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マスター:剣崎宗二
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:25人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/11/12


みんなの思い出



オープニング

●闇夜の密会

 岡山市付近のとある場所。
 ‥‥不思議な、神秘的な形相すら漂う、その建物の中。
 まるで空気から固形化したかのように、そのスーツの男は現れる。
 銀髪を靡かせ、コツ、コツと足音を立て。
 その男は、部屋の中央へと歩み寄る。
 その中央では、一人の老人が、安らかな寝息を立て、眠っていた。

 恭しく、その老人の前で一礼する銀髪の男。
「もう少々お待ちくださいませ、三崩様。‥‥必ずや、貴方に力を取り戻させましょう」
 その後ろから、ガシャリと金属音が。振り向けば、その後ろに居たのは、右腕に鈍い光を宿す、別の老人。
「ロイ坊。全ての準備は整っておるのじゃろう? また上の者が使いをよこしおった。上納分はまだかと、のう」
 その老人‥‥八卦・「雷」の轟天斎は、確かめるように、右手をガシャリと握り締めた。

「まったく、あの方もせっかちですね。三崩様の命が掛かっているのでなければ気にも留めませんでしたが‥‥」
 はぁ、とため息をつく。
「準備は、無論です。皆さんは、全員集まっていますね?」
「当たり前じゃな。普段はなかなか来ない陽子とたつさきの夫人まで来ているのは、最初は驚いたんじゃがな。‥‥けど、早く行かんと、バートが暴れだすやも知れんぞ?」
「それは大変です。急ぎましょう」
 冗談か本気か、分からない笑みを浮かべ。銀髪の男は歩き出す。
 その前に、彼に向かってくる人影が。
「余を待たせるとは、何たる無礼か」
 腕を組む少年。その表情には、苛立ちが見て取れる。
「‥‥これは、申し訳ありませんでした。今行きますので、平にご容赦を‥‥」
 頭を下げる銀髪の男。それを見るなり、満足げに背を向け、歩み去る少年。

「‥‥カインの扱いが上手くなっておるのぉ」
 呆れた顔で、それを見つめる老人。
「この作戦、我ら全ての力が必要となります。‥‥そのためでしたら、これくらいは何と言うことはありません」
 涼しい顔を浮かべ、二人の姿は闇へと消えていく。
 ――岡山を舞台にした、ヴァニタス「八卦」による作戦が、開始されようとしていたのだった。


●平穏が終わる時
 岡山市北、病院前。
 二度に渡るヴァニタス襲撃によって、市内の大きな病院は‥‥撃退士による厳戒態勢が敷かれていた。無論、この病院も例外ではない。

「っつーか、平和だな‥‥」
 撃退士たちの一人が、ぽつりと漏らす。
 前回の襲撃から、既にある程度日にちが経っていた。だが、未だに、異変の兆候はない。
 それならば、彼らの気持ちが多少緩むのも当然と言えよう。
 ――だが、そんな彼らの平穏は、突如届いた連絡に砕かれる事となる。

「市内にディアボロが現れたぁ? 偵察班は何をしていた!?」
「付近のルートを通ってきた痕跡はありません。まるで突然現れたかのようで‥‥」
「‥‥たく、役にたたねぇ――いや、今はそれどころじゃねぇか。急いでそっちに増援を回せ!市内の他の病院に駐在しているヤツらにも連絡しろ!」
「え、でも、ここを空けた隙に、ヴァニタスが来たら‥‥」
「最小限の足止めに長けたヤツらだけ残しとけ! ‥‥俺の勘が正しけりゃ‥‥病院を襲ったのも、陽動だぜ」
「は、はい!」

 ‥‥振り向き、出て行こうとする若い撃退士を、もう一度呼び止める。
「ああ、それと‥‥」
 頭に手を当て、考え込む。
「久遠ヶ原学園に連絡して増援を要請しろ。‥‥なーんかいやな予感がするからな‥‥」


●召喚

 時は少し、遡る。
「兄さん、準備は大丈夫なの?」
 大剣を担いだヴァニタス――「地」のレオンが‥‥その兄、「天」のカインに問いかける。

 此処は、先の依頼に於いて、レオンが死体を召還し、撃退士たちに敗れた場所。
 だが、勝敗は然程問題ではなかった。重要だったのは、死体が倒された事で、瘴気が一帯に満ちた事。
「轟天斎も、恐らくは始めている事であろう。早くお前も、宮殿に駐在してある軍勢へのゲートを開くのだ」
「‥‥分かった」
「お前が戦いを好まないのは知っている。後は軍勢に任せ、この王の力を信じよ」
「‥‥うん」

 手をかざすと共に、周囲の瘴気が集まり、黒い穴となる。
 そしてその穴の中から、ゆっくり。ゆっくりと‥‥黒い、死体たちが。這い出してきたのだった。

「カイン、召喚は順調かの?」
 耳の中から声が響く。
「無論だ。この王の弟に、ぬかりがあるはずはない。そちらこそ、どうなんだ?」
「ほっほ、事前に水晶の欠片がばら撒かれたからの。こちらも順調じゃよ。機械化部隊、準備完了じゃ」
 それを聞き、カインの口元に、にやりと笑みが浮かぶ。
「ならば、『王の宮殿』の展開を開始する。事前に計画されたルートに従い進軍せよ」
「了解じゃよ。命令に従うのは癪じゃが、あのお方のためならば、のう」

 かくして、ディアボロの大群が‥‥街中に出現したのであった。


リプレイ本文

●Command Center

「‥‥それじゃ、俺はここで、連絡役‥‥をしよう」
 胸を押さえ、軽く蹲る龍崎海(ja0565)の背中を獅堂 遥(ja0190)が軽くさする。
 既に前の一件で受けた傷は完治した‥‥そう思ったのは良いのだが、どうやらそうではなかったらしい。
 周囲に満ちる重力によって傷は開き、今は歩くのも困難な状況となっていたのだ。

「本当に大丈夫か?」
 心配そうに銅月 零瞑(ja7779)が問う。
「ああ、こんな体でも、雑魚の足止めくらいはできる。それに――」
「いざと言う時は私が護衛するから、大丈夫です」
 腰の刀を叩き、遥が構える。

「それじゃ、皆‥‥事前の作戦通りに、それぞれの場所へ!」


●West〜The Cannon War〜

「おーおー、来テル来テル!」
 その身に掛かる重圧に耐え。
 シノブ(ja3986)が、遠くに見える狼の群れを見据えながら、ストレッチ。

「さあ、はじめましょうか。是が非でも止めなければ」
 銀の髪を夜空に靡かせ、弓を引くはテレジア・ホルシュタイン(ja1526)。
 その目に映るは、打ち抜くべき敵。その背にある「平穏」を守るため、矢を解き放つ!
「やれやれ、団体戦は好まないのだがね」
 愚痴を零しながら、杖を構える鷺谷 明(ja0776)。その杖からは一直線に炎が放たれ、狼の陣を割る!
「敵さんのボスが来てくれれば、嬉しいのだが」
 その目は、敵の後方にいる、機械の老人を見据えていた。

 先制で遠方からの、撃退士たちによる雨のような攻撃を受け。
 前方の狼1体が、反応する暇も無く撃破される。
「うぉぉ、これは不味いわい。‥‥停止!横一列に、砲撃陣を並べぃ!」
 これに対し、轟天斎が指示した陣形は至ってシンプル。
 縦陣で進行した狼を横に展開。撃退士たちの目標を分散させると共に――
「電磁砲、てぇぇい!」
 叫ぶと同時に、狼たちの背がせり上がり、砲口が露出される。そこからは‥‥猛烈な電撃が迸り、一直線に一点‥‥明を狙う!
「ぐっ‥‥魔法攻撃か。これはまた‥‥」
 発動していた金剛の術は物理的な打撃には強かった物の、魔術的な攻撃にはほぼ無力と言っていい。それ故に、集中攻撃を受ける明のダメージは、低くは無い。
「一点狙いとはな‥‥」
 合金の盾を構え、銅月 零瞑(ja7779)が横から滑り込み、明の前に立ち塞がり‥‥追撃の雷を受け止める。この盾も、魔術的な電撃による攻撃にはそれ程効果がある訳ではなかったが。無いよりはマシであった。

『CHARGE-UP』
 機械音と共に、ガシャ、ガシャ、と。黄金のパーツが、体に装着されていく。
 そして、「ヒーロー」は、銃を両手で構える。
「ゴウライショット!」
 連射する「ゴウライガ」こと、千葉 真一(ja0070)。銃弾が狙うのは関節部等‥‥であったが、距離が余りにも離れすぎていた。
 放たれた銃弾は、精密に装甲プレートの間を抜ける事はできず、その装甲に弾かれてしまう。――最も、ダメージが入らなかったわけではない。衝撃で、狼は後ろに仰け反る。
 銃撃を放ちながら障害物に隠れ、ゆっくり前進するゴウライガの横で。

「すごい数だけど、やってやんよー!」
 まどろっこしいのは嫌い、とばかりに、盾を構えたまま武田 美月(ja4394)が一気に前進。それを援護するように、「アウルの衣」を華成
希沙良(ja7204)が展開する。
 美月と同様にアウルの衣を受けた零瞑が、共に前進し‥‥それぞれの武器が振り上げられる!
「このまま斬っちゃうよー!」
 振るわれた銀の焔を纏った槍。それは、一直線に狼に向かい、その肩関節にあたる部分に突き刺さる!

「よくやったの。一体犠牲にして、力で上回る敵一体を倒せたのじゃったら、儲けじゃな」
 轟天斎の冷たい言葉に、嫌な予感を感じ。飛び退こうとした際は既に時遅し。武器は狼の口に噛み付かれていた。
 周囲の狼‥‥その数、十体以上はあろうかと言うディアボロたちが、一斉に電磁砲口を彼女に向ける。
「道連れ、じゃな」
 言葉と共に、砲撃が放たれ。
 アウルの衣を以ってしても防ぎきれないその連撃が、美月を地に伏した。
「っ!」
 倒れた彼女を援護すべく、シノブが壁を蹴り、そちらへ向かう。
 だが然し、「天」の八卦による重力陣の下では、壁走り中は姿勢の制御はしにくく‥‥彼女の回避能力を、大きく減らしていた。

 ――そして何よりも、前衛が突出のタイミングを一緒に合わせなかったと言う事は、轟天斎の指揮下にあり、統制が取れた動きを取る狼たちに「各個撃破」のチャンスを与えると言う事。

「止まる‥‥の。こっちを向くの」
 柏木 優雨(ja2101)の弾丸が右端の狼を撃つ。だが、主である轟天斎の命令は絶対なのか。狼は彼女に見向きもせず、尚も発射の準備を続ける。
「不味い‥‥ですわね」
 テレジアの矢が、別の一体に突き刺さる。
 撃退士たちの攻撃は、横並びの陣形を取った狼たちに満遍なくダメージを与えていた物の‥‥指揮者の不在。及び目標設定方針の欠如から、初手の一体を除き、未だに一体も完全に落とせずにいたのだ。

 砲撃が、一斉にシノブに向かって放たれる。
「中々‥‥キツイ、ネッ!」
 一発目は体を捻って、掠めたのみにすませる。
 二発目は壁から足を離し、地面へと落下する事で何とか回避する。壁に突き刺さった電磁砲が、それを抉り、ぱらぱらとコンクリート塊を地面に落下させる。
 だが、着地によって、体勢を崩した彼女はには、三発四発五発と襲い来る、残りの電磁砲を回避できるはずは無く‥‥打ち据えられ、倒れこむ。

「仕掛けさせてもらう‥‥!」
 事前にビルの間の横道に潜み、機を覗っていたサガ=リーヴァレスト(jb0805)。その指先に不可視の弾丸を生み出し、狼の一体に向かって放つ。それ程大きなダメージは与えられなかった物の、
「なんじゃ?奇襲かの?」
 轟天斎の注意を彼の方に引き寄せる事に成功する。
「‥‥このまま、分断させてもらうとしよう」
 すぐさまサイレントウォークを発動して後退。その勢いで敵を引き寄せ、分断するはずだった。
 ――唯一誤算があるとすれば。最初に周囲の人を攫うためばらけたグールの一体が。それなりの迷走の末、彼の後ろに忍び寄っていた事か。
「くっ‥‥!」
 すぐさま指に再度不可視の弾丸を生み出し、目の前の動く屍に撃ち放つ。それは肉をちぎり、骨を散らすが‥‥目の前の敵を撃破するには至っていない。それもその筈。この動く屍が速度と引き換えに得たのは、「耐久力」なのだ。

「ならば‥‥」
 抜刀し、そのまま袈裟斬りに斬り付ける。動きは遅く、敵の反撃が間に合う様子はない。
 サガが「勝てる」と思った瞬間。背後から、電磁砲の斉射が、彼を襲った。

「このままうるさくされては、年寄りはかなわんからのう」
 そちらに軽く目をやった後。
 轟天斎は、再度前方に向き直る。


●East〜When the Earth Rages〜

「これでいいでしょうか」
「うん、大丈夫だと思うよ!」
 頭の汗を軽く拭く立花 雪宗(ja2469)の横で、因幡 良子(ja8039)が別の車を押して来て、彼が先程まで押していた車の横に並べる。
「これはこっちか。ったく、重いな」
「お疲れ様です」
 黒夜(jb0668)の運んできた車両を最後に、簡易バリケードが形成されたのを見て。ハートファシア(ja7617)が阻霊符に力を込め、念じる。
 これで、壁は構築できたはず。良子は、この簡易バリケードの上へとそっと首を伸ばし、迫り来るグールの群れを見据える。
 動きが遅いだけあって、この敵の隊が到着するまでに。東側の撃退士たちは、バリケードをほぼ完全な形でセットする事に成功したのである。
(「ここまで仕込みをして、何が目的だろうね?」)
 そんな、思考をしているうちに。グールたちは撃退士たちの、射撃武器の射程範囲内にまで近づいていた。

「下郎共‥‥燃え尽きよ!」
 炎球が奔る。
 威風堂々とバリケードの上に立ったフィオナ・ボールドウィン(ja2611)が放った炎の魔術は、目の前の屍を焼いた。だが、炎を纏いながらも、その屍は前進する。
「これは違うか‥‥次ッ!」
 別の屍に放たれる、もう一発の火球。彼女の目的は即時のグールの撃破ではなく、毒気を帯びた屍のあぶり出し。そしてそれは、良子もまた同じ。
「これも違うかな?」
 何発か銃撃を行い、倒れないと見ればすぐさま次の者に狙いを切り替える。

 だが、彼女たちの狙いは、思わぬ形で達成される事になる。

「とりあえず、ここは攻撃でしょうか」
 アーレイ・バーグ(ja0276)が魔術書を読み上げ、作られた雷球が付近の一体のグールへと向かう。だが、今まで共に行動はすれど、味方に「協力」はしようとしなかった付近の屍が、一斉にそれを庇うように接近。壁となり、雷球を受け止める。
「むっ‥‥?」
 アーレイの圧倒的な魔力の前では、如何に生命力の高いグールと言えど無事では済まない。だが、フィオナが気になったのは。グール共がお互いを「庇った」と言う事実。
「試してみるに他ないか」
 再度火球を発し、グールを燃やす。やはり、その後ろの一体を庇っているようだ。
「‥‥あれが目標か」
「そういうことね」
 フィオナ、良子の二人は、その一体に狙いを定める。
 その前に、壁のように多数のグールが立ちはだかった。

「はい‥‥こちらは今の所、問題はありません。バリケード作戦が成功して、敵の進軍は止められています」
『そう‥‥か。それは良かった。』
 海と通話しながら、月乃宮 恋音(jb1221)は、戦場を見渡す。重力増加により車は軋みを上げているものの、未だ保っている。動きが緩慢なグールたちはこれを飛び越える事は出来ず、よじ登って来た何体かも、ハートファシアが生み出す黒曜石の刃や、アーレイの魔術、そして雪宗の剣閃によって地に戻っている。このまま行けば――
「うっとおしいですわね。纏めて死んでもらいましょう」
「そうだな‥‥行くぜ」
 フィオナ、良子の前で固まっている一団を見て、範囲技が使えるアーレイと黒夜は、軽く顔を見合わせて、笑う。
「これは‥‥痛いですわよ!」
 呪文と共に、その手には巨大な火球が。
「あー、めんどくせぇ」
 念じると共に。その手には、黒い光が。
 黒夜とアーレイの、ダークブローとファイヤーブレイクがそれぞれ放たれ、グールの群れを飲み込む!

「見事な連携だね!」
 手で爆煙から目を守りながら、良子はその中を覗き込む。
 既に事前にダメージを受けていた三体のグールが倒れ、それが守っていた毒ガスグールも爆散。この一撃は、見事に目的を達していた。

 ――いや、達しすぎたと言うべきか。

「フ‥‥フフ、僕に攻撃を仕掛けてくるとは‥‥よほど、死にたいみたいだね」
 少年の声が聞こえる。
 グールたちの死骸の下から、ヴァニタス‥‥「地」のレオン・ファウストが立ち上がる。
 体格が「少年」である彼は、グールの中に紛れ、指揮を行っていたのだが‥‥体格が「大人」相当が多いグールに覆い隠され、撃退士たちからは見えなかったのである。
 体の所々からぷすぷすと煙を上げる彼が‥‥撃退士たちを見据えるその目は、異端の色に染まっている。
「真っ二つにされなよ、お詫びに」
 周囲の大地が揺れる。彼の持つ大剣に、岩や石が集まっていき、巨大な剣を形成する。
 そしてそれは、先程車から剥がれ落ちたパーツ類も例外ではない。
「地の能力‥‥地、即ち無機物を操る事。‥‥邪魔だよ、死んで」
 なぎ払われた大剣は、いともたやすく一部の車を吹き飛ばし、バリケードに道を開ける。

「‥‥っ!」
 伏せるようにして、飛来する車を回避した恋音。顔を上げた彼女が見たものは、バリケードの欠けた部分から、押し寄せるようにして侵入するグールの姿であった。


●Detached Force〜Hide and Seek〜

 東西で共に激戦が行われている際。別働隊として行動し、舞台裏で散開したディアボロに攫われた一般人を救う為、奔走している撃退士たちがいた。

「ちっ‥‥ちょこまかと‥‥!」
 壁から壁へと渡りながら、神凪 宗(ja0435)が空中からクナイを扇状に投げつける。
 三本のクナイは、何れも僅かに遅れて地面に突き刺さり‥‥僅かな差で、彼の狙う目標である‥‥子供二人をその背に背負った機械狼には届かない。
 本来ならば、狼の動きが早けれど、宗の速度を以ってすれば追いつけない事は無い。だが、この場に掛かる多大な重力は、彼の壁走りの移動能力を制限すると共に‥‥その投擲武器の精度をも落としていた。
「‥‥何とかせねばな」
 頭を全力で回転させ、出来る一手を考える。
 だが、考え込んだその一瞬が、油断となった。
「しまっ‥‥!」
 横のビルの上から回り込んだのか。空を切るようにして、彼に機械狼が飛び掛る。
 即座にエネルギーブレイドの柄で受けるようにして、その牙を受け止めるが、勢いまでは相殺しきれず壁に叩きつけられる。
 そのままの勢いで機械狼が落下。宗の首を狙い、その牙が光るが‥‥

「――攻撃‥‥それだけが能だと思ったら、大間違いだ」
 円盾を構え。牙を受け止める翡翠 龍斗(ja7594)が、自信ありげな笑みを浮かべる。
 バックステップして僅かに距離を離したかと思うと、再度狼が、今度は彼に目標を変更して飛び掛るが‥‥

 ――空中で、光の刃が、その頭部を貫いた。

「ありがとう、だな」
 投げつけ、手から離れたために、段々と薄れ行くエネルギーブレイドの柄をキャッチし、宗が立ち上がる。

「助けられたか?」
「いや‥‥残念だけど、動きが早すぎる。何人かは食いつかれる前に追い払ったが‥‥」
 そこまで言って、即座に二人は振り向く。
 背後にディアボロの気配を感じたからだ。

 そこには、三体のグールが、立っていた。
「戦えるか?」
「大丈夫だ」
 顔を見合わせ、目の前の敵を撲滅するため、彼らは進む。
 だが、その前に、雷の吐息が、背後から生きる屍を打ち据えていた。

「丁度良かった。運ぶのを手伝ってほしかった所だ」
 肩に負傷した一般人を担いだまま。ヒリュウを伴い、アッシュ・クロフォード(jb0928)が、グールに向けて攻撃命令を出す
「一般人を助けられたのか。 なら‥‥尚更、頑張らないとな」
 アッシュを狙ったグールの拳の一撃を龍斗が盾でいなし、即座に壁を蹴り上方から宗が急降下。その頭部に、エネルギーブレードを突き刺す。
「さっさと倒して、こいつを龍崎さんの所に送らないとね」
 雷撃を帯びたヒリュウのブレスによって、グールの一体を押し退けたアッシュが呟いた。

 一方、同時刻。物陰に隠蔽し、ヒリュウに偵察させる‥‥と言う行動を繰り返しながら、雪風
時雨(jb1445)は、着実にディアボロたちの街への侵入路を割り出していく。
「2箇所の内、一つはここか‥‥」
 痕跡を辿った、彼がたどり着いたのは墓地。
 何かしら異端の理が使われた感覚がある。しかし、それが何であるかは分からない。
「口惜しいが未だ我は未熟、この状況の調査は、他に任せるしかあるまい‥‥!」
 ぴっと携帯電話を開き、彼は中央で待つ海に、この事実を連絡した。


●West〜Collapse〜

 西方戦線。
 前衛3名が倒れ、戦線には大きな動きも無く‥‥膠着していた。
「むうっ‥‥狙ってきたか」
 集中攻撃の目標とされた零瞑は、再度盾を構える。
 彼の息は既に荒い。幾度も無く電磁砲で打ち据えられては盾で耐える、を繰り返し、既に体力は限界に達しようとしていた。
「‥‥たく、おじさんに余り無理をさせるんじゃないっての!」
 ガォン、とショットガンの音がする。
 横のビルから綿貫 由太郎(ja3564)が放った弾丸が、狼の一体を揺らし、一瞬だけ弾幕に隙を作る。
「‥‥癒し‥‥ますね‥‥」
 希沙良の献身的な回復魔法が彼を癒し、体力を取り戻させる。
 集中的に狙われた零瞑が現在まで戦線を維持できたのは、彼女の力による所が大きい。
 だが、その回復の力を以ってしても、完全にダメージを回復しきる事は出来てはいない。魔力防御に優れるわけではない零瞑では、受けるダメージは余りに大きすぎたのだ。

「早く‥‥倒れる、の」
 優雨の放った銃撃が、終に狼の一体の目の部分を打ち据え、貫通。破壊する。
 だが、狼は未だ10体近くが残存している。攻撃が集中しない事による破壊の遅れは、即ち、敵に集中的に狙われた者のダメージの増加を意味していた。

「これでもう一人減った、と言う事じゃな」
 自身の顎を撫でながら、轟天斎は、電磁砲撃が零瞑を地に伏せた事を確認する。
「しかし、このままでは、ラチがあかんのう」
 ひゅん、と彼の肩‥‥機械部を弾丸が掠める。
 ゴウライガ、真一が放った一発だ。放った当人は、「よそ見してていいのか?」とばかりに、マスクの下で笑みを浮かべる。
「全く、余り年寄りをからかう物ではないぞい?」
 怒りとも苦笑いとも取れない表情で、轟天斎はそちらを見渡す。そして、突如、何かに気づいたとばかりに、飛び上がる。
「砲撃対象変えぃ!あやつらのとなりのビルを砲撃するのじゃ!」
 そして、自身も腕を変形させる。
 形成されたのは、巨大な黒い筒。それは紛れなく‥‥「砲」であった。

「あちゃー、外しちまったか」
 変形の瞬間を狙ったが、弾丸を外したゴウライガが舌打ちする。
「っ‥‥中々きついですね、これは」
 回避しきれず、電磁砲の直撃を受けたテレジアは、直ぐに次の攻撃に備えて弓を前に突き出し、身構えるが‥‥
「‥‥‥?」
 次の攻撃は、来ない。
 弓を下ろしてみれば、狼たちの砲口が狙うは、彼女ではなく、その隣‥‥高層ビルの、ど真ん中の部分。
「やらせるか!!」
「止める、の」
 ゴウライガと優雨の必死の射撃が、もう一体、狼を仕留める。だが、この数の前に、一体の損害は些細な事でしかない。

 ――そして、砲撃が放たれた。

 撃退士たちの身体能力を持ってすれば、弾丸すら、かすり傷にしかなりえない。それが落ちる瓦礫ならば、尚更。例え増加した重力を以ってしても、ダメージは入る物の、致命傷とはなり得ない。
 ――だが、重力増加されたその瓦礫に埋められた後に、動けるかどうか‥‥と言えば、別問題である。
「‥‥あーらら、位置がつかめても、これじゃどうにもならないねぇ」
 埋められた状況でも、軽口を忘れない由太郎。実際、突破される事は予測済みでマーキングを打ち込んで置いた物の、位置が掴めても追えないのでは、意味は無い。

 瓦礫の上を踏み越えるようにして、ヴァニタスとディアボロは進む。
 だが、その横から、影が沸き出て、飛び掛る!

「いやはや、実に退屈していた所だ。来てくれて幸いだ」
 静かな中に狂気を秘め。先程とは打って変わり、生き生きとした表情で、僅かながらのタイミングで生き埋めを免れた、明の鉄槌が轟天斎に向かって振り下ろされる。
 だが、この一撃に、轟天斎の顔色は変わる様子は無い。
 ――明の鉄槌は、ヴァニタスの顔の横、紙一重で。‥‥止まっていたのだ。
「その勇気は賞賛すべきじゃ。が――」
 よく見れば、轟天斎の右腕が変形し。電磁障壁を展開していた。
「戦場では、勇気と無謀は紙一重‥‥そして無謀は、死と紙一重じゃ」
 四方から、明に電磁砲の砲口が向けられる。
 それでも尚、戦意は昂ぶる。強敵を前にした彼の辞書に、「撤退」「降参」等と言った言葉はなし。
 更に右腕を異形に変化させ、轟天斎に叩き付ける明。が、後一歩で、電磁障壁を破るには足りない。
「大人しく、寝ている事じゃな」
 そして砲撃は放たれた。



●幕間〜Central〜

「応答してくれ!鷲谷さん!」
 中央の駐在ポイントから、必死に呼びかける海。だが、返事がない事で、彼は西の陣が突破された事を理解する。
「東陣、月乃宮さん‥‥戦況は?」
 こちらも‥‥返事はない。

「くっ‥‥」
 人員調整を行おうにも、現状が把握できないのでは進みようがない。
「この体が動くなら‥‥!」
 動かない、自身の体が恨めしい。
 それを、宥めるように、そっと傍に立つ遥。
 だが、その直ぐ前から。轟天斎が、出現していた。

「っ!」
 すぐさま大剣を抜き、構える遥。だが、轟天斎は、その横をすたすたと歩いていく。
「嘗めてるのですか?」
 振り向き、剣を袈裟斬りに振り下ろす
「‥‥おなご一人に、重体人一人。気にする必要はないじゃろう?」
 靴底から熱気を噴射し、バックステップで距離をとったヴァニタスは、さも面倒くさそうに言う。
「このまま通しは‥‥!」
 再度接近しようとする遥。だが、腕をコイル状に変化させた、轟天斎がそれをかざすと、まるで見えない壁に阻まれたかのように、前進できなくなる。
「つまらん実験をする気はない。さっさと通らせてもらうぞい」

 重傷を負っている現状の自身の技で、轟天斎の防御を貫通できる物は恐らく無い。
 そう考えた海は、ただ、それを睨みつけるだけしかできなかった。


●East〜Swarm〜

 通信機から響く声に、恋音は応答しようとする。だが、その暇はなかった。
 ――何故ならば、直ぐ目の前で、緑の毒ガスの爆発が起こったからだ。
 すぐさまに、恋音が爆発に巻き込まれた自身にレジストポイズンを施すと共に、アーレイは同様の方法でフィオナの毒を治療する。
 だが、煙の中からレオンが飛び出し、その異常な程巨大化した、ジャンクの大剣を横に振るい、なぎ払う!
「頭自身が飛び込んでくるとは、好都合!」
 この状況に於いても強気を崩さないフィオナがアーレイを守り、
「此方としては引いて頂けると助かるのですが‥‥引かぬと言うなら――」
 目を見開いた雪宗が、蜥蜴丸を斜めに構え、重い剣撃を上に受け流す。
「止む終えません。貴方を倒す事になります」
 そのまま低姿勢から、足を切るようにして円を描くように繰り出される一閃。だが、敵とて戦技に優れるヴァニタス。大剣を地に突き立てるようにして、一撃を防ぐ!
「フフッ‥フッ」
 不気味な笑いを浮かべながら、突き立てた剣を支柱にするように一回転。蹴りつけるようにして雪宗の胸を蹴り、反動で黒夜に飛び掛る!
「またあの黒いのを使われては面倒だから、ね‥‥」
 振り回された剣が、縦から彼女にたたきつけられる。

 事前に撤退ルートを調べておいたアーレイが、黒夜を運ぶようにして撤退した後。グールの群れがさらに撃退士たちに襲いかかっていた。
「ええい‥‥うっとおしい。下がれ!」
 三体のグールに掴まれそうになるのを、振り払うようにして一閃。
 下がった所へ、優雨の斧槍が振るわれる。それは届かないはずの距離だったが――
「魔力で、こういう事もできるの」
 その先から、魔力が発生させられ、もう一枚の刃が作り出される。そして、それは、グールの片足を切り落とす。揺らいだグールに、後ろから良子のライトニングロッドがその頭部へと叩き付けられ、粉砕する。

 この三人を一網打尽とすべく、レオンが引きずるように巨大剣を回し、なぎ払う。
「く・・・!」
 既に満身創痍の身でありながら、雪宗が蜥蜴丸を用いて、強引に一撃を受ける!
 だが、後ろの仲間を守るためには、「流す」ではなく「止める」でなければならない。そしてそれを成功させるためには、質量差が余りにも大きすぎた。
 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「‥‥さーて、どう‥‥しようかな」
 不気味な笑みを浮かべたまま、レオンが撃退士たちを睨む。

 だが、その瞬間、北で騒ぎが起きた。
 駐在撃退士の応援が、到着したのである。


●Retreat of Vanitus

「レオン!撤退じゃ!」
 駐在撃退士たちの到着と、轟天斎がレオンの元にたどり着くのは、ほぼ同時。
「えー、まだ楽しめてないよー」
「なーにを言うとるか!目をさませい!」
 右手をスタンガンに変形させ、それをレオンに押し当てる。パチンと電撃音がすると共に、レオンの目から狂気の色が消える。
「あ、あれ‥‥」
「十分な人数は確保した。さっさとカインを引き上げて撤退するぞい!」
 後退するヴァニタスたち。
 残りのディアボロが、増援撃退士と残存の学園生によって片付けられるのに、それ程時間は掛からなかった。
 だが、その騒ぎの中。一人、ヴァニタスの後を追う者が居る。
 ――仇敵。「王」を名乗る、悪魔の眷属と。決着を付けるために。


●Sky Runner

「兄さん」
「おお、首尾はどうだった?」
「それなりの数を確保できた。これ以上戦う必要はないぞ――」

「―――逃げるのか?王と名乗る者が、敵を前にして」
 聞き覚えのある声に、踵を返したカインの足が止まる。
「『賊』ではないか。はっは、終にこの王に、投稿でもしに来たか?」
「冗談ではない。‥‥天のカイン、最早貴様は王ではない。彼のお方などと己が従う立場の者の存在を示唆したのだからな」
 彼の存在の根本を突いた、一点の挑発。これでカインが怒ってくれるのならば――
 だが、その予想に反し、カインは涼しい顔をしていた。
「何を言うかと思えば、その様な事か。――王とて、従う存在がいる」
「何?」
「それは――神だ。あの方こそ、我が神。我に大恩ある『神』だ。‥‥それとも、貴様は、王は恩知らずであるべき、とでも言うのか?」
「悪魔が神であると等、戯言をぬかすようになったか。――やはり、我と貴様は、相容れぬようだ」
 符を目の前に浮かべ、全力をそれに注ぎ込む。
「貴様の命、我が喰らう。そして、その名を刻もう!」

 だが、彼らの間には。轟天斎が立ちはだかった。
「カイン。この様な挑発に乗せられるでない」
 どかどかと、足音が。フィオナの後ろから、ディアボロを片付けた増援部隊が登場する。
「お互い、邪魔が入るようでな。‥‥ここは決着の場ではない」
 背を向ける。

「逃がすか!」
 符から、空気が固形化するかの如く、剣が具現化される。そして、それが、カインの背に向けて投擲される!

「試作参拾参式閃光砲、発射じゃ」
 轟天斎の腕が変形すると共に、猛烈な光が一帯を包む。
 そして光が止んだ時には‥‥ヴァニタスたちの姿は、消えていた。


●幕間〜When the disaster ended〜

「攫われた住民、トータルで120人でしょうか」
 統計役の撃退士が、頭を引っかく。
「ああ、侵入を許しちまったのと、別働隊が重力のせいでまともに動けなかったのが痛手になったな」
 頭を押さえるようにして、下を向く。
「けど、こういう時に備えた、救出作戦が実行されるって話だ。そいつらに期待するしかねぇ」
「そうですね‥‥」
 二人は、静かに空に祈る。攫われた住民たちの、無事を。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: 【流星】星を掴むもの・立花 雪宗(ja2469)
   <レオンの猛攻を味方から逸らすため>という理由により『重体』となる
 撃退士・黒夜(jb0668)
   <レオンに脅威と認識され猛攻を受け>という理由により『重体』となる
面白かった!:9人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
双月に捧ぐ誓い・
獅堂 遥(ja0190)

大学部4年93組 女 阿修羅
己が魂を貫く者・
アーレイ・バーグ(ja0276)

大学部4年168組 女 ダアト
凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
絆繋ぐ慈愛・
テレジア・ホルシュタイン(ja1526)

大学部4年144組 女 ルインズブレイド
憐寂の雨・
柏木 優雨(ja2101)

大学部2年293組 女 ダアト
水神の加護・
珠真 緑(ja2428)

大学部6年40組 女 ダアト
【流星】星を掴むもの・
立花 雪宗(ja2469)

大学部3年232組 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
大切な貴方と幻夜の舞踏を・
シノブ(ja3986)

大学部6年66組 女 鬼道忍軍
失敗は何とかの何とか・
武田 美月(ja4394)

大学部4年179組 女 ディバインナイト
薄紅の記憶を胸に・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

卒業 女 アストラルヴァンガード
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
魔女の瞳・
ハートファシア(ja7617)

大学部2年7組 女 ダアト
大地の守護者・
銅月 零瞑(ja7779)

大学部4年184組 男 ルインズブレイド
┌(┌ ^o^)┐・
因幡 良子(ja8039)

大学部6年300組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
猛き迅雷の騎獣手・
アッシュ・クロフォード(jb0928)

大学部5年120組 男 バハムートテイマー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
戦場を駆けし俊足の蒼竜・
雪風 時雨(jb1445)

大学部3年134組 男 バハムートテイマー