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マスター:剣崎宗二
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:7人
リプレイ完成日時:2012/06/18


みんなの思い出



オープニング

 伝説の中。
 仙人は雲に乗り、空を駆けたと言う。
 空は当時の人々にとって未知の領域であり、また神が居座る神秘の地でもあったのだ。

 ‥‥だが、天界は、今や人の敵となった。

 一陣の風と共に、白い影が屋根の上を過ぎる。その通り過ぎた後には、壁に爪痕が刻まれていた。
 鳥と思うなかれ。白い影は「雲」。
 刻まれた跡も爪ではない。衝撃波による跡なのだ。

 雲に乗る男は、自身の残した跡を見ても、何ら表情を浮かべる事はない。ただ淡々と、己が主に命じられた任務をこなすのみ。
 人を攫い、己が乗る雲の中に投げ入れる。
 この者たちは、主の力となるべき大切な「餌」だ。
 もっと、もっと集めねば。


●久遠ヶ原、教室

「ちょっと面倒な依頼が来ているわね」
 撃退士たちを、女性職員が出迎える。
「識別名、クラウドライダー。雲に乗って空を駆ける能力を持つサーバントよ。」
 空挺型の敵と戦った経験がある撃退士には、すぐさまその厄介さが分かったのか‥‥表情がこわばる。
「‥‥どうやら、厄介さが分かったみたいね。タダでさえ近距離攻撃を当てにくいのに‥‥この敵は更に、超高空に上がる事ができるの。そこから勢いをつけて急降下する事で、衝撃波を起こして攻撃する技を持っているのね」
 それなら、乗っている雲を攻撃したらどうか、と言う一人の撃退士。
「‥‥人殺しになりたいならやってみてもいいかもね。 ‥‥あの中には、クラウドライダーが攫った大量の一般人が詰め込まれている。攻撃したら‥‥まぁ、分かるでしょう?」

 考え込む撃退士たち。
「のんびりと、手を考えるといいわ。ここに他の攻撃方法等が書いてある。参考にしてちょうだいね」

 天上から悠々と人を攫うこのサーバントに鉄槌を。その思いを込めた視線が、撃退士達には向けられていた。


リプレイ本文

●Clear Sky

 空を見上げる。

 天気は晴れ渡っており、僅かに雲が流れているのみ。だが、ただ流れるだけの雲と違い‥‥そこには一つ、不規則な動きをしていた物があった。

「ちょろちょろと‥‥面倒臭い敵、かな」
 盾を翳し、日光を遮りながら、自身の「敵」の位置を確認する機嶋 結(ja0725)。
 敵が空中に居る以上、近接攻撃はほぼ届かない。それは、この「屋上」からとて、同じ事。
「やりにくい‥‥」
 桐原 雅(ja1822)が歯噛みする。

 一方、緋野 慎(ja8541)は‥‥全く逆の感想を抱いていた。
「へえ、雲に乗ってるんだ。何だか楽しそう」
 そらを自由に飛行するのは、人の夢だ。
 彼がこのような憧れを抱くのも、無理はないだろう。

「どう?姫坂君」
「だめだ。他の建物はちょっと遠い。降りると街中で戦いが始まってしまう可能性もある」
 この『場所』の問題を解決するため奔走していた姫坂 黒鵐(ja7104)と穂摘 雛乃(ja8184)のペアだが、他に適した場所は見当たらず。‥‥結果として、撃退士たちは、この屋上での交戦を余儀なくされたのだった。

 そうしている内に、屋上で自身を見つめる撃退士に気づいたのか。雲は低空へと降り立つ。
 各々の武器を構え、撃退士たちはそれに向かっていった。


●Bombardment

 雲の上。低空から掌を翳し、光弾を連射するサーバント。

「魔法防御には自信があるの」
 漆黒の大鎌を構え、前に出る柏木 優雨(ja2101)。高い魔法防御能力を持つ彼女には確かに光弾は殆ど効果を成さず、呆気なく弾かれている。僅かに当たり所が悪い物がいくつか、微々たるダメージとなっているが、大した問題とはなっていない。
 だが、乱射されたこの光弾は、彼女以外の者にも、等しく降り注いでいた。
 狙われたのは結、雛乃、そして慎。
「こんな物‥‥か」
 物理、魔術の両面に於いて圧倒的な防御力‥‥そう、魔術を扱う優雨とほぼ同等の防御力を誇る結には、無論大きな打撃が与えられるはずもなく、光弾は弾かれてしまう。
 だが、他の二人はそうはいかない。

「っとと、危ないなぁ」
 戦場の外へと体を倒し、ギリギリで迫り来る光弾をブリッジのような姿勢で避ける慎。この高さから落下すれば撃退士と言えども多少の負傷は免れないだろうが、彼には「壁走り」がある。この状況から立て直して戦場へと復帰する事は容易かったのだ。
 一方、雛乃の方は‥‥
「俺が立ってる間に任せたぜ。雛乃」
 黒鵐が、強引に前へ出、光弾の連撃をその身に受ける。直後、
「姫坂君が守ってくれるって、信じてたから」
 息を止め、集中を高める。
「私の弾は、敵だけを撃ち抜く‥‥大丈夫」
 雛乃の放った加速された一撃が、見事にサーバントの右腕に突き刺さる!
 僅かに右腕を傾けて弾道を逸らされたのか、ダメージは深刻ではなかった物の、体勢を崩した事には変わりない。ここを追撃できれば‥‥!

 だが、敵が低空域に居る状況に於いて、彼女の他に猛攻を選んだ者は、誰も居なかった。
 注意を逸らすための牽制攻撃を選んだ者は慎や雅が居た物の、多数のターゲットを同時に爆撃できる魔法弾の前には効果が薄く、遠距離攻撃の要となっていた優雨は武器を大鎌としていたために射程、魔術能力が共に低減していた。‥‥それでも、高い魔力を維持はしていたが。

「あっちこっち‥‥蝿みたいにうるさいの」
 大鎌の一振りで、放たれる氷蝶の群れ。
 その翼は鋭い氷の刃と化し、サーバントの身を切り裂く。
 反撃とばかりに放たれる、魔弾の乱舞。
「む?私を狙ってくるか」
 今度狙われたのは、先ほど攻撃を受けていなかった鬼無里 鴉鳥(ja7179)。
 ‥‥だが。
「通すわけには‥‥行きませんね」
 その前に、最強の盾が立ち塞がる。
 盾を構え、前進した結が、その一撃を受け止めたのだ。
「流石は結殿、その堅牢さは随一よな‥‥!」
 京都の作戦に於いても連携を組んでいた彼女らの動きは手馴れた物。上手く結を盾にして、鴉鳥は機を伺い続ける。
 空舞う格闘士が、自身の射程へと侵入する、その一瞬を――

 ――全体的な戦況は、決して良いとは言えなかった。
 自身への脅威が低いこの状況にあって、何のためにクラウドライダーは地に足をつける必要があるのだろうか。
 その掌から放たれる爆撃は延々と続き、撃退士たちの体力を削り取っていく。
 
 彼らの作戦は、3つの状態を持つこの敵に対し、自分の有利な状況になるまで待つ、と言う物だった。
 ‥‥だが、不足していたのは、その形態になるように促すその一手だったのだ。
 大ダメージは免れているとは言え、微量のダメージは避けられず。塵も積もれば山となる如く、前衛に立った各員の消耗は重なる。回復手がいない現状では、それをリセットする手もなく――


●Falling Star

 低空から降りないサーバントに対し、黒鵐は最後の手段に出る。念じると共にその身から小さな翼が生え、彼に飛行能力を付与する。降りてこないと言うのならば、そのまま体当たりで落とそうという魂胆だ。だが、彼がそれを実行するより早く。サーバントはその攻撃の手を止め、一気に高度を上げる!
「皆、来るよ!気をつけて!」
 雅の叫びと共に、撃退士たちは一斉に障害物、若しくは壁役となるだろう黒鵐、結の付近へ集う。
 落下点から衝撃波が広がるのを読み、味方や障害物の後ろに伏せ、やり過ごす予定だ。

 ――だが。その肝心の落下点は、どこなのだろうか?
 サーバントが浮いている場所は、ほぼ自分たちの真上だ。その高さから落下する場合、僅かにでも角度をずらせば、大きく着弾点がズレる事になる。

 胸元で印を組み、サーバントが雲から飛び降り、高速で落下する。
 その軌道を見て、位置の修正を試みる撃退士たち。だが、速すぎる。
 サーバントは、エアコンの室外機の裏に隠れようとした優雨の、丁度後ろに着地。至近距離に居た優雨、雅は大きく弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる事となる。
 直ぐにバク転して衝撃を殺し、陸上選手のスタートダッシュの如く反転、サーバントに襲い掛かる雅。
 一方、優雨は気を失ったのか、起き上がらない。‥‥ダメージは低かったとは言え、爆撃で長時間体力を消耗し続けた後だったのがやはり影響したのだろうか。

 落下の直後。これこそが、撃退士たちが待ち構えていたチャンス。

「今の内に、全力で倒れてもらうよ‥‥!」
 即刻反転した雅の、低空からのドロップキックがサーバントに直撃する。落下の勢いで足がコンクリートにめり込んでいるサーバントにはそれを回避する術はなく、僅かに体をそらしその衝撃を軽減させるが、ピシリ、と言う何かにヒビが入る音が響く。
 同様に、今まで結を盾としていた鴉鳥は彼女の後ろから飛び出し、前転すると共に鋼糸一閃!
 ‥‥だが、唯でさえ回避、命中に優れるサーバントである。その特定のパーツ‥‥体より小さい部分を狙う場合は。益々困難さが増すのだ。 鴉鳥の鋼糸は、腕により上に逸らされる。腕の一部を削りとる物の、狙った効果に比べれば、それは小さかった。

 地上に降り立った瞬間に襲い来る猛然たる攻勢によって撃退士たちの計画を悟ったのか、クラウドライダーは再度雲に飛び乗るべく、建物の端に向かって走る。雲は既にそこに待機させてある。後は飛び乗れば――

「って、大人しく乗らせるとでも思うか?」
 壁の縁の下から伝わる声。次の瞬間、クラウドライダーの眼前に、御暁 零斗(ja0548)が出現する。
 今の今まで隠れていた彼が狙ったのは、この機会に他ならない。放たれた杭打ち機の一突きは、不意を突かれたサーバントを大きくよろめかせる。

「鬼無里さん‥‥」
「了解じゃ、結殿!」
 回りこむようにして、結と鴉鳥が零斗と同じ方向へと移動、結がシールドを構えながら前進する。
 狙うはカウンター‥‥攻撃を受けた瞬間にそれを受け止め、一斉攻撃を行う事。
 ‥‥彼女の狙い通りに、複雑な軌道を描き、サーバントの腕が結へ伸びる。
 何とか、ほんの少しの予兆からその着弾点を読み、盾でそれを受け止める。

 ――だが、次の瞬間。彼女の体を、猛烈な衝撃を襲った。

「結殿!?」
 大きく吹き飛ばされた結を、鴉鳥は気にし、思わず目線をそちらに向ける。が、そのために僅かに刀の顕現と、その振りが遅れ‥‥必殺の一撃、黒き闇を纏ったその刃は、サーバントの右腕を掠めるに留まった。
 カウンターで突き出されようとしたその右腕は、然し――
「妨害させて‥‥もらうよ!」
 雛乃の銃弾によってサーバントの体勢が崩される事で、元の軌道を逸れ、これまた鴉鳥の頬を掠めるに留まった。そのままバックステップし、結に近づく鴉鳥。
 ‥‥命に別状はないようだが、気を失っているようだ。
 幾ら事前に生命力を削られていたとは言え、防御に長けていた結を一撃で倒すと言う事は――
「浸透勁のような物、でしょうか」
 付近で見ていた雅が呟く。
 この敵の格闘攻撃が、何らかしらの防御を無視する効果が発動するのは、事前情報でも伝えられていた。その正体は‥‥このような、鎧や盾を貫通する力だったのだ。

 先ほど一撃を妨害された事から雛乃をこの場で最大の障害と判断したのか、彼女に向かって駆け寄るクラウドライダー。無論、彼女を守る騎士たる黒鵐が、それを見逃すわけはない。
「受け止める‥‥!」
 例え先ほどの一撃で、防御の効き目が薄いと分かっていようとも、相方を見捨てて回避するという選択肢は、彼には元からないのだ。
 正面から防御を固め、一撃を受け止める。衝撃はその手に持つカイトシールドを伝い、彼の体を吹き飛ばす。
 ――そのすぐ後ろで、サーバントは自身を狙う銃口を目の当たりにする。
「姫坂君の作ったこのチャンス‥‥無駄にはしない」
 銃声。放たれた銃弾。


●Shadow Strikes

 このサーバントの反応速度を持ってすれば、これをかわす事はできたはずだった。
 それ所か、その勢いのまま、後ろの雲に飛び乗る事も出来たはずだった。
 だが、いざそれを行おうとした時。サーバントは、体が動かなくなったのに気づく。
「行かせる訳にはいかねぇ‥‥てめぇはここで潰す」
 「影縛の術」を発動させた零斗が、少しだけ苦い表情を浮かべる。以前、彼が仲間と共に苦戦しながら倒した、あの黒き騎士。それを思い出したからだろうか。
「ま、そんな訳ねぇか」
 考えを振り払う。前のあれはディアボロで、今回のはサーバント。例え名が似ていようと、それには関係性はないだろう。そう判断したのだ。

 動けなくなったサーバントに、上下から同時に影が襲い掛かる。上の影――正面からジャンプした雅の縦かかと落としは左腕でいなすものの、下の影‥‥慎が右後方から、低姿勢での接近しての回し蹴りは、見事にサーバントの腰へと直撃していた。
「見よう見まねでやってみたけど‥‥」
 その動きは、よく見れば先ほど雅が放った低姿勢からのドロップキックの応用。経験が浅くとも‥‥いや、経験が浅いから、と言うべきか。彼は貪欲に、味方の動きから、戦い方を学んでいた。
 蹴りの勢いそのままに、横に倒れる込むようにして地を這うサーバント。力づくで影の縛りを振り解き、そのまま薙ぎ払うように放たれた蹴りが、雅と慎の体勢を崩す。打点の角度が悪かったのか、体を貫くような衝撃は来なかった物の、体勢を崩された事により撃退士たちの攻勢が緩まる。既に三人倒されているのだ。それも仕方ない事だった――

「閻羅の理、見せてやろう‥‥其の罪、裁かれるがよい!」
 薙ぎ払いを放つため地面にサーバントの注意が向いたその瞬間。上空から真下へと、回転しながら鴉鳥が突進。その手は、黒い光を放っていた。
 反応がやや遅れた物の、拳を突き出し、横振りの裏拳でそれの迎撃を試みるクラウドライダー。だが、その直後、右足を狙って零斗のツインエッジが振り下ろされる。
 ‥‥零斗を迎撃せねば、腕を地面に縫い付けられ、死地に追い込まれる。
 ‥‥迎撃すれば鴉鳥の一撃を強引に受ける事となるが、少なくとも機動力が完全に封印されるのは避けられる。
 この状態で選ぶ選択肢は明白。クラウドライダーは、拳の軌道を変え、零斗の腹部へと叩き込んだ。

「結殿を傷つけた代償‥‥払ってもらうぞい!」
 ――黒の光を纏ったその両手から、得物である大太刀が顕現する。間合いを悟られぬためか普段は隠されている鴉鳥の刃は、一瞬で伸び、彼女の体が描く螺旋の軌跡と共に、サーバントの腕を抉り取った。
 片腕を失ったクラウドライダーは然し、両足で鴉鳥をの腹部をドロップキックのように蹴りつけ、距離を離す。
 彼自身の技を真似るが如く、地を凪ぐような蹴撃を放った慎の攻撃を、片腕で地面を押し飛び上がるように回避する物の、正面から彼を狙う銃口を回避する術はなかった。
「早く‥‥倒れて!」
 雛乃の銃弾は、空中で支えがなかったクラウドライダーを、金網へと叩きつける。そして、そこへ‥‥雅の全力を込めた回し蹴りが直撃する!
 金網を突き破り、落下するサーバント。
 それが最早生存していないという事を、消え行く雲が示していた。


●Last Fall

 雲が建物の縁で消えたため、それに囚われていた者は殆どは内部へと落ちた物の、3人ほどは縁から外へと落下する。

「っとと、あっぶねぇな」
「重いわい!さっさと上がらんか!」
 零斗が一人を落ちる寸前でキャッチ。それを後ろから引っ張るようにして引き上げる鴉鳥。

「怖い怖い。けど‥‥」
 「壁走り」を使用し、もう一人を地面スレスレで横走りの状態からキャッチする慎。

 ――だが、最後の一人だけは。
 必死で駆け寄る雛乃の前で、地面へと落ちてゆく。

 もう一人。せめてもう一人か二人、撃退士たちが立っていたのならば。或いは助ける事も出来たのかもしれない。
 だが、強敵たる雲乗りサーバントを撃破し、人質も一人を除いて救えたのだ。

 後悔はあるかもしれない。悲しみもあるかもしれない。
 だが、過去には戻れない。それ故に、彼らは未来へと進むしかないのだ。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 疾風迅雷・御暁 零斗(ja0548)
 駆けし風・緋野 慎(ja8541)
重体: −
面白かった!:2人

疾風迅雷・
御暁 零斗(ja0548)

大学部5年279組 男 鬼道忍軍
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
憐寂の雨・
柏木 優雨(ja2101)

大学部2年293組 女 ダアト
撃退士・
姫坂 黒鵐(ja7104)

大学部1年162組 男 ディバインナイト
斬天の剣士・
鬼無里 鴉鳥(ja7179)

大学部2年4組 女 ルインズブレイド
撃退士・
穂摘 雛乃(ja8184)

大学部1年182組 女 インフィルトレイター
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍