.


マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:11人
リプレイ完成日時:2012/01/28


みんなの思い出



オープニング

●回想 ―際会―
 あれはまだ、うだる暑さの晩夏だった。
 黄檗色の陽光が降る、よく晴れた昼下がり。
 中等部に入学して間もない彼にはまだ居場所もなく、目的も宛てもないまま広大な学園をうろついていた。

『あれ‥‥そこのキミ、迷ったの?』
 ジュースを片手にぶらぶらと散歩していると、不意に声が聞こえた。女性の声だ。
 『可愛らしい』という言葉がぴったりの女子生徒。歳は随分上に見える。
 顔から目線を下げると、小さなシャベルにエプロン。土にまみれた靴。どうみてもそれは園芸に勤しむ装備。
 足元に置かれた鉢には、何かの挿し木がされている。
 ああ、そういえばここ花だらけだな。
 まじまじとその姿と鉢を見比べていたら、どうやら興味があると思われたらしい。
『‥‥お花、好きなの? 嬉しいな』
 にこ。
 その笑顔が、太陽の光に負けない程に眩しくて。
 俺は、そこから逃げ出した。

 心音がやけに頭に響く――いや、これは走ったせいだ。
 顔が妙に熱い――夏の日差しのせいだろ?
 あるわけない。‥‥そうだ。絶対に、あるわけがない。


●回想 ―確信―
『こんにちわ。――ふふ、また来てくれたんだね』
 園芸部専用の中庭――通称、華水庭園。
 複数の部が合同で作り上げる美しく華麗な庭は、カフェテーブルも完備され女生徒に人気なのだとか。
 華水庭園の一角には小さな温室があり、彼女はそこで若木達の世話をするのが日課だった。

 あれから俺は、たまに庭園を訪ねるようになった。
 草花に興味が沸いた訳では勿論なかったが、気になるのだ。
 可愛い顔に泥をつけながらも、一生懸命に花の世話をする、その人が。
 2、3度と訪れるうちに顔を覚えられ、彼女がいる時は温室に入れて貰えるようにもなった。
 会話は殆どないけれど。何だか特別になった感じが、嬉しい。
『――ん。この子はもう庭に植えかえて大丈夫そうかなぁ』
 よいしょ、と大きな植木鉢を持ち上げる彼女。
 何かしてあげたい。気持ちに身体が突き動かされる。
『‥‥俺が。俺が持ってってやるよ!』
『え? うふふ、大丈夫だよぅ。私も、撃退士だもん』
『あんたは――お、女の子だろ! 荷物なんて‥‥男に任せておけばいいんだよ!』

 ‥‥恥ずかしい。まともに顔なんて見れるはずもなく、少年は明後日の方を向いた。
 少年の言動に、きょとんと目を瞬かせたのち――彼女は、ありがとう、と微笑む。
 どくん。跳ね上がる心臓。
 半ば強引に鉢を奪い取り、少年は庭へ駆け出す。植木鉢の重さも気にならない程に、少年の思考は。
 まだ名も知らぬ、彼女の事で。


●依頼 ―少年の想い―
「ここは悩み相談所じゃないんだけど、ね‥‥。ま、若者らしいけどさ」
 紫蝶の言葉に少年は顔を掻いて、それから、ぎこちない敬語で話しだした。

「ええと、中等部2年の高市・湧、です。お願いです――花を咲かせてほしい!」
 彼女――園芸部の女子生徒の事だが――は、バレンタインに向けて、ある企画をしていた。
 曰く、バレンタインに花を売る、という。
 だが、その中の1つ。とても重要らしい植木鉢の育成が遅れている、と高市は言う。
「俺が素人目に見ても、そいつだけ花をつける気配もないんだ。大事な花だって、言ってたのに」
 迫るバレンタイン。次第に彼女も元気がなくなり、彼の目には落ち込んでいるように映った。
「このままじゃ‥‥折角頑張って育てた花なのに、間に合わないから落ち込んでるんじゃないかって‥‥」

 説明を終えた高市は、紫蝶に退室を促された。そしてその間際に、ぽつり。
「できれば、こっそり頼む。‥‥だ、だって恥ずかしいだろ‥‥俺が、その、気にしてるなんて」
 顔を真っ赤にして、走り去っていった。
 ――気にしてるのは、どちらの花か。


●依頼 ―少女の想い―
 高市退室から、凡そ5分。
「さて、話はわかったかと思うが‥‥。今回はもう1つ依頼があって、ね」
 入っていいぞ、と廊下に向かって声をかける。すると、女子生徒が3名現れた。
 依頼斡旋場としては不似合いな、きらきらしく派手な縦巻きロール集団だった。

「――わたくし達、恋愛成就応援団、ですわ☆」
「先ほどの彼を陰ながら応援していましてよっ♪」
 こほん、と3人目の娘が咳払いをし、ゆっくりと話し始めた。
「私達、華水庭園でお茶会を楽しむグループですわ。しかし、花ある所恋の噂あり‥‥この場合、花は私達ですが。
 華水庭園に居りますと、恋の駆け引きや、彼の様な恋する生徒をよく目に致しますの。
 次第に『お茶を楽しみつつ、華水庭園の恋を影ながら応援する』様になりましたの」
 ――つまるところ、出歯亀集団。
 彼女らとしては、高市の行動がもどかしくて仕方がない、らしい。
 傍から見ても、好意を寄せているのは丸わかり。しかし切っ掛けもなければ度胸もない。
 このままではバレンタインも進展がないのでは、と思っている所に今回の依頼を耳にした。

「直接手を出したい所ですが、わたくし達では面が割れておりますゆえ‥‥♪」
「彼女の身辺を調査し、彼が告白出来る所まで後押ししてあげて下さいまし☆」
「た・だ・し! 第3者の介入で得た恋では、お二人とも納得されないかもしれませんから‥‥。
 あくまでも、彼の依頼のついでのお節介を装ってくださいませ。――では、お願い致しますわ!」


リプレイ本文


 淡く青い花弁は固く閉ざされている。何かを待つ様に、何かを守る様に。

「胸がキュンとなる恋バナかぁ。くぅぅ、いいわね〜♪」
 と、教室を出た途端話始めたのは雀原 麦子(ja1553)。
 残念ながら、ビールを煽りながら胸キュンされても、発言と行動が伴ってないと言わざるを得ない。
 もしかしたら、青春の恋バナも彼女にとっては酒の肴なのかもしれないが。
「淡くとも純粋な恋の花、是非成就させてあげたいですね」
 照れる高市を思い出しつつ微笑んだレイラ(ja0365)に大崎優希(ja3762)が全力で同調する。
「でっすよねぃ! 希も超応援したいですゆ!」
 まるで自分事の様に頬を染め、黄色い声ではしゃぐ優希。
 年頃の娘ならば大概食いつく話題だが、中でも優希は特に恋バナが主食であるらしい。
 盛り上がる3人を見て、慌てて引き止める青空・アルベール(ja0732)と小田切ルビィ(ja0841)。
「で、でもほら! 強引にはならないよう注意しないとね〜。やっぱ本人達の気持ちが一番だしさ」
「俺達が手を出して逆効果になる可能性もあるしな」
 周りが盛り上がって、当の本人達が置き去り‥‥なんて話は、ままある事で。
 ――そして、往々にして失敗するパターン。
「心配ご無用っ! この黄昏の魔女が、恋の魔法できっちりすっきりハッピーエンドにしてみせるんだから!」
 謎の自信を以ってフレイヤ(ja0715)が胸を張り、顔見知りのイアン・J・アルビス(ja0084)は後ろで苦笑した。
「‥‥それカオスフラグじゃないですか?」
 黄昏の魔女という、その二つ名から既に胡散臭さが垣間見えるのは何故なのか。

 青空は、数ヶ月前の自分を思い出しながら、カラ笑いと冷や汗をひとつ。
 カオスの末の告白劇、だけは避けねば――。



 華水庭園。
 それは数ある中庭の1つ、各園芸部が花達と噴水が織り成す美しい庭園。
 冬でもビオラやプリムラ、クレマチスが咲き並び、庭園の外周を寒椿や薮椿の生垣が彩る。

「た、体験入部ですか?」
 眼鏡をかけた素朴そうな女の子は、間の抜けた顔で彼らを出迎えた。
 突然現れた男3人組が園芸部に体験入部したいと言えば、驚かれるのも無理はない。しかも。
 仏頂面の〆垣 侘助(ja4323)に、クールそうなルビィ、ニコニコ笑顔の青空――と、またバリエーションも豊かで。
 正に青天の霹靂。思わずジョウロを傾けたまま手も止まるというもの。
「ん‥‥何か問題があるのか?」
「あ。私達別に怪しい者じゃないんだよ〜? 侘助はお花が好きだから、ちょっと見学させてほしいのだ!」
 無愛想な侘助の発言に、空気を読んだ青空のナイスフォロー。
 花への思いは人一倍の侘助だが、花以外への思いは希薄な様だ。
「ああ、宜しく頼みたい。――所でそのカンパニュラ、水やりすぎだ」
 呆けてる間もジョウロからは延々と水が流れ落ち、白い花を濡らしている。
 あ!と我に返る部員。侘助は急いで花から水を落とし、ついでに花を観察した。
 ――ふむ葉も花もハリがあり元気そうだ。土壌の水はけも悪くない。これなら花の世話が杜撰、という線はないか。
「へぇ、コイツはカンパニュラっていうのか」
 花に意識を傾けながら、ルビィに花の解説を始める侘助。
 少女は、花に夢中な侘助を見、そして青空とルビィを見やった。何だか、悪い人ではなさそう。
 怪しいには怪しいが、この学園で細かい事を気にしても始まらないのもまた事実で。
 それに、男3人が花壇に夢中な様子は何とも微笑ましい。
「ふふ、本当に花がお好きなんですね。‥‥わかりました、OKですよ」


 男3人がめでたく体験入部し、温室へと姿を消した頃。
 高市の想い人を探るべく動き出した麦子、レイラ、フレイヤは既に彼女と接触を始めていた。
「重たくないかなぁ? 大丈夫?」
 心配そうに見つめる女子生徒――名を結城・紗枝という。
 倉庫から肥料土袋を運ぼうとした所、突然『バレンタインに花を渡したいんだけど』――と。
 フレイヤが名乗ったのに釣られて名前も名乗るし。それ本名じゃないのだけど。
 明らかに怪しい気がするが、天然気味で助かった。
 紗枝の代わりに麦子とレイラが肥料土を抱え、庭園へ向かう。
「だいじょーぶ。労働の後のビールは格別美味しいのよ♪」
「ダアトの結城さんより私達の方が楽に運べますから。‥‥それより、花の事ですけど」
「うーん、そうだね〜。薔薇のダズンフラワーとか‥‥チョコレートコスモスもいいなぁ」
 と、楽しそうに語りだす紗枝。余程花が好きなんだろう、花言葉も織りまぜて語りだす。
「ふむふむ、なんかお洒落そーな花じゃない!」
「出来れば相談とかしたいし、クラス聞いてもいいかな?」
 私達も大学部1年だしね、と微笑む麦子とフレイヤ。
 近づく距離。少しずつ、少しずつ。彼女の情報を引き出していこう。


●メール受信履歴
『彼女の名前は結城・紗枝ちゃん。情報通り大学部1年のコだね』
『明日は聞き込みするわ、圧倒的女子力にフレイヤ様今から挫折しそうだけど!』
『例の温室に入る事ができた。レシュノルティアは水分過多と暗期不足だな。改善すれば、まだ何とかなるだろう』
『結城さん、やはり花がお好きみたいですね。‥‥水のやりすぎには、何か原因があるんでしょうか』
『お姉さま達に聞いた所だと、華水庭園の部同士でもトラブルは結構あるみたいですねぃ』
『取り敢えず、僕と大崎さんは告白企画を思いついたので、園芸部の部長さんを訪ねてみます』
『私と侘助は温室メインかな、他の園芸部の様子も見たいし。あと紗枝に軽く探りも入れたいな』
『俺はそうだな、‥‥高市を庭園に引っ張っていくか』
『お、面白そうねぇ。私も湧ちゃんつついてみようかしら♪』

 ――ふぅ。
 携帯を枕元に置いて、イアンは布団に転がり、苦笑を漏らす。こういうのはどうも不得手だ。
「人を好きになっても‥‥伝えられない気持ちは、よくわかりますね‥‥」
 一人の部屋で呟いた言葉は、誰に届くでもなく。



 麗らかな冬の日差しに包まれた温室では、レシュノルティアの再生に手を尽くしていた。
 侘助が古い土を払い、根を洗い、死んだ根を取り除き、その横で青空と紗枝は新しい鉢植えを用意する。
「そういえば、もうすぐバレンタインだね。紗枝は誰か渡す相手いるの?」
 字面で見ると見事な乙女だが、残念ながらこれは青空である。
 そして本物の乙女こと紗枝は顔を赤くし、はにかんだ。
「渡したいなぁ、とは思ってるんだけどね。中々勇気がでないなぁ」
 自分がどう思われているのか不安であと一歩が踏み出せない、一言が言えない。
 誰にでも覚えのある感情に、ちくりと胸が痛む。
「そうだなぁ、私の友達も同じ事言ってたのだ。紗枝の相手はどんな人なのかな」
「え、えっと‥‥やんちゃな年下の子‥‥って、やだ恥ずかしいよ」
 恥ずかしいと言いつつも、年頃の娘。恋話は急に止まれない。あれやこれやと口が滑っていく。
 話題に疎い侘助が流れを切るまで延々と続いたのだった。
「後は適度な暗期を与えれば大丈夫だろう。‥‥ここは校舎の反射光もある。陽が当たりすぎだ」
 全て植替えの済んだ鉢植えの蕾を見て、青空がぽつり。
「でも‥‥ちゃんと向き合わないと、花は咲かないよね」
 綻び始めた蕾は、まだ頼りなげに揺れていた。


「え、俺も行くんですか!?」
 ルビィと麦子に呼び出された湧は、庭園の前で二の足を踏んだ。
「お、俺花の事全然解んないしさ!」
「お花って話しかけるだけでも元気になるのよ? ほら、咲かせたいんでしょー?」
 高市の足を庭園に向けさせようとするが、足取りは重い。
 紗枝に合うのが嫌だとかでは勿論ないが、何せ他人の居る前で紗枝と合うのは初めてだ。
 どう話したらいい。自然に話すってどんな感じだっけ?
「おいおい顔真っ赤だぜ? ‥‥園芸部に目当ての娘でも居んのか?」
「――いやっ! お、俺はそんなつもりじゃっ! ‥‥先輩はっ、か、可愛いし。優しいけど!」
 顔を真赤にする湧を見て、ルビィと麦子は苦笑した。――こりゃあガチだ。
 絵に書いたような純情少年。出来ればこちらの花も咲かせてやりたいが。
「よーし、じゃその優しい先輩のために頑張ろうぜ?」
「じゃ、私は情報収集に行くわね。頑張れ少年!」
 純情だからこそ。コイツが傷つくような結果は、避けなければ。


 さて、こちらは大騒動。
「お願いしますっ!」
「そう言われても‥‥2月14日はウチもイベント企画してるし、ねぇ」
 頬に手を当て、溜息をつく園芸部部長。そして頭を下げる優希。
 2月14日に庭園でお茶会をしたい――と、概要としては至極明快だが。学園の敷地とはいえ、一応『園芸部の庭』。
 突然部外者が押しかけてイベント日を使わせてくれ、というのは戸惑いを隠せない。
「うう、どうしても無理ですか‥‥」
「バレンタイン以外の日で、誰か庭園に詳しい人が居ればいいんだけど‥‥」
 前途は多難。


●メール受信履歴
『高市に少しカマかけてみたが‥‥本気な上に、えらい純な奴だな』
『丁度いいじゃない、彼女のクラスメイト情報では恋人居ないみたいだし!
 ふぅ‥‥これからリア充になっていくのかと思うと目から汗が出るわね』
『フレイヤさん、本音が出てます』
『む‥‥リア充というのは俺にはよくわからんが。レシュノルティアは全て植替えが済んだ。
 後は適度な暗期を与えながら様子を見るしかない。明日以降は他の花にも手を入れていくつもりだ』
『う〜、お花は順調そうだけど、希とイアンさんのお茶会計画が難航してるのですよぅ』
『お茶会か〜、開催できれば花の世話頑張ったご褒美とかに湧も連れて行きたいけど』
『紗枝さん、スイーツ好きみたいですし、お茶会は喜びそうなだけに残念です』
『庭園に詳しい人がいないと許可できないって言われちゃいました』
『んー、あの応援団のコ達に頼んでみるとか? 常連だろうから顔が利くかも♪』

「――あああ! 成程ですねぃ!」
 お風呂上がりの髪をタオルで拭きつつ、優希はぽんと手を叩く。
 湯船の中で頭を渦巻いていたモヤモヤがすぱっと纏まった、そんな気分。
「お姉さま達なら力になってくれるはず!」
 消えかけた希望が力を取り戻す。――絶対、成功させるんだ。



 お姉さまあああ、と優希は朝から賑やかに校舎を駆ける。
「あらあら、どうしましたの?」
「お姉さまっ! 希の計画に協力して欲しいのれすっ!」
 ――斯く斯く然々。
 思えば、お茶会用のティーセットはすぐに用意出来る物ではない。
 お茶会を開くなら最初から協力は必要だったわけで。ちょっと協力して貰う内容が増えただけで。
「2月14日はダメでも、今週末とかならどうかな、って!」
 本当は即売会を手伝いながら‥‥と考えていたのだが、ダメなものは仕方ない。
「恋愛成就の為ならば、私達も協力は惜しみませんことよ。園芸部には私から話をしておきますわ」

 放課後。イアンは庭園に程近いベンチに座り込み、お茶会の代替案を考えていた。
 と、突如鳴り響く着信音。
『イアンさああん!! お茶会オッケーでましたゆー!』
「あ、本当ですか? じゃあ、色々用意を――」
 確か、レイラさんが結城さんとお茶したりケーキ食べに行ってるとか言ってたなぁ。
 色々情報聞いておこう、ってか仕事でスイーツ食べて談話とか何それ役得。
「っと、レイラさんに結城さんの好みを聞いてから、色々用意する事にしましょう」
『はーい、了解でっす☆』



「ようこそティーパーティーへ☆」
 数日後――応援団御用達のテーブルに集まる一同。
 湧に紗枝、レイラ、ルビィ、青空、フレイヤが座り、優希とイアンが給仕を務める。
 尚、応援団は応援団らしく外から見ていて貰う事にした。
 イアンが作ったガナッシュケーキに、優希が焼いたチョコクッキー。紅茶はディンブラであっさりめに。
「ふふ、綺麗ねぇ。庭園も、お茶しながら見るとまた雰囲気が違うね〜」
「な、なんか俺場違いじゃ」
 洒落た雰囲気に湧はそわそわ。勿論それだけではないけれど。
 クッキーを食べてはちらり、紅茶を飲んでは顔を紅らめて。ただただ、混乱していた。


 庭園でお茶会が始まる頃。温室を訪れた侘助と麦子は、根腐れの原因に遭遇した。
 園芸部の一つに最近入部した新入生が、独断で温室の花に水をやっていたのだ。
 大は小を兼ねる思考。つまり温室の花は水を二重に与えていたという事になる。
「人間も必要以上の水を無理矢理与えれば体調を崩す」
「まぁまぁ、悪意はないっぽいし。原因分かったならいいんじゃ――‥‥侘助ちゃん、あれ」
 麦子が指さした先にはレシュノルティアの鉢。
 そして、小さな蒼い花がひとつ。


 徐々に陽が落ちる。冬の陽と楽しい時間はあっという間だ。
 結局――進展もないままお茶会を終えようとしていた。
(むむ‥‥切欠がないですねぃ)
 もう一押し。もう一押し必要だ。
 バレンタインならチョコレートを渡す、という事もできるが‥‥。
 もだもだ。もだもだ。
 その場に居る誰もが、きっかけを待っていた、まさにその時。
「紗枝ちゃんっ! 初恋草――咲いたわよ!!」
 ガタッと全員が立ち上がる。そういやメインの依頼は花だった!
 花をつけたレシュノルティアの鉢をテーブルの中央に置いて、よかったわね、と微笑う麦子。
 そしてフレイヤが仁王立ちになってレシュノルティアを指さす。
「実はこの花に、素直に告白できちゃう魔法をかけておいたわ! フレイヤ様の恋の魔法は強力なんだからねっ!」
 恋の病も気から。それで気が乗るなら儲け物。
 全員の意識が花に向かっている中で、優希はこそっと湧に耳打ちをした。
『この花は初恋草と言うですよ。――紗枝さんが一生懸命育てたその花の意味、気づいてあげて下さいねぃ』
 紅くなりっぱなしの顔が更に熱くなっていく。

 言いたい、伝えたい。
 蕾のままじゃ、本当の気持ちを閉ざしたままじゃ、カッコ悪い。
 握りしめた拳。汗ばむ掌。

「せ、先輩‥‥あの、俺っ――!」


●メール受信履歴
『最近よく庭園で2人を見かけますね』
『あ、僕もよく見ます。楽しそうですよね』
『何とか上手くいったみたいですねぃ!』
『あん時花が咲かなかったら、どうなってたかわかんねーけどな』
『侘助もお疲れ様なのだ! 花が咲いたから湧も頑張れたんだしね〜』
『ん‥‥特別な事はしてないが。まぁ、水やりの件も解決したし、残りの花も心配ないだろう』
『しかしフレイヤちゃんは名演技だったわね〜♪』
『恋の魔法って何よ! そんなのあったら私がとっくに使ってるっつーの! あーもう爆発しちゃえばいいのにっ』

 とある教室。窓から外を見ると、丁度華水庭園が見下ろせる位置だ。
 夕日に照らされた庭園には、今日も2つの影が伸びている。
「出会いは偶然でも、生まれた絆は必然。‥‥よかったですね」
 庭園を一瞥し、にこりと微笑んで。レイラは教室を出ていった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 今生に笑福の幸紡ぎ・フレイヤ(ja0715)
 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 庭師・〆垣 侘助(ja4323)
重体: −
面白かった!:14人

守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
202号室のお嬢様・
レイラ(ja0365)

大学部5年135組 女 阿修羅
今生に笑福の幸紡ぎ・
フレイヤ(ja0715)

卒業 女 ダアト
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
庭師・
〆垣 侘助(ja4323)

大学部6年52組 男 阿修羅