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マスター:
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/06


みんなの思い出



オープニング

 熊沢炉蛇亜(くまざわロジャー)は、そのゴツそうな名前とは裏腹に小心者であった。
 挑戦を好まず安定を求めながらも、手間と労苦を厭い、ほんの僅かでも楽をして物事を成し遂げようと考える類の男であった。
 それでも、そんな事は程度の差はあれ誰しもが考える事だ。
 ただ熊沢ロジャーは、こうして考えた事を他人の迷惑を顧みず実行に移してしまう、そんな男であり、彼が当人の希望とは裏腹に何処に行っても嫌われるのはそういった部分が影響している。
 それだけならばただの嫌われ者で済むのだが、特に腕っ節が強いでもないロジャーは、立場の強い者にへりくだりその仲間に加わる事で、立場の弱い者に対して理不尽な要求を突きつけ何かにつけ得をするように行動していた。
 その辺りの立ち回りの上手さは、他人に好かれる事を代償にでもしているのかそれはそれは見事なもので、学校では彼を好いている者など一人も居ないというのにそれなりに過ごし易い生活を続けていた。
 そこに、悪魔が来た。

 悪魔は逃げ遅れた生徒達の前に、一本の剣を突き立てて言った。
「よし、この中で一人だけ助けてやろう。最初に仲間である人間を殺した奴だ。さあさあ早い者勝ちだぞ」
 そんな事を言われて即座に動ける者なぞ居るはずもない。皆恐怖に震えながら周囲を見渡す。率先して剣に近寄ろうという者は一人も居ない。
 悪魔はとんとんと爪先で地面を叩く。
 言葉にはしなかったが、皆を促しているのはわかる。
 この悪魔の強さはこの場に居る全ての者が認識している。全員が一斉に飛び掛っても鼻息一つで吹き飛ばされるだろう、それほどに差がある。
 それでも、やはり、動ける者は居なかった。
 誰もが前線より離れた安全域と思われていたこの場所まで悪魔に踏み込まれた、撃退庁への悪態を飲み込みながら恐怖に硬直したまま。
「ふう、ここでもか。まあ仕方が無い。人間とは得てしてそういう……」
 生徒達の一人が、剣の方へと進み出て来た。
 精神の均衡でも崩れているのか覚束ない足取りでふらふらと。
 悪魔は満面の笑み。
「そうそう、そうでなくては」
 その図体のデカイ男は剣にはまだ十歩以上ある所で足を止め、自分の背中に手を当てる。
 男の手の平には、べっとりと赤い血の痕が。
「なん、だよ、これ?」
 先に出た男に続くような形で、熊沢ロジャーが前に出る。その手にはカッターナイフが握られていた。
「最初に殺せば、いいんっすよね?」
 ロジャーは驚いた顔のままのその大男の首筋に、カッターナイフの刃を突き立てた。それも一度ではなく何度も何度も。
 流石の悪魔もこの展開は予想していなかったようで、目を大きく見開いたまま。
 しかし大男が動かなくなっても、まだ彼にナイフを振り下ろし続けるこのロジャーを見て。
 大男を、ざまあみろ、いつも偉そうにしやがってクソが、地獄に落ちろ、俺をなめるとどうなるか思い知れ、などと罵るロジャーを見て。
 やがて堪えきれぬと、大笑いを始めた。
「はっ、はははははははっ! お、おっまえ、面白いぞお前! そうだな、助けてやるのは最初に殺した者だ。なら別に剣は使わんでも構わんなぁ。いやいや、お前のような人間は始めて見たぞ!」
 ロジャーに歩み寄り、拳を握って軽くその胸をつく悪魔。
「我等の仕事を手伝えるのは、お前のような同族相手でもまるで躊躇をしない者だ。大変、結構。おい、残りは全部トラックに乗せろ。そろそろ撃退庁の連中が動き出すぞ、急げよ」
 悪魔の配下らしい黒い影がわらわらと沸いて出て、残った生徒達を残らずトラックの荷台へと放り投げる。その扱いは、人間に対するそれではなく貨物に対するものだ。
 ロジャーは悪魔が自分用にと用意していたらしい車(何故かジャガーを所持していた)の助手席に乗せてもらえ、今後の扱いについての説明を受ける。
 人外の力を持つ恐るべき悪魔。
 にも関わらず、ロジャーは今、生まれてこの方感じた事もないほどの幸福感に包まれていた。
 人間の域から大きく外れるレベルの強者と邂逅し、その側に仕える事を許してもらえたのだから。
 それは、これまで自分が強いと思って下手に出続けていた相手なぞとは比べる気すら起きない、それまでの人生で出会った全ての存在よりはるかに強い、つまり、彼に従っていればこれまで出会った全ての者を、自らの足元にひれ伏させる事が出来るという事だ。
 こうして熊沢ロジャーは、人である事をやめた。

 それからのロジャーは必死に悪魔達の為に働き続けた。
 ディアボロと化したロジャーであったが、彼は悪魔がそうしむけたせいで、人間であった頃の記憶知識をほぼ完全な形で持っており、ディアボロになったからとて人間性に著しい変化も見られない。
 それは、他のディアボロと一線を画すロジャーの優位点となった。
 特に、人間をハメる時にロジャーの存在は重宝する。ロジャーはその思考も、そして何と外見も人間そのものなのだから、人間を罠に陥れるにこれ以上の適任がいようか。
 あの手この手で人間をさらって回り、主から大いなる賞賛と報酬としての更なる力を受け取る。
 気前が良く誰もが疎んじたその人間性をこそ評価してくれる上司に、オツムが足りず幾らでも口八丁で優位に立ち回れる間抜けな同僚、そして殺しさえしなければ何をしても許される下等生物ドモ。
 ロジャーはこここそが自分の居るべき場所だと確信する。
 わが世の春は、悪魔の元でこそ花開くものであったのだ。


 その日もロジャーは人の領域に忍び入り、壁をすり抜け建物の中に潜み、予め購入し駐車場に置いておいた幌つきのトラックに乗り込む。
 これは正規の手段で手に入れたトラックであるし、誰憚ることなくロジャーは乗り回す事が出来よう。助手席前のダッシュボードには免許証から始まって車をぶつけた時の為の保険書類一式まで揃えているのだから恐れ入る。
 この辺の知識はロジャーのものではなく、とっ捕まえた人間から聞き出したもので、ロジャーの強みは、そうした人間らしい細かな機微に長じている所である。
 鼻歌交じりにトラックを運転するロジャーは、標的である幼稚園に向かう。
 知恵を働かせる事もない子供が相手ならば、ただ脅せばそれで済む。
 下調べも万全。後は現地に着いたらトラックに乗せている兵隊達に任せればいい。実行段階ではそんな楽な仕事であった。

「貴方、人間サマをなめすぎなんですよ」

 標的である幼稚園の広い前庭にトラックが乗り込み、ロジャー配下の真っ黒人間が五人荷台から飛び降りる。
 ロジャーも運転席から降りた所で、彼は自らがハメられた事を悟る。
 幼稚園の中から出て来たのは、無力な幼稚園児とは似ても似つかぬ、撃退士達であったのだから。
 遠間からこの様子を眺めていた撃退庁の職員は、後は任せるか、とその場より立ち去る。
 ロジャーにより拉致された人間の中に、この職員の学生時代の友人が居た。
 良くしゃべり良く笑う陽気な娘だった。体育祭の時、共に準備委員をやって以来仲良くなった相手だ。
 卒業してからは疎遠になっていたが、だからと友情が薄れたつもりはなかった。
 それでも尚、職員は必要以上の感傷を持たぬよう自分に言い聞かせ、職務としての範疇以上の事はしなかった。
 消防隊でもレスキューでも何処でも一緒だ。
 身内は、最後であるべきなのだから。


リプレイ本文

 ロジャーの黒人間への攻撃命令に被せるように、Robin redbreast(jb2203)の攻撃術が炸裂する。
 無数の隕石の欠片がロジャー達を襲う。重苦しい衝撃音、舞い上がる土砂。対人ならば必ずあっただろう悲鳴は、ロジャー一人分のみであった。
 またほぼ同時に小田切ルビィ(ja0841)の剣閃がロジャーを貫く。これは遠間に居るルビィが、突き出した大剣の先より放たれた鋭い衝撃波で、ロジャーごと後ろの黒人間をも打ち抜いたという事だ。
 放った後、へえ、と感心したような顔になったのは、常の一撃より剣に乗せたアウルが伸びてくれた気がしたからだ。
 玉置 雪子(jb8344)がRobinの攻撃術とほぼ同時に、ルビィに支援の術をかけてくれていた。

 ルビィの剣閃により、Robinの術で巻き上がった土砂は円状に吹き晴れており、この中央をルビィは駆け抜ける。
 袈裟に振りかぶった大剣に対し、ロジャーは驚き慌て反応が遅れる。避けられない、ので、止める。
「なんとおおおお!?」
 両手で挟み込むようにして大剣を白刃取るロジャー。こう出来る彼の身体能力反射能力は並の撃退士を軽く凌駕しよう。
 力比べになりながら、ルビィはロジャーをせせら笑う。
「今時。戦隊物に出て来る『悪の秘密結社』だって、幼稚園を狙ったりはしねーぜ?」
「最近は保護者のミナサマがうるせーからだろ。こんな有効な手使わない方がどうかしてるぜ」
 こうしてロジャーがルビィの動きを止めている間に黒人間に囲み殴らせる、そんな意図があったのだろう。だが、その頃命令を受けた黒人間はというと、敵がわからなくなってとりあえずで身近な相手である同じ黒人間に襲い掛かっていた。
「…………は?」
 ロジャーの力が一瞬抜けた隙に、ここぞと体重を込めるルビィ。大剣は手の平をすりぬけロジャーの頭頂に直撃する。
 それがガコンという衝突音であるあたり、かなりの防御能力を持つ相手だというのはわかる。
 そこで終わらず、懐よりカッターナイフを抜き放ち、同時に六連撃をルビィへと見舞い後退させる事に成功するロジャー。
 次の動きを読んだRobinの魔術がロジャーを拘束せんと狙うが、足元に這い寄る黒影を力づくで引きちぎって一足飛びにこの場を離れる。
 目指すは乗り込んできたトラック。あれと思う間もなくこれに乗り込み、キーを回そうとして手が止まる。
 キーが刺さってない。何処にやったかと焦りながらポケットをまさぐる。そんなロジャーの視界の片隅に、トラックから少し離れた場所に居る雪子の姿が。
 彼女はその手に、トラックのキーをこれみよがしにぶら下げていた。
「てめえ!」
 トラックの中なので雪子が何を言っているのか聞こえない。だが、わかる。こちらを指差しながら、ものっそい愉快そうに笑っているのだから、これはもう考える余地はない。
 NDKしながらpgrってる以外ありえまい。
 怒りと共にトラックのドアを開いたロジャーの耳に、こんな言葉が聞こえて来た。
「くやしいのうwwwくやしいのうwww」
 完全にキレたロジャーが雪子へ飛び掛る。
 稲妻のような鋭いナイフでの突きを、雪子は両腕を鷹を模すかのように広げ片足で立ちながらかわす。
「いいですよ」
 次に、袈裟に斬りかかるのを両手を左右斜めに広げ低く屈んだ姿勢で避ける。
「あなたが何でも思い通りに出来るっていうんなら」
 縦に斬り裂きにかかるのに対し、真横に飛んでロジャーの視界からすら外れきる。
 振り向いたロジャー。その視線の先で雪子は両腕を体の前に構えながら立っていた。
「まずはそのふざけた幻想をぶち殺してあげましょう」
 勿論、こんな馬鹿げた行動にも意味はある。ロジャーの逃走速度はどうやら想定を遥かに上回るもの。それを、阻止せんとする意図あっての事だ。
 実際この後も挑発に乗って、残るメンバーがロジャーを包囲するぐらいまでは、回避能力に長けた雪子に絡んでいてくれたのだから。

 古来、包囲殲滅は兵法の基本中の基本である。
 八方よりの射撃により、ロジャーの耐久力は見る間に削られていく。退却の機を逸したロジャーであったが、事ここに至っては挑発だのに構っている余裕なぞなく、必死に逃走にかかる。
 ルビィは仕掛けながらロジャーに話しかける。
「おいおい、熊沢ロジャーさんよ? アンタ、主人のお気に入りらしいが」
 必死に逃げ道を探るロジャーは、言葉を返す余裕も無い。
「――どうしてヴァニタスじゃなくて、基本使い捨てのディアボロなんだ?」
「あ?」
 聞き捨てならない台詞であったのか、ロジャーはルビィを睨む。
 するとフィオナ・ボールドウィン(ja2611)が呆れたような声をかけてきた。
「なんだ、気づいておらなんだのか……哀れなものよな」
 舌打ちし、近接し動きを封じに来たルビィを蹴り飛ばすロジャー。一瞬、ロジャーへの攻撃が途切れる。
 フィオナは愉悦の笑みと共に告げた。
「まあ、もう気にすることもあるまいよ。貴様はもう、逝くのだからな」
 近接が全て退避した事で、ロジャーへの攻撃に識別は必要無くなり、より強烈な集中攻撃が襲い掛かる。
 それでも攻撃煙を突き抜けて、ロジャーは必死に包囲を突破にかかる。そして最後の最後にて必殺の刺し穿つカッターナイフにて強引に道を作り、包囲を抜けた。

 撃退士達にはそれでも焦りは無い。ロジャーには充分に損傷を与えているし、そも、追跡手段は用意してあるのだから。
 飛翔可能な撃退士は翼を用いて空へと舞い上がる。雪子は、さてこちらはどうするか、となった所で奇妙なものを見てしまった。
「ん」
 ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)が、空に向けて両手を広げ掲げ上げていた。
 じーっと空の一点を凝視しながらそうする様はさながら、
「……大宇宙の意思とでも交信してるんですかね?」
 更にベアトリーチェは、両腕を掲げた姿勢のままで、背伸びをしてつま先立ちになる。
「んー」
 表情は一切変えぬまま。何故か片方の手には髑髏を持ったままで、更に更に爪先立ちでは飽きたらず、ぴょんぴょんと跳ね始めるではないか。
「そろそろ儀式は佳境ですか」
 そして召喚の儀に応じて、天より紅 鬼姫(ja0444)が降りて来た。
 急ぎの追跡でもあったのだが、鬼姫は特に嫌な顔をするでもなくベアトリーチェの膝裏と背中に手を回して一息に抱え、飛び立って行く。
 儀式中は全く無表情であったのが、お姫様だっこの時だけはほんのり頬を赤らめているあたり、一応人並みには乙女オーラを携えてはいる模様。
 雪子は、最後に締めの一言。
「かくして少女は大人の階段を昇っていったそうです」

「空飛べる奴多すぎだろ!」
 そんなロジャーの愚痴にも、影山・狐雀(jb2742)が手加減をしてやる義理は存在しない。
「どんどん爆撃しちゃうのですよー」
 手の内に生じた符を上空より打ち下ろす。その逆より遥かに命中精度が高いのは、地面を走るロジャーには、距離を測る比較対象物が山程あるおかげである。
 上空からだと、仲間達が何処にどう展開しているのかが良くわかる。
 そして空からの爆撃は反撃を受けにくく攻撃はしやすく、誘導には最適だ。
「僕の爆撃を食らうのです! こういう戦い方はなれているのですよ!」
「うっせー! てめー次会った時は覚えてやがれよ!」
 ロジャーが足場にしようとしていたブロック塀を、先んじて狐雀の符が砕く。バランスを崩したロジャーの頭上に次なる符が。咄嗟にロジャーはマンホールの蓋を持ち上げ盾となす。とんでもない膂力だ。
 爆発で地面に叩きつけられたロジャーは、憎憎しげに空へと怒鳴る。
「てめーは殺す! ぜってー殺してやるからな!」
「こ、怖くなんてない、ないですからねっ! 当たらないまでも邪魔が出来ればそれで良いのですー! しっかりと皆の援護をするのですよー!」
 ロジャーのすぐ真後ろで、クレール・ボージェ(jb2756)が、艶のある声で言った。
「ええ、それでいいのよ」

 クレールはロジャーの逃走を見ると、待ってましたとばかりに背中の翼を大きく広げる。
 数歩歩きながら風を見て、リズムを合わせて強く羽ばたく。体が上方へと引き上げられる感覚が、羽ばたく度に勢いを増していく。既に高度は充分ではあったが、クレールはそこから更に上空へと。
 高度ギリギリまで上がった後、弧を描くようにゆっくりと下降に移る。
 上昇時の風の切り方とはまた違った心地良さ。下降しながら羽ばたく事で左右に体を振りつつ、標的目指して一直線に。
 接敵寸前にくるりと体を回し、ただ突き抜けるではなく、勢いと衝撃を握った斧槍に載せ切りにかかる。
 ウェーブがかった髪が急な速度変化にたなびき、波打って広がる。
「ええ、それでいいのよ」
 声にというより、風の音に驚き振り返っていたロジャーと眼が合う。
 時間にしてコンマ一秒にも満たぬ間であるが、その僅かな間にクレールの微笑はロジャーの心中深くに沁み込んで行く。
 何故、今から殺してやると言わんばかりの勢いで斧槍を振りかざしながら、そんなにも晴れやかに笑って見せられるのかと。
 受けすら間に合わず、強烈な一撃がロジャーを打つ。
 もんどりうって転がるロジャーであったが、それでも尚、ロジャーは反撃を行う。無数のカッターナイフがクレールを刺し切り抉る。
 そのフォローは狐雀が。
 続く反撃を封じるように薄い刃のような何かがロジャーを狙う。転がって避けるロジャーの後ろの大地に、次々とコレが突き刺さっていく。
 転がりながら立ち上がり、さあ反撃といった瞬間、ロジャーの目の前に鳳凰が飛び出して来る。
 これ以上敵が増えてはたまらんと、ロジャーはすぐ近くにあった大きな洋館へと飛び込み隠れんとする。
 傷を負ったクレールは、意識を集中する事で体内の気の流れを抑制し出血を止め、上空の狐雀へ良くやったと微笑みかける。
「うふふ、罠にかかったと知ったらどんな顔になるかしら」

 洋館のエントランスは尋常ではなく広く、そこに飛び込んだロジャーはほっと一息をつく。
 しかしすぐに緊張を取り戻させられる。
「遅いぞ駒」
 フィオナが正面奥の階段をばか広いエントランスに向かいゆっくり降りて来ていた。
「てめっ! ……って、他に、居ない? は、ははははっ! 馬鹿かてめえは! 一人ならビビる事ぁねえ! ぶっ殺してやらぁ!」
 フィオナは武器を顕現させる事すらなく、腕を組んだままだ。
「たかだか駒が大きく出たな。だが、ちと度が過ぎた……所詮駒ゆえ期待してはおらんが、せめて散り様で我を興じさせてみよ」」
「ぬかせ!」
 ロジャーの頭上に生じた巨大なカッターナイフが、フィオナへ向かう。
 激突、炸裂。砕けるカッターナイフと、揺れる事すらないフィオナの嘲笑。
「……今、何かしたか?」
 慌てたロジャーは次に無数のカッターナイフを作り上げる。すると、フィオナもまたそれに倣ってか、背後に赤光を生みだし、そこより無数の剣が生え進んで来る。
 これが全て出きる前に、ロジャーは急ぎカッターナイフを打ち込むが、やはりフィオナの眼前でそれら全ては金切音と共に弾かれる。そして、無数の剣が全てその配置を終える。
「そろそろ飽いた。貴様とて無様を晒し続けるのも気分が悪かろう。存分に散るがいい」
 ロジャーのカッターがそうであったように、凄まじい数の剣がロジャーへと襲い掛かった。

 洋館よりこけつまろびつ逃げ出したロジャーを、すぐにベアトリーチェのフェンリルが捕捉、追跡を開始する。
 しかしこれまでと違うのは、ロジャーは決して反撃をせず、ひたすら逃げに徹しているという事。
 ただそれでもベアトリーチェとフェンリルの追跡を逃れる事は出来ぬ。高所に陣取ったベアトリーチェの指示により、フェンリルはロジャーの行こうとする先先を潰すように動く。
 そうやって制限された動きにより、鬼姫が奇襲を仕掛ける舞台が全て整った。
 ロジャーが気がついた時には、鬼姫の紅い小太刀がその首元に触れていた。
「ひぃいいいいい!?」
 悲鳴と共に仰け反る。間に合わず小太刀はロジャーの顎を強かに打ちつける。
 すぐに敵を探すが見つからない。代わりにフェンリルがまとわりついてきて、これから逃げるのにロジャーの意識が向けられる。
 そこに再び小太刀が、今度は黒い刃だ。
 首後ろ、うなじを狙った一撃を、体を揺らして背中で受け止めたロジャーは、ようやく敵の正体を悟る。
 地上を探しても見つからぬわけだ。敵は、姿を消し空中より急降下しながら襲い掛かってきていたのだ。
 しかし、見破ったとて問題は解決するわけではない。
 フェンリルの一撃に足を取られ(何処かしらから、今日の天気は足狙いがジャスティス、とかいう声が聞こえてきたような幻聴気配を覚えた)動きが鈍った所に、頭上より鬼姫が降って来る(またまた何処かしらから、晴れ時々紅さんでオオクリシマス、とかいう寝言が漂ってくるオーラが見えた)のだからたまったものではない。
 鬼姫はそして遂に、決定的な隙を見い出す。
『生き様は穢らわしくとも、死に様位は美しくして差し上げますの』
 自由落下に体を任せ、空より舞い降りる鬼姫。
 横に回転しながらそうすると胴に長い髪が巻き付き、散り跳ねるのを防いでくれる。
 まず、右の小太刀で首を後ろから斬る。刃を滑らせるよう意識し、ロジャーの皮膚に深く切れ込みを入れる。
 半回転すると左の小太刀がロジャーの首へ。こちらは叩きつけ、千切り斬る。大地に落着し、地面に足を付くのと二撃目が同時であった為、震脚のように作用しロジャーの首を半ばまで斬る。
 ロジャーは傾く首のままで、弱弱しく言った。
「わかった。俺の負けだ。降参する。だから、命だけは……」
 鬼姫はちらとベアトリーチェを見る。
 ベアトリーチェはフェンリルの反応を見て、フェンリルが一切警戒を解いていないのを確認すると、一言のみ告げる。
「……ギルティ……」
「そ」
 鬼姫はそちらを見もせず刃を振るい、一刀でロジャーの首を斬り飛ばした。

 Robinがそこに辿り着いたのは、ちょうど首が飛んだ時だ。
 これで決着、そう皆が思っていたのだが、Robinは同行していたルビィに頼んで、ロジャーの胴を串刺しにさせる。その上で、Robinは転がる生首の元へ。
「聞きたい事があるんだけど、答えて」
 死んだフリが通じないと知ると、今度こそ本当にロジャーは観念した。
 鬼姫は心底からの呆れ顔であった。
「人の手を借りてすら美しく散る事も出来ないとは……最早処置無しですの」
 ロジャーの主である悪魔の情報をいただけるだけいただいた後、Robinは一切悪びれる様子もなく、銃をロジャーに向け構える。
「教えてくれてありがとう。じゃあね」
 依頼は、退治なのである。

 雪子は、Robinが得た情報を確認しながら手元の書類に目を落とす。
 情報元であるロジャーは倒れたが、入手した書類があればコイツに自動車保険だの偽造免許証だのを手配した人間側のアホを、とっ捕まえるぐらいは 出来そうだなと。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
アド褌ティの勇士@夢・
影山・狐雀(jb2742)

高等部1年7組 男 陰陽師
Rote Hexe ・
クレール・ボージェ(jb2756)

大学部7年241組 女 ルインズブレイド
氷結系の意地・
玉置 雪子(jb8344)

中等部1年2組 女 アカシックレコーダー:タイプB
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー