.


マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/02/13


みんなの思い出



オープニング

 夕刻の、マンション寮の自室が苦手だった。夕陽に赤く染まった様が、『あの日』を想起させるから──

 久遠ヶ原学園大学部3年、榊勇斗には、幼少の頃の記憶があまりない── そう記すだけでは特段、変わったことなどないように思えるかもしれない。
 多くの場合、人は成長するに従って幼少期の記憶は忘却の淵に沈み、時折、午寝のまどろみの如きぼんやりとしたベールに包まれた『思い出』として記憶の波間に漂う。
 だが、彼の──勇斗の場合、その言葉の意味が違った。
 彼の幼少期の記憶は、完全なる忘却という名の『虚無』と……鮮烈なまでに刻印された忘れ得ぬ『呪い』との、二つに完全に分かたれていた。

 彼には両親の『記憶』がない。ただ、陽だまりのように暖かい、かけがえのないものであったという、ふんわりとした感覚だけを、ぼんやりと心が覚えている。
 彼のもっとも古い記憶は、団地と思しきどこかの一室── ダイニングとキッチンが一緒になった、家族の団欒の場であった部屋。そこはベランダに面した二枚のサッシ窓から差し込む夕日で真っ赤に染まり…… まだ赤ん坊だった悠奈が泣き叫ぶ声が響く中、かつては両親だったモノが散乱した床の真ん中で、鮮血に塗れた幼き勇斗がポツンと立ち尽くしている、そんな光景……

 いつまでも泣き止まぬ悠奈の声を不審に思ったお隣さんが、開け放ちの玄関の扉をやはり不審に思って部屋を覗き……腰を抜かしたその奥さんの悲鳴で集まって来た人々の通報によって事件は発覚した。
 すぐに警察官たちがやって来て現場検証が行われた……らしいが、その辺りの記憶は勇斗には残っていない。
 その凄惨さと人間業とは思えぬ多くの謎から、マスコミは一斉にこの事件に飛びついた。報道が過熱する中、後日、病院の一室で唯一の目撃者である勇斗への聴取が行われ……
「犯人は天使。悪魔の様な黒い翼を持った、綺麗な……怖い天使だった」
 と、勇斗は答えた。
 すぐに撃退局員がやってきて、情報の秘匿が行われた。その頃には既に天魔の存在は一般にも知られていたが、その地の人々にとってはまだ遠い世界の出来事だった。
 勇斗たち兄妹を引き取ってくれた叔父叔母夫婦は固く口止めをしたが、幼き勇斗はそれが許せず、学校で、ご近所さんで、犯人は黒い天使なんだと主張し続けた。
 それから一週間としない内に、勇斗らと叔父叔母一家は地域からも浮いた存在となった。
 そして、それをとある週刊誌が面白おかしく報じてしまった。叔父叔母夫婦の家には連日、興味本位のマスコミが訪れ……彼らが勇斗らを引き取る前の、平穏な生活は失われた。


「今にして思えば、叔父叔母夫婦と僕ら兄妹との関係が険悪化したのもその辺りが原因だったんでしょうね。善意で引き取った兄夫婦の子がとんでもない疫病神になったんですから」
 現代。山形県山形市、郊外──
 人々の避難が済んで無人と化した街並みの四つ角、建物の陰で待機しながら。勇斗は、共に並び立つ学園教師、安原青葉に、そう言って自身の話を締めくくった。
「……それがお前が『焦っている』理由か」
 周囲に素早く警戒の視線を振りながら、青葉が勇斗にそう訊いた。手にした菓子パンの最後の一欠片を口へと放り、牛乳で流し込んでから。生じたゴミをポケットに仕舞って、胸ポケからシガーチョコを取り出し、一本だけ口に銜えて遊ぶ。
「はい、多分……自分でも確証はありませんけど。『アレ』が天使だったのか、魔界に堕天した悪魔だったのか、今でも分かりませんが…… 撃退士をしていればいつか親の仇に行き合うこともあるかと思っていたいたんですけどね。……なんとなく分かるじゃないですか。もうあまり時間がないんじゃないかって」
 ──この世界における人と天使、冥魔との関係は、天界で起こった王権派のクーデターにより劇的に変化した。互いが互いを敵とだけ認識していたその関係も……今回の戦いの結果次第では終わりを迎えるのかもしれない。
「ま、それはそれで歓迎すべきことだとは思うんですけどね? 個人的にはやはり『終わり』を迎える前に両親の仇を取っておきたいというか…… とは言え、その所在が掴めてるわけでもなく、って言うか、まだ存在しているのかも不明なわけですけれど。今は、今、出来る事を優先しようかと。いつあいつと邂逅してもいいように、いざあいつと出会った時にあいつに勝てるだけの力をつけて置かないと…… こうして王権派が攻勢を掛けてきていて、撃退士は幾らあっても足りないですし、丁度いい、というのも語弊がありますが。大学の勉強は全て終わってからでもできますし……」
 青葉がシュッと拳を上げて、勇斗はスッと言葉を止めた。
 遠く、四つ角の向こう側── 何か重いものが倒れる様な、ズゥゥン、とした音と地響きが伝わってくる。
 勇斗は後ろを振り向いて、一つ向こうの四つ角で待機している撃退士たちを口笛と手信号で呼び寄せた。その傍らで、青葉が口の端にチョコを立てながら手鏡で角の向こうをそっと窺う……
「……サーバント、ですか? どのような」
 小声で勇斗が問い掛けると、青葉は手鏡を彼に渡した。勇斗はそれを使って角を伺い……建物の瓦礫を踏み締めて四つ角へと侵入してくる、その巨大な戦斧を手にした大きな人型サーバントを見て、息を呑んだ。
「牛頭の人型── 『ミノタウロス』か……!」
 小さく舌を打つ勇斗。あれはもう何年前のことか…… 教師・松岡に連れられて旧校舎で行われた二度目の実戦訓練で、勇斗はあの『ミノタウロス』の『出来損ない』と実際に剣を交えたことがあった。二足歩行も出来ない『牛男もどき』とでも言うような存在であったが、その分厚い筋肉から生じる膂力と硬さは劣化版とは言え健在であり、その時は倒し切れずに逃がしてしまう羽目になった。
(今回はそんなハンデはなし……しかも、通常のものより一回りは大きそうだ)
 ゴクリと唾を鳴らしつつも、良い腕試しになる、と口の端に笑みを浮かべる勇斗。そこへ後方の学生撃退士たちが合流し、その内の大型通信機を背負った学生が青葉に小声で告げた。
「……撃退署からの増援はなしです。あちこちでサーバントの襲撃を受けているらしくって……」
「是非もないか…… よし、喜べ、お前たち。アレを食い止める栄誉は私たちで独占できることとなった。市内には大勢の市民と避難民たちがいる。退路はないぞ。奮励し……ぶちのめせ」
 戦闘モードで男口調となった青葉が、残ったチョコを一気に噛み砕きながら、生徒たちに展開するよう指示を出す。
 だが、学生たちがそれに応じようとした直前── 空中をポーンと跳んできた球形の何かが…… 最初はパチンコ玉くらいに見えたそれが見る間にピンポン玉、野球のボールと大きくなっていき、最後には車よりも大きな存在となってすぐ近くの家屋へ突っ込んだ。
 轟音と粉塵と飛び散る破片── 悲鳴と罵声と悪態を吐きながら身を起こした撃退士たちの眼前で、家屋を完全に押し潰した『ソレ』がゆっくりとその球形の身体を『展開』し始めた。
「ば、ばかでかい……あ、『アルマジロ』?!」
 四つ足で大地を踏み締め、こちらを見据える巨大アルマジロ。
 気づいたミノタウロスがこちらを振り向いて…… 鼻息も荒くその後肢の蹄でもってガリガリと地面を掻き始めた。


リプレイ本文

 まだアルマジロ型サーバントが降って来る前のことである。迫るサーバントたちを迎撃すべく待機していたラファル A ユーティライネン(jb4620)は、榊勇斗の身の上話を聞いて「へえ」と軽く目を瞠った。
「なあんだ、勇斗も俺とおんなじなんじゃねーか。奇遇だな」
 え? と言葉を失う勇斗に、ラファルは笑みすら浮かべて淡々と答えた。──自分もまた悪魔に(スーパー能天気な姉を除いて)肉親全てを殺された。今の身体になったのもその時から。憎き仇は自分から何もかもを奪っていったのだ、と。
「違うところは、俺は仇を探してないってことくらいか。俺にとっては、縦に切って、横に切って、玉葱みたいに微塵切りにして磨り潰してから、足の裏で布越ししてもし足りないくらいのクソ野郎だが、名前はおろか素性すら覚えてないんで追っかけようがねーしな…… だから、庄内決戦から二年、長い付き合いで初めてお前に共感をモテたぜ」
「初めて!」
 げんなりとした顔をする勇斗にハハハと笑うラファル。葛城 縁(jb1826)は勇斗の話を思い返しながら、親友の方へ同情の視線を向けた。
(だから、勇斗君は自身の青春を素直に受け入れないのか…… これは前途多難だよ、陽花さん)
 その親友、彩咲・陽花(jb1871)は青葉と共に四つ辻の角から通りを見渡し、ミノタウロスの接近を察知し、勇斗に言った。
「今度は出来損ないじゃなくてちゃんとしたミノタウロスが相手、だね。成長したところを見せるチャンスだよ? 頑張ろうね、勇斗くん♪」
「……そう言えば、僕がきみたちとこうして一緒の戦場に立つのは、山形ではあの庄内決戦の時以来だね」
 陽花に続いて出た永連 紫遠(ja2143)のその言葉に、勇斗はそうでしたっけ? と首を傾げた。彼女の弟とはよく顔を合わせているらしいので、あまり久しぶりな気がしてないのかもしれない。
 苦笑と共に、柴遠は天を見上げた。──この地に来るとあの人のことを思い出す。人知れず人の為に戦い、消えていった、とあるシュトラッサーのことを……
「……さて、気持ちを切り替えていこう。終わったら、何か美味しいものを食べたいね」
 柴遠の言葉に、佐藤 としお(ja2489)が「ほほう!」と耳をおっきくした。彼はラーメンをこよなく愛する男──依頼で地方に行った際には必ずご当地ラーメンを食べる位の……いや、ラーメンを食べる為に依頼を受けていると言っても過言ではない程に!(←過言)
「それやったらラーメンを食べに行こう! 山形は隠れた麺処。ラーメンの消費量は全国一とも言われていんねんで!」
「ラーメン!」
 としおの言葉に、木の棒でつまらなそうに地蜘蛛を突いていた白野 小梅(jb4012)がぴょこん! と反応した。悠奈らと遊べず、たまたま学園で見かけた勇斗に(文字通り)くっついて来たのだが、着いた先は依頼の現場でやっぱり遊んでもらえず、退屈していたとこだった。
「ラーメン食べ行くのぉ?! あの、牛とヘンテコなのを倒せばいいのぉ?」
 「ん?」と問い返すとしおに、「ん」と空の一角を指差す小梅。それに従い見上げた学生たちの視線の先で、件のアルマジロが降って来たのだ。
「民家が……! 確認してきます」
 轟音と共に民家を押し潰しつつ落下した大型アルマジロ── 遠石 一千風(jb3845)が真っ先に飛び出し、石垣から屋根へと跳び伝って上から落下点を見下ろした。
「大きい……いや、割と動物は好きな方なんだけど、あそこまで大きいと迫力あるわ……」
 『小天使の翼』で屋根へと跳び渡って来た柴遠がそこへ並び、眼下のアルマジロを見下ろし、嘆息する。
 アルマジロは丸めていた身体を伸ばすと、そんな彼らを無視してもぞもぞと山形市内方面へと進み始めた。背後からは撃退士たちの存在に気付いたミノタウロスが上げる雄叫び。気づかれた、と舌打ちした勇斗が狩野 峰雪(ja0345)に声を掛け。狼竜を高速召喚した陽花や小梅、としおと共に対応するべく踵を返す。
「どうする? 俺らも行ってあっちから各個撃破するか?」
「……このままあのアルマジロを行かせるわけにはいかない。逃げ惑う避難民の日常を少しでも早く取り戻す為にも、暴れまわるサーバントは必ず倒す。アウルの力を持った私たちの役目だ」
 ラファルの言葉に、一瞬の思考の後に首を振る一千風。縁も頷いた。──自分たちの背後には無数の無辜なる人の命。再び背負ったその重さ、決して落としてなるものか。
「長期戦は色んな意味で不利だよ。可能な限り速やかに決着を付けよう!」
 ジャコンと散弾銃を活性化する縁の言葉に頷き合うと、柴遠と一千風はそれぞれの得物を手にアルマジロ目がけて飛び降りた。赤熱して赤光と共に空気を揺らがす一千風の溶岩剣に、緑碧の光を纏いし柴遠の竜斬剣──まずは牽制攻撃を仕掛けて奴の注意をこちらに引きつける。とにかく最初は奴の前進を止めないと!
 だが……
「っ!? なにこれ、硬ぁっ!」
 自重と落下速度を乗せて真下に突き入れた柴遠の一撃はアルマジロの固い鱗甲板に弾かれた。一千風も切っ先こそ刺さったものの、敵上にその身を保持すること叶わず地面へと振り落とされる。
 一方、巨大な戦斧を持つ牛男の方はその膂力にふさわしい高い攻撃力と突進力とを持っていた。
 勇斗や狼竜らと共に前衛を担うは、陽花。彼女は牛男を挟み打つ位置に狼竜を置き、つねに動き回りながら、背後を取った方が攻撃を仕掛ける一撃離脱に徹していた。それを小梅ととしお、峰雪ら、3人の後衛役が支援する。小梅はぴったりと勇斗の後方に追随しながら、魔女の箒を振ってアウルの猫たちをぽろぽろ落としてにゃーにゃーと牛男へと飛び掛らせ。一方のとしおは狙撃銃を手にきっちり距離15を保ちつつ、背後に民家を背負わないようにしながら前衛を援護する。
「復旧するにしたって結構かかるからね。コレ(銭)が」
 呟きつつ、牛男に『回避射撃』を放つとしお。牛男が振り下ろした戦斧の刃がその一撃に軌道を逸らされ、飛びずさった狼竜の体毛数本を切り払っただけで地面へ落ちる。
 瞬間、陽花は背後から牛男へと踏み込んだ。焔を纏った薙刀をチャキッと回し、大上段から牛男の背中を斬りつける。怒った牛男が振り返る間に飛びずさって距離を取り。号令に応じた狼竜がカッと衝撃波を発して再び牛男の背を切り裂く。
 そこへ更に小梅と峰雪が攻撃を仕掛け、銃弾とアウルの猫が牛男の顔へと集って爪を立て、噛みついた。
 牛男は激怒した。雄叫びを上げ、足の蹄でガリガリと地面を掻く。
 次の瞬間、牛男は削った地面をスパイクに、一気に己が身体を前方へと撃ち出した。その向かう先には、陽花。としおが咄嗟に銃撃でその進路を逸らしにかかるも、角が銃弾を弾き飛ばす。
「あかん、避けぃ!」
「陽花さん!」
 その角が陽花の身をかち上げる直前、庇護の翼を展開した勇斗が陽花の眼前へと割り込んだ。斜めに構えた盾で衝撃を受け逸らしつつも跳ね飛ばされる勇斗と陽花。わっ、と驚く小梅ととしおの間を牛男が走り過ぎて行き、民家の壁をぶち抜き、止まる。
 一方、凶悪な笑みと共に霞に構えた天狼牙突の切っ先を側面から突き入れられて、怒ったアルマジロもまたその身を丸め、地を蹴り、撃退士たちと家々の間をぶつかりながら跳ね回っていた。その間を駆け抜けて、突進を繰り返す牛男──既に双方の戦場に垣根はなく、混沌のアミューズメントパークかワンダーランドと化していた。
「み、ミノ太郎とアルマ次郎が走り回って大変なことに!(おもしろーい♪)」
「アニマル大戦争か!(←ツッコミ) それともアニマルビリヤードかピンボール……!」
 駆け回り、転がり回る両者に陣形も隊形も崩されて、逃げ回りながら、小梅ととしお。奇跡的にアルマジロの突進を避けた直後に背後から牛男の身体に跳ね飛ばされた柴遠が、ぺっぺと砂を吐きながら自己回復を自身に掛ける。
「また民家が……っ!」
 一千風は奥歯を噛み締めた。──ここは戦場ではあるが、同時に、避難した誰かが帰って来る場所だ。そんな彼らの日常があったはずの場所なのだ。……一千風は人々の命の次に、そのような『ホーム』を守りたかった。だからこそそれを破壊する敵に……それを許してしまった自分に、後悔と怒りがこみ上げる。
「いい加減に……しやがりなさい!」
 普段はクールな一千風が珍しく叫んだ。身を起こし、転がって来るアルマジロの側方から烈風の如き一撃をぶちかます。転がっている最中に側方から攻撃を受けたアルマジロは、丸まっていた身体を開きながら大きく側方へ──四つ角にあった地方銀行の駐車場へとふっ飛ばされた。
 その一撃で落ち着きを取り戻したのか、アルマジロは撃退士たちを無視して再び市内への移動を再開した。柴遠と一千風、ラファル、青葉らがその前進を阻むべく再び攻撃を開始する。
 縁はそれに加わらず、袖で汗を拭きながら戦場を見渡した。
「ん?」
 縁は小首を傾げた。一方には高い攻撃力を誇る敵。もう一方にはこれまた高い防御力を誇る敵。どちらも突進系の攻撃手段を持ち……なら、両者を激突させたなら?
「陽花さん! 青葉先生!」
 縁は大声で両班を呼ぶと、瞬間的に脳裏によぎった自身の作戦案を伝えた。
「しかし、激突させるったって…… まさか、おい」
 頷く縁に、ラファルはイカレてやがると笑って褒めた。……敵は俺らを狙って突っ込んでくる。激突の瞬間に散開すれば、目標を失った敵同士自爆するって寸法だ。
「面白れぇ。そのチキンレース、乗ってやる」
 真っ先にラファルが賛同すると、他の皆も同調した。マジか、と苦笑する勇斗の横で、彼に治癒膏をぺたぺた張ってた小梅が瞳を輝かせる。
 双方、作戦の仕込みを始める。
 牛男班の方は単純だ。前衛を担う勇斗と陽花がアルマジロ側を背にしながら耐えればいい。
 決行のタイミングはアルマジロ次第。奴が突進攻撃を始める気になるまで、進む敵の背後からひたすら攻撃を加え続ける。
 その煩わしさに、アルマジロが再びキレた。突進攻撃の為にこちらへ転回を始めた敵を見て、一千風と縁が牛男班に警告を発する。
「アルマジロが転回を開始!」
「陽花さん、そろそろ行くよぉ!」
 敵が完全に転回し終えるのを待って、その進路上から飛び退く一千風と縁。柴遠は再び小天使の翼を展開してふわりと浮き上がり。ラファルは敵が転がり始めるまで待ち続け……ギリギリのところで飛び躱す。
「陽花さん!」
「いいタイミング、だよっ!」
 陽花は薙刀の石突を地に突くと、攻撃して来る牛男の側方へとクルリと回り、狼竜の『チャリオット』で以って牛男の位置を微調整した。直後、小梅が『異界の呼び手』を使って地面から無数の『腕』を呼び出し、直撃コース上にその身体を拘束する。
 次の瞬間、丸まり、物凄い勢いで転がって来たアルマジロの巨体が、拘束された牛男の身体に激突した。ぶちぶちと腕を引き千切ってずしんと倒れる牛男。そのすぐ傍らに球形を解除したアルマジロがどぉんと落下する。
「今だっ!」
「ぶちのめすぅ!」
 叫びと共に。上空のラファルが己が身の左右両腕にジャコンと重力砲を引き出し。のもじが独特の立ちポーズと共に己の背後に巨大なニャンコを顕現させる。
 眼下の2体へ向け、左右の砲口から交互に膨大なエネルギーの奔流を撃ち下ろすラファル。その爆煙の中、のもじの大ニャンコがオラオラオラオラと無数のズームパンチを両者へ叩き込む。更に放たれる峰雪の銃弾と縁の貫通弾。としおは『バレットパレード』を使用して、己の周囲へ所持する全ての射撃系魔具──もう一丁の狙撃銃と二丁の突撃銃。おまけに巨大なガトリングガンと──を展開すると、一斉にそれに射撃を命じた。
 轟音と共に放たれる一斉射撃。連続発射された銃弾の放つ衝撃波が爆煙をブワッと切り裂き、弾着の豪雨でもって新たな砂塵と肉片と血飛沫と舞い上がらせる。
「これで終わりだ! ……よね?」
 全ての弾丸を撃ち尽くし、砲口と銃身から煙を上げつつカラカラと停止する多重砲身── 再びヒヒイロカネへと戻り消えゆく銃たちの只中で、としおが呟いた。
 静寂── 敵の周囲に揺蕩っていた土煙が風に薄れ…… その砂塵の向こうに、血塗れで動かなくなった牛男の姿と──ボロボロになりつつも、立ち上がるアルマジロの姿が!
 瞬間、一千風がその名の如く、その長い髪をなびかせつつ疾風の様にアルマジロへと接近した。そして、全身のアウルを燃焼加速して赤熱する溶岩剣にアウルの紫焔を燃え上がらせつつ、目にも留まらぬ速さでアルマジロの頭部を下段からかち上げた。闇の力を内包した純粋な速度と破壊力による一撃──その剛撃にグラリと頭を揺らして、アルマジロの巨体がズゥン、と音を立てて横転する。
「『鎧』が無ければ……ッ!」
 そこに竜斬剣を腰溜めに構えて突っ込んで来た柴遠が、その巨大な刃の切っ先へ速度を乗せて、己の身体の質量ごとアルマジロの腹へと突き入れた。暴れる敵に構わず、左手で柄を握ったままそこへ右腕を当て。そのまま押し込むようにしながら横一文字にアルマジロの腹を裂く。
 その一撃により瀕死に陥ったアルマジロは、しかし、抵抗を続け…… オラァ! と振り下ろされたニャンコによる一撃で止めを刺された。
「終わった……?」
「……終わった! ラーメン!」
 歓声を上げるとしおと小梅。高カロリーだなぁ、と乙女らしく悩む柴遠の横で、一千風がパンパンと手を叩く。
「まだ終わりではないわ。敵の攻勢がこれで終わったわけではないのだから」

「勇斗君。私の名前、『縁』って漢字の意味、知ってるよね?」
 その後、更に防衛を続け…… 後詰と交代して帰還する途上、縁が勇斗に問い掛けた。
「一度、何かで繋がった縁は必ずどこかで繋がっているものなんだよ。……って、これ、お母さんの受け売りなんだけどね。それが良縁であれ、悪縁であれ、一度『縁』が結ばれたのなら、いつか必ず──」
 親友の言葉に、陽花も頷いた。それが運命なら必ず巡り合えるはず。だって、今日も最初の頃に戦った牛男と(違う個体ではあるが)再度、見える事になったじゃないか。
「でも、その時は、勇斗くん。先走らないで私……ん、私たち皆を頼ってよね。そうでないとお姉さん、怒っちゃうからね?」
 そう言っておどける陽花。 ハニードーナツをもぐもぐ食べながら、勇斗の服の裾を引っ張る小梅と、ラファルが続く。
「ねーねー、ボクもお手伝いするよぉ。暇だから!」
「その仇が冥魔に落ちた堕天使だったらヌッ殺す。戦いはすべて俺の血肉だからな。その為にわざわざ来てくれるつーんなら、俺も丁重におもてなししてやらねーと」
 暖かく(或いは面白そうに)自分を見つめる仲間たちを見返して── 勇斗は目の端を拭い、頭を下げた。
「俺は幸せ者です…… この学園に、来てよかった」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
飛燕騎士・
永連 紫遠(ja2143)

卒業 女 ディバインナイト
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍