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マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2012/07/18


みんなの思い出



オープニング

●黄道上のアリア・第5楽章

 いい加減、待ちの戦術は飽きましたしね。
 そろそろ新しい展開も良いスパイスでしょう。ねぇ、我が君?

『美味なるかな、美味なるかな、乙女の血‥‥』
 オフュークスは、激しく燃え盛る5本目の蝋燭の焔を掌で握り、暗闇にその拳を翳す。
 ぐ、と力を込めると、白い砂が零れた。さらさら、さらさら。
『若き娘を奪い、穿ち、啜れ――Taurus』
 拳から流々と落ちる白砂が積り、溢れ、巌となり、それは真っ白な雄牛を生み出した。
 武骨に張り出した角をぶるんと奮うと、雄牛は主の側に寄り添い、頭を撫でる主の掌に目を細める。
 そして主は血のこびりついた携帯電話を取り出し、笑んだ。

『さて、それじゃ宣戦布告と参りましょうか。お借りしますよカプリコーン。‥‥聞こえないでしょうけどね』


●幻燈のバディヌリー

 夕暮れの職員室に突如鳴る電話の呼び出し音。
 慌てて受話器に伸ばした手が、酷く冷たい。
 変な電話なんていつものことだ。なのに、何故胸騒ぎがするのか。

『ごきげんよう。貴方は『人類の刃』、ですか?』
 ざわ、と不快な感覚が身体を取り巻くような感覚。その独特の言い回しに、覚えがあった。あれは、あれは確か。
 ――漸くご到着ですね。人類の刃、撃つ者。
「貴様まさか‥‥オフュークス、か」
『おや? これはこれは、僥倖ですねえ。私めを知っているとは話が早い』
「やれやれ、携帯電話なんてものを持っている悪魔がいるとは、ね‥‥。人界に関わりすぎて感化でもされたかい」
 紫蝶は鼻で笑って見せるが、そんな皮肉と裏腹に受話器を持つ手は、動転し硬く握り締められていた。
 対するオフュークスは余裕、と言うよりは、楽しそうで。
『私のディアボロの私物ですよ、人間として生きていた頃の、ね。貴方達『刃』と話すには便利そうでしたから』
 ぎり、と歯を噛み締める。それがどういう事か、容易に想像できたからだ。
「悪趣味め。そんな事を話すために電話してきた訳ではない、だろう? ‥‥何を考えている」
『ふふ。ええ、少し愉しくて、つい余計な話をしてしまいました。先日、山間部のダムを炎上させた事はご存知で?』
「ああ。やはり、お前が裏か」
『実はもう一つ、駒を動かしました。南にある石灯の美しい、故き者達の褥――。
 いずれの戦いも偽善者は黙して姿を消し、独善者は茨の道を歩くだろう‥‥と、警告を差し上げます。では、また』

「待――‥‥! ち、切られたか」
 紫蝶の持った受話器からは、無機質な終話音だけが流れていた。


リプレイ本文


 夏至が過ぎ、小暑を迎える時節。鳥取市郊外、夜9時。
 天は紺碧薄曇、空気は湿気ってずしりと重い。

「どんな敵かなぁ! んー、楽しみ!」
 そんな雰囲気の中で緋野 慎(ja8541)は顔を綻ばせ無邪気に笑う。
 ダム班を含む全員が呆気を取られる中、慎はまだ見ぬ敵に思いを馳せた。
「山羊、魚、水瓶‥‥ときて、ダムが羊なら、史跡は恐らく――牛」
 暮居 凪(ja0503)は星座盤を思い出し、指折り数えた。『魚』と刃を交えた面々が、頷く。
 ご丁寧に順番通り来てくれるのだ。少なくとも外見の推察は容易い。
 鬼が出るか蛇がでるか。それとも『神様』が出てくるかしら。
「アリエスとタウルス、か。何か関係が‥‥?」
「さぁね。どちらにせよ、油断出来ないのは確実だわ」
 小田切ルビィ(ja0841)の憂慮は、全員が思う所。だが凪の言葉にもまた全員が頷くのだった。

 木々が漣の音を立て、或瀬院 由真(ja1687)の紅緋の房飾りが揺れた。
 風が、進めと促す様に。
「では、参りましょう。お勤めを果たしに」
 由真の声もまた、風に流れた。


 かつん、と刃同士が静かに触れる音が闇夜に響く。

「それじゃ‥‥お互い、無事で」
 武器を軽く重ねてから一呼吸。
 また学園で再開できる事を信じて、撃退士達は背中を向けた――。




●雲上人の冥き褥




天地は須らく我が元に傅かなければならぬ
頭を垂れぬのなら奪えばよい
奪えど属さぬなら壊せばよい
我が物にならぬモノに、興味はない




 ちゃぽん。暗闇に水音が響き、全員が咄嗟に武器を構えた。
 暗紅色の無尽光を纏い、感覚を研ぎ澄ませて周囲を探る紫ノ宮莉音(ja6473)。
「大丈夫、お魚さんやね」
 莉音の言葉に柊 夜鈴(ja1014)の頬を、汗が伝う。
 有益な情報は全く無い。唯一の確定情報は、敵が強大である事‥‥そんな中で、手探りの行軍。
 その緊張感は、想像に難くない。

 ルビィは印刷した地図を広げ、懐中電灯で照らしながら位置を把握する。
「その池が、これか。『経堂跡』は‥‥」
「山門を超えて左前方か。――ふむ、大分近い様だ」
 隣から地図を覗き込んだ鷺谷 明(ja0776)は前方の門に灯りを向ける。経堂跡まで、後100mもあるまい。
 一方で、久遠 栄(ja2400)は辺り一面が敵の様な感覚に溜息をついた。
「史跡の保護、か。敵さんの攻撃までは責任持てないよなー‥‥」
『まぁ可能な限り、だな。皆の命には代えられんさ』
 栄のヘッドセットを通して話を聞いていた紫蝶が、申し訳なく付け加えた。
 彼女とて撃退士の端くれ。損壊なく戦う事の難しさは十分承知している。
「もう行こうよ! 偵察がまだって事は、俺達が一番乗りかな? へへ、楽しみだなー!」
 立ち話に飽きた慎は、一人楽しそうに笑った。

 その無邪気さと好奇心が仇となる事は、まだ知らない。



●浅策の代償

 雄牛と会敵してまもなく明は、純白の体躯で唯一、無骨な剛角が仄赤い光を帯びている事を指摘する。
「羊の角が魔力を持つなら、牛もまた然り‥‥だが」
 ルビィは言葉を切った。言うは易く行うは難し。大人しく折られてくれるとは思えない。
「仕掛けはなくとも、あの角の突撃は余り歓迎したくありませんね」
 ディバインランスを握り、由真も白牛を睨んだ。
 だが慎重に構えるメンバーとは裏腹に、慎は事も無げに言い放つ。
「うん、危ない物は先に壊しとかないとね!」
 そして、瞳を輝かせて走りだした慎は雄牛を奥へ誘い出す。阻霊符の準備も抜かりない。
「慎君待つんだ!!」
 咄嗟に夜鈴が声を上げるが、既に臨戦態勢の雄牛は、巌の前の慎に向かって豪速で走りだした。
 鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
「突き刺さっちゃえ!」
 小さな体が、跳ねる。牛の鼻面を足場に、その白く大きな背を目掛けて、羽の様に軽い身のこなしで。
 途端、衝撃。轟音に地面が揺れ、ぐるりを囲む山林から鳥達が一斉に羽ばたいた。

「あー‥‥派手に突っ込んだね、何かは解らないけど。‥‥先生、胃薬は準備してる?」
「ほら、これで折れるよー!」
 引きつる栄の声。反して嬉しそうな慎の声。
 しかし。かの牛の属するは土の宮。易々と地に捕われる訳にはいかない。
 穿った巌に亀裂が走り、再び轟音。巌が崩れ自由になった雄牛は、その背の異物に気付き激昂した。
 振り落とそうと暴れる巨体、全身でしがみつく慎。
「弓じゃ慎君に当たってしまう‥‥!」
「地縛霊でもあれは捉えきれん」
 仲間達は、ただ見守る事しか出来なくて。
「チャンスを、待とう‥‥」
 闘気を燻らせ堪える夜鈴の呟きを耳にしつつ、一同は攻防を目で追った。



●知と謀は百と出でて

 やがて拮抗の終焉が訪れる。
 慎は右方へ振り飛ばされ、全身を樹に打ち据えた。背中が熱い。息が逆流する。
 そして。タウルスが少年に狙いを――。
「待ちなさい、成り損ない! 私が相手をしましょう」
 すかさず凪が叫ぶ。それは言霊であり、命令。抗い難い強制力。
 そして彼女はちらりと莉音の顔を見る。その意図を読み、莉音は急いで術式を起動した。
 他方では、樹に凭れたまま動かない慎の元へ急行する夜鈴と由真。
「だから待てって言っただろう!」
「一先ず、お守りします‥‥っ」
 甲高い音。2人の眼前で、赤い光を纏った雄牛の角と凪の盾が迫り合った。
 莉音の編んだ薄紫色の光鎧が瞬いて火花を散らし、細い腕が震える。
「ふふ‥‥突進しか、しない、お馬鹿さん――もっと、確り‥‥っ、狙ってきなさい!」
 凪は言葉にアウルを乗せ、尚も気丈に挑発してみせた。壁となるのが自分の役目なればこそ。
 汗が滲む。雄牛の攻撃が重い。腕が痺れ、盾は弾き飛ばされそうな程。
「角を叩く! 暮居、離れろ!」
 左方でルビィが大剣を翳した途端、全身の紅い紋様を辿り、右腕に光が集まって――。
 同じルインズブレイドだ。それが何の前兆か悟った凪は、急いで距離をとった。
 ――チマチマ様子を見るより、全力でぶち込んでみる方が簡単だろ?
「吹‥‥っ飛べえぇええ――ッ!!」
 漆黒の光線砲が、雄牛の頭を飲み込み、貫く。
 悲鳴。太く引きつった声を上げる白牛。手応えは上々。白い頭部に黒い焦げが浮かんでいた。
 怒り狂って凪へ突進するその鼻先を、鋭く掠める丹色の光矢。そして頭部を包み込む紫紺の焔。轟炎。
「全部打ち抜いてやるっ、安心して戦えっ!」
「どうかね、焔と靄の二弾仕込みだ。よく味わいたまえ」
 正確な栄の射と隙を逃さない明の焔に、千鳥足の雄牛。
 勢いの死んだ突進を流す事など、先の睨み合いに比べれば造作もない。
 仲間のなんと頼もしい事か。皆の力があるから、盾となれる。凪は心新たにランスを握りしめた。


 慎を回復しながら、莉音は白金の牛を見やった。美しく真白に輝く姿。‥‥綺麗すぎる。
「傷‥‥薄なってない?」
 それは、自分の回復術と同じ。しかし勝手に癒える様子は、むしろ。
「リジェネレーション‥‥っ!?」
「自動再生かね、厄介な」
 由真と明が同時に声をあげ、眉根を寄せた。特に由真は自身のそれより数段強力な再生能力を目の当たりにし、
 歯痒い思いに奥歯を噛む。しかし、心折れぬ者もいる。防戦に徹していた凪が、攻勢へと転じた。
「でも、完治はしない‥‥それなら削りきるまでよ!」
 そうだ。瞬時に回復するのでないなら、押しきればいい。
 凪のランスが横払いに胴体に襲うと同時に、栄の朱弓が撓って雄牛の足の付根に突き刺さる。
 暴れる。暴れる。三度突進を仕掛ける白牛を、今度は明の呼び声に応じた不浄の霊が絡めとった。
 地底へ招く様に足を引く地縛霊から逃れようと、牛が藻掻き足掻く。
「足が速い者は枷に繋ぐ‥‥まあ常識か」
「その隙、狙わせて貰います!」
 機動力が完全に死んだ今や、巨体はただの標的となる。
 鋭く突く由真の槍が胴体を抉り、黎い体液が地面を濡らす。更に。
「黒炎、――閃ッ!」
 爆発。練熟した夜鈴の闘気が、黒炎と共に爆発する。頭部を襲う衝撃に牛が吼えた。
 今や溢れる程の赤光を放ち、警告する様に明滅する剛角。
「これで終いだ‥‥!」
 きっと、折れる。ルビィは再び剣を振り上げ、力を凝縮し始める。封砲。その一撃で角を吹き飛ばす為に。

『本当に折るのですか、『刃』よ』

「この声が、オフュークスか‥‥?」
 淀んだ空から。昏い木々の隙間から。或いは死者の眠る地の底から。
 栄の呟きを聞いた紫蝶が「そうだ」と一言、答える。
『ふふ‥‥いい事を教えましょうか? 紅い『刃』よ、それを振り下ろす前にどうぞお考えなさい。
 タウルスの角を壊せば貴方は遠くの仲間を助けます。その代わり、近くの仲間は――死ぬかも知れませんね』
 2つの戦場、2つの駒。その意味、その罠。
 一瞬の迷い。ルビィが刃を曇らせた隙に、憤怒の雄牛は凪の肩口を穿った。
「暮居っ!」
 油断した――。凪の顔が苦悶の色に染まり、具現化しきれなかった盾と光鎧が粒となって消える。
『ああ、お嬢さん。素敵な表情ですね。さぁ、迷えば誰も助からないですよ。
 偽善者は黙して姿を消し、独善者は茨の道を歩くだろう――さぁ、貴方の答えは?』

 沸いては消える声に翻弄される心。偽善と独善。悪魔が善を問う皮肉。
 連絡役として――栄は問わずに居られなかった。彼らは、無事かと。
「先生、ダム班は――」
『‥‥極めて劣勢、だ』
 由真が、夜鈴が、莉音が、明が。目を合わせ、頷く。
 そしてルビィは剣を握る力を更に強め、吼えた。刃の曇りは、もうない。
「これが、俺達の答えだぜ‥‥オフュークス!」
 赤い角は、漆黒に飲まれた。



●須臾の旅



天地は須らく我が元に傅かなければならぬ
我は平和の守護者なれば
女神も 娘も その対価
拒むのなれば 天地が罰せん



『ブオォォオッ!』
 低い啼き声を上げるタウルス。それは苦痛か、開放の歓喜か。
 全身から翡翠色の魔気を放つ白牛は、周囲の土塊や礫を頭部と尾に纏わせ武器とした。
「ここからが、本番の様ね」
「角はなくとも土石が味方とはな」
「本当に厄介ですね。こう、史跡を壊してはいけないというのが‥‥っ」
「‥‥先生、しっかり記録しといてよ。俺達が敗けても、役に立つ様にさ」
「莉音兄ちゃんありがと! もう大丈夫だよ!」
「皆、気ぃつけて‥‥ううん、違う。今度こそ――僕が護る」
「生憎、人の死を楽しむ程道化ではないのでな。‥‥死ぬ事は許さんよ。ダム班も私達も、全員だ」
「――それじゃあ、行きますか」

 先手を打ったのは明。再び靄を纏った紫焔を放つが、臀部を掠めるのみに終わる。
 次いで栄の援護射撃を受けながら由真が胴部を劈き、タウルスの背後から慎の飛燕翔扇が飛び回った。
 獣が呻いて黎い血が垂れる。大丈夫、刃は通る。でもそれなら。
「外見が変わるだけなんて甘い罠な訳ないよな‥‥」
 悪魔は言ったはずだ、折れば近くの仲間が危険だと。
 凪に代わって由真が攻撃を止め、栄や明、慎が撹乱し、ルビィと夜鈴が火力となる。バックアップに莉音もいる。
 栄は崩れる要素を感じなかった。皆が、居れば。

 ――オンッ

 白牛が消えた。誰もが、『消えた』という事実以外を知覚できなかった。
 そして、もう1つ消えたもの。
「‥‥凪、さん?」
 莉音の心と同調する様に、癒しの光が戸惑い揺らぐ。赤い髪の少女の姿が、ない。

 さわり。風が吹いた。
 微かに聞こえたのは、悲痛な声だった。



「う、あああぁ‥‥ッ!」
 何が、起こった――?
 ヒールを貰う為に後列へ下がり、栄の呟きを聞いた。そして‥‥一瞬の闇を見た。
 次に見た物は、牛の尾が自分に迫る光景。
 暗い。ここは、何処だ。奴は何処だ?肩が痛い。左肩。抉れた傷が、熱い。視界が暈ける。
 ああ、石灯籠の道が、なんて綺麗。あの人にも、見せてあげたい――。
「呆けてる場合じゃないわね。携帯携帯‥‥柊君、聞こえる?」
『暮居さん、大丈夫か!?』
 電話越しに遠く聞こえる、由真の裂帛の声。醜い鳴き声。爆発音、破砕音。成程、奴は戻った訳だ。
「ええ、すぐ戻るわ。私はいいから、その駄牛を!」
 急がなきゃ――。彼女は肩の傷を押さえ、灯籠の道へ姿を消した。



 経堂跡に戻った雄牛を迎えたのは、明の繰る地縛霊。
「仕込みの時間をくれるとは、親切痛み入るよ」
「動かない牛はただの的‥‥ってね!」
 栄の両手のアウルは凝縮し、丹色から蜂蜜色に、終には白磁となり矢を模る。
 煌めく星屑の矢が次々と白牛に降る。黎い血。如何に外見を誤魔化そうと、所詮は悪魔の僕。
 聖なる晶矢は、黎を滅す。体勢を崩す巨体を更にルビィと夜鈴が側面から胴を裂いた。
「しつこいなー!」
 慎は戦場を飛び回り扇を放つが尾に払われ、返す動きで慎へと迫る。
 直撃――。慎は固く目を瞑ったが、閉じた視界は何故か、白。
「‥‥っそう簡単に、やらせはしません!」
 純白の翼。慎の背に顕れたそれが少年を包み、被弾部分から水仙の花弁が散った。
 ――大丈夫。私が引き受けますから。
 流れを掴んだ撃退士達の連撃は尚も続く。由真が肢を払った所に、莉音の魔焔が着弾する、刹那。
 唯一自由に動く尾を振り、地を揺らす白牛。砂が舞い登り、巨体が見えぬ程に濃い砂煙となった。
「砂の、護り‥‥」
「だが、貫通している所を見ると魔法は有効そうだな。それに‥‥回復、弱まってないかね」
 胴の彼方此方についた焼け跡。派手な砂壁も見た目程の抵抗力はないという事。
 冷静で的確。今や明の洞察力そのものが無二の戦力となっていた。



●真実の閃

 復帰した凪を癒し、莉音と明の魔法攻撃を軸に万全の体制で白牛を責める撃退士達。
 再び星屑の矢を撃ち放つ栄と、魔法が有効と知り魔燕を駆る慎。
「――開封。光に呑まれなさい」
「さっさとくたばりな‥‥っ!」
 光を纏った槍と黒焔が宵闇を燃やす。渦巻く白と黒の闘気は硬く覆われた頭部の礫も弾き飛ばす程に激しい。
 憤怒に猛った雄牛が渇望したもの、贄となる娘。今や爛々と光る尖晶石の瞳が、少女を捉える。


 ルビィは仮説を立てていた。
 この『タウルス』が牡牛座の神話――神の王ゼウスがエウロペを連れ去る神話に擬えていたら。
 好色の王が狙うのは女だ。
 そして、まだ王に招かれていないのは‥‥。


「猪突猛進じゃ女は落ちないぜ? エロ牛さんよ‥‥!」
 それは奇跡。
 目で捉える事すら出来なかった『それ』を、先んじて由真を庇う事で、彼は阻んで見せたのだから。
 疾い程に、重い程に、エネルギーは大きくなる。ルビィはただ、剣を突き出すだけで十分だった。
 畜生。何て衝撃だ。掌が痛い。でも、いいか。
『オォォォ!』
 どうやら『いい所』に入った様だしな。
「hora de verdad――これがお前の『真実の瞬間』だ」
 頸動脈を貫いたクレイモアを、引きぬいた。
 辺り一面にぶち撒けられる黎い血。滝の様に、噴水の様に。白い体を黎く塗り替える。

 黒く、黎く、くろく、くろく‥‥‥‥。



 暗転―――。




●一件落着

 後日。

 撃退士達『は』、大事なく帰投した――。
「ええっと、その‥‥ごめんなさい!!」
 報告早々に頭を下げた慎に、面食らう紫蝶。どうやら素直に謝るよう周囲に説得されたらしい。
 慎を止められなかったせいか、一様にバツの悪そうな表情をしている。
「ああ‥‥久遠が胃薬用意しておいて、と言っていたやつか? 大丈夫、経堂跡には壊してまずい史跡はないさ」
 高らかに音を立てて息を吐き出す一同に、紫蝶は笑顔を向けた。
 これで、古き者達も安らかに眠れるだろう事を信じて。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 紫水晶に魅入り魅入られし・鷺谷 明(ja0776)
 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 夜の帳をほどく先・紫ノ宮莉音(ja6473)
重体: −
面白かった!:11人

Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
幻の星と花に舞う・
柊 夜鈴(ja1014)

大学部5年270組 男 阿修羅
揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
心眼の射手・
久遠 栄(ja2400)

大学部7年71組 男 インフィルトレイター
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍