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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/04/18


みんなの思い出



オープニング

 久遠ヶ原学園防衛戦── このかつての古巣の未曽有の危機に、恩讐を乗り越えて駆けつけ、共に戦った者たちがいた。
 民間撃退士会社、通称『笹原小隊』。旧体制下の学園において軍隊式教育を受け、アウルの成長を阻害された撃退士たちである。
 天魔と戦う者として訓練を受けながら、早々にアウルと言う名の成長する翼をもぎ取られた彼らは、連携し、共闘することで戦う術を見出した。自分たちの『犠牲』を踏み台に、新たな体制下でのびのびと育った後輩たちに対しては複雑な感情を抱いていたが、それも天魔と共に戦い、共に視線を潜り抜けた事で、ようやく同格の戦友に対するものへと昇華し、乗り越えることが出来た。
 それが果たし得ないままであったら、彼らは今回の防衛線に参加することはなかったであろう。──久遠ヶ原学園という名とその土地は。彼らにとって厳しい青春時代の名残であり。彼らの思い出からかけ離れてしまった『故郷』(ホーム)であり…… そして、隊員それぞれ一人一人が、あまりにも大きなものを失くした場所であったから──

 そんな学園旧校舎群跡── 今では実戦訓練の場として利用されているだけの、無人と化したその場所を、一組の男女が訪れていた。
「この場所に来るのも2年ぶりだ……」
 一人は松岡。元久遠ヶ原学園体育教師兼実務教師。二年前、とある一件の責任を取る形で辞職。後、かつての同期たちが作った笹原小隊に合流し、一撃退士として戦う。
「この辺りは学園ゲートから湧き出した雑魚サーバントや雑魚ディアボロが多く出てな。訓練の総仕上げとしてよく新人撃退士たちを連れて来ていた。お前も知ってる榊兄妹とかにもここで実戦訓練をさせたもんだ」
 小隊の戦闘服──迷彩の野戦服を身に纏ったまま。二つの旧校舎棟に挟まれた剥き出しの地面の上──蒼空の下、陽光と影とが作るコンストラクトの中を歩きながら。懐かしそうに校舎跡を見上げて松岡が言う。
 そんな松岡の後ろに続く、もう一人の名は藤堂晶。笹原小隊第一分隊長。最近ではもっぱら部隊の指揮は第二分隊長の杉下に任せ、かつての相棒であった松岡と共に前線に立っている。
「……きちんと先生してたのね」
 苦笑して視線を横へと流し、その途上に男の背中。表情は、窺えない。松岡が吐く白い息が、声と共に空へと昇る。
「藤堂は、ここに来るのは卒業以来か?」
「いえ、新卒の小隊員勧誘の時に一度、ここには来てるから……」
 それきり、会話は途切れたまま。視線も合わせぬまま道を往く。
 旧校舎の建物が途切れ、それが作り出していた影もまた。蒼空に輝く太陽を眩しそうに見上げる二人。しかし、同じ場所に並んで立ち、同じ物を仰ぎ見ていたとしても。その瞳に映る光景は同じであるとは限らない。
「あの建物は、温室? 懐かしいわね。あ、覚えてる? あの場所でこんなことがあったことを……」
「ああ! あったな、そんなことも! ……今では『日光浴』に集まる植物型天魔の巣窟だが」
 互いに視線を合わせぬまま、更に地区の奥へと進む。
 かつての旧校舎群の奥へ──即ち、学園ゲートに近づくにつれ、徐々に健在な建物は少なくなっていく。
「……ここだ」
 やがて、廃墟と化した建物の傍らで、松岡は足を止めた。
「──あの日、俺は授業をサボって、ここで昼寝を決め込んでいた」
「そう。訓練を受けろと追いかけて来た私を撒いて」
 懐かしさに、二人は笑った。寂寥の笑みだった。
 思えば、あれが辛くとも充実していた青春の、その最後の日々だった。──彼らが友人同士でいられた、あの日々の。
「異様な気配に目を覚ました。何が起きたか分からなかった。気が付けば周囲は天界・魔界、双方の眷属で溢れていた。学園のど真ん中に、学園ゲートが開いたあの日──」

 その少し前──
 旧校舎群訓練地域へ通じる裏門へ続く並木道──
 天使たちの残存戦力を降伏させてようやく学園へと戻って来た高等部2年・榊悠奈は、珍しく昼まで寝坊をした後、友人たちと会うべく学園へとやって来ていた。
 この日は学園防衛戦の後処理で授業は全て休講となっていたので問題はなかったが、内輪でささやかな祝勝会を行う事になっており、その準備を進める手筈でいたので、起きて時計に目をやった時にはかなり慌てた。
 慌てて制服に着替え、ダッシュでマンション寮から駆け出して。途中、商業区域のスーパーで食材を買い込んでから、会場となる予定の料理研究会へと向かった。
 そして、友人たちと合流し、仕込みを済ませて冷蔵庫へと仕舞い…… 暫し、駄弁りながら人を待った後、結局その場を後にした。
 研究会の顧問である安原青葉教師は今日も帰ってこなかった。共に依頼で学外へ出ていた、悠奈の兄である勇斗もまた。
(祝勝会は延期かなぁ)
 しょんぼりする悠奈を励ます友人たちと共に件の並木道へと差し掛かった時── 何やらただならぬ雰囲気で二人きりで旧校舎群へと入っていく松岡と藤堂を見かけ、慌てて物陰へと隠れたのだった。
「これは……いよいよついに『焼け木杭に火』というやつでしょうか」
 悠奈の友人の一人、無表情のクールビューティー、『脱いだらすごい』(悠奈談)堂上加奈子がボソッと呟き、おおっ、と悠奈らはザワついた。
「……尾行(つ)けるか?」
 悠奈のチミッ娘仲間、『可愛い元気印』早河沙希が二カッと笑ってさも当然の様に言う。
「ちょっと、悪趣味ですわよ!」
「ん? 麗華は残るか?」
「……行きますけども」
 今時まさかの縦ロール、同い年って本当か? 『セクシーダイナマイツお嬢様』恩田麗華が小声で了承し、かくしてかしまし娘4人は2人の後をつけて旧校舎群へと入った。
「こんな所でいったい何を……」
「この辺りって旧校舎でしょ? 2人にとっては思い出の場所なんじゃない?」
「そこで愛の告白を……?」
 前を行く松岡たちに気付かれないよう声を潜めながら、それぞれの表情で「キャー!」と騒ぐ娘たち。
(本当にそうなのかなぁ……?)
 そんな雰囲気でもないけれど、と悠奈は2人に視線をやって。彼らの近くの物陰に潜んだ野良天魔に気が付いた。
 悠奈は真剣な表情で親友たちを振り返り、その存在を皆に報せた。
「お邪魔虫ね!」
 沙希がめっちゃ良い気合の入った笑顔でグッと拳を握って見せた。それを見た加奈子が、ああ、とポンと手を打った。
「なるほど。こんな所で戦闘になったら、いい雰囲気が台無しになりますね」
「そう! だから、松岡センセと藤堂さん、2人に気付かれない内に私たちでお邪魔虫を退治するのよ!」


リプレイ本文

 松岡は更に奥へと進む。かさぶたの奥に穿たれた記憶を掘り起こす様に。
 藤堂はついていく。松岡の記憶の糸を手繰るように。
 ここだ、と松岡が歩みを止めた。崩れた壁だけが残った広い敷地──そこには、かつて体育館の一つがあった。
「ここで俺は慎に…… お前の弟に会った。あいつは同級生たちの恐慌を抑え、先頭に立って避難を試みていた」

「なるほど。ようやく女性関係を清算する気になったということですか」
 戦友らと共に訓練の為に訪れた旧校舎── 松岡と藤堂を尾行する悠奈ら4人と白野 小梅(jb4012)らに気付いて。そんな彼女らと共に壁の陰から2人の様子を伺いながら、雫(ja1894)は事情の説明を受けた。
「状況は分かりました。野良たちが2人の邪魔をしないよう、陰から見守ろうというわけですね?」
 出歯亀を婉曲に表現した沙希の説明を真に受けて、生真面目に同道を申し出る雫。
「あれ? 狩野さんもこういったことに興味があるんですか? ちょっと意外ですね」
「いやいや! 僕は念の為についてきただけだよ。女の子たちだけで行かせたら危ないからね」
 訪ねて来る悠奈の言葉に、狩野 峰雪(ja0345)が慌てて首を横に振る。
 そのやり取りを見て、小梅が「?」と小首を傾げた。……学年こそ小等部5年ではあるが、その身長はほとんど堕天時のまま。精神も魂も成長の鈍い『永遠の幼女』──それが白野小雪である。今回の尾行にしても、松岡と藤堂が好き合ってるのは理解できてはいるものの、その心の機微までは分かっておらず…… 本人的には悠奈や麗華らとの遊びの延長、『かくれんぼ(亜種)』くらいにしか認識していない。
 列の最後尾で半眼のまま両手ポッケでガムをくちゃくちゃ噛んでいるラファル A ユーティライネン(jb4620)も、正直、藤堂と松岡の恋路がどーとか興味ないし、ぶっちゃけマジどーでもいい。今回の尾行に参加したのも、気の上で小枝を咥えて優雅に昼寝を決め込んでいたところを、気づいた小梅に棒でつつかれて落っこち、昼寝どころじゃなくなったからだ(口に銜えた枝とかちょー危険)
「う、うぅん…… 二人の事は気になるけど、おねーさん、出歯亀はどうかと思うなぁ」
 人の恋路はなんとやら。そう考える葛城 縁(jb1826)が、同意を求めて親友を振り返る。
「え?」
 その親友、彩咲・陽花(jb1871)は、誰よりも積極的に悠奈らに交じって尾行に参加していた。ノリノリの動きで壁に張り付き、好奇心に瞳をキラキラ輝かせて振り返る。
「陽花さん……(絶句) ……確かに気にはなるけどさ。後輩たちを放っておけない、って名目でいい?」
「うんうん」(←聞いてない)
 その笑みを引きつらせ、ガクリと肩を落として大きく息を吐く縁。
(っていうか、陽花さん。あなたは自分の恋路をどうにかしないと〜)

「どうにか天魔どもを退けながら移動していた俺たちは、ここで別のグループと合流した。上学年のグループだ。彼らはこの混乱を収める為に情報を得るべく事態の根源へ──学園ゲートへ向かおうとしていた」
 松岡と藤堂は行く。学園ゲートの更に近くへ。二人の関係が決定的に変わってしまった、あの日の記憶へ。
「正直、俺は反対だった。だが、俺たちは余りに戦力に乏しかった。俺と慎だけならば、脱出する自信はあった。だが、多くの下級生を連れていては、そのグループと合流するしかなかった」

 尾行も続く。
 壁に張り付いて前方を伺い、手信号で後続を呼び寄せる陽花。応じて、両手に提げた風呂敷──中には、お弁当が詰まった重箱4段がそれぞれ包まれている──をまるで弾薬手の如く運びながら、縁が陽花の元へと走り寄る。
「よ、陽花さんは、もうちょっと、自分の事を、か、考えるべきだと思う、なぁ。はぁ、はぁ……」
 荒い息を吐きながら(弁当が重すぎるのだ)、前方の麗華を見やって縁が傍らの親友に対して、告げる。
「まったくもう、どうして私の周囲は恋愛下手な人が多いのかなぁ……」
「縁にだけは言われたくないよ!? ……ってか、縁は? いい人いないのかな? あの二人も気になるけど、縁の事も気になるなー」
 私? と自身を指差す縁。……そもそも相手がいないしなぁ。まったく考えたこともない。
(たっ、宝の持ち腐れ……? クッ、その『ステータス』()が私にあったなら……!)
 親友の言葉に、昏い瞳でふふふ、とか笑う陽花であったが、しかし、それも縁のほんわかとした笑みと次の言葉で霧消する。
「青春って良いよねー、とは思うけどね。私はそれを(保母さん的に)見ている方が好きかもしれない」
 光信機が鳴り。陽花と縁の表情が素面に戻った。通信の相手は峰雪。皆、進む松岡と藤堂に気付かれぬよう注意しながら、その予測進路の一つを先行して警戒している。
「野良天魔を発見したよ。敵を見つけるなり大声を上げて味方を呼び集めるタイプのやつだ」
「応援を出しますか?」
「大丈夫。数は1。単独でも対処可能だよ。……でも、一応、バックアップはお願いしようかな? 元々数を揃えて運用するタイプのはずだし」
 そう通信を終えると、峰雪はふぅ、と息を吐いてからスッと瓦礫の陰からその敵──警報妖精『シュリーカー』を見やった。
(……問題ない。相手の警戒範囲に入る前に外から狙撃してしまえば……)
 片膝立ちのまま、活性化させた弓にアウルで精製した矢を番え…… ゆっくりと弦を引き絞り、呼吸と気が合ったところで矢を放す。
 弓鳴りと共に放たれたアウルの矢は、でっぷり太った警報妖精を直撃し、霧散させた。峰雪はホッと息を吐いて、先へ進むべく身を起こし…… 新たな瓦礫の向こう側に更に4〜5体の警報妖精を見つけて、慌てて瓦礫の陰に隠れた。
「わぁ。たくさんいるねー」
 そこへ到着するバックアップの小梅と麗華、そして、ラファル。小梅は瓦礫の陰から背伸びするように警報妖精を見やりながら、呑気な声音で、ふっふっふっ、と無邪気に笑った。
「じゃ、どっちが早く、たくさん倒せるか競争しよう! 麗華&小梅組と、ラファルちゃんと峰雪おじさん組で」
「え?」
「いいだろう」
「ええっ!?」
 小梅の『遊び』の提案を、意外なことにラファルが受けた。勝負事と名のつくものをふっかけられて、それを受けぬとあっては名折れというか沽券とかメンツに関わる。
「あの程度のザコ、数がいようとこのラファル様の超絶技巧でさくっと処理してやんよ。……おっさん! 援護したけりゃしてもいいぜ? こっちは勝手にやっからよ!」
「ええー……?」
 峰雪が止める間もあらばこそ。自身の四肢を機械化──光纏して瓦礫の陰から飛び出すラファル。
 小梅もまた麗華にスレイプニルを召喚させると、自身を警報妖精のど真ん中まで速攻で運ばせるようお願いをした。
「ちょ、本当に大丈夫ですの!?」
「大丈夫だよぉ。警報を発する前に片しちゃえばぁ」
 知りませんわよ、と呻きながら馬竜に指示を出す麗華。馬竜に襟首を咥えられて揺られつつ、きゃはははと小梅が笑い。巨大猫オーラのオラオラパンチと薙ぎ払えビームとが振り返った(?)警報妖精たちを直線状に薙ぎ払う。
 一方、瓦礫の陰から飛び出したラファルはアウルの機械化四肢を分離。○○○シグマ的な何かでそれを人型へと変形、分身を作ると、立ちどころに複数の警報妖精を切り飛ばす……
「……気づかれてない、のかなぁ。これ」
 ほぼ同時に同数の敵を倒し、ニヤリと笑い合う小梅と童心のラファルを見やり、呆然と峰雪がそう呟く。

「戦闘の、音……?」
「……ん、ああ、誰かが実戦訓練でもしてるんだろう」
「行かなくていいの?」
 眉をひそめる藤堂に、松岡が事も無さげにそう返す。
「俺はもう教師じゃない。……それに、あいつらはもう十分、強い」

「敵を発見しました。ミノタウロスのなりそこないが1体。2人の進路上、200m」
 上空を飛ぶヒリュウと視界を共有した雫の報告に、了解、と返しながら縁が先頭に立って移動を開始する。勝手知ったる訓練場──瓦礫を抜けてショートカット。藤堂と松岡に気付かれぬようにしながら、最速で目的地へ辿り着く。
「こういうお仕事は迅速かつ静かに、だよ」
「人の恋路を邪魔する天魔は馬に蹴られて消滅しちゃえ、ってね♪」
 短くも激しい戦いを終え、倒れ伏した牛男を見下ろしながら縁と陽花。
「ちっ。お邪魔虫たちがぞろぞろと出始めましたね」
 敵の喉元に突き刺した剣を抜きつつ舌を打つ雫は、しかし、すぐに物陰に身を隠した沙希たちに気付いて、その猫耳(←幻視)をピョンと立たせた。
「おお……」
「これはいよいよ……」
 松岡と藤堂が来たのだろう。彼女らの口ぶりからは何か進展があったのか。
 雫は口の中で繰り返し興味がないと呟きながら。しかし、ピクピクとその猫耳(イメージ)をそばだたせつつ、その身体は少しずつ悠奈らの方へと近づいていく……
 藤堂が顔を伏せ、とめどなく溢れる涙を両手で隠す。その両肩に松岡が手を伸ばし…… その時にはもう、雫は(いつの間にか)沙希と同じく瓦礫の覗き穴に張り付いていた。
 伸ばされた松岡の手が、しかし、躊躇うように元へと戻り。瞬間、物陰の沙希と雫が大きく溜息を吐いた。
「そこはガッと抱き締めるところだろ! 一気にいけよ、マツオカ〜!」
「そんなんだからヘタレているというのです。ええ、ヘタレです。キングオブヘタレーズ(アルと勇斗もノミネート)です」

「2人たちだけで逃げるか、と俺は聞いた。慎は頭を横に振った。──皆を見捨てられない。それに、この地獄を終わらせる、その為に最も都合の良い場所に自分たちがあるのなら、と」
「……そうでしょうね。そういう子だったから、あの子は……」

 そんな松岡と藤堂を、見つめる別の目が雫たちの後ろにあった。
 天使だった。学園攻防戦に参加し、敗れ、本隊と逸れて道に迷い、こんな所に紛れ込んでしまった天界の天使──
 負傷し、その傷を癒すべく隠れていた彼は、その眼前で撃退士たちが牛男を倒すのを目の当たりにした。──敵は手練れ。消耗も激しい。……最早、これまで。潔く戦って死のう、と光の剣を手にそれを(出歯亀する)撃退士たちに打ち込もうと身構えて──
「何してるのぉ?」
 突然、背後から声を掛けられ、慌てて振り返った。
 そこには、警報妖精たちの討伐を終えて戻って来た小梅の姿。その武装から天界の天使と判断した少女天使は「おじさん、迷子ぉ?」と小首を傾げる。
 ハッと気づく雫たち。天使はせめて人たちと目の前の小梅に剣を振り被り、最後の口上を『大声で』述べようと──!
 直前、風の如く肉薄してきた雫によってその口にフライドチキン(縁「私のお弁当!?」)を突っ込まれ、その喉元に剣を押し付けられた。
「黙って大人しくしてなさい。これから大の大人を囃し立てるネタ……もとい、一人の男性が生涯を決める告白の瞬間を覗……見守らなきゃいけないんです……!」
 その気迫に押され、思わずコクコク頷く天界の天使。雫はそれを確認すると、来た時よりも早く沙希の隣へ走り戻っていく。
「あー、あなたには弁護士……じゃない、アテナ派に降伏する権利がある」
 わけがわからん、といった風情の天使に同情を示しながら、降伏勧告を行う峰雪。
 歩み寄って来た陽花が「とりあえずあれだよ。ごはん(縁:「私のお弁当っ!」)でもどうかな?」とお重を進めてみたり。

 グルルルル……と背後で唸り声。
 小梅は振り返ることなく「静かにしてないとダメなんだよぉ?」とその鼻先をペチリと叩き。その爬虫類な感触に「ん?」と背後を振り返る。
 ドラゴンだった。
 空中でその巨体を羽ばたかせつつ、こちらをジッと見つめている。
「流石にこれは……気付かれないようにって、無理では……」
 峰雪と同様に、どうしろと、と撃退士たちがツッコミを入れる。
 炎の舌をチロチロと吐き出しながら…… 敵の存在を確認した竜が開戦の鏑矢となる咆哮を上げた。

 激戦であった。だが、動画的には数枚の静止画で端折る(
 撃退士たちはありったけのスキルと火力をぶつけ…… 最後にはドラゴンが魔刃で輪切りにされて戦いは集結した。
「……で?」
 と天使を振り返るラファル。抗戦の意志を無くした天使が降伏の意志を示してコクコク頷く。
「こっ、これで邪魔する輩はもういませんよね!?」
 全力で竜を片付け終えた雫が荒い息を吐きながら、覗き穴に戻ろうと振り返り。
「なにやってんだ、お前ら」
 と呆れ果てた表情の松岡にドンとぶつかった。
「見つかった!? あ、いや、これはですね……!」
「いや、見つかったも何も、最初から気づいてたし」
 松岡の答えを聞いた瞬間、雫はカーッと顔を赤くしてその場に崩れ落ちた。
「さ、最初から…… わ、私はいったい何を……」
「あ、あれ? もしかして頑張ってスニークキルしてたのは無駄だったパターンかな?(汗)」
 一筋の汗と共に苦笑する陽花。おめーたちがぐずぐずしてっからだろ、と、ラファルがケッと悪態を吐いた。
「まったく、うじうじ悩む大人うぜー。結果が同じなら過程なんて無駄だろ。さっさとくっついちまえよバーカ」
「刹那的だなぁ」
「……俺は、時間を無駄にしたくねーだけだ」

「そんなんじゃない。そんなんじゃないんだ、今日は」
 苦笑交じりにそう元の生徒たちに告げて、松岡は更に先へと進む。
 辿り着いたのは学園ゲートの傍ら。松岡が若い撃退士らと最後に別れたという場所──
「ここに至るまでに先輩たちが力尽き、俺もここで重傷を負って…… 瞬間的な静寂が訪れたこの場所で、慎は、あいつらは負傷した俺をここに隠して、自分たちだけでゲートに入っていった。残ったのは自分たちだけど、最後までやらなきゃならない、と」
 小さな瓦礫の隙間に手を置いて。表情を隠して松岡が続ける。
「……学園ゲートのコアが破壊されたいきさつは俺は知らない。だが、俺は信じてる。あいつらが命がけで得た情報を元に、コアの破壊は達成できたのだと」

 この二人はもう、タイミングとか勢いとか、そんなものでくっつく時期はとっくに過ぎ去ってしまった── いつまでも学園ゲートの淵に佇む松岡と藤堂を見て、峰雪は息を吐いた。
 聞けば、生徒たちに後押しされて、松岡は一度、庄内決戦の前に藤堂に告白をし、そして断られたという。
 関与が必要だったのは、実は藤堂の方だった。だが、生徒たちに藤堂と青葉、どちらかに肩入れしろと言うのは酷だろう。
(難しいねえ。こういう時こそ、若い子たちの力が必要になるのだろうけれど……)
 峰雪がそんな事を考えていると、2人に歩み寄った小梅がギュッと両手で藤堂と松岡の手を握った。
「……帰ろう」
 小梅が呟く。
 夕陽に照らされたその様は、まるで一組の親子のようだった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍