長田・E・勇太(
jb9116)は扉の前で、確認の為一度隣を見る。そちらでエカテリーナ・コドロワ(
jc0366)が頷くのを見ると、勢い良く扉を開いた。
エカテリーナ、即座にライフルを構えた姿勢で屋内を目視。目標発見。反応、鈍し。
この反応の遅れはもちろん、まさかこんな所に敵が来るとは、といったもので、この僅かな遅れを得る為に福沢が注意深く段取りしてきた、その価値を彼女は良く理解している。
躊躇無く発砲し、標的アサシンの動きを制する。扉を開けた勇太は屋内に数歩侵入しこちらも銃を構え銃撃開始。二人が途切れる事なく銃弾を見舞う間に、残りのメンバーが屋内への侵入を果たし、ある者は近接を狙いまたある者は散開する。
最後に、勇太とエカテリーナの二人が銃撃を止め移動を開始すると同時に、背後の扉が閉められる。
扉が閉められる間際、向こう側から福沢の声が聞こえてきた。
「十六秒。まずまずだな」
扉を開いてから突入、扉を閉めるまでの所要時間である。
敵は一体でこちらは八人。事前にその能力を把握していただけに、突入してからの動きに皆無駄は無く、アサシンは為すすべなく追い込まれていく。
仁良井 叶伊(
ja0618)が手にする長大な斧槍も、この部屋の広さならば使うに問題は無い。
当てるというよりは、移動空間を削り取る意図で叶伊はこれを振り回す。長物の極意は間合いの支配にありである。
凄まじい重量であろうコレを、さながら鞭のように縦横に振り回しアサシンの移動を制限する。
陽波 透次(
ja0280)は叶伊の側に位置したまま、じっとアサシンの動きを見据える。
アサシンは叶伊の斧槍三連撃の三つ目に合わせ、その制空権内へ強引に割り込んでくる。盾に特化した戦士をすらすり抜けるアサシンの絶技だ。
だが、これもまた事前情報にあったこと。
透次もまた叶伊の斧槍が飛来する空間へと怖れる気もなく突っ込んで行く。
飛び込んだ透次の後頭部目掛け、制御が間に合わなかったのか叶伊の斧槍が飛ぶ。後ろも見ぬまま透次はかがみこみ、叶伊は叶伊で透次の動きを見ても一切動じず斧槍の一撃に手心は加えず。
上段は叶伊の斧槍、下段には駆け込んだ透次の薙ぎ払いが、同時にアサシンを襲う。
アサシンは、斧槍を同じくかがんでかわし、手にした短刀にて透次の一撃を受け止める。アサシンは短刀の背に腕を当て弾こうとするが、透次の打ち込みはそこまで甘くは無い。
振りぬく所作が一瞬で変化し、透次は弾く動きを刀で吸収し鍔迫り合いに持ち込みアサシンを押さえ込む。
低い場所で、アサシンと透次の刀が軋みをあげる。当然、叶伊は動きを止めたアサシンを見逃さない。
下段に突き込んだ叶伊の一撃を、アサシンは透次の刀を絡み取るように捻り外しつつ飛び上がってかわす。
その跳躍は一瞬で天井近くにまで飛び上がる凄まじいもので、天井を蹴る事で軌道変化が可能な為、空中だからと不利な訳ではない。むしろ有利であるかもしれぬ。
猫野・宮子(
ja0024)さえいなければ。
壁面を駆けあがりアサシンと同時に天井を蹴り、これを支えに拳を打ち込む。
アサシン、避けられぬと悟り殴られるに任せ殴り飛ばされつつ、空中で身を捻って着地と同時に走り出す。包囲を抜けんとするわけだ。
「はい、ざんね〜ん」
アリーチェ・ハーグリーヴス(
jb3240)が手にしたドールが、無表情のままこきりと音を立て小首を傾げると、突如生まれた渦を巻いた突風が一直線にアサシンへと伸びていく。
さしものアサシンも風を避けるのは無理がある。僅かな間に生じた風とはとても思えぬ勢いに負け、アサシンは反対の方向へと強く弾かれる。
これを目指し床を滑るように駆ける小さな影、フェンリルはベアトリーチェ・ヴォルピ(
jb9382)の召喚獣である。
獣は人型を相手にした時、ただそうであるというだけで優位に立てる。四足歩行による姿勢の低さは人型にとって狙いにくく防ぎ難いものなのだ。
アサシンの重心を獣の感性で見抜き、フェンリルはそちらの足を駆け抜けざまに牙で切り裂く。まだ敵は活きが良く、噛みつき引き倒す段階ではない故の、冷徹な狩人の動きだ。
あちらこちらから攻め立てられるアサシンに対し、フェンリルの飼い主ベアトリーチェが一言。
「攻撃を与えつつ……気合いで避けて下さい……シヌガヨイ……。」
アドバイスなのか処刑宣告なのかはっきりしない。
フェンリルによりアサシンの注意が下を向いている間に、紅 鬼姫(
ja0444)が一気に間合いを詰め肉薄する。
翼を生やし天井付近より迫るとアサシンは、今度もまた避ける事適わずとわかると即座に切り替え、反撃の刃を飛ばす。
装飾品の魔力のおかげか、鬼姫の身は中空にありながら跳ねるようにその場を離れひらりとこれを回避する。
が、その刃のあまりの鋭さに、今後の不用意な踏み込みを封じられる鬼姫。避ける力は尋常ならざるものを持つ鬼姫であるが、故にというべきか、耐えるは今の所弱点と言って程苦手とする分野であった。
とはいえ今は皆で囲んでいる事もあり、間合いへの出入りで問題なく牽制しきれるだろうと思っていた鬼姫は、追い詰められたアサシンが四つ身に分身するのを見て驚くと同時に笑みを見せる。
咄嗟に皆が集中攻撃を仕掛け、アサシン達が存在する空間ごと粉砕する勢いであったのだが、この噴煙を突き破り四体のアサシンが四方へと散っていく。
そんな予想外の事態が、鬼姫には嬉しい事であるようだった。
隠密らしいアサシンの動きに対し、鬼道忍軍たる宮子と言えば。
「魔法少女・マジカル♪ みゃーこが来たからには、あなたの悪さもここで終わりにゃ! 覚悟するのにゃ!」
隠れる気はさらさら無いらしい。
そしてこれをさらっと利用してるのが一人。
「あたしかよわいからねー」
などとのたもーて目立つ宮子の動きの隙間隙間に攻撃を挟むのはアリーチェである。
宮子が壁を蹴り跳躍すると、アサシンは自らの足のみでその高さに対抗する。空中で交錯、宮子は短刀ではなく蹴りをかましてくれたアサシンに先制され、仕掛け損ねる。この辺りのアサシンの攻撃勘の良さは抜群だ。
「殴るしか出来ないと思わないでにゃ! こういう事も出来るにゃよ!」
しかし宮子もやられっぱなしではなく、蹴飛ばされ視界にきらきらと星が瞬く中振り返りざまに拳を振りぬく。距離が開きすぎて当然拳は当らないが、装備した特注グローブは伊達ではない。
「マジカル♪ 猫ロケットパンチにゃー♪」
アウル要素を全てマジカルに置き換えているのであろうか。
背中にモロにもらったアサシンはその場でたたらを踏む。アリーチェは当然この隙を見逃さずドールからの水弾を打ち込んでやる。
ゆらりと、アサシンの姿がブレる。かと思ったらもう、アサシンの姿はアリーチェの眼前であった。
驚愕、恐怖、そういった反応をアリーチェが見せたとて、彼女と関わりがある者であれば誰もが、そんなモノ信じたりはしない。
アサシンが短刀をアリーチェに突き立てる。回避退避は間に合わぬと見たアリーチェは、この瞬間に先ほどの疾風の術を放つ。
アリーチェの体に短刀を残したままで、アサシンは風の術にてふっ飛んで行く。一撃を許さざるを得ないのなら、それ以上を奪うまでである。
自身に刺さったままの短刀を指差し、ふっ飛んだ先のアサシンに笑いかけるアリーチェ。取りに来い、そう言ってやれば逆に取りに来にくくなる。それがわかっていて、彼女はそうしたのである。
アサシンが騙しあいをするには、分が悪すぎる相手であるようで。
ベアトリーチェはフェンリルをアサシンの注意を引きつける事に集中させる。
絶対に足を止めずその周囲を右に左に動き回るだけで、アサシンは対処せねばならなくなる。
危険を承知でフェンリルはアサシンの攻撃圏内を走り回っているせいで、これは相棒の特性を良く理解しているベアトリーチェの指示だ。
そう、相棒とはフェンリルの方の事ではない。
居るのも狙っているのもわかっていながら、アサシンがその存在を見失った鬼姫の事である。こうなった相手を如何に仕留めるかは、鬼姫の手の内に山程の術がある。
手足を狙い、動きを制する。それも有効な手だ。しかし最も恐ろしく、敵の手を止める手段は、一つ。
鬼姫はアサシンの懐深くにまで飛び込み、真っ先に本丸でもある首筋へと小太刀を走らせる。
そう、常に一撃必殺を狙っている、そう相手に思わせる事こそが、その動きを封じるに最も有効であるのだ。手足を狙うのはその次で良い。
ただ、鬼姫の側にもベアトリーチェを集中的に狙われるとキツイという思惑もあり、鬼姫はそのままアサシンの必殺圏内に留まり続け刃を振るう。
どちらも短刀と小太刀で似通った動きであるが、だが鬼姫には装備によるマイナスがあり、一撃のリスクが大きい。
それをおくびにも出さず、互いの神経を削り取り合うような命のやりとりを繰り返す鬼姫。
そんな彼女を励ますように、フェンリルの勇ましい鳴き声が轟く。
もちろんフェンリルは攻撃にも加わっており、鬼姫はまるで自分が召喚獣を用いているような奇妙な感覚を覚える。
アサシンの上段、中段へと繋ぐ二連の横凪を、最初は受け、次は後退し避ける鬼姫。追撃はフェンリルが足元に噛み付きにかかり防いでくれた。
なので逆にこちらから踏み込む。一歩を、空中に踏み出す。まるで歩き昇るような動きで羽を羽ばたかせ舞い上がる鬼姫。
射撃援護するベアトリーチェ。
「当たり判定小さくても……数撃てば当たる……それが弾幕の……ジャスティス……。」
それをシューターアサシンはさくっとかわしたのだが、自機狙い弾である鬼姫の空中よりの刃はかわしきれず。
妙に軽い手ごたえと共にその首が宙を舞うのであった。
敢えてアサシンとの近接距離に勇太が身を置いているのは、何も自殺願望がある訳ではない。
「CQCは嫌な思い出しかないケドナ。ツカエナイわけじゃない!」
短刀による牽制の突きを三つ見た所で、勇太は手にした銃を前進しながらアサシンの頭部に向ける。これを弾き向きを外すべく伸びる短刀。
逆手に持った鋼線が狙い済ましたようにその短刀に巻きつく。いや、ぎりぎりでアサシンは短刀を抜いてかわす。
右袈裟、左袈裟に二連の鋼線を振るうが、アサシン後退すらせずその場で身をよじるのみでかわし、しかし鋼線とは別のタイミングで下がる。銃声がほんの僅かに遅れて響く。勇太が足の甲を狙った一発は惜しくも外された。
近接戦闘中、であるが、後退で距離が空いた瞬間、エカテリーナはアサルトライフルによる連射を躊躇無く撃ち放つ。
軍隊格闘術に一対一でなければならないなんて項目はありえるはずもなく、こんな援護も勇太は有難く最大限に活用する。
元々、鋼線は飛び道具としての運用も出来、かつその形状から他者の射撃を阻害しづらいという特性もあるのだ。
一つ、二つ、まで打ち込めた所で三つ目を打ち込む前にアサシンが消える。
エカテリーナ、肩付けにライフルを構えた姿勢のまま銃先を左下方に向け、一発のみを撃つ。その一発は銃声からして並々ならぬもので、その弾丸はアサシンの胴体深くにめり込んでいった。
さしものアサシンもこの一撃は効いたのか、ぐらりとよろめくが、何とか倒れず堪える。
エカテリーナはこの間にライフルを捨て、背なより太刀を抜き放つ。
「私が射撃しかできないと思ったら大間違いだ」
そのまま大上段よりの振り下ろし。こちらもまたやはり、躊躇だの何だのといった心持ちからかけ離れた、薩摩の一撃必殺剣のような豪快な一閃である。
「私に近接武器を持たせたらどうなるか身を以て教えてやる!」
たまらず下がるアサシンに、勇太が追いつき再び接近戦を挑む。かなりのダメージを負っているだろうにアサシンの動きに乱れはまるで見られず、そのディアボロとは思えぬ見事な戦いぶりつい感心してしまいそうになる勇太。
とはいえ、もっと感心すべき対象は居た。
あれだけ大見得を切って敵対行為を行ったはずのエカテリーナは、近接を離れるなり再びその姿を闇に沈めたのだ。
見た目にもデカイ金髪ねーちゃんがこうもあっさり身を潜めて見せるだから大したものである。
程なくして、銃弾一発できっちり仕留めて見せたエカテリーナであるが、それまでの動きを見ていた勇太からすれば当然の結果であると思えたのだった。
叶伊は敵が四つに分かれると、内の一体を確実に引き寄せるべくその注意を引く。
最初こそ集中攻撃が決まったものの、流石にZOC無視のユニット相手に何時までも包囲が可能とは思えなかったのだ。
ただ、招いたその一体がマズかった。ド本命である本体で、四つに分かれた中で唯一、標的を一撃で仕留められる程の強力な一撃を持つ者だ。
相手が忍ぶ達人とはいえ、その必殺の気配を感じ取れぬ程、叶伊は腑抜けではない。
これに叶伊は、それまでに積み上げたもので対抗する。それは、予測。
長物対短刀である、速さの差は読みで埋めるしかない。下から、こちらの制空を無視する事で生じる一瞬の隙を狙って。
叶伊は何とその瞬間、斧槍から手を離したのだ。
下段よりのど元目掛けて伸びる刃、これを腕で受け止める。腕を殺せればそれでもいい、アサシンにはそんな目論見もあったのだろうが、生憎叶伊は武具の鎖を腕に巻いてこれを受けたのである。
そして全身の力を込めて握った左拳を、その横っ面に叩き込んでやった。
絶好の機会。
透次はありったけをここで振り絞る事に決めた。
大きく頭上へと振り上げた刀を、床が揺れる程の強さで一歩を踏み出しながら振り下ろす。
赤く輝く衝撃がアサシンへと放たれる。
赤色の衝撃波を放った透次は、そこで終わらず自らの体の限界に挑む。
何度も訓練を繰り返し最適化を計った所作にて踏み出し、踏み込み、構えを取る。
既に思考は動きの後ろだ。考えては間に合わない。やると決めたのなら、やり終わるまでの全てを反射で行う。必要なのはそれほどの速さだ。
間に合うかどうかもわからない、出来ると信じて踏み出し、踏み込み、突き出すまでが一挙動。
何と透次は、自らが放った赤色の衝撃波に、走って追いつきこれに被せるように連突きを放ったのだ。
動きの速さに定評のあるアサシンとて、このようなデタラメに対応出来ようはずも無い。
回避の動きすら見せられず、まるでかかしのようにその全撃をまともにもらったアサシンは、力なくその場に崩れ落ちる。
倒れたアサシンを見下ろし、透次は喜びでもなく安堵でもない顔で呟いた。
「……何とか、倒せたか……」