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マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/01/07


みんなの思い出



オープニング

●黄道上のアリア・第7楽章 ―変調―

『次は、南』
 薄闇の紗の降りた一室。
 柔らかなソファーに身を委ねたオフュークスは、手の中で黒曜石のポーンをころころと弄んで思いを巡らせた。

 メフィスト様は相変わらず筋書き通りにさせてくれぬ御方よ‥‥。
 今度ばかりは、下賜された駒だけではお役に立てまい。ならば。
『‥‥あまり時間がありませんね』
 小さな溜息を吐いて、彼はその手のポーンを7本目の蝋燭の焔に翳した。
『矮躯、卑小、臆病、白痴。されど、鋏の内は苦く――Cancer』
 眩い焔の光に揺らぐ駒の影が、形を変える。伸び、広がり、藻掻く様に、地を這う。
 墨を流した様な黒い甲羅の――蟹だ。
 さらに、影を産み落とした焔がぼとりと落ち、蟹の周りを渦巻く様に床を焦がした。
 ずるり。焔が消えると同時にその焦げが、動く。
 ずるり、ずるり。焦げもまた黒い身に月明かりをぬめらかに映す、巨大な蛇。
『お前たちは先にゆきなさい。‥‥あぁ、無駄な殺しは禁物ですよ。まだ、その時ではありませんから』
 黒い蟹と蛇は少し身じろぎし、意を介したのかやがて闇に消えていった。

 暫くして――。
 布地がたっぷりした真白のトレンチコートを羽織った悪魔は、心底嬉しそうに愛用の杖を撫でる。
『ああ、刃達は驚くでしょうねぇ。1年越しの邂逅とは、まるで戯曲のようではありませんか』
 純白の衣から這い出る黒い羽根を震わせ、オフュークスは南へと飛び去った。

 一足先に訪れた偶然に感謝を。
 全ては我が君、メフィストフェレス様のために。



●生と死のアド・リブ

 鳥取県南部の病院、その病室の一つに、彼女は居た――。

 雪の降る、とある日の夕方。ここは天魔に襲われた。
 始めは床から動けない患者が。次第に、病棟の彼方此方でナースや医師が。
 一人、また一人と物言わぬ石像へと姿を変えていく‥‥。

 見えぬ恐怖に、院内は当然パニックに陥った。
 医者、技師、事務員。動ける者は皆我先にと出口へ殺到した。弱者を、動けぬ者を見捨ててでも、生にしがみつこうと。
「待って!! まだ患者さんがいるの、そっちが優先でしょ!?」
「化物がいるってのに、そんな綺麗事言ってられるかよ!!」
 当然の事だ。
 怪我や病ならプロフェッショナルでも、天魔の前では患者だろうが医者だろうが、等しく無力なのだから。
 誰も、逃げ出した彼らを責められる者は居ない。
 それでも、彼女は嘆いた。憤った。なんと不誠実なのか、と唇を噛み締める。
 出口に群がる群集に背を向け、駈け出した。病院の奥、まだ患者の残る病棟へ。
 逃げず、諦めず、指先一本が動くその一瞬まで患者の救助に力を尽くし――彼女もまた、動かぬ石塊となった。


 それから、どのくらい経ったのだろう。
『さぁ、起きなさい‥‥』
 静まり返った病室に響く、低く静かに頭の中に入り込む様な声を聞いた瞬間、彼女は重い石の体から解き放たれた。
『御気分は如何ですか、お嬢さん?』
「っ――!?」
 最初に見たのは、ぎらりと光を放つ様な鈍色の瞳。一目みて、人ではないと思った。
 そして、次に彼女の瞳は『純白の蛇が巻き付く杖』を捉え、見開いた。
「アスクレピオスの、杖」
『おや、ご存知でしたか。これは僥倖。ふふふ、やはり貴女を選んで間違いはなかったようです』
 医神・アスクレピオス。
 不遇の生没ながらその生涯は医学の天才として名高く、遂には神に認められたという逸話を持つ。
 『蛇が巻き付いた杖』は彼の象徴であり、今日でも広く医療のシンボルとして知られるモノ。
 それが、なぜ。
『どうぞいらっしゃい。私と少しお話をしましょうか』


 オフュークスに連れられてきたのは、病院の最上階にあるカフェ。
 一面に張られた硝子の外は、白く寒々しい、いつもと変わらぬ風景が広がっていた。
『さて、何処からお話しましょう――』
 杖に巻きついた白蛇の頭を撫でながら、口を開く白い悪魔。
『私は当代の『アスクレピオス』、悪魔オフュークス。早速ですが、私は貴女に興味があります』
「ど、どういう、事?」
『先程院内を見て回りましたが、殆どの人が出口で石化していました。勿論、逃げる為に。‥‥または』
 と、オフュークスはちらりと視線を横に流した。
 二人が座る席の傍らには、接客中に石化したのか優しい微笑みを浮かべたウェイトレスの石像が佇む。
 カフェの看板娘――彼女の友達だった。
『彼女の様に、異変に気づかぬままか。‥‥しかし、貴女はそうではない』
 明らかに異変を知り、そうでありながら、逃げる事は考えていない。
 最後の瞬間まで、医療者たらんと。凛と立ち向かっていた。

『‥‥石になった人達を助けたいですか?』
 弾かれる様に、彼女は顔を上げた。
「生きてるの?」
『ええ。石で体を縛られているだけ。脳が眠らなければ意識もあるので、このままでは精神が摩耗して死に至るでしょう。
 私なら治せるのですが、全員の治療は出来ません。――私一人では、ね』
「回りくどいのは嫌いなの。つまり、皆を助けたければ私が何かしろってことよね。‥‥何?」
 背中に冷や汗が流れ落ちる。
 悪魔との、取引。危ない橋どころか既に崩落しているかもしれない。けれど。
 助けたい――。
『強気なお嬢さんですねぇ。まぁ、いいでしょう。ご協力頂けるのですね?』
「‥‥あんたが信用に足る材料を出せばね」
 軽く逡巡した後、『パナケイア』と呟くオフュークス。
 すると蛇の体が白く柔らかい光を放ち、悪魔はその光を石化したウェイトレスへと向けた。
 パァン。破裂音が静寂を貫き、からからと石の破片が床に散らばる。
「きゃあっ、な、何――?」
『おはようございます、可愛らしいお嬢さん』
 オフュークスは優しい微笑みを浮かべ、動揺するウェイトレスの手を取り、腰に手を回した。
『この通り、治療の腕は保証致しますよ。さぁ、さぁ、どうします? 皆を助ける事も、見捨てる事も、貴女の返事一つ』
 それはダンスを踊るかの様に、滑らかで美しい所作で。冷たく口元を歪めた顔を首元へ寄せた。
「本当に‥‥救えるなら、何でもやるわ。教えて、何をしたらいいの」
「ッ、珠那!? だめ、やめて!」
 珠那と呼ばれた看護師は全く迷う様子もなく、オフュークスに力強い瞳を向けた。
「私なら、沙苗以外も皆、救えるんでしょ! ねぇ、どうしたらいいの!」
 思った通り、愚かしい程に真っ直ぐで高潔で――

 最高の素材。



『貴女にしてもらう事はただひとつ。貴女がこの杯を飲み干すだけですよ。‥‥貴女は、死にますけどね』





リプレイ本文



 しんしん、と。

 命の砦に雪が舞う。

 何もかもを、白く、重く、閉じ込める様に、六花が踊る。

 ひとひら、ふたひら。掌に落ちて。

 ふわり、にじみ、ほろり、ぽたり。

 落ちた雫は、雪か命か。





 まるでこの世とも思えぬ光景。
 ――飛沫く血潮、どろりと不浄に満ちた廃墟、阿鼻叫喚の戦火。
 撃退士であれば一度は遭遇する、数々の惨劇。
 それとは異質の、まるで時間を切り取った様な凛冽とした禍殃が、此処にはあった。

 ふぅっとたなびく白い息を吹きつつ、綿貫 由太郎(ja3564)は電子タバコを凍える唇から離した。
 白銀の背景にふわりと頼りない赤い光を浮かべるそれは、石像の中でか細く明滅する命の灯火の様で。
「そーれにしたって寒いねぇ、鳥取ってぇのはこんなに寒いのかい」
「なぁに言ってるのよ! あたいの村はもっと寒いんだから」
 そう言って雪室 チルル(ja0220)は白花色の六花を模ったペンダントと鞘飾りを揺らめかせる。
「まぁ、でも――寒いには違いないし、とりあえず原因をやっつければ全部解決よね!」
 にぱ、と可愛らしい笑顔で身の丈を優に超えるフランベルジェを、奇声の響く屋上へと向けた。
 それに続き、マキナ・ベルヴェルク(ja0067)も黙したまま内なる黒焔でその右腕を覆い尽くす。
 やがて腕の包帯をも吹き飛ばし、灼き落とし、露わになる『偽神の腕』。
 彼女は語らない。天魔が突きつける不条理に煮える感情をエネルギーを糧に、寡言に求道を貫くのだ。

 難しい事はわからない。敵を倒す。そして、皆を開放する。
 自分達は、その為にここに居るんだから。
 至極単純、明快な理屈だった――。

 まだ、この時は。





 シャアアアァァ‥‥

 病院を囲う結界に踏み込んだ辺りからだったろうか。
 度々に耳に届く尖り声――びりびりと体を震わす、異形の声。
「これが例の奇妙な声でしょうか‥‥身が竦む様ですのね。戦闘に先んじて、私は外から屋上の偵察を致しましょう」
 ユーノ(jb3004)は黒檀色の翼をひと羽ばたきすると、それに鷺谷 明(ja0776)が言葉を続けた。
「ふむ、じゃあ私も行こうかね。独りでは何かと不便だろうしねえ」
「心強いですの。奇襲の心配もありますので壁際は十分ご注意下さいませね」
 情報と状況からして――撃退士達は、『第2の敵』が居ると読んでいた。用心に越したことはないだろう。
 頷く明。光信機の調子を念入りに確認したのち、彼は垂直に建物の壁を蹴登っていく。
 それを見てユーノもお気に入りの帽子を風に飛ばされぬよう手で抑え、凍てた空へ舞い上がった。


「それにしたって――なんて非道い光景なんだ‥‥」
 明とユーノを追う様に、建物内部から捜索を始めた佐藤 としお(ja2489)らはそれを目の当たりにする。
 時計の音以外何一つない無音の世界で、怯え、惑い、苦悶と焦りに満ちた表情のまま、乱立する幾多の石像。
 外へと差し伸ばされた腕。助けを求める瞳。
 ぎり、と奥歯を引き絞るフレイヤ(ja0715)。石像達の物言わぬ絶望を感じ、ふつふつと激情が湧き上がる。
「‥‥っざけんじゃ、ないわ‥‥! 人間は天魔の玩具じゃないのよ!?」
 魔女を自称する少女の想いが波及する、呼応する。
 としおの金龍が歯を剥いて殺気を放ち、由太郎も愛用のリボルバーを指が白くなるほど握り締めた。
「これはオフュークス関連の事件の中でも群を抜いて胸糞悪ィぜ‥‥あいつらしくねェ」
 と、語尾を落として小田切ルビィ(ja0841)が呟く。
 思えば、オフュークスという悪魔の騒動は、大きな騒ぎにはなるが人命被害のないものばかりだった。
 人里離れた山や湖。ダム、史跡。
 ただ撃退士を試している様な、ただ撹乱して楽しんでいる様な。そういう類のものだ。
 しかし――今回は、あまりに粗暴な舞台ではないか。
「どんな敵か詳しく分からないとは厄介だな」
「恐らく巨蟹宮‥‥蟹のディアボロだろうが――何か、裏を感じずにはいられねぇな」
 消せない違和感、先の見えない焦燥感。
 としおとルビィが周囲を警戒している中でも、一人チルルはあっけらかんとしている。
「裏とか表とかよくわかんないけど、犯人に直接聞いちゃえばいいと思うわ! ――と、あそこに見取り図があるわね」
 彼女が見つけたそれに数人が近づくと、作戦通り放送室を探し始めた。

 その間。
「どうですか龍崎さん‥‥?」
 としおと、助力者として現場に同行した龍崎海(ja0565)は、石像の一つと相対していた。
 手をかざし息を整えると、ほんのうっすらと光るアウルのうねりで、石像を包み込む。‥‥だが。
「駄目だ。全く手応えが感じられない」
 ふぅ、と息を吐く。海が送る光が、まるで浸透していかない。
 クリアランスは術者の正常なアウルと相手の淀んだアウルを融和させて常態回帰を促す術。
 アウルを持たない一般人にその作用は望むべくもなかった。海は歯噛みし、悔しげに眉を顰める。
「仕方ない、俺はこの人達を外に運ぼう。佐藤さん達が上を目指す間に何か変化があれば連絡するよ」
 と、そんなやり取りに耳を傾けながらも、フレイヤは一つの石像をじっと見つめていた。
「この子達‥‥声は届くのかしら」
 恐怖にくしゃりと顔を歪めた、年端の行かぬ少女。
 私も、こんな頃があった。平凡だけど幸せな、ごくありふれた無邪気な子供時代――。
 蒼の魔女は屈みこんで、ぎゅっと物言わぬ少女を抱きしめる。
「――怖かったわよね。まだ、天魔なんて解らないもんね」
 平凡な幸せが、薄氷の上に築かれたモノだと知ったのはいつだったか。
 本当は天魔という存在が、その氷一枚隔てた水面で口を開けている事を知ったのは。
 一瞬だ。本当に一瞬で、天魔は人間を食い物にする。そこに慈悲は、ない。
「ねぇ、聞こえる? 私は黄昏の魔女フレイヤ。魔女はね、誰かを救う為にいるの。助けを求める手を取る為に居るのよ。‥‥だから、安心してそこに突っ立ってなさい」
 そう優しく語りかけて少女の頭をひと撫でしてから、フレイヤは灰色の天井を睨み、毅然と吠えた。
「おひゅーくすだかおっぺけぺーだか知んないけど、魔女を怒らせたらどうなるか――思い知らせてやるわ!」


 玄関ホールで一喜一憂しているその間。いつの間にか、いつの間にか、そっと姿を消した者がいた。
(ここは広い‥‥固まって動くのは効率が悪すぎる)
 白銀の絹糸の様な髪を無造作に暗闇に舞わせ、マキナは一足飛びに階段を駆け上った。
 病床数300を超える広大な病院での捜索、しかも推測では隠匿性に優れた敵。
 まとまって行動してたら、どれだけの時間を浪費するか解ったものではない。
 階段ホールに取り付けられた『7F』のパネルを視界の先に捉えると、同時に昂る右腕の焔。
「さっさと出てきなさい。私が――終焉を下してあげます」
 己の身を喰らわせてでも、この腕で。





 どくん、どくん。
 押し潰されそうなほどの圧迫感の中、珠那の心臓は煩わしい程に大きく跳ねる。
「死、ぬ‥‥?」
 乾いた唇が、漸く2文字の言葉を紡いだが、か細い彼女の声は広いカフェに霧散する様に掻き消えた。
 杯を持つ手はじっとりと汗が滲み、まるで固定されたかの様に指一つ動かせない。
『ええ、ええ。その清廉な魂を頂ければ。私共悪魔は魂が糧ですから、極上の魂は私にとって力の源と言ってもいい』
「だめ、だめよ! 珠那、悪魔の言葉なんて聞いちゃだめ!!」
 悲鳴の様に繰り返す沙苗を無視し、何処か歪に感じる笑顔を貼りつけたままオフュークスは告げる。
 貴女にしか、できない事なんですよ――と。

「随分と勝手な理屈なんですね」
 からん。涼しい音をたててカフェの扉が開いた。
 白銀を纏う漆黒と楔石の如く煌めく眼光――マキナ・ベルヴェルク。
 触発はしないようゆっくりと、しかし確かな足取りで窓際に近づいていく。
 およそ4m。一足飛びで手の届くその位置で足を止めると、杯を見つめる珠那に視線を止めた。
「悪魔の契約ほど質の悪い物はありません。大方、この惨状を作ったのもその男でしょうに、貴女は何を迷うのです?」
『これはこれは心外。我々悪魔は契約に対して真摯なのですけどねぇ? ‥‥それに、追い込み囲い込み篭絡する事も約束を反故にする事も、貴方達人間の方が余程お上手にやってのけるでしょう?』
 くすくす、くすくす、笑いながらオフュークスは窓際で踊る。赫う雪の光を受けて、それは幻想的な有様で。
「その様な詭弁――」
 とマキナが声を上げた瞬間だった。

「あたい! 参・上ーーーー!」

 キュゥゥン、と微かなハウリングを乗せて、突如チルルの声が病院中に響いた。
 大部屋から探そうというチルルの案が功を奏し、内部班が放送設備のある3Fナースステーションに辿り着いたらしい。

「そこの悪い奴! 裏とか表とかよくわかんないから電話で説明しなさい! あたいの携帯は090のー‥‥」
 更にチルルからマイクを奪い取るようにフレイヤ。
「こら聞いてるの、このばかちん! 病院は人を助ける場所だっつーの! もうちょっと襲う場所考えなさいよバカー!」

 ぎゃあぎゃあと捲し立てる2人の声に、オフュークスはふと違和感に気づく。
『‥‥おやおや、私がいる事は既にご存知なのですね』
「マキナ君が突入前に知らせてくれたからねえ」
 悪魔の言葉に答えたのは屋上から合流した明。後ろに控えたユーノも、桜紋の槍を構えたままで言を紡いだ。
 はぐれ悪魔として、悪魔と人の諍いに介入する――その事を心に留めながら。
「事情は少しお聞きしました。‥‥珠那様、でしたわね? そんな無粋な悪魔の口車に乗る必要はありませんの」
 魂は、よき器と共に生命として輝いてこそ価値がある。
 そう考える彼女にとってオフュークスの様に魂を狙う悪魔は、魂の輝きを汚す『無粋者』なのだ。
 ――しかし、だが。
 珠那を止めるだけの材料が撃退士達の手にはない事も確かで。
 あるのは、石化治療が失敗した事実と、屋上で声を放つ黒蛇を発見した、という事。それだけだ。
 ユーノはそこで言葉を詰まらせた。
 無言の読み合いが続く中、スピーカーからは由太郎の声。

「はーい、絶望に打ちひしがれてるそこのあなた。心配すんな。なんかよくわからん化け物も、おっさん達がちょちょいと退治すっから石化はすぐに解けますよ。・・・だから負けんな! どんな時でも心まで負けるんじゃねえ!」

 びくん、と珠那の手がこわばった。
 恐らく彼は、聞こえているかも解らないが石化した人達に向けて言葉を放っているのだろう。
 それが、何故だろう。自分に向けられている気が、した。

「悪魔ってのは人を不当に貶めて弱った心に楽な破滅を囁く。毅然とNOと言い放て、後はおっさん達に任せなさい♪」
「そうよ! 悪い奴はあたいがやっつけてやるわ! 顔を洗って待ってなさい!」

 再び沈黙。
 石化の原因は別働隊が既に見つけた、とハッタリをかけるか。と、明は考えを巡らすが、すぐにその案は取り下げた。
 なんかよくわからん、と言ってる時点で既に見つかっていない事を照明している。
 それに別働隊の声は放送で聞こえる。全員同時に話している訳ではないが戦闘と平行しているとも考えにくい。
 看破されるハッタリは、こちらの信用を下げるだけだ。
『取引の放棄? 約束の反故? 野暮ですねぇ『刃』達。それこそ不調法。彼女の魂の価値を貶める行為に他ならない。私は悪魔。ええ、殺すだけならいつでも、いつでも、出来るのですから――ねぇ、お嬢さん?』
 そう言う悪魔の瞳を見て、珠那ははっきりと自覚した。どういう選択をしても、自分の命はない事を。
「そうね‥‥私は、私の心に従うわ。‥‥貴方に賭ける、オフュークス」
 珠那の持つ杯が、少しずつ口元に近づいていく。
 ざわ、とマキナの黒焔が揺れた。
「それでは、貴方が彼女の魂を喰らう結果は揺るがない。その様な理不尽、誰が認められると言う!」
 理不尽を砕く為に理不尽を積み重ねる。それは血で血を洗うが如し、不終の道と知りながら。
「私は、私の求道に従って、理不尽を飲み込む貴女を否定します」

 黒を纏ったマキナの右腕が己の求道と共に――珠那の体を貫いた。



「いやああああああああああああああッッッ!!!」



 静寂のカフェに沙苗の悲鳴が轟き、ユーノが呆気を取られる。
 玻璃に散る夥しい失血。動かない体。高い音を立てて跳ね転がる杯。
 攻撃に便乗し珠那と沙苗を救助しようとした明でさえ、駆け出した足を止め状況を再確認せざるを得なくて。
 まさか、攻撃対象が――珠那であるとは、誰もが思わなかった。
『っく、ふふふ。ははは! これはこれは惨たらしい。レディにお見せするのは忍びない――ほんの少し、お眠りなさい』
 錯乱する沙苗の目に手を翳し、意識を途切れさせる白銀の悪魔。
『理不尽――そうですね。2つ、私は嘘を言いました。彼女の魂がなくとも、人々を快癒させる事は造作もない』
 白磁の杖を頭上に翳したオフュークス。それを警戒してマキナは距離を取った。
 悪魔は再び小さく呟く。パナケイア、と。すると、するりと杖に絡んだ白蛇が頭をもたげ、眸子が紅く煌めいた。瞬間。
 パァン、と何かが弾ける。消散する。音は連鎖し、瞬く間に病院中を包み込んだ。
 カフェで石化していた人達が一目散に廊下へと飛び出し、やがて押し寄せる音の波。
 悲鳴、怒轟、階下から、屋外から。堰を切った様に声が、人が、溢れ返る。
「まさか、病院中‥‥!?」
 足元からビリビリと響く声にユーノは戸惑い、白銀の悪魔を見やる。
 再び鋭い破裂音。魔力弾で硝子を割り砕いた悪魔は、にこりと微笑んだ。

『‥‥これで彼女との約束は果たされました。もう一つの嘘は――私の目的は魂ではなく、この体です』





 オフュークスが2人の人間を連れて7Fカフェの窓から脱出した――。

 その情報はすぐにも階下の仲間達に伝達され、撃退士達は屋上前で集合し、顔を見合わせた。
 カフェでの経緯を共有したところで、由太郎は鉄黒の瞳でマキナをきっと睨んだ。
「おっさんにゃお前さんが何考えてっか解らないが、撃退士は人を殺す為に戦場に出る訳じゃねえだろうがよ!」
「‥‥‥」
「やめなさい! ‥‥今は、争ってる場合じゃ、ないわ‥‥!」
 押し黙るマキナに、今にも殴りかかりそうな由太郎を制止するフレイヤ。
 その顔は今にも泣きそうな、叫びだしそうな悲痛なものだった。
「私だって、誰かを救う為に此処に来たのよ。だから、理由がなんだって彼女の行動を肯定はできないわ。――だけど。ここでモメても、いいことなんて何一つないのだわ」
「そうですね。結界も消えたようですから、避難誘導は龍崎様にお任せするとして‥‥私達は不躾者を排除しませんと」
 撃退士――人に仇なす者どもを撃ち退ける者。
 それこそが存在理由、求められている姿。例えどんな事があろうと、歩みを止めてはいけない。
 久遠ヶ原に入学するに当たって、ユーノはそう教えられた。
「取り敢えず、敵をやっつけてから考えたらいいと思うわ! まだ、何があるかわからないし――」
 ギイイィィ、と劈く声に肩をすくめる。
 扉一枚向こうでは、三ツ首の黒蛇が今か今かと待ち構えているのだ。
「あっちも、あたい達を待ってるみたいね」
 激しい戦闘にそなえて、チルルはウシャンカをぐっとかぶり直す。
「マキナさん、大丈夫ですよね。‥‥信じてます」
 過去数回、マキナと共に戦場を駆けたとしお。彼もまた、被害者を減らしたい思いで再び鳥取の地を踏んだ一人。
 何処か悲しげな戦友の言葉にマキナは申し訳無げに微笑んでから――力強く頷いて屋上の扉を開いた。







 深々、深々。

 冷たい体を尚も冷やして。

 想いも願いも、赫く、黎く、解けた雫が、落ちて広がる。

 一重、二重に、水面に染まり。

 なみだ、おもい、ひかり、おちて。

 墜ちる心は、私か、彼女か。



 扉を開いた先で待っていたのは、偵察の情報通り宙空を自由にうねって這う三ツ首の黒蛇。
「さーて、覚悟はできてるかい、蛇さんよ! なんならお仲間呼んでくれると探す手間が省けて助かるぜ?」
「順番的には今回は蟹のはずなんだが、蛇に存在感持ってかれてるねえ」
 油を塗った様にてらりと光る鬼切を構えるルビィと魔力刃を顕した大杖をの明が、冬の屋上へと飛び出す。
 次いでユーノは黒檀の翼肢をはためかせ、雪の礫を切り裂いて上空へと舞い上がる。
 ぐぐぐ、と黒蛇の右の頭がもちあがる。上空のユーノへと氷刃を吹き付けようとしたが――、
「そうは問屋が降ろさないっつーの!」
 既の所、最後方のフレイヤが放った光の羽根が頭部を狙い撃ち、大きく軌道が外れる。
 しかし、頭は3つ。右首の被弾をうけて、左の首がすかさず金切り声を上げた。だが。小首をかしげるユーノ。
「‥‥? 最初に聞いた時の様な‥‥体が竦む様な感じがあまりしませんの」
 耳が痛いのは間違いないが、長く残る訳ではない。それが結界が消えた為とはついぞ思わなかったわけだが。
「良かった、あの声なんだか気持ち悪かったから僕は助かりました」
 苦笑しながら、としおはアサルトライフルのレバーをスリーバーストへと入れた。
 パララ、パララ、と軽快な音を立てるとしおの射撃を背中で聞きながら、マキナは狼が如く黒炎を滾らせ突進した。
 黒炎の塊、と形容すべきか。彼女の腕から放たれたそれは、黒蛇の胴体に纏わり燃え上がった。
 ――その焔を貫いて、マキナの左肩に氷柱が突き刺さる。3つの頭がニィ、と嗤うように灰簾石の瞳が細まる。
 三位一体、というほど連携するかは定かではないが、少なくとも仲は悪くないらしい。
「お前さん達にゃ用は――なくはないが、おっさんは親玉と話したいんだがねえ」
 ショットガンの引き金を2度引き絞り、由太郎はそう独りごちた。
 彼の放ったアウル弾は前に立つルビィの頭上を通り、黒蛇のあわや喉元を貫こうかという所で掠って掻き消えた。

『――おや、私をご指名ですか?』

 その声は、背後から。
 屋上の入り口部分のその上に、白銀のコートをたなびかせたオフュークスと、そのコートに包まる様に佇む沙苗の姿。
 沙苗のその顔は負の感情を全てないまぜにした様に虚ろで。涙でぐちゃぐちゃで。
 ごくり。息を飲む。
「お前さんがオフュークスかい。俺は綿貫ってぇただのおっさんさ。話は聞いたぜ、この厚顔無恥の腐れ外道」
 由太郎の意識が戦闘から離れた瞬間、蛇の口から刃の吹雪が放たれる。が、運良くルビィの影にいたのが幸い。
 カトエラが襲い来る氷を次々と叩き落とし、背後をがら空けた由太郎には殆ど届く事がなかった。
「おい前見ろ前ッ! 多分あいつは襲っちゃこねぇ、今は蛇が優先だぜ」
『あぁ、あぁ。よく解っていらっしゃる。ええ、私は目的を達した‥‥いえ、それ以上の収穫を得たので、後はゆるりと観戦させて頂きます。今回は私も想定外でしたが、僥倖ですよ赤銀の『刃』。主賓席で観戦できるのですから!』
 上空から、ユーノはちらりと悪魔の姿を視界に捉える。
(――目的を達した‥‥収穫‥‥、想定外?)
 情報を頭の隅に書き込んで、再び槍を取る。
 眼下では矛槍と化した大杖を振るう明とフレイヤが同時に左右の首を攻撃し、敵を自由にさせないよう動いている。
 行動を縛る――上空から縫い止める事はできるだろうか。
「せいっ!」
 急転直下。
 ユーノは正に雷の如く雷桜を突き立て地面へ叩きつけると、近接で叩ける様になったマキナが蛇の頭を掻っ飛ばす。
 ギャアアアと3つの悲鳴がサラウンドで冬の空に響き渡る。首と尾が吹き飛び、びちゃりと音を立てて地面に落ちた。
 雷桜の穂先は確かに蛇の体を貫いたが、大分尾に寄った位置だった為に完全に切断してしまったらしい。
 蛇の黎い血が飛沫いて純白の洋服につき、ユーノは少し顔を顰める。
 と、その直後の事だ。ヒュドラの尾の断面にぶくぶくと泡が張り付き、傷口が塞がりつつあるのがはっきりと見える。
「ち、また再生か。‥‥牛ン時と同じだな」
 正面から一直線、蘇芳色の光砲で巻き込んで舌打ちするルビィ。
 思い出すは無骨な雄牛。ルビィと明が初めて星座の悪魔に関わった時の事。
 比べてみればその治癒能力は牛のそれより遥かに遅いようだったが。
「差し詰め、気分はヘラクレスに難業を与える女神ヘラ‥‥って訳か? オフュークスさんよ」
『いえいえ。私がヘラだなんて、恐れ多い』
「ああ、そうだ。これは個人的な興味なんだが、一つ聞きたい事があってね」
 言ってから思い切り息を吸った明は、口に手を添え炎を噴きだした。
 蟹座神話でヘラクレスと共に戦ったイオラオスがそうした様に、首を刈り落とし炎で焼くのが有効ではないか、と。
 辺りに饐えた匂いが漂う。が、案の定だ。焼け爛れた傷口は再生をやめ、ぐにぐにと蠢くばかり。
 逆にとしおと由太郎が新たにつけた傷には泡が張り付き、明らかな違いが見て取れる。
「ふむ、やはりか。毎回、十二宮に擬えるのは何故かね? こうも続けばこちらが学習する事くらい、解るだろうしねえ」
『勿論――余興は趣向を凝らした方がより美しく、より愉快だからですよ。私の役目は美しく難解なチェス・コンポジションを創る事。ポーンは前進、ビショップは斜めにしか動けない。プレイヤーはそれを知った上で、挑戦するでしょう?』
 白い悪魔の笑顔に、マキナの背を黒く暗い衝動が這い上がる。素晴らしい、と称える明の声は耳に入らなかった。
 この地の戦では、幾度と無く報告された事。これは主メフィストの為のゲームなのだと。
 報告書で知らされていても。耳にすると嫌悪感と憤怒が沸き、唇が半ば勝手に”Fimbulvetr”と破滅の序曲を謳った。
「この様な‥‥この様な悲劇が愉快だと? ――やはり、貴方は赦せない存在だ」
 バチバチと散る黒の火花が弾け、怒りが頂点に達したその時だった。

「――貴女が言わないでよ――」
 マキナの体がびくんと硬直する。
 突き刺さる冷たい言葉。ぼろぼろ大粒の涙を流しながら、沙苗はマキナを睨めつけた。
「珠那はいい子だったわ。そして、人を助ける事に誰より真剣だった。誇りを持っていたわ。自分の命を差し出せる程に」
 沙苗の声は震え、か弱い。それなのに、何より鋭く心を抉る。
 翼の効力が切れる、と感じたユーノは降下しながら槍の柄で黒蛇を地面に押しつぶした。
 同時に吐き出された氷柱矢を右腿に喰らい、床に手を付いたフレイヤだったが、生憎タダでは転ばない。
 そのまま、ユーノが飛び退いたタイミングを見計らって幾多の腕でヒュドラの体を絡めとった。
 今が機と、由太郎は懸命に銃の引き金を絞る。ショットガンの強いリコイルに耐えサイトを覗く間もない程、撃ち込んだ。
 奥歯を噛み締め、蒼の魔女は立ち上がる。沙苗の言葉は腿の傷より数倍痛いが、へこたれている暇など今はない。
「その首、貰ったわ!」
 一人、耳栓をしていたが為に声に惑わされる事のないチルル。
 小さい体を目一杯使って白鉄のフランベルジェを背中から振り下ろし、蛇の右頭を斬り落とす。
 ギュアァァアアァッッ!
 残り一つとなった頭が絶叫する。それに呼応す様に沙苗もまた叫んだ。
「――うそつき。‥‥嘘つき! 嘘つき! 嘘つき!!!!」
 戦場の空気が凍りつく。
 虚ろだった顔が絶望に染まる。歪んだ笑顔。
 白い上着の内側に隠された珠那の死体から溢れる血が、じわりとコートを赫く塗り替えていく。
「やっつける? 任せる? 馬鹿言わないで! そこの女が‥‥撃退士が斬ったのは、人間! 私の大切な友達よ!! だいっきらい、私の友達を奪った撃退士なんて、大嫌い!!」
 泣きじゃくる沙苗は、珠那に頬を寄せて呟いた。
「‥‥ああ、痛いね。痛いよね。珠那が泣いてるの。珠那の涙が止まらないの」
 冷たい体を抱きしめ、ごめんね、ごめんねと呟き続ける沙苗。
 それが珠那の涙ではなく自分の涙とも気づかずに、彼女は涙を流し続けた。





 その狂気は、長く、長く感じた。
 ほんの数秒の間が、まるで数十分の様に。
 しかし、時はまた急激に進みはじめる。
「――小田切さん、危ない!!」
 としおが叫びながら、アサルトライフルをフルバーストする。
 ナースステーションから屋上への間、6Fで一度だけ遭遇できたそれは素早く、目印をつけるだけで精一杯だった。
 いや、逆か。としおの目印さえ付けられれば、あとはいつでも発見できる。
 背後から忍び寄られていた事に気づいたルビィが身を翻‥‥そうとした。が、体が痺れて思うように動かない。
「ちっ――」
 鬼切に纏った無尽光の衝撃波を遠ざかる蟹へと放った。踏ん張る事もできず、ころころと転がる小さな蟹。
 すかさずフレイヤは異界の門を開く。すぐ排除できると思ってたが、ルビィの様子を見るに逃がすと危険な予感がする。
 ちらり、黒蛇の状況を見た瞬間。轟々と立ち上る黒焔の塊が、蟹を圧し貫いた。
 カラカラと崩れ落ちる氷の破片。瞬時に生成した防御壁だったのだろうが、それすらもマキナの右腕は砕き穿く。
「それでも、私は‥‥この右腕と、私の求道を征く――」
 囚われた瀕死の蟹に、既に逃げ場はなかった。

「ったくまぁだ死なないのか。ハードワークは年寄りにさせるもんじゃないよ」
「あら、長生きなら負けませんのよ? 数世紀は優に渡り歩けますから」
 ユーノが黒蛇の胴を払い上げ、中空で漂った所に由太郎の銃から放たれたショットシェルが弾ける。
 とぐろを巻く様に体を捻った黒蛇は、最後の抵抗とばかりに氷刃を撒き散らした。
 凍てる刃がチルルを、由太郎を、キャンサー側にいたマキナに至るまで刻み、穿ち、削いで。
 なんとか横っ飛びで範囲を逃れた明が2つ目の首跡を灼き潰す。
 更に黒蟹キャンサーを葬ったとしおとフレイヤが遠距離から加勢し、ヒュドラに弾幕を浴びせた。
 体勢不利と見たか、体を縛る腕が消えるやいなや、黒蛇は建物の中――つまり7Fの空間へと逃げようとした。が。
「そっちの道は通行止めだ――チェックメイト、ってな」
 ルビィの懐で仄かに光を放つ阻霊符が、それを許さない。
 蛇の頭上で、波刃の大剣が雲間からさした陽光を受けて煌めいた。
「ほんといい加減しぶといのよ! さっさと‥‥、やられなさいよ!」
 力任せに振り回したチルルの大剣によって、最後の首は屋上の柵を越え放物線を描いて落下していった。



「よーし、勝ったわ! 次はあんた‥‥あれ??」

 2匹のディアボロが完全に沈黙し、撃退士達が振り向いた時、オフュークスと沙苗――そして珠那の姿はなかった。





「珠那、珠那、起きて‥‥私を置いていかないで――」

 深々、深々。
 命の砦に舞い降りる雪は、とても優しく温度を奪っていく。

 ゲームの終幕と共に姿を消したオフュークスは、鳥取市内にある洋館のバルコニーに彼女らを連れていた。
 沙苗は珠那の死体に未だ縋って、ぶつぶつと独り言を繰り返す。
『お顔をあげなさい、お嬢さん。ご安心なさい、私は彼女を『目覚めさせる』為に出向いたのですから』
 にっこりと笑顔を浮かべる悪魔は珠那の躰から沙苗を引き離し、代わりに冷たい躰の傍らに膝をついた。
 手には、先程カフェで珠那に渡した、蛇が巻き付いた美しい金飾の杯。
「珠那、帰ってくるの?」
『ええ、すぐにお戻りになりますとも』
 オフュークスは杯に満ちた薬を口に含むと、珠那の体を抱き起こし口移しで流し込んでいく。

『私の力を授けましょう。雪より純白な強慾の聖女、朽ちぬ糸を貴女に――Epione』

 びくん。
 意識が急激に浮上する。引き戻される。暗い闇から、光の元へ。
 温かい光。頬を撫でる肌の感触。‥‥感触が、ある。胸を灼き裂いた傷がない。
「珠那ぁ!!」
「さな、え‥‥?」
 なぜ体が動くのかすらも解らないまま、抱きついて泣きじゃくる友人の顔と、微笑む悪魔の顔を、見た。


『御気分は如何ですか? お嬢さん。‥‥いえ、ヴァニタス『エピオネ』‥‥』



依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 今生に笑福の幸紡ぎ・フレイヤ(ja0715)
 ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
重体: −
面白かった!:10人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
今生に笑福の幸紡ぎ・
フレイヤ(ja0715)

卒業 女 ダアト
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
幻翅の銀雷・
ユーノ(jb3004)

大学部2年163組 女 陰陽師