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マスター:川上 野溝
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/10/13


みんなの思い出



オープニング

●ドールレディの鳴く夕べ 

 町内放送から、五時の音楽が響く。古いフランス映画のテーマだ。
 懐かしく、そしてどこか物悲しい音楽が、風を渡り流れていく。夕日が沈みオレンジ色に染まる景色のなかで、哀愁を持って切々と。
 警備員はその音楽に合わせ、鼻歌を歌いながら工場を見回っていた。
 学生服を扱う縫製工場だ。そのほとんどはパート従業員で構成されているために、退勤時間の四時を過ぎると、工場はほとんどもぬけの殻だった。
 そのがらんとした工場棟と倉庫を、大量の鍵を片手に点検していく。
 気持ちの良い風の吹く日だった。柔らかな涼風が、頬を撫でては通り過ぎる。
 その風に乗って、あの切ない調べが聞こえてくる。

「あれ……?」
 それまで上機嫌だった警備員は、しかし、第三号棟の倉庫の前まで来ると、はたとその顔を曇らせた。
 自分の鼻歌ではない声が、中から聞こえてくる。耳を澄ませば、泣いている女の声がする。
(またお局さんにでもやられたんだろう)
 警備員は眉をひそめた。
 第三倉庫前は、パート従業員の帰り道だ。年配のパートに嫌がらせを受けた者は、決まってここでむせび泣くのだ。
「入りますよー」
 意を決して、なかに入る。倉庫は雑然としていた。制服を詰め込んだ段ボールと、裸のマネキンが所せましと並ぶ。ビニール袋を被せられたそのマネキンは、いつ見ても気持ちの良いものではなく、警備員は思わず顔をしかめた。
 埃の舞う倉庫内、天窓から夕日だけが明るく降り注ぐ。
「もう泣き止んでくださいねー。就業時間はとっくに過ぎてますよ」
 泣き声のする方へと呼びかけながら、マネキンの林をくぐり抜ける。
 倉庫の奥は、ミシン台が隙間なく置かれ、そこだけぽっかりと広い空きスペースのようになっている。 いよいよ大きくなる鳴き声は、どうやらそこから聞こえてくるようだった。
 肩で息をし、ようやく最後の荷をかき分ける。前方に広がるミシン台を見上げ、目を見開いて、一拍。

 倉庫に絶叫がこだました。


●もう帰らないよ 

 五時の音楽が流れる。古いフランス映画のテーマ。
 この曲が鳴るまでに、いつも母は帰って来たのに。
 なぜだろう。
 曲が終わっても、暗くなっても帰って来ない。
 闇色の窓を見つめて待っていると、忽然とその人は現れた。
 おかしい、カギはちゃんと閉めたはずなのに。
 その人は、怯えるわたしにこう言ったのだ。

 ――きみのお母さんは、もう帰らないよ。

 笑みを浮かべて、そう言ったのだ。


●斡旋所にて

「変死体が発見されたわ」
 高等部二年桜木みつかが依頼書を手渡す。
「場所は学生服を扱う縫製工場の第三倉庫。被害者はこの工場の警備員、五十五歳。倉庫の入口前に行き倒れているところを、職員が発見したの。……身体中に無数の縫い針――毒針が刺さり、血だるまになっていたそうよ。血痕から察するに、どうやら彼は倉庫の中で何者かに襲撃を受け、入り口へ逃げようとしてあえなく死亡したと考えられるわ。死体の様子から、天魔の存在が疑われている」
「その天魔はいまどこに?」
 撃退士が鋭く口を挟むと、みつかは頷く。
「どうやら、第三倉庫にまだいるらしいの。現場監視中に聞こえたのよ、女の鳴き声が。ちょうど五時を知らせる音楽が鳴ったときにね」
「鳴き声……」
「そう。だから今は工場を完全に封鎖し、第三倉庫に厳戒態勢を敷いているわ。敵について分かっているのは、毒針を使用することと、女の声で鳴くことの二つだけ。それから……工場で働くパート職員のなかで、一人だけ連絡がつかない人がいるってこともかしら……何事も、調べてみる必要はありそうね」
 眉をひそめ、彼女はこちらを見上げた。
「危険な戦いになると思うけれど。引き受けてくれるかしら?」



リプレイ本文

●気怠い午後と昏い予感

 淡く霞む空から降り注ぐのは、金色の陽光。
 光の粒子が仄かな熱を持って舞い、全ての風景に薄い紗をかける。

 影野 恭弥(ja0018)はその光の只中にいた。猫のように目を細め空を仰ぐと、噛んでいた風船ガムを膨らませては割る。
 静かで気怠い午後だった。まるで世界は平和だといわんばかりに、長閑な陽射しが辺りを照らす。それは眼前にある工場も、背にした件の倉庫にも降り注ぎ、光片がきらきらと煌めいて零れた。

「影野さん、ありがとうございます」
 ふと声がして視線を下げれば、播磨 壱彦(jb7493)が傍らに立つ。
 倉庫に巣食う冥魔の偵察役を担った彼は、平和には縁遠い顔をして恭弥を見上げていた。
「一般人が不用意に近づいても困るし」
 素っ気ない呟きを返せば、壱彦は、はい、と笑う。倉庫前で待機している恭弥の意図はそれだけではないことを、彼はよくわかっていた。
 壱彦は静かに光纏する。目を閉じ遁甲の術で自身の気配を潜めながら、わずかに顔を歪めた。
(ディアボロの出現、それに行方不明のパートさんか…嫌な感じだな、不安が拭えないや)
 二つの事象から容易く想像できる結末を思い、しぜんと眉根が寄る。
「最悪を覚悟はしておこう。でも、それでも……信じたい、とは思うな」
 職員の生存を。
 ぽつりと呟き、壱彦は目を開けた。持っていた携帯の送信ボタンを押し、澄んだ眼差しで恭弥を見れば、彼の鋭い金の瞳とかち合う。
 目を見交わせば、合図はそれで十分だった。 
 そっと倉庫の扉を開ける。息を殺して、足を踏み出した。



「壱彦さん、今倉庫に入ったようよ」
 携帯を手に呟いたのはフローラ・シュトリエ(jb1440)。その言葉に御堂・玲獅(ja0388)は小さくため息を吐いた。
「どうかご無事で帰って来て下さると良いのですが……」
「何かあれば駆けつけるわ。連絡が取れなくなったっていうことは、何かあった可能性が高いってことだものね」
 フローラが携帯を振る。倉庫にいる彼らから場所は離れていても、密に連絡を取り合い、有事は駆けつける腹積りだった。玲獅が相槌を打つと、隣で向坂 玲治が(ja6214)がちらりと見やる。
「倉庫はあいつらに任せてあるんだ。大丈夫だろ。俺達が出来ること、やってしまおうぜ」
 これには全員がしっかりと頷いた。

(行方不明の人とディアボロ……か。考えたくはないけど、その人がディアボロなのかな……)
 昏い予感がふと過り、フィル・アシュティン(ja9799)の表情がにわかに曇る。胸騒ぎが収まらなかった。壱彦と同様の予想に至った彼女は、考えを払うように緑髪を振り、顔を上げる。
「曖昧なことで判断しちゃいけない。まずは情報を集める、だね」
 意気込むように呟くと、足取りを速め、先へ行く仲間達を追いかけた。



 
●眠る人形と少女喪失

 工場が閉鎖している今、近隣にある関連会社が職員の働き口となっている。
 四人の撃退士達は、ここで早速聞き込みを開始した。
「久遠ヶ原の者だが、ちっとばかしいい……ですか」
 慣れない敬語でぎこちなく話しかけた玲治に、パート職員は大らかに応じる。

「行方不明の人? 林さんのことだね。長い髪が印象的な、綺麗な人だった。針やミシンを使わせても上手くてね。だからというべきか……年配のパートからやっかまれて、酷い嫌がらせを受けていたんだよ。よく第三倉庫で泣いていたね。泣き止むまでずっと」
「第三倉庫……」
 問題の倉庫だ。玲獅が呟き、四人は目と目を見交わす。フィルが後を引き取った。
「何かご存じありませんか。いつから行方不明だとか、他にご家族の方は……」
 職員は眉をひそめる。

「私達が最後に見たのは、事件の日だよ。その日も酷い苛めに遭って、あの人が倉庫に姿を消したのを覚えてる。ちょうど四時頃だね。それきり連絡がつかないんだ。娘も行方不明だから、心配でね……」
「娘? どういうこと?」
 フローラが素早く口を挟むと、彼女は頷いた。
「林さん、十四歳になる娘さんと二人暮らしなんだよ。旦那は亡くなったとかで、他に身寄りもなくてね。事件後連絡がつかないから、家まで様子を見に行ったら、もぬけの殻さ。机に勉強道具を広げっぱなしで、まるでちょっと出かけるみたいにして消えたんだ」
「そんな」
「そうだよ。事件の日に、二人ともね。娘さんは近所の人が家に帰るところを見たきり、いなくなったそうだけどね。怖いことだね……。仲の良い親子だったよ。林さん、娘が帰る五時頃までには、必ず仕事を終わらせて帰っていてね。二人暮らしだから尚更、寂しがらせないように、あの子の帰りをいつも暖かく迎えてあげたいんだって、そう言ってた」
 職員の言葉に、各々が複雑な表情を浮かべる。静まり返った室内で、玲獅が静かに呟いた。
「一体何が起こっているんでしょうか……?」



 裸のマネキンがずらりと居並ぶ中、身を隠すようにして壱彦は進んでいた。
(こういう時は小柄で良かったと思えるなあ)
 心中で呟き、辺りを見回す。
 床には死亡した警備員の血痕があり、当時の惨状をそのままに残している。眉をひそめながらも痕を辿れば、それは最奥の開けたスペースまで続いていた。
 細心の注意を払い、マネキンの林をかき分ける。ミシン台の上にそっと顔を突き出し、一拍。

「!」

 そこにいたのは、人形だった。
 長い毛糸の髪に、ボタンの目。接ぎの当たった体にセーラー服を着付けたその人形は、壁に体を預け、ぴくりともしなかった。まるで本物の人形が佇んでいるように、静かに天窓から注ぐ陽射しを浴びている。
(眠っているのか?)
 眉をひそめる。目をこらせば、人形の足元に重い鎖が巻きついていた。それはしっかりと固定され、台の上で拘束されているように見える。
 一体何の為にそれはあるのか。壱彦は顔をしかめ、更に覗き込もうとした、その時だった。

「イヤアアアアアア――――――!!」
「――っ!」

 耳をつんざくような女の金切声が響き渡る。
 振り仰げば人形がすっくと立ち上がり、こちらへ駆け来ようとしていた。同時に銀針が舞い、空を切って飛来する。
 人を食ったような不意の襲撃に、しかし壱彦は冷静だった。マネキンを倒し防壁にすると、迷わず走り出す。毒針が服に掠ったが、脇目も振らなかった。

「こっちだ」
 出口から静かな声がし、銃撃音が響き渡る。恭弥だった。
 悲鳴の上がる方へとライフルを連射し敵の注意を逸らす。
 壱彦は耳を覆いながらしっかりと頷き、足に力を込める。持ち前のスピードで疾風のように駆け抜けた。



●ドールレディの鳴く夕べ

「とにかく、無事で良かったわ」
 事の顛末を聞いたフローラは、息を吐いて壱彦を見やった。
 彼はぺこりと辞儀をして返す。


 六人の撃退士達は情報共有を終え、倉庫前に集まっていた。

 既に日は傾き、美しい夕陽が西の空に輝いている。
 その夕映えを横顔に映しながら、フィルはそっと俯いた。
(やっぱり、あの人がディアボロなのかな……)
 手元の携帯には、倉庫内の生命反応を調べた玲獅からのメールがあった。“倉庫の奥に生命反応が一つ”という報告に、肩を落とす。敵の特徴からしても、行方不明の職員の目撃情報からしても、彼女がディアボロであることは確実であるように思われた。
 おまけにその娘まで行方不明とは、何らかの事件に巻き込まれているとしか思えない。
 ぎゅっと目を瞑れば、玲獅がそっと肩に手を置く。同じ色をした目を認め、フィルは小さく笑みを返した。
「五時だ」
 恭弥が呟いた。同時に町内放送から五時の音楽が響き渡る。古いフランス映画のテーマだ。
 哀愁のある調べに耳を澄ますと、やがて倉庫から女の泣き声が聞こえてきた。咽び泣くようなそれは、悲哀に満ちた沈痛な声。
 玲治が眉根を寄せ、倉庫のドアを静かに開け放つ。

「逢魔々時を告げる声ってやつか? 五時のチャイムにしてはちと物騒だがな」

 呟くと光纏し、素早く中へと飛び込んだ。



 潜入しながら、フローラが手際良く周囲のマネキンをどかす。
 六人は各自の射程限界の位置まで移動すると、積荷に身を潜めた。
 倉庫の奥で響く女の泣き声が、徐々に大きくなる。
 その声の中でそれぞれが目を見交わし合い、静かに頷いた。


 まず動いたのは恭弥だった。スナイパーライフルを構えると、咽び泣く人形に照準を合わせる。
 金の瞳に迷いはなかった。その人形が誰であったとしても、冥魔となった以上、討ち取ることには変わりがないのだから。
「鎖のおかげで行動範囲も狭い、狙い易い的だな」
 低く呟くと、狙いを定めてショットを放つ。アウルの光を纏った弾丸は、過たず敵の脚部を撃ち抜いた。
「イヤアアアアアア――――――!!」
 倉庫を震わせるような悲鳴が轟く。アシッドショットを見舞った左足が、白煙を上げて腐敗していた。皮膚である布は引きちぎれ、中から綿が零れ出る。縫合しようとするが、溶け腐る方が早くそれは叶わない。

 人形が痛みにのたうつ隙を見計らい、次にフィルが動いた。倉庫の中程まで進んだ彼女は、アウルを足に貯め飛び上がる。マネキンの肩を踏み更に跳躍すると、阻霊符を取り出した。向かうはミシン台の奥。冥魔の元へ。
 視認した途端、フィルの顔が曇った。
 左足を押さえてしゃがみ込み、身も世もなく泣いている、長い髪のディアボロ。
(やっぱり、そうなんだね……)
 ふと直感した。行方不明のパート。十四歳の娘の母。そのなれの果てだと。
 痛みをこらえるように唇を噛みしめながら、阻霊符を発動させる。その時。
 人形が不意に振り返り、金切り声を響かせた。同時に無数の銀針が形を為し、フィルへと向けて飛来する。初動が遅れ逃げ場を失った彼女の前に、躍り出る影がひとつ。

「私の後ろへ!」

 玲獅だった。涼やかに声を上げると白銀の盾をかざし、襲い掛かる無数の針を見事にいなす。魔を払う白蛇の盾の前に、毒針は無力だった。かすり傷一つ与えない。
 ありがとう、とフィルが息をつくと、玲獅も微笑みを返す。
 人形が叫ぶ。悲しみから怒りへと変化したそれに、呼応するように無数の針が生まれ出る。玲獅が盾を構え直し襲撃に備えると、ふとミシン台の下で声がした。

「相手になってやるぜ、ボロ人形」
 玲治だ。輝くオーラを放ち、指で手招きする。その挑発に人形は鳴き声を上げ、向きを変えた。感情のないボタンの目が彼を捉える。その目を真っ向から受け、玲治は口の端を上げた。
 人形の腕が上がる。針が放たれようとした、その時。玲治の横で突風が吹き荒れた。出現するは氷の蛇。白い氷晶を散らしながら、光の速さで人形の脇腹に牙を立てる。
 直後、つんざくような悲鳴が上がった。
「相手は鈍いし、射程距離も短い。予想通りね」
 Eisschlangeを放ったフローラが静かに声をかける。負傷した人形は、全身に毒が回り痙攣を起こした。

「毒を以て毒を制するってところかしら」
 フローラが呟くと、好機を逃さず壱彦が前に出た。その表情は晴れやかなものではなく、いっそ悲壮を帯びている。
「――っ!」
 鳴き喚く人形の声に、そしてその素体となった女性を想い、思い切り顔をしかめ。それでも霊符をかざし炎の刃を放つ。
 それは真っ直ぐに人形へと走って、爆ぜた。
 痛みを全身で訴えるその冥魔。

 それ自体がどんな悲劇を内包しているとしても。

「討つことだけが、楽にしてやる方法だ」
 玲治が決然とした声で言い放った。



「動きが鈍いのなら、遠慮なく遠くから削らせてもらうわ」
 フローラの言葉通りに、遠距離からの攻撃は極めて有効に作用した。
 光弾が撃ち抜き、氷蛇が牙を剥き、炎の刃が切り裂き。
 鎖に繋がれたドールレディは、白綿を散らしながら、銀針をばら撒きながら、舞台の上で踊り狂う。


 右腕と左足を失った体で回る、死のワルツ。
 おぞましい絶叫と、鎖の重たい音が、その舞を彩る。

 やがてその声は言の葉を作り、意味を持って紡がれた。
『カエリタイヨオオオオォォォ――――! カエラセテヨオオォォォ――――!』


 はら、と玲獅の瞳から零れる。
 自身の意図と反して溢れるそれ。気付いたフィルが素早く手を握る。目は人形を見据えたまま、手が白くなるほど、強く握った。


『カエリタイヨオオォォォ――――!!』
 異変が起こったのは、その時だった。
 右腕左足が欠損し、右足も恭弥のアシッドショットによって完全に腐敗した人形は、その部位を捨て、這いつくばるように前へと進みだしたのだ。
 鎖から解き放たれた人形が目指すは、右腕が飛ばされた場所。縫合する為に糸を伸ばす。
「させません、没収させてもらいます!」
 躍り出たのは壱彦だった。鋼糸で腕を絡め取り、しっかりと抱きかかえる。人形は一声上げると、今度はマネキンの腕へと糸を伸ばした。
 途端、破裂音が響き渡り、マネキンが一斉に粉砕する。
「この場、フィールドを使ってくると思ったよ」
 恭弥だった。威力あるナパームショットで周囲の物を吹き飛ばし、縫合を阻止する。

 人形が苛立ったように吠えると、ミシン台に転がった銀針が息を吹き返す。それは宙を舞って人形の頭上に浮かび、鋭い切っ先を揃え飛来した。
 傍らにいる壱彦の元へ。
「!」 
 思わず目を瞑った壱彦に、しかし針は当たらなかった。そっと目を開ければ眼前に仁王立ちする玲治の姿がある。
「おいおい、俺を無視するんじゃねぇよ」
 額から流れる血を舐め、唸るように呟く。壱彦を庇い、全身に毒針を浴びたものの、かすり傷程度で済んでいる。壱彦はその事実に息を呑んだ。

 人形は鳴く。

「これで終わりにしましょう」
 玲獅が静かな決意をもって呟くと、詠唱を始める。浮かび上がらせるは、聖なる鎖。
 人形が啼いた。巻き付いた鎖が身体を縛り、苦悶の悲鳴を上げる。
 その隙を逃さず、フィルとフローラが走った。
 フィルの手に持つ白刃の剣が煌めく。それを舞うように高く振り上げ、飛び上がる。
「数多なる刃よ切り裂け……残影波閃!!」
 美しい一太刀が閃いた。続けざまにフローラが飛び上がる。

 悲痛な声を上げるよりも早く。痛みを感じる間もなく。その前に。

「あなたを解放してあげるわ」
 澱んだ氣が辺りに満ちる。舞い上がる砂塵を浮かべ、人形を見据え。
 氷刃を纏う細剣を構えると、渾身の力で振り下ろした。



●終章

 最早動かぬ人形の、その背後に見つけたのは夥しい血痕と女性物のバッグ。行方不明の職員の物だった。
 娘は何処に行ったのか、何故鎖で繋がれていたのか。全てがまだ謎の中にある。
 ただ一つ分かっていることは、仲の良い母娘を引き裂き嘲笑した、冥魔の存在があるということ。

 現場で見つかった手作りのお守りを握りしめ、フィルは唇を噛む。
 中に入っていたのは、母娘の写真。幸せそうなその笑顔に、自身の過去がふと蘇る。

「なんで、こんなことになったの……?」

 今はただ、嘆くことしかできなかった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・播磨 壱彦(jb7493)
重体: −
面白かった!:6人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
起死回生の風・
フィル・アシュティン(ja9799)

大学部7年244組 女 ルインズブレイド
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
撃退士・
播磨 壱彦(jb7493)

大学部1年259組 男 鬼道忍軍