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マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/04/24


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。オープニングは架空のものであり、
  ゲームの世界観に一切影響を与えません。


●― 縦笛男とパレード ―



 そのパレードは運命の糸に導かれやってくる――。




●― 学園パレードへようこそ ―

 久遠ヶ原学園、屋上のはるか上空、より高き空中庭園。
 吹きすさぶ風に乗って、軽快な縦笛の音と高らかな笑い声がする。

「絶望――愛欲――憎悪――偽善――」

 屋上に仁王立ちになった男は縦笛から唇を離し、口を開いた。
 襤褸のマントをなびかせて大仰に頭を振るその姿は、誰が見ても胡散臭いという表現が似合いだろう。褒め言葉で。
 緑色の仮面をつけたその顔は窺い知る事はできず、ニヤリと大きく歪む口だけがやけに印象的だ。

「クク、諸君!! ここには私達が探し求める『イド』が山ほどありそうだねェ!」

 ――諸君。
 つまり、彼は一人ではない。
 彼の左右の手の先には紫と藍の少女が控え、その背後には長い黒髪に黒尽くめの巨大な影。
 その右手に結ばれた赤い紐には、機械じみた声でけたたましく嗤う、黒猫の人形。
 異質を寄せ集めたように、一所に揺蕩う『闇』達。

「見てヴェロニカ。焔が――ヒトの焔がいっぱい」
「満たされぬ誓い、滅びの運命、心地良い復讐‥‥色んな色があるわね、プリムラ」

 遥か上空から見下ろすグラウンドは、米粒程のヒトで溢れかえっていた。
 女郎花色の髪をなびかせ、少女達がヒト達が内に秘める闇――彼女達は『焔』というが――を眺めている。

『キャハハハ、正義なんてくっだらなぁい! 皆、みーんな本性吐き出しちゃえばいいのよ! ね、ニュクス?』
「ああ、ルフィール。君の言う通りだ。闇なんて、誰も知らない振りをしながら、誰もが抱えているものさ」

 影と人形が嗤いあう。
 誰もが持っている心の闇。それが彼らの糧であり目的。


「パレードを始めようかゲヘナ。『厨二病』という心の闇を集める、盛大な祭を‥‥」






 彼らもまた『闇』に囚われた重度の患者とも知らずに、『闇』を求めてパレードの幕が開ける――。




リプレイ本文

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 架空の設定、盛りすぎた設定によるキャラ崩壊にお気をつけください。
 またリプレイは架空のものであり、ゲームの世界観及びキャラ設定にに一切悪影響を与えません。




●とある裏庭

 それは、陽春のとある日。

 広大な久遠ヶ原学園のとある庭に、巨大なアフロが植わっている。
 それも1つではない。2つ、3つ、4つ‥‥‥――数えるのが呆れる程、彼方此方に。

 誰かが堀り返した後にかぶせていったようだ――。





●幻想叙事戦記 表紙



 そのパレードは、地平線を超えてやってくる――。



●幻想叙事戦記 序章

 高らかな笛の音が辺りを包む。
 それは陽気で妖気。朗らかで崩らか。驚喜と狂気に彩られた、幻想の祝宴《Festa》。
 ゲヘナは唇から縦笛を離し、赤黒い襤褸のマントを翻す。

「ごきげんよう、『主人』に可哀相な運命を授けられた『焔』達。――学園パレードへようこそ!」


●幻想叙事戦記 第一巻 816ページ

 枯れぬ生に執着するもの――。

 笛の音に惹かれ、真っ先に列に加わった青木 凛子(ja5657)が笛の音に合わせ歌う。
 蒼い薔薇の刺繍が施された、綺羅綺羅しく豪奢なドレスに身を包み、やがて耳をつんざく高笑い。
 側に控えるのは、胸に薔薇の紋章を抱く黒い装飾鎧に身を包む騎士。名を梅ヶ枝 寿(ja2303)という。
「ほーっほっほっほ! 妾は永遠に若く美しい――そう、赤き血に酔い永遠に枯れぬ冬薔薇!」
 そして彼女のそれを支えるのが牢番として少年たちを管理する寿。
 巡り来る春《とき》を否定し――永遠の冬《とき》に閉ざされる事を望んだ彼は『大いなる冬』に付き従う道を選んだ。
 彼の緋い雷槍は一度閃けば、瞬く間に空を貫き、陛下――冬薔薇の望む『生』を決して逃がさない。
「冬は誰も逃がさない。此処でお前らを終わらせてやろう―――」
 彼女の掲げるグラスには、紅く赫く仄甘い葡萄酒が満たされている。
 13人の少年のエキスを啜り、閉ざされた時間に咲き続ける美の権化。
「さぁ、鏡よ鏡よ梅鏡。‥‥此の世界で一番美しいのは誰か答えてみよ」
「それは陛下‥‥でしたが、そうですね、私はあの娘のほうが好みかと」
 本音とは罪なものである。
「きぃぃぃ――捕らえておしまい!」
 永遠の美に執着するが故に。彼女の悪意は若く美しい娘に向けられるのだ。
 寿はまたか、と内心思いながら壊れた妹《Marionette》を巧みに操り、娘達を捉えていく。
 まぁある意味、自分の好みの娘を捕らえられるのだから役得ではあるのだが――囚人と牢番の恋など幻想。
 それでもリア充の夢を捨て切れない寿は、問われる度に冬薔薇の期待を裏切り続けるのだった。


 そんな2人にゲヘナが歌う。
「進まぬ時を望む花よ、我らは時間という檻から解き放たれた。
 さぁ、学園パレードは君達を歓迎しよう!」


●幻想叙事戦記 第八巻 216ページ

 尽きぬ憎しみに執着するもの――。

 闇を映し込んだ黒いドレスを翻し、仮面の魔女が踊る。
 その舞いに魅了される群集を一瞥し、エリス・K・マクミラン(ja0016)顔を歪ませた。
「‥‥気楽な物ですね。何も知れない人間達と言う物は」
 恐れ。それは人間の‥‥いや、動物の根幹に這いずる純粋な感情。
 『違う』という事は、人には耐え難い恐怖。それはやがて殻を破り、『拒絶』が生まれるだろう
「生まれながらに授けられた魔力《ちから》を悪しきものと疎まれ続けた」
 時に酷く凶悪な刃と化すそれに心を抉られたのは彼女だけではない。
 信じていた。誰が虐げようと、血を分けた家族だけは決して裏切らないと。なのに。
 ――断片的な記憶、断罪的な劫火。
「望まれて訪れた『朝』――されど、それは決して続かない。いつかは昏い『夜』が訪れる」
 暮居 凪(ja0503)は暗い目に絶望の焔を燃やし、頭を振る。
 汚らわしい――可愛い娘――取り憑かれたのか――気持ち悪い。
 悍ましい――悪魔の契り――災いの力――。
「私が悪魔なんじゃない‥‥悪魔とは家族《あいつら》の事だ!!」
 抜け落ちた記憶。
 掻き消えた焔《いのち》。
 戻らない時間。
 戻らない焔《ひかり》。
 唯一私を認めてくれた焔。私を理解してくれた焔。
 私を庇ったせいで、親友がどれだけ傷ついた事か。――でも、彼女は優しいから、それをも赦すだろう。
「だから復讐するのよ――この憎しみは、神にさえも、許させる事はないわ」


 そんな2人にゲヘナが歌う。
「謂れのない誹謗に心を歪ませた真珠よ、我らは常識という海から解き放たれた。
 さぁ、楽園《Elysion》は君達を歓迎しよう!」


●幻想叙事戦記 第九巻 468ページ

 届かぬ浪漫に執着するもの――。

「闇夜を貫く白い閃光!怪盗ダークフーキーン見参!」
 紫黒の外套を派手に風に踊らせ、イアン・J・アルビス(ja0084)が笑う。
 随分白昼堂々と現れる怪盗という指摘は、既に彼にとっては無粋なものなのだろう。
「俺の求める宝石《Roman》は――手にすべきものはどこだ!」
 風紀委員としての堅牢な倫理の壁は、仮面《Persona》をかぶれば容易に崩れる。
 怪盗としての誇り――決して過激な方法を取るのは美しくない、と考えるイアンであったが
 闇を増長する魔性の笛の音に、傾き続ける理性の天秤がそっと囁く。
 ――問うべきでは手段ではない、結果が全てではないか。と。
 失敗すれば処刑、命がけの仕事。
 手にすれば自由、命を賭した夢。
 招かれざる怪盗が解き放つ宝石《Roman》は、何色の焔か。


 そんな彼にゲヘナが歌う。
「仮面という奇跡に魅入られた輝石よ。我らは倫理という壁から解き放たれた。
 さぁ、楽園《Abyss》への扉は目の前にある――」



●地平線の遥か上

「ふぅん‥‥えらく個性的な面々が顔を揃えたものだね」
 ぽつり。桐原 雅(ja1822)は見下ろしながらそう呟き、にやと笑う。
 その傍らで腕を組み、柘榴石の瞳を細めた鬼無里 鴉鳥(ja7179)。
「うむ。しかし中々面白い趣味をしているなぁ‥‥」
 パレードは今や地平線を埋め尽くさんと、長大な規模となっている。
 それだけ絶望と怨嗟に――もしくは欲望と嫉妬が心に燻る者が多いということだろう。
「閉じた檻――閉じた海――閉じた壁――。
 それらを逃れても、残念ながら、その外にある別の閉じた世界に囚われるだけ」
 宙空に指を滑らせ、四角の『入れ子』を描いていく鴉鳥。
 時間から逃れれば永遠の無聊に囚われる。
 誹謗から逃れれば永遠の孤独に囚われる。
 倫理から逃れれば永遠の危難に囚われる。
「それが真理。それが予定調和‥‥。さて、彼らはどういう運命に絡み取られるのか、楽しみなんだよ」
 2人は顔を見合わせた。
 お互い『傍観者』であり『観客』。すべての焔をの輝きを、余す所なく楽しむとしよう。
「では、そろそろ時を動かすとしよう」

 ‥‥さぁ、開幕のベルを鳴らそうか――



●幻想叙事戦記 第九巻 527ページ

 暗く、昏く、冥く‥‥。
 ありとあらゆる黒を混ぜて撹拌したかのような、闇。
 誰にも等しく永遠の静寂を約束する、最後の楽園《Elysion》。
 そこは、楽園であり冥府の入り口。一切の迷いを捨てさる、広大な井戸の底――。
 井戸の底だというのに水はなく、ぽっかりと開いた空洞には物々しい門扉が構えられている。
 そして――扉の前には黒い人影があった。
「ようこそ、己の魔性に逆らえぬ、運命に導かれた『闇』達よ。私はニュクス。全ての死を司り、全ての生を見送る者。
 此処より、全ては厨二病《こころ》の強さが試される楽園《Elysion》」
 3mはあるだろうか、細長く黒い影――どうやら人型のようだ――がパレードの列を歓迎していた。
 傍らには双子の少女が仕え、2人はすっと手を伸ばす。
 まるで人形のように愛らしい外見とはまるで反対に、表情のない瞳は酷く虚ろげだった。
「全ては闇から生まれ」
「全ては闇に眠る」
「「ハジマリと終焉の『境界《Horizon》』へようこそ」」

 広い洞窟の中にニュクスの声が静かに広がる。
「さぁ、全ての制約から解き放たれ世界を『闇』に――復讐と欲望と殺戮で世界を殺メ尽くそう」


 ――ちょっと待ったあああぁぁあ!!

 ニュクスの声をかき消すように、千葉 真一(ja0070)の声が響き渡った。
 怪しいパレードを見つけた真一は、参加者の振りをして動向を伺っていたのだ。
「何かよく解んないけど‥‥とりあえず世界がピンチだって事は判ったぜ!」
 一人が目を覚ませば、それは連鎖していく。
 ゲヘナの縦笛の音から開放され、次々と目を覚ます生徒達。
 ――いや、これが彼の厨二力《ちから》であり、英雄力《ちから》なのかもしれない。
 真一は飛び上がり一段高い岩へ降り立つと、ビシィとニュクスを指さした。
「闇に心を支配され妄想で世に仇為すもの。人それを厨二病患者と言う! お前達の思うどおりになどさせはしない!!
 変‥‥身ッ! 天・拳・絶・闘、ゴウライガっ!!」
 光。そして激しい烈風が渦を巻く。
 真一――もとい、ゴウライガの眩い一撃を阻んだのは、珠真 緑(ja2428)の分厚い『預言書』だった。
「ふふ‥‥残念ね。貴方の攻撃が防がれる事も‥‥この『預言書』に記されているわ」
 病んだ笑みを浮かべ、ゴウライガの拳を弾き返す緑。
 彼女に恐れなどない。運命は全て彼女の手の中――『預言書』が導いていくのだから。
「ねぇ? 生きてるのって‥‥楽しい?」
 オワリは何処にでも訪れる。生を望めば、同時に死は与えられる。
 全て女神《Dice》が導く世界で‥‥女神《Dice》が望めば、消し飛ぶような命で‥‥。
「ほら、諦めなさい――人が女神に抗う事なんてできないのだから!」
「違うッ!! 定められた運命なんて――罪なき人々を拐かして、罪に惑わす運命なんて、俺は認めない!」

 加熱する厨二病《ちから》の鍔迫り合いは周囲を感化していく。

 戦の温度は心を昂らせ、一層燃え上がっていく生命の焔。
 燃える、燃える――綺麗な、花。
「運命‥‥あの悲しみを運命で片付けられてたまるか!」
 巡る走馬灯を振り払うように星杜 焔(ja5378)が気勢を剥き出し、緑に飛びかかった。
 黒い欲望のままに、白い狂気のままに。襲い来る異形の者たち。
 あの日砕けた、脆くて儚い小さな宝石。守れなかった、手からすり抜けた、小さな焔。
「沢山の焔が消えるのを見た! 焔と引換に焔《おれ》だけが遺された――!」
 全身は虹色の光が揺蕩い、涙は流れる前に蒸発していく。
 運命に踊らされ、不遇の道を歩いた少年は――剣《ちから》を取った。
「負の唱導となった焔共よ――この焔が全て闇に還してやろう!」
 左手には紫丁香花《Lilac》を、右手には誓いを。ゴウライガに加勢し、緑の『預言書』に襲いかかる焔。

 だが、目覚めるのは生のエネルギーだけではない。
 横からエネルギー弾をぶつけ焔の銃弾を止めたのは水無瀬 詩桜(ja0552)。
 最初は正気を保っていた彼女は、潜伏(のつもり)で黒いローブに黒い目出しの三角頭巾という格好だ。胡散臭い。
 しかし、緑の予言論に心がざわめく。
 井戸の底でイドの底に眠るイドを、揺り動かされた。
「撃退士よ、私は悲しい……。君達ならばイドの真理が理解できると思ったのだがね!」
 詩桜は黒い厨二力《ちから》の気弾を焔に打ち放ち、焔はひらりとバク転で踊るように回避する。
 ニンゲンの根源は恨み、憎しみ、嫉妬、そしてありとあらゆる欲。
 それらを開放するだけの話――なぁんだ、何も悪いコトなんてないじゃない。
「彼ら《ダークサイド》こそが――私達を苦悩から救済する『箱舟《Arc》』なのだよ!!」
 がばっと大きく広げた腕を暗い井戸の天上に向け、詩桜は叫ぶ。
 その瞳は、既に常軌を逸し、恍惚としていた。


 どこからともなく舞い降り、ゲヘナの肩に腰を下ろしたルフィール。
 『ハジマリの境界《Horizon》』に響き渡る詩桜の声に、高らかな笑い声をあげた。
『そうそう、ニンゲンなんてどんなに取り繕ったって根底は醜くて汚いものね。気持ち悪いわぁ!
 そう、女神への復讐は始まったばかり‥‥どんどん戦い合うのよ! キャハハハッ!』



●幻想叙事戦記 第九巻 883ページ

 それは可愛らしい復讐。
「さあ、復讐劇の始まりよ!」
 彼女が妙にハイテクな水鉄砲を取り出し辺り構わず撃ち撒くと、暗い洞窟に、ぱぁと星屑の様に水滴が舞い散った。
「‥‥ん、やけに鼻がスースーする‥‥」
 異変にいち早く気づいたのは若杉 英斗(ja4230)。しかしてそれもそのはず。
 彼女が撒いているのは『アイヌの涙』という超清涼入浴剤入りの水。
 霧咲 日陽(ja6723)の復讐の相手は、それらを開発した人間そのもの――人間の罪への復讐だというのだ。
 ある意味一番大規模な復讐だけど――よほど薄荷とミントが嫌いだったんだね‥‥。
「なんだ‥‥? 随分寒いな。――ペロ‥‥こ、これはアイヌの涙!? これは‥‥まさか、彼女が!」
 やたら冷える感覚に嫌な予感がした。降り注ぐアイヌの涙を回避しながら、走る英斗。
 彼女じゃないことを祈りたい、だが、アイヌの涙は一般には入手困難な、風呂通御用達入浴剤‥‥。
(くっ‥‥どうしたっていうんだ! お風呂大好きな君がどうして――)
 爆心地に着くと、予想通り日陽が犯人で。何かに取り憑かれた様に、高らかに笑いながら水をまき散らしていた。
 半狂乱で水鉄砲を撃つ彼女を、英斗が止めにかかる。
「スースーしたかったのがニンゲンの罪なら、アイヌの涙で惨めに踊れ! あーっはっはっは!」
「霧咲!やめるんdぶふっ」
 真正面から直撃でした。あ、半端なくスースーする。
 というか、底冷えみたいな、水風呂みたいな。
 しかし‥‥間近で壁になったせいか、どうやら日陽自身もアイヌの涙を被ったようだ‥‥。
「‥‥っくしゅんっ。 あはは! 英斗さん‥‥お揃いね、私達!」
 懲りてなかった。もう、君は俺の知っている霧崎じゃないんだな――。
 つぅっと英斗の頬に赤い涙が伝う。これを明かさない日がこんなに早くくるなんて。
「俺は君に話さなければならない事がある‥‥俺、実は大アンドロメダ星雲から茨城県を救いに来た宇宙人なんだ!」
「な、なんだってー!? ‥‥で合ってました?」
 悪堕ちしてもなお律儀な娘である。
「入浴好きの茨城県民の皆さん、俺に力を‥‥ッ! お風呂、ポカポカー!!」
 カッ!
 何故かわからないが英斗から暖かいオーラが発散されている、気がする!!
 これが風呂パワー、これが大アンドロメダパワー!
「い、いやっ‥‥温めないで! 英斗さん、何故なのよーーっ!! よー‥‥ょー‥」
 斯くして、彼女の復讐は幕を閉じた――。


 ――― 目 覚 め よ ―――

 イドが膨れ上がり、解き放たれる。
 それは正義なのか、悪なのか。それともそのどちらをも超越した力の権化。
「ウ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!!!」
 大地を揺るがすその声は、哮り、逆巻き、井戸の外までも響くかというほど。
 雄叫びと共に鬼の形相と化し、2本の巨大な角にはパリパリと音がするほどの雷《ちから》が集約している。
 全てを護る為、魔を断ち、闇を喰らい、悪を討つ為、彼は鬼――いや、『雷神《Thor》』と呼ぶべきか――となった。
 だが、今や人の面影のない金鞍 馬頭鬼(ja2735)に、近づく者がいる。
「こんにちわ――私は君に興味があるんです」
 殺伐としていくイドの中で、相楽 空斗(ja0104)は穏やかに微笑った。
 轟音と怒号が響く中で、そこだけ切り取ったかのような笑みはまるで惨劇の舞台俳優《Actor》。
「私は【背徳の探求者・ACT】。何故ヒトは其の心に闇を抱くのか――? 私は知りたい、とても知りたい」
 彼は、彼の象徴たる赤いコートを仰々しく脱ぎ捨てると、先程とはまるで異質に歪んだ笑いを浮かべる。
 楽園《Elysion》の代用品でしかない久遠ヶ原に犇めき合う無数の焔《いのち》。
 星屑の様な無数の感情、無数の闇。
 知リタイ知リタイ知リタイ――人ノ闇ヲ、悪ヲ、影ヲ、獄ヲ。
 ニンゲンの本性を全てを解き明かした時、私はそう、創造主《かみ》になる‥‥!
「馬鹿馬鹿しいヒーローごっこは飽きたのですよ。欺瞞と偽善に塗り固められた遊びはもう終わりです。
 さぁ、その本能を見せて下さい――飾る事のない、ありのままのEighth Grade Sickness《厨二病》を! 私に!」
「カ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」
 獣と化した馬頭鬼の腕が躊躇いなく大地に突き刺さると、地面は大きく陥没し、反動で岩石が宙空へ浮き上がる。
 既に自我《イド》は薄れ、彼の体が支配するのは敵を屠る事のみ――。
「ああ、素晴らしい‥‥! 全力でお相手しますよ‥‥さぁ、もっと見せて下さい!!」
 ACTは頭上へ飛び上がったかと思うと、それは奇術か魔術か、瞬きをする間に影が増えていくではないか。
 やがてACTの闇《Tenebres》は1000もの数になり――それらは一斉に馬頭鬼に襲いかかった!
 数に勝るACTは圧勝するかと思われた。だが、雷神《Thor》はそう簡単に倒れはしない。
「グウウウウ‥‥」
 馬頭鬼の右腕が、闇に溶けた。
 それは一瞬。それは刹那。
 地面は瞬く間に黎の海となる。そして――。
「ウ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ッ!!!」
 同じく1000の巨大な腕がACTの闇を掴み、本体のACTを落雷で貫いたのだった。
「諦め、ませんよ‥‥私ハ‥‥全て、を、解剖スル、マデ‥‥!! ――『ラ・ヨダソウ・スティアーナ』‥‥」



 束の間の静寂。
 ACTが倒れた後、馬頭鬼もまた雷神《Thor》の力を失い、その場に崩れ落ちた。
 割と人外の戦いである。あまりの激しい戦いに、ルフィールが慄く。
『あ‥‥あ、あんなのどうってことないわよ! ね、ゲヘナ!?』
「そうかね ‥‥私は割と――世界びっくり人間ショーでも見ている気分だったがね」
 藍《プリムラ》と紫《ヴェロニカ》がACTと馬頭鬼を回収し、ニュクスの元へ運んでいく。
 此処はハジマリの境界《Horizon》。此処から、彼らはまた旅立つのだ。
 ――さぁ、次のイドを観せてもらうとしよう。



●幻想叙事戦記 第十二巻 741ページ

 低い岩の天蓋の下で、なおも剣戟は続く。
 いや、剣戟‥‥というのは少々不適切かもしれない。
 あくまで彼らはイドという名の厨二病《ちから》をぶつけ合っているのだから。
 なお、どういう理論なのかは長くなるので此処では割愛したい。


「私より美しい娘など、全て刈り取ってくれるわ!」
 ぱぁんと薔薇の鞭をしならせ、中途半端な正義を語る有象無象を切り捨てる女帝・凛子。
 戦闘の最中でも、時折『梅鏡』で自分の美を確かめる簡単なお仕事は怠らない。
 それもそのはず、彼女は名実ともに女帝なのだ。つまり、本当は4◯歳――おっとだれかきたようだ。
 プラセンタも驚きのアウル美容法は、最早アンチエイジングどころかディジェネレーションの領域といえよう。
「御存知? 人の復讐、特に女の恨みは怖いものなのですわ。‥‥ああ、むしろ貴女がまさにそうかもしれませんが」
 す、と音を立てずに現れたのは修道服に愛用のロザリオを首に提げた女。
 敬虔な宗教徒なのだろう。肌身離さず持っている聖書は、随分使い込まれている。‥‥が。
 柔らかい笑みなのに、決して揺るがない違和感。‥‥片手に掲げられた、手斧。
 レギス・アルバトレ(ja2302)――彼女は戦う修道女だった。
「若い‥‥妬ましいのお。そのぴっちぴちで水を弾く肌も! さらツヤで弾力のある髪も!! ――処刑じゃ!」
 刹那、飛び出す凛子。そして彼女の号令を受けて地を駆ける寿。
 紅い雷《Longinus》と薔薇の鞭がレギスを捉え――たかのように見えた。
「ああ、怖い怖い。ご婦人の矜持は恐ろしいですわね」
 祈る神は聖者《Jesus》か、それとも女神達《Moirai》か。
 いずれにせよレギスの前に展開されたそれはロザリオの形をした光の壁だった。
 そして漏れ聞こえるのは彼女の歌声。聖歌とは正に神話の世界を奏でる音の紡ぎ手《Harmonia》。
「無実の磔刑が運命であるならば、陥れた者が復讐によって倒れるのもまた運命‥‥」
 だから私は、気を病む事無く、斧を振るうのです。

 攻め手を欠いた冬薔薇と牢番を、更に苦しめるもの――それは内なる鬼が目覚めた中津 謳華(ja4212)の存在だ。
「フム…中津ノ怒リ天ヲ衝カヌトイウニ我此処ニ在リ、カ…之モマタ一興ゾ」
 紅き鬼――否、此処では敢えて悪魔と例えるべきか。
 暗き闇底の眠りから醒めた紅い悪魔は、黒き焔《ちから》を立ち上らせながら冬薔薇へと距離を詰める。
「クハハハハ! 人間共ヨ…今喰ライ尽クシテクレヨウ!!」
「私も、まだまだ終わりませんよ‥‥!」
 同時にレギスも動く。振り下ろされる手斧に、凛子はすんでのところで体を捻る。
 ビリリ、と耳障りな音が鼓膜に飛び込んだ。――体こそ無傷だが、取り回しの悪い豪奢なドレスはそうはいかない。
「キィィィ! 一体いくらすると思っておるのだ、無礼者! ――あぁ、後で繕わねば」
 ぽろっと出る本音が庶民なのはこの際置いといて。
 修道女と入れ替わりで襲い来る紅い悪魔の腕を、何とか鞭の柄で弾き、距離を取る。
 黒き焔《ちから》が龍の様に長く伸びていたせいか、近接戦は予想していなかった‥‥のかもしれない。
「クク、此ノ程度デ必死トハ‥‥脆弱デアルナ、女」
「陛下、大丈夫ですか!」
 寿が駆け寄ろうとする隙をついて、再びレギスが低空から手斧を振り上げた。
 鉛が打つかる甲高い音が井戸に響き、寿の鎧は肩口が大きく裂ける。女の身でありながら、なんという、力だ。
「妾の事はよい、早うその下女を殺しておしまい! ‥‥それに妾の予感ではそいつはリア充じゃぞ」
 一瞬、寿の動きがぴたりと止まり、殺意の波動に目覚め――はしなかった。
「いやだってリア充とはいえ女の子にはちょっと」
「ええい使えん奴め!」
「そもそもどんな勘ですか陛下‥‥あ、もしかして老眼鏡にそんな機能が」
 ぶち、と凛子の中の何かが切れた。
「いいか、地味な娘が眼鏡を取ったらゲロマブだろうと、いずれは老眼鏡をかけるのだ! そう、これは抗えぬ運命!!」
 あまりの正論に一気に毒気を抜かれたレギスは、その一瞬の隙に凛子の鞭に打ち据えられ、意識を手放した。
 ――だが、勝者は冬薔薇ではない。
「貴様ラ、我ノ存在ヲ忘失シ過ギデアロウ。――永遠ノ劫火ニ‥‥永遠ノ牢獄ニ‥‥墜チルガ良イ」
 號、と黒い焔が冬薔薇と牢番を取り囲む。
 美貌と若さを至上とした薔薇は、枯れぬまま永久に秘石《いし》となった。


『正論過ぎてぐぅの音も出ないけど‥‥そんなだからオカンなんて言われちゃうのよね。アハハハッ』

 ぱたぱたと、藍《プリムラ》と紫《ヴェロニカ》が戦場を走り回る。
 彼女らは厨二力《ちから》を失った生徒達を、また『正』と『生』の輪廻へ還すのが仕事。
 己の厨二病《イド》を賭けた戦いは終盤へと加速していく。
 ゲヘナは仮面の下でニヤと笑った。
 もう少し、もう少しだ――。



●幻想叙事戦記 第十六巻 602ページ

「言うなればこれは、永遠の牢獄――」
 凪が盾を振り下ろす。シールドチャージでも、厨二力《ちから》の勝負なら問題はない。
 そして、これは戦闘じゃない。悲しみの、嘆きの、絶望の吐露。
「忘れたい傷跡《いたみ》と、忘れられない喪失《いたみ》‥‥私に赦しなど、救いなど、ありはしない!」
 渾身のチャージを叩きつける凪。それにエリスが体術で続く。
「何もかもが忌々しいですね。正義感? 倫理観? そんなもの、掌を返すより容易に裏切りますよ」
 遠心力をつけた、上段回し蹴り。絶望《ちから》が溢れ、粉光となって弾けていった。

 ドォォォオオンッ――。
 長らく2人の戦闘に付き合っていたマキナ・ベルヴェルク(ja0067)は、イドの底に拳を叩きつける。
 あまりの茶番劇に我慢できなくなった、というのが正しいか。
「‥‥煩いですよ、貴方達」
 からん、ころころ、と小さく石が転げ落ちる音がする。
 何故反撃してこなかったのか――。
 気になってはいても、彼女たちにとっては自分のイド《自我》をぶつけるほうが優先だったという事だろう。
「誰もが自分の見たい物しか見ない! 愚か者どもが‥‥等しく灰に返れ!」
「‥‥終焉《オワリ》が欲しいなら、そう言ってください」
 出口のない迷路。鍵のない牢獄。
 永遠の合わせ鏡。明けない悪夢。
 マキナが右手を翳すと、指先から徐々に黒い焔《ちから》がゆらめき、右腕を包み込んだ。
 別に。同情を感じるわけじゃない。嫌悪を感じるわけじゃない。
 でも例え女神がどんな理不尽や不条理を強いようと。どんな逆風、どんな逆境でも。
「私は‥‥決して屈しない――」
 静かに立ち上る黒炎と、手に馴染んだ爪を握りしめ、マキナは跳んだ。
 蔑むなら蔑むがいい。
 ただ、私に出来る事を、すればいい――――。



●幻想叙事戦記 第十七巻 84ページ

「倒すべき者が、私の刃を待っている‥‥正義は我が刃にあり!」
 刃‥‥といいつつも銃を構えて、七種 戒(ja1267)は駆け出す。
 倒すべき者――衝動《イド》にのみ心動かされ、秩序を、理性を、蔑ろにする愚か者だ。
 何か近しい血《気配》は感じているが、私が正義を執行しなくてなんとする。
「さぁ、門をくぐり輪廻を超えたければ、かかってくるがいい!」
 大剣を構え、対峙するは白と赤の装束が美しい雫(ja1894)。
 静かに見据える柘榴石の瞳は、熱く激昂する黒曜石の瞳とは対照的で。
 睨み合い――ややあって、爆ぜる。
「私達は皆、運命の軛から逃げられない。‥‥同じ狢の中で是非を争うなんて、笑えない喜劇ですね」
 火花、火花‥‥。
 互角の衝動《イド》が、戦場に華を散らせる。
「強い‥‥っ! ‥‥、お前は、何故蛮族に加担するのだ!」
「女神達《Moirai》など、理不尽を押し付けるばかり。私の記憶一つ取り戻せない神など、‥‥私は要りません!」
 散る、散る、紫水晶《Amethyst》の雷。
 吠え猛る2匹の獣《Bestia》。
 一瞬の閃光が如く、刹那に煌く星屑《Stardust》。

「運命は残酷だ――しかし、畏れるのではなく、武器を取り戦うんだ!
 女神《Dice》は挑戦まぬ者《Player》には、決して微笑まないのだから――…!」



●幻想叙事戦記 第二十四巻 1023ページ

 運命。
 文字にすればたった2文字のモノに、人間は踊らされる。
 そりの合わない親の元に生まれることも、そして反発することも、ある意味では運命の手の内と言えよう。
 ――胸の奥がずきんと痛む。
「運命は所詮我らに微笑まない、運命は私を救ってはくれない‥‥全軍突撃、我に続けッ!」
 日谷 月彦(ja5877)が号令した、その刹那――ぱぁん!と乾いた音が井戸にこだました。
 強靭な張り手。強烈な焔《ひかり》。
 薔薇水晶を散らした様なドレスを纏った少女(仮)、御手洗 紘人(ja2549)――もとい、チェリー。
『貴方は――弱いのね』
 チェリーが翡翠の瞳で、月彦を射抜く。
 それは意思そのもの。決意と、覚悟。
 たったの一言で相手を制圧するような、静かな戦い。そして月彦は――一瞬で、心を折られたのだ。
「ああ、私は弱い‥‥」
 他人を制し、優れていると思う事で、イド《自我》を保とうとする。
 誰にでも起こりうる事。万人が陥る虚。――だけど、それは‥‥意味を成さない。
『馬鹿‥‥! 運命が貴方を救わないからといって、他者に刃を向ける理由にはならないわ。
 それに他者を傷つけ貶めて得たイド《自我》にどんな価値があるというの? ねぇ‥‥そうでしょう?』
 月彦の瞳から一筋の涙が落ちる。
 何処かに軋みを押し付けないと耐えられなかった、自分の愚かしさ。
 そして、こんな少女(仮)が――はっきりと正面から否定してくれるなんて。
「お嬢さん(っぽいの‥‥)、君は強いんだな」
『そうよ‥‥私は薔薇‥‥。ローザ・チェリー・アヴァル。この学園の未来を背負っているから』
 まさか。
 まさか彼女(仮)が‥‥噂の――!


『みんな‥‥目を覚ましなさい、もう一度自分のイド《誇り》を取り戻すのよ!』



●幻想叙事戦記 終章

 疲弊した集団の中でのチェリーの鶴の一声は、ダークサイドに堕ちた者達の心すら揺り動かした。
 確かな自我《イド》であり、誇り《イド》――。

 そして、このパレードの先頭の者たち‥‥。
 楽園《ゲヘナ》 ――冥府《ニュクス》 ――生《プリムラ》 ――死《ヴェロニカ》 ――そして、輪廻《ルフィール》。
 新たな焔《ひかり》は得られなかったが、厨二病という『闇』に満たされた彼らは
 再び楽園《Elysion》の奥で静かな眠りについた。


「それでは、井戸――洞窟をを封じますね」
 外に待機していた永月 朔良(ja6945)は、準備していた結界を起動し始めた。
 天井に穴の開いた洞窟。それが井戸の正体。
 あの洞窟は『ハジマリとオワリの境界線《Horizon》』。
 彼らと共に扉を抜ければ、そこは楽園《Elysion》であり冥府《Abyss》‥‥。
 女神達《Moirai》に抗うはずが、自分《Id》と戦っていた――不思議な場所。
「一緒に行って居たら、どうなっていたんでしょう。‥‥でも、皆無事でよかったのですよ」
 咲良はにこ、と柔らかく笑んでから、その小さな足を静かに動かす。
 神楽鈴の音が凛と辺りに響き渡った。


 しゃん‥‥ しゃん‥‥


「ふかみえみため 《吐普加身依身多女》

 かんごんしんそんりこんたけん 《寒言神尊利根陀見》

 はらいたまひきよめいたまう 《波羅伊玉意喜餘目出玉》

 ――闇よ去るのですよ!」



●幻想叙事戦記 裏表紙

 幻想叙事戦記 『楽園の書』

 さて、今回私はパレードに参加しながらも、全てを傍観させて頂きました。
 名は――そうですね、石田 神楽(ja4485)‥‥としておきましょう。
 ハジマリからオワリまでの叙事戦記は如何だったでしょうか。

 縦笛吹き達の言葉も、間違いではありません。
 この世界は等しく、女神《Dice》の軛にあり――完全に抗える事は、決してできない――。
 誕生《ハジマリ》があれば、終焉《オワリ》はいつか訪れる。
 時間も、倫理も、絶望も、決して逃れる事はできない。
 一つの『闇』から逃げれば、次の『闇』がやってくる。
 そう、最初の闇が解決しないまま、次の闇が重なっていくのです。
 その深さは増し、やがて光の届かぬイドの底で、気付かされるのでしょう。
 誰の心の中にも『闇』があるのだということを‥‥。

 其れでも――私達は、征く事を選ぶでしょう――。



●マサヒロ・アフロビッチ・ズボリンスコーイのメモ

 ハラショー、ハラショー!!
 俺はついに手に入れました。苦悩と、葛藤と、嫉妬と、絶望‥‥そして運命に抗う『楽園の書』。
 どこでってまぁ学園の裏庭なんですけどね。何でこんな所にこんな物が埋まっていたのかは知りません。

 俺は‥‥自分を変えたいと思っていました。けれど、そのやり方がわかりませんでした。
 この本の中になにかヒントがあれば――そんな軽い気持ちで、本を開いたのです。

 読んでみたら‥‥いやぁ、胸が高鳴りました。ドキドキしました。
 自我と自我のぶつかり合い――なんて激しい戦いでしょう。


 それは――失くし物を取り戻すための戦い。

 それは――在りし日の誓いを貫くための戦い。

 それは――生という幻想を守るための戦い。

 それは――繰り返す妄執を振り切るための戦い。

 それは――生きる意味を探すための戦い。

 それは――女神に抗い続けるための戦い。

 それは――怨嗟の鎖を断ち切るための戦い。



 彼らは、相いれぬものとして永遠に戦い続けるのでしょうか。
 それとも、死して盟友となったのでしょうか。
 それは、誰にも分からない――想像するしかないのでしょう。

 ヒントがあったのかどうかはわからない。けれど彼らの焔《ひかり》は、受け取ったつもりです。
 俺は‥‥自分と戦う事ができるでしょうか。


 『楽園の書』はきっと、色んな人の心を動かす事ができる――。
 そう信じて、この本を図書室に寄贈しようと思います。
 この『楽園の書』を読んだ方に――どうぞ、戦う勇気が芽生えますよう。


                                     マサヒロ・アフロビッチ・ズボリンスコーイ
                                           ‥‥もとい 田中 匡弘(ja6801)



●地平線の果て、とある寂れた屋根裏の少女たち

「おしまい、おしまい‥‥と」
 ぱたん、と音を立てて雅は黒い背表紙の本を閉じた。
 預言書《prediction》でもない、お伽話《Fairytail》でもない。壮大な運命の叙事記《Epic》。
「中々、良い書であったな。ふふ‥‥つい夢中になってしまったわ」
 埃っぽい部屋には小さな窓が一つだけあった。陽が傾き、燃えるような夕陽が屋根裏部屋を照らした。
 ああ、そろそろ闇の刻限が来る。今は亡きこの部屋の主がやってくる。
 鴉鳥は、カップを傾けてぬるまった紅茶を飲み干し、席を立った。
 それを見て、雅もゆっくりとそれに倣う。右手には、『楽園の書』を持ったまま。

「思わず目的を忘れてしまってたね。さ、『楽園の書《彼女》』を、外の世界に出してあげようか」



 ――嗚呼、『彼女』はこうして世に解き放たれたのだ。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:19人

BlackBurst・
エリス・K・マクミラン(ja0016)

大学部5年2組 女 阿修羅
撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
英雄を期する者・
相楽 空斗(ja0104)

大学部5年25組 男 インフィルトレイター
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
妄想☆特急・
水無瀬 詩桜(ja0552)

大学部5年49組 女 ダアト
あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
茨の野を歩む者・
柊 朔哉(ja2302)

大学部5年228組 女 アストラルヴァンガード
哀の戦士・
梅ヶ枝 寿(ja2303)

卒業 男 阿修羅
水神の加護・
珠真 緑(ja2428)

大学部6年40組 女 ダアト
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
撃退士・
金鞍 馬頭鬼(ja2735)

大学部6年75組 男 アーティスト
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
青木 凛子(ja5657)

大学部5年290組 女 インフィルトレイター
人形遣い・
日谷 月彦(ja5877)

大学部7年195組 男 阿修羅
撃退士・
霧咲 日陽(ja6723)

大学部5年253組 女 インフィルトレイター
にっくにくにしてやんよ・
田中 匡弘(ja6801)

大学部9年193組 男 鬼道忍軍
飛竜殺し・
永月 朔良(ja6945)

大学部4年57組 女 ダアト
斬天の剣士・
鬼無里 鴉鳥(ja7179)

大学部2年4組 女 ルインズブレイド