●Intrusion
「‥‥正面から正々堂々、とは行かないか」
窓枠をやや強引に外しながら、佐倉 哲平(
ja0650)が呟く。
正面からの侵入はシュトラッサーを刺激し、その攻撃を誘発する可能性があると考えた撃退士たちは、横の窓からの侵入を試みる。
窓はロックされてはいた物の、常人を超える身体能力を持つ彼らには大した障害とはならず、無事開け放たれる事になる。
待ち伏せを防ぐため、先に魔法を一撃窓から投げ込み、様子を見るユウ(
ja0591)。
「うん、大丈夫みたい」
それを確認した佐藤 としお(
ja2489)が窓から飛び込むと、再度周辺をチェック。
‥‥敵影はない。警戒を維持しながらも、後方にハンドサイン。
ユウと日谷 月彦(
ja5877)の窓からの侵入を確認し、哲平は再度正面口の方を見やる。
(「‥‥どうやら、来る気配はないようだな‥‥」)
そして、自身も窓から飛び込む。
一方、反対側からも、四人の撃退士たちが侵入を試みていた。
「ロックされていますね。今開錠を――」
「時間がない。ロックされてるんなら仕方ないわよね。叩き壊すわ」
開錠しようとする石田 神楽(
ja4485)を遮り、大太刀の柄で窓ガラスを割る橘 和美(
ja2868)。空いたその穴から緋伝 璃狗(
ja0014)が侵入を試みた瞬間。
正面から、ネットが飛来する!
「っあ、いきなりか!?」
普段の彼ならば、この程度の奇襲は軽く回避できたはずだ。
だが、ここは霧の中。視界が悪かったため、かなりギリギリの回避となってしまう。
「隠密と奇襲が得意な敵、か。さすがだけど、忍の端くれとして負けてられないな」
そのまま逆に苦無を投げ返すと共に、後ろに控えていた権現堂 幸桜(
ja3264)がスクロールを展開。光弾を連射して応戦する!
放たれた苦無と光弾はどこかに着弾したようだが、それが確かにネットを放ったであろうアサシンナイトに当たったのかは不明だった。
幸桜が依然とスクロールを構える中、璃狗、和美が侵入し、先行で周囲の安全を確保。
その後、神楽と幸桜が、窓を乗り越えて中に入り込む。
「中も凄い霧ですね〜」
「この中で、本命のカースを探さなきゃいけない。急ごう」
璃狗を先頭とし、A班である彼らは1階を調査すべく、先へ進み始めた。
●Floor 2―Trial
2階を調査すべく進んでいた撃退士B班。然し、それには「階段」を見つける事が先決であった。事前に階段の方角は聞いていたものの、この濃霧の中では自分たちが進んでいる方角を判断する事すら難しい。
それでも哲平が来た道や調べた部屋に番号分けを行っていたお陰で、何とか迷わずに進んでいた。
魔法をまるで手榴弾のように部屋に投げ込むユウ。その周囲を月彦が注意しながら、哲平が部屋に入り、捜索する。
然し、霧で視界が悪い関係で、警戒していても気づかない奇襲がある。
哲平の頭上から、覆い被せるようにしてネットを発射したアサシンナイト。哲平はそれに捕縛されてしまうが‥‥
「今助けるよ!」
彼の後ろで構えていたとしおが即座に前進、サバイバルナイフに武器を持ち替えネットを切り、引き剥がす。
「っと、ありがとう」
ネットから脱した哲平は即座に態勢を立て直し、
「‥‥関わる暇もない。覚悟‥‥」
長大なフランベルジュを振り回し、目の前のサーバント迎撃する。
‥‥が、その刀身は、廃棄されていた机に突き刺さってしまう。
このビルには、小規模な部屋、狭い通路も幾らかある。それに加えて雑物が多少散乱していたので、長兵器を扱い、補助の兵装を携行していなかった哲平にはやや不利であった。
迫るアサシンナイトのダガー。
「‥‥ここで‥‥倒れるわけにはいかん!」
歯を食いしばり、哲平は強引に剣を雑物諸共振り回し‥‥強引にこのサーバントにぶつける!
こう来ると思っては居なかったのか、吹き飛ばされてしまうアサシンナイト。だが、そのまま壁を透過し、B班の目の前から消失してしまう。
再度の奇襲を警戒する哲平ととしおだが、今度は別のアサシンナイトが廊下の影から出現。 5m程後方に居たユウに攻撃を仕掛ける!
恐らくは魔法を使うのを見て、魔術師タイプだと思い直接倒してしまおうと思ったのだろう。放たれたのはネットではなく、ダガーによる近接攻撃。
元より物理面に優れないユウにはそれを回避できるはずはなかったが‥‥
「忘れてもらっては困るな‥‥」
横から、メタルレガースの飛び蹴りでサーバントを吹き飛ばし‥‥更に三節棍を一振りし、直棍に変形させる月彦。
「殺すだけなら、いまアルベキは人形(ワタシ)だね」
彼女を良く知る者なら、普段との違いが良く分かるだろう。
やや無表情となっており、普段のゆったりした口調とは違い、はっきりとしている。
‥‥容赦なく、敵を「殺戮」するための精神状態となっているのだ。
彼女から放たれた白い鳥。「白雀雷鎖」と呼ばれるそれは、近距離から放たれた事も相まって、アサシンナイトに直撃する。
鳥に繋がれた鎖から雷撃が走り、アサシンナイトの動きを止める。
更に月彦が「痛打」を使用、棍を大きく振りかぶる。然し、命中率に優れないこの技は、霧の影響を余分に大きく受け、空振りしてしまう。
‥‥が、この一連の攻防は、後方の異常に哲平ととしおが反応するには十分であった。
突進すると共に直突きを繰り出した哲平のフランベルジュはそのままアサシンナイトを地に縫いつけ‥‥としおの放った一矢が、トドメを刺した。
「少し時間を取られたね。急がないと」
としおが、前進を促す。
月彦が、戦利品としてダガーを持っていこうとしたものの‥‥どうやら一連の攻防でどこかへと吹き飛んでしまったようで、この濃霧の中ではそれを探す暇もない。
「仕方ない‥‥」
B班は、戦闘があったその部屋の付近で階段を発見し、2階へと上がる。
●Floor 1―Search and Run
「佐倉さんたちは、無事階段を発見したみたいだな」
先のB班への襲撃の際に一体が撃破されてしまった事で慎重になったのか、A班の探索は平和的に進んでいた。
送られたメールをチェックし、B班が2階へ進んだ事を確認した璃狗が携帯を閉じる。
「これで部屋A1-85。直ぐ前の部屋はもうB班の番号が書かれているから‥‥他にどこかあったか?」
B班が階段を発見するまで一部の部屋を既にチェックし終わっていた事もあり、A班は程なくして、大半の部屋のチェックし終える。
「あちら側でB班がチェックしていないルートもあるかもしれませんね。一応チェックしてみましょうか」
にこにことした表情を崩さない神楽が振り向き、歩き出した瞬間。後ろの部屋の中から、2つのネットが同時に飛んでくる。
一度チェックした部屋でも、後からアサシンナイトが潜入している可能性があるのだ。
ネットに狙われた一人であった神楽は大剣を抜刀するが、僅かに遅い。完全に迎撃する事は出来ず絡め取られる。もう一人の狙いであった璃狗は、
「こう来るのは、予測済みだったからな」
とばかりに、回避に成功する。
「一人ずつ、確実に斬らせてもらうよ!」
ネットの方向から、敵の大体の方角を判断した和美が前へ出、横振りで薙ぎ払おうとする。しかし、先ほど哲平の陥った状況同様‥‥彼女の武器も、部屋の入り口に引っかかってしまう。霧の濃さは、同時に壁までの距離感等を測る事をも困難にしていたのだ。
一時的に動けなくなった和美を狙い、2体のアサシンナイトが同時に飛び掛る。「シールド」を使用、急遽刀の鞘を挙げてダガーの一撃を受け、ダメージを相殺する和美。だが、手が塞がれた現状では2本目のダガーは――
「させません‥‥!」
光弾が飛来し、接近したアサシンナイトの一体に炸裂。そのまま押し戻す。
狭い場所では不利と判断しハルバードを一旦仕舞い、スクロールを用いた幸桜の迎撃だ。
体勢を崩したアサシンナイトへ、更にネットを切断した神楽の銃口が向けられる。
「見えるのであれば、撃ち抜くだけです」
彼の目には見える。自身の銃と、狙った敵を結ぶ黒い線が。
彼の腕から、黒い蔦が伸び、直接装備と自身を結びつける。
(「並列思考により、敵の行動を予測‥‥そこですね」)
不変のその表情は、今だけは敵を貫く自信の笑みか。
放たれた銃弾は、霧による視界の低減など物ともせずに、吸い込まれるように騎士の頭部へ直撃。威力は高くなかった物の、隠密行動のため装甲を削った騎士には十分な衝撃を与え、その体を壁に叩きつける。
それと同時に、黒い闇――「絶気闇炎」を身に纏った璃狗が、死角から苦無を投擲する事で奇襲し、もう一体のサーバントをも壁に縫い付ける。だが、敵も奇襲を行い慣れているからか、寸前で気配を察知され投げられたダガーが璃狗の腕を引き裂く。相打ちと言った所か。
‥‥動けないアサシンナイトは、最早撃退士たちの敵ではない。
幸桜の光弾が連続で炸裂し、その弾幕に紛れ、体を捻った和美が低姿勢で近づく!
「‥‥纏めて、斬らせてもらうよ!」
そのまま全身のバネを解放した横薙ぎの一刀は、壁ごと2体のアサシンナイトを抉り、両断した。
「2体、撃破ですね」
にこにこと笑う神楽。その直ぐ横で、メールの着信音が璃狗の携帯から響く。
そこに書かれていたのは‥‥
「C76」
「‥‥みんな、2階でカースが見つかったようだ」
全員の顔を真っ直ぐ見て、璃狗が言い放つ。
それ以上の言葉は要らなかった。
撃退士たちは、一斉に先ほど発見した階段から、2階へと向かう。
●Team A―Follow up
遠くで目覚まし時計の音がする。恐らくはB班、月彦のセットした物だろう。
「これで17‥‥次の曲がり角は‥‥右だね!」
壁に刻まれた矢印を確認し、先頭の幸桜が急激に曲がり角を右に通る。
撃退士たちの使った連絡方法はそれ程難しくない。部屋に順に番号を刻み、それを後から来る班が辿っていく、と言う手であった。
だが‥‥この方法には、致命的とも言える問題があった。
「やっと33‥‥まだまだですか」
壁の番号を確認した幸桜がため息をつく。
そう。この方法は、数を確認するため「必ず前の班と同じルートを通らなければならず」、また「前の班が遠回りした場合、後の班も遠回りしなければいけない」と言う物だ。
せめて音などで大体の方向が分かれば時間を短縮する事もできただろうが、月彦がセットした目覚まし時計は「サーバントたちを誘き寄せる」ための物であり、その目的に関しては達成したものの、A班がカースの場所を突き止める手がかりとはならなかったのだった。
「っ、気をつけて! 来るよ!」
曲がり角から顔を出した瞬間、すぐに引っ込め後退する璃狗。次の瞬間、二枚のネットが投げつけられ、横の壁に掛かる
「この急いでいる時に来るとは、敵さんも中々に意地が悪いですね」
表情からはその焦りは全く読み取れない。冷静に腕から伸びる蔦で再度、自身と武器を「接続」する。
(推定できる敵の数は二、三体と言った所でしょうか。ネットの軌道と霧の揺らぎから‥‥そこですね)
放たれた弾丸は、霧の中螺旋を描きながら飛んで行き‥‥何かに「命中」する。
「そこか‥‥!」
「もらった!」
璃狗の投げた苦無が突き刺さると同時に、上段から和美が大太刀を振るう。
その大太刀は‥‥苦無の尻の部分に当たり、まるで釘を打ち込むようにして、サーバントの体を貫通する。
奇襲が失敗するのを見ると否や、もう一体のサーバントは逃走を試みる。
追撃して来る和美にネットを放ち絡め取ると、すぐさま身を翻し逃走を試みる。
‥‥その背後に、長大なリーチを誇る幸桜のハルバードが突き刺さるまでは。
「深追いはしない予定でしたけど‥‥この距離でしたらね」
ハルバードを抜き放つと、その場にサーバントは倒れこんだ。
「意外と時間を取られてしまいましたね。急ぎましょう」
神楽の言葉と共に、撃退士たちは先を急ぐ。
‥‥時間は、もう余り残されていないのだ。
●Team B―Time Rush
「足止めを食らっているのか‥‥?」
周囲を警戒しながら、A班が中々到着しない事に対し、哲平の顔に焦りの色が浮かぶ。
部屋の後ろで催眠術、及び防御結界を展開している「カース」。その結界の色は、1度目の変化以来変わった事はなく‥‥依然として「赤」のまま、だった。
それもその筈。初手で赤の状態で、月彦、哲平、としおによる集中攻撃を受けたカースは、結界の色を青に変化させた。この状態ではユウの魔法の爆撃を受けたものの、三人より同時に攻撃を受けるよりはマシ、と判断し、そのまま結界を「赤」で維持し続けたのだ。
結界の色変えは「任意」である、つまり、カースの判断で変えないと言うこともできるのだ。
「中々硬いみたい。けど続けるしかない」
尚も詠唱を続けるユウ。
「氷華氷刃、刹那を刻むは命の痛み」
氷の花びらが舞い、カースを切り刻む。
全身から血を流しながらも、尚も術を維持し続けるサーバント。
第二のスキル‥‥氷華氷刃をも使い切ったユウは、エナジーアローに切り替える準備を行っている。
他のメンバーは尚も周囲の警戒を続けているが、アサシンナイトが現れる様子はない。
彼らには知る由もなかったが、この時点で彼らが最初に撃破した1体を含め、既にアサシンナイトの6体中、5体が撃破されている。また残りの一体も、月彦が仕掛けた目覚ましのトラップに誘われ、遠くの部屋に居たのだ。
(「もう来ないのかな?‥‥いや、油断したらだめだ」)
集中を維持するとしおの前に、人影が現れる。
急いでそれに向かって弓を構えるものの‥‥
「撃たないでくれ。俺だ」
●Combination
現れたのはA班。ルートをそのまま辿っていたために遅くなったものの、何とか到着したのだ。
カースのバリアの色を一目見、魔法攻撃が可能な璃狗、幸桜が攻撃に加わり、神楽と和美が警戒に回る。
が、依然としてカースの体力の減りは遅い。攻撃を行っている人数が半数以下だからだ。
余裕のあるメンバーも、結界の上から殴るか、魔法攻撃を行えたのならば、もう少し減る速度が速まったかもしれないが‥‥
着信音が響く。メールを見た哲平の顔色が、さっと変わる。
「敵の増援が‥‥来たみたいだ」
撤退していく撃退士たちを、定位置から見て‥‥うっすらと、シュトラッサー、御門夕矢が笑う。
「やれやれ。手勢の大半を失ってしまったけど、まぁ守りきれたからジェイも許してくれるよね」
術を解除し、霧を晴らした彼の後ろで、サーバントの大軍がカースをがっちりとガードする。
「ま、義理立てはここまでって事で。俺ちゃんはさっさとずらかるかな」
一陣の風と共に、彼の姿は掻き消えた。