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マスター:河嶋陶一朗
シナリオ形態:イベント
難易度:非常に難しい
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/02/24


みんなの思い出



オープニング

●ふたつの学園
 久遠ヶ原学園と友好関係にある私立御斎学園(しりつおとぎがくえん)。
 良家の子女が通う超名門進学校である。
 しかし、それは世を忍ぶ仮の姿。その実態は世界中から集められた異能の血を引く少年少女たちが、「力」の使い方を学ぶための厳しい修行と青春の日々を送る忍者養成機関なのだ。

 久遠ヶ原学園、特に鬼道忍軍とは幾つかの奇妙な因縁がある。

●奇妙な忍務
 うっすらとした細い黒雲が空に浮かんでいる。
 それはまるで、女の細い黒髪を流したようだった。
 怪しげな雲が久遠ヶ原の校舎を絡めとった頃、とある教室に生徒たちは集められた。

 奇妙なことに、部屋の中は薄暗かった。
 普段ならばこうした依頼にはオペレーターが対応するところだ。しかし、今回に限っては漆黒のカーテンが陽を遮っている。
 まるで映画館の中にいるようだった。
 やがて、闇の中から男の声が生徒たちにかけられる。
「暗闇の中、失礼つかまつる。これは秘密裏の忍務ゆえに」
 闇の中の人物は、撃退者たちの顔を舐め回すように見ていた。
 姿や目は見えないが、雰囲気でそれは感じ取られる。
「今年も無事裏留学の季節がやってきた。忍びたちの学舎、私立御斎学園との交流制度だ」
 と、人物は続けた。
 生徒たちには有無も言わせず、話はすでに始まっているようである。
「数日前、裏留学によって、何人かの忍びが久遠ヶ原に潜入した」
 その人物によれば、裏留学とは、二つの学園の忍びたち──鬼道忍軍と御斎忍者──の間で行われる、一種の腕試しだということである。
 どちらかの学園の忍びたちが、相手の学園に潜入し、そこに隠されたお宝を盗み出す。反対に、潜入された側は、お宝を守りきることが使命となる。
 裏留学の終了時点で、お宝を持っていた側の忍びが勝者となる。こうした腕試しを繰り返し、二つの学園の忍びたちは、その技を磨いてきたと言う。
「刺客たちは、鬼道忍軍の秘宝『鬼首』を手に入れた。御斎忍者が一歩リードというわけだ」
 部屋の壁に、突如光が照らされる。
 そこには、『鬼首』の資料が壁に映し出されていた。
 資料によれば、『鬼首』とは、かつて現れた強大な鬼の髑髏で作られた杯であり、その杯で宴会をすると「鬼」の力を得ることができると噂されている。
「留学期間は、あと一日。こうなれば、ことは鬼道忍軍だけの問題ではない。学園の名誉を守るため、忍軍以外の生徒たちにも、ぜひ協力を仰ぎたい、というわけだ」
 生徒たちの間に、ちょっとしたざわめきが起こる。
「これから一つのビデオを見せる。恐らくは、この中に出てくる六人の中に、『鬼首』を奪った者がいる」

●六人の留学生
 謎の声に続けて壁に映し出された動画は、学園の監視カメラが見たものを納めていた。
 そしてここから紹介する動画は、すべて『鬼首』が奪われた当日のものだと言う。

 まず、私立御齋学園には多くの忍者が在籍し、変装の術も得意という情報がテロップとして流れる。
 なるほど、見知った顔でもひょっとすると……。と、考えさせられたところで映像が始まる。
 最初の映像には、筋肉教師 遠野冴草(jz0030)が映ってた。
 冴草の様子はおかしく、肩から血を流している。
 苦悶の表情を浮かべ、学園内をフラフラと歩いているのである。
「……っ。俺も焼きが回ったな。こんなところで傷を負っちまうとは……」
 冴草は学園の生徒に見つかれば慌てて走り去っていく。
 そして、落ち着いたところで懐から丸薬を一つ取り出す。
「だが、これがあれば──」
 それを飲み干すと、彼の身体から傷は消えていった。
「まだ戦えるが、さて……」
 冷静に周囲を見渡してから、冴草は素早く逃げ出す。
 一体何を慌てていたのだろう。

 次に現れたのは、白い制服に身を包んだメガネをかけた青年だ。
 立派な刀剣を携えているその男は、職員室奥にある秘密の部屋で秘宝『鬼首』を守っていた。
「ふむ……異常ないな」
 青年はメガネを指で押し上げて、無事なことを確認する。
 彼の名前は早乙女剣という。
 私立御齋学園には同じ名前の生徒会長がいるが、彼が本人かどうかは分からない。
 その日、剣が一人で警備をしていたところに、それは起こった。
「消えた……!?」
 剣の見ている側で、『鬼首』は忽然と姿を消してしまったのである。まるで空間から消えてしまったようにーー。
「なぜ、こんなことが! 僕が見ている前で!」
 慌てた剣は、職員を呼びながら犯人を捜しに飛び出した。
 秘密部屋には埃一つ落ちていない。一体何が起こったというのだろう。

 その次の映像は、奇妙なものだった。
 体育倉庫の一室で、うずくまって何かをしている女性の姿を映したものだからだ。
 女性の身体は小さく、少女のようにも見えるが……。
 よく見れば、久遠ヶ原学園の教師の祭りに呼ばれ即参上☆ アリス・ペンデルトン(jz0035)ではないか。
「もしゃ、もしゃ。もしゃ、もしゃ……」
 アリスは隠れながら、何かこそこそと食べている。
 食べているものはお菓子だろうか? お菓子箱が見えている。
「うむ、うまいのう。隠れて食べるお菓子は最高じゃ……」
 と、言ったところで突然映像が途切れてしまう。
 映像が回復した頃には、アリスの姿はなかった。
 不思議なことに、その日にアリスの姿を見た者はいないという。
 教師であるにも関わらず、授業を行っていないというのだ。

 それから映ったのは、一人の女子生徒だった。
 一見十七、十八歳に見えるこの少女は、赤く濡れ光る唇から微笑みをこぼしている。
 気まぐれな猫のように彼女は笑うと、突如背後に大きな水蒸気爆発が起こった。
「………フフフ。これしきのこと、わたくしには雑作もありませんわ」
 水蒸気爆発が収まると、多数の生徒達が倒れている。これが、彼女の忍法だ。
 彼女は女忍者、名は九重ルツボ。
 なぜ追われているのかと言えば、久遠ヶ原学園の生徒に対して『友達になる術』を使ったのがバレたからだ。
 友達になって何か悪巧みをしていたようだが、事前に分かった為こうして追っ手を差し向けられている。
「とはいえ、長居はできませんわね。では、御機嫌よう」
 ルツボは監視カメラに向かってウインクする。
 そのウインクが収まった後、カメラは爆砕した。
 当然、映像は止まる。

 犯行現場を検証したところ、何らかの力が使われていた。
 人材豊富な久遠ヶ原学園といえども、盗難に適した力を持つ者は少なくない。
「はぁ。つまり、その件については現在調査中ですか?」
 新聞同好会会長 中山寧々美(jz0020)は、その件について取材していた。
 聞いている限りでは、雲をも掴むような話だ。学園中に容疑者がいる。
「同じ撃退士として許せませんね! まったく!」
 好き嫌いの話ではないが、寧々美は事件の犯人を好ましく思っていないようだ。
「行きますけど、何かあったら連絡して下さい。帰って洗濯しなきゃ!」
 会って間もないが、それだけ言うと寧々美は去っていってしまう。

 屋上である。そこでは、美青年が風を浴びながら髪をなびかせていた。
「……やはりな」
 美青年はただこう呟くだけで、何のアクションをするわけでもない。
 それでも、風貌からはただ者ではないというのが見て取れる。一体何者なのだろう。
 彼が風に当たっていると、鳥が飛んで来た。美しく優雅な鳥だ。
 その鳥の手元には手紙があり、手紙を受け取った謎の美青年はぽつりと漏らす。
「そういうことか……」
 その男はすべてが謎だった。
 教員と見間違えられるほどのオーラを持つ彼は、特に何かをした訳ではない。
 それでも、怪しいのでこうして候補として挙っている。
 そんな解説が入ってから、映像は終わってしまう。一体何者なんだろうか。

「キミたちへの依頼は、彼らのうちのいずれかが持つ『鬼首』の奪還だ」
 動画終わると同時に、男はそう言った。
「敵は、恐るべき忍法の使い手たち。この中にも、裏留学生の協力者や、裏留学生たちが潜り込んでいるかもしれない」
 教室が、しんと静まりかえる。
「慎重に相手の【秘密】を探り──」
 そこで、一拍の間が置かれる。
「『鬼首』を奪い返すのだ!」
 それっきり謎の声は止んでしまい、とうとう声の主が姿を現すことはなかった。

●誰が味方で誰が敵か
 こうして、生徒たちは調査を始めた。
 しかし、彼らは誰が仲間で、誰が敵なのか分からない。
 果たして、あなたの隣にいる撃退士は仲間だろうか?
 それとも……?


リプレイ本文


 その日、久遠ヶ原学園には、緊張感が漂っていた。
 この空気は天魔との戦いのそれと似ているが、若干違うものだ。
 複数の勢力が入り乱れて戦う裏留学。
 誰が敵で、誰が味方なのか。秘密を探り合う忍びの鬼ごっこが、今始まろうとしていた。

 久遠ヶ原学園中心部にある、一際背の高い校舎。
 その屋上で、夜空に浮かんだ月をながめながら、彼女は、髪をかきあげる。
 長身でしとやかな肢体は、いまどきにしては長めのスカートと、すいぶんと清楚な感じのセーラー服に包まれていた。
 リボンでまとめられた長い黒髪が、腰のあたりで揺れる。
「事情はだいたい、わかりましたわ。さて、『鬼首』はどこかしら」
 少女は、そう言うと唇をなめた。
 その仕草は、少女というにはあまりにも艶めかしかった。
 彼女の名は九重ルツボ。斜歯忍軍と呼ばれる科学忍者軍団の一員で、御斎学園とはまた異なる忍法流派の一員だ。
 ルツボは、御斎学園が隠し続けた忍法界の秘宝、「鬼首」の秘密を探るために久遠ヶ原学園に潜入していた。
「まさか、そんなことになっていたとは驚きですわね」
 どうやら、彼女はすでに「鬼首」の秘密を調べ上げているらしい。
「あら。この気配は御斎の雑魚ども……それともこの素敵な学園の生徒さんたちかしら?」
 クスクスと笑いながら、彼女は加速を始め、目にもとまらぬ速度になって久遠ヶ原の闇に溶け込む。
 これは斜歯の科学忍者の力が成せる技だ。加速した彼女を捕えるのは容易ではない。

「……こういう状況は慣れてないですが。とりあえず信頼できる人を探さないと……」
 敵と味方の区別はともかく、ひとまず仲間となる人物を探る。
 そんな選択をしたのは、星杜 藤花(ja0292)だった。
 藤花が狙うのは、この学園に潜入した忍びの九重ルツボだ。あどけない顔立ちを曇らせながら、彼女はルツボを追う同志を探していた。
 相手がどんな抵抗をするのか分からない。まずは仲間を集って、力を合わせようという考えだった。

 しかし、藤花の見つけた同志たちは、一癖も二癖もある連中だった。
「忍者!  秘密の探り合い! 斬るか斬られるか! たーのしいーねー!」
 九鬼 龍磨(jb8028)。彼は、白衣と銀髪をたなびかせながら、すっかりハイになっている。どうやら、忍法界の大立て者、「幻術師」飯綱幻蔵のコスプレをしているようだ。
 彼は、何が起こるか分からない、というこの状況を最大限に楽しんでいる。
「そういうことか」
 言いたかっただけ。
 後にそう語った彼は、意外に紳士的な対応を披露しつつ、周りの状況を注視していた。
「ルツボはなんだってこんなことをしてるんだろうな」
 藤花の誘いに乗りながら、ぶっきらぼうに言い放ったのは、ラファル A ユーティライネン(jb4620)である。
「俺のにらんだ所によると、ルツボの秘密に何かあるんじゃねーか?」
 彼は「鬼首」の秘密を推測し、ストイックに任務達成を目指している……ように見える。
「あたしこういうの、一番苦手なんだけんども……」
 その隣で顔を伏せながら、訛りのある愚痴を発しているのは竜見彩華(jb4626)。
 彼女も藤花と同様、人を疑う、ということが得意ではないらしい。
「でもやるしか……!」
 得意ではないが、この忍務をやる気がないわけではない。バハムートテイマーらしく、早速ヒリュウを呼び出し、視覚を共有していた。
「もうルツボさんおっかけちゃお。いっちばん怪しいし、何か知ってそうだし! あくまで交流なんだから、楽しく楽しく♪」
 ピクニック気分で、この交流を楽しもう。そう思う彩華であった。
 彼女のその一言をきっかけに、藤花たちは、学園の闇に消えたルツボたちを追いかけ始めた。

(先に動いていますか。これは、急がねば)
 闇に消えたルツボを探し、夜の学園を走る藤花たち四人。
 それを展開した魔法陣の中から尾行する者がいる。
 車椅子の駆動音を消しながら動く彼女の名は御幸浜 霧(ja0751)。目的は、彼らと同じようにルツボとの接触だ。
 だが、霧には霧の思惑がある。
 それぞれの人間が、それぞれの思惑を持って、ルツボに迫ろうとしていた……。

 とはいえ、そんな者たちの思惑を空から見下ろす者がいた。黒い翼をはためかせた少女、黒百合(ja0422)だ。
「私の陣営はばれてるしィ……邪魔される可能性も高いしィ、なら趣味に走っても問題ないわよねェ♪」
 すらりとした白い腕──精巧な義手──を振り回して高速で飛行しながら、趣味を満たす為にルツボに迫る。
 ちなみに、彼女の陣営は鬼首を手に入れることを使命とした久遠ヶ原学園側である。
「みぃつけた」
 黒百合は、高速機動を解いて公園に現界したルツボの姿を発見する。
「久遠ヶ原学園にようこそォ、歓迎パーティは開けないけど心から歓迎するわァ……。さてァ、御斎学園の生徒会長様は美味しいのかしらねェ、外食もたまにはいいものだわァ♪」
「……わたくし、東雲高校の生徒会長なんですが」
 眉をしかめるルツボに向かい、黒百合は一直線に急降下する。

「悪役はお手のもんや」
 しかし、それを食い止める影が一つ。影の名は、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)といった。
 彼もまた闇の翼を発揮して、空中から他の生徒たちの動向を監視していた。
「やっぱりこのルートを使って来よったな」
 地図に書いた印を指で確認しつつ、ゼロはにやりと笑ってみせる。
 彼は御斎学園の協力者として、鬼首を狩ろうとする者を邪魔しようと待ち構えていたのだ。
 捕えられた黒百合は離せともがくが、ゼロの邪魔は阻止できずに縄で縛られてしまう。
 ゼロは一仕事を終えたので携帯電話を取り出し、何者かと連絡を取ろうとするが……。
「鬼首どこっすかー! へんじをするっすー! おーいなるえーよをいただくっす!」
 聞こえて来た能天気な声に、ハッとする。その声の主は、ニオ・ハスラー(ja9093)だ。
 天真爛漫、元気いっぱいを絵に描いたようなこの人間は、どう見てもゼロを狙っている。
「あ、見つけたっす! お前の狙いはわかっているっす!」
 彼女は、野生の熊がやるように両手を広げて威嚇までしていた。
 ゼロはその意味を測りかねたが、ニオが飛びかかって来たときにその意味を確信した。
 ニオは、ゼロを敵だと確信している。
 直感的なものなのかもしれないが、彼女にはゼロが敵だということが分かっていたのだ。
「えーっと……敵の手には渡さないっす! がおー!」
「待て。俺は味方や!」
 ゼロが発した嘘の弁明もむなしく、ニオはゼロに向かって飛びかかって行った。

「超エリート校の御斎学園が、まさかの忍者養成機関……、ってか? それにしても、先に黒百合がやられちまったか」
「黒百合君を手伝おうと思ったが、どう転ぶか分からないものだな」
 ニオとゼロの混乱をなにするものぞ。
 公園の街灯の下に、銀髪の美青年と黒髪の美女が現れる。
 小田切ルビィ(ja0841)と天風 静流(ja0373)の二人だ。彼らは、それぞれルツボに狙いを定めていた。
「深入りは避けたいのだが……」
「鬼さんコチラ♪ ……ってなモンよ」
 出方を伺って慎重に動こうとする静流、露骨に挑発を始めるルビィ。
 お互いにスタイルこそ違うが、ニオと同じく使命を達成するために動いているのは間違いない。
「おー? あんた達も敵っすか!」
 ルビィと静流は、久遠ヶ原学園の生徒会より、秘かに「御斎の協力者」を探し出すよう依頼されていた。そういう意味では、久遠ヶ原学園側と言えなくもない。
 「鬼首」を手に入れようとするニオと直接敵対しているわけではないのだが……。
「――さて、時間だ。やることはやらせてもらうぜッ!」
 突然、封砲がニオの横をかすめる。ルビィが放ったものだ。
「必要であればアウルの力も使うさ」
 ニオの気がそちらに逸れている間に、静流がゼロを確保する。
 この流れるような動きは、二人の標的が同じだったからこそできるものだろう。
「なるほど、ここまで集中攻撃してくるとは。悪役冥利につきるってもんだ」
 その見事な連携に感心したゼロは、抵抗をすっかり諦めていた。ここまでやられたのなら、仕方ない。
「そっちが目的だったっすか!?」
 驚いたニオを尻目に、ルビィたちは去っていく。
 闇から現れ、闇に消えていく忍びのように……。
 彼らはきっちりと忍務をこなし、御斎の協力者であるゼロを捕獲していった。

 夜の公園で、突如発生した捕獲劇。
 しかし、当のルツボは、無視されっぱなしであった。
「退屈ですわー」
 そう言うと、あくびをかみ殺した。
 この女、余裕である。
 公園を出ると、夜の街へと消えていく。

 人混みに紛れ、夜の久遠ヶ原学園を謳歌するルツボ。
 そんなルツボを、一人の少年が見つめていた。
 日下部 司(jb5638)である。
「あの声は何だったんだろう? まあ今は気にしても仕方ないか……俺自身、秘密と御斎忍者には興味あるしな」
 司は、自身に秘密を渡した人物を不審に思いながらも、その使命を果たすために、ルツボを探していたのだ。
「くく……。なかなかに楽しめそうではないか」
 彼の近くで王者のように笑っているフィオナ・ボールドウィン(ja2611)も、同じくルツボを探していた。
 フィオナの艶やかな金髪と不遜な態度は、人ごみの中であっても目立つ。
 そのうえで、もう一人。
 向坂 玲治(ja6214)。
 彼は、肩を強張らせて歩いてやって来た。
「いつまでも遅れとってるとは思うなよ」
 ぶっきらぼうな態度を取っているものの、玲治は周囲に対し、最新の注意を払っていた。
 もし戦いになっても人は巻き込みたくない。
 不器用ながらも気配り屋の玲治は、それを計算していたのだ。
 司は、人混みで目立ちまくっていたフィオナと玲治を見つけ、協力を持ちかける。
「いいだろう」
 フィオナは上から目線で了承し、玲治もうなずく。
 三人は標的を追いつめるべく、それぞれ彼女を囲むように歩き始めた。
 ルツボは、そんな彼らの動きを知ってか知らずか、猫のようにその場から逃げ出そうとする。
 しかし、後ろから、更に二人の気配。ルツボは足を止めた。
 気配の正体は、他のメンバーと別れて行動し始めた藤花と、その後ろを付いて来ている霧だ。
「ここまでですかね」
 五人に囲まれ、逃れられないと悟ったルツボは移動し、人混みから抜けた場所に登場する。
「よかった、すぐに見つかった」
「ああ、よかったな」
「探したぞ、女」
 ほっとした様子の司、フレンドリーな様子で手を振ってみせた玲治、尊大な態度は崩さずに上から話しかけてくるフィオナ。
 三者三様の態度ではあるが、彼らが三方向から迫って来ていたので、ルツボはその動きに感心する。
「ええと、何かご用でしょうか」
 ルツボも一応とぼけてみせるものの、その目は笑っていない。
 その体は水のヴェールに包まれており、隙を見せれば水術を駆使して逃げようとしていたのだ。その技で七つの都市を滅ぼしたと言われる恐るべき忍びのワザだ。
「水もしたたる、いい女ってか? まぁ、とにかく御用だ」
 その動きを察して、素早く動いたのは玲治だ。
 彼はルツボを拘束すると、そのまま縄で縛り上げることに成功する。
「なんだ、意外とあっさり終わったものだな」
 ルツボはそれでも抵抗しようとしたが、そこはフィオナと司が押さえ込まれてしまった。
「でも、邪魔でもされたら危なかった」
 司は封砲や発煙手榴弾を用意していたが、使わずに済んだことをホッとする。用心深い男である。
 だが、用心深いのはルツボも同じだ。
「術に抵抗するのは骨が折れました」
 ルツボは、すでに密かに友達汁を仕掛けていたのだ。しかし、藤花がこの怪しい術に抵抗したため、難を逃れていたのである。
 こうして、ルツボは捕えられた。
「私の言葉通り、生徒に扮してくれたのですね。ありがとうございます」
 捕獲されたのを見届けてから出て来たのは、先までずっと隠れていた霧だ。
「それで、同志のはずの御齋学園の生徒を傷付けるあなたは何者ですか? と、色々と聞きたいことがありますが」
 霧はルツボの縄を掴んで、にっこり笑う。
「もう逃げも隠れもしません。すべてお答えしますわ。ただし……」
「ただし?」
「彼のいないところで話しましょうか。宴会でもしながら」
 ルツボは、玲治を見つめた後、にっこりと笑ってみせた。

 玲治は自分の使命を達成できたと思いこみ、油断していた。
 そう、玲治だけはこの四人──司、フィオナ、藤花、霧たちとは使命が異なっていたのだ。
 玲治の使命は『鬼首』を手に入れること。しかし、他の四人は『鬼首』の秘密を得ることこそが使命だったのである。
 使命が違えば、陣営が違う。司たち四人は、四つ目の陣営に属する者の集まりだったのだ。
「お先に失礼するよ」
「それではな」
 油断した玲治を引き離すように霧が先導し、フィオナたちがそれを追う。
「ええっ、どういうことだよおい?!」
 玲治の叫びがむなしく響く。
 そして一人、人混みの中に取り残されたのである。

「みなさんが知りたいのは、『鬼首』の秘密ですの?」
 ルツボが妖しく笑う。
「ぜひ、お聞かせ願いたいものだな」
 フィオナはルツボの言葉に満足げな笑みを浮かべて、目で続きをうながす。
「俺も聞いておきたい。俺を導いた不思議な声のこともある。俺たちを陥れる存在は見過ごせないからな」
 司の言葉に残りの三人もうなずく。
 彼ら四人は、元々鬼首の秘密に興味を持っていた。
 そんな彼らにこう囁いた者がいたのである。
「それは、学園に紛れ込んだ忍びが知っているかも……」
 謎の声に導かれる形で、四人は、「鬼首」の秘密を知る者──ルツボを追いかけていたのだ。
 フィオナと司の問いかけに、ルツボはくすりと笑う。
「いいですわよ。みなさんで私を捕えたご褒美ですわ」
 ルツボの意外なほど素直な言葉に、四人は身を乗り出す。
「『鬼首』は、人から人へと継承され、受け継がれていくものですの。そして、今は彼女自身がそれを護っていますわ」
「彼女? 誰のことだ?」
「『鬼首』の守護者ですわ。遙か昔、鬼道忍軍が生み出した外法の力を受け継ぐ、御斎の女忍者です。今もまだ、彼女がそれを護っているはず」
 ルツボは問いかけを無視してそう言うと、宴会をするのにふさわしい店を物色しはじめる。四人は、慌てて、それを追いかけた。

 司たちが聞いた謎の声の正体……謎の美青年こと飯綱幻蔵は、ルツボたちが動いたのを学園の屋上から見ていた。
「ふっ、思った通りに動いてくれたようだな」
 久遠ヶ原学園の者たちが動く裏で、忍者同士の策謀があったのだろう。
 九重ルツボと浅からぬ因縁んを持っていた飯綱幻蔵は、ひそかに久遠ヶ原学園の四人にアドバイスを送ったのだ。
 彼はこの結果に満足そうな表情を浮かべると、白衣を翻して学園から去って行った。
「しかし、さすがは久遠ヶ原学園の生徒だ。あのルツボをこうもスムーズに捕えられるとはな」
 去り際の言葉は、誰かに言い聞かせるものではないが、司たちを褒め讃えるものであった。


 ルツボたちが料理屋に消えていく頃、スーツ姿のミハイル・エッカート(jb0544)とメイド服姿の望月 六花(jb6514)は、職員室に向かう学園の廊下を走っていた。
「映像に暗号、それは文字のはず。アリス先生がはまっているクロスワードパズルが一緒に映っていたのでは?」
「隠された情報は気になりますし、何を知っているのかは重要かと思いますから」
 あの暗い教室で見せられた学園の監視カメラの映像。
 そこに映るアリス・ペンデルトンに何かヒントがあるのでは、と思い、協力してアリスを捕えるため、先ほどから学園中の心当たりを探していたのだ。
「職員室にはいないか」
 結果はかんばしくない。
 先生に間違えられやすいミハイルが堂々と職員室に入り、他の先生に聞いたというのに。
「サボっていたようですね。この様子だと、別の場所にいるかと」
「仕方ない、街の方に行くぞ」
 次の心当たりは街中だ。あそこなら、娯楽施設もいっぱいあるし、お菓子もある。
 調査のため、二人は急いでに街に出てきたのだが……。
「さて、アレはどうします?」
「アレ? アレとは何だ?」
 六花が空を指して、ミハイルが空を見上げる。
 そこには、自分たちめがけて飛来するミサイルがあった。

 一方、ルツボたちからわずかに離れた久遠ヶ原の街角。
 藤花と別れたラファルはルツボ打倒のため、協力者の龍麿と共に物陰から攻撃をしようとしていた。
「おい、話が違うじゃんか」
「いえ、僕はルツボさんと交渉をするつもりだったんですけど……」
 二人はお互いに意見が食い違って混乱している。
 いざ、攻撃しようとしたラファルだったが、龍麿は交渉をすることで、自分たちに有利な情報を得ようとしていたのだ。
 揃って首を傾げる龍麿とラファル。
 しかし、ラファルの目的は私立御齋学園側の人間として、久遠ヶ原学園側の人間を邪魔しなければならない。
 だから、ラファルの攻撃目標はルツボではないのだ。
 狙うのは、敵と判断したミハイルである。ちょうど彼が街中に出てきたため、そちらに向かってロックオンしたのだ。
「仕方ない。やってやるか!」
 アウルの力をミサイルの形に変え、ミハイルに向かって攻撃を始めた。
 これが、ミハイルを襲ったミサイルの正体である。

「これは……御斎側だな。名前と顔は覚えたぞ!」
 ミハイルは、邪魔をするように飛んで来たミサイルの直撃を避け、その場から立ち去った。
 ミサイルは避けられたのだが、これでミハイルは「鬼首」を手に入れることなく脱落してしまった。
 ラファルに邪魔されたということには変わりない。
 アリスを捕えるという行動をミハイルは行えなかったのだ。
「私だけになってしまいましたね。さて……」
 翼を仕舞い、六花はため息をついた。
 アリスを捕える行為は、六花一人では無理だ。
 というのも、彼女は御斎の協力者である。御斎の協力者に、誰かを捕える能力はない。ラファルのように誰かを邪魔をすることだけだ。
 だから、六花は使命を達成するため、アリスの捕獲は諦め、別の動きを始めた。

 さて、ラファルに視点を戻そう。
 攻撃を続けようとしていたラファルだが、乱入者にまとわりつかれて、それどころではなくなっていた。
「この! これでは狙いが定まらないじゃんか!」
 その乱入者は、彩華のヒリュウだった。
 ヒリュウがラファルを邪魔し、攻撃を中断させたのである。
「ごめんなさい! ついうっかり!」
 呼び出した彩華はついうっかりと言って、謝ってはいるが、これは彩華の狙い通りの行動である。
 彼女は私立御齋学園側の人間であり、ラファルを邪魔しようとして、この行動をとっていたのだ。
 しかし、実はラファルもまた私立御齋学園側。結果として、同じ陣営の相手を邪魔することになってしまったのだ。
 しかも、ラファルの受難は続く。
「ラファル A ユーティライネン殿」
「んっ? 何だお前」
 もう一人、乱入者が現れる。ラグナ・グラウシード(ja3538)だ。
 彼は武器を構えており、剣呑な雰囲気である。
「私の名前はラグナ・グラウシード。捕獲させて頂こう」
 一礼もして、自らの名前を名乗る。
 それだけ見れば、まるで誇り高い中世の騎士のようだが、どこかその態度は尊大。負ける気はない、という雰囲気も見て取れる。
 ラグナは、御斎の協力者を捕える立場だ。その為、怪しいと思ったラファルに正々堂々と勝負を挑んだのである。
 もちろん、負ける気はないという自信があるからだ。
「いいぜ。やってやろうじゃねーか」
 ラファルも挑まれた喧嘩を買って、身を乗り出すが……。
「ひゃあ! ついうっかりストレイシオンを召喚してしまいました!」
 ついうっかり、彩華が出したストレイシオンに足を掴まれる。
「お、おいぃ!」
 そして、足が止まったところをラグナに捕えられてしまった。
「おい、今のナシだろ!? おい!」
 ラファルは当然抗議するが、ラグナは既に興味をなくしたという体で別の場所に向けて動き出す。
「さて、中山寧々美の居場所はどこだ? 非公式新聞部部室か……?」
 彼が次に狙うは中山寧々美。
 とはいえ、ラグナの使命は御斎の協力者を捕えることにあるのだから、ラファルを捕えた時点で使命は達成されているのだが。


 久遠ヶ原の人間として、鬼首を得るべく動いていたリョウ(ja0563)は、気配を遮断して生徒会室の前にいた。
 観察を続けている彼のターゲットは、早乙女剣。聞くところによると、私立御齋学園の生徒会長であり、生徒会同士で話し合うために生徒会室まで来ているのだとか。
 奴を捕えることができれば、何らかの情報を得ることができるだろう。
 もし違っても、忍務だから仕方ないだろう。
 スタンガンにアイマスク、包帯に手錠、携帯音楽プレイヤー、レジャーシート、デジカメを用意するリョウは、案外出たとこ勝負である。
 しかも、鬼道忍軍の技で無関係の生徒に変装までしている。
 その入念な準備は、彼自身の慎重な性格を伺わせるものであった。
 念のため、壁走りを使って生徒会室のドア前まで近づき、そして……。
「どうやら、引っかかってしまったようですね」
 同じく、壁を走っていたドラグレイ・ミストダスト(ja0664)と出会う。
 ドラグレイの手にはタブレットPC。見たところ、情報をやり取りしている様子だ。
 リョウには何をしていたのか分からない。
 ドラグレイの陣営はリョウの敵、つまりは御斎の協力者なのだが、今のリョウは分からない。
 だが、直感のようなものがあったのだろう。ここで潰さなければまずいと判断し、接近戦を挑む。
 しかし、ドラグレイもまた鬼道忍軍。
 片手間で、情報を発信しながら接近戦攻撃をいなす。
「くっ! ここまで来て捕まってたまるか!」
 リョウの速度は徐々に高まっていき、ドラグレイの防御を振り切って押さえ込む。
 はずだった。
「なっ!」
 二つの影が、リョウの動きを邪魔しようと迫ってきたのだ。
「やはり、情報通りここに来ましたね。邪魔させてもらいます」
「うりゃー! ぶっとばされたい奴は誰だぁー!?」
 リョウを邪魔したのは、ミハイルと別れた六花、そして、ラファルと別れた龍磨だった。
 共にそれまでの相棒と別れた二人は、ドラグレイと協力し、偽の情報でリョウをここまで追い込んだのだ。
「残念ながら、それをさせるわけには行きません。選ばれた以上は守らねばならないのですから」
「作戦成功です♪ やりましたね」
 六花のメガネが光り、ドラグレイが元気いっぱいに笑う。
「参った……」
 リョウは固まり、降参を宣言する。
「やったぜ!」
 実は、龍磨は別に御斎の協力者ではない。隙を見て、御斎の協力者を捕獲するつもりだったのだが……この様子から、隙はなさそうだと感じて移動を始めた。
 狙うは、與那城 麻耶(ja0250)。彼女が御斎の協力者なら、捕獲するつもりだ。
「そういうことか」
 飯綱幻蔵のコスプレも決まっている。

「誰が味方で誰が敵か、さっぱり分からないこの状況をどうやり過ごすかが重要ですね……」
 情報のやり取りを手伝っていた紅葉 公(ja2931)はぞっとするような何かを感じた。
 公自身、リョウと同じ陣営。「鬼首」を奪うべく行動している。
 ターゲットも同じで、早乙女剣を狙っていたのだ。
 だから、彼はリョウを捕まえた三人が別の場所に向かったタイミングで、ひっそりと生徒会室へと入る。
「しかし、これで僕はフリーになりました。リョウさんには悪いですが……」
 生徒会室の中には、早乙女剣が待っていた。
 彼は公がやって来たのを確認すると、すぐに両手を上げて抵抗の意志がないことを示す。
「捕縛させてもらいます」
「ええ、やってください」
 早乙女剣は、公の捕縛には抵抗しなかった。
 なぜなら、彼は「鬼首」を持っておらず、公は忍務を達成することはできないからだ。
 しかし、公は晴れやかな表情を浮かべていた。
 というのも。
「もし持っていたらラッキー、ぐらいの気持ちでやっていましたから」
 自分の決めたことを貫き通した。それが彼の満足感に繋がったのだろう。
「今『鬼首』は御斎の手に渡ってるんすか?  渡ってたら誰か教えるっす!」
 そこに、早乙女剣から情報を聞きに来たニオも加わった。
 あの後、早乙女剣を捕縛するために狙いを定めて動き回っていたようである。
「ええ、今持っているのは……中山寧々美さんですよ」
「なんですとー!」
 早乙女剣は『鬼首』を持つ者の名を事もなげに暴露してみせた。
「おーいなるえーよをいただくっす!」
 それを聞いたニオは、ぐっと手を握ると、自らの使命を達するために走り出した。
「でも、キミも早乙女剣を捕獲に来たんだよね。だったら……って、もう行っちゃった」
 しかし、ニオは早乙女剣を捕縛することを選んでいた。二兎を追うことはできないよ……。
 公は、それを警告しようとしたが、すでにニオの姿はない。
 公は、がっくりと肩を落とした。

 ドラグレイが流した情報を含め、錯綜とする情報を多方面から修得している者がいた。
 蒼桐 遼布(jb2501)。
 彼は、純粋にこの状況を楽しんでいた。
 生徒会室の壁の中で。
「いやはや……なんというか、面白い状況になってきたな」
 彼は、学園の壁の中に潜みつつ、丹念に情報を収集したことで、自分が邪魔をされないということを確信していた。
 彼は、潜んでいた生徒会室の壁から物質透過のすり抜けによって現れ、更に闇の翼で空へと飛び上がる。
 そして、遼布は地上を歩く一人の男を見つけた。
「何となく、怪しい。それで充分だな」
 遼布が怪しいと思った男の名前は、遠野冴草。
 遼布は、一気に迫ったりはせずに、彼からは慣れたところに着地し、物質透過を使って奇襲をかけた。
「正体を現しな! お前を捕える!」
 奇襲されるがまま捕えられた冴草は、変装を解いて少女の姿を現した。
 少女は忍法を使って、影の中に消えようとしたが……。
「はい、捕えたよ。ごめんね。君達を勝たせるわけにはいかないんだ」
 ふんわりとした雰囲気を持つ、キイ・ローランド(jb5908)の登場によって、それも諦める。
 キイもまた、捕縛をする為に遼布と協力していたのだ。
「この傷では逃げることもできないな」
 女忍者、時坂菊之助は傷を負っており、二人に囲まれてはまともに逃げ仰せることもできなかった。
「治療してあげる。だから、知ってることを話してもらうよ」
「忍者だろうと人は人だ。助けてやるんだから、教えてくれよな」
 キイはにっこりと笑いながら、遼布は不器用に。二人は治療の代償を要求し、彼女の話を聞くことになった……。
 だが、その話は二人が望んだものではなく、鬼首も持っていなかった。
「仕方ないね。だったら……」
 なので、キイは遼布に向き直る。
「君を邪魔しようかな」
 キィは御斎の協力者だった。
「面白い。こういう状況にもなるか」
 二人は対峙し、お互いの足を止め合う。
 しかし、遼布は自分の狙い通り女忍者を捕えることには成功していたので、満足気な顔を浮かべてキイと構え合うのであった。
 二つのアウルが、ぶつかり合う。
 遼布が「鬼首」を奪うべく、キイは御斎の協力者として。
 お互いの使命は、相反する。


 そんな彼らを、樹上から監視していた者がいる。
 エマ・シェフィールド(jb6754)。
 このお菓子好きの天使は、使命に従って「鬼首」を奪う前に、こっそりとお菓子を楽しんでいたのである。
「ふみ、それじゃあボクも行くとしようかな」
 天使は木の頂点から飛び立ち、ターゲットに向かってこっそりと近づく。
「怪しいのはやけに挙動不審だったあの人かな〜 」
 ターゲットとは、中山寧々美のことだ。
 彼女の動きを不審に思ったエマは、その身を素早く確保し、早々に離脱しようとしたのである。
 当の寧々美は、樹からほど近い校門で号外新聞を配っていた。
 その背後を取ることは簡単だろうとエマは踏み、縄を持って徐々に距離を詰めていたのだが。
 エマの足下にいた鼠が顔を上げた。
「ふみ?」
「寧々美さんを先に発見したのは行幸でしたね」
 鼠に続いて、神谷春樹(jb7335)がエマに向かって突撃してくる。
 丁寧な口調と、穏やかな微笑み。しかし、手にはメリケンサックという剣呑な雰囲気を醸し出している男だ。
「田中先生の言った通りだ」
 彼は木遁でエマの行動を封じると共に、布槍を構えていく。
 彼は、寧々美に化けている女忍者を助けるために動いている。御斎の協力者だからだ。
「ふみゃあー! マークされてたのんだね!」
「それでは、行きますよ」
 鼠に「急いで逃げよ」と書いた伝言の紙を任せ、春樹は寧々美を護ることに成功する。
 つまり、エマの捕縛は邪魔されてしまったのだ。
 中山寧々美を巡る戦いは、人知れず収束していく。
 かに思えたが、そこに現れる、もう一人の撃退士。
「鼠すら敵か。誰が味方か……はてさて困ったね」
 やって来たのは、佐乃原 荷礼(jb8162)。
 彼女は淡々と事実を口にしつつ、春樹の背で準備をはじめている。
「おや?」
 その様子が不審なため、春樹は振り返った。
 すると、アウルで生み出された蒼い光が風となって舞う。
「春樹くんの秘密は調査済みだ。捕獲させてもらうよ」
 その光は、荷礼が生み出したものであり、御斎の協力者を捕えるための準備運動のようなものだ。
「しまった!?」
 荷礼の手が春樹の肩を掴み、その足を止める。
「さっさと捕獲してご退場願おう。あまりかき回されても良くない」
 そして、抵抗する暇もなく捕縛用の縄が春樹の体に巻き付かれた。
「さて、次は秘密部屋にでも行こうか」
 難なく御斎の協力者を捕えるという使命を達成し、あくまでも淡々と、次の行動を頭に叩き込みつつ、荷礼はその場から去っていく。
 残されたのは、縄で巻かれた春樹と邪魔をされたエマだけだ。
 二人とも、まるで動けなかった。

 忍びに挑戦し、「鬼首」を奪おうとする者も最後の一人となってしまった。
 最後の一人、その名は與那城 麻耶。
 彼女は、元気よく目的地に向かって走っていた。麻耶は荷礼と共に保管庫での調査を終え、急ぎ目的の人物に向かって移動していたのだ。
「難しい事は分からないし、とにかくお話でも聞きに行こうかな! 與那城麻耶、入りまーす!」
 麻耶は、大きな声を挙げて新聞同会会の部室に入る。それは彼女が好きな、プロレスラーの登場シーンのようであった。
 部室の中には、中山寧々美がいた。
「えっと、あなたは……中山寧々美さんに化けた、女忍者さんだよね」
 正確には、中山寧々美の姿をした忍者。
「ええ、そうね。そういうあなたは、ここまで誰も邪魔されずに来たのね」
「う、心理戦とか苦手なんだよね……。でも、邪魔はされなかったよ。縄はかけられたけど」
 途中で、謎の美青年のコスプレをした龍磨に捕えられたが、御斎の協力者でないことを理解してもらい、解放してもらっていた。
 ちなみに、ラグナも最終的には新聞同好会にたどり着いていたのだが、ラファルを捕獲するために力を使い果たしていたようで、麻耶に一歩遅れてしまっていた。
「そんなわけで、お話を聞くためにも捕獲します!」
 彼女は、まっすぐ指を向けて宣言した。
「あなた、私が監視カメラに仕込んだ暗号に気付いたの?」
「えっと、監視カメラの暗号って何か仕込んでいたんですか?」
 疑問に疑問で返す形になるが、麻耶は首を傾げてそう答えた。
「あはは、負けたわ。あなたに、『鬼首』を託します」
 意外な答えが帰って来たので、麻耶は目を白黒させた。
「監視カメラの私の映像の部分を、もう一度よく観てごらんなさい。どこかに書いてあるはずよ。『犯人は新聞同好会』ってね」
「え? あれ? もしかして、私が正解だったの?」
「ええ、あなたが唯一の正解者。だから、これを渡す決まり」
 そう言うと、名も知らぬ女忍者は自分の胸に腕をつきさす。
 そして、ぬるりとその胸の中から、巨大な頭蓋骨のようなものを取り出した。
 どうやら、これが「鬼首」のようだ。
 目の前に差し出されたそれを見て、麻耶はわずかに怯える。
「これを渡す前に、一つだけお願いがあるんだけど……」
「え? 何ですか?」
「これは、大変な力を持っている。誰にも渡さないって、約束してくれる?」
 女忍者の真剣な表情に、麻耶は即座にうなずく。
「ありがとう。じゃあ、今からあなたが『鬼首』の守護者」
 そう言うと、女忍者は、麻耶に髑髏を手渡した。
「え? ど、どういうこと?」
 不気味な骨を持ち、戸惑う麻耶の前で、女忍者の姿があどけない少女のそれへと変貌していった。
 姿なき秘宝「鬼首」。
 それは、人から人へと継がれていく。

 新聞同好会の天井裏。
 藤花、霧、フィオナ、司、そしてルツボの五人が、ひっそりと麻耶と女忍者のやりとりを見ていた。
「あらあら、ちょうどよい場面に遭遇したようですわね」
 ルツボは愉快そうに笑う。
「もしかして、アレが噂の『鬼首』か? 久遠ヶ原学園の者が手に入れたようだが」
「秘密はあれだけなのか?」
 フィオナと司が問いかけると、ルツボは「いえ」と短く返事をする。
「『鬼首』は、鬼の力を宿らせることができると言われているわ。その鬼とは中国の『鬼』。つまり死霊の力」
「死霊!?」
「あの女忍者は、御斎学園の関係者の娘でしたが、すでに死んでいます」
「は? 何言ってんの?」
「死んだはずの彼女は、『鬼首』の力で生きながらえているのです」
「そんな……そんなことがあるのですか?」
 藤花がその秘密に驚く。天使や悪魔はいても、死んだ人間が動けるなど、ありえない。
「死者が『鬼首』の力に頼った場合、その代償として『鬼首』の護り手となり、それを守護し続けなければならない。あの人は、この学園で、ずっとそれを守り続けていたようです」
 ルツボは、淡々と秘密を解説する。
「となると、守護に失敗したあの人は……?」
「後は見ていれば分かりますわ」

「こ、これって……」
「引き継ぎよ。『鬼首』の護り手が、あなたに書き換わっているところ。まぁ、『鬼首』の力はあと10年くらいは目覚めることはないだろうし、目覚めたとしても、あなたなら悪用しなさそう」
「え? え? え?」
「それに、悪用する人からも守ってくれるよね」
 少女は、にっこりと笑う。
 その屈託のない笑顔は、とても晴れやかだった。
「御斎学園の人たちは、少しでも長く私をこの世にとどめておくため、久遠ヶ原学園の人たちにも、他の人たちにも『鬼首』を渡さないようがんばっていたみたいだけど……」
 そう言う少女の姿は、ほとんど消えかかっていた。
「そろそろ潮時かなぁ、って思ってたし。ちょうどよかったわ。ありがとう」
「い、いえ。どういたしまして!」
 うっすらと消えていく少女。
 そんな少女に、麻耶は尋ねる。
「ところで、あなた、中山寧々美さんじゃないんですよね」
「そうよ」
「じゃあ、あなたの本当のお名前、なんて言うんです?」
 麻耶の質問に、少女は、あはは、と大きく笑う。
「私の名前は、ナナミ。六角ナナミよ」
「……ナナミさん」
「もう何十年も誰も見つけられなかった私の【秘密】。あなたが、明かしたんだから、誇っていいのよ」
 そう言うと少女の姿は消えた。
 麻耶には訳が分からなかった。
「よく分からないけど、ありがとうございます! やった!」
 訳が分からないなりに、麻耶は元気いっぱいに大きくガッツポーズを決めてみせる。
 その勝利宣言は、私立御齋学園の一度も破られたことがないという伝統を打ち崩し、久遠ヶ原学園に新たな伝説を打ち立てた瞬間でもあった。
「久遠ヶ原学園の勝利だよ!」
 大きく掲げた腕には、それを讃えるような光が瞬いていたという。
 こうして、鬼ごっこは久遠ヶ原学園の勝利という形で幕を下ろした。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: バカとゲームと・與那城 麻耶(ja0250)
 思い繋ぎし紫光の藤姫・星杜 藤花(ja0292)
 撃退士・天風 静流(ja0373)
 知りて記して日々軒昂・ドラグレイ・ミストダスト(ja0664)
 意外と大きい・御幸浜 霧(ja0751)
 『天』盟約の王・フィオナ・ボールドウィン(ja2611)
 KILL ALL RIAJU・ラグナ・グラウシード(ja3538)
 この命、仲間達のために・日下部 司(jb5638)
 守護の決意・望月 六花(jb6514)
 撃退士・佐乃原 荷礼(jb8162)
重体: −
面白かった!:12人

バカとゲームと・
與那城 麻耶(ja0250)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
知りて記して日々軒昂・
ドラグレイ・ミストダスト(ja0664)

大学部8年24組 男 鬼道忍軍
意外と大きい・
御幸浜 霧(ja0751)

大学部4年263組 女 アストラルヴァンガード
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
優しき魔法使い・
紅葉 公(ja2931)

大学部4年159組 女 ダアト
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
闇鍋に身を捧げし者・
ニオ・ハスラー(ja9093)

大学部1年74組 女 アストラルヴァンガード
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
想いを背負いて・
竜見彩華(jb4626)

大学部1年75組 女 バハムートテイマー
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
災禍塞ぐ白銀の騎士・
キイ・ローランド(jb5908)

高等部3年30組 男 ディバインナイト
守護の決意・
望月 六花(jb6514)

大学部6年142組 女 ディバインナイト
混迷の霧を晴らすモノ・
エマ・シェフィールド(jb6754)

大学部1年260組 女 アカシックレコーダー:タイプA
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
佐乃原 荷礼(jb8162)

大学部5年178組 女 アカシックレコーダー:タイプB