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マスター:
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/02/21


みんなの思い出



オープニング

 線路は人が多い場所程必要とされるもので。
 とはいえ人が多いという事はつまり、彼等の為の衣食住を満たす為の建物も多いという訳で、そういった場所で線路を通すのに必要な敷地を確保するのは難しい事だ。
 故に、地下鉄という存在が生まれる。その地に町が出来て数百年数千年なんて規格外の都市でもなければ、地下は概ね土と、あっても水ぐらいしかないものなのだから。
 そんな賑やかさを約束されたかのような地下鉄であったが、今ではこの路線を利用する者もいない。
 地上に目を向けてみても、数万という規模の人口を維持出来るだけの建造物を揃えておきながら、これらも今はただ風雪に晒され朽ちるのを待つばかり。
 寂寥といった言葉そのものな町の景色や地下鉄の線路にも、撃退庁所属、福沢清彦はこれといった感慨を持たず。
「最近、妙に俺に回される仕事多くないか?」
 感傷に振り回されないリアリストっぷりは、こうした仕事をしていく上で必要な事なのかもしれない。
 電源が死んでいる以上、当然地下鉄駅の構内は真っ暗で。暗視ゴーグルにしたところで光を増幅する装置であるのだから、まるで光が存在しない空間では効果は期待できない。
 支給品には赤外線照射装置付きのタイプもあるが、戦闘、それも近接戦闘が予想される状況でこれを命綱にするのは怖すぎる。怖すぎるのだが、福沢はその赤外線照射装置付き暗視ゴーグルを用いて地下鉄構内を音も無く走る。
 階段の横にある関係者以外立ち入り禁止の扉を、何処から入手したものか合鍵を用いて開く。
 この時、錆びた鉄同士がこすりあう嫌な音が響くと、福沢の心臓が盛大に跳ねてくれるが、どうやら問題は無かったようで。
 中は高さ二メートル弱の縦長い鉄箱が幾つも並ぶ不思議な空間。福沢は記憶している配置図を思い出しながら目当てのものを探す。
 今福沢が確認している細長い鉄箱、配電盤は一帯の地下鉄路線の照明を管理するものだ。
 不慮の事故に備え発電機がついているのでこれさえ動けば、町中の人間が避難して久しいこの地下鉄でも照明を付ける事が出来る。発電機への燃料補給は、ここらはディアボロの出没地域である為エライ苦労したが既に終えてある。
 回路の導通を一々確認して問題無しとの結論を出すまで、この部屋に侵入してから六時間かかった。
 終わった後は流石に一息入れたくなった福沢だったが、用が済んだのなら一刻も早く立ち去るべきで、頭を一つ振って甘えを頭から放り出すと、福沢は地下鉄の駅を脱出した。

「という訳でだ、作戦中は地下鉄線路の中は灯りがついてるから、一応暗視装置は支給しておくが用心の為って程度だ。敵は暗闇を好むタチらしいしな、光は敵を弱らせ、こちらを優位にしてくれるだろう。だからこそ、もし敵さんが照明ぶっ壊して暗闇の中での戦闘を強いられそうになったら、迷わず逃げて来い。そいつだけは絶対に約束してけよ」
 軍人というものは、概ね何時も送り出される側であるからして、こうして送り出す側というのはやはり、あまり慣れるものではない。
 資料を幾ら作っても、下準備を幾ら丁寧にしても、何処かで漏れがあるのではと思ってしまう。作戦準備の漏れなぞあって当たり前の事で、自分が行くのならば現地で如何に対応するかを考えておくのだが、他人に行かせるとなれば一から十まで揃えておかなければならない。
 いや、他の連中はそこまではやっていないのもわかっている。だが、自分がさんざそれで苦労した事を考えると、どうにも手を抜く気になれないのだ。
 細かな説明を一時間近くしたあと、福沢清彦は依頼を受けて集まってくれた久遠ヶ原の撃退士達に、歴戦の戦士でもある彼等に、最後に余計な一言を付け加えた。
「あまり、無茶はしてくれるなよ」

 福沢清彦が命じられた任務は、ゲート外避難地域である町の地下鉄路線を根城にしているディアボロ退治である。
 当初本部が期待していた作戦は敵をおびき出しての殲滅であったが、現地の地図を見た福沢は、それでは成功率が低いと考えた。
 そこで本部に抗議するではなく、別の作戦を考えてしまうのが彼の非凡な所である。
 地下鉄線路が暗いのが問題ならば明るくしてしまえばいいと、発電機に燃料を運び込み作戦時間中地下鉄路線中の電気をつけるという、慎重なんだか無謀なんだかわからないような作戦を立案し、上に通したのだ。
 福沢がわざわざそうした理由は、手にした情報から類推される敵の強力さである。
 十数体で群を成して襲い掛かる様はまるで津波か何かのようで、初手の対応を誤れば容易く飲み込まれてしまうだろう。
 ただ、それだけならばきちんと陣形を保っていればいい。こいつ等はこの厄介な雑兵の他に、主力ディアボロを四体擁しているのだ。
 それぞれに特色があり、物理戦闘を得意とする者、剣術に長けた者、様々な術を使う者等、己が得意を上手く用いて立ち回る程度の知能もある。
 こうした特化型のディアボロは、ツボにはまると手に負えなくなる。だからこそより成功率の高い作戦を考えた福沢であったが、全ての準備が終わった後、彼はようやく最初に資料をもらった時に思った疑問に対し、つっこむ余裕を持つ事が出来た。
「四体のディアボロの名前、な。まあ、最初の一体『生身』はまだいい。良くはないが、一応外見的特長を表わしてるって好意的に受け取る事も出来る」
 資料によればこの『生身』は女性ボディビルダーそのものな外見らしい。後すげぇタフだとか。
「だがな、次の『殺意の百合』って何だよ! 名前から外見も能力もまるでイメージ出来ないだろうが! てかこれディアボロにつける名前じゃないだろ!」
 『殺意の百合』の得意は抜刀術らしい。この名前からは刀を用いるという事すらわからない。
「んでだ。次はもう名前ですらないだろこれ。『変ティー』て。何かの略称なのか? そもそも日本語であるかどうかすら疑わしいぞ」
 ちなみにこの『変ティー』は、変なティーシャツを着てるの略らしい。
「そして最後おおおおおおおお! 『アメリカンファックイエア』って明らかに日本語じゃねないよな! てか英語であったとしてもやっぱり意味がわからんだろうがああああああ!」
 自分の言いたい事を一番最後に回す、福沢清彦はまっこと軍人の鏡と言えよう。


リプレイ本文



 福沢より作戦内容の確認を聞いた小田切 翠蓮(jb2728)は、その慎重さに思わず苦笑を漏らす。
「福沢殿も用心深い男よのう。まぁ、我等としては有り難い事ではあるが……」
 地下鉄入り口から中を覗き込みながら福沢は返す。
「性分でな」
 そんな話をしてる二人の後ろでは、法水 写楽(ja0581)と狩野 峰雪(ja0345)が、福沢が用意してあった敵の写真を見ている。
 写楽は写真を指先でばしばし叩きながら文句を述べる。
「女性型のディアボロはワカル。色々と能力に特化してるのもまだワカル。ただ……容姿がマッチョとか全然分かんねェよ!! 女性型なら、強いて言えばアメリカン以下略の容姿を基本にだな……」
 要は愚痴だが、福沢は一々返事をしてやる。
「俺が作ったわけじゃない。後用途を考えたらむしろマッチョのが有用だろ、どう考えても」
 峰雪は峰雪でこちらは名前の方に文句があるようで。
「随分とセンスのいい人がいるものだね」
「…………。」
 嫌味はスルーな福沢さん。しかし連撃には口を出さずにはいられなかった模様。
「軍人さんも、日々の激務で大変だろうから、きっとお疲れなのかもしれないね」
「……担当者を問い詰めたら、何かのゲームのキャラの名前だそうな。そんなもんから名づける奴も奴だが、そもそも元ネタアリってどういう事かと……」
 クレメント(jb9842)は、とはいえ、と注釈をつける。天魔が名づけた別の名前があったとしても、やはりそちらにもセンスは期待出来ないだろう、と。
 元天魔の台詞である。福沢は複雑そうな顔で振り返り言った。
「実に、人間臭い話だ」

 終夜・咲人(ja2780)は福沢と並んで地下鉄駅へと、皆に先んじて潜入する。二人で手分けして敵検索を続けながら進路を確保。皆を招き入れる。
 配電盤のある部屋まで辿り着くと咲人はここで福沢と別れる。福沢は小声で呟く。
「……少し意外だったな。お前達はこういうの苦手だと思っていたんだが」
 咲人は福沢の褒めてるんだか何だかわからん言葉に、つっけんどんに応える。
「無駄口叩いてんじゃねぇ。点灯のタイミングは出すから外すなよ」
「はいはい」
 暗闇の中でも咲人の足元に不安は見られない。
 歩くというよりは滑るように通路を進み、駅のホーム、そしてその先の線路内へと。
 咲人が小さく手招きし、残るメンバーが配置につく。この暗闇の状態で狙えるのは咲人のみ。両手で愛用のモーゼルをゆっくりと構える。
 しんとした静謐の中、咲人の放つ銃の音は殊の他大きく響いて聞こえた。
 すぐに、がこんという音と共に地下鉄線路中に灯りが燈る。
 うろたえる敵集団の中で、変なTシャツを着た奴が頭を抑えてふらついているのを見て、咲人は口の端を上げる。
「ドンピシャ、ってな」

 突然の照明に混乱する敵集団。これに対し、撃退士達は強力な先制攻撃を試みる。
 刃の雨が、高速の隕石が、貫く衝撃が、銃弾が一斉にディアボロ達へと襲い掛かる。
 線路の砂利が、砕けた枕木が、埃や塵やらが舞い上がり、アウルの嵐でかき混ぜられる。
 これで終わったのでは、と思われる程の集中攻撃であったが、巻き上がった埃の中よりまず真っ先に兎達が飛び出して来た。
 知能が低い故に単純な兎の方が立ち直りが早かったようで。
 なし崩しに乱戦となるのだが、数の利を活かし、獣の蛮勇を駆使した兎が動き回るせいで、瞬く間に撃退士達の陣形は崩され、前衛後衛の枠は失われてしまう。
 そんな中でも翠蓮は落ち着いた様子で、武威より美しさを優先したかのような斧槍の柄尻で、床を小さく叩く。
「兎達がお出迎えとは。いつの間にやら月世界に迷い込んでしもうたか?」
 柄尻を中心に四方へと伸びるアウルの輝きは正四角形を作り上げると、その内なる味方に穏やかな加護を与えてくれる。
 そして翠蓮は、一斉攻撃を行う以上兎達はある程度固まっていなければならないという点を突く。
 突進し、攻撃を仕掛けた後は対象の後方へと駆け抜ける兎達。そして次なる標的を狙い方向を変える瞬間、そこに、再び範囲攻撃を仕掛ける余地があった。
 翠蓮が片腕で長大な斧槍を苦も無く横凪に振るうと、斧槍の軌跡にある中空に無数の刃が生じる。
 それらは並の刃ではないようで、線路の照明を受け紫に緑に或いは黄色へと色を変え薄く淡く発色する。
 まるで斧槍ハイドロリックの美しさに引かれるように瞬く刃達は、翠蓮の合図一つで兎達へと襲い掛かる。その瞬間が、最も美しくあった。
 七色に輝きながら次々と降り注ぐ刃。兎達は二度この洗礼を受けると、ようやく固まっての行動は危険と判断する。
 バラバラに散っていく兎達に、年配者コンビのもう片方、峰雪がお見事とこれを活かして動き出す。
 手には一丁の銃。
 峰雪は口の中だけで、小さく呟いた。
「早撃ちには、多少自信があるんだ」
 兎の一匹が、床を蹴った瞬間に一発ぶちこむ。次の一匹が前衛の後方に回り込もうとするのを一発撃ちこむだけで止める。
 自らの背後に回りこんだ兎を脇を通して真後ろを撃ち仕留め、同じく背後下方より駆け寄る兎を低い後ろ回し蹴りで払い上げ、空中に舞い上がった所を撃つ。
 前方より飛び込んで来た兎の頭部を、銃を持つのとは逆腕でアイアンクローの如く掴み止め、逆方向より飛び込んで来た兎の眉間を射抜く。すぐに掴んだ兎を放し、そちらにも一発を。
 次の兎は既に至近距離に。咄嗟に身を伏せ、右手に持った銃を左手に放りながら右手の親指を下から兎の喉元に突き刺す。動きの止まった兎の顎に一発、二発。
 動かなくなった兎を盾に次の、更に次の兎を防ぎ、三匹目は兎の遺体を投げ捨てながら跳躍。飛びかかる兎の頭部を踏みつける程の高さにまで。
 そして上から三連発。着地するとそこで一息。
 一斉範囲攻撃の後とはいえ、仕留められたのは二体のみ。
 小さく嘆息した後、峰雪はゆっくりと周囲を見渡す。その挙動に兎は警戒しつつも再度突入を。
 峰雪の足元を薄い霜が覆っている。霜は徐々に範囲を広げ、拡大し、兎達を飲み込んでいくがコレが仲間を傷つける事は無い。
 何体かは、この凍気に晒され動きを止める。
「おやすみ、ゆっくり眠るといい」

 不知火あけび(jc1857)が対峙するは、殺意の百合と呼ばれる刀使いのディアボロだ。
 資料にあった居合い使いとの言葉通り、百合は納刀状態のままあけびとの間合いを詰める。
 間を計っていたあけびは、突如手の内に闇を生み出し放つ。百合は一切の油断無くこの一撃を避けるが、その背後から鈍い悲鳴が。この一撃は別の敵兎を狙ったものであった。
 そちらに百合の注意が逸れた瞬間、あけびは勢い良く百合の間合いへと踏み込む。
「尋常に勝負!」
 その言葉が通じた訳でもあるまいが、百合は反応の遅れも構わず抜刀。避けえぬ、と受けに回したあけびの刀が悲鳴を上げる。最悪刃が触れるのだけは防いだが、その威力をモロに腕に打ち付けられてしまう。
『剣筋に乱れなし! 強い……!』
 腕が悲鳴を上げるのを無視し、強く押し出す事で打ち込まれた百合の刃を弾き、体勢を崩す。
 一度止めてしまえば、抜刀術の刃なぞ怖るるに足らず。
 下段よりの逆袈裟が百合を切り上げる。上体のみを後方に下げ、仰け反りかわす百合。あけびの連撃、兜割りに振り下ろす一撃を今度は身をよじってかわす百合。そこで、あけびの背筋がぞくりと冷える。
 上体のみで回避を行い強い下半身を維持したまま、百合は再度の納刀を済ませているではないか。
 そして気付く。百合の全身より黒い瘴気が漂っている気配に。
 あけびの周囲を、風が吹きぬける。
 一閃。百合の刃が下方よりひらめき、あけびの銀閃が上方より降り注ぐ。
 倒れたのは、百合の方であった。勝敗を分けたのは見たか否か。
 百合の居合いをあけびは見たが、あけびの袈裟を百合は見た事が無かったのだ。

 翠蓮の蟲毒の術は、確実に生身にその効果を与えていると確信出来た。
 元体力が大きく防ぐ能力に長ける生身に対し、この術はより効果が高いのだが、少なくとも見た目からその効果を感じえる事はまるで無かった。
 そんな雄々しきマッチョレディを真っ向より受け止めなきゃならないハメになった写楽は、両手持ちの大剣をゆっくりと振るう。
 乱暴に振り回すのではない。剣先にまで神経が行き届いているような、拙速さはなく優雅さすら感じられる動き。
 素早く振り、大きく動き、細かくまとめる。
 生身は写楽のペースが掴めず、翠蓮の継続的な援護があるとはいえ、写楽は地力的には格上の生身と互角以上に渡り合っていた。
 相手の戸惑いが見て取れた写楽は、やっぱりかとほくそ笑む。
『ディアボロにゃ七五調は理解出来ねーか』
 生身状態不利のまま互いに削り合いとなり、写楽は表面上は余裕の表情のまま、内心いつ対応されるかとひやひやしながら戦闘を続ける。
 元々近接戦闘より中距離での撃ち合いを狙っていたのだが、生身には牽制がまるで効かないのでその接近を防げなかったのだ。
 それでもどうにかこうにかその体力を削りきり生身を倒し、自らもほぼ出涸らしとなった写楽は、その行動を特に意図があってやった訳ではない。
 自分の肩に手にした大剣を担ぎ、ふうと一息つく。
 それが歌舞伎で良くある殺陣のラストであると気付いた写楽は、自らの仕草に思わず苦笑してしまうのであった。

 焔・楓(ja7214)が手にする武器朱華布槍は、槍と名が付くが極めて特異な武具であった。
 先端に錘の付いた布、といった表現が一番適切か。槍というよりは中国武術で用いる流星錘がより近かろう。
 そんな珍しすぎる武器を楓は器用に操り、上から下から斜めからと縦横より攻めたてるのだが、変ティーはそれら全てを危なげなくかわし続けていた。
「うー、ふらふらと避けるんじゃないのだ! 足を止めて当たるのだ!」
 嫌ですー、とばかりに変ティーからの衝撃弾が楓へと。楓は手首を返し、布を正面に円状に展開して防ぐ。
 すぐに全身を回転させる。楓の挙動は布を伝ってその先の錘を動かし、波打つように先端が変ティーへと伸びる。
 変ティー、くるりと横に一回転してかわし、伸びた布に沿いながら踏み込んでくる。
 楓が腕を振ると、伸びる布に大きな波が一つ生じる。これから離れるように変ティーが動いた所で、楓の目論見は果たされる。
「いったのだ!」
 楓の誘導に誘われた変ティーは、モーゼルを両手で構える咲人の真正面に飛び出す事になった。
「あいよ、任せな」
 再びその頭部を銃弾で強打された変ティーに、楓はたった今切れた集中力を再度研ぎ澄まして狙う。 
 敵が崩れたと見るや一気呵成に攻めかかる。この辺りの動きは考えてのものではなく本能的なものであろう。
 咲人は走って位置を変えながら変ティーに銃撃を続ける。これと、楓は全く連携を取らぬままに変ティーを攻める。連携を取らぬが故に、変ティーは二人の攻撃にリズムを見出す事が出来ない。
 少しづつ、変ティーの回避が破綻していく。
 最後は、縦横に動く布槍の動きで幻惑しておいての楓の飛び蹴りを顎に受け、変ティーは倒れるのであった。

 クレメントの持つ長物である斧槍は、アメリカンファックイェアに対しては逆に使い辛い武器となった。
 何せ小回りが効き、あっという間に懐に入り込まれるのだから、逆に斧槍の長い間合いがクレメントにとって不利に働く。
 それでも引かず、斧槍の柄を棍のように用い乱打される拳を受けて止めるクレメント。
 相手は拳だからと力任せに柄を押し付けているのだが、アメリカンの拳からは鋼より硬そうな感触が返ってくるのみだ。
 それでも耐える。引かず、下がらず、前へと進む。
 フローライト・アルハザード(jc1519)が援護の鎖を飛ばす。致命的な状態になる前に、この鎖がクレメントとアメリカンの間合いを引き剥がしてくれる。
 アメリカンはこのせいでクレメントを崩せず、苛立たしげに声を上げると、兎が数体こちらに援護に駆けて来る。
 フローライトがこの対応に向かおうと動きかけた所で、クレメントはアメリカンの前から戦闘開始以来初めて下がった。
 その目がフローライトへ言っている、後は頼むと。
 それでフローライトもようやく察した。クレメントは無理にアメリカンの得意距離での戦闘を続ける事で、その動きを距離を置いて援護するフローライトに見せ続けていたのだ。
 フローライトは、ならば先に言えば良いだろうに、と思ったが同時に、言われたとて不要だの一言で済ませてしまうだろうとも思えたので、これはこれで正解か、と何処か他人事のように考える。
 前へと出たフローライトに対し、アメリカンは凄まじい速さで踏み込む。が、その動きは既に見た。
 フローライトの布槍が翻ると大きく広がって、アメリカンの視界を奪う。
 動きの止まったアメリカン。次の瞬間布が消失し、今度は鎖が弧を描き襲い掛かる。スウェーバックでかわし、届かぬ距離で拳を握るアメリカン。
 そんな苦し紛れな攻撃なぞ通じる訳もなく、槍布が螺旋を描いて伸び、アメリカンより放たれたミサイルパンチと正面より激突し完全にコレを防ぎきる。
 爆煙に紛れアメリカン再度の突進。しかし煙を切り裂いて伸びた白光を放つ黒鎖が胴を強打し足が止まる。
 白光はフローライトの意思に応え更に輝き、まっすぐに伸びた鎖はまるで生き物のように動きを変え、アメリカンの頭上より襲い掛かる。
 頭頂に痛打を受けながら、アメリカンはそれでもと前へ走る。フローライトがそう操ると鎖はあっという間に手元に戻り、アメリカンへ再びまっすぐに伸びる。
 アメリカン、走りながらこれをかわす。否、波打った鎖は円を作ってアメリカンの首に巻き付き前進を止めてしまう。
 そのままアメリカンを振り回し、壁面へと叩き付けるとそこでフローライトは攻め手を止めた。
 クレメントがお任せを、と小さな流星を叩き込もうとするのが見えたからであった。


 全ての敵を倒すと、咲人はようやくかと口にした煙草に火をつけながら、福沢に文句を付ける。
「……アンタは何だってこう面倒な敵ばっか引き寄せて来やがるんだ」
「俺に言うな。好きで選んでる訳じゃない」
 とはいえ、と続ける福沢。
「楽な仕事はまあ、他の連中がやっちまうだろうからなぁ」
 けっ、と煙と共に吐き捨てる咲人。しかし写楽はというと、福沢の準備を評価したようで礼と共に上機嫌に声をかけている。
 二人の対応の差は、別に敵が女ばかりだったもんで、女性が得意か不得意かで分かれている訳ではない、だろう、きっと。
 最後に福沢は満面の笑みで言った。
「これで、この意味のわからん不愉快な名前ともおさらばって事だ。重畳重畳」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
撃退士・
法水 写楽(ja0581)

卒業 男 ナイトウォーカー
撃退士・
終夜・咲人(ja2780)

大学部7年285組 男 インフィルトレイター
パンツ売りの少女・
焔・楓(ja7214)

中等部1年2組 女 ルインズブレイド
来し方抱き、行く末見つめ・
小田切 翠蓮(jb2728)

大学部6年4組 男 陰陽師
優しさを知る墜天・
クレメント(jb9842)

大学部4年265組 男 アストラルヴァンガード
守穏の衛士・
フローライト・アルハザード(jc1519)

大学部5年60組 女 ディバインナイト
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍