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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/05/03


みんなの思い出



オープニング

「冬は終わり、春が来ました。……待望の春です」
 2013年、4月。山形県某所。
 天使支配地域からの大規模な侵攻に備え、『最前線』にて常駐・警戒に当たっている民間撃退士会社、通称『笹原小隊』の隊長室で、第1分隊長・藤堂は、小隊長・笹原のデスクの前で、一部の隙も無い『休め』の姿勢で朗々と声を張り上げた。
「我々の行動を掣肘していたあの忌々しい雪も、最早、春のせせらぎと化して土の下へと消えました。雪さえなければ、部下たちも『雪狼騎兵』ごときに遅れは取りません。ぜひ討伐隊の編成許可を」
 手元の書類から視線を上げ、笹原は藤堂を上目で見やった。……いや、勿体無いなぁ。折角の美人さんなのに。って、これ、セクハラだよなぁ。ま、だから声には出さんわけだけど。
「小隊長」
 気がつくと、藤堂が怖い目をして見下ろしていた。笹原は(表面上)その表情を引き締め直した。

 2013年、2月。
 哨戒任務を兼ねて前方へと送り出した小隊の斥候4名が、サーヴァントと遭遇、全滅した。
 何よりも痛かったのは、何の情報も持ち帰れずに全滅したという事だった。この地域においてはこれまで、隊で対処しきれない規模の数や力を持つ敵が出現したことはなかった。もし、その様な脅威が進出してきているとすれば…… 最悪の場合、天使勢力による本格的な侵攻をも想定する必要が出てくる。
 慌しく関係各所へ連絡が行われ、その日の内に、久遠ヶ原学園の撃退士に脅威の排除が依頼された。……笹原小隊は、旧体制下の学園で受けた軍隊式教育によりアウルの成長が阻害された学生たちが、『卒業』後に有志を募って起業した撃退士の集団だ。既に隊員たちのアウルの成長は頭打ちになっており、個々の戦闘能力では、成長著しい現役学生に及ばぬ者も出始めている。
 つまり、学園に依頼が出されたということは、どこぞの上層部は、事態が小隊の手に余ると判断したと言うわけだ。それは即ち、隊員が、自らの手で、仲間の──戦友の仇を討てないということを意味していた。

 依頼を受けた学園の撃退士たちはその日の内に進発し、待ち構えていたサーヴァントたちの7割を撃破。残余の敵も敗走せしめた。
 学生たちは学園に帰還する前、遭遇した敵の概要をレポートに纏めて提出し、『小隊』にも多くの情報をもたらしていった。
 それによれば、敵は、隊が『雪狼』と呼称する狼型のサーヴァントに、比較的攻撃力の高い得物を持った軽量の骸骨型を騎乗させ、雪上の高い機動力で以って、積雪に足を取られて移動も儘ならぬ撃退士たちを翻弄するような戦術を取ってきたという。
 雪狼は、雪上移動が得意なだけの平凡なサーヴァントだ。鼻が利き、咆え声で味方を呼ぶことも出来るため、冬季の斥候としてよく見かけられた。骸骨型もこの地ではよく遭遇する種別の敵であり、殊更珍しいものでもない。
 つまり、敵は既存の2種のサーヴァントを組み合わせて運用し、積雪下という状況を最大限利用して斥候を全滅させたというわけだ。即ち、敵の本格的な侵攻の可能性を示す材料はない── 『仙台』の人間はそう判断し、警戒態勢はすぐに『平時』のレベルに戻された。
 とは言え、現場レベルでは『雪狼騎兵』の脅威が低下したわけでもない。隊は斥候の人数を1班4人から2班8人態勢にして活動を継続したが、隊員の負担は増えるし、疲労が溜まればミスも増える。

 かくして、多くの負傷者を出しながら、小隊はからくも地獄の様な冬を乗り切った。
 藤堂が雪狼騎兵に対する『復讐』を言い出すのも、むべなるかな、とは笹原も思う。

「えー、結論から申しますと、却下です」
「なぜですか?!」
「藤堂くん。我が社が請け負っている任務は何ですか?」
「……我が駐屯地前方、天使支配領域方面のエリアの哨戒。出現する敵の情報を収集し、以って敵の大規模侵攻の可能性を警戒し続けること、です」
「その通り。討伐隊の編成は我々の『本業』に影響します。よって、認めるわけにはいきません」
「しかし」
 藤堂はなおも食い下がった。
「件の雪狼騎兵の出現以降、この辺りに出没するサーヴァントに明確な変化が見られるようになりました」
「戦術的な戦闘行動を取り始めているね」
「そうです。つまり、サーヴァントの中に群れを統率する長──リーダーがいるということです。これは早急に叩いておくべきです」
 学生たちが残していったレポートの中にも、サーヴァントが咆え声で味方に『指示を出した』様子が描かれていた。個人的な戦闘能力に劣る笹原小隊にとって、サーヴァントに対するアドヴァンテージが隊としての戦闘行動だ。その優位が揺らいでは、隊の損害も大きくなる。
「分かった。では、久遠ヶ原学園に依頼を出そう」
「またですかっ?!」
 藤堂は両手でデスクを叩いた。昼食から戻ってきた笹原の副官が「何事か」と詰問する。
「学生たちはこの辺りの戦場に詳しくありません。能力はあっても、思わぬ不覚を取ることも……っ」
「なら、藤堂くん。君が付いていってやればいいじゃない?」
「は?」

 かくして、藤堂は依頼を受けた学生たちと共に、敵を求めて無人の農村を渡り歩くこととなった。
 山間の無人の村落。一面に広がる田畑── 雪解け水にぬかるんだあぜ道を避け、アスファルトに覆われた農道を警戒しつつ前へと進む。
 ふと唐突に。前方の道の先に、2騎の雪狼騎兵を伴った、一際大きな狼騎兵の姿が藤堂の目に入った。
 威風堂々とすら感じさせるその身姿── 全長2mを軽く超える狼は『ダイアウルフ』の亜種だろうか。どこか理知的な瞳に統率者としての威厳を感じる気がする。その逆に、眼窩に虚無を湛える乗り手は『骸骨指揮官』か。確かに、この組み合わせなら雪狼騎兵を従えることができるかもしれないが……
 と、踵を返して去ろうとする3騎の狼騎兵── 学生たちに追撃の指示を出そうとした藤堂は、だが、すぐに気付いてそれを止めた。
 農道の脇、左の田んぼの真ん中に、不自然な土の盛り上がりがあった。そう、田んぼの真ん中だけに。そんなもの、人の手によるものではない。
 案の定と言うべきか、その盛り土が更に盛り上がり、中から2本の『角』が顔を出す。淡い光を放ちながら、帯電した空気を纏わせたそれは…… 前方、撃退士たちの隊列に向かってエネルギーの束を吐き出した。
「回避!」
 叫び、倒れ込んだ藤堂のすぐ側を、光の柱が飛び過ぎてゆく。直撃ではなかったが、発生したプラズマ放電(っぽい何か)が鞭と化して藤堂の身を叩いていった。声にならぬ叫びを上げる藤堂。光纏してなければ一撃で黒こげになっていただろう。
「狼騎兵の追撃は後だ! まずは全力でこいつを叩かないと……!」
 私怨を抑え、藤堂が指揮官として判断を下す。田んぼの真ん中では、本体だけで4mにも届こうかという巨大なクワガタムシが泥濘の中から這い出そうとしていた。角も入れれば全長は6mに届くだろうか。クワガタは硬い上翅を広げ、折りたたんでいた後翅(中の羽)を放熱板よろしく広げ、蒸気らしきものを放出した後、上翅を閉じつつ、再び角に燐光を纏わせ始める。
 藤堂は反対側──農道の右側の田へその身を転がした。その頭上を再び閃光が行き過ぎる。
 田の泥濘に埋もれながら、藤堂は悔しげに頭を上げた。
 視線の先の狼騎兵がちらとこちらを振り返り…… そのまま遥か農道の先へと消えていった。


リプレイ本文

 土の中から現れたクワガタが藤堂に2射目を放った時── 学園の撃退士たちは一瞬、直撃を受けた藤堂が消し飛んだのではないかと錯覚した。
「と、藤堂さんっ!?」
 隊列の先頭、最も北側を歩いていた千葉 真一(ja0070)が驚いて隊列中央を振り返る。アストラルヴァンガードの影野 明日香(jb3801)はすぐさま疾風の如き速さで藤堂のいた場所へと走り…… 農道の東、クワガタと反対側の田んぼに落ちている藤堂を見つけて安堵した。
「大丈夫よ! 東側の田んぼに落っこちてる!」
「そうか! 農道の陰に落っこちてるなら大丈夫だな!」
 あっさり安心して。真一は胸の前で拳を握り、変身、いや、光纏を開始した。活性化されるヒーローマスク。天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!! の叫びと共に、真一が決めポーズで見得を切る。
「藤堂さんのことは任せた! 俺は北側から回り込む!」
「わかったわ! ……って、うわ、何か声聞こえるし」
 真一に『ブースト』をかけてもらった瞬間、どこからか「BOOST!」とやたらカッコイイ発音で聞こえてくるアナウンス。明日香はそのまま農道の下に下りると、半分泥に埋まった藤堂の側で腰を落とした。
「サンキュー、ドク。……だけど、身体半分縦に泥塗れとか。男爵かい。なにこれ、弄られキャラ決定フラグ?」
「いいから。怪我人はおとなしくしてなさい」
 愚痴る同年代女性、藤堂に適当に相槌を打ちつつ、明日香は水を掛けて泥を洗い、『ライトヒール』で治療する。
「藤堂。お主は攻撃に巻き込まれぬよう下がっておれ!」
 イーリス・ドラグニール(jb2487)がそう言うと、藤堂は素直にその忠告を受け入れた。イーリスは、ほう、と小さく感心した。自分が戦えぬ状態だとあっさりと見切りをつけたらしい。無理して戦っても足手纏いになるだけとの判断。流石はPMCのプロと言ったところか。
「とりあえず、固まっていたら危険そうだよ!」
 スレイプニルを召喚しながら、彩咲・陽花(jb1871)が警告の声を上げた。クワガタは今やその全貌を現そうとしていた。上翅を広げて水蒸気を吐き出しながら、人が最も集まった場所に向けてその角を指向し始める。
「皆、散開じゃ! このままでは次の攻撃の良い的じゃ!」
 イーリスはそう叫ぶと、『魔竜の翼』で上空へと跳躍。スコープ越しに敵の姿を捉えつつ、竜の翼をはためかせて滞空に入った。月影 夕姫(jb1569)もまた『小天使の翼』でその身を浮かせる。
「また厄介そうなのがでてきたわね…… 陽花も気を付けてね。アレの直撃は、ちょっとマズイわ」
「夕姫もね。……田んぼは酷くぬかるんでいる。スレイプニル! 私を乗せて連れてって!」
 友人に返事をしながら、召喚した馬竜に『クライム』で騎乗する陽花。夕姫は浮遊したままクワガタの北側へと回り込む。その右方。北側のあぜ道を走ってきた真一は勢い良く田に入り、最短距離での接近を図った。『ブースト』で足元に絡みつく泥濘を力任せに蹴り上げつつ、それでも着実に悪条件下の不整地を物凄い勢いで進み行く。
 一方、南側のあぜ道には、全力疾走で走る式守 麗菜(jb4733)の姿があった。
「夏にはまだ早いですが…… まさかの昆虫採集ですか」
 落ち着いた声音で、ポツリと呟く麗菜。彼女の意図は、南側のあぜ道を通って敵の背後に出ることにあった。大きく迂回することになるので、回避も何も考えずただ全力で移動する。今、狙われたらひとたまりもないが、そこは味方の仕事を信じるしかない。
「というわけで。私たちは囮として正面から接近するのよね」
 フローラ・シュトリエ(jb1440)とジェイニー・サックストン(ja3784)の二人は敢えて東側、敵の真正面から接近を目指した。
 ラインの出るチャイナ服に、これまた徹底的に軽量化された薄手の鎧を活性化しつつ、傍らのジェイニーを範囲に含めて『韋駄天』を使用するフローラ。目指すは正面突撃、近接戦。泥の中は動きにくいし、強力な攻撃には気をつけなければならないけれど…… うん、きっとなんとかなるわよね。
 一方、ジェイニーは不機嫌そうにへの字口で眉根を寄せて、左のレンズがひび割れた眼鏡をくいとずり上げた。
「まったく。ホントは狼狩りの時間だってのに、邪魔をして……」
 上空のイーリスはその呟きに心中で同意した。本命を目の前にして思わぬ横槍が入ったものだ。想定外の事態など戦場では間々あることではあるが。
「……まぁ、アレも天使共の駒である以上、潰すことに変わりはねーのですが」
 突進するフローラに続いて淡々と田に入ったジェイニーは、活性化した散弾銃を西部劇よろしくクルリと回すと、右のレンズ越しに伸ばした視線にその銃身を重ね合わせた。そのまま泥濘を1歩、2歩と歩みながら立て続けに散弾を発砲する。
 イーリスもまた狙撃銃のスコープを覗き、上空から銃撃を開始する。レティクルを敵甲殻の隙間に合わせ、発砲。照準器越しにアウルの銃弾が甲殻に弾けるのが見える。
「少し右に逸れた。誤差修正……」
 銃口をツイと動かし再度発砲するイーリス。次弾が甲殻の継ぎ目に着弾するのを確認してから、射撃位置を変える為、クワガタ南西へ向け移動する。
 その光景を前に、明日香は『塹壕』の陰から頭を出すと、クワガタの照準がこちらから外れたのを確認し、味方の援護に感謝しながら藤堂を肩に担ぎ上げた。
 そのまま敵の攻撃範囲外を目指して走る。ブーストで底上げされた疾風の如きその速さは、藤堂を担ぎ上げて尚、健在だった。農道を走り、一気に戦場離脱を図る明日香。それに気付いたクワガタは、だが、そちらに構う余裕はない。
「そのまま泥中に沈みなさい、ムシ○ング!」
 クワガタの北側まで飛翔した夕姫は、田の上のクワガタを斜めに見下ろしながら右腕を突き出し、周囲に出現させた虹色の光弾5つを立て続けに速射した。放たれた光弾は次々と甲虫を直撃し、甲殻越しに本体へダメージを与えるも、巨躯を誇る敵は中々動じない。
 クワガタは上翅を閉じながら、最も射角の変更が少ない目標── ジェイニーへとその照準を向け直した。『帯電』し、光り出す両の角。気付いたフローラが退避を叫ぶ。
「ちっ」
 ジェイニーは肩眉を上げて舌を打つと、散弾銃の銃口を角へと向けた。イーリスもまた狙撃銃の角度を変えて上空から角を撃つ。右と左、それぞれにアウルの弾丸をぶち当てられた両の角が、僅かにその射線をずらされ…… 放たれた光の砲撃はジェイニーを直撃することはなく。だが、余波たる雷の鞭が彼女を捉えて打ち据えた。
「あー、やっぱ無理でしたか」
 全身から湯気を上げながら、衝撃にくの字に曲げた身体を無理矢理に伸ばすジェイニー。やはり、この泥の中ではまともに回避も難しい。それでも、銃を構えて前へと進む。


「まあ、何もしないよりは移動しやすいのではないでしょうか」
 南のあぜ道をグルリと半周して敵の背後へ回り込んだ麗菜は、クワガタへ進み始める前に、進路上の田んぼに向けて『炎陣球』を投射した。田の表面を炙りながら一直線に飛ぶ炎の球。焼かれた田の上に湯気が上がる。
 麗菜は表面の水分が飛んだ田に足を踏み入れ…… ぶにゅり、と脛まで沈む感触と、染み入る泥水の冷たさに眉をひそめた。
 ひっこ抜き、もう一歩。麗菜は暫し沈黙すると、敵が背を向けているのを確認し…… 泥と格闘しながら再び全力で前へと進み始める。
 一方、東側、敵の正面では、ジェイニーが魔具を散弾銃から二挺拳銃へと変更し、前進しながら両手の銃を交互に撃ち放ち始めていた。
「圧し折れてくれりゃ、儲けもんなんですが」
 狙うはクワガタの角のその根元。矢継ぎ早に放たれたアウルの銃弾が、角根元の甲殻付近に跳弾する。甲殻は非常に硬い。だが、どんなに硬くとも、攻撃を集中すればいずれ砕けるのが道理だ。
「あなたの相手はこっちよ! こら、こっち向きなさいってば!」
 ジェイニーの斜め前を進むフローラは、敵の注意をジェイニーからこちらに向けるべく、符を手に、氷の刃をクワガタの眼前へと投射した。
 応じるかのように、その角をフローラへと向け始めるクワガタ。フローラは敵が喰いついたことを確認すると、被弾覚悟で『Eissplitter』の準備を始める。
「お前の相手はこっちにもいるぜ!」
 北側から突っ込んできた真一もまた、クワガタの左腹に銀色の脚甲で蹴りを放った。その衝撃はクワガタの甲殻を抜けて、中の本体まで『徹る』。「いける!」と手ごたえを感じ、再び『徹し』で蹴りを放つ真一。クワガタは脚の一つを上げて真一目掛けて振り下ろし。イリースの『回避射撃』に弾かれ、ズレた所へ突き刺さる。
 そんな真一の横槍にも構わず、クワガタはフローラへの砲撃を完遂させた。角の発光を確認したフローラが前へと倒れ、その身を泥へと沈み込ませる。その直上を通り過ぎて行く光の奔流。雷の鞭が身を叩く。
「開いた!」
 一生懸命泥の中を走る麗菜は、正面、クワガタの上翅が開くのを見て、息を切らせながらその中へ『炸裂符』を投射した。
「中身まで硬いってことは、ないでしょう?」
 呟きと共にピタリと張り付き、直後、小爆発を起こす炸裂符。さらに、カブトムシの北西側まで回り込んでいた夕姫が、追撃を叩き込む。
 5発の虹弾が立て続けに叩き込まれ、クワガタは初めて大きく仰け反った。痛撃を受け、慌てて上翅を閉じるクワガタ。だが、その状態ではエネルギー波の発射間隔は延びる。
 夕姫は再攻撃の機会を窺って…… ふと、甲虫の尻から生えた何かに気づいて、覗き込んだ。
 それは、甲虫から地面に刺された管状の何かだった。先ほど、クワガタが仰け反った際に地面から出てきたらしい。
「陽花。アレ、見える? もしかしたら、砲にエネルギーを供給している管かも」
「……確かに、怪しい管だね。わかった。こっちで攻撃させてもらうよ」
 馬竜に跨って宙を騎走する陽花が、槍斧を手に襲歩へと移行する。宙を突進していく陽花と馬竜。槍斧を振り構えた陽花が横殴りにそれを振る直前、上翅の下、隙間から水蒸気を噴出されて、驚いた馬竜が空へと逃げる。
「もう一度!」
 改めて突撃を掛けた陽花は、クワガタの背後を通り過ぎ様、斧槍を振って地に刺さった管を斬り飛ばした。瞬間、管の破孔からドロリと零れ落ちる泥と水。「冷却用の水をろ過して吸い上げていたの!?」と陽花が驚いた次の瞬間、クワガタは角に『帯電』したエネルギーを自己の周囲へ向け放電した。
「わきゃあっ!?」
 電撃は、クワガタに接近していた真一とフローラ、陽花と麗菜、夕姫とを打ち据えた。慌てて一旦、距離を取る夕姫。馬竜と本人、二重でダメージを受けた陽花は、「うぅ、あんな攻撃も持ってたんだ……」と呟いて電撃の範囲から逃れると、自ら泥の中へと飛び込み、得物を弩に変えつつ馬竜に突撃を命じた。
「君ならこの地形でも動きを阻害されないしね。電撃の気配がしたらすぐに飛び退いていいからね」
 一心同体。再び敵へ突進していく馬竜。
 真一、フローラ、麗菜の三人は退避せず、逆にクワガタへと肉薄した。
「手痛いプレゼントありがとう。でも、お釣りは返して貰うわね!」
 ぷすぷす煙を上げながら、準備していた『Eissplitter』を発動させるフローラ。クワガタから光の粒が──いや、氷の破片が染み出してきて、フローラの手の動きに従い一斉に集合。それを吸収して一気に生命力を回復する。
「もうひとつ!」
 続け様に腕を振り、投射する『Eislanze』。放たれた氷の槍がクワガタへと命中して凍結し、冷却による『温度障害』を敵へと加える。
 フローラは続けて氷の刃を纏った中華剣を活性化すると、雪の結晶を舞い散らせながら前へと進んだ。その隙に麗菜は背後から、手にした金銀の双剣で脚関節目掛けて切りつけた。二つの軌跡で走った刃は分厚い『靭帯』によって阻まれて。そこへさらに叩き込まれる大鎌の一撃── いつの間にか、麗菜の背後に明日香がやって来ていた。藤堂を安全な場所に転が……いや、安置した後、大急ぎでこちらにやって来たのだ。その速さはまさに疾風のそれである。
「大丈夫。同じ場所を切り続けていれば、ダメージも与えられるでしょ」
 言いながら、白き大鎌を引き戻す明日香。ジェイニーに『ライトヒール』を飛ばしつつ、大鎌をクルリと回転させて、思いっきり横に薙ぐ。
 麗菜と明日香、二人の集中攻撃を受けて、その後脚の1本を斬り飛ばされたクワガタは、形振り構わず上翅を開げ、飛行してその場から逃れようとした。だが……
「飛ばさせるわけにはいかないわ。撃ち貫きなさい!」
 夕姫は両手を突き出すと、一気に5弾全てを放った。直撃を受けた後翅が砕け、宙に浮かびかけたクワガタが再び泥の中へと落ちる。そこへすかさずアウルの矢弾を本体へと速射する陽花とイーリス。『悲鳴』を上げ、両角を振り回して暴れるクワガタに、への字口のジェイニーが冷静に、或いは冷徹に銃撃を集中し…… 根元にひびを入れられた角が地面に叩きつけられた衝撃で砕けて折れる。
「今だ! ゴウライブレード!」
 慌てて上翅を閉めようとするクワガタより先に、真一がその隙間に蛇腹剣をねじ込んだ。柄を握ったまま、ポーズを決める真一。身を捻ろうとするクワガタに、フローラが二本目の氷の槍を突き入れる。
「クワガタムシが出てくるにはまだ季節が早いから…… 眠っててもらえないかしら? 永眠だけどね」
 投射した姿勢のまま、ニコリと笑って呟くフローラ。その間に真一が『溜め』を終える。
「IGNITION! aand……」
「BLAZING! ゴウライ、流星キィィィック!」
 アナウンスに合わせて叫びながら、アウルの奔流を焔の翼と化して噴出させた真一が膝による一撃を蛇腹剣の柄へと叩き込む。
 柄まで刀身を突き入れられたクワガタは、その一撃にトドメを刺されて泥の上に倒れ伏した。
「over killed!」
 アナウンスと共に、真一の光纏が解ける。
「さすがに手強かったな」
 額の汗を拭いながら、真一がホッと呟いた。


「ったく。余計な手間をかけさせやがって…… さあ、邪魔者はくたばりやがりました。逃げやがった連中を……!」
 田から出て来るや否や、狼騎兵への追撃を主張するジェイニー。それを聞いた藤堂は力なく首を振った。
 追撃したいのは藤堂とて同じだったが、体力はともかくスキルを消耗し過ぎていた。今も、農道の上では真一と陽花が明日香に回復を受けている。藤堂の視線に気づき、首を振る明日香。これで回復も打ち止めだ。
「さすがに泥だらけで気持ち悪い…… 夕姫、帰りにお風呂寄っていこうね。あ、スレイプニルはダメだよ。戻せばすぐに綺麗になるし」
 ガン、とショックを受けた馬竜が、送還されて消えていく。
 夕姫はクワガタを見ながら、呟いた。
「あれってやっぱり伏兵ですよね。嵌められた、ってこと……?」
 どうやらこれは長引きそうね──夕姫はポソリと口にした。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
闇に潜むもの・
ジェイニー・サックストン(ja3784)

大学部2年290組 女 バハムートテイマー
EisBlumen Jungfrau・
フローラ・シュトリエ(jb1440)

大学部5年272組 女 陰陽師
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
雪煙に潜む狙撃者・
イーリス・ドラグニール(jb2487)

大学部6年145組 女 インフィルトレイター
イケメンお姉さん・
影野 明日香(jb3801)

卒業 女 ディバインナイト
撃退士・
式守 麗菜(jb4733)

大学部2年59組 女 陰陽師