
一瞬のショックから己を取り戻し、援護するために光の弾幕を張る紘人。何発かを受け空中でよろめいた銀騎士は、ルーネの放ったダガーを体を捻ってかわすのがやっと。直後のカットラスの斬撃により、地に叩き伏せられた。
「うう‥‥ルーネさん‥‥僕を踏み台にしたのです‥‥」
と若干涙目になっている紘人。踏んだ張本人のルーネは、「てへっ」と言った感じで、軽く微笑むだけだった。
そこへ更に飛来する弾丸。正確に先ほどルーネが撃墜した銀騎士の頭部に命中し、それを吹き飛ばす。
銀騎士は、そのまま動かなくなった。
「ことりさんは?」
「助け出すのを手伝ってほしいの。僕とことりさんの武器じゃネットは切れないの」
弾丸を放った昴の、台詞を聞いたルーネが飛び出す。
「そう言う事ならお任せっ!」
メンバー内でネット破壊に適した刃物系の武器を持つのは、彼女だけだったのだ。
飛び出した彼女をよそ目に、残りのメンバーは改めてメルを捕縛した銀騎士に向き直る。
彼らには知るよしもなかったが、この森には未だ‥‥もう3体の銀騎士が隠れていたのだった。
●Front Line
一方。前方で捕縛されてしまったことりは、さほど慌てもせず、迎撃を開始していた。
懐中電灯を離し、リボルバーを取り出す。
「マジカル☆V兵器出動〜♪絶望を撒き散らす子は撃退しちゃうよ!」
魔法少女ならばコスチュームも着替えろと突っ込むべきだろうか。
兎も角、リボルバーでネットの隙間から反撃を行っている。 ただ、やはり動きにくいのか、攻撃の精度、威力などが下がっており‥‥不利な状態での交戦。何度かダガーで刺されてしまっていた。
そこへ‥‥
「お待たせ!」
投げられたダガーが銀騎士のダガーを弾きその行動を阻害し、振り下ろされたカットラスがネットを切り裂く。ルーネの参上により、状況はほぼ逆転した。
「さーて、よくもぐさぐさ刺してくれたね?」
銃を構えながら、くすりと笑うことり。
そのことりの弾幕援護を受けながら、突撃するルーネ。
振り下ろされたカットラスを銀騎士はダガーで受け止めるが、腹部への追撃の蹴りを受け、よろめいてしまう。
「あいたっ! 流石に硬いかな」
腹部は、最も大きな目標であるため‥‥鎧も最も重厚に出来ている部分。撃退士の身体能力とは言え、それに全力で蹴りを入れたルーネも、多少痛がっていた。
体勢を崩した銀騎士に、追撃でダガーを投げつけようとしたルーネだが、横から飛んできたネットに囚われてしまう。 4体目の銀騎士が現れたのだ。
戦闘のど真ん中では、集中力が割かれるため探知能力の精度が下がる。更に敵は隠密に特化したタイプ‥‥気づかなかったのも、当然と言える。
だが、その間に、ことりの正確な射撃により‥‥最初に出現した方の銀騎士は、鎧を粉砕され、胴を貫かれていたのだった。
「あれ、このノートは‥‥?」
銀騎士の残骸から落ちるノートに気づくことり。だが、それを調べる暇も無い。未だ仲間が、別の銀騎士に捕縛されているのだから。
●Stress Test
この時点で、サーバント側は2体が撃破され、2体が戦場に居り、2体が未だ隠れている状態であった。
対する撃退士側は、メルとルーネがそれぞれ捕縛されてしまい、ルーネをことりが、そしてメルを紘人、昴が援護していた。
「阻霊陣、僕が代わります。僕の武器なら、この場から動かなくても攻撃できます」
「お願いします。早くクリーメルさんを解放しないといけませんしね」
バトンタッチ。紘人が阻霊陣を展開し、代わりに叶伊が自由になる。
トンファーを構え、紘人の光弾を盾にし、猛然と突撃する! そして、メルを捕縛している銀騎士に対しトンファー一閃!
これはダガーで弾かれてしまうが‥‥
「援護するの。隙あり‥‥なの」
その間に騎士の腹部に昴の放った弾丸が直撃。騎士が大きくのけぞり‥‥
「いい加減、離すですー!」
ネットからロッドが突き出され、騎士の鎧に触れると大きく爆発を起こす。
自力で騎士を破壊し、拘束から脱出したメルは、服の灰を軽く払い、立ち上がる。
場に残っている騎士は、ルーネを捕縛している一人のみ。改めてメルが阻霊陣を張りなおし、紘人が自由に行動する事が可能となる。遠距離攻撃が出来る昴とダアト二人は、改めてその鎧騎士に狙いを定めるが‥‥最後の二人の騎士が、再度木の上から落下する! 一度使った襲撃法を再度使わないだろうと思う、盲点を突いた作戦だったのだ。
片方の突き出したダガーは、依然護衛に当たっていた叶伊によって阻まれるが、もう片方が直接メルを狙う! 急速反転して迎撃しようとした昴、紘人は間に合わず、援護に入るはずだったルーネは捕縛されている。
メルはロッドで一撃を受けるが‥‥依然と刃はロッドの上を滑り、彼女の肩口へと吸い込まれた。
「い、痛いのです‥‥でも!」
ロッドを突き出し、爆発を起こし敵を引き剥がすメル。そこへ昴、紘人の追撃が叩き込まれる。
後一撃‥‥後一撃で倒せる!
その一撃を制したのは――
「興味深いのです。けど、さっさと倒れてもらいませんと」
腕狙いの銃弾はそのまま腕ごと胴体を貫通し‥‥鎧騎士を地に伏せた。
放った張本人であることりは、急いでメルへ駆け寄り‥‥
「大丈夫? 痛くない?」
‥‥労わる台詞を言っている割に、その目には心配以外の別の色も混ざっていた事は気にしないで置こう。
仲間の死に、残り2体の鎧騎士が気をとられている隙に‥‥
「何時までこの網被せてるのよ!」
ルーネがカットラスとダガーの二刀で網を引き裂き脱出すると、カットラスの方を横に薙ぐ。
これは騎士のダガーに受け止められてしまうが、すぐさま刃を滑らせつば競り合いを回避。そのまましゃがんでネットショットをかわした。
その頭上を、紘人の光弾が通過し、騎士の顔面へ炸裂。吹き飛ばす。
情勢を不利と見たのか、ダメージを負った者を含めて動ける二騎士は、全力で撤退を始める。
「逃がさないの‥‥‥っ!」
それを射撃で阻止しようとする昴だが、振り向きざま放たれたネットショットに捕縛されてしまう。
ネット自体は直ぐにルーネに切断されてしまうが、この隙に、騎士たちは遁走したのだった。
●Results of the Search
「うー。捕まえて、行方不明になった方を知らないか、聞きたかったのです」
呟くメル。だが、殆どのサーバントやディアボロレベルは人語を解さないか、会話できる精神状態にない。例え捕縛できたとしても、情報を得るのはほぼ不可能だろう。
「でも、あの方たちが攫っていったのは間違いなさそう」
ことりが持っているのは、先ほど鎧の中から落ちたノート。そこには、失踪した教授の名前が書かれていた。
「天魔に攫われたと言う事は、助け出すのは難しいかもしれません。‥‥せめてこれを持ち帰りましょう」
かくして、失踪の原因ははっきりとなった。この地を統べる天使とは、何れまた戦う事もあろう。
撃退士たちは、帰途についた。
「ぴぴっ?」
尚、その頃、メルの友達のひよこ「ぷ〜さん」は、食堂のおばちゃんに可愛がられて、餌付けされていたそうな。
ちゃんちゃん♪