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マスター:川上 野溝
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/10/02


みんなの思い出



オープニング

●影法師の願うこと

 死神の醜悪な提案に、なす術もなく、男はくずおれる。
 選択の余地はなかった。背後には守るべき子らがいる。
 ゆっくりと頷けば、哄笑とともに重たい鎌が空を切って落とされる。
 目を瞑る。どうか願いが聞き届けられるように。
 どうか愛しい者達が、闇の魔手から逃れられるように。


●四辻の怪異

 古い民家の立ち並ぶ住宅街には、細い路地が無数に張り巡らされている。
 その路地の一画には、東西南北に走る十字路――四辻があった。
 昼間でも薄暗く、いやに静かなこの四辻は、昔からいわくつきの場所だった

「四辻の角に誰か立っている、ねえ。誰もいないじゃねえか」
 愚痴をこぼすのは、フリーランスの撃退士だ。ポケットに手を突っ込み、煙草を噛む。
 しんと人気の絶えた深夜。角に立つ街灯だけが、ぼんやりと白い光を放っている。その明かりに照らされ、彼の影がひとつ、四辻の中心に伸びていた。
「ったく、誰だよ。下らねえ怪談話に依頼を出した奴は。ただの錯覚に決まってんだろ」
 苛々と舌打ちをする。辺りをぐるりと見回すも、何の変哲もない白い塀が続くばかりだ。
 撃退士は深くため息をついた。とんだ無駄足だ、とぼやき引き返そうとした、その時。 

 ふと、背後に気配を感じた。直後ぞろりとした視線が背中に這い、肌が粟立つ。
 勢いよく振り向けば、四辻の一角にそれは、いた。
 ぼんやりと光る街灯の下、さっきまで誰もいないはずだったその場所に、背の高い人影が立っている。
 比喩ではない。実体のある真黒な“影”が、こちらを向いて佇んでいるのだった。

 撃退士はリボルバーを取り出す。同時に影が動き、黒い霧を噴出した。
「くそっ」
 咄嗟のことで逃げ切れず、まともに顔に浴びてしまう。霧が生み出した闇のせいで視界がきかず、弾道は大きく逸れていた。後頭部に気配を感じて身を伏せると、頭上で影の腕が空を切る。
 すかさず手が伸びた方へと弾を撃ちこむが、やはり手応えがない。ただ、暗黒の霧が妖しくゆらめくばかりだ。
「出てこい! 出てこいっつってんだよ!」
 吠え声を響かせる。しきりに辺りを見回すと、ふと、耳元で虫の羽音のような音が聞こえた。
 瞬間、視界が完全に閉ざされる。
「――――ッ!!」
 影の手だった。粘り気のあるその手が、強い力で顔に掴みかかる。必死で銃を放つが、影は身をくねらせてかわし、ひしと体に抱き付いてきた。気づけば、触れた先から生気を吸い取られている。
「離、せっ……!」
 必死で足掻くが、生気を吸い上げ強まる影の前では、それも虚しい。
 撃退士のくぐもった悲鳴だけが、暗い四辻に響き渡った。
 それは徐々に小さくなり、やがてふつりと途切れる。

 漆黒の闇。
 それが、彼が最後に見た光景だった。
 

●斡旋所にて

「厄介な敵だわ」
 神妙な面持ちで呟いたのは、依頼斡旋を請け負う、高等部二年桜木みつかだ。
「旧市街地の四辻で、ディアボロが一体確認されたの。漆黒の影のような人型ディアボロよ。己の特性を活かす知能はあるようで、夜にならなければ出て来ない。すでに地域住民や撃退士からも、犠牲者が出ているわ……。今は町に避難命令を出して、住民を保護している」
 みつかは眉をひそめる。
「黒い霧を噴出し、人の生気を吸い取るおぞましい相手よ。好戦的だけど逃げ足も早いから気をつけて。――ただ、住民の報告によると、奴には一定の行動パターンがあるみたいなの。奴の出没地点はきまって四辻の街灯の下。そしてそこを基点として半径三百メートル圏内で行動する。その先は絶対に出ようとしないらしいわ。まるで、地縛霊みたいにね」
「そこに何かあるとか……?」 
 撃退士が思わず口を挟むと、彼女は首を振る。
「わからない。でもフィールドが定まっていることは、逆に言えば勝機よ。確実に討伐できるよう、策を練って頂戴。くれぐれも路地裏や小道に逃げて見失うことがないようにね。健闘を祈るわ」
 撃退士達が頷くと、ふと思いだしたように桜木は続けた。
 戸惑い気味にこちらを見上げる。
「ちなみに……真偽のほどは定かじゃないし、これはあくまで補足なんだけど。そのディアボロ、十歳以下の子どもには、手を出さないみたいなの」

 一体どういう訳かしら、とぽつりと呟いた。


リプレイ本文


●影法師を探して 

 四辻を吹き抜ける、一陣の風。
 秋の深まりと共に、冴え冴えと澄み渡るそれが、辻に立つ神谷 愛莉(jb5345)の銀髪を揺らす。
 愛莉はその風にふと顔をあげ、周囲を見回した。古くうらぶれた住宅街だ。特にこの四辻は民家やアパートが密集しているせいで日当たりが悪く、日中の今であってもぼんやりと薄暗い。今にも何かが出てきそうな、そんな怪しい雰囲気がある。
 不穏さに思わず顔をしかめていると、隣に伊藤司(jb7383)が立った。
「大丈夫?」
 愛莉の持っていたハードルをひょいと持ち上げる。今日の為に彼女が学校から借りた備品だった。七歳の少女が持つには重すぎるだろうと、心配してやって来たのだ。愛莉は我に返り笑みを作った。
「ありがとうございます」
「どこに置けばいい?」
 あの路地に、と愛莉が指さす。二人は今夜の戦闘に向け、敵の逃走経路を虱潰しに塞いでいた。
「それにしても、こどもは襲わないって……どういうことなんだ?」
 歩きながら、司が戸惑ったようにぽつりと呟く。愛莉も小さく頷いた。
「…ディアボロって、基本“欲望”にしたがって行動する事が多いんですよね? その場から動こうともしないし…なんだろ?」
 辻の街灯の下に出没し、半径三百メートル以内で行動する。しかも、十歳以下の子供は襲わない――。今回の敵は不可思議な行動が多く、何だか複雑な気分になる。
「愛莉、四辻の“いわく”について噂や昔話がないか本で調べてみたんです。これといったものはなかったんですけど……でも、気になる怪談を見つけました」
 怪談、と司が返す。愛莉は頷いた。
「“いわく”って、怪談のことだったんです。こんな気味悪い場所なので、怪談話に事欠かなかったらしくて。なかでも気になったのは“高坊主”ってゆう妖怪で」
「高坊主?」
「四辻に現れる、とんでもなく背の高い妖怪のことです。出遭った人は病気になるらしいんですけど。この高坊主の姿がいろいろで。たんに坊主だって言う人もいれば……真黒な影だって言う人もいるんです」
「まさに影法師、だね。あのディアボロとよく似てる」
 愛莉は頷いた。何か出来過ぎている。二人の間にしばし沈黙が降りる。
 考え込んだまま、司がそっとハードルと角材を設置すると、愛莉ははたと緑の目を瞬かせた。

「……屋根飛んで逃げられたらどうしよ?」


 佐藤 としお(ja2489)と楊 礼信(jb3855)は、市街地へ向かっていた。としおは警察署へ、礼信は住民達が避難している公民館へと赴くためだ。今回の敵に関わる情報の聞き込みと、礼信はそれに加えて、愛莉らが行っている戦闘準備の事情説明をするつもりだった。
「宵闇に現れて生気を吸い取るって吸血鬼みたいだね、アハハ……」
 その外見に比して意外と怖がりなとしおは、ひきつった笑みを浮かべて頭を掻く。そうですね、と礼信がくすりと笑った。
「厄介そうな冥魔みたいですね。退治の為に僕も全力を尽くしますね」
 若干十歳の撃退士は、その大きな瞳に強い光を宿す。としおもしっかりと頷いた。
「だな。あまり怖がってもいられないか」
 少し口の端を上げると、すぐに顔つきを改める。
(さて、どんな話が聞けるか……)
 遠くを見据えるように、目を細めた。


 四辻の北にある小さな街灯。件の冥魔が出没するという、その場所に御門 彰(jb7305)は佇んでいた。
 彰は街灯とその背後にある木造の古いアパートを見つめ、一瞬目を眇めると、やがて手元に目を戻す。持っていた袋から小さな金属を取り出し、盛大に地面に撒き散らした。有刺鉄線から作った、即席マキビシだ。
 奴の出没地点に、罠を仕掛けておこうという魂胆だった。
「あぁ…こうしてると、まるで忍者になった気分だ」
 思わず至福の笑みがこぼれる。名実共に至極まっとうな忍者の彼は、しかしまるで自覚がなかった。
「これから周辺調査に行きますが」
 ふと後ろから声をかけたのは、天宮 佳槻(jb1989)。彰は慌てて残りのマキビシをばら撒いた。
「僕も行くよ。……あそこに行ってみない?」
 指さしたのは先ほど見つめていたアパートだ。街灯から最も近く、薄汚れたこの建物がずっと気になっていたのだ。
 似たようなきな臭さを感じたのだろう、一目見ると佳槻はすぐに頷いた。
「行きましょう。成果があるといいのですが」
 そう呟くと、迷わず足を踏み出した。



●子羊達の行方

「最近の事件?」
「はい。あの四辻の辺りで、何かありませんでしたか」
 婦人達を前に、礼信は身を乗り出す。彼は早速聞き込みを開始していた。
 住民である彼女達は一様に目を見交わし、やがておもむろに口を開く。
「最近といえば……ほら、あの神隠しのことじゃ」
「あら、私は一家心中だって聞いたわよ」
「でも、遺体がないって言うじゃない。殺人よ。“どうか子供だけは”って、声が聴こえたって噂よ」
 口々に漏れるその言葉に、礼信はぎょっとする。詳細を問い質すと、婦人は口元を押さえた。
「優しいお父さんと可愛い子供達だったわ。奥さんは早くに亡くなって……男手一つで子供達を育てていてね」
「十歳と七歳の息子さんだったわね……。しっかりした兄弟で、仕事で遅い父親の帰りをいつも我慢強く待っていたの。辻の街灯近くにある安アパートに間借りしててね。何度か差し入れも持って行ったわ」
「でもある時ふつりと三人の姿が見えなくなって。何かあったのかと、大家さんが様子を見に行ったら……床に」
「床にね」


 古ぼけた木床に撒き散らされた、鮮烈な赤。
「……そんな」
 彰が絶句した。夥しい量の血痕が、床はもちろん、柱にも壁にも付着し当時の惨状をそのままに留めている。
 アパートの一室、外の街灯に最も近い、三階の角部屋に彼らはいた。
 凄惨な光景を前にして、立ち尽くす彰をよそに、佳槻は冷静に部屋に入り血痕を確かめる。
(清掃されていないこと、血の状態といい、最近のもので間違いはない。派手に撒かれた血の跡から見るに、何か大きな刃物でやられたのだろう。失血死するほどの血量だが、しかしそれは)
 佳槻は彰に振り向いた。
「一人分の血、ですね」
 眉をひそめる。この部屋には、子供がいた形跡があるのに。


「部屋に付着した血痕は、DNA鑑定の結果、父親のものだと判明しています。致死量を超えていますので恐らく、死亡しているでしょう。しかし遺体はいまだ見つからず、この件についての確たる証言や証拠もなく、捜査は難航しています」
 警官は口惜し気にそう報告すると、現場写真を見せる。としおは渋面を作り、すぐに顔を上げた。
「子供達は!?」
「それが、行方不明なのです。事件当日、学校から家に帰る兄弟を住民が目撃しているのですが。それきり、忽然と姿を消しており……事件に巻き込まれたとしか考えられません」
「どこかに隠れているとか、遠くに逃げたとか」
「付近はもちろん、県外までくまなく捜索の手を広げましたが……」
 彼は首を振る。としおは頭を抱えた。
「父親の遺体もなく、子供も失踪……しかも、生存さえわからない」
 そしてあの冥魔が確認されたのは、この事件の直後。あまりにも絶望的な事実に、唇を噛みしめた。



●そして夜が来る

 月のない深夜。重く澱んだ闇をかきまぜるかのように、凍てついた風が吹く。その昏い夜の底で、彼らは“それ”が来るのをじっと待っていた。様々な想いを胸に押し隠して。

「結局、あのディアボロは父親なんだね」
 司の言葉に、彰は頷く。
「そうだと思う。子供を襲わないところからしても。お父さんで間違いないんじゃないかな……」
 そう言って、後方のバリケードを見やる。昼の間に二人で作ったものだった。
 じゃあ、と司は呟き、口を噤んだ。
 失踪した子供はどこにいるのか。あらゆる可能性のなかで、最悪の展開が二人の脳裏を掠める。
 やり切れないね、と彰が囁いた。
 冷え切った一陣の風が、辻に吹き荒れる。

 流砂を孕むその風に、目を眇めたのは佳槻だった。
 辻の西道へ待機した彼は、掲げた腕を下ろし、街灯へと目を戻す。
「……来たか」
 街灯の白々しい明かりの下、忽然と姿を現したそれは、闇夜の色を吸い取ったかのような、漆黒の影法師。
 佳槻は素早く光纏した。透き通る光の粒子が彼を包み込む。そのまま手に持つ祖霊符を発動させると、影の元へと走り出す。
 佳槻の心は決まっていた。
(どんな理由や背景があろうと、やる事自体には変わりは無い)
 ディアボロとしての力で被害を出していることに変わりは無いし、退治する事を請け負ったのだから。
「力を振るえば、そのツケは払う事になる」
 そう呟き銀の紋章を発現させた。

 時を同じくして、影の出現を確認したのはとしおだった。アウルを弾に込め、流れるような動作でアサルトライフルを構える。
 撃ちこむ寸前、としおの顔は暗く歪んだ。
「ハッピーエンドは無理なの、か……?」
 冥魔の正体について予測はついていた。もし子の親であるなら、出来るものなら家族の元へと返してやりたかった。しかし今、彼を待つ家族さえもここにはいない。
 としおは強く目を閉じ、そして開けた。
 今出来るのは、奴を――彼をこの辱めから解放することだけ。
 銃を放つ。金色の軌跡を描いたそれは敵の背へ。としおにしか分からないアウルの痕跡が、煌めいた。


 現れた影はゆらりと周囲を見回し、やがて滑るように音もなく走り出す。向かうは彰と司の元へ。
「ああっ、マキビシがっ!」
 思わず彰が呟いた。罠に触れるも効いた様子もなく、影は平然と駆けて来る。そのままふわりと飛び上がると、口から黒霧を吐き出した。初動が遅れた二人は避けきれず、まともに顔に浴びてしまう。
「くっ……」
「このディアボロ…忍者っぽい!?」
 反応はそれぞれである。
「御門さん! 伊藤さん!」
 高い声に振り仰げば、北の方に淡く輝く光源が。星の輝きを手にする礼信の声だった。柔らかなその光が大きくなり、辺りに漂う闇を払う。
「後ろから来るぞ!」
 敵の位置を把握したとしおが、礼信に続いて声を上げる。二人の援護に彰は頷いた。右足を上げ、振り向きざまに蹴撃を見舞う。悲鳴をあげ、影はバリケードへと吹き飛んだ。そのまま発現させた大鎌で横薙ぎに一閃すれば、強かな衝撃が腕に残る。
 一拍置いて、轟いたのは金切り声。夜空を切り裂くような絶叫が響き渡る。
 しかしそれは痛みの悲鳴だけではなかった。影は彰に戦くように身を引きずり素早く離れる。

 狂ったように辻へと駆け戻る影を見て取り、佳槻はぽつりと呟いた。
「鎌でやられたのか……?」
 あの父親は。
 しかしその思考も、迫りくる影を前に途中で途切れた。意識を集中させ風を生み出す。砂塵が舞い上がり澱んだ氣が辺りに満ちる。その氣の密度が最高潮に達した時、佳槻はそれを影に放った。八卦石縛風、土行の陰陽術。
 砂塵に絡めとられるその術に、影は再び悲鳴を上げた。しかし持ち前の素早さで、凝固する前に身をかわす。
「すーちゃん!」
 愛莉が叫ぶ。傍らに佇むのは、暗青の翼竜、ストレイシオンだ。呼びかけに呼応したその竜が、口から青の炎を噴く。
「ヒリュウ、行け!」
 続けざまに司が喚び出していた小竜、ヒリュウに合図を送る。エメラルドの瞳を持つその朱竜が、空を滑空し火炎を吐く。赤と青、二つの炎が合わさり、影の元へ。
 しかし影は俊敏だった。滑るように身を避け、その勢いのまま司の元へと滑り寄る。
 伊藤さん、と呼びかけたとしおの声も時既に遅く。闇色の腕がパーカーを掴み、抱き込むようにしがみついた。
「うあああッッ!」
 蒸気のような音を立て、触れた先から生気を吸い取っていく。司はのたうち回り抵抗するも、影は執拗に離れない。
「伏せて下さいっ!」
 叫んだのは礼信だった。司がすぐに身を伏せると、頭上で雷音が轟く。絶叫と共に拘束が解かれ、白い煙を立てた影が、苦痛に身を悶えさせた。

「……いかなる事情があろうとも、ひとたび無辜の民に牙をむいた以上、その報いをおとなしく受けて頂きます!」
 礼信が燃える瞳で喝破する。敵にまつわる全ての話を聞いた後も、礼信の心は固く決まっていた。冥魔となった今、彼は民に危害を及ぼす害悪でしかないのだから。
(だから……戻してあげたい。優しかったお父さんに)
 今この時も。礼信を見つめたまま動きを止めた影を、その人を、解放してあげたい。
 決意を胸に書を手にする。白い燐光と共に巨大な鎖を浮かび上がらせた。

 影が動きを止めたことを見過ごさず、佳槻が攻撃を仕掛ける。放たれた八卦石縛風は、しかしあえなくかわされる。
「もう一度っ」
 飛び上がったのは彰だった。素早い蹴りを入れ、影が避けたところに、大鎌を振り下ろす。鋭いその刃が、左肩を抉った。
 一瞬大きな悲鳴をあげた影はしかし動きを止めず襲い掛かる。狙うは布を頭から被った人影――愛莉だ。察知した愛莉は逃げなかった。迫りくる影が十分に近づいたタイミングを見計らい、素早く布を取り払う。不意に現れた七歳の少女に、影はまたも動きを止めた。煩悶するかのようにその場を回り、悲痛な声を響かせる。愛莉はぐっと眉をひそめた。
 あのね、と影に呼びかける。
「もういいの。護ってくれなくても大丈夫。もうあそこには誰もいないの」
 それがどんな意味を持つとしても。今はそう安心させてやりたかった。愛莉自身、家族を護りたい気持ちは誰よりも分かっているから。
 影は唸る。呼応するかのように、声を上げる。

「コドモタチダケハコドモタチダケハ――――!」

 愛莉の顔が更に歪んだ。いびつな父性だけが残った、悲しい影法師。
「でもね、人を傷つけちゃったから…もうわかんないんだよね」
 誰を護るのか、何の為に護るのか。
「だから、えり達あなたを消さなきゃいけないの。ごめんね」
 苦渋の表情のまま、愛莉が詠唱する。白く輝く護符が生まれ、真っ直ぐな軌跡を描いて影の胸を貫通した。辻に絶叫が響き渡る。


「僕達があなたを解き放ちます」
 逃走を図る影に、立ち塞がったのは礼信だった。発現した巨大な鎖で絡め取り、白い輝きで締め付ける。身動きの取れない影に、としおが躍り出た。

「ハイ、もう逃がさないよ」
 ライフルを影の頭に構え。

(どうか、安らかに)

 鎮魂の想いを胸に、撃ち放つ。蒼の光を帯びた破魔の弾丸が一筋、影の頭を貫いた。



●終章

 その後六人は街灯とアパートに花束を献じ、黙祷を捧げた。冥魔となった父親は後日葬儀されることになり、子供達の捜索も続行することが決定した。
 家族を千々に引き裂いたこの事件に胸を痛めながら、撃退士達はただ願うばかりであった。
 どうか子供達が無事であるようにと。



”そもそも、なぜこんなディアボロが作られたのだろうか? 魂を狩るのに効率がいいとは思えないが、 「人間」性を嘲笑わなければならない理由でもあったのだろうか?”

 佳槻が呟いたこの言葉が、それぞれの胸に重くのしかかって、響いた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 リコのトモダチ・神谷 愛莉(jb5345)
重体: −
面白かった!:6人

ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
闇を解き放つ者・
楊 礼信(jb3855)

中等部3年4組 男 アストラルヴァンガード
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
撃退士・
御門 彰(jb7305)

大学部3年322組 男 鬼道忍軍
闇を解き放つ者・
伊藤司(jb7383)

大学部3年93組 男 鬼道忍軍