●Warfront〜Wind〜
風が駆け抜ける。
「っぁぁ!?」
血肉を引き裂き、その風は駆ける。
「もうちょっと、楽しませて欲しいかな」
着地。
右手に持つその刀に、竜巻が如く気流を纏い。神喰 茜(
ja0200) は、一瞬だけ、停止しその姿を現す。
疲れた、と言う訳では決してない。何よりも「戦う事」を好む彼女は、単に周囲を観察し、彼女の望む「強者」の居る場所を探す為に。その場に止まり、周囲を見渡しているのである。
「お、あそこかな?」
敵が集まっている場所を確認。足に力を込め、加速しようとしたその瞬間。一本の鎖が飛来し、彼女の足に絡まる。
「へへっ、引っかかったな!」
薄ら笑いを浮かべ、鎖使いの撃退士が、そのまま鎖を全力で引き上げる。
だがその顔に浮かぶ笑いは、次の瞬間驚愕の色に変わることとなる。
――竜巻が、襲来していたのだ。
「私を襲ったからには、楽しませてくれるんでしょ?」
背後から気流を噴出しながら姿勢制御。螺旋を描き、引き寄せられた足を軸としドリルのように回転。周囲から襲い来る矢弾の類を全てその螺旋描きし風の壁で跳ね返しながら、全力で鎖使いの腹部を蹴りつける!
「ぐはぁ!!」
「まだまだ、この程度で終わり‥‥じゃないよね?」
それなりに重装だったのか、蹴り一発程度ではこの撃退士は倒れないらしい。それを確認した茜の髪が金色に変わる。
――それは、彼女が、「剣鬼」である事から来る心像の証。
「はぁぁぁぁ!」
刃を突き出したまま、突撃。
そのまま背後の気流を操作、螺旋の力を刃に込め、突き刺す!
「まだまだ‥‥終わらないよ!」
そのまま次々と、串刺しのように撃退士を剣の上の戦利品と化していく。
金色と紅の螺旋が目指す所はただ一つ。先ほど彼女が見た集団――
●Warfront〜Land〜
物事には、必ず理由がある。
この様に撃退士が一箇所に集まっている事も、また然り。
「ふふっ‥‥私と遊んでくれるのは‥‥そう、あなた、ですか?」
影が、空中から地に落ちると共に。爆発。
舞い上がった土煙の中に見える影は、巨大な斧槍を携えており‥‥それをサクリと足元にあった「撃退士だった物」に突き刺す。
「あら。もう動かなくなっちゃった‥‥つまらないの」
ブン、とその斧槍を振り回し、それについた体を投げ飛ばす。
鴉守 凛(
ja5462)――「地」の力を受け取った、彼女が求めるは「死闘」。
弱い相手ではつまらない。強い相手を求めたい。
だが然し、彼女に相対しているメンバーの中では‥‥それを満足させられる程の実力を持った者は、残念ながら居なかったのである。
「‥‥仕方ないですねぇ‥‥新しい友達。紹介しますねえ」
数々の撃退士を薙ぎ倒し、尚も満足できなかった彼女が取った次の行動は、先ほど生成したグールたちを呼び寄せる事。屍があれば更にその数を増やす事もできたのだが、つまらぬと感じトドメを刺さなかったがために、屍は新たに生まれなかったのである。
――最も、その実力の前には。これは些細な問題でしかなかったのだが。
「な、なんだぁ!?」
撃退士たちのど真ん中で爆発が起こる。それは緑の霧を撒き散らし、周囲の者を毒で蝕んでいく。
「ふふっ‥‥貴方たちも死体になってください。そうなれば、爆発させてあげますよ‥‥?」
斧槍に、土塊や周囲の金属を纏い。凛は、冷めた微笑を浮かべる。
振り下ろされた巨大な塊は大地を割り、周囲の撃退士を吹き飛ばす。
「させるかぁ!」
周囲から一斉に矢弾の雨が降り注ぐ。だが。凛はそれを防御しようともせず‥‥全て「その身に受けた」。
「どうだ‥‥!これで‥‥」
してやったり、とガッツポーズを取った撃退士の微笑みは、しかし脆くも崩れ去る。
丸で、何事も無かったかのように、凛は今一度その斧槍を振り上げる。
「やっと遊んでくれる気になりましたか‥‥。では、友達になってください」
死によって。
その言葉を聞く前に。巨大な鉄塊が振り下ろされ、その撃退士の視界は閉じられた。
●Assasination〜Water〜
「臭いです」
無表情のまま、げほっ、と一つだけ咳き込む。
――「水」の力を得た機嶋 結(
ja0725)は、気配隠蔽のスキルを利用し。隠れたまま、凛を襲撃していた一団の後ろへと回りこんでいたのだが、その途中でグールの爆発によって出来た毒霧へと突入してしまったのだ。
毒はどうやら彼女には効果がなかったようだが、それでも匂いが不快である事は変わりない。
「っ、どこから出てきやがった!?」
咳き込んだ拍子で気配隠蔽が一時的に解除されてしまったのか。付近の撃退士が彼女に気づき、剣を振り上げると共に、声を上げようと口を開く。
だがその喉から声が出るよりも先に。その喉元には、獣が喰らい付いていた。
「ふむ‥‥この力も万能ではない、か」
例え回復を要していなくても、結の体に宿る超再生の力は、遠慮なくその体力を吸い取っていく。
だが、目の前の撃退士の喉元に噛み付いた獣の口からは、力が流れ込んでくる。
引き裂く。
食らい終わった獲物には、用はない。
再度姿を消し、狙いを定める。
「どちらに行くのです‥‥?」
クレイモアで一人、叩き切る。逃げようとしたもう一人の四肢に、次々と獣の口が喰らい付く。
「ひ、ひぃ!助けて‥‥」
命乞いをする目の前の男に、クレイモアを突きつけ。
声色を変えずに、結は問う。
「この状況で後退‥‥あなたたちの狙いは、何なのです?」
「狙いなんてねぇ!俺はただ、この戦いはもう嫌なだけで‥‥!」
怯える表情から、それが真実だと、結は悟る。
「つまらない人ですね」
四肢を、獣が引き裂く。
「ならば、纏めて来て下さい」
全身から放たれる挑発のオーラ。集まった敵を喰らい尽くすために。結は、全身に宿るその力を解き放つ‥‥!
●Waiting〜Lake〜
戦場の一角。
何故か、ここには、戦場に似合わぬ程荘厳な教会が建っていた。
周囲は激戦でありながら、何故かここは損害を受けている様子はない。
――当たり前である。この教会は「現実には存在していない」のだから。
「なんだぁ、ここは?」
そこに足を踏み入れた少数の撃退士が見たのは、祭壇に足を組み座り、マニキュアを爪に塗っている、女性の姿。
「あら。いらっしゃい、坊やたち。あたしの退屈を紛らわせてくれるのはどの子かしら?」
――それは悪夢に他ならない。
一瞬にして教会が夜の幕に覆われたかと思うと、目の前に仲間の一人が倒れている。
祭壇には、未だに微笑を浮かべる女の姿が。
「てめぇの仕業か!!」
周囲の撃退士たちは一斉に女性に襲い掛かる。女性は回避も防御も行おうとはせず、ただ微笑みを浮かべるだけ――
――再度の暗転。
今度の夜の幕が晴れた時。撃退士たちは驚愕する。
自分たちの武器は、祭壇上に座った、仲間の一人に突き刺さっていたのである。
「あら、劇は楽しんで頂けたかしら?」
後ろから、声がすると共に、ずぶりと腹に何かが突き刺さった。
振り返った撃退士が見た物は、幻影を解除し、本来の姿を現した青木 凛子(
ja5657)――「湖」の力を持つ者が、撃退士の腹部に剣を突き立てた状態。
「はい、ここでは聖母様には跪く物よ?」
逆手に持った銃で、後方の撃退士の膝を打ち抜き、跪かせる。そして――
「良く出来ました」
最後の一弾は、頭部へと。
「よくも仲間たちを‥‥!」
振るわれる大剣。それを間一髪の所で、見えない腕で払い、回避する。
「お肌に傷がついては嫌だからね‥‥あら?」
目の前の撃退士の顔を良く見る。まだ若い青年。悪くはない。
「あなた素敵ね。あたしの本当のおうちにご招待したいわ」
偽りの夜は、長くなりそうだ――
●Strategic Warzone
「来たわね」
獲物は、狩人の前に立つ。追い込まれた事等露とも知らずに。
撃退士たちの本隊が、目の前の女性に誘われ、その場に足を踏み入れた直後。異様な雰囲気を感じる。
ガクりと、体力に優れない後衛陣から、その体が地に崩れ落ちる。
「ここは王の御前だ・・・頭を垂れろ。撃退士共」
黒い翼を広げ、黒の王、蒼桐 遼布(
jb2501)は空に君臨する。
(「どんなにまぎれようとも、結局俺は悪魔ということか‥‥ まぁいい」)
「悪魔の俺が発する「天」の能力・・・・ちょっとしたジョークなのかもしれんが、楽しませてくれよ、君たち」
加速し、地に向けて垂直落下からの斬撃を振り下ろす。
その勢いに怖気づいた落下地点付近の撃退士たちは、這う体で逃げようとする。
――まるで、地面に接着されたの如く。自らの体が動かないのに気づくまでは。
「もう後退か?」
冷たい表情で、先程まで追われていた女性‥‥暮居 凪(
ja0503)が振り向く。
その腕には、冷たき銀の機械槍。それの先がガチャリと展開し、地面に突き刺さっている。
電力と磁力は表裏一体‥‥その槍が帯びる電撃が、撃退士たちを地に縫い付けた力の正体。
「歯ごたえがないってのも、つまらんな」
一閃。三倍の重力を以って加速された黄金の大剣は、撃退士の体を断つのみならず、その下の地にも深い爪痕を残す。重力を瞬間的に逆方向へと曲げる事で慣性を相殺し、返す刃で遼布は付近の撃退士が振り下ろした刀を弾き飛ばす。
「接近するな!射撃で蜂の巣にしてやれ!」
指揮官の適正がある者が居たのか。付近の撃退士は一斉に後退し、遠距離武器を取り出し、狙いを定める。遼布の手持ちの能力は遠距離の群体とやりあうには適しておらず、凪は対人磁力の展開のため動けず。このままでは――
「今だ、撃て!」
打ち出される矢の雨。
しかしそれは、全く違う方向へと飛んでいた。
「‥‥間に合ったのですよ」
のんびりとした口調と共に、展開された炎の海。
「火」の力を持った、Rehni Nam(
ja5283)の放った炎による陽炎が、撃退士たちの狙いをずらし。遼布の重力操作も相まって、矢を逸らしていたのだ。
「Charged Electron-Release」
雷光が奔り、射撃を行っていた撃退士たちの陣を割る。
「次弾装填。‥‥散らばらなければ撃ちぬく」
凪の言葉通り、撃退士たちは散開。
「炎の壁があると邪魔だ! 皆、突っ込んでヤツを‥‥!」
跳躍、飛行能力を持つ者を中心に。撃退士は地面に足を付けぬよう突撃していく。
「させん‥‥!」
より一層、周囲の重力を強め。遼布は力の弱い撃退士を地に叩き落とすが、一部の力の強い者はその中を強引に突破。レフニーへと肉薄する!
振り上げられた斧。‥‥にも関わらず、レフニーは慌てる所か、構える様子すらない。
「本当に、私たちが準備してこなかったとでも?」
レフニーの台詞と共に、その前に人影が立ちはだかる。
棘の剣が、斧を受け止める。
「‥‥色んな、能力があるのですね」
動かずに体勢を低くし、「不動の構え」を極致まで発揮したヴェス・ペーラ(
jb2743)が、腕に力を込め更に振り払い、目前の撃退士の体勢を崩す。
「野郎‥‥っ!?」
自分の腹部に、レフニーの拳が叩き込まれている事に気づき、撃退士が後退する。
だが、それこそが、レフニーの狙い。
元より腕力に優れない。それは例え「火」の力があっても、完全に覆せはしない事。
故に彼女は、「付加効果」を以って戦う事を選んだ。
「大丈夫か――!?」
先程の撃退士を回復させようと、接近したアストラルヴァンガードだと思われる他の1名。
彼の声は、爆発音によって遮られる事となる。先程の仲間が‥‥爆発したのだ。
爆風は、周囲の撃退士を巻き込み、陣に大きな穴を開ける。
「仕掛け、成功なのです」
小さくガッツポーズ。そんなレフニーの横を通り抜けるように、風が空を裂き、敵陣を切り刻む。
「今のうちに追撃ですね」
その場から動かず、連続で風の刃のみを飛ばしたヴェス。直後、鋭敏になった彼女の聴覚は、凪を襲う風音を捉え、彼女は滑り込むようにして、再度剣でそれを防御する。
「ぐ‥‥ぅ!」
「不動の構え」は、移動すれば今まで溜めた全ての力が霧散する。
それ故に、攻撃を受け止めたヴェスの表情も、先程軽々しくはない。
「仲間に‥‥触るな」
ぬっと手が伸びる。その手は、ヴェスに武器を叩き付けた撃退士の顔を掴む。
「焼き焦げろ‥‥!」
凪の腕を通じ、出せる限りの最大倍率の電流が撃退士の体に流れ込む。
痙攣する暇すら与えない。それは一瞬にして、撃退士の体を消し炭と化す。
「全く‥‥」
反動で、自身の腕すら多少焼けていたのだろう。
煙の上がる手を、軽く凪は擦る。
●Dreams End
そこに立っていたのは、八人だけ。
周囲には屍の山が築き上げられていた。
「どこに行っていたのです?」
結の問いに、答えるのは凛子。
「ちょっとおもちゃを探しにね。可愛いでしょ?この子」
動かなくなった撃退士が、空中に吊るされる。
丸でマリオネットのように、その体が、6本の腕に操られ、動かされる。
――だが、夢は唐突に終わる物である。
「‥‥はっ」
唐突に目が覚める。
「えーと、夢、です‥‥?」
レフニー・ナムは。周囲を見渡し、それが自室である事を確認する。
腕を伸ばし、念じる。だが、周囲に火が出る‥‥と言うことは、ない。
ほっとする。
(「まさか、夢とはいえ私にアイツの能力が付くだなんて‥‥なんて皮肉」)
あれは、確かに、自分の最愛の人を死の淵に追いやった者の能力。そんな力を――
(「いえ。考えるのはやめましょう。‥‥ちょっと、今日はあの人に甘えましょうか」
少し早いが。支度を。
そう考えたレフニーは、化粧室へと。
「‥‥夢でしかない、か」
ベッドから飛び起きた結は、自らの手を見て、その現実に気付く。
「‥‥過ぎた力は人を狂わすのでしょうか‥‥只、狂ってもいい。持てる力を使って、目の前の障害を屠り続けれるなら」
夢の中であった力を、思う。
(「嗚呼、あれが現実なら、私は救われるのに」)
少女は、力を望む。
だが、いくら念じても、己の体が、あのような牙を持つことはない。
――かくして、夢は終わる。
望む、望まないにしろ。夢は夢でしかない。
それは現実ではなく、ただ己の心が作り出す「幻想」に過ぎないのだ。