●踏み入れよ、剣陣へ
「さながら『剣の嵐』ですね‥‥」
苦笑いを浮かべながらも、自身の二丁拳銃を抜くのは、石田 神楽(
ja4485)。
目の前の、非現実的な光景を見ても、彼に慌てる様子はない。
博物館へ踏み入れた撃退士を待っていたのは、横に一列に並ぶ刀剣類。
その後ろには、槍や斧等の重兵器の姿も見え隠れしている。
それぞれが不規則な動きをとりながらも、全体的には一つの「流れ」をつくり、整然としているその動きに、アレナ・ロート(
ja0092)は、何か気が付いたようだ。
「あの流れから見て‥‥敵は複数の個体に操られた、大量の刀剣類みたいですね」
「ええ、生命反応は3つ‥‥けど、お互いに近いのと、どれも似たような形をしているせいで、特定しにくいです」
「生命探知」を展開していた紫ノ宮莉音(
ja6473)が句を継ぐ。その隣で、
「やれやれ‥‥面倒な敵だね」
飄々とした感じで、平山 尚幸(
ja8488)がゆっくり歩を滑らせ、背中で窓を塞ぐ。
「アレナ!ドウダ、電気の方ハ?」
「ダメですね。スイッチの様な物はどこにもありません」
腰に下げたペンライトで周辺を探るアレナは、然しミーナの問いに対し、静かに頭を横に振るばかり。
博物館の類は往々にして、管理を容易にするために、電気類等が中央コントロール室から管理されている。この博物館も、そのような構造だったのであった。
「仕方ナイナ!」
「光は僕たちで確保しましょう」
盾による防御の構えを一旦解除したミーナ テルミット(
ja4760)と、莉音が一斉に「星の輝き」を放つ。
その光に反応したのか、彼女らに一斉に刀剣が群がるようにして襲い掛かる!
――それが、戦闘開始の合図だった。
●踊れ、剣よ
「圧巻の光景ですね‥‥これが全て天魔ではないと思いたいですが」
アサルトライフルを構え、フルオートで弾丸を雨霰のようにばら撒く。
襲い来る武器に正面から迎撃として放たれたフローラ・ローゼンハイン(
ja6633)の弾丸は、その武器の多くを迎撃する事に成功する。
だが、フルオート故に、精密な狙いを定める事は難しい。
弾丸の雨を潜り抜け、尚彼女に迫る武器は、然し三日月のような一閃により打ち落とされる。
「刀がこんなにいっぱいあるなんて‥‥これだったら先週見に来れば良かったな‥‥」
自身の刀を構えた紫藤 真奈(
ja0598)が、残念そうな呟きを漏らす。
刀好きの彼女にとっては、この武器たちを傷つけるのは忍びないのだが‥‥仕方ない。これも任務なのだ。銀の脚甲を少し上げてレイピアの突き刺し攻撃を防ぎ、そのまま一刀の内に両断する。
「手ごたえはなし‥‥外しましたか」
周囲の、折れた刀剣を見回す真奈。だが、その後ろから、先ほどのフローラの掃射で打ち落とされた一本の大剣が、再度「浮き上がる」!
「ぐっ‥‥これでしょうか!?」
背中に深く突き刺さった大剣を、中央から折るつもりで刃を振るう。
だが、僅かに遅い。刃先を僅かに掠っただけで、引き抜く勢いそのままに逃げられてしまう。
「血がついたはずです、それを狙ってください!」
「どういう武器ダ?」
真奈の叫びを聞いたミーナが聞き返す。
「えーっと、柄に龍がついた大剣ですね」
周囲を見回すミーナ。
「あっ、あれカ!」
「撃たせてもらおう」
彼女とペアを組んでいたアレナにも、同様の特徴を持ち血のついた剣が見えていたらしく‥‥つかえた一矢が、それを弾き、地に落とす。
「外れか‥?」
地に落ちた武器。だが、それでも兵器の舞は、止まる様子はない。
よく考えれば、似たような特徴の武器は多くある。言葉だけでそれを伝えるのは、限界があると言わざるを得ない。
返り血にしても、この武器たちは最初に、警備員を斬殺している。その者の返り血がつく武器が多くあるのも、至極当然と言うべきだろう。
「うわわ、ット」
横から猛烈にアレナに向かい飛来する斧の大群を、ミーナが盾で受け止める。
殆どの武器は盾の表面に当たっただけで弾き飛ばされたが、一本だけ、盾にひときわ強く当たった物があり、ミーノが僅かに後ろに押される事となる。
「見えたゾ!」
素早く盾を振り上げ、それを地面に押し付けるようにして、一本の斧を拘束する。
どうやらサーバントであったその斧は地面へ透過しようとしているのか、ガタガタと蠢くが‥‥
「そうはさせマセン」
既にフィーネ・ヤフコ・シュペーナー(
ja7905)が、阻霊符を発動させ、透過能力の発動を阻止していた。
「良い準備です」
笑顔を浮かべたまま、その銃から黒い蔦が伸び、腕に巻きつくように‥‥その神経に「接続」される。異物と同化する痛みを受けても、その笑みは消えず‥‥神楽は、銃口を押さえつけられた斧に向ける。
「動けない相手に使う必要もありませんでしたが‥‥念のためですね」
打ち出された弾丸は、一寸も違わず、斧の中心部を貫く。
‥‥だが、まだ蠢きは続いている。さすがは腐ってもサーバントと言うべきか。
「しつこいデスネ。やっぱり粉々にしないとデス」
歩み寄るフィーネ。振り上げた鉄槌は、銀色の光に包まれていた。
●乱戦の中で
「フッ‥‥!」
横一閃。目の前の槍を切断し、地に落とす。
刀を握る真奈の息は、然しやや荒い。それもその筈だ。先ほど刺された背中は、未だ血を流している。
一瞬だが、そのスタミナが切れた隙に、大剣が空中から振り下ろされる。回避‥‥だが、足が動かない‥‥!
キン、と言う音が三連で響く。
「大丈夫ですか‥‥?」
フローラのフルオート射撃の内、三発が大剣の横に当たり、それを横に弾く。
深く地面に突き刺さる剣。地面スレスレの真奈の薙ぎ払いにより、それは両断される。
「大丈夫。‥‥でも、これもハズレですね」
周囲を見渡す。まだ沢山の刀剣類が空に浮いている。それどころか、半分に折れた刃なども浮いている。
どうやら、刃が折れても、殺傷力が残っていれば「武器」として扱われ、操作できるようだ。
窓を守る尚幸も、未だ敵の本体を探している状態だ。
ミーナと莉音から放たれた星の輝きは未だに維持されている。光源に問題はない。
だが、敵の本体の判定に、撃退士たちは手間取っていた。
その中、真奈は、空中に浮かびあがる何本かの刀剣を目の当たりにする。
「天井を破られると不味いです‥‥!」
その声を聞いたフローラが弾丸をばら撒き、刀剣の何本かを打ち落とす。
更にその中央に居る何本かを‥‥神楽は慎重に狙っていた。
(「まだです‥‥突き刺さる瞬間を‥‥」)
そして、刀剣が天井に刺さるその一瞬。銃弾が放たれる。その弾道は一寸のブレもなく‥‥一本の槍に突き刺さる。
その槍が地に落ちると共に、他の武器の動きが一瞬、止まる。
‥‥サーバントである事は、間違いないだろう。
「流石はサーバントです、‥‥建物への切り込みの深さも違いますね」
皮肉たっぷりに、神楽が笑う。
再度囮の刀剣を伴い彼に一直線に襲来する槍に対し‥‥彼が執った行動は、隣のショーケースを倒す事。
一般兵器は見事にこれに阻まれてしまい、サーバントのみが、これを貫通する。
「油断するな!」
完全に砕くまでは、逃げられる可能性もあるのだ。
アレナが突進し、忍刀で地面に縫い付けるように刺す。だが、僅かに軸がズレているのか、サーバントの刃の一部を欠けさせただけで、動きを止めるまでは至っていない。
多数の一般刀剣を伴って囮とし、彼女の足元をすり抜け、逆に後ろから切り上げた槍サーバントだが、その一撃は、ミーナによって止められていた。
「いい加減、観念スルんだゾ!」
生命探知を持つ彼女は、先ほどの天井への突破の際から、目標の形状を把握、記憶していた。そのため、囮を無視して、防御できたのだ。
逆手で振り上げたファルシオンが槍の穂先を上に弾き、ずらす。その直後、至近距離から‥‥フローラの銃口が突きつけられる!
「こういう撃ち方もありますので」
フルオートでは、どうしても小さい、細い目標へ与えるダメージが低くなりがちだ。それを補うため、至近距離からの射撃に切り替えたのだ。
放たれる銃弾が、槍の柄を細切れにする。
そこへ飛び込む真奈の、大上段からの刀風一閃!
槍を折り、その場に落とす。同時に、武器の群れの一部が、力なくその場に落下する。
「当たり‥‥ですね」
一息つく真奈の横で、フローラが未だ周囲を舞っている武器の群れを見て、ため息一つ。
「よくここまで自分に有利な拠点を見つけたものですね。‥‥偶然‥‥なのでしょうか」
だが、考えている暇はない。
剣の舞が止まらぬ事から分かるように、まだサーバントは残っているのだ。
●破壊、停止
撃退士たちの注意が槍に向かったその隙に。
最初に真奈を襲った、龍の装飾の大剣。 その巨大な刃が、真後ろの上空から、神楽に向かって振り下ろされる!
銃声。その刃は弾かれ、横の壁に食い込む。
「やれやれ、迫ってくる刃物は怖いですね〜‥‥折角左右にあるのですから、それを生かさないと‥‥ね」
手に「同化」していなかった黒の拳銃で常に後方を警戒していた神楽の銃口から、煙が上がる。
だが、同時に体への負担が限界に達したのか、銀の拳銃の方の同化も解かれ‥‥黒い蔦が銃身へ引き込み、元に戻る。
轟音。
牽制用に持っていたオートマチックP37から再度持ち変え、大剣を叩き折ろうと大きく振りかぶったフィーネの鉄槌は、然し多数の刀剣に視界を遮られたせいで、地面にめり込んだに過ぎない。
「邪魔デスネ」
轟ッ!
一掃。
白銀に光る鉄槌が、周囲の武器を一斉に粉砕する。だが、その一瞬は、サーバントたる大剣が、彼女の射程外に逃げ出るのには十分だった。
すでにサーバントの3体中2体は倒されており‥‥操っている武器の殆どは破壊されている。残りの一体が、逃走を考えるのも至極当然だろう。狙うは窓――
「ったく‥‥そこは通行止めだっての」
のらりくらりとその場に歩み寄った尚幸が、飛燕翔扇を広げ一撃を受け止めると、即座に逆手のアサシンダガーを振るい突き刺す。
だが、浅い。ダガーの破壊力では、それ程高いわけではないのだ。ましてや、相手が肉厚の大剣ならなお更である。
ダガーを弾き、横薙ぎで彼の胴を狙う大剣。
だが、それが切りつけたのは彼の体ではなく‥‥構えられた、無機質の金属盾。
「尚幸さん、大丈夫ですか?」
一撃を盾で受けた莉音が、目線だけを後ろ側に飛ばし、問いかける。
「ああ、ありがとうね」
軽く笑みを浮かべると、今度はハルバードを取り出し、横薙ぎに振るう。
流石に正面から受けては危険と判断したのか、後方へ下がってそれを回避する大剣。
距離を取ろうとしたその判断は悪くはなかった。――その後ろに、鉄槌を構えたフィーネが立っていなかったのならば。
轟ッ!
二丁拳銃に持ち替えた尚幸が弾幕を張り援護する中、地面を割るほどの力で、叩き付けられる大剣。
地にめり込みながらも、尚震えるようにして蠢き、脱出しようとしていたが‥‥飛び込んだ莉音に押さえ込まれ、動きを完全に止められてしまう。
「紛れ込まれなければ、この程度は容易い物です」
アレナの忍刀が、今度こそ大剣の中央を割り‥‥
「これで、やっと帰れるかな」
尚幸のハルバードの縦振りが、それを楔のように刀身に更に打ち込み、大剣を破壊した。
●死者への手向け
「ひどいな‥‥なんのために、こんなこと‥‥」
ライトヒールを使い切り、仲間の手当てを終えた莉音が、見つかった「惨状」に、思わず顔を背ける。
「片付けますか? 死体程度ならば、見慣れていますので」
申し出るフローラ。
「いえ、学園から専門の方が来るまで待つほうがいいかも」
自身の着ていたカーディガンで死体を覆い隠しながら、莉音が振り向く。
「とりあえず、まだ動く武器はないようです。念のために生命探知を頼めますか?」
中央制御室で電気をつけ、パトロールから戻ったアレナの言葉に、暫し目を閉じる莉音。
「生命反応はもうないみたい。‥‥他に閉じ込められた人も、居ないみたいだね」
アレナと共にパトロールから戻った神楽、フィーネの二人は、服を掛けられた死体の前で、暫し黙祷を捧げる。
「どうか、安らかに‥‥」
「その魂ニ、安らぎアランことヲ‥‥」
周囲を見回すフローラ。
ありとあらゆる所に弾痕が刻まれ、鉄槌によるクレーターが空き、斬撃痕も残されている。
「この博物館…しばらく閉館でしょうね」