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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
形態:
参加人数:12人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/05/23


みんなの思い出



オープニング

 時は少し遡り、学園防衛戦が始まった頃の事だ。
 久遠ヶ原学園大学部所属の学生撃退士榊勇斗は、その日、王権派天使の学園侵攻の情報を得て、引率実務教師の安原青葉や仲間たちと共に、急ぎ依頼任地である山形から急ぎ帰途についていた。
 転移装置が使える往路と違い、帰路は既存の交通手段に頼らざるを得ないのは学生撃退士たちの常である。この時も、勇斗らは電車を利用しての移動を余儀なくされていた。
(悠奈……)
 窓際に座った勇斗の指先が、窓枠の下で苛立たし気にリズムを刻む。
 福島で乗り換えた電車は県境を越えた辺りで駅に停まったまま動かなくなり、その状態のまま既に30分が経過していた。……今頃、戦場と化しているであろう学園には、妹の悠奈とその友人たちがいた。学園に編入して以来すでに4年の月日が経ち、人として、撃退士として成長した彼女らは既に勇斗に『守られるべき』存在ではなくなってはいたが、それでも兄の心情として妹が心配であることには変わりがなく。学園の、運命を懸けた一戦において、その傍にいられないというのは、何とももどかしくて仕方がなかった。
「やはりダメですね。久遠ヶ原の攻防戦が始まった影響で、ここから先に電車は動きません」
 現状を確認すべく駅員に事情を聞きに行っていた友人の恩田敬一が、勇斗の斜向かいに座った教師・安原青葉に報告する。
「そう……あっちではもう始まったのね」
「足を確保しましょう。学園方面に向かう公共交通機関は全てストップしているでしょうから、戻る為には車両を確保するしかありません」
「そうね。でも、こんな状況じゃ役所も撃退署も車両は払底しているだろうし…… タクシー、は論外ね。一般人を危険に巻き込めないもの。……レンタカー、借りられるかしら? 目的地は戦場のど真ん中です♪ って……」
「徴発することは出来ませんか? 事情を説明して借りるとか」
「おいおい、落ち着けよ、勇斗。焦ったって車は湧いて出てはきてくれないぜ?」
 焦燥の勇斗に、落ち着いた態度と口調で敬一がそう話しかけた。
 勇斗は「……ああ」と口を噤んだ。敬一もまた妹の麗華を学園に残して来ていた。本音を言えば敬一も心配でないはずはないのだ。
「大丈夫だ。悠奈ちゃんも麗華も激戦には慣れてるし、俺たちの本拠地である学園がそうそう簡単に陥ちるものか。……とりあえず、今後の事は飯を食いながらにしません? 腹が減っては何とやらと言いますし」
 敬一の提案は了承され、勇斗たちは電車を降りて駅を出た。彼らと同様に足止めを食らった乗客たちで埋まった駅前の飲食街は避け、撃退士の体力と脚を使って郊外のショッピングモールへ移動する。
 辿り着いたモールの店内では、特にパニックも買占めも起こってはいなかった。戦場から遠いこともあるが、多くの人々が天魔との戦いの日々に、冷静とは言えぬまでも落ち着いて対処できる程度にはこの状況に慣れてきたようだった。
「これは……皆、逞しくなったと喜ぶべきか。鈍くなったと嘆くべきか……」
 フードコートを見て回りながら、苦笑と共に呟く敬一。
 だが、勇斗はそれを聞いていなかった。店内の一角へ視線を向けたまま、ビクリとその身を硬直させていた。
「……榊?」
 気づいた青葉が声を掛けるも、それも耳には入らない。
 ──一度、何かで繋がった縁は必ずどこかで繋がっている。それが運命であるならば、必ず巡り合えるはず──
 戦友の言葉が頭の中で木霊する。
 身体中の血液と、思考が瞬時に沸騰する。
 勇斗の脳裏にまざまざと鮮明に浮かび上がる幼少時の記憶の残滓── 夕焼けに染まった団地の一室、泣き叫ぶ赤子の悠奈の声。愕然と目を見開いた勇斗の視界に鮮血が飛び散り…… バラバラと化した両親の死者の双瞳と、返り血に塗れた『天使』の愉悦の笑み──
 忘れ得るはずがない。それは彼の人生を狂わせた運命の日の記憶。そして、それを兄妹に強迫した怨敵の、顔──
「黒翼の、天使──!!!」
「あ、おい、勇斗っ!?」
 親友が止める間もなく勇斗は駆け出していた。幸せそうな家族連れが食事をする間を暴風の如くすり抜け、かの男が座った席へと肉薄する。
 かの宿怨の敵は、フードコートの一席でとんこつラーメンを食っていた。勇斗は丼の乗った一足のテーブルを跳ね飛ばすと、見間違えようのないその男の襟首を掴み上げた。
「──貴様、貴様! なぜ俺の両親を殺した! なんで俺にあんなことをさせた!」
「おい、勇斗!」
 周囲で湧き起こる悲鳴。駆けつけて来た青葉や敬一が、突然の出来事に驚き目を丸くするその男から慌てて勇斗を引き剥がす。
「いったいどうしたっていうんだ、お前!」
「こいつは天使だ! 16年前、俺の両親を殺した黒翼の天使なんだよ、こいつは!」
「ええっ!?」
 獣の様な形相で友人たちの拘束を剥がそうと暴れる勇斗。その言葉に周囲の客たちがザワッと揺らぎ、その気配を察した青葉が振り返って身分を明かし、落ち着く様に声を掛ける。
 当の『黒翼』と呼ばれた男は何度も己の頸筋を摩り……床に座り込んだ姿勢のまま、心底不思議そうな表情で、暴れる勇斗のことを見上げた。
「あの…… 君、誰だっけ?」
「覚えてもいないのか!」
 勇斗の感情が飽和し、溢れた。彼はその手に銃器型魔具を活性化させると、眼下に座り込んだ男に向かって立て続けに発砲する。
 今度こそ狂乱の悲鳴が上がり、人々が慌ててその場から離れるように走り出し…… 彼らが予測した惨劇の光景は、しかし、銃弾を受けた男がまったくの無傷という結果に終わる。
 瞬間、男を囲むように、魔具・魔装を活性化させた撃退士たちが展開する。
「まさか、ホントに……!」
 それでも、あまりに予想外の展開にまだ現実を受け入れられない彼らの視線の中で…… この状況にまるで動じることなく醤油ラーメンをスープまで飲み干した隣の席のオールバックのスーツ姿の男が、眼鏡をクイと指で上げつつ、男に「失態だな」と呟いた。
「茶番に付き合う暇はない。すでに戦闘は始まっているのだぞ? 天界と撃退士どもの実力を計るべき我らが遅れてなんとする?」
 こいつも!? と撃退士たちが反応するより早く、サラリーマン然としたその男は彼らの目の前から消えた。
 『黒翼』が慌てた様子で立ち上がり、その後(?)へ追い縋る。
 ──そんなぁ、アルデビアさぁん、置いてかないでくださいよぉ〜。同じ魔界に寝返った堕天使仲間じゃないですかぁ。それに、僕がいないと車の操作できないですよぉ? 歩いて戦場まで行くんですかぁ……?
「あいつら、天使のナリした魔界の冥魔か!? くそっ、ややこしい……!」
「なぜこのような所へ…… 観戦? 学園や天界魔界の上の方でごそごそ動いているのは聞いていたが……」
 教師である青葉すらこの現状を把握できず、判断と決断を下せずにいる中で。
 仲間たちの拘束を振りほどいた勇斗は一直線に駆け出した。飛ぶように駆けながらその両手に白銀の双剣を活性化し、仇讐の背後から雄叫びと共に斬りかかる。
 男は舌打ちと共に振り返ると、魔力の『盾』でそれを防いだ。
 その背に翻る4枚の黒き翼── 舞い散るその黒い羽根に、勇斗の奥歯がギリと鳴る。
「やはり、貴様──!」
「だから、君、誰なのさ。こっちは君の事なんかまるで覚えていないんだけど?」


リプレイ本文

 立て続けに起きた発砲音と人々の悲鳴──
 フードコートの客の一人にいきなり掴みかかり、あまつさえ攻撃を仕掛けるというあまりにも突飛な勇斗の行動に、学生撃退士たちはその瞬間、何が起きたか理解できずにいた。
「ちょ、勇斗くん!? いきなり何を……」
「あいつは天使だ! 16年前、俺の両親を殺した黒翼の天使なんだよ、あいつは!」
 敬一と共に慌てて勇斗へ駆け寄った彩咲・陽花(jb1871)らを振り解かんとする勇斗の、魂を振り絞るような叫び──
 逃げ惑う人々、広がるパニック。姿を消したもう一人の悪魔を追ってフードコートを出ていく『黒翼』── その背に銃の照準を合わせた勇斗は、しかし、逃げ惑う人々の存在に舌を打って銃口を下ろし、白銀の双剣を活性化し直して一直線に仇を追い始める。
「お、落ち着いてください、勇斗さん! 下手をしたら戦闘に巻き込まれて怪我をする人が出ちゃいますよっ」
 水無瀬 文歌(jb7507)の呼びかけも、今の勇斗には届かない。彼女は数秒の間、頭を抱えてあたふたした後、意を決した表情でステージ衣装へ光纏。マイクを手に彼らの後を追う。
「……完全に暴走してますね」
「参りましたね…… とりあえず、僕は撃退士としての本文を尽くします」
 雫(ja1894)と黒井 明斗(jb0525)は頷き合うと、それぞれ別の方向へと走り出した。雫は他の撃退士たちと共に勇斗の暴走を抑えるべく。明斗は教師・青葉と共にパニックに陥った群衆に身分を明かして落ちきを取り戻させつつ、戦闘に巻き込まれぬよう避難誘導を徹底する為に。
「わ、私たちも行こう、陽花さん! 全力で、最優先で止めないと『勇斗君が』大変なことになっちゃう!」
 親友・葛城 縁(jb1826)の呼びかけに、ハッと我に返る陽花。今回の行動については完全に勇斗の勇み足だ。この件で誰かが怪我をしてしまったら──たとえそれが『悪魔であっても』責任問題は免れない。
「まずは榊くんを落ち着かせよう。……ここで冷静になれっていうのも、なかなかに難しいだろうけどね」
 年上らしい落ち着いた態度で、まず自分たちがやるべきことを提示する狩野 峰雪(ja0345)。その言葉に、永連 璃遠(ja2142)と陽花は目を伏せる。
「しかし、こんな時に、このタイミングで遭ってしまうのか……」
「ホント。前に『縁が繋がって巡り合う事もある』とは言ったけど…… まさかこんなタイミングで出会うのは予想してなかったんだよ」
 運命の皮肉──天界・魔界・学園間の外交情勢が微妙な時世。天魔との交戦には細心の注意と配慮が求められる、この時に、こんな場所で……!
 だが、勇斗にとって千載一遇の機会なのだ。10年以上、求めて止まなかった両親の仇──そして、この機を逃してしまえば、次があるとも限らない。
「……殺りたいっつーんなら殺やせてやりゃあいーのに」
 そんな彼らがフードコートから出ていくのを見送りながら。たこ焼きとアタリメ(売っていたのか……?)を手に一人ポツンと残ったラファル A ユーティライネン(jb4620)が、テーブルの上で胡坐を組む。
(勇斗に先に仕掛けさせときゃ、敵の戦力も測れるし。……まぁ、その場合、どう見たって冷静さを欠いてる勇斗の方が返り討ちに遭う公算が高いだろうが……)
 ……天井を見上げて、暫し。「仕方ねぇな……」とバリバリ頭を掻いたラファルが、テーブルの上から飛び下りて。
 ドーナツ屋さんの方からしょんぼりと肩を落としてとぼとぼ歩いて来た白野 小梅(jb4012)が、すっかり人のいなくなったフードコートを見て「ん?」と小さく首を傾げる……

「店員さん、あちらには何があるのですか?」
 突如現れた悪魔に腰を抜かしたのか、床に座り込んで動けなくなった若い店員に駆け寄って。明斗は勇斗らが走っていった通路を指差して訊ねた。
「あ…… ぼ、僕はただのバイトで…… 避難誘導とかは、その……」
「落ち着いて。正社員の指示に従って行動を。……で、あちらの方にはいったい何の売り場があるのですか?」
 『マインドケア』で落ち着かせ、改めて粘り強く必要な情報を入手しようとする。
「あ…… あっちは、DIY用品売り場です」
「そうですか。では、そちらとは反対側に人々を誘導するよう、正社員の人に進言してください。それと、インフォメーションセンターはどこにありますか?」
 明斗は若い店員に礼を言うと、教えられた通りに進んでインフォメーションカウンターへ辿り着いた。
 そこにはまだ案内役のお姉さんが2人、その場に残って自らの職務──避難放送を継続していた。明斗は己の身分を明かすと、まず業務連絡を使ってスタッフに状況の説明と買い物客の避難誘導させるよう指示を出し。その後、館内放送のマイクを借りて、全館に放送する。
「こちらは学園の撃退士です。ただ今、当館1階、DIY売り場において、悪魔が出現しました。慌てる必要はありません。悪魔は撃退士のコントロール下にあります。従業員の指示に従い、速やかに店外に避難してください」
 もっとも、その悪魔に付いてる撃退士をコントロールできていないんですけどね──内心で苦笑しながら、明斗は館内放送を繰り返す。
「悪魔には既に撃退士が当たっています。慌てず、落ち着いて、従業員の指示に従い、店外に避難してください。繰り返します……」

「悪魔と勇斗君の位置が分かった。DIY売り場だって!」
 流れる館内放送に耳を澄ませ、案内板を思い返しながら。人のいなくなった通路を全力移動で走る縁たちが、ついに前方を行く悪魔と勇斗、そして、先行していた雫と文歌、月影 夕姫(jb1569)の背中を捉えた。
「彼が勇斗さんと悠奈さんの仇ですか…… それでも、なんとしてもこの場での戦闘は避けなくては」
「そーそー。いくら仇討ちが理由でも、いきなりフードコートの真ん中で戦闘は感心しないわ」
 縁らと共に前進しながら、呟くユウ(jb5639)と雪室 チルル(ja0220)。共に『この場での戦いは避けねば』と言いながら、だが、その理由は多少異なる。
「仕掛けるならまず人のいないところでなくちゃ!」
 あ。戦闘自体は問題ないんですね、チルルさん。
「こらー! そこの勇斗ー! 一番槍はあたいなんだからー!」
 ちっこい身体でドドド……! と物凄い勢いで雫らに追いつかんと走るチルル。ユウは苦笑しながら、縁と陽花に呼びかける。
「あの悪魔…… たしか車がどうとか言っていました。となれば、彼らの当座の目的地は駐車場……?」
 先回りしましょう──ユウの提言に従って通路を横に曲がる縁と陽花。
 その頃、先行する雫と夕姫、文歌たちは、逃げる悪魔と追う勇斗の背中をようやく捉えていた。
「落ち着きなさい! こんな場所で戦いなんかしたら勇斗くんが犯罪者になる。学園に帰れなくなるわ!」
 床に散乱した商品を『小天使の翼』で浮遊して避けながら、呼びかける夕姫の声に、しかし、勇斗は応えない。
 文歌の静止に関わらず悪魔に発砲する勇斗。それを力場で防ぐ悪魔。眉をしかめる夕姫の横で「クッ」と歯を軋ませた雫が、まずは暴走した勇斗を止めなければ、と、悪魔と勇斗との間にスレイプニルを障害物として召喚し。だが、勇斗はボンネットに跳ね上げられたスタントマンの要領でその背を乗り越えるとそのまま加速。活性化し直した双剣でもって悪魔相手に切り結ぶ……
「怒りに我を忘れてる…… 何とかして鎮めないと……!」
 呻く夕姫に頷くと、雫は棚一つ向こうの通路へ跳んだ。そして、『縮地』を使ってアウルを脚部で爆発的に燃焼させると一気に前へと加速。棚の切れ目で元の通路へ戻る。
「っ!?」
 突如、側面から突っ込んで来た雫に驚く勇斗。その視線が雫に流れた瞬間、反対側の通路から『縮地』で先回りをしてきたユウが、クルリと回した大鎌の、その柄を勇斗の足元に突き出した。
「歯を、食いしばってください」
 勇斗は完全に不意をつかれた。鎌の柄に躓き、思いっきり地面を転がりながら商品棚の一つへ派手に突っ込む勇斗。雫はそんな転がる勇斗をひょいと飛び越えると、棚に突っ込んだ勇斗を振り返って『ダークハンド』を使用した。地面からズモモモモ、と湧き出したアウルの腕、その大きな手の平が、痛ぅ……と身を起こしかけた勇斗を再び「ぶべっ!?」と床へと押し付ける。
「とあーーーーっ!!!!」
 そこへ、遅れて駆けつけてきた縁と陽花がジャンプ一番、飛び乗るようにして押し潰し、組み付いて完全に拘束する。
「勇斗君、聞き分けて! 聞き分けのない子には愛のビンタで!」
 拘束から逃れようとジタバタ暴れる勇斗をビンタ(というか掌底)をかますべく縁が手を振り上げた瞬間。歩み寄って来た夕姫が勇斗の奥襟をひょいと摘み上げ。拾ったアイスドリンクのカップ、その中身(氷と液体)をその背中へぶちまける。
「ひゃああぁぁーっ!?」
「うきゃあああ!???」
 思わず悲鳴を上げる勇斗と縁(←とばっちり)。「冷っ、冷たっ、ちょ、氷抜くから離して」と懇願する勇斗(と縁)を、しかし、陽花はギュッと抱き締めたままブンブンと頭を振って離さない。
 必死なその態度に毒気を抜かれた表情で固まる勇斗。その様子に夕姫がやれやれと息を吐く。
「勇斗君、自分が何をしたか…… 今ならちゃんと、分かるよね?」
 氷水に驚いて早鐘を打つ心臓を抑えつつ、縁が勇斗に周囲の惨状を目で示す。
「無関係な一般人がいる只中で仕掛けるなんて、何を考えているんです!?」
 雫は本気で怒っていた。腰骨に両拳を当て、プンプンと。
 勇斗はハッとした。遠くに、避難する人々の姿が見えた。──親を呼ぶ子供たちの鳴き声も。恐らくは迷子になったのであろう。明斗や青葉に抱き抱えられ、泣き叫ぶ子供の姿もあった。
「……いきなり目の前に親の仇が現れたとなれば、辛いのは分かります…… でも、周りの人たちも怯えています……」
 子供を慰める様な文歌の声── 我に返り、先程までの怒りが嘘の様に肩を落とした勇斗の姿は、まさに4歳の子供のようで──
「ばっかおめー冷静になれよ。双子悪魔をはめた時のあんたはどこに行ったんだよ?」
 いつの間にか追いついて来たラファルが呆れた様にそんな勇斗を見下ろした。いやなに、移動力19を誇るラファルさんが本気を出せば、勇斗らに追いつくことなど(以下略) そして、口の端からヤニの如くイカの足をはみ出させつつ、勇斗の傍らにヤンキースタイルでしゃがみ込む。
「こんな周囲にとばっちりも出ている現状で攻撃したところで、正当性なんて確保できねーだろ。わざわざこっちが悪役になってやる必要はねーよ」
「そーだよ! 勇斗くんの気持ちは分かるけど、本気でやりあうなら邪魔が入らないような時と場所とを選ばないと。何があってもバレないように!(ぉぃ」
 なんかとんでもないことを言いだした陽花に苦笑する縁。だが、一理ある(ぇ 先程、あの天使な悪魔たち(ややこしい……)は撃退士の実力を測ると言っていた。戦うなら(確実に仇を取れるその時まで)手の内を見せるべきではないかもしれない。
「何より相手の能力が未知数だしね」
「そーです! それに、そんな茹で上がった頭では返り討ちに遭うのは必至! 残された者の気持ちが分かる貴方が、同じ想いをまた誰かに与えるつもりですか?!」
 雫の怒り──その原因を、勇斗はこの時、理解した。
 悠奈──妹の姿が脳裏に浮かぶ。そうだ。あいつを一人で置いていくわけにはいかない。少なくとも、あいつに対する負債を完全に払い終わるまでは──
 ギュッと自分を抱き締めたままの陽花の背を撫でながら、勇斗は素直な表情で天を仰いだ。
「雫ちゃん」
「ちゃん!? い、いきなりなんですか!?」
「最初に出会った時と比べて、随分と自分の感情が出せるようになったよね。僕も……この学園に来て、少しは変わることができたのだろうか……」
 居心地の悪い叔父夫婦の家を出る為に久遠ヶ原学園に来た。
 悠奈と二人で生きていく為に撃退士になった。
 妹を戦わせなくても済むようにと空転し、初めてできた友人たちに「それは間違いだ」と指摘された。
 幾つもの出会いがあった。幾つかの別れがあった。
 もし皆がいなかったら──そう思ってゾッとする。その場合、自分は早々に全てを抱え込んで力尽きていただろう。悠奈を一人きり、この世に残して……
「……んもー。この大騒ぎのせいでドーナツ屋さんも逃げちゃったよぉー。勇斗のせいなんだからねぇ。まったくもー」
 そこへどこか呑気な調子でパタパタと羽ばたきの音を立てながら、ぷんぷん怒った小梅がぶつぶつと呟きつつその場へと飛んできた。そして、勇斗を見つけると一直線に飛んできて、己の身に起きた不幸(=ドーナツをたくさん買えなかったこと)を朗々と訴えた。
「……けど、こんなこともあろうかと。真っ先にドーナツ屋さんに突撃していたおかげで2個だけは買えたんだよぉ♪ フレンチクルーラーとぉ、チョコリングぅ!」
 ぱっぱぱ〜ん♪ と自分でファンファーレを鳴らしながら、小梅はドーナツを取り出した。そして、それを半分に分けると、何かごちゃまぜ複雑気分で落ち込んでいるらしい勇斗に向かって「ん!」とそれを差し出した。
「2個しかないからね。勇斗ちゃんにだけ特別ぅ」
 先程までの怒りを忘れたかのように、にぱっと笑いかける小梅。
「ごめん……」
 その半分になったドーナツを受け取りながら、勇斗は皆に謝罪した。
 そして「……ありがとう」と礼を言った。
 小梅に。雫に。陽花に。縁に。ユウに。璃遠に。チルルに。夕姫に。文歌に。ラファルに。峰雪に。そして、この場にはいない明斗に、青葉。松岡や関わってくれた全ての人に──(順不同)
「……少しは頭、冷えた?」
 夕姫に勇斗は頷き、迷惑を掛けたと頭を下げた。
 その険の取れた表情に、顔を見合わせホッと息を吐く璃遠と峰雪。縁もまた姉の様な表情で勇斗を諭す。
「勇斗君。君は強くなったよ。私も追い越されちゃったしね。でも、心が弱いままじゃ、その強さも意味がないんだよ?」
「いつも言っているでしょう? 一人で突っ走らないで。みんな君の力になるから」
 平伏せんばかりの勢いで縁と夕姫に頭を下げる勇斗に、チルルがポンと肩を叩いた。
「反省した? じゃ、あの黒翼ヤローを追っかけるわよ!」
「へ?」
 呆気に取られて、勇斗は皆を見回した。
「ただの通常業務ですよ。悪魔がこちらの『縄張り』に人員を潜り込ませていたのは事実ですから。事情を聞くくらいはいーんじゃないかと♪」
「相手は駐車場に向かっています。広い場所に出たところでその身柄を押さえましょう」
 悪戯っぽい表情で、マイクごと両の拳をギュッと握って見せる文歌の横で、澄まし顔のユウが視線で「どうしますか?」と問うてくる。
「……復讐を止めろなんて言う気はありません。状況を考えなさい、ってことです」
 両腕を組んでそっぽを向いた雫の言葉に、勇斗は感謝と共に頷いた。
「行きます。今は一撃退士として、己の責務を果たします」


 背後にまた現れた撃退士たちに気付いた悪魔は、再び走り出しながら放置されていた買い物カートを手に取った。そして、そこに片足を掛けるとスケボーの如く床を蹴り、尋常じゃない速さで通路を疾走、コーナリングを決めながら。何を考えているのか、棚に並んだ工具類を片っ端からカートに入れていく……

「ところでホントに『アレ』が勇斗の仇なの? あっちはまるで覚えていない様子だけど……」
 その後を追うふりを続けつつ、悪魔が駐車場に出るのを待ちながら。見失わない程度の距離を保って走りながら、息一つ切らさずにチルルが勇斗に訊ねた。
「他人の空似ってことは無い? 学園にも黒い翼の天使はけっこういた気がするし、そんなに珍しい特徴でもないかもしれないし……」
 文歌の言葉に、勇斗は「見間違えるはずがない」と奥歯を噛み締めた。あの日の事は、トラウマ使いにそのタガが外されて以降、何度も何度も繰り返し夢に見た。忘れたくても忘れようがない──!
「──ッ! どうどう、榊くん。落ち着こうか。深呼吸してみよう」
 再び怒りに囚われそうな気配を察して、峰雪が早めにチェックを入れる。
「……僕は信じるよ。少なくとも勇斗さんは嘘や冗談を言っているようには見えない」
 勇斗の立場を自身に置き換え、璃遠は心を重くした。──もし自分に家族の仇がいて、遭えるとも思っていなかったその仇が平然とそこに立っていたら…… その時は僕だって、勇斗さんのようになっていたかもしれない。
「とは言え、人違いの可能性は残るしねぇ。ほら、また双子とかだったら困るし」
 庄内決戦の例を出し、峰雪が苦笑してみせる。
「勿論、あの悪魔が普通に忘れているだけという可能性もある。やられた方は忘れずにやった方は忘れてる、ってのは、悔しいけど世の常だからね。……でも、それならば何としてもあいつに思い出させないといけない。でないと、なぜ君と家族がそんな目に遭ったのか、永遠に謎のままになってしまう」
 はい、と勇斗は頷いた。──だから、まずはそいつをはっきりさせます。事情を聞くとの名目で、あの連中を捕縛します──
「ま、まあ、あの悪魔たちも撃退士の力を見るって言ってたし、なら、この場で少し試してみないか、って話にもっていければ、いける……かなぁ?」
 苦し紛れな感じで、陽花。少なくともあちらから手を出させれば、大義名分は立つけれど……
「最悪、この場で逃がしても、次の機会は必ずありますよ」
 璃遠が確信を持ってそう告げる。悪魔たちの会話を聞くに、連中には『任務』があるようだった。ならば、この場を無事に逃れることが出来れば、その任を継続するだろう。本来であれば(即ち、勇斗の感情を無視すれば)この場は共に退くのが双方にとって一番メリットが大きいのだ。
「そーそー。ここで捕縛できなくてもねちねち後を付いて行けばいーのさ。泳がせておけば姿を消した野郎とも合流するだろうし、いずれ勝手に馬脚を現すさ」
 気楽な調子で気楽にいけよと気楽に言ってやるラファル。
 だが、直後、その表情が一変させて真剣な表情で釘を刺す。
「だが、気を付けろよ、勇斗。悪魔って連中はその心の弱ぇところを突いて来るもんだ。お前が積み上げたと思ったその足場をチビチビと崩しに掛かって来るからな」

 そんなこんななやり取りを、光の翼で羽ばたきながら、小梅は「ふーん」と聞いていた。
 そして、一人、買い物カートグランプリ真っ最中の悪魔の所へ飛んで行くと、その周囲をパタパタ飛び回りつつ、尋ねた。
「ねーねー、あなた悪者なのぉ?」
「ん? 悪者じゃないよぉ。悪魔だよぉ」
「えー。でも、勇斗ちゃん、めちゃくちゃ怒ってるんだけどぉ?」
「何かしたのかなぁ……? でも、悪魔なんて悪魔として悪魔らしく生きてくだけで恨みを買うお仕事だしなぁ」
「ふ〜ん……」
 DIY売り場を抜け、カートが園芸用品売り場へ差し掛かる。駐車場へ続く出口だ。
「そこまでぇー!」
 カートが外に出た瞬間、小梅は『瞬間移動』で悪魔の背に張り付くと、両手で背後から目隠しをした。
「ちょ、おま、いきなりあにすっだーッ!?」
「あーれぇ〜」
 高速移動中の悪魔は慌てて小梅の手を掴み。小梅はワザとらしく悲鳴を上げる。
「……手を出した? 手を出してしまったねぇ? こーむしっこーぼーがいで逮捕だぁ!」
 なにその昭和な手口っ! と悪魔が反駁する間もあらばこそ。いつの間にか追いついて来たチルルが飛び出し、いつものように真正面から悪魔に突きかかった。一目瞭然、単純明快。包囲とか同時攻撃とかそういったのは味方が当意即妙にやってくれる。自分が為すべきことはいつものように相手の注意を引きつけること。そして、考える暇を与えずに、一気呵成に攻めかかること──!
「おおおおおっ!?」
 小梅を振り払った悪魔が慌てて応戦する。──実力はある。が、チルルの猛攻に抗し得る程ではない。
 更にそこへ雫と陽花、文歌に勇斗が戦闘に加わった。戦法は連携しての単純な力押し。召喚獣も召喚しない。
(相手の手の内が見えない内は、こちらの手の内を晒すわけにはいきませんからね)
 太陽剣を手に一撃を入れる雫。悪魔は「おとととと……」と後退することでどうにか撃退士たちの攻撃を躱していたが、やがてドンッと車にぶつかり、それ以上後退するスペースを失った。
「チィッ!」
 悪魔が空中に手をかざす。そして、何もない空間に魔力で『西洋鋸』を『精製』すると、その刃でもって撃退士たちの攻撃を受け止めた。
「工具!?」
 後方からそれを観察していた夕姫と璃遠が驚愕する。まさかさっきの工具を、とカートを振り返るが、悪魔が乗っていたカートは戦場から離れた場所で横転したままだ。
「それでも、手の中に武器を出した…… まさか、複製しているの?」
「自分のモノでない物でも……たとえそれが武器でなくても。それを自分の武器として扱える能力、とか……?」
 刺突剣の如く押し鋸を突き出す悪魔。その一撃はチルルの魔装を削る程── 先程、魔具の重い一撃を受けても壊れなかったことといい、魔力か何かで強化している……?

 一般客の避難誘導を終えた明斗が出口から駐車場に出る。
 そして、いきなり繰り広げられている戦闘に驚愕し、慌ててそちらへ走り寄る。

「踊り子さんにおさわりは禁止ですよっ!」
 ステップを踏んで後退しつつ、文歌が悪魔の攻撃の軌道を瞬間的に『アーカシャアイズ』で読んで回避する。
「こう見えても人妻ですし♪」
 軽やかな足取りで、舞う様に右、左── どうやらあの『押し鋸』の命中性能は高くない。それを理解し始めたのか、悪魔の表情も険しくなり始める。
 更に踏み込んでくる悪魔── 無駄ですよ、と再び躱そうとした文歌は、だが寸前、『シールドバッシュ』でその『手』を弾き飛ばした。
(今、私のマイクを触りに来た……!?)
 まさか、とその表情を険しくする文歌。──車なら運転できる、とこの悪魔は言っていた。その能力は、もしかして──!

 ドカッ、とチルルの一撃が、悪魔の右肩口に突き立った。
 カラン、と落ちる押し鋸。それ以上刃が食い込まぬよう、悪魔が素手でその刃を掴み止めようとする。
(捕縛目的でなければ、そうしてやるところだけどね!)
 停戦勧告を行う雫に対して、無言で動きを止める悪魔。……いや、動きを止めたまま、何かをブツブツ呟いている。
「……V兵器……撃退士でなければ使用は不可能……なるほど。では、その辺りはこちらの魔力で代替するものとして、根本から構造を僕仕様に転換して……」

「いけない!」
 と叫ぶ文歌。甲高い金属音と共に弾かれるチルルの剣。
 撃退士たちを押し返して一旦、距離を稼いだ悪魔の手の中には。チルルが握ったそれとそっくりうり二つの極北氷剣── そして、先程、押し鋸が削った、チルルの白銀鎧──!
「……これで少しは君たちとも打ち合えるかな?」
「V兵器まで、『複製』した!?」
 驚愕する璃遠と夕姫。チルルはヒュウと息を呑むと一切合切構わず間髪入れずに攻撃を継続せんとし──
「双方、そこまで!」
 瞬間、『磁場形成』によって滑るように彼我の間に割り込んだ明斗が、両手に構えた槍と盾──『シールド』とで双方の攻撃を受け止めた。
「……私の一撃を受け止めるなんて、やるわね。さすがはいいんちょ」
「委員長じゃないと何度…… ともあれ、双方剣を引いてください。上が色々と動いているこの時、僕らがやり合う必要はないはずです」
 明斗の言葉に時間切れを悟ってチルルと撃退士たちが、そして、悪魔が距離を取り。明斗とユウとが間に立って場を収める。
「冥魔陣営の方ですね? 当方の学生が失礼しました」
「急に攻撃を仕掛けてしまい、申し訳ありません。私たちは学園の撃退士です」
「つい先日まで戦っていた相手とあって、まだ感情がついてきておらぬようです。ご寛恕いただけましたら助かります」
 明斗とユウ──共に悪魔と直接、刃を交えていない者だ。つまり、この状況もある意味で撃退士たちの『想定の範囲内』ということになる。
「そっちがそう言うなら引いてやってもいいけどさ(汗 助かった〜 ) ちゃんとしてくれないとこっちも困るなぁ〜」
 どう落とし前つけてくれるのかな〜? と調子に乗りかけた黒翼の悪魔は、しかし、まるで容赦のない撃退士たちの詰問に晒される。
「私は久遠ヶ原学園に所属しているはぐれ悪魔のユウです。貴方の官姓名は? 所属とその目的は?」
「今回の人界ご訪問の目的はァ? ビザはお持ちですかァ?」
 混ぜっ返しにかかるラファル。悪魔の頬がピクリと引きつる。
「……ふーん、キミ、なんかアレだね。僕と同じ匂いがするね」
「そいつは気が合いそーだ。虫唾が走る」
 バチバチとやり合う2人の間で、ユウが淡々と一字一句違わぬ文言で最初の質問を繰り返し……
「いやそれは…… これでもいちおー、潜入調査中だからなぁ…… というか、答える必要、ある?」
「何か悪いこと企んでそうな感じがしたから! 企んでたらあたいがその野望ごと打ち砕ーく!」
「ええー……?」
 身体の力を抜きながら、それでもいつでも戦闘に移行できるよう隙はまるで見せずに、チルル。
 悪魔が困り切っていると、「あー、あー、コホンコホン。ちょっと失礼しますよー」と手刀を切りながら、腰の低い態度で峰雪がやって来た。
「やー、そちらもお困りですよねー。すみませんねー、こちらも仕事なもんで…… 天使さん、ということは、おたく、鳥海山の方からいらした?」
「いえ、自分、もう天使じゃなくて悪魔なんで……」
「ほう? では、北海道の方からわざわざ? となるとラーメンの本場だ。先程も食べてらしたよね? もしかしてラーメンが好きとか?」
「や、とりあえず潜入の為に食べるフリを習得しろって、人間たちが一番頼んでいるものをアルデビアさんが……」
 ほー…… と相槌を打つ峰雪と文歌。そして、文歌はくるっと背後を振り返って、大声であらぬ方へと呼びかける。
「アルデビアさーん! いませんかー? 出て来てくださーい! あなたのお名前は相棒さんのせいでバレてますよー? これ以上、この人だけに喋らせておくと、きっと大変なことになっちゃいますよー?」
 文歌の言葉に応じるように。何もない空間が揺らぎ、先程姿を消したサラリーマン然とした悪魔、アルデビアが姿を現した。
「まったく、お前という奴は……」
 眼鏡を持ち上げ、忌々し気に眉間を揉みながら。黒翼をキッと睨めつけ、溜息を吐いて、言う。
「私の名はアデルビア……」
「知ってます」
「クッ……! ……我々は北海道に属する天使だ。王権派天使の力を観測する為、そして、久遠ヶ原が手を結ぶに値する存在であるかを見極める為、学園攻防戦を観戦する為に来た」
「でも、その潜入はバレちゃった、と」
「ぐッ……! ……こうなっては仕方がない。我々は北海道の観戦武官として、学園攻防戦の観戦を正式に要請するものである」


「え? 停戦すか?」
 戦闘態勢を解く黒翼。やれやれと溜息を吐きながら、駐車場を見回して。「ここなら絶対に負けなかったけどなぁ」と肩を竦める。

「私たちが知りたい事はただ一つ……」
 青葉が撃退署へ状況を報告している最中、縁たちがその黒翼へと歩み寄る。
「16年前、この世界に来ていましたか? この世界の人々を手に掛けたことはありますか?」
「や、この青年がまだ幼い頃に、ご両親を手にかけた仇にきみが瓜二つみたいなんだ」
「どんな些細な記憶でもいい。十数年前、勇斗君の住んでた団地で何かをしなかった?」
 矢継ぎ早に訊ねるユウ、峰雪、そして、縁。その頃の勇斗の記憶が曖昧であったことが、前から気になっていた。或いは何かのショックで封じられていたのだとしたら──
「はい?」
 黒翼は勇斗の顔をジッと見つめて、記憶の迷宮を探索し出した。
「あー…… あー、あー、あぁー! うんうん! 確かにそんなこともあったねぇ!」
 ポンと手を打つ黒翼の悪魔。勇斗の顔面が蒼白となり……無意識に剣を抜いた勇斗を、明斗と陽花がしがみつくように押し留める。
「落ち着いてください……っ! 妹さんを不幸にするつもりですか!」
「学園が天使や悪魔と手を組むかもしれないこの時に、勝手に悪魔を殺しちゃったら違う意味で悠奈ちゃんの元に帰れなくなっちゃうよ!?」
 彼らの言葉が、再び勇斗を正気に返す。だが、血涙絞るような彼の前で、悪魔はようやく思い出した、と、スッキリしたように言葉を続ける。
「そうだ、そうだ。人間ってあっという間に大きくなっちゃうんだったけね」
「……感情吸収せずに殺したってこと?」
「うん。その時にはもう『悪魔』だったからね。よりでっかいゲートを開くエネルギーを稼ぐ為に、あの頃はそれはもうたくさん人間を殺したよ!」
 夕姫の問いに、あっけらかんと答える黒翼。改めて璃遠は思う。──この悪魔、決して野放しにしておくわけにはいかない……!

「あなたにあれだけの事をさせてしまった……その原因を、あなたの苦悩を、お尋ねしてもよろしいでしょうか……?」
 ユウが勇斗に語り掛ける。彼はもう、これ以上、一人では抱えきれまい。
 話すことで楽になることもある。夕姫もまたそっと勇斗の肩に手を置き、促した。
「勇斗くんには辛いでしょうけど…… 16年前に何があったのか、私たちに話してくれないかしら?」


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:14人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師