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マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/01/17


みんなの思い出



オープニング



『親愛なる月摘同志。今回はクリスマスにピッタリのゲームを開発したから、非リア充を連れて見に来てほしい』


「‥‥で、なんで俺が呼ばれるんだ‥‥ですか」
 ぶつぶつと文句を言いつつ、猫目夏久は自分より僅かに高い頭を睨みながら薄暗い廊下を歩いていた。
 室内とはいえ冬の空気はひんやりとしていて、異質な雰囲気を加速させる。
 ここは『研究棟』。
 とある部室棟の中でも、怪しい研究をする部活が追いやられ、押し込められた場所だ。
「身近な非リアっていうとお前しか思いつかなくってな。まぁ上手くいけばバイト代あげるから、さ」
 そういって、月摘 紫蝶は振り向きもせずに棟の再奥に構えられた扉を開く。
 掲げられた看板は『ゲーム開発におけるアウルの可能性を追求する会』。怪しい。怪しい、が。
 何か腑に落ちない物を感じるが、バイト代とあらば清貧学生・夏久に選択肢はなかった。




「う、わわわわやめちょまっ――」
 暗い部屋に青いライトが交錯する。
 そこに居たのは仄明かりを受けて柔らかく微笑む『図書室の銀の魔女』ことシルヴァリティア――の姿をしたホログラフ。
 いや居た、ではない‥‥現れた、だった。
 猫目が紫蝶に言われるがまま、手渡された指輪を装着して光纏したところ、突如現れたのだ。
 じり、じりとシルヴァリティアに距離を詰められると同時に、ずり、ずりと猫目が下がる。
「近い近い近ッ、いッ! しししししるヴぁでぃちあさん!!」
 言えてない。しかし純情な彼にとって、そんな事は些細な事。
 なぜ突然現れたのか、なぜ自分に近寄ってくるのか、ああちょっと前かがみになったりして胸がたゆんと柔らかそうで。
 柔らかく暖かな指先がそっと夏久の頬に触れた、瞬間、夏久の意識は限界を迎えた。
「もう‥‥だ、め‥‥」
「おや、倒れちまったね‥‥」
 顔を真っ赤にした夏久が冷たい床につっぷした。じゅうっと脂汗が蒸発する音が聞こえる。
 理性の限界の前に意識の限界が来るとかこいつ鉄人だな。
 一方、先程まで彼に迫っていたシルヴァリティアは、気絶により夏久の光纏が解除されたせいで、既にその姿はない。
「月摘同志、これではサンプルにならないのだが」
「いやぁすまないね。女子が苦手なのは知っていたが、まさかコレまでとは‥‥」
 ふぅ、と一息ついて。
「仕方ない――前回同様、募集するしかない、ね」



リプレイ本文



「これは夢の様な装置である――」


 語気を強める『ゲーム開発(略)』の部長・芝村 慶。
「年齢=恋人なし歴の筋金入り非リアであろうと! 3次元に帰れない二次元の住人であろうと!!
 一瞬にして理想の嫁・婿を手に入れる事ができるのだ!」

 紫蝶は思った。
 こいつ、ダメかもしれん。

「欲望を開放したまえ! 魂が赴くままに――!」



●CASE1:久瀬 悠人(jb0684)

「つーかこの分身、戦闘用とかに使えよなー‥‥お前もそう思うだろ?」
 彼の言葉に、隣に立つ女は返事に困った様に微笑んだ。

 何も想像しないままで悠人が無意識に形作ったダブルは、銀髪のパンツスーツの女だった。
 部長・芝村が言うには自身のヒヒイロカネなのだとか‥‥。
「なぁ、クロスって記憶とかあんの?」
「はい。マスターの事はよく存じ上げてますよ」
 カーレースの筐体を出て立ち上がる悠人に、クロスと呼ばれた女はそう言って瑠璃色の目を細める。
 単純な好みか、実の姉への恐怖か、彼女は見た目に違わず理知的な大人の女性だった。
「じゃあ俺の日常はお前も日常だろうし、今日はクロスがやりたい事をしようか、付き合うよ」
 と、悠人はにっと笑ってみせた。


 クロスが選んだ映画は、悲しい恋の物語だった。
 クリスマスに悲恋を選ぶ人も少なく、ほぼ貸切と言っていいほど席はがらんどう。
 そんな中、彼女は話し出す。
「先日の依頼‥‥随分心配しました。本当に死んでしまうのではないか、と」
 つがいを失った少女を、悲しみの海から引き戻す依頼。
 悠人は少女の気を引くためにひたすらに待ち続け――衰弱し、倒れた。
 その全てをクロスは見ていた。ただの腕輪として、何もできないままに。
「私は兵器。貴方が死んでもまた誰かが私を『使う』でしょう。‥‥ですが、私は貴方と共に戦いたい」
 映画館の重厚な音響から、恋人を失ったヒロインの絶叫が響き渡る。
 耳を突く音の中でクロスは俯く。銀糸の髪がさらりと落ちて。呟いた。
「だから――無理はしないで」
 雫が頬を滑った。


 繁華街の中央にありながら、何処かひっそりする夜の公園。
 煌びやかな電飾はないが、その代わりにチビ――悠人のヒリュウと存分に戯れる広さがある。
「こらチビ、大人しくしろって!」
 主人はそう言うが、全くチビは聞く様子がない。
 抱きついたり、くるくると宙を返ってクロスに芸を見せてみたり。喜び浮かれている様で。
 まぁ危害は加えなさそうだな、と一安心しつつ、悠人はふと自分と同じメッシュが入った銀髪の女を見て独りごちる。
「しかし、こういうテスト品って――よく爆発するよな。よな」

 そして何の気無しに、時計を見たのだった――。



●CASE2:小田切ルビィ(ja0841)

 無意識下の欲望に、彼が最も忠実だったといえよう。
「メー様、これ可愛いぜ」
「却下だ。もっと私に似合うモノを持って来るんだね」
 差し出されたアクセを軽く横目で窺うと、その女は豊満なバストを揺らしキャメルのファーコートを翻した。
 どんなに邪険にされても、柔らかそうな特盛の膨らみをつい目で追ってしまうルビィ。
「‥‥フッ。女王様の我侭に付き合うのも楽じゃないぜ」
 まぁ、鼻血拭け。


 ルビィが具現化したのは、先の神器争奪戦の資料で姿が公開された悪魔公爵・メフィストフェレス。
 褐色の肌によく映える紫銀の髪、豪奢な宝飾品をも霞ませる美貌と完璧なスタイル。
 勿論、本物は知らないため性格や衣服――ビキニアーマーだった――は完全にルビィの趣味だ。
 健全かつ若さを持て余すルビィの体に支障()が出る為、惜しみつつ着替えさせたが。
 それでも隠し切れない美しさがクリスマス市で視線を集め、随分と苦心をしたものだ。

「で、何でファミレスなんだい?」
 市を散策した後、暖を取る為に寄ったレストラン。何か言いたげなメー様の視線が痛い。
「ま、まぁほら、歩きっぱなしは疲れるだろ?」
 対面に座ると魅惑の峡谷が否が応にも目に留まり、ルビィは必死に視線をごまかすべく顔をそらした。
 セクシーダイナマイツとは正にこの事か。素晴らしき哉エロの権化。
「ふん‥‥ま、いい」
 そう言うと、彼女はルビィの頼んだ苺ショートの苺を摘んで、ぱくり。
「メー様、それ俺n」
「私をじろじろ見た罰だ。安かろう?」
 唇についたクリームを艶かしく舐めとると、女はニヤリと笑った。
 それだけで。どくんと胸が跳ねて。ああ、勝てねェ、って思い知る。
(俺、こーいう女に翻弄されんの好きなんだよな‥‥)
 赤らむ顔を紅茶をに写し、ルビィはそっと苦笑を漏らした。


 きらきらと、星屑を撒き散らした様な町並み。
 市の中央に飾られた巨大なツリーと市のイルミネーションが、華やかな幻想の世界を演出していて。
 そんな光の海を、展望台から眺め下ろす2人。
「ほう、美しいな」
「気に入ったなら嬉しいぜ。まぁ――俺はもっと眩しくて美しい光に夢中だけど、な‥‥」
 鉄柵に頬杖をついて、ルビィは褐色の辯天を見やった。
「ふふ、当然だ‥‥そうだな、一日私を楽しませたご褒美をやろう」
 メー様の指先がつ、と彼の輪郭をなぞる。2つの赤い瞳がぶつかり、絡まる。
 女がルビィのコートを掴んで引き寄せたその時、街の何処かから時計の鐘が9つ、鳴り響いた。



●CASE3:七種 戒(ja1267)

「態々我輩の屋敷に来る必要は無いと思うのだがね」
「そこはですねほら、寝てる主殿と起きてる主殿が両方楽しめて一石二鳥というか雰囲気大事といいますか」
 冷汗たらり。戒は、主人ラドゥ・V・アチェスタを模したダブルを連れ、彼の本体が眠る屋敷を訪れていた。
 本物に見つかったらどう言い訳するつもりだったのか。割と暴挙である。
「ところで七種、年末の支度は進んでおるのかね?」
 がしゃっ。
 途端、白磁のティーカップが無作法に音を立てた。
 さぁっと戒の顔から血の気が引いていく。脳裏に巡るのは脱ぎ散らかした衣服やゲームで埋もれた床。
 その中で唯一燦然と光る、全く汚れのない台所は清純派の証――ではなく料理をほぼしない女子力欠如の証。
(アカン)
 思った矢先。
 顔面蒼白の下僕を見、ラドゥはこめかみを押さえて溜息一つ。
「すいません素直に謝るので我が家は主殿にお見せできるアレがソレでえええ!?」
 ぶんぶんと顔を振って制しようとする戒だがスイッチの入った吸血鬼は止まらない。
 ラドゥは優雅にティーカップを置くと、おもむろに席を立った。
 その手にはたきを持って――。


「‥‥全く、婦女子の部屋とは思えんな」
 泣いて止める戒を引きずり彼女の寮室へやってきた訳だが、その惨状たるや想像を遥かに超えるもの。
「だから\見せられないよ!/って‥‥! ええとコレは‥原型なんdげふんよし捨てよう」
 脱いだ衣類に埋もれていた元お惣菜だった何かが詰まったパックを、流れる様な動作でゴミ袋へ投下。
 食べなかったのか、食べた後の汚れが突然変異したのか、誰も真実を知る事はできない。
 続いて転がるペットボトルを拾った所を
「下から掃除をする奴があるか、馬鹿者」
 びしぃ、とはたきで正すと、ラドゥは再びこめかみを押さえた。
 見える範囲でこの有様。本来大掃除で綺麗にすべき筈の見えない所の惨状は推して知るべし。
「押入れは見なかった事に――」
「手を止めるんじゃない、夜が更けるであろう」
「ううう主殿とイチャコラできてもこんなクリスマスは嬉しくないいい!」

 ――ややあって。
 おかんスイッチの入ったラドゥの見守り(物理)の成果もあり、腐海だった戒の部屋が蘇っていく。
 なんという事でしょう、匠の素晴らしい仕事ぶり。主に監視的な意味で。
「引越してきた時以来の綺麗さである‥‥。‥‥ん?」
 夕餉時も過ぎた頃。掃除を終え疲れ果てた戒の鼻孔を、香ばしい香りがくすぐる。
 七面鳥にホワイトグレイビー。クリスマスプディング、クランベリーゼリー。
 英国式の料理一式が、いつの間にやら食卓に並んでいた。
「どうせ碌なものを食っておらんのだろう、年末くらいちゃんと食べなさい」
「夢の主殿の手料理‥‥ありがとーございます!! いっただきまーす!」
 と、フォークを肉に突き立てたその時だった――。



●CASE4:ラグナ・グラウシード(ja3538)

 手を伸ばした先は、最愛の女性。
 追いかけても追いかけても届かなかった、最敬の師匠。
「ああラグナ、久しいな。修行は怠っていないか?」
 蜂蜜色の柔らかな髪を靡かせ、それは突如彼の前に現れた――。


 彼女を喪って、どれだけ経っていただろう。
 太陽を失った様な日々は耐え難いほど長くて、胸が掻き毟られるほど辛くて。
 例え偽物でも。例え、己の欲念でも。師のいるこの時が、どれだけ輝いていて――どれだけ短いか。
 人々の波間をかき分け、飾り立てたあちこちの店や屋台を見て回った。
 小腹が空けばホットワインを片手にレープクーヘンやヴルストをつまんで。
 立ち止まれば幻が消えてしまいそうで、それが怖くて。ラグナははしゃいだ。

「ああ楽しかった。全く、お前は本当に変わらないな、ラグナ」
 夜になり、遂にルーガが足を止めて。二人は小さな回転木馬の前に設えられたベンチに腰を下ろした。
 そろりと、魔法が解ける足音が聞こえる。
「ずっと」
 柔和に微笑みかける師に、ラグナが声を漏らす。
「こういう事がしてみたかったんです。先生と二人きりで、また昔の様に色んな場所に行きた、かった」
 泡沫の夢である事など、とうに知っている。
 走馬灯の様に廻る電飾の馬達を見つめ、長年燻り続けた想いをラグナは紡ぐ。
「でも、あいつが現れたせいで、何もかも変わった。先生が、遠くなった」
 愛弟子の心中を蝕む闇を、師は察していたのだろうか。
 眉を寄せ、瞳を僅かに曇らせながら、綴られる言葉を受け止めていく。
「先生は、あいつなんかを庇って死んでしまった‥‥あんな女、どうでもよかったのに!」
「ラグナ‥‥」
 彼の中の淀んだ妄執が、想いが堰を切る。止まらない、心が苦しい。痛い。痛い。痛い。
 浅い呼吸。次いで、深く息を吸い込み、気を鎮める。
 悲しげに己を見つめる師。
「貴女はずっと憧れだった、私にとって誰より大切な人だった」
 その金糸雀の瞳を捉え、ラグナは一番心の奥底に秘めたそれを、
「私はずっと、先生の事が――」
 舌先に乗せた、刹那。
「ずるいのっ、ラグナばっかり! 私だってルーガに甘えたい! ぎゅうってしてもらうんだッ!」
 物陰から飛び出す影。
 長らく尾行を続けていた妹弟子エルレーンが、我慢しきれず全速力でルーガの胸へと飛び込んだ――。



●CASE5:アラン・カートライト(ja8773)

 ぎゅっと繋いだ手から温度が伝わる。
 いつからだったろう、その心地良い温もりを、華奢な手を離したくないと思ったのは。


「寒いなァ。でも、ここじゃ雪は珍しいそうだから、Luckyなのかな」
 白いモッズコートの襟を手で寄せ、微笑う少女。
 いつもなら兄に対し冷たい妹イヴ・カートライトも、今日だけは素直だ。
「喜ぶのは構わねえが、風邪引くなよ? ほら、コレ巻いとけ」
 言ってアランは自分のマフラーを外し、イヴに巻いてやる。と。
 きらり、妹の首に光る小さな赤が目に止まり。心に棲む刺がじくじくと疼く。
 くそ、何処のどいつだ。俺の妹に手出そうたぁ覚悟はできてンだろうな。
「なぁイヴ、このネックレス」
「あっこのお店に入ろ!? ほら良さそうなスーツもあるし!」
 突如、ショーウィンドウを指さし兄を引っ張るイヴ。あまりの動揺ぶりにアランの方が面食らった程で。
(そんなに、言いたくねェ、のか)
 それが己の瞳と同じ色とは気づかぬまま、アランは何処かの誰かに闘志を燃やすのだった。

 咄嗟に入ったセレクトショップだったが、存外悪くなさそうで。
「俺に似合う物はお前が一番理解してるだろ、選んでくれよ」
「ンー‥‥これがいいかな。少し派手だけど、大丈夫。君は格好良いからさ」
 言われて彼女が白のスーツを見立て。
「お前には青が似合うな」
 言って彼は彼女の瞳と同じ藍玉を選ぶ。
 手の中では水底の様に深い縹。しかし光に翳せば、美しく透ける水面の様。
 まるでイヴみたいだな、と思いながら。
「‥‥ブレスレットとネックレスどっちが良い?」
 ネックレスを選んでくれれば、と。淡い期待をするけれど。
「ブレスレット、かな」
 愛しい笑顔が、少しだけ、胸に痛い。


 きん、と高く涼しい音が鳴る。
 ホテルのレストランの片隅で、シャンパンの泡が弾けた。
「ほら、手。‥‥お前がこの世界で誰より綺麗で、可愛いぜ。流石俺の妹だ、愛してる。」
 藍玉と水晶が連なった二重のチェーンブレスを、イヴの細い手首にまいて。
 その手がアランの手に触れ、オールドローズのシャツに合わせた銀のカフスを指でなぞる。
「有難う。君が褒めてくれるの、嬉しいな」
「なぁ、一緒に暮らさないか? 兄妹が別々に暮らすなんて寂しいだろ」
 イヴを射抜く真摯な瞳。どくん、と高鳴る胸も、紅く染まる頬も、きっとシャンパンの所為。
 だってあたしは、ここに居るあたしは。――兄想いの妹、だから。

「       」



●CASE6:菊開 すみれ(ja6392)

 ひとり、だった。
 アウルのせいで、私はいつでも孤独だった。
 生来の人見知りな性格が、更にそれを加速させた。
 ――寂しかった。

 違う運命なら、やりたい事もきっとあった。
 不幸、と思っている訳ではないけれど、幸せを掴みたい。
 誰かに、認めてほしい。誰かの心の中に住まわせてほしい。
 歪な形だったとしても。儚い幻だったと、しても。


「凄い‥‥! 私、こんな光景初めて見た」
 すみれは、一体どれだけの高さがあるかも解らないクリスマスツリーを見上げた。
 ツリーが頭に頂く一番星から街頭へと幾筋も光が走り、市場の中央に位置する広場は光の紗で覆われていて。
 見あげれば光の天井の様に、輝いて、輝いて。
「だから綺麗だっつったろ? お前に見せてやりたかったんだ」
 そんなすみれの肩を抱いて上を見上げるのは『水瀬 涼』。彼女の願いが形作った、蒼い髪の青年だった。
 彼は内気なすみれの手を引いて『外』へと連れだしてくれた。彼女の知らない世界に。彼女の望みどおりに。
 ああ、なんて素敵な時間だろう。
 彼女はそっと涼の肩口に寄り添い、その温度を確かめた後、不意にその腕から抜け出して彼に背を向けた。
「あー、満足したっ! だから‥‥もう、大丈夫だよ」
 怖くなった。
 この幸せな時間を失う事。彼を失う事。
 一度に、いっぺんに幸せが訪れたから、無くした時の孤独が怖い。
 だから目を背けるんだ。心の傷が少しでも軽くなるように。
「ばいばい。私の想い出は一人きりじゃなくなったから――それだけで良いんだ」
 言って、すみれは背を向けたまま歩き出した。そのまま幸せな時間にピリオドを打つ為に。
「逃げるなよ!」
 不意に、涼が背後から抱きしめる。
「ずっとずっと、傍にいてやる。俺がお前の恋人でもなんでも、なってやんよ!」
 びくりと足が止まる。逃げる。そうだ。私は、涼から逃げようとしているんだ。
 怖いから、独りが怖いから。
「出会うのが遅すぎたけど‥‥もう二度と独りぼっちにしないから」
 例え辛くても、寂しくても。
 心の中に君の温もりを感じられたら――。
「涼、君‥‥っ」
 涼の言葉が心に沁みて広がっていく。ぼろぼろ涙が落ちて、その温もりにずっと抱かれていたくて。
 すみれは、力強く抱きしめる涼の腕の中で泣き崩れた。






●PM 9:00

「ふっははははははァ!! 滅べ滅べ裏切り者どもは滅ぶがいいわああああああああ!!」

 市から遠く離れた久遠ヶ原の片隅で、独りの男が『DANGER』と書かれたボタンを叩き押した――。
 芝村、お前も非リアか。



 \ずどおおぉぉぉおぉおん/



 クリスマスの夜――
 生徒有志によるニュース番組で、島内各地で起きた謎の同時多発自爆事件の速報が一斉に報じられた、とかなんとか――
 残念ながら、その島では比較的頻繁に爆発事件が起こる為すぐに忘れ去られたが。


「‥‥マジ絶対ぶった切る、本気でぶった切る」
「魔界のバラは刺どころか爆発するってェ事かい――待ってろよ本物のメー様、絶対ェ会いに行ってやるぜーー!」
「主殿の手料理があああああ!!! ていうか色んな意味で下僕仲間に怒られるきがする‥‥」
「エルレーン貴ッ様あァ!! 何処まで俺の幸せを奪う気だ今日こそ殺ーーーす!!」
「ったく答えくらい聞かせろよ。まァ、今度は本物を誘ってみるか――ブレスレットも一緒にな」
「最後までヒロインさせてよ馬鹿ーっ! こんな現実なんて‥‥いらないよ!」



 夢が醒めれば、魔法は解ける――続きはどうか、現実で。
 いや、概ねイイハナシダッタノニナァ。





依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
微笑むジョーカー・
アラン・カートライト(ja8773)

卒業 男 阿修羅
絆紡ぐ召喚騎士・
久瀬 悠人(jb0684)

卒業 男 バハムートテイマー