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マスター:由貴 珪花
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/03/16


みんなの思い出



オープニング


 とある都市の一角。
 広い敷地に佇む家屋は日本風というよりは西洋風で、誰が見ても一目でわかる大豪邸。
 当家自慢のメインガーデンで、やんごとなき血筋のやんごとなきお嬢様が優雅に紅茶をすする。
 それはそれは何の変哲も‥‥多々あるが、まぁ平和な時間の流れる、穏やかな世界だったが。

「ねぇじい、あたし遊び相手がほしいのっ!」
 突如降って沸いたリトルレディの声に、じいと呼ばれた老爺が目を瞬かせる。
 彼女は大きな瞳を期待に輝かせ、小さな手で老爺の左腕に抱きついた。
「あっ綺羅ちゃん、ずるいよう。わたしだって人間のお友達、欲しいもん!」
 そして今度は紅茶を飲んでいた少女が立ち上がり、負けじと老爺の体に抱きつく。
「なによぉ、沙羅お姉ちゃんはおやつのケーキ、いっつもあたしより多く食べるじゃない! ちょっとは遠慮してよぉ」
「け、ケーキとお友達は違うもん! 綺羅ちゃんだって、わたしのクマさんのお人形に怪我させたじゃないっ!」
 老爺を挟んで大戦争。
 頬を膨らませて見詰め合う、二人の少女。
「ほっほっ。では、じいめがケーキとお人形をプレゼント致しましょうぞ。ですからケンカなどおやめなさい」
「わぁ、じい大好き!!」
 さっきまでの喧騒はどこへやら、膨れた頬はゆるみ、きゃあきゃあと喜び合っている。
 少女らの頭を撫で、にっこりと微笑む老爺。二人はじいの笑顔が大好きだった。
 じいはずっと傍にいる。他の誰が、自分達を遠ざけようと。
 まるで鏡を覗き込んだように瓜二つの彼女たちは、この広い屋敷の狭い世界が全てだった。

 沙羅と綺羅。
 天然ふんわり系の姉、沙羅。勝気で天才肌の妹、綺羅。
 多少性格の差はあれど、子供らしく元気いっぱいで愛らしい双子の姉妹。
 彼女たちは幼い頃にアウルを発現して以来、自宅という檻に閉ざされた生活を送っている。

「ふぅむ‥‥」
 新しいネコさん人形と、大好きなチョコケーキを受け取った姉妹。
 愛らしい双子はケーキを頬張り、ネコの人形を抱きしめて。それはそれは楽しそうで。
 ――しかし、それは一時の夢。ケーキも人形も、いずれは形を無くすもの。
(‥‥人間の友達、か)
 老爺は心でそう呟き、少し離れたところから上機嫌の姉妹を眺める。
 力の加減は覚えたが、心も体も未熟。いつ暴走するやも解らぬ以上、一般人の子供と触れ合うはリスクが高い。
 その上彼女たちは尊いご身分だ。危険の多い今のご時勢、軽々しく外出させては心労が尽きぬ。
 それでも。姉妹の長い孤独を見てきた老爺としては、無碍に却下することもできなかった。
 せめて春まで我慢してくれれば、かの学園に通えるのだが‥‥。
 ――そうか、かの学園の者ならばお二人のお相手が務まるのじゃな。
「これはこれは、妙案かもしれませんな」
 右手で長く伸びた白髭を撫で下ろし、老爺はにこりと微笑んだ。


「子供の御守り、だって?」
 こちら老爺が言うところの『かの学園』は、モバイル依頼掲示板に現れた怪しい依頼の話題で騒然となっていた。
 そりゃあ、泣く子どころか大人も黙る天下の撃退士には到底考えられない依頼ではあるが。
「なんでもアウルを持つ子供の相手をして欲しいって事なんだけどさぁ‥‥」
 そして彼は依頼文を読み上げた。

『――若き撃退士の皆様へお願い申し上げたい事があり、筆を執らせて頂きました。
 私めは、とあるお屋敷で教育係を拝命しております。
 当家の御歳6歳の双子のお嬢様は、共に『アウル』の力をもつ才女でございますが、
 そのため、幼くしてご友人を作ることが困難になってしまった、大変お可哀想な方でございます。

 さて本題でございますが――。
 4月になれば貴園に入学する予定でございますが、どうやらお嬢様方はお待ちしきれぬ様子‥‥。
 無理を承知でお願い致しました所、来る3月10日の体験入学をご快諾頂いた為、
 皆様方の学び舎へお邪魔させて頂く運びと相成りました。
 その際、学園内において、お嬢様たちの道案内やお遊び相手、そして護衛となって下さる方を募っております。
 なお、お嬢様たちにおける『遊び』とは、模擬戦闘や訓練に相当するものとお考え下さいませ。
 普段なかなか力試しのできるお相手に巡りあえないので、とても楽しみにしておられます。

 それでは、よろしくお願い申し上げます』

「‥‥だってよ」
 慣れない言葉に舌をかみそうになった男子学生が、隣にいた猫目夏久に目をやった。
 話題になるわけだ、これはなんとも胡散臭い‥‥。
「へーぇ、面白そうだな! 俺、詳しい話聞いてくるよ」


リプレイ本文


「わぁ…!ここが『学校』なのね、じい!」
「すごぉい、お屋敷よりずっとずぅっと大きいわ!」

 午前9時。学園の正門を抜け、彼女達は走り出す。
 迎えるのは白菫色の空と乳白の雲、見上げる程大きな校舎。そしてずらり並んだ9人の生徒達。
「やぁ、初めましてお嬢さん達!今日は楽しんでくれよな」
 先ず口を開いたのは猫目夏久。白い歯を覗かせ、屈託ない笑顔だ。
「さあ、お二人とも、きちんとご挨拶できますかな?」
「で、できるもん!えと、初めまして…は、萩嶺 沙羅です!」
「あたしは萩嶺 綺羅!よろしくねっ!」

 蒲公英の様な暖かな笑顔と春一番。
 寒の戻りも過ぎ、暖かい息吹が駆け抜ける。


 では、爺めはこれにて――。
 双子を預けると爺は深々と頭を下げ、また夏久も爺やと同行すべく、一同を見送った。

 何もかもに興味津々の2人は、辺りを見渡し――早速、何かを発見。
「…あれ?沙羅ちゃん、猫さんがいるよぉ!」
 と、綺羅が指差す先では、猫型パペットを左手につけた羽生 沙希(ja3918)が手を振っていた。
 一朝一夕でじゃ手縫いのパペットが限界で。これはバイトで培った演技力が本気だす――!
『ボクはテディキャット!こっちは友達のサキだニャ!良い子の2人には、ボク達からプレゼントがあるニャー!』
 取り出した二色の猫耳。沙羅には白を、綺羅には黒をつけて『仲間の印ニャー!』とサムズアップ。
 可愛い物好きの二階堂 かざね(ja0536)は、きらんっと目を光らせながらイチゴ飴を差し出した。
「こんにちわ!私は二階堂かざねだよー!お姉ちゃんって呼んでもいいんですよっ!」
「かざね…お姉ちゃん?」
 きょとん。
 屋敷では皆、召使だから。誰かを姉と呼ぶ事なんて、なかった。
 沙羅は初めての『お姉ちゃん』に喜びを隠しきれず、口元は綻んでいくのだった。

「私は真宮寺 神楽――神楽でいいわ♪」
 目を細めて微笑む真宮寺 神楽(ja0036)は、純真な双子の笑顔に、ちくりと心の傷が痛んだ。
 甦る、かつての感情。重なる面影。ぶるんと頭を振って、払い除ける。
 ――ううん、大丈夫。この子達には、私達がいるんだから。
「んと、大学部の常塚咲月…。宜しくね?」
 柔らかく笑んだ常塚 咲月(ja0156)の姿は、その雰囲気からか幼い双子にとって一段と大人びて見えて。
 何だか少し、どきどき。
「初めまして、リトルレディ達。俺は鐘田だ、よろしく」
「あー、うん。俺ぁ護衛のおっさんだ」
 かざねとは対照的に、少女相手でもあくまで紳士的な挨拶は鐘田将太郎(ja0114)と綿貫 由太郎(ja3564)。
 片や笑顔で、片や電子タバコ片手に。…方向性は違うが、どちらも紳士的ではある、はず。

「あなたも、ここの人なの?」
 沙羅に声をかけられてびくりと小さく跳ね上がった少女――若菜 白兎(ja2109)は、おずおずと話し始めた。
「う、うん。若菜……白兎、なの」
 小等部生の少ない久遠ヶ原では貴重な同年代との出会い。お友達になりたい、けど。
 しかし、人見知りのする性格のためか、部の先輩である青空・アルベール(ja0732)の後ろに隠れての自己紹介だ。
「私は青空だよ〜!それじゃ、私からはコレをプレゼントするのだ!」
「あおぞら…なぁに、これ?」
 青空が双子に1つずつ渡したのは、懐かしのインスタントカメラ。
 現代っ子の2人には馴染みは薄いが、操作は単純で軽い。子供が使うには意外と優秀。
「今日一日、色んなモノを写真に取ってごらん。きっといい思い出ができるからさ!」

 飴玉を頬張って。カメラを片手に、もう片手はしっかりと繋いで。
 小さな白猫と黒猫はまろびながら走りだした。



「はーい!まずはあたしから案内するよー!」
 銀色のしっぽを二つ。ご機嫌に揺らしながら、かざねが手を上げる。
 連れて来たのは彼女が部長を務める、お菓子を愛し楽しむ為の部活。
「わ、綺羅ちゃん、ケーキのお雛様だよ!」
 沙羅が見た物は、手作りの雛壇ケーキ。マジパン人形を載せれば立派な雛人形だ。
「んふふ、ここは久遠ヶ原の隠れスイーツスポット!毎日おやつが食べ放題、お持ち帰りもオッケー☆」
 材料費の事は考えない。お菓子は正義という心があれば世界は平和!
 雛壇ケーキを皆で楽んで。名残り惜しいけども紅茶を飲み干し、さぁ次へ。


 甘味の穴場、と続いてやってきたのは白兎のオススメ鯛焼き屋。
 初めての単語に双子は顔を見合わせる。
「たいやき?」
「うん。少し小振りだけど…注文してから焼いてくれるから、カリカリふわふわで美味しいの」
 美味しいケーキを食べて、好物の鯛焼きを目にした今、白兎の緊張は何処かに消えていた。
 全員鯛焼きを2個ずつ購入して、まずは一口。
 沙羅はカスタード、綺羅はチョコ。そして白兎は粒餡――の中に美味しい事件。
「あ。当たった…!2ヶ月通って初めてでたの!」
 春風が運んで来たのは新たな出会いと、幸運の栗。


 2つ目の鯛焼きを食べながら向かったのは図書室。
「まだ…読めない本も多いかもだけど…。面白い本…一杯あるから、ね」
 外で遊ぶ方が好きかな、と思いきや。小さな足で向かった先は『魔導書コーナー』。
 綺羅と沙羅は一抱えもある大きな本を引っ張りだし、床に広げて本を開いた。
 咲月は二人の上からその分厚い本を覗き込む、が。どうやら高位の魔術書の様で全く読めない。
「…それ、読めるの?」
「ううん。全然わかんない!」
「でも、見てると何だかわくわくするの」
 その知識欲は、流石ダアトの卵というべきか。
 目を輝かせて頁をめくる幼い手には、好奇心と巨大な力――。



 知識欲を満たした後は、運動欲。
 青空が案内した華水庭園では、どこかに隠された青空特製人形を探すゲームが行われる模様。
「じゃあいくよ〜!よーい…どん!」
 隠し場所を知っている青空と、人数合わせのため辞退した由太郎は不参加。
 沙羅チームに白兎と将太郎、そして沙希withテディキャット。
 綺羅チームには神楽と咲月とかざねが参加し、一斉に園内へ散っていく。

「うーんと、あっち探してみよー!」
『ラジャーニャ!』
 大輪のツツジの花を覗き込んだり。
「この辺はどうかなぁ?」
「ん、探してみましょうか♪」
 沈丁花の葉を掻き分けてみたり。
「うにゅ…噴水の近くはどうかなぁ?」
「急がないと、綺羅ちゃんに取られちまうな」
 鈴蘭には気をつけて。

 探しながら花々の写真を撮り歩く綺羅。カメラに夢中で、足元ご注意。
「きゃ……あれ?」
 怪我の功名か――低く枝垂れる雪柳に隠れているのは、紛れも無く黒猫の人形。
「みつけたぁ!黒猫さんだー♪」
 晴れ渡る白菫の空に高く響いた声が、終了の合図だった。

 一同が入り口へ戻ってくると、沙羅は項垂れていた。
 落ち込んだ沙羅の頭をそっと撫で、青空が懐から取り出したのは、白猫の人形。
 身を屈め、子供の目の高さで微笑む。柔らかな髪がふわりと揺れた。
「よしよし。泣いたらめーなのだ。ほら、沙羅ちゃんが心配で白猫さんが出てきちゃったよ!」
 本当は。二人共にプレゼントするつもりで作ったのだから。

 双子の猫人形を手に訪れたのは、由太郎の所属するとある部室。表向きはぬいぐるみ部。
「ま、ちと変わった所だが気にしねぇでくれよ」
「はぁい!わぁ、お人形さんがいっぱぁい!」
 辺り構わず飾られた人形は、定番の動物モノから、謎の髭おっさん人形まで多岐に渡る。
 しかし、この部の最大の特徴はそんなものではない。
 にょき。物陰から伸びる幾本もの腕。そこには謎のマスクを被った部員――。
「お、おう皆。あの嬢ちゃん達にちっと縫いぐるみを――」
 ギラッ!
 瞳が激しく光り、熱いパッションを解き放つ!…但し小声で。
(なんとうらやまけしからん!だが幼女に手を出すのは御法度…)
(見よ、しっと魂は暑苦しいまでに燃えているううぅうぅ!!)
 …数分後戻った由太郎は所々に謎の痣ができていたとか。


「しょーたろー、お腹すいたー!」
 朝から広い学園内を歩きまわった2人のお腹は遂に抗議を始めた。
 それなら、と学食を案内する将太郎と沙希&テディキャット。
「今ならまだ、午前の授業終わってねぇし、安全だろ。ここの食事は意外と美味しいぞ」
『でも大学部のヒトが一杯で危にゃいから、サキとお手々繋ぐのニャー』
 沙希は綺羅と、将太郎は沙羅と。手を繋いで食券機を眺める。
 繋いだ手は、少女達にとっては大きくて、優しくて。ちょっと我儘心が芽生えたり。
「どれもやだ!」
「わたし、牛肉の赤ワイン煮っ!」
 久遠ヶ原の食堂メニューは、どれも庶民的で、がっつり系。確かに2人には馴染まないが――。
『ここは、キミ達専用の食堂じゃにゃいのニャ。…我儘は駄目なのニャよ』
 パペットを動かし、沙希はオーバーに悲しんでみせる。
「…ごめんなさい」
 ここは家じゃないから。外に出るという事は、我慢を覚えるという事。
 解っていた。でも、判ってなかった。
「怒ってる訳じゃないさ。少しずつ、覚えていきゃいい。さて、昼飯頼んだら――飯の前に、運動だな!」



 太陽が高く強く輝く午後0時。
 広々とした演習場では、審判を頼まれた夏久が一行を待っていた。
「それじゃサキお姉さんが説明するっすよー!」
 2班に分かれて護衛形式の模擬戦を行い、目印の猫耳をつけた護衛対象にヒットしたら護衛役を交代。
 護衛対象役が居なくなったチームの負け。
 班編成は人形探しゲームと同じメンバー。そこに青空が沙羅班、由太郎が綺羅班に参戦し
 最初の護衛役は神楽と沙希。
 と、ルール説明に盛り上がる一方、咲月は双子の顔を見つめていた。
「手加減はしないけど…怪我しても大丈夫…?」
 ――二人共、ちゃんと…わかってるのかな。
「うん!わたし達も頑張るね」
「思いっきり遊べるの楽しみ!さつき、ありがと!」

 夏久の笛が演習場に響き渡る。

「よーっし、かざねこぷたー発進ー!」
 トンファーも確かにぶんぶん回せば『こぷたー』してるかもしれない。
「捕まらないっす」『ニャー!』
 ふわり。檸檬の香りと共に沙希は小天使の翼で空中に舞い上がり、渾身のかざねこぷたー攻撃仕様は空回り。
「っちょ、護衛役がスキル使うのってそんなのアリー!?」
「あはは、いつか天使が護衛対象になるかもしれないっすよー!」
 沙希に気を取られてる間に将太郎のトンファーが、白兎のスクロールが神楽に襲いかかる。
「そっちがそう来るなら――」
 脚にアウルを集中させ、走る。そう、縦横無尽にただ走る。ただし、壁を。
 だだっ広い演習場の…壁?
「か、壁なんかないじゃなーーい!」
 ――走り出した所で白兎のスクロールを正面から受け、神楽撃沈。
 一方、由太郎のクイックショットが沙希の翼を貫き、翼が霧散した沙希は墜落し――そして、夏久を下敷きにした。
「うわぁぁ、夏久すまないっすー!」

「すごぉい!本当にみんな、強いのね!」
「サキお姉ちゃん、神様みたい!」
 『撃退士の顔』になった一同に圧倒された双子だったが、次第に顔を上気させていった。
 対照的に、下敷きの夏久は苦虫を噛み潰した様な顔。
「護衛対象はスキル禁止だーー!」

 次の護衛対象はかざねと白兎。
「よぉぉっし、今度はあたしも負けないよー!」
 元気よく撃ち出された綺羅の魔法弾が白兎の頭上を飛びぬけ消えたと思えば、間髪入れず神楽の札が飛び込む。
「若菜、こっちだ!」
 ぐい、と手を引き間一髪。将太郎の機転で白兎は二度回避に成功した。
「私達も負けてられないね!――沙羅ちゃん、せーので一緒にいくよ!」
「う、うん。…せぇの!」
 かざねに襲いかかる2つの閃光。片や青空の花嵐、片や沙羅の魔法弾。
 由太郎の回避射撃で弾道をそらされた花嵐は、空に消えた。
 が、それこそが青空の狙い。そらせるのはどちらか1つなのだから。
「いったー!むぅ、沙羅ちゃんやりますねぇ…次は綿貫さんですよー!ほらほら猫耳猫耳ー♪」
「おいおい、おっさんの猫耳なんて何処に需要があんだよ…ったく」
 最早戦闘中に交代する勢いだが、その間も刃は踊る。
 交代直後の隙を狙った将太郎のトンファーは、咲月のダガーで鋭く弾かれた。地味だがまるで仕事人。
 かざねが走りぬけ、遠心力一杯のトンファーを白兎に叩きこむ。
「ぁぅ、おでこがヒリヒリします。…あるべーる先輩、とても似合ってるの」
「それ褒め言葉じゃないからね…!?」
 早速背後から飛んできた神楽の攻撃を、庇って受け止める白兎。
 まだ上手くできないけど、これでも立派な守護職。小さくて可愛い、守り神。
「皆を護るのが、私の役目なの!」

 ややあって、とうとう残る護衛対象は双子のみ。
 気配を消して迂回し、白兎と沙希の防御を抜けた神楽は無表情で沙羅にロッドを振り下ろす。
「これで――最後!」
 怖い、怖い、怖い――!
「やあぁぁあ!!」
 涙が零れ落ちるその瞬間に、神楽は沙羅の体を優しく抱きしめた。
 力、暴走、望まぬ孤独――。嘗ての自分を映し込んで。
「…はい、これで攻撃当たった。怖がらせて、ごめんね」
 にこりと微笑み、抱きしめたの沙羅の頭を撫でる。
 攻撃なんて、できるわけないじゃない。



「いただきまーす!」
 コンビニお握りにサンドイッチ。学食弁当に、和食弁当に、幼馴染の愛情弁当。
 晴天の屋上で食べる、色とりどりのピクニックランチ。
「私のお弁当は好きに食べてね」
「かぐら、ありがとー!」
 出汁巻き卵をフォークで嬉しそうに頬張る綺羅と見守る神楽。
 白兎は大量のサンドイッチを振る舞いながら、かざねからお菓子を貰ったり。
「おー、凝ってるねぇ」
「そういやコンビニお握りなんて、食べ方も知らねぇのか。…これ、開けてみるか?」
 そんな話を交わしながら、由太郎と将太郎はお握りを頬張った。
「ここは初等部から近いし、晴れた日に皆でお弁当を食べるには最高よ。ここを知ってたら人気者になれるわ♪」

 楽しそうな綺羅に比べ、何処か怯えた顔の沙羅。
「食べる…?色々作ってくれたみたい…」
 間近で見る撃退士の力は強くて、同じ力が自分にもあると思うと、心がざらついて、怖い。
「力はね…使い道を間違えたら、化物と同じ…。
 色んな人と出会って、感じて、大切な物を見つけて…何の為に戦うのか…。
 そうやって、自分の力と…向きあうんだよ…」
 ぽんぽんと撫でる咲月の手に、沙羅の心の蟠りが解ける。
 沙羅は初めて自分から、咲月にぎゅうと抱きついた。子供らしい、にこやかな笑顔だった。
「…今日、さつきに会ったのも、大切な出会いかな」
「そうだと…嬉しいね」
 柔らかな咲月の笑顔を見た時、沙羅の中の恐れは静かに姿を消していた。




 翌日、屋敷に戻った少女達は朝から晩まで写真に夢中。
 2人が撮った写真は、屋上で昼食を食べている間に青空が現像してきた物で。
 一枚一枚が、思い出いっぱいの宝物。

(ほっほ。粋な計らいじゃのぅ)
 よい先輩に巡り会えた。このお子達なら、きっとよい未来に辿り着きましょうぞ。



 嗚呼――もうじき、春ですなぁ。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 双眸に咲く蝶の花・常塚 咲月(ja0156)
 dear HERO・青空・アルベール(ja0732)
 遠野ワールド住人・羽生 沙希(ja3918)
重体: −
面白かった!:14人

光灯す夜藍の舞姫・
真宮寺 神楽(ja0036)

大学部4年177組 女 陰陽師
いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
双眸に咲く蝶の花・
常塚 咲月(ja0156)

大学部7年3組 女 インフィルトレイター
お菓子は命の源ですし!・
二階堂 かざね(ja0536)

大学部5年233組 女 阿修羅
dear HERO・
青空・アルベール(ja0732)

大学部4年3組 男 インフィルトレイター
祈りの煌めき・
若菜 白兎(ja2109)

中等部1年8組 女 アストラルヴァンガード
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
遠野ワールド住人・
羽生 沙希(ja3918)

大学部3年29組 女 ディバインナイト